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図画工作科におけるコンピュータを利用した表現システムの構築

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Academic year: 2021

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(1)図画工作科におけるコンピュータを利用した       表現システムの構築. 兵庫教育大学大学院修士課程 学校教育研究科.   教科・領域教育専攻 芸術系コース. M96703D 笠井 修.

(2) 目. 次. はじめに______...____._._.._._____.____.__..___.__._.__.1. 第1章メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響.______.__.__..3  第1節メディア社会の罪過._____,___.___.._..._.__..______..一_3   1.シミュレーション窟会におしげる経閉総の変尼....一.一__,__..一,.,..一,..、一,一,___..3.   2.彦Z想i璽州県夕闇国国ごよ’る鎌「..,_.____._________._..___...___,_,.,4.  第2節情報化社会における価値観の変化____.__.._._.._.__。____.__..,_5   1.:デレど〆ごよる療し営の変ブZ∫___.___9,___.___。_r9_____9_.9_____9_5   2メディア・,ネソみクーク左会に生きる諮ンク._,_.____,._._._.___..,_,_,__5.  第3節学校教育へのコンピュータ導入の問題点とその対処___.__.,.___..___...6   1、シン賦ン〃療i炸の得、章な盟κの子どら像㌧_,.....,9...._..、._.、._.◎.._._一._,.._,..,,,..6.   2.コンど』一廓瑚の危険荏__._.___._一_,_._一_,_。_一.._.一,__._._一7   3.従笑の置冥と比べたコンど』一心の麓貫.一_._.,.。.__...__,.__._一,.__._._一8.  第4節メディア社会に生きる力としての方向______.______,_.______9   エ.表=現・渤作活動の.重要荏とそのノ認暫_____ψ___.___9______,9999___9. 第2章図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性。______.。____.__.._..12  第1節従来の表現メディアとコンピュータの比較.______,______.,.__.__12   エ.平骨、立彦、コンど』一タ_一一_._____.,__”__,_,_.__.._._.__,_,12   £図画ユ「炸河/ご遊乙!を遭翼(と乙τのコンど』一タの左ク方_____._._..._,_.,_..16.  第2節コンピュータによる表現活動の存在意義____.__,______,__..__..17   1,変グ2(夕澱「感覚〆こ蕎ちノ色翻ク々ク映像表現_.__99_.9,.,_.,____,.__..._.σ『_,.17.  第3節コンピュータによる表現領域の変化._..___._。_____._.______,.,18   1.イメージの厚編¢e,_.__一一_999一,....一_...,_,.一_.、_,_。一____。,、.一_._一_,_.18.   2.惹=笏ξ的置堺の樟蘂という硬赫.,_____9_._._..___._____.,_,_.,_.σ_,19.  第4節素材や場との触れ合いを大切にする活動とその接点__._.__.____._..20   1.テニと協の発蓄4詳…盤を考」雷した菱i盟涯動の!方向.,_,..,_._,.,,._._.._._.._,,._._20.   2、逡形遊び2の衡わ久_.,__,_一_._._,_.一____,__,_.,_._.__,_._,_,.21.

(3)   3..美:訪「霧乏育画の児直’し.._.,_。_,__,._.._.._._._,_._,._._,_,..._,__.._._..22.   4.霧ゲしい表舅∼葎タ野の,方/房_,._.、_._.,。._._..,__,。.._.,,_,_,__._,._。__。_...23. 第3章図画工作科における表現システムの開発理念._____._.._._____..__25  第1節図画工作におけるコンピュータ活用の可能性,.._..___...______。___.25   1.表現の新しいメディアどしてのコンど強一タ房房一.._,._._,_.,_,._.__._。__25.  第2節求められる図画工作科における表現のためのソフト____.__._____._..,26   −Z.云云莱:の表:i男ノブみ6ク功讃‘(と/鞭点...,.....g...._.g...,g,..._,..._,_,.,.,.._,,.....,._..._,26.   2.イ1ンターフェィンぐ〆こついで_._,._,_.._.__,.__..__._._.._,_,_._,_.._,...27.  第3節現代コンピュータアートの表現方法からの導入_._.....__..._._____,__.28   1.インタラクティブ・アーん_,,_.___._._..___._._,_.__,_.._.___.__.28.   2.イン絶戸ネソみを遍0た表冤_,,__.._,__一_一_,_.,_,_._.______,_31.  第4節新しい表現システムの視点___.__...__.____.______...____32. 第4章表現ソフトの設計と教育的利用.______.____.__..______..__35  第1節開発の理念______.____._._.____.__.__.__.__。__.__..35   エ.シヌテ.ム易ゲ発6ク≠ヲ的.、,、.。.._..g。p_.,.._..9._......,.._,,.._,g.。...._.._,.....g........._.35.   2.襯:馨シ:ステ.ムの涯ノ汐笏面_._.,。__、__.__,__,.__,_,_._.,._._._.___.36.  第2節開発システムの内容._.._.___,_.._.___....__.____....__..___._.36.   19醐駅戸垢,_____.______9___9___.______,______....._36   2、告発シヌテ.ム6つ轍__.__.______9_,_,__9.______,._,.,9g___,_41   3.∠謝発シヌニデ.ム6ク4皆徴..._,_,_._..。,......、._,__,...、_.__,..g.,..._,....._...__.61.  第3節開発システム利用の可能性と実践方法._..____...___.._.._._____.62.   1・6陽9を便った教材___.______,_____.______.____,_62   2.教材とその実跨__。__,____._..____.____.,___g________._64  第4節開発システムの問題点と方向性__._.___..__.._.__.._..____.._._83   エ.燗秀シヌテムの聡点_,__,.,______,..______.._._____,____83   2.本シヌテムの今凌の認暫__,.,_....._.__._._._.____._._,.._,_,_..__.85. おわりに.____.__.__._.___.__..____.._____._。_____._..__87.

(4) はじめに.  高度情報化社会、ネットワーク社会と呼ばれる今日、我々はあふれ るメディアに囲まれ生活するうちに、人間の感覚や自然の体験により 実感を通して得た価値が低下し、情報によって作られ編集された現実 に価値を見いだしたり、身体的同一性の喪失、アイデンティティの崩 壊など人間の本質に関わる問題点が現れている。.  このような情報化社会に生きる人間として、情報に埋没してしまっ たり、間接的経験にのみ依存して、自然、人間、社会との触れ合いを 避けることがないよう、獲得した情報から新しいものを創り出し伝達 するという表現力、創造力、コミュニケーションする力が必要とされ ている。.  社会の状況、人間の本質の変容とともに表現の意味づけもまた変化 している状況の中、生きる力として必要な表現力や創造力の育成に欠 かせない美術教育において、メディアを扱うコンピュータを排除して の表現活動だけでは、現代社会には対応できないのではないだろうか。. しかし、現在、美術教育の中でのコンピュータを使った実践で、実際 に使用されている表現ソフトは画用紙に絵の具というメディアを用い て制作していたものを、モニターとマウスに置き換えただけの代理表 現の道具という性格が強い。そのために、美術教育の中でのコンピュ ータはその機能や役割を充分には果たしてはいないと考える。.  そこで、コンピュータによる表現活動の意義を明らかにし、その活 動を小学校図画工作科の中で、新しい表現方法として位置づけること をひとつの目的とする。さらに、表現の新たな可能性を求めて、表現 活動システムを開発することが本研究の目的である。.  そのために、第1章ではコンピュータを中心とする情報化によって、. 変わってきた環境がもたらす人問への影響と、今日の社会を生き抜く ために必要とされる能力が創造力、表現力、コミュニケーションする カであることについて述べる。. 一1一.

(5)  続いて第2章では創造力・表現力を育成するための図画工作科にお けるコンピュータ利用の必要性と、美術教育に求められる新しいメデ ィアを使った表現要素とは何かを探る。.  そして、第3章では従来のプログラム、現在のコンピュータアート と美術教育との関連から、表現システム開発の視点について考察する。  最後に第4章では、現代社会の現状、表現活動におけるコンピュータの 特質、新しい表現システムの視点をふまえて、表現システムの開発を行い、開. 発した表現システムの構造とその利用方法について述べる。. 一2一.

(6) 第1章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 第1章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への      影響  現代社会の生活は家庭でも学校でも様々なメディアに囲まれている。. 電話、手紙、本、新聞、テレビのような在来のパーソナルメディアや マスメディアから、ファクシミリ、TVR、ビデオカメラ、ワープロ、 パソコンなどの比較的新しいメディアに至るまで、多くのメディアを 使うことによって確かに日常生活は便利で能率的になり、一方では楽 しくなった側面もある。しかし、メディアが私たちの生活へ浸透する ことの意義は、単に便利、能率、娯楽として理解してよいものだろう か。もっと多様な可能性や深刻な危険性を含んではいないだろうか。 また、どのように利用すればより人間的な生活に役立つのだろうか。. そのために私たちは何を学び、どんな条件を整えていくことが必要な のだろうか。.  本章では、現代の社会が人間に及ぼす影響についてコンピュータ利 用の側面から見直し、この社会に必要な力とは何かを考察する。. 第1節 メディア社会の罪過 1.シミュレーション社会における経験概念の変化.    今日の高度情報化社会と言われる日本において、学校の教室や企業    のオフィスに見られるコンピュータ中心の生活は日常的となり、現在    ではごく普通に、「情報社会」とまで呼ばれるようになった。コンピュ.   ータを中心とする新たなテクノロジーとメディアの進出により我々を   取り巻く日常生活は急変し、日常の現実感覚そのものが揺らぎはじめ   ている。その原因として今日の生活経験の変化があげられる。.    ボードリヤールをはじめとする社会学者は現代社会を「シミュレー    ション社会」1と定義している。シミュレーションとは模擬を意味し、.   実際に行っていないことをあたかも自分が行った行為のように思わせ    る経験である。この人工的に作り上げられた現実により構成されたシ    ミュレーション社会と言われる現代において、その経験構造は大きく. 一3一.

(7) 第1章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 分けると直接経験と間接経験の2種類に分ることができる。この経験 構造の変化が人間にいろいろな影響を与えはじめた。以前は直接経験 が多くを占めた生活環境であったが、現実と非現実の錯綜する生活(シ. ミュレーション社会)では、次第に直接経験の割合が少なくなってき た。そのことで、体験の多くは身体的な実感を伴わない実感不在の体 験になり、i擬似的・二次的体験に変化した。実感がない、個に還元し. ない感性のため観念的体験の比重が大きくなってきている。それがき っかけとなり、現代社会に生きる人間には、身体的同一性の喪失、ア イデンティティの崩壊、自己そのものの揺らぎというべき人間の本質 に関わる問題点が表れていると岡本は云う。2. 2.仮想現実的経験による錯覚     シミュレーション体験が進み、より現実に近づいたものをバーチャ    ルリアリティ(人工現実・仮想現実)的体験と呼ぶと、今日のパーチ    ャルリアリティは、今後の電子メディアの技術的発展により、より高.   度化し、人間の認識構造をも解明し自然な実感に限りなく近づくであ    ろうことは、ある程度予想できる。実際に、立体めがねをかけ見える    映像の全てが全く不自然でなく脳に認識され、その上、視点を変える    と、周囲の映像をも変化できるほど技術の進歩はめざましい。しかし、.   その技術が進めば進むほど仮想現実的経験は限りなく実感に近い幻想    であるにも関わらず、あまりにも実感に近づいたために、現実や本物    と非現実や偽物との境界を見失う恐れもある。さらに、テレビ、ラジ    オなどもマスメディアの発展により、情報によって作られ編集された.   現実に価値を見いだし、人間の感覚や自然の体験により実感を通して   得た価値が低下している今日、人間の持つ本来の感覚を失う状況にあ    ると言える。. 一4一.

(8) 第1章メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 第2節 情報化社会における価値観の変化 1.テレビによる感覚の変化    テレビが出現して40年あまりたち、我々はその間にテレビに慣れ、    テレビ的視覚に次第に同化するようになってきた。3テレビを中心とす.    るメディアに囲まれて生きる人間は、次第にテレビの中でリアリティ    を感じるようになることはそれほど特異なことではない。においやそ    の場の空気といったものがテレビでは伝達できないが、そういったも    のがなくても視覚の集中によってそうしたものをむしろ不要にする場.   合さえある。例えば、プロ野球の試合ではスタンドからの視野と同時    に、ジャンボスクリーンに映し出された画面を見ることはあたりまえ   で、これがかえって現実感や臨場感を持つ装置として成立している。.   間近に見られないということもあるがモニターの方が何か自分に近い    ようなものに感じるところがある。また、小劇場などの舞台と観客と.    の座席の距離がこの10年間に少しずつ開いてきているという事実か    ら、目の前にある実体との直接性よりもモニターやスクリーンを通し.   た、あるいは少し距離をおくことによってのテレビカメラ的視覚の方   が普通の感覚に近くなってきたのではないだろうか。そして、現代の   人間は、直接にものを見て感じ取っていた時代に比べ、テレビカメラ   的視覚感覚が個々の身体に内在化しつつあると考えられる。. 2.メディア・ネットワーク社会に生きる能力    我々は自分自身の生身の身体感覚を通して世界と触れ合うことでよ    り確かなリアリティを感じる。例えば暑い夏の風や土の匂い、喉を通    っていく水の感覚などがそうである。ものに触れたり触ったりすると    いうことは、単なる接触ではなく、精神とものの生命との内的な交流    である。4つまり、触覚が他の諸感覚を先導するもっとも重要な感覚と    して考えられていた。しかし、そのような状況に変化が起きてきた。.    身体と世界との間に次々とメディアが介入し続け、それまでの身体と    世界のつながりが、身体は情報が通過していくメディア・ネットワー    ク上の連結点にすぎないような概念図ができはじめてきたのである。. 一5一.

(9) 第1章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. そのような今日的状況の中で、我々が生きていく能力としては直接的 経験だけでは不十分であると考えられる。つまり、生身の身体感覚を 通した触れ合いが確かなリアリティを生む時代もあったが、機械化の 進んだ工業化社会、ついで、電子化による情報化社会においては、身 体感覚(目で見、手で触れる)と自然とのダイレクトな関係だけが現 実を作っていると考えるのは不十分である。現代社会を生き抜くため には、メディアを通した感覚や感情体験として把握できる能力も必要 となってくる。. 第3節 学校教育へのコンピュータ導入の問題点とその対処.       /. 1.シンボル操作の得意な現代の子ども像    前節のような社会状況に生きる子どもはメディアの情報量が増大し    たことで、集められたがらくたでプリコラージュするよりもファミコ    ンやコンピュータで操作する中によりリアリティが存在する。5つまり、.   言い換えると子どもの遊びが実際のものを使った操作から、シンボル   操作へと変化しているのである。テレビゲームの特徴は、付加、除去、.   転換から操作は任意で、一瞬である。それに対して、生活の中で早い   たり作ったりする行為は、ものとの触れ合い、交流を通して行われる。    また、現代の子どもたちには接触感覚・触覚がないといわれている。.    しかし、それは経験不足が原因ではなく、現代社会が触覚感覚を失わ.   せるような機会を増加しているからである。確かに、実存の操作は大   切であるが、今日の状況から見ると直接経験が不足してしまうのは否   めない。このような状況の中で生活している子どもたちにとって、メ   ディアを通した活動にも対応できる能力が必要である。.    そこで、実際のものを使った操作ではなく、シンボル操作の得意な   現代の子どもであるからこそ、シンボル操作をとおして、実際の操作   では経験できない伝達表現行為を考えることに目を向けさせることが   できるのではないかと考える。. 一6一.

(10) 第1章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 2.コンピュータ利用の危険性     メディアを通した感情体験やシンボル操作は今日の社会には必要で    あるが、その際使用するコンピュータには影の部分も多く見受けられ    る。以下に、コンピュータ利用の危険性をあげる。    ・コンピュータの操作自体が新たな学習差になる。    ・浮遊したイメージの世界に閉じこもりがちである。    ・具体的なものの質といった情報に対して疎くなる。    ・生命といったものに対する実感が薄れる。.    ・突発的要因の伴う生きた人間とのコミュニケーションが損なわれる。    ・電磁波への人体への影響    ・人間やものを機械に隷属する側に置く。.    ・充実感に富む主体的活動の場を奪い、さらに生きることの本質を無    価値化するクールな眼や虚無的な態度を培う恐れがある。.    ・人間の原初的な身体機能や感覚・知覚能力の発揮を抑制する面があ     る。.    ・体感的感覚が減退し、間接的知覚器官である眼が、あらゆる事物に.    対して知りたがる欲望器官として発達する。このことで、実質的側    面には興味を示さず、表面的外観的特質だけを捉える傾向にある。     (視覚の優位).    ・眼前の対象の生きた状態を共感的、感情移入的に捉える視力、生命.    の尊厳や自然の神秘的情緒や人間の人格、存在価値、魂、超越者と    いった見えなき本質を見る視力が弱まってくる。.  コンピュータ利用について佐伯は以下のように述べている。「コンピ. ュータはしてくれる機械の代表として導入されると恐ろしいことにな る。ものとの接触をどんどんはなれて、ただ架空の世界のルールにの っていることになる。そういうときに私たちはどういう傾向が現れて くるかというと、手続き化、ステップ化というものごとのルールや手 続きでものを運ぼうとする。こういうことが、コンピュータ導入で助 長されることが危険なことである」. 一7一.

(11) 第1章メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響.  コンピュータは確かにいろいろなことに使用でき、使い方によって は人間の活動や発想を手助けするが、すべて、人間が主体となった場 合である。コンピュータを全てと考えず、ひとつの道具として位置づ けることが、危険性を少しでも少なくする方法である。. 3.従来の道具と比べたコンピュータの性質     コンピュータのあり方を考えるときインターフェイス(接面)に着    眼点を置くと、次のように考えられる。人間が手でものを作っていた    ときには、手がものとの接面であり、力が伝わったり働きかけをした    りし、それに応じてものが手を通して人間へと情報を返してきた。道    具を使うようになると、接面は手から先への道具へと移っていくが、    それは、体の一部として感じることのできる範囲であった。しかし、.    道具の発達により、因果関係力学関係のつながりのある道具から、触    っていることが体感できないものへと移行していった。そこでは、接    面から反響が返ってこない世界である。コンピュータの中のボタンー    つでの操作は現実世界になにが起こっているのか、接面の存在すら薄    れてくる。自分の存在感もなくなり情報だけが伝わってしまい、コン    ビュータのプログラムにしたがって、ボタンが押され、コントロール    される。コンピュータは具体的なものと接していく機械ではなく、そ    のことを命令する機械である。よって、ものとの接触から離れ架空の    世界のルールや手続きが重要な傾向にある。そこで、人間が実感を持    つ、調整がきく、自分が世界と接しているという感覚を持つアナログ    的情報処理が一方にあり、他方で計画して吟味して進めていく媒体と    してのコンピュータの存在がある。6.     また、コンピュータの進歩は著しく、文字や数値しか扱えないコン    ビュータは処理速度を早く効率的に進める機械でしかあり得ない。コ    ンピュータの真の意義は、時間軸を持たない文字や数値データではな    く、時間軸を持ったデータを個人でも処理できるものである。今やコ    ンピュータは表現のメディア・テクノロジーである。. 一8一.

(12) 第室章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 図1ものと人間との接面. 従来. コンピュータ. 人間. 人間. コンピュータ. もの. もの. 第4節 メディア社会に生きる力としての方向 1.表現・創作活動の重要性とその課題    情報化社会、シミュレーション社会においては、あふれる情報の中   で我々の生活が間接経験にのみ依存してきたり、仮想的現実の中で自   分を見失う状況にある。そのような社会では直接経験により実感を取    り戻すことも大切ではあるが、、あふれる情報の中では全てを直接体験.   することはできず、間接的経験の領域を無視できない現状にある。事   実、今日の人間の能力に、テレビ的視野とも言えるメディアを通した    目を持ちそれらを通した感情移入ができるという、古代の人間にはな    かった能力が備わりつつあるのではないかと考えられる。子どもに目    を向けても、その活動が実物ではなくシンボルを扱う操作が得意な傾    向からも同様のことが言えるのではないだろうか。.    では、このような社会の状況、人間の能力の変化から、今必要とさ.   れる能力とは何なのであろうか。情報に埋没してしまったり、間接的   経験にのみ依存して、自然、人間、社会との触れ合いを避けることが    ないよう、獲得した情報から新しいものを創り出し伝達するという表. 一9一.

(13) 第1章 メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 現力、創造力、コミュニケーションする力がこれまで以上に必要とさ れている。つまり、表現力創造力育成の美術教育は、このような状況 であるからこそより重要になってくる。しかも、情報の多くがデジタ ル化されつつある現状で、情報の多くを操作し編集し、表現できるコ ンピュータを抜きに表現活動を考えることはできないであろう。確か に、コンピュータを扱うことには多くの留意点を残しているし、その 使い方次第では、人間の能力をつぶしかねない機械ともなる。しかし、. 今後、表現活動をさらに活発にし今日的状況の中で、生き抜くカを身 につけていくためにコンピュータは多くの可能性を秘めていると思わ れる。. 一10一.

(14) 第1章メディア社会における人間性の変容と学校教育への影響. 〈注記> 1J.ボードリヤール著竹原あき子訳「シミュラークルとシミュレーション」法政大学出版局、.  1984P.17 2岡本康明「つくることの所在とその行方」基礎造形教育研究会論文、1996. 3同上 4福山博光「メディアと人間一環境の非物質とコミュニケーションー」論文、1996. 5諏訪善英他「コンピュータ時代と子どもの発達」大,月書店1987P.54. 6同上(佐伯絆対談)P.27. 〈参考文献〉 水越敏行、佐伯腓「変わるメディアと教育のあり方」ミネグァ書房1996. 佐伯腓「新・コンピュータと教育」岩波書店1997 中島義明「メディアに学ぶ心理学」有斐閣ブックス1996. 一ll一.

(15) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. 第2章図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性  前章において、メディア社会に生きる力として表現・創造活動の重 要性を述べてきた。また、コンピュータを使用することは、多くの危 険性を持っているが、同時に現代の社会おいて充分価値のあることも 述べた。そこで、本章では、表現力・創造力の育成にかかせない美術 教育、特に小学校図画工作においてコンピュータを利用することの必 要性について述べる。. 第1節 従来の表現メディアとコンピュータの比較 ユ.平面、立体.コンピュータ.     現行の小学校学習指導要領・図画工作科1の内容構成は前回(昭和5.    2年)より「A表現」「B鑑賞」に整理統合された。その中の表現の内    容構成については以下のようになっている。. 第1・2学年. (1)材料をもとにした造形遊び i2)表したいことを絵や立体に表す i3)つくりたいものをつくる. 第3・4学年. (D材料をもとにした造形遊び、 i2)表したいことを絵や立体に表す i3)つくりたいものをつくる. 第5・6学年. (1)表したいことを絵で表す i2)表したいことを立体に表す(材料からの発想) i3)つくりたいものをつくる(材料からの発想).  昭和43年度版以前の内容の絵画・彫塑・デザイン・工芸・鑑賞は 現行中学校学習指導要領・美術科の内容となっている。.  ここで、コンピュータを使った表現を従来の表現方法と比較する場 合の視点を表現に使われるメディアにおき以下に述べる。.  小学校では絵で表すために画用紙をはじめとする紙を支持体に選択. 一12一.

(16) 第2章図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. することが多く、描画材として、鉛筆、色鉛筆、クレパス、パス、コ ンテ、墨汁、水彩絵の具、水性ペン、マジックインクなどがあげられ る。また、立体においてその主材料と加工するための道具は、粘土、. 石膏、石、木、段ボール、粘土べら、鋸、はさみ、カッターナイフな どである。これらをコンピュータと比較したものが次の表である。. 一13一.

(17)                第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. (1)平面表現とコンピュータ・グラフィックス(2次元)の比較  図2平面表現とコンピュータ 比較視点. 従来の表現メディア. コンピュータ. ● 手の微妙な動きで線画. ● 線画はマウスやタブレッ トペンを使うので表現が. や面描ができる。. ● 自分の描こうとしたも. 描   画. のが即座に現れるた め、活動がしゃすい。. 大きくなる。. ● 実際の手先の動きが描画 に直接伝わらないので活 動しにくい。. ● 色数が12∼24色の. 色. ● 色数は1677万色と多. ものが中心である。. いが混色は光の3革色で. ● 混色をパレットや、支 持体の上でしゃすい。. 行ったり、グラデーショ ンパレットの中から選択. また、にじみ、ぼかし、. する方法が採られる。. 筆あとなどの効果は意 図したものが表現しや. ● 画面上での混色や重色の. すい。. ● 支持体自らが発光して色. ● 光の反射によってその ものの光を人間が意識. 効果は少ない。 を出す。. する。 ●. ● 実話を使っての表現活 動なので、それぞれの 道具の特質を生かすこ とができる。また、道 種   類 具の特徴に慣れること. なる。道具の種類は多く、. で自在に使いこなせ. その効果が大きいが、使 い方を習得するのに時間. る。. がかかる。. ● 消すことは基本的に不 可能であり、上から重 ねて塗ることで、ある. 修   正. ● 実材の道具はマウスやタ ブレットペンであるが、 それらが多様な道具へと. 程度修正できる。. ● 画面上での構成は描き. はじめると固定され る。. ● 線描、面描ともに修正が. 可能である。全脳鞘す だけでなく、色を変える ことや、前に行った活動 を戻ってやり直しができ る。. ● 制作の途中で、構成を自 由に変えられる。. 加    工. ● 描いたものを切り取っ たり、張り付けたりす. ● 描いたものをコピーした り、変形したりできる。. る方法がある 2. 一14一.

(18) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. (2)立体表現とコンピュータ・グラフィックス(3次元)の比較  図3立体表現とコンピュータ 比較視点. 従来の表現メディア. コンピュータ. ● 手で直接粘土などを触 り、思うままに変形で. ● マウスを使って変形させ たり、数値の入力など直. きる。. ● 素材の性質により、道 具を使い分ける必要が ある。. 制   作. 接変形させることはな い。. ● 素材の性質はコンビュー タ上で自由に変えられる ので、すべてのものを同 カ方法で操作できる。. ● 素材の強度など、不可 能な形がある。. ● 重力からの束縛を受け るので、全体の形が制 限される。. ● 素材の持つ性質は可変性 があるので形に制限はな い。. ● 重力を考慮に入れずに自 由に形づくることができ. ● 素材の重量感、質感を 直接触れながら操作す. ● 直接触れることはなく視. るので実感できる。. 覚に頼るだけである。. ● さまざまな道具の使い 方を習得し、それらを 道   具 使う場合に、力が必要. る。. ● 道具(ツール)の使い方 を習得し、力は必要ない。. になる。. 視   点. 修   正. ● 外側からの視点は自由 でその方向からも見る ことができる。. ● 粘土などは形を自由に 修正できるが、木や石 のように削ったりして 加工したものは修正し. ● 外側だけではなく、素材 の内側に入り込んだ視点 の設定も可能となる。. ● すべてのものを元に返す ことができるほか、変形 させた操作を取り消しが できる。. にくい。. ● くっつけたりする場 ● 素材の持つ特質に制限さ 合、素材の材質や形、. れるようなことはない。. 重さ、大きさから不可 ● 同じものを即座にいくつ 加   工. 能な場合もある。. ● 表面に色を塗る場合、. 表面の材質により、制 限がある。. でもコピーして作れる。. ● 形の変形(大小・二二な ど)自由である。 ● 表面に自由に描ける。. 一15一.

(19) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. (3)平面・立体表現とコンピュータ・グラフィックス(3次元)の比較  図4平面・立体とコンピュータ 比較視点. 従来の表現メディア. コンピュータ. イメージ. ● 表現活動に入る前に比 較的完成のイメージを 持ってから取りかかる. ● 活動途中で完成イメージ を変化していくことも可 能なので、取りかかる際. ことが多い。.          フ完成イメージは朋確で   ≧. なくても良い。. ● 素材そのものを追求し ていく。また、表現技 活動中の 意識. 術に対する意識が強 い。. ● やり直しが簡単にできる ため、試行錯誤しながら 表現活動でき、図形の大 きさ、形、色、配置など の意味的操作に意識が向 けられることが多い。. 制作活動の 過程. 素材. ● 制作の順序などの過程 は個人の記憶による。. ● 制作段階の表現の操作や 変化を明確に記憶でき、 再現できる。. ● 素材と直接触れあうこ とから、イメージを持  つことができる。. 怐@素材の持つ特性から必 然的な形をイメージす. ● 素材に直接触れることは ないので、操作する中か ら素材の持つ特質に触れ Cメージを持つ。. る。. 2.図画工作科に適した道具としてのコンピュータの在り方    絵を描くための画材や道具には上記でも述べた以外に、エアブラシ、.   ポスターカラーなどたくさんあるが、その中で、コンピュータを使っ.   た表現CG(コンピュータ・グラフィックス)はTVのCMをはじめ   我々日常生活の中で最近多く見られるようになった。一般的にCGと    いうと幾何学的な絵であったり、あるいは非常にリアルな画像の印象.   が強いが、CGとはあくまでドットで構成された表現媒体であり、さ    まざまな絵を表現することができる。しかし、表示することはできて.    も、実際の画材の代わりになるわけではない。CGはCGとしての使   い方がある。. 一16一.

(20) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性.  最近のコンピュータは画面を描くことが高速に、高密度にできるよ うになった。以前のコンピュータは計算結果を早くわかりやすく表示 するものであったが、映像を扱うには処理能力が低すぎたのである。. その後、コンピュータの性能が上がるにつれ、一度に扱えるデータの 量も増え、ディスプレイも細かい単位で表示ができ、さらにカラーの. 表現までできるようになってきた。1枚の絵に沢山の情報を盛り込め るようになったため、それだけ表現の幅が広がったのだ。.  それまでコンピュータの在り方が、命令系統によってやってくれる もの(プログラミング中心)から、具体的な作業の対応として即座に. 目の前に現れるもの(インタラクティブ)に変わり、CGがエンジニ アのものから、多くの人のものになった。つまり、初期のCGは、コ ンピュータがある程度までの表現をしてくれるが、人間の表現したい ものをコンピュータが再現できない環境にあったので、ある一定のレ. ベルのCGは誰でもが表現することができた。それがCGの能力が上 がり、表現に作る人の才能が反映されるようになった。3.  つまり、図画工作科の中でのコンピュータの在り方とは、ある程度 の表現はコンピュータが補助しながら、一人一人制個性を表現できる ものでなければならない。.  さらにその内容は、ペンをマウスに置き換えただけのものではなく、. CGだからこそ表現できるものとしてコンピュータを使用することが 重要になってくる。. 第2節 コンピュータによる表現活動の存在意義 1.変化と速度感覚に満ちた運動的映像表現     表現活動時の表現者の意識から、従来の表現と比較した場合のコン    ビュータを使うことのメリットは以下の2点である。     ①表現の自由度(取り消し可能).     ②画面合成による描画能力の劣等感排除.     つまり、コンピュータを使った表現活動の特徴には従来の表現活動. 一17一.

(21) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. にくらべ、活動内での動的変化があげられる。それは、絵画表現にお いては、モチーフの色・形態・様式・数の自由な変容や、視点の変化、. 日常経験しない視覚像・フラクタル図形・仮想の生き物や風景描写で. あり、立体的3次元表現では、重力など現実の世界からの規制を排除 した夢幻的映像である。そして、それらが、瞬時に取り消されたり、. 繰り返されたりしながら表現活動が展開されるのである。また、表現 したものが、次の瞬間からは、時間軸を持ち動かすことが容易にでき ることも、大きな特徴である。上山も造形表現の特徴として、「非時間. 軸性が取り上げられることが多い中で、表現活動の側面を注視する際 に時間軸の視点が重要になってくる」と述べている。4.  変化と速度感覚に満ちた運動的映像表現、これは、今までの図画工 作科の授業ではそれほど多くは経験できなかった造形活動の形態であ. り、この特徴を生かすことが、CGを利用した表現の存在意義の一つ である。. 第3節 コンピュータによる表現領域の変化 1.イメージの再編成     イメージがあふれた現在の子どもたちの生活環境から表現活動を考    えると、イメージの再構成が子どもの生活を反映した自然な表現活動    であると言える。表現活動には、新たなものを作り出すという大切な    要素もあるが、コンピュータによる、表現領域は、新たなものを作り    出す活動には、現段階では向いていないと考える。その理由そして、.    マウスなどを使った入力が、表現者の意図を的確に伝える道具として    発達していないということ、また、表現者の行為の反応が粘土をこね    たときのように返ってこないことがあげられる。コンピュータは、人    間の脳のイメージを映し出す黒板のように、そこでは絶えずイメージ    画像が変化を繰り返していくもの5と考えると、そのイメージを断片的    に再構成し、自分の好みにあったイメージを作り出すことがコンピュ    ータの持つ表現領域であろう。. 一18一.

(22) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. 図5イメージの広がりについて. イメージの世界. 未知の世界. 将来の生活. 子ども. 毎日の生活. 過去の経験. 学習、. 感覚教材の提示 現実的実感の世界. 2.意味的世界の構築という領域.    コンピュータを使ってイメージを加工、編集、関係をコントロール   するということは、物質を直接扱う操作(現実的世界)とは根本的に   異なるものである。その作業は、単に既成のイメージをいいかげんに.   継ぎ合わせるといったものではなく、切り取ってきたイメージを慎重    に吟味し、丁寧に加工し、それぞれのイメージどうしの関係を読みと    り、それらの関係を微妙にコントロールするというコンピュータの画.   像の処理は意味的世界の領域である。上山はコンピュータを使い中学   生にコラージュを実験さて、その反応を下記のように述べている。「コ    ンピュータによるコラージュは、実際のコラージュでも絵を描くこと.   でもなく、映像の制作に近く、さらにはテレビコマーシャルでも作っ   ているような感じだった」6.    つまり、写真はそのままでは、単なる映像を映し出したものにすぎ   ないが、それを、スキャニングしディスプレイに映し出された時点か    ら、映像を映した写真が、データになるのである。言い換えると、こ.   の画像を自分で自在に扱える世界に入り込めるということである。デ   ータが電子化されることで、これまでの表現が思うままに操作できる   ようになるこの世界において、イメージをも自在に操れることから、. 一19一.

(23) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. これまで以上に、画面に表現するものの意味を考える機会を増やすこ とが可能となる。.  また、実在を意図的に操作する表現活動では、どうしても、手先の 器用さ、道具の使い方の技術が求められる。これでは、いわゆる器用 でない子どもたちは、何らかのイメージを抱いていても表現技術を前 に絶望してしまう。もちろん、実在を扱う表現活動が軽視されるべき ではないが、イメージを扱う活動もこれからの、美術教育に中に必要 となると考える。. 第4節 素材や場との触れ合いを大切にする活動とその接点 1.子どもの発達特性を考慮した表現活動の方向.     小学校の児童(6∼12歳)の発達課題は、いかに自己中心的な見    方から客観的な見方へと変容していくかである。素材や場との触れ合    いを操作という観点から見ると、子どもの発達特性がより明確になつ    てくる。ピアジェの発達の過程を例に小学生段階の子どもの表現に関    わる特徴は下記のようになる。.  (1)学年別特徴    小学校低学年(前操作的表象の時期:後期)      ・表象は知覚または自己の運動と結びついて形成される。.      (空間構成ができるようになり、道の行き帰りなどで、左右の木々      の配置が混乱しなくなる)      ・簡単な分類、系列化はできる。. 小学校中学年(具体的操作の時期:前半)   ・簡単な操作はできるが、体積の保存はない。. 小学校高学年(具体的操作の時期=後半)   ・特に空間や時間の領域での操作の全体的構造が一応形成される。. 一20一.

(24) 第2章図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. (2)発達項目の特徴.   ●思考が知覚に支配される.    小学校低学年から中学年にかけては、思考が知覚に支配される時   期である。直感的思考では、思考が知覚と切りはなされておらず、.   思考と知覚とが対立した結論へと導くような状況では、常に知覚が   優位になるという特質がある。これに対して、具体的操作では、具   体的な現実と思考が結びついてはいるものの、対象の見え方や、知   覚され方によって思考がゆがめられてしまうということはなくなる。.   ●思考と活動が未分化である.    この段階では思考が心内活動という形をとるという点である。つ   まり、実際にやってみる代わりに、それを心の中で表象するという   のがこの段階での思考である。だから、活動の場合と同じように、.   直感的思考には論理的な首尾一貫性はないし、完全な可逆性に欠け   ている。.    中学年からは、長さ、距離、連続量、不連続量などすべての領域   に対して明確な形として現れるようになる。しかし、具体的内容か   らは分離されない。つまり、この時期では、実物またはそれの変形   である具体的内容がない場合は理解が困難である。.    このことから、ものを直接に扱わないコンピュータの操作やその.   中での平面表現(2D)や立体表現(3D)においての取り扱いに   は子どもの発達段階を充分に考慮しなければならないことがわかる。. 2.造形遊びとの関わり     近年、文化として出来上がっている美術に慣れ親しませるのではな    く、人間に本来備わっている感応する力を、物や素材、環境との触れ    合いの中で改めて呼び起こそうとする動きから、造形遊びが小学校図    画工作科の中に現れた。形あるものを創り出す以前に身体全体での触    れ合いを重視するのであり、その中での直接体験によって、子どもた    ちの中に存在する感性を覚醒していくものである。また、活動の過程    は作品にすることが唯一の目的とするものではなく、行きつ戻りつし. 一21一.

(25) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. ながら進む活動となる。反復的、螺旋的な活動過程も子どもの表現の ありようとして積極的に認めようとしている。このような美術ジャン ルの共存的な表現や試行錯誤の過程を積極的に許容するのも、一人一 人の資質や能力が発揮される機会を保障するという考えからである7。. 最初から、表すもの、作るものを確定するのではなく、素材や場との 遭遇がもたらすものを大切にし、素材の形状や質感・存在感がイメー ジを呼び起こすこの活動は、コンピュータを使った意味的世界の操作 に結びつくものと言える。. 3.美術教育の見直し    美術教育は個人の表現活動でもあるが、同時に表現メディアを通じ    た、他人とのコミュニケーションでもある。表現者(発信者)は表現    メディアを通して鑑賞者(受信者)と接点を持つのであるが、ここで、.    メディアを通した解読のコミュニケーションが重要になってくる。そ    れは言い換えると、イメージを紡ぎ出す人間の力こそがこれからの社.   会に必要な能力であるということである。脳内でのイメージ形成の仕   組みは、抽象的な命題の形(記号や式のような表現)の表象しかない    とする「命題派」と実際に絵が作られているとする「イメージ派」の   両者が組み合わされているという考えに現在至っている。脳の中で「外   界からの入力」である視知覚と、 「内からの出力」である記憶や想像    のイメージ生成が、同一のスクリーン上で行われている。8つまり、表.   現活動をすることと同時に、このイメージを活発にする活動を取り入   れることで、表現メディアを通したコミュニケーションをする力を身    につけさせることができると考えられる。.    社会生活や人間の本質の変容とともに表現の仕方、意味づけもまた.   変化している状況の中、生きる力として必要な表現力や創造力の育成    に書かせない美術教育において、メディアを扱うコンピュータを排除    しての表現活動だけでは、現代社会に対応できない。ここに、小学校    図画工作科の中にもコンピュータを利用する必要性がある。. 一22一.

(26) 第2章 図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. 4.新しい表現活動の方向     上記で述べたように、コンピュータという新しい表現メディアを使    用することで、より効果的に育成できる造形要素について考察する。.     まず、コンピュータの特性上から考えると、表現したものを編集加    工することがより簡単にできる。視点の変化が自由にでき、表現に時    間軸を加えた動きのある表現ができる。ものを新たに作り出すよりも、.    今あるものを再構成することに向いている。重力やものの属性を考え    ずに表現ができるなどがあげられる。これらの特性を生かすことで、    図画工作としての意味のある教材の視点を以下のように考えた。    図6コンピュータを利用した美術教育の視点. ①造形性を高めるもの   ・光や色に関する表現の多様さに気づいたり、物質の特質に目   を向けたりしながら、表現や遊びを通して造形活動に関心を持   つ。. ②行為の中に造形要素をふくむもの   ・感じたことや思ったことの表し方をいろいろと試し、偶然   性、連続性などにより、表し方の発想を広げ、表現することを   楽しむ。. ③イメージを広げるもの   ・頭の中のイメージをモニタの中でいろいろと操作すること   で、より多彩なイメージが持てるような活動をし、自分のイメ   ージを明確にし、表現できるようにする。. ④機能を生かした創造をするもの   ・コンピュータの持っている機能を使うことで、条件や問題解   決の過程を取り入れ、遊ぶもの楽しめるものをつくり、コミュ   ニケーションを広げる活動に発展させる。. 一23一.

(27) 第2章図画工作科におけるコンピュータ利用の必要性. <注記>. 1文部省「小学校指導書図画工作編(平成元年6月)」開隆堂出版1989 2高木久人「コンピュータ・グラフィックスの美術教育への利用」兵庫教育大学修士論文.  1995 3深川鳥緒「コンピュータグラフィックスのすべて」オーム社1994P.20. 4上山浩「CG表現と時間軸」論文、1994 5久保正敏「マルチメディア時代の起点」日本放送出版協会1996P.36 6柴田和豊編「メディア時代の美術教育」国土社1993P.120. 7花篤實、竹内博、東山明編著「美術教育の理念と創造」黎明書房1994P.187 8久保正敏「マルチメディア時代の起点」日本放送出版協会1996P.40. 〈参考文献〉. 宮脇理監「新版美術教育の基礎知識」建三社1991 波多野完治「ピアジェの発達心理学」国土祉1965 水越敏行「メディアを生かす先生」図書文化1990. 中谷洋平藤本浩一編「美と造形の心理学」北大路書房1993 園田正治「子どもの絵と大脳のはたらき」黎明書房1987 野呂影勇「現代のエスプリーバーチャルリアリティー」至文堂1996. 一24一.

(28) 第3章図画工作科における表現システムの開発理念. 第3章 図画工作科における表現システムの開発理念  前章において図画工作科の中にコンピュータを利用することの必要 性について述べてきた。では、実際の授業ではどのようにコンピュー タが利用されているかといえば、使用されている表現ソフトは画用紙 に絵の具というメディアをモニターとマウスに置き換えただけの代理 表現の道具という性格が強い。そのため、美術教育の中で培うべき、. 生きる力の育成のためにコンピュータはその機能や役割を充分には果 たしていない。そこで、本章ではコンピュータによる表現活動の意義 を明らかにし、今後必要とされる表現システムの方向について述べる。. 第1節 図画工作におけるコンピュータ活用の可能性 1.表現の新しいメディアとしてのコンピュータ活用    表現メディアにコンピュータを活用することで、人間の記憶回路に   ないような光景や人間の弁別能力を大きく越える色相や形状を取り扱    うことができ、その結果として子どもたちの表現に対する親しみを増.   すことが可能であると考える。CGの空間造形は箱庭や舞台装置のよう   なものであるが、テレビのように一方向的な受動的活動ではなく子ど   もが、手を差し入れることができる双方向の相互発信受信活動なので   ある。.    実材を意図的に操作する表現活動は手先の器用さを必要とする。そ   れに対して、CGは物質からの属性から解き放たれたイメージがある。   コンピュータはいろいろな表現方法の代わりとしての立場にいては、.   いつまでも、代わりでしかあり得ない。代わりのものは決して本物に   はなれないのである。コンピュータを新しいメディアとして考えてこ   そ、その性能を発揮し、今までの表現活動で経験できなかった活動が   できたり、身につけられなかった能力や技術を養うことができると思   われる。その際、作品はディスプレイの中の表示であり、それをプリ   ンタで印刷したものではない。. 一25一.

(29) 第3章 図画工作科における表現システムの開発理念. 第2節 求められる図画工作科における表現のためのソフト 1.従来の表現ソフトの功績と問題点    従来の表現ソフトを使った図画工作科授業での子どもの反応を高木   は以下のようにまとめている。.    児童は従来の描画材での表現よりCGでの表現を好む傾向にある。こ   の傾向は、CGによる表現の方が、①描画材や表現技法の選択肢が多い。.   ②発色がよく色が選べる。③簡単に消したり塗り直したりできる。と   いう理由をあげている。1    また、藤本は図画工作科におけるコンピュータ導入に関する児童の   意識調査より、下記の内容がコンピュータ導入による表現活動でのプ   ラス面であると述べている。①自分で満足できる色をぬることができ   る。②楽しく学習できる。③興味を持って作ることができる。④自分の.   かきたいもの、つくりたいものを表すことができる。⑤友達と仲良く   つくることができる。⑥自分だけの工夫ができる。⑦つくるときにい   ろいろ想像ができる。⑧友だちのつくったものを見て良いと感じる。2.    さらに、学習遍歴がとれることで、作品づくりにおいて、子どもた   ちは自分自身の過去にさかのぼって見直すことができ、さらにグルー   プ内で作品歴の相互参照ができる。教師にとっては鑑賞しながら評価   をし、作品主義に陥ることなく子どもたちの表現活動途中での発想・   構想や指導錯誤の様子が確認・評価できる。.    問題点として、コミュニケーションや、実際にものと関わる体験を   さらに希薄にしてしまうことがあげられる。.    また、市販の表現ソフトの多くは、発達段階に応じた機能の増減が   できず、小学生という成長度合いの大きな範囲の中では、すべてに対   応できるものではない。また、出来上がった作品をプリンタで印刷出   力することが多く、展示の仕方もせっかくのコンピュータの汎用性と   いう性能が活かされていない。さらに、これから普及してくるであろ.   う3Dグラフィックスやアニメーションを扱うための表現ソフトは、. 一26一.

(30) 第3章 図画工作科における表現システムの開発理念. プロ用のものがほとんどで、機能があまりに多く使いこなすことがで きないなどの短所がある。. 2.インターフェイスについて     インタフェース(interface)とは、2つの異なった世界が触れ合う    ところに発生する面の意である。元来が化学の領域の用語である。異.    なる2つの物質が触れ合う面ということで「界面」という訳語が与え    られ、界面化学、界面活性剤、界面張力などとして使われていた。こ    れから、派生して、人と道具・機械との接点、道具・機械と対象との    接点を意味するものとして、使われるようになってきた。インターフ    ェイスが接面と呼ばれることもあるが、人間とコンピュータのインタ    ーフェイス(接面)をユーザ・インタフェース、マン・マシン・イン    タフエース、ヒューマン・インタフェース、マン・コンピュータ・イ    ンタラクションなどと呼ぶ。3人間と機械とを結ぶヒューマン・マシン・.    インターフェイス(Human・Machine−lnterface,HMI)はさらに、物理.    的インターフェイス(ディスプレイの色やサイズ、キーボードのキー    配列やマウスの形状のような、人間とコンピュータが直接接する物理    的接面)と認知的インターフェイス(人間がコンピュータから情報を    受け:取って理解、判断する認知過程や思考過程とマシン内部における.    情報処理などの認知的側面)に分けられる。4コンピュータの使いやす.    さはこのインターフェイスに大きく左右されるが、ソフトの使いやす    さはさらに、認知的インターフェイスに関わるものである。.    では、どのようなインターフェイスが望ましいものなのかを以下に   述べる。     メンタルモデルとデザインモデルの不一致を防ぐ有効な手段のひと    っに、長期記憶に蓄積された情報や知識を積極的に活用する方法、す    なわち、未知の対象を利用者の慣れ親しんだ既知の対象に例えてやる.   方法が考えられた。現実世界あるいはその一部をコンピュータ上に構   築し、鉛筆は書くためのもの、消しゴムは消去のための道具であり、. 一27一.

(31) 第3章 図画工作科における表現システムの開発理念. ボタンは押せばよい、つまみは回せばよい、というような実生活と同 じに操作できるようにするのである。GUI(Graphical User Interface). は、ウィンドウシステムを基盤として、現実世界をコンピュータ上に 模倣し、画面上に図的に表示したオブジェクト(object,対象、対象物). をマウスなどを使って直接操作できるようにしたHMI技術である。こ こで、たとえや模倣することをメタファ(metaphor,暗喩、隠喩)と呼. び、書棚やキャビネット、社内便の発信箱・受信箱などを配備したオ フィスメタファ、机上の作業環境を模倣したデスクトップメタファが 知られている。ボタンを押すための手が画面上に出てきたり、画面上 のスイッチが本物のようにオンに入ったりするものもある。これを押 し進めたのが立体視やそれを応用した仮想現実感である。.  吉田はShneidermanが提唱した直接操作の重要性を述べ、その操作 方の条件を次のように述べている「①関連するオブジエクトが常に画 面上に表示されていること。②決められた形式に従って命令(コマン ド)を入力するのではなく、マウスの移動のような物理的動作やボタ ンの押下による操作であること。③操作は高速、可逆的で、操作結果 による変化が即座に見えることであり、メタファの利用と直接操作法. はa誰もが知っている世界であるため、わかりやすい。b新しく学習 しなければならないことが少ない。ことが特長である。」5.  上記のようなインターフェイスの観点で、従来の表現ソフトをみる と、特に子どもの視点からはわかりにくいものが多い。求められる条 件として「分かる」、「使える」、「使ってみたい」というインターフェ イスの視点がここから見えてくる。. 第3節 現代コンピュータアートの表現方法からの導入 1.インタラクティブ・アート.    コンピュータが普及し、アートの世界にも新しいいくつかの表現を   みることができるようになった。そのなかで、コンピュータの特性の   ひとつである「インタラクティヴィティ」に着目した作品が制作され. 一28一.

(32) 第3章図画工作科における表現システムの開発理念. ている。その中で、 「インタラクション‘97」 (1997.3.10∼19・岐阜. 県大垣市にて開催 インタラクティブ・アートの現代と未来をテーマ. に世界から10組の招待作家が出品)の作品から現代のメディア・ア ートの傾向を述べる。. 圃 イメージオブストリング 岩井敏夫 19976  タッチセンサーを指でこすると、目の前のヴァイオリンからシンセ サイザーによるサウンドにあわせて、光が放射状に広がっていく。触 れ方によって変化する光は、本物のヴァイオリン上のハーフミラー上 に重ね合わされたコンピュータ映像である。.  岩井は音と映像がつくり出すアートの世界こそコンピュータが切り 開く表現の可能性を秘めているものであると述べている。. 図7イメージオブストリング. 一29..

(33) 第3章図画工作科における表現システムの開発理念. 嘔至]テラ・ビジョン ART+COM 19977  大きなトラック・ボールを手で回すと、スクリーン上の地球も動く。. 大地に向かってズーミングすると街の中や建物の中にまで入り込むこ とができる。逆に、地球から離れることもできる。.  この作品も発信者の意図でつくられた映像を、受信者が一方向的に 鑑賞するだけでなく、自らが意図的に鑑賞活動できるものである。.  これらインタラクティヴィティといっても、コンピュータでなけれ ばできないわけではない。ただし、コンピュータを使って、できなか ったことができるようになったのも事実である。テクノロジーの進化 により見るものの参加という新しい表現が生まれ、作り手(発信者). と受け手(受信者)の関係が崩れはじめた今日、作品の形態も鑑賞者 が能動的に関われるものへと大きく変わりつつある。8. 図8テラ・ビジョン. .30..

(34) 第3章図画工作科における表現システムの開発理念. 2.インターネットを通じた表現.     1960年代から、コンピュータを用いた表現において外界とのイ    ンタラクションによって何かを生み出せないかというアイデアが出て    きて、アートという行為がコンピュごタを介して行われるようになつ    た。上記のようなさまざまなメディア・アートが生まれているが、そ    の中でも今注目されているのが、ネットワークである。.     コンピュータを創作のツールとして使用するアーティストは早い段    階からインターネット環境に接し、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ).    を作品発表の場として認識していた。また、これに対応して美術館や.   展覧会でもホームページによる内容紹介を行うなど、ネットワークは   確実にメディア・アートの一分野として認識されるようになった。世.   界的メディア・アートフェスティバル「Ars Electronica」が1995.   年度よりCGの静止画部門を廃止しWWW部門を設けるなど、その推   移と環境の変化の大きさを見ることができる。作品は静止画などのCG   作品あるいはその一部の展覧と、ネットの機能を用いたプロジェクト    に大別される。そして、このプロジェクトもJavaやShocwave、 VR:LM、.   CGIなどの最新プログラミング・テクニックに主眼をおいたものと、    リンク構造、テレコラボレーションといったネットワークの特性を主   題としたものに二分される。. 図9ホームページのインタラクティビティ. CG作品 最新プログラミング プロジェクト. ネットワーク特性. 一31一.

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