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特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴ : へき地・小規模校の宿泊研修を事例として

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(1)Title. 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検 討⑴ : へき地・小規模校の宿泊研修を事例として. Author(s). 深見, 智一; ⻆田, めぐみ; 町田, 玲奈. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 11: 69-83. Issue Date. 2021-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11677. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第11号. 自由投稿論文. 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における 合理的配慮の検討⑴ ─ へき地・小規模校の宿泊研修を事例として ─ 深見 智一*1・⻆田めぐみ*2・町田 玲奈*3. 概 要 本研究では、共生社会の実現に向けて、障害の有無に関わりなく、すべての児童が満足できるよう な集団宿泊的行事にするために、教員が合理的配慮をどのように提供するかの実際について、A小学 校における宿泊研修の事例をもとに、検討した。その結果、次の2点が明らかになった。 第一に、担任が作成した宿泊研修の旅行記録から共起ネットワーク図を作成し分析した結果、 「教 員間の連携」「移動での配慮」 「心理的な安定」が、担任の合理的配慮の中心コンセプトであることが 明らかになった。 第二に、「教員間の連携」について、 「誰がサポートする教員になるのか」 「どのように教員間で連 携するのか」 「教員間の連携の意思決定者は誰か」という視点で分析した結果、合理的配慮を講じる にあたっては担任以外の教員の支援が重要であることが明らかになった。また、3名の引率教員の記 述が、「担任がどのように指導したいと考えているのかに応じて指導する」 「担任一人では対応しきれ ない場合のフォローアップ」 「引率教員のマンパワー」というように、 合理的配慮の提供にあたって「教 員間の連携」が必要不可欠であることを示唆する点で一致した。. 1 はじめに 1)共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムと特別支援教育 近年、特別支援学級に在籍する児童生徒数が増え、通級による指導を受ける児童生徒や通常の学級 に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童も10年間で約2倍に増加している(文部科学省 2019)。そのため、特別支援教育を担当する教員だけではなく、多くの教職員が、交流及び共同学習 などで、障害のある児童への指導や支援を行う機会も増加している。 我が国は、共生社会の実現を目指し、2014年に「障害者権利条約(障害のある人の権利に関する条 約) 」を批准した。学校教育では、共生社会の実現に向けてインクルーシブ教育を前提とした特別支 援教育のシステムを構築していくことが必要不可欠である。その取組の一つは、障害のある子どもが 十分に教育を受けられるための「合理的配慮」である。2016年4月には、 「障害を理由とする差別の 解消の推進に関する法律」が施行され、行政機関である公立学校は、合理的配慮の提供が義務化され ───────────────────── *1. 鶴居村立幌呂小学校 教諭(北海道教育大学教職大学院 2014年3月修了生). *2. 鶴居村立幌呂小学校 教諭. *3. 釧路市立新陽小学校 養護教諭. 69.

(3) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈. た。合理的配慮とは、 「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行 使することを確保するために、 学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、 障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」で ある(中央教育審議会 2012) 。合理的配慮の提供は、 「合理的配慮についての理解」→「実施可能な 支援について対話・調整」→「本人、保護者、学校の合意形成」→「決定(個別の教育支援計画等へ の明記)」→「見直し」というプロセスで行われる。 2)問題の所在 ① 宿泊研修や修学旅行等の集団宿泊的行事について 大谷大学教育学部が実施した「幼児教育・小学校教育に関する保護者の意識調査 2019」では、小 学校時代の心に残っている行事の第一位は、修学旅行(35.4%)であった1。学校生活で、宿泊研修や 修学旅行等の遠足・集団宿泊的行事(以下、集団宿泊的行事と表す)が記憶に残る教育活動の一つで あることを表している2。特別な配慮を必要とする児童にとっても、集団宿泊的行事が意義深い教育 活動の一つとなるように、学校には保護者や児童の求めに応じて合理的配慮を提供する義務がある。 また、 「個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行う」 ことも学校に求められている(学習指導要領 第1章 第4児童の発達支援) 。 ② 先行研究 先行研究では、特別支援学校の集団宿泊的行事における合理的配慮を検討するための研究や、小学 校の特別支援学級に在籍する児童が参加する集団宿泊的行事の計画立案段階での保護者との合意形成 の過程に着目した研究が行われている。 特別支援学校の修学旅行に関しては、松本他の研究がある。松本他(2018)では、修学旅行の主た る目的である見学や体験が児童生徒の興味・関心や実態に応じた活動になるようにすることが最も必 要とされた配慮で、加えて、児童生徒の安全・安心に関わる配慮も必要であることを明らかにしてい 修学旅行中に起きたトラブルをもとに、 予想される困難さと対応例を整理した「特 る3。同(2019)は、 別支援学校の修学旅行を計画する際のポイント(試案) 」を作成している4。同(2020)では、作成し た試案をもとに、特別支援学校には、学校や教師だけでは対応しきれない困難さがあり、旅行業者や 関係者等の理解を得ることが望まれることを指摘している5。このほかに、特別支援学校の修学旅行 で行われている保健活動、とりわけ養護教諭の役割や医療的ケアの実施に関する研究として、菅原他 の研究がある(20166、20177)。 小学校の特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事に係る対応の事例については、倉林他 (2018)の研究がある8。林間学校で行った合理的配慮に係る合意形成過程と合理的配慮の実際をま とめている。倉林らは、丹野(2014)のモデルに準拠し、本人及び保護者との合意形成について、保 護者からの要望→設置者への相談→校内委員会での検討→担任による計画作成→プロジェクトチーム での検討→保護者との面談、実態把握(再調整)という過程で行っていた。計画の立案段階から特別 支援学級に在籍する児童が参加することを前提に、合理的な配慮を提供するための合意形成の過程が 精緻に分析されているが、引率教員が合理的配慮を講じた場面の実際については詳述されていない。 このほかに、大塚ら(2018)は、通常の学級において特別な支援を必要とする児童生徒に対して、ど のような合理的配慮が提供され、あるいは、提供されなかったかについて、障害種別に分けて報告し ている9。 ③ 本稿の目的 先行研究を概観した結果、共生社会の実現に向けて、教員が合理的配慮をどのように提供するかの 70.

(4) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. 具体的実践例については、事例の蓄積が十分とは言えない状況である。 そこで、本研究では、A小学校の特別支援学級の児童(以下、B児と表す)が201X年度から201Y 年度に参加した集団宿泊的行事(宿泊研修)の事例を取りあげ、次のように検討を行う。 第1報となる本稿では、B児の担任(以下、担任と表す)である⻆田(第二筆者)は、合理的配慮 を講じる際にどのような意図をもっていたのかを明らかにする。そのために、担任が作成した宿泊研 修の旅行記録から共起ネットワーク図を作成し、担任の意図について分析する。また、担任とともに B児の対応に関わった引率教員の深見(第一筆者)及び町田(第三筆者)が、合理的配慮を講じるに あたってどのような意識をもっていたのかについて自己分析を行った。第2報では、201Y年度にB 児が参加した宿泊研修の事例を取り上げる。この宿泊研修は、計画立案段階からインクルーシブの視 点に基づき、目的や参加の仕方は異なっても、障害の有無に関わりなく、すべての児童が共に活動で きるプログラムを設定したうえで、さらに必要な児童については合理的配慮を講じた事例である。 これらの事例検討を通して、共生社会の実現に向けて、障害の有無に関わりなくすべての児童が満 足できるような集団宿泊的行事にするために、教員がどのような合理的配慮を講じることが必要なの かを明らかにする。. 2 事例の概要 1)A小学校の集団・宿泊的行事について A小学校は、北海道東部地域に所在する極小規模校(へき地2級)である。201X年度は、通常学 級が3学級(複式学級) 、 特別支援学級が3学級設置され、 児童数は30名弱、 教職員数は15名であった。 A小学校では、第3学年から第5学年の児童が参加する集団宿泊的行事として社会教育施設を利用す る宿泊研修を行っていた。 「①学年に応じた野外活動を通して、多少の困難を乗り越え、仲間と協力 して活動する態度を養う。②学校外の公共の施設を利用し、交流を含め、マナーを考えて楽しく活動 する態度を養う。 」という2点が目的である10。 201X年度の宿泊学習の参加児童は13名で、そのうち3名の児童が特別支援学級に在籍していた。 引率教員は、団長として教頭1名、主担当者として第3・4学年の通常の学級の担任1名、特別支援 学級の担任が3名(この中に、第一・第二筆者である深見・⻆田を含む) 、養護教諭(第三筆者であ る町田)が1名の計6名であった11。 2)B児について B児は、A小学校の特別支援学級に第1学年時から在籍している。学校生活では、未経験のことへ の挑戦に抵抗を感じることが多くあった。とくに、活動の目的について納得ができなかったり、活動 の見通しがもてなかったりする場合は、参加を拒むことが多くみられた。生活年齢は学年相応よりも 低いが、本児の努力はもとより、保護者の協力、小学校入学前から保育園で共に生活してきた同学年 の児童の理解等により、交流及び共同の学習や学校行事に可能な限り参加してきた。入学以来、学級 担任と保護者が児童の登下校時に日常的に情報交換を行う等、学校の教育活動に積極的な協力が得ら れる保護者のもとで養育されている。 B児の宿泊研修の参加に関して、第3学年時は、保護者と担任が相談した結果、児童の実態等を考 慮して参加しなかった。第4学年時は、第6学年で行われる修学旅行を見据え、計画的に準備してい きたいという保護者及び担任の意向のもと、初めて参加することとなった。. 71.

(5) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈. 3)研究倫理上の配慮 本稿作成にあたっては、第一筆者及び第二筆者が、本研究の趣旨をB児の保護者に直接説明し、記 録化への同意を得た。B児に係る個人情報が多く含まれることから、B児が特定されることにつなが る情報については、本質を損なわない程度に、記載を一部省略したり、抽象化したりしている。また、 筆者である深見・⻆田・町田以外の児童名・教職員名は、原則的に匿名とした。. 3 宿泊研修における合理的配慮の事例と考察 1)合理的配慮について 本事例では、B児の宿泊研修参加に係る合理的配慮について、学校及び保護者間で事前合意をして いる。第3学年時に、第4学年での宿泊研修の参加の意向及び参加方法についての相談が保護者から 担任に行われた。学校側は、管理職及び特別支援教育コーディネーターでもある担任がその点を認識 しており、第4学年進級時に保護者の意向を再度確認した。合意形成の過程では、担任が活動の計画 や引率する教員の構成について説明を行った。その後、保護者側からB児に予想される困難や家庭で の状況について情報提供があり、学校として実施可能な支援の調整を行ったうえで合意を図った。表 1は、担任が作成したB児への合理的配慮に係る保護者との確認事項である。 表1 B児への合理的配慮提供に係る保護者との確認事項 ・今年度の目標は、「家族以外と宿泊する経験」をすること。 ・保護者と家庭での旅行の様子を4月から確認。荷物や活動内容の相談。緊急時以外には電話はしないこ とを伝える。(電話をしているところを見られると家を思い出すため) ・保護者も事前に宿泊先を見に行っており、活動ごとに予想される困難を聞き、それに備えて保護者から のアドバイスを頂いていた。 ・持参する荷物 旅行用のおもちゃ(学校に持ってきているものは、 意識を分けるために、 持たせないようにお願いした) 予備の着替え・靴(ぬれたり汚れたりすると着替えをしたがるので多めに) お金(活動の中で食べるアイス代) ・事前指導は2日前から。(あまりに前過ぎても、心配が大きくなりすぎるため) 1日目 温泉=深見先生、アイス=⻆田先生、弁当=町田先生 好む活動と先生をペアに伝える 2日目 宿泊研修全体の流れを写真で伝える。. 201X年4月に保護者との合意のもとに作成された個別の指導計画には、短期目標と手立てに宿泊 研修に関わる目標が記載されており、担任がB児の宿泊研修参加に向けて保護者と合意形成を図る取 組が行われていたことが分かる。阿部(2017)は、 合理的配慮とは、 「設置者・学校及び本人・保護者」 との「合意形成」そのもののことであり、その具体は「個別の教育支援計画」 「個別の指導計画」に 記載される必要な配慮と適切な支援としている12。これらのことから、本事例はB児への個別配慮で はなく、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)に基づく合理的配慮 に該当するものである。 2)分析対象のB児の旅行記録について 旅行記録は、①「出発前の事前指導、保護者との確認」 、②「当日の流れと様子、教員の動き等(1 日目、2日目)」 、③「今回の宿研の取組で良かった点と課題」の3部で成り立っている。本稿ではテ 72.

(6) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. キスト部分のみを分析の対象とし、表記の便宜上、活動の時系列に沿って、1-1、2-1のように番号を 付している13。 表2 当日の流れと様子、教員の動き等(1日目-2日目午前) 時間・内容 1-1 朝 登校 8時20分. 1-2 バス乗車. B 君 の 様 子 ①前日からスケジュールをつぶやいており、宿泊することも理解してい た様子 ②楽しみにしている反面、不安?も大きいようで、家で「先生 二人 は~」とため息をついて起きてきた。 ③朝の準備はスムーズで、学校に持っていくおもちゃも持たずに用意が できた。 ④予定では登校後、外で待機してすぐにバスに乗る予定だったが、早め に登校し、本人も母親とは玄関で別れると分かっていたので、学校の 中で待機。 ①バスが来ると、自分から荷物を持ちスムーズに乗車。 ②「うしろ」「先生 二人」とバスに乗る場所を決め、自分の中で整理 をつけていた。. 1-3 バス出発. ①バスの中でも言葉数少なめ。外を見て少し緊張している様子。リュッ クもおろさない。 ②途中、トイレ休憩にも降りる。C児がトイレに連れていってくれる。 ③トイレ後、バスに乗るのに少し拒否。他児童が先に乗り、あわただし い雰囲気が嫌だったのかな? ④Dさん(注:スクールバスの運転手)と話をして気持ちの切り替えが でき、バスに乗車. 1-4 ネイパル到着. ①バスから降りると、すぐにネイパルに向かって歩き出す。 ②言葉少なめにかなり緊張。頑張ろうとしている様子。. 1-5 出会いの集い. ①ホールで出会いの集いが始まると、自分からみんなの隣に座る。 ②途中、説明などがあり、少し時間が長くなると立ち上がり、リュック を振り回す。 ③リュックを振り回すことについては軽く指摘したが、何とか最後まで 参加できる。 ①部屋に荷物を置きに行くが、B児の部屋となる「リーダー室」を嫌が り、入らない。狭くて、暗いのが嫌だったのかな? ②館内をうろうろする。食堂に入って落ち着く。. 1-6 館内を見る. 1-7 ①アンパンマンのフィギュアを館内に隠し、宝探しゲームを行う。 館内ウォーク ②とても緊張した様子だったが、ゲームのやり方が分かり、館内にも慣 ラリー れてくると笑顔が見られるように。 1-8 弁当 1-9 買い物学習. 1-10 ネイパル到着. ①弁当を取りに部屋(リーダー室)に行こうと促すが嫌がる。その後、 深見先生に頼み、先に食堂に行っていてもらう。 ②その間、弁当を部屋に取りに行き、食堂でみんなと食べる。席は、他 の児童とは少し離れた席。 ①弁当を食べると、すぐに外に出たいモードに。部屋に行きたくない様 子なので、深見先生に頼み、玄関でB児と待っていてもらう。その間 に外出の準備を行う。 ②アイス、買い物というキーワードを繰り返し、小走りでネイパル出発。 まだ気持ちが落ち着かない様子。フクハラに着くと、入口付近のゲー ムコーナーに引き寄せられる。ゲームを眺めていたので、15分ほど様 子を見る。 ③「アイス食べに行こうか?」と聞くとフクハラを出る。 ④その後、道の駅に入ったり出たり、外の売店の牛ベンチに座ったり。 少しずつザワザワしていた気持ちが落ち着いてきて笑顔が見られる。 アイスを二人で食べていると、町田先生、G教頭が来てくれる。 ⑤帰り際、駐車場に観光バスが停まっていて、「お母さん、お父さん」 と帰りたくなる。10台くらいが出発するところを見送り、「温泉入ろ うか」と声をかけると歩き出す。 ⑥帰りは結構な坂道だったので、手をつなぎながら、担任が転ぶふりを したり、川に石を投げたりしながら、気を紛らわせて何とか戻る。 ①ネイパルに戻ると他の児童は室内スポーツをしていた。少し館内を散 歩してから、F先生と相談し、一番奥の部屋108号室に変更してもらう。 ②B児も部屋を見ると気に入り、さっそく二段ベッドに学校から持って きたおもちゃを並べて遊んでいた。. 教員の関わり ア 朝の会をしないという ことを理解していて、校 長室に向かう。 イ その間、母親と家での 様子等の確認。. 他児童の動き等 ・登校 ・学級指導. ア 校長室でバスが来るま で待機させてもらう。 イ バスが見える場所&校 長先生もいて落ち着ける 場所 ア ホワイトボードでスケ ジュールを説明したが、 緊張している様子だった ので、少しそっとしてお く。 イ 深見先生が近くに座っ てくれていたので、「お んせん!深見先生!」と 喜んでいた。 ア 深見先生がすぐについ て行ってくれる。 イ 担任は荷物などをまと める。 ア E先生(注:ネイパル 職員)がB児の動きにも 気にせずに、淡々と説明 を続けてくれたのが良 かった。 ア 町田先生が部屋に入る のが難しそうなことをF 先生(主担当)に伝えて くれる。 ア 町田先生が事前にフィ ギュアを隠してくれた、 ヒントを紙に書いてくれ た。 ア 深見先生にB児につい てもらう。. ・B児がバスに 乗ってから、 他の児童も乗 車. ア 町田先生、深見先生に 状況をメールで報告。 イ 買い物学習をしていく うちに気持ちが落ち着い てきたので、できるだけ ゆっくり活動をすること を伝える。. ・森林ウォーク. ア F先生に部屋交換をし てもらう。 イ 部屋が遠いため、全体 とのやり取りはメールや 電話で行う。. ・自由時間. ・B児が後ろの 席に離れて 座っていたこ ともあり、バ スレクなどに は参加できず。. ・出会いの集い ・司会進行. ・部屋に荷物を 入れる。 ・館内ウォーク ラリー. 73.

(7) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈 時間・内容 1-11 夜ごはん 1-12 自由時間 入浴 1-13 自由時間 就寝. 2-1 起床. 2-2 朝食. 2-3 歯磨き 帰る準備. 2-4 バスの中 下校. B 君 の 様 子 ①食堂へ行くと、バイキングが用意されていたので大喜び。 白米、メンチカツなどをとる。 ②スプーン、フォーク忘れる!!! ・ハサミもあったほうがよかった!!! ①部屋に戻り、おもちゃで遊んでいると、うつらうつらしてきた。メー ルで町田先生に「眠そうです。」と連絡。すぐに深見先生が来てくれて、 お風呂に連れていってくれる。 ①お風呂から戻ってくると、また少し元気に。部屋でゆっくりしていて、 おもちゃで遊んだり、ホワイトボードに今日の出来事を描いていたり した。 ②その後、廊下の声が気になり、廊下を散歩。その間に、担任は入浴。 ③部屋に戻っても寝ること自体嫌がることもなく、ベッドにも入る。消 灯になると廊下にも出なくなり、ベッドの上で人形遊び。そのうち眠 くなり、横になる。担任の髪を触ったり、腕にしがみついたりしてい る間に就寝。 ④眠りが浅く、何度も起きる。明け方4時ごろに電気をつけてトイレに 行く。その後、8時まで熟睡(担任も)。 ①町田先生から、「朝食、来れる?」というメールで担任起床。すでに 7時40分で、他の児童は朝食中。B児は熟睡中なので町田先生に「朝 食は無理そうです」とメールする。 ②8時過ぎに町田先生が部屋をのぞきに来てくれて、B君も起床。すっ きり起床し、「やった~!二人!おやすみ!」という。初めての宿泊 がうれしかったのかな? ①着替えをしていると時間がかかり、9時ちょい前に食堂へ。用意して いてもらった朝食を食べる。 ②朝食を深見先生、町田先生に頼み、担任は部屋の掃除と帰る準備をす る(9時にはチェックアウト)。 ③担任もバタバタしていたので、B児も落ち着かなかった様子。その後、 一緒に朝食を食べる。 ①全児童で写真撮影。タイミングよく、食堂から出てきたB君を先生方 が座らせてくれる。 ②担任が朝食を食べている間に歯みがきを頼む。お風呂に行ったようで、 また温泉に入りたい??感じで、なかなか歯磨きが進まない。 ③その後、荷物をもって玄関に。バスが来るまで少し待っていて、バス が来たらネイパルの方たちに個人的にお礼を言って、すぐに乗車。 ①バスの中ではご機嫌。旅の思い出をつぶやいていた。. 教員の関わり ア 他の先生方が、一緒に 取ってくれたり、大きな 食べ物を切ってくれたり した。 ア 他 の 児 童 は お が く ず アートだったが、臨機応 変に対応してもらえた。 ア 廊下散歩は町田先生、 深見先生が付き添ってく れる。その際も、無理や り部屋に戻すことなく、 そっと見守ってくれてい た。 イ もし朝食に行けなかっ た場合の相談を町田先生 としている。. 他児童の動き等 ・夕食. ・おがくずアー ト ・自由時間 ・就寝. ア 町田先生が食堂に頼ん ・朝食 で、おにぎりと一人分の ・部屋掃除 おかずを用意してもらう (二人分だと多いので)。 ア 担任が部屋掃除をして いる間、町田先生、深見 先生についてもらう。. ・羊毛フェルト づくり. ア 歯磨きをG教頭にお願 いする。 イ 玄関で深見先生と待機 してもらう。 ア 深見先生が近くに座っ ・15分ほど早く てくれ、「温泉!深見先 学校に着いた 生!」の話をしてくれた。 ので、学校の 中での閉会式 をして、待機。. 3)テキストマイニングの手法について B児の旅行記録のうち、2日間の宿泊研修の活動を時系列に記録した「当日の流れと様子、教員の 動き等」(表2)をテキストファイル化し、テキストマイニングのソフトにより、共起ネットワーク 図の描画を行った。テキストマイニングは、KH-Coder3(樋口、2020)を用いて実施した14。このソ フトでは、指定した語句の抽出を行い、多変量解析を用いた共起ネットワーク図の作成によって、同 時に出現することが多い語句のグループを確認することができる。本研究では、出現回数が多い語句 が大きく表示され、なおかつ、他の語句とのつながりの数が多いものを重要とみなす表示を選択して 分析した。これにより、データ中に含まれる担任の合理的配慮の意図を抽出できると考えた。 4)共起ネットワーク図からの考察 表3 頻出150語のリスト(一部). 74. 抽出語句. 出現回数. 抽出語句. 出現回数. 抽出語句. 出現回数. バ ス. 14. 先生. 11. 少し. 7. 深見先生. 13. 担任. 10. 来る. 7. 部 屋. 13. 朝食. 8. 食べる. 7. 町田先生. 12. 様子. 8. ネイパル. 6.

(8) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. 図1 共起ネットワーク図. ① 全体的な傾向 総抽出語数は1,661語で、出現回数の最も多かったのは「先生」で、 「深見」 「町田」との強い関連 性が示された。そこで、 「深見先生」 「町田先生」を一つの語句として強制抽出の設定を行い、抽出語 リストを再構成した後に、新たな共起ネットワーク図を作成した(図1) 。 第一に、 「教員間の連携」がB児への合理的配慮を講じるにあたって、中心的なコンセプトとなっ ていたことが分かる。出現回数の上位語句のなかで、 「深見先生」 「町田先生」 「担任」は、関連付け て使われることが多く、 「朝食」 「食べる」 「メール」 「頼む」などとあわせて、大きな一つのグループ を構成していた。B児は、学校生活の大部分を担任との個別授業で行っており、担任が合理的配慮を 講じるのが基本である。しかし、宿泊研修では、活動内容や場所が大きく異なるため、担任のみで指 導を行うことは難しく、その困難さを「教員間の連携」によって乗り越えようとする担任の意図の表 れと言える。 第二に、 「移動での配慮」が多く必要とされたということである。バスが中心になっている部分は、 「先生」「乗車」 「乗る」 「待機」 「玄関」など、学校と宿泊施設間の移動に係る語句が多い。バスでの 移動は特にこだわりが強く、乗るタイミングや座る場所、周囲に座るメンバーに固執することが多く あった。バスは、移動手段であるだけではなく、気もちを落ち着かせたり活動に参加することを納得 したりするために必要なクールダウンの場所でもあった。この場を、日常のルーティン通りにすすめ 75.

(9) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈. たいという担任の意図が反映されたものと言える。 第三に、 「心理的な安定」が中心的なコンセプトの一つとなっていたことである。部屋を中心に構 成されているグループは、 「遊ぶ」 「ベッド」 「落ち着く」「気持ち」 「緊張」など、B児にとって心理 的安定に関わる語句が多い。非日常的な空間で活動する宿泊研修においては、学校における教室のよ うに心理的安定のための拠り所となる居場所がB児にとって重要であることが分かる。例えば、部屋 に関わる部分では(1-6,1-10) 、「部屋に荷物を置きに行くが、B児の部屋となる『リーダー室』を 嫌がり、入らない。狭くて、暗いのが嫌だったのかな?」という記述があり、無理やりB児を部屋に 入室させるのではなく、あえて次の活動に移行している。その後、しばらく時間が経過してから、窓 が大きくベッドがある部屋に変更してもらい入室し、 「気に入り、さっそく二段ベッドに学校から持っ てきたおもちゃを並べて遊(ぶ) 」ことができるようになった後は、就寝時間までは概ねスムーズに 活動できていた。B児の心理的安定を図るための居場所を担任が重要視していることが理解できる。 ② 教員間の連携について ア)担任のサポートにあたる教員 表4 「教員間の連携」の類型化 深見のみ. 町田のみ. 深見・町田. その他. 該当しない. 1-3,1-4 1-8,2-3,2-4. 1-6,1-7 2-1. 1-9,1-11 1-12,1-13,2-2. 1-2,1-9 2-3. 1-1,1-2 1-5,1-10. 担任以外でB児の指導に関わった教員を分類した(表4) 。主として、別の特別支援学級の担任で ある深見及び養護教諭である町田が、担任やB児のサポートを行っていたことが分かる。 深見が担任及び担当しているC児、H児については、他の引率教員、とくに、G教頭や別の特別支 援学級担任であるI教諭が、必要に応じて個別指導を行っていた。深見が2名の児童に直接対応した のは、C児本人より訴えのあった忘れ物への対応とI教諭から連絡があり個別指導が必要となった自 由時間の遊び方(1-9,1-10)の2回であった。A小学校では、交流及び共同の学習を日常的に実施 していたことにより、B児を含む複数の児童をティームティーチングする体制がとりやすかったと言 える。 イ)教員間の連携方法 表5 「教員間の連携」の類型化 共同指導. 役割交代. 後方支援. 該当しない. 1-3,1-9 1-13,2-3. 1-4,1-8 1-12,2-2. 1-6,1-7 1-11,2-1,2-4. 1-1,1-2 1-5,1-10. 教員間の連携方法は、担任とそれ以外の引率教員が複数でB児を指導する「共同指導」パターン、 担任以外の教員が主として指導にあたる間に、担任がB児の活動しやすい環境を整えておく「役割交 代」パターン、サポート教員がB児の活動しやすい環境を整えておく「後方支援」パターンに類型化 できた(表5)15。 例えば、2-2の朝食の場面では、 食堂で「用意していてもらった朝食を食べる」ことを「深見先生、 町田先生に頼み、 担任は部屋の掃除と帰る準備をする (9時にはチェックアウト) 」 という記述がある。 76.

(10) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. その間に、担任が身支度を行ったり、部屋掃除や荷物の整理を行ったりして、B児がすぐに出発でき るように準備を整えていた。担任の準備が整った段階で交代したが、指導の内容によって教員を変え ることは、担任の負担軽減のためにも必要と言える。 ウ)意思決定方法 表6 「教員間の連携」の意思決定者 担任からの依頼. 他の引率教員の自主的判断. 該当しない. 1-8,1-9 1-12,2-2 2-3. 1-4,1-6 1-7,1-11 1-13,2-1,2-4. 1-1,1-2 1-5,1-10. 本事例では、担任からの依頼で始まる教員間連携と、他の引率教員の自主的判断により始まる教員 間の連携に類型化できた(表6) 。 担任が他の引率教員に依頼を行った後に、必要な援助を行う事例では、 「食事」 「入浴」に関係する 場面で多く見られた。例えば、1-12-アでは、夕食後にB児が眠くなってきたことにより、入浴のタ イミングを逃してしまうと担任が予想した。B児が他の児童と同時間帯に一緒に入浴することが難し いと考えていたため、他の児童が別の活動をしている今のうちにB児の入浴を済ませたいと考えた。 そこで、担任は町田にメールで「 (B児が)眠そうです」と連絡し、町田は他の児童の活動の写真撮 影を行っていた深見にその旨を伝えた。 町田と深見も今のタイミングで入浴することが良いと予想し、 深見は、B児の様子を部屋まで確認に行った。その場で担任からの依頼を受け、B児の入浴介助を行 うこととなった。 また、担任からの依頼がなくても、他の引率教員の自主的判断により、B児のサポートに入る場合 は、「移動」に関わる場面で多くみられた。例えば、1-6の場面では、B児が宿泊予定の部屋を嫌がっ ていることを担任から聞いた町田が、その様子を主担当のF教諭に伝えている。その結果、1-10で部 屋移動をした後はB児は落ち着いて過ごせるようになった。 担任は、B児の実態を的確に把握しており、合理的配慮に係る判断について最も的確な判断ができ る。とはいえ、活動場所が学校とは異なる環境面の難しさや引率教員が他の児童と共に活動している 体制面の難しさもあり、日常の教育活動よりも他の教員のサポートを求めにくいと言える。1-9や 1-12のように、深見及び町田らがサポートにあたることが事前に決定されていたものもあるが、表6 の量的比較から、宿泊研修での合理的配慮の提供にあたっては、担任のサポートにあたる教員の自主 的な判断の重要性が示唆される。では、 他の引率教員は、 B児への合理的配慮の提供や担任へのサポー トについてどのような認識をもっていたのかについて、次に記述する。 5)引率教員は合理的配慮についてどのように考えていたか ① 深見教諭(別の特別支援学級の担任) 日常の教育活動で行っているサポートを継続するという前提で、担任がどのように指導したいと考 えているのかを予想して、B児との適切な「距離間を保つ」ことを意識していた。B児と担任の2人 だけでいることが望ましいと判断した場合は、積極的には関わらないようにしていた。ただ、担任の サポートが必要な場合に迅速に対応できる場所にいるようには意識していた。一方、B児の活動が担 任の思うようにすすんでいない場合は、他の教員がB児に声をかけると効果的であったので、積極的 に声をかけた。また、場所の移動が伴う場面では、B児は待つことに拒否反応を示すことがあり、周 77.

(11) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈. 囲の児童とのタイミングが合わないことがあったため、すぐに対応できるようにB児の近くにいた。 これらは、日常の教育活動を目にしていたことのアドバンテージを生かした対応と言える。1-12の入 浴介助のような場面は、その典型例と言える。日常のB児の様子や担任の指導を知らない教員であれ ば、 「B児が眠そう」という情報は単なる状況報告にとどまるが、そこに含まれている担任の意図に 気づける教員がいることが担任へのサポートにつながると考えていた。 ② 町田養護教諭 第一に、担任への連絡調整を意識的に行うようにしていた。主担当からの全体指導の連絡(他の児 童の動き、時間の確認など)は、B児が他の児童と一緒に行動していない場合でも連絡をしていた。 活動を共にしているかに関わりなく、そのようなコミュニケーションが必要と考えていた。養護教諭 として、宿泊研修中の児童の健康安全を確保することが第一義的な責任であるが、幸いにも、体調不 良を訴える児童がおらず、けがをした児童もいなかった。担任への連絡調整は役割として決まってい たわけではないが、自分自身が動きやすい立場であったと考え、すすんで行うようにしていた。1-9 の時点までは、B児や担任と共に活動していることが多かったが、1-10以降は、部屋の変更により他 の児童が活動している場所とB児の宿泊部屋が遠くなったことや、自分が部屋に行くことでB児が クールダウンしている時間を妨げてはいけないと思い、部屋に行くのは必要最小限にし、メールで連 絡をするようにした。 第二に、担任が一人では対応しきれない場合のフォローを意識して取り組んでいた。学校ではB児 に合わせて柔軟に対応できることでも、宿泊研修のように、他の児童と合同で活動していたり、公共 施設の利用上の制約(利用に当たってのルール、他校との合同利用等)があったりする場合は、担任 一人で対応することが難しいことも多いと予想していた。例えば、1-13の就寝時は、翌日の朝食に間 に合わなかった場合の対応を担任と確認した。その場合は、自分へ連絡をしてもらい、部屋に食事を 運ぶことを検討していた。実際、2-1の朝食時に「行けそうにない」というメールがあった。そこで、 前日の打ち合わせ通り、食事を部屋に運ぼうとしたが、食事会場以外の場所に飲食物を持ち出すこと が衛生上の理由でできないということが判明し、食事会場の担当者と調整が必要となった。その後、 食事会場内で食事をするのであれば、時間外でも対応できるということになり、担任に速やかにメー ルで伝えた。なお、食事はビュッフェ形式で、食事会場の担当者がB児と担任用の朝食分を取り分け ておにぎりを作って頂けるという配慮もあった。細かい部分ではあるが、B児は白飯が好物であるの で、おにぎりの中の具は何も入れずに作って頂けるよう依頼し、B児が朝から食事で気分を損なわな いように配慮をした。また、担任のおにぎりは、具を入れないとB児が担任の分まで食べようとする ことも考えられ、 あえて具を入れて作って頂けるよう依頼した。仮に、 担任一人で対応していた場合、 児童の対応、食事会場の担当者との調整、主担当の教員への連絡などに同時に対応しなければならな くなり、その困難は容易に予想できる。だからこそ、担任のフォローを意識することが重要と考えて いた。 第三に、担任のサポートの仕方についてである。宿泊研修出発前から、宿泊研修を想定して2人で シミュレーションをしている姿を見てきた。B児のなかでは、買い物=担任、温泉=深見というよう に、それぞれの活動に2人の世界が出来上がっていたと理解していた。そこで、B児がもっている宿 泊研修のイメージをできるだけ壊さないよう、遠くからサポートすることを心がけた。また、学校生 活で、B児が自分の思い通りに行かずに担任に指導されている場面では、助けを求めてくることが多 くあったので、B児からの求めに応じてではなく、担任から依頼があった場合や明らかにサポートが 必要という場面のみとし、必要以上にB児へ声かけをしたり、手助けをしたりしないように意識して 78.

(12) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. 対応に当たった。 ③ ⻆田教諭(B児の担任) ア)旅行記録の作成について 旅行記録の作成及び配布の意図は、次の三点であった。第一に、201Y年度の宿泊研修への参加を 見据え、B児がどのように宿泊研修に参加していたのかを教職員に周知することである。第二に、実 際にB児の指導に関わっていた教員の対応や連携があったことにより、B児が宿泊研修に参加できた という事実を周知することである。第三は、宿泊研修に限らず、学校行事や学習活動にB児が参加し やすくなるようにするため、どのような配慮をする必要があるかについて、教職員の理解を促進する ためである。学校が小規模であるからこそ、計画立案段階から配慮を必要とする児童を個別に念頭に 置き、教育活動を行っていけるような学校づくりが必要だと考えていた。なお、201X年度の運動会 についても記録を残している。 イ)教員間の連携について 宿泊研修についての担任としての評価を、 「今回の宿研の取り組みで良かった点と課題」としてま とめた(表7) 。今回は、初めての宿泊研修への参加で、事前の準備を計画的に行ってきたものの、 当日にB児がどうなるかは予想がつかない部分もあり、指導は手探りの状態であった。事前の準備の 段階で保護者の協力があり、宿泊研修中もB児が想定以上の努力をしていたこともあったが、最終的 には引率教員のマンパワーによって何とか乗り切ることができた。 「臨機応変な対応」と記述したよ うに、担任の意図を理解し、場面ごとに担任もしくはB児に必要なサポートをしてもらうことができ た。基本的には、担任とB児の2人で行動することにしていたが、必要な時にサポートがあり(タイ ミング)、サポート後も必要以上に留まることなく、自然な形で2人に戻してもらうことができた(距 離感)。また、B児に合わせた予定の変更、メールでのやり取り等、出発前には予定していなかった 対応もしてもらうことができた(柔軟な対応)。担任の支援者となった2名の教員が、B児のような 配慮を要する児童への指導に慣れていたことや、 担任の指導の意図を理解している教員であったので、 B児への合理的配慮を提供するのに効果的な対応をとることができた。 しかし、合理的配慮の提供の成否が教員間の関係性に依存するものであったことが課題である。担 任の支援者となった2名の教員と筆者の日常的に良好な関係は、B児への合理的配慮の提供にプラス となって作用していた。実際、保護者は、担任以外の引率教員の構成によっては、宿泊せずに日帰り で帰宅することも考えていたが、引率体制を確認したうえで、宿泊を希望する意向を改めて示した。 また、本来であれば、B児への合理的配慮について、他の引率教員と詳細な打ち合わせをする必要が あったが、活動ごとのポイントを確認する打ち合わせがなくても十分に対応してもらうことができた。 引率教員の構成に左右されることなく合理的配慮を講じることができるのが望ましいが、201X年時 には行えなかった。 表7 今回の宿研の取り組みで良かった点と課題  良かった点 ・二日前からの事前指導 →早すぎず、楽しみなことを先に伝えたのはよかった。 ・B児オリジナルの活動 →館内宝探し、買い物学習など「何をするのか」がシンプルでわかりやすい活動ができた。 ・部屋の変更 →利用客が少なかったこともあり、多めに部屋を借りられたこと。部屋が一番端で静か。二段ベッド. 79.

(13) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈. がある。日当たりが良く、適度な広さ。 ・予定の変更 →お風呂を早めに入れさせてもらったり、朝食を用意してもらったり、B児に合わせたスケジュール に変更してもらった。 ・メールでのやり取り →先生方とメールでやり取りをした。電話や直接だとB児にも聞こえて気になるので、メールがベス トだった。 ・先生方の臨機応変な対応 →基本、担任と二人で行動し、助けてほしい時に周りの先生方がサポートしてくれた。 →サポート後も長引かせず、すっと担任と二人に戻してくれたのがありがたかった。 ・B児の意識 →活動一つ一つに対して、頑張ろうという気もちが見られ、時間がかかったり、寄り道をしたりした が、自分で行動できていた。そのため、どうにか促すようなことをしなくても、大丈夫なことが多 かった。母親とその話をしたら、 「かなり頑張っていたんだね」「行事では過小評価や過大評価する ことなく、原寸大のBが見られる」と話をしてくれていた。  課 題 ・スプーン、フォーク、ハサミをもっていく。お休みグッズ(亀)は、なしのほうが。(いつもと違うので、 逆に気になった??) ・B児がみんなと一緒に参加できる取組を事前に相談すべきだった。(施設内で同じ取組は難しいとして も、例えばバスレクなど). ウ)本事例の合理的配慮と保護者の評価 B児への合理的配慮として、 活動の見通しをもたせるための事前指導を意図的に二日前から開始し、 楽しみにしそうな活動と担当教員を結び付けて説明した結果、当日は活動を極端に嫌がる様子は見ら れなかった。様々な困難はあったが、日常の教育活動と同様に、声かけをしたり、B児自身が納得す るまで待ったりして活動を行った。そこに、他の教員のサポートが効果的に入り、B児が意欲的に活 動できるように環境が整えられていった。また、B児だけのオリジナルの活動(1-7,1-9)を設定す ることにより、B児がもっている力を発揮できる場面も見られた。具体的には、館内宝探しや買い物 学習を計画し、B児にとって「何をするのか」がシンプルで分かりやすい活動にしつつも、経験のあ る活動を普段とは異なる場所で挑戦するという適度な負荷もかけ、 活動意欲を引き出すことができた。 保護者には、宿泊研修当日の学校到着後に2日間の様子を大まかに説明し、2週間後に行われた個人 懇談時により詳しい説明を行った。その際、合理的配慮に関わる評価・改善についても協議した。保 護者は、「B児の意識」の部分に記載しているように、 「かなり頑張っていたんだね」 「行事では過小 評価や過大評価することなく、原寸大のBが見られる」とB児の努力を評価するとともに、学校側の 配慮にも感謝の言葉があった。. 4 考 察 1)本事例から得られた知見について 本研究では、共生社会の実現に向けて、障害の有無に関わりなく、すべての児童が満足できるよう な集団宿泊的行事にするために、教員が合理的配慮をどのように提供するかの実際について検討して きた。その結果、次の2点が明らかになった。 第一に、担任が作成した宿泊研修の「旅行記録」について、テキストマイニングの手法を活用し、 共起ネットワーク図から担任の合理的配慮の中心コンセプトについて分析したところ、 「教員間の連 80.

(14) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. 携」「移動での配慮」 「心理的な安定」であることが明らかになった。 第二に、「教員間の連携」について、 「誰がサポートする教員になるのか」 「どのように教員間で連 携するのか」 「教員間の連携の意思決定者は誰か」という視点で分析した結果、合理的配慮を講じる にあたっては担任以外の教員の支援が重要であることが明らかになった。また、3名の引率教員の記 述が、「担任がどのように指導したいと考えているのかに応じて指導する」 「担任一人では対応しきれ ない場合のフォローアップ」 「引率教員のマンパワー」というように、 合理的配慮の提供にあたって「教 員間の連携」が必要不可欠であることを示唆する点で一致した。 2)課題について 本事例の課題として、次の2点が挙げられる。第一に、活動プログラムの妥当性である。担任は、 宿泊研修前に主担当の教員と宿泊施設の下見を行ったり、活動について提案したりするなど、B児が 参加しやすい活動にするための調整を行っていた。ただ、今回は、B児に合わせた大きな変更はしな いことをB児の保護者からも同意を得ていた。しかし、配慮を必要とする児童が参加する場合、配慮 を必要とする児童も含めた全ての児童が参加することができるような活動を設定するのが、共生社会 の実現に向けた学校教育における責務である。保護者の了解があったとしても、配慮を必要とする児 童が、障害や特性ゆえに参加しにくい活動であると分かりながら、 「参加出来たら参加してください」 という付随的な参加を促すことは、共生社会の実現に向けたインクルーシブ教育を推進する方向性と 反すると言える。教員が、インクルーシブな発想を前提として企画・立案していくことの必要性を自 覚させるものとなった。 第二に、本研究では、教員間の連携がどのように行われるようになったかを明確にできなかったと いう点である。担任が必要とする支援を行ったり、担任の意図を察したりするために、どのようなプ ロセスを経てきたのかについては、当事者である深見や町田も合理的な説明をすることができなかっ た。一方で、担任はB児の旅行記録を作成して、深見や町田により提供された支援を紹介することで 他の教職員にも合理的配慮に関わる情報提供を試みようとしている。しかし、B児の支援にあたる教 員が限られていたことは、児童や担任の指導の様子を見ているだけでは支援方法を理解することが難 しく、担任も指導のポイントを伝えることが難しいという状況を表している。 第三に、本研究の一般化という点で課題がある。まず、若手教員の増加によって教員集団の指導力 が等質ではない状況が多いなかで、本事例は、中堅・ベテラン教員のみで指導にあたったことについ て留意する必要がある。また、A小学校が小規模校で、個の実態に応じて能力を伸ばす指導と支援が 行いやすい環境にあったこと、そして、校内体制として「こども支援委員会」が設置され、支援の必 要がある児童や家庭に対して特別支援教育コーディネーターを中心に対応がなされてきたという状況 もある。一方、ティームティーチングが日常的に行われている特別支援学校では、複数の教員での指 導が様々な理由で容易ではないという指摘もある。また、大久保ら(2016)の研究では、特別支援学 級担任経験や特別支援教育に関する研修経験のある教員、そして特別支援学校教員免許状を保有する 教員のほうが、合理的配慮の実施率が高く、教員の知識や関係性が合理的配慮の実施に影響している 16 実態を明らかにしている 。本事例においては、B児に対応した教員のうち2名は、いずれも特別支. 援学級担任であり、特別支援教育に関する研修を受けていたり、特別支援学校教員免許状を保有した りする教員であった。 インクルーシブ教育システムの導入以降、A小学校を含め多くの学校は、目の前の児童の学習・生 活上の課題を踏まえ、できるだけ同じ場で共に学ぶことを追求し、そのなかでの合理的配慮の在り方 を手探りで模索し、実践している。個別の教育的ニーズがある児童の学校での学びの質を保障してい 81.

(15) 深見 智一・⻆田めぐみ・町田 玲奈. くためには、特別支援教育に関わる教員の質の向上が必要であり、本稿でもその点に関して検討しき れなかった多くの課題を残すこととなった。第2報以降の課題としたい。 参考文献 文部科学省(2019)学校基本調査「学年別特別支援学級児童数」および「種類別特別支援学級児童数」 中央教育審議会初等中等教育分科会(2012) 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特 別支援教育の推進(報告) 」 丹野哲也(2014) 「 『合理的配慮』の協議と過程」初等教育資料No. 909、76-79、文部科学省. 付 記 本稿のうち、第2筆者の⻆田が3-4)-③、第3筆者の町田が3-4)-②を担当し、第1筆者 の深見がそれ以外を担当した。本研究は、JSPS科研費20H00732の研究成果の一部である。 註 1 大谷大学教育学部(2019) 「幼児教育・小学校教育に関する保護者の意識調査 2019」http://www.otani.ac.jp/ news/nab3mq000006blal-att/nab3mq000006blee.pdf(2020年8月31日参照) 2 教育課程上、宿泊研修や修学旅行等の集団宿泊的行事は、特別活動に位置付けられる。小学校の特別活動は、 学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事の4領域で構成されている。そのうち、学校行事は、儀式的行事、 文化的行事、健康安全・体育的行事、遠足・集団宿泊的行事、勤労生産・奉仕的行事の5つに区分されている。 3 松本和久・安田和夫・櫻井康博・山内達仁. (2018) 「特別支援学校の修学旅行に必要な配慮や支援⑴:岐阜県 の特別支援学校を対象とした調査から. 」岐阜聖徳学園大学教育学部教育実践科学研究センター紀要第17号、151158 4 松本和久・安田和夫・櫻井康博・山内達仁. (2019) 「特別支援学校の修学旅行に必要な配慮や支援⑵:修学旅 行中に起こった予期せぬトラブルとその対応」岐阜聖徳学園大学教育学部教育実践科学研究センター紀要第18号、 53-58 5 松本和久・安田和夫・櫻井康博・山内達仁. (2020) 「特別支援学校の修学旅行に必要な配慮や支援⑶:特別支 援学校ならではの困難さとその対応」岐阜聖徳学園大学教育学部教育実践科学研究センター紀要第19号、63-70 6 菅原真由美・芝木美沙子(2016) 「特別支援学校における高等部修学旅行の保健管理(第1報)─事前準備と関 係機関との連携─」北海道教育大学紀要(教育科学編)第66巻2号、167-180 7 菅原真由美・芝木美沙子(2017) 「特別支援学校における高等部修学旅行の保健管理(第2報)─医療的ケアの 実施の有無─」北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻2号、173-184 8 倉林正・霜田浩信・丹野哲也(2018)「合理的配慮提供時における合意形成についての検討」群馬大学教育実践 研究第35号、175-182 9 大塚玲・中村恭子・山元薫・岡本康哉(2018)「小・中学校における特別な支援を必要とする児童生徒に対する 合理的配慮」静岡大学教育学部研究報告(人文・社会・自然科学編)第68号、101-116 10 201X年度 A小学校 宿泊研修実施計画より引用 11 201X年度時点で、深見及び⻆田は「中堅教員」で、町田は「ベテラン教員」と分類される。分類は、吉崎(1998) によるものである。吉崎静夫(1998) 「一人立ちへの道筋」藤岡完治・生田孝至・浅田匡編『成長する教師』金子 書房 12 阿部敬信(2017) 「特別支援学校及び特別支援学級における『合理的配慮』とは何か」別府大学短期大学部紀要 第36号、11-20 13 一例として、1-1-①-アという表記の場合は、 「朝の会をしないということを理解していて、校長室に向かう。」 という部分を示している。 14 KH-Coderの詳細については、樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト分析―内容分析の継承と発展. 82.

(16) 特別支援学級に在籍する児童の集団宿泊的行事における合理的配慮の検討⑴. を目指して』ナカニシヤ出版を参照。 15 それぞれの教員の関わり方の程度に違いがあったり、分類ごとに重複したりしている部分もあるが、3名の筆 者により共同で検討した。 16 大久保賢一・渡邉健治・岡本啓子・古川恵美(2016)「特別な配慮を必要とする生徒への中学校における取り組 みに関する調査」畿央大学紀要第13巻2号、17-42. 83.

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