異なる時代のメロディに対する調の解釈
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(2) 音楽知覚認知研究. 原著論文. JournalofMusicPerceptionandCognition. Original Paper. 1998,Vol.4,No.2,8199. ⑥1998 日本音楽知覚認知学会. 異なる時代のメロディに対する調の解釈1 吉野 巌2 yoshino@psych.1et.hokudai.ac.jp. 日本学術振興会特別研究員(北海道大学文学部). 〒060−0810 札幌市北区北10条西7丁目 概 要 本研究は,バロック,古典派,ロマン派,近代の4つの時代のメロディから抽出した音列とラ ンダム的音列を材料として用いて,絶対音感をもつ西洋音楽熟達者の調解釈反応の特徴を調べた。 実験では,10人の被験者が与えられた音列に対して直感的に感じた調を選び,その調性感の程度 を10段階で評定した。その結果,バロック,古典派,ロマン派の音列に対する調性感の評定値は 音列の進行に伴って徐々に高くなること,近代の音列に対する調性感の評定値はバロックからロ マン派までの音列よりも低く音列が進行しても高くならないこと,ロマン派,古典派,バロック の音列に対する反応の個人間の分散は近代の音列とランダム的音列に対する反応の個人間の分散 よりも小さいこと,音列の各構成音は全音階音,特に主和音の構成昔として解釈される頻度が多 いこと,などが見出された。調解釈反応は時代によって若干異なっているとしても,調性的体制 化の処理はどの時代のメロディに対しても同様に行われる,ということが議論された。 キーワード:音楽認知,調認知,調性的体制化,調性スキーマ. Keyinterpretationsofthemelodies COmpOSedinvariousperiods Iwao YosHINO ResearchFellowoftheJapanSocietyforthePromotionofScience/ DepartmentofPsychology,Hokkaido University NlOW7,Kita−ku.Sapporo,O60j)810,JAPAN. Abstract. Thisstudydescribedthebasicpropertiesofkeyinterpretationsbymusicallytrainedlisteners withabsolutepitch.Inanexperiment,thematerialwaspitchsequencesfromtheBaroqu Classic,RomanandModernperiodsandrandomtonesequences.Tensubjectslistenedtoa. pitchsequence,Selectedplausiblekeysforthesequence,andratedtheappropriatenessofthe. keys.Three mainresults were observed:(a)Tonality feelingfor the sequences from the. Baroque,ClassicandRomanperiodswashigherthanthatforthesequencesfromtheModern period,and graduallyincreased as the sequences proceeded;(b)Subjects’responses were. COnCentratedtofewerkeysforthesequencesfromtheBaroque,ClassicandRomanperiods. thanforthesequencesfromtheModernperiodandtherandomsequences;(c)Constituen Ofthesequenceswereinterpretedmoreasdiatonictones,eSpeCiallythetonesoftonictriad, than as non−diatonic tones.Itis suggested that“tonalschema”ofthe musically trained. listenerstriestoassimilateallofthemelodiescomposedinvariousperiodsalthoughitcannot assimilatetheModernperiodmelodieswell. Keywords:muSiccognition,keyinterpretation,tOnalorganization,tOnalschema.. 一81−.
(3) 82. 吉野 巌. 化の処理の性質について調べるのは難し. は じ め に. い。それは,特別な音楽訓練を受けていな. メロディを認知するための知覚的体制化. い一般の聞き手(以下,音楽非熟達者と記. には,大きく分けて2種類があり,それぞ. す)の場合,聞いたメロディの調名を言語. れ“リズム的体制化(rhythmicorganiza−. 的に答えることが全くできないからであ. tion)”と“調性的体制化(tonalorganiza−. る。ただし,そうした音楽非熟達者でも,. tion)”と呼ばれている(阿部,1987)。これ. メロディの調名を意識できないだけであっ. らの知覚的体制化の結果,入力音列の各構. て,暗黙的には,何らかの意味で調の知覚. 成音の間にゲシュタルト的な“まとまり〝. を行っていると考えられる。それは,音楽. がもたらされ,音列はメロディらしく聞こ. 非熟達者が ,印象評定や記憶の実験などに. えるようになる。2種類の体制化のうち,. おいて,ある程度以上の音楽訓練を受けた. 調性的体制化とは,調性スキーマ(阿部・. 聞き手(以下,音楽熟達者と記す)と同じ. 星野,1985a;Abe&Hoshino,1990)に. ように,メロディの有調性ないしは無調性. 基づいて,入力メロディの音高の側面を. を感じることができる,あるいはメロディ. “tonalcenter(調性的中心音:reference. らしい音列とメロディらしくない音列とを. としての役割を果たす音高)〝を中心とした. 区別することができる(星野・阿部,1981;. “調性”の構造関係の中に体制化することと. Dowling,1982),などといった現象に現れ. いえる。この処理の結果,入力メロディの. ている。. 各音高の問に有機的なまとまりが形成され ることになり,音高の列が“メロディ〝. 音楽非熟達者は認知した調の意識化が困 と. 難であるため,彼らの調認知の特性を調べ. して知覚され,また同時に調性の感覚がも. るにはより複雑な手続きが必要となる。例. たらされることになると考えられる。つま. えば,星野・阿部(1984)が考案した終止. り,調を感じるとは,このような調性的体. 音導出法は,聞き手に断片メロディを聞か. 制化の結果もたらされる感覚といえる。心. せそのメロディを“まとまりよく終わらせ. の中で行われているその調性的体制化の処. ることができる”と感じられる音高を鍵盤. 理の詳細については,まだ不明の点が多い. 上から自由に選出・生成する手続きである。. (阿部・星野,1985b)。. この手続きによって,与えられたメロディ. 調性的体制化の処理の性質について明ら. に対して聞き手が解釈した調の主音を導き. かにするには,まず第一に,様々なメロディ. 出すことができる。また,Krumhanslら. のそれぞれに対して聞き手がどのような調. (Krumhansl,1979,1990;Krumhansl&. を感じるかを調べ,そこに何らかの規則性. Kessler,1982;Krumhansl& Shepard,. を見出すという方法が考えられる。しかし,. 1979)の考案したプローブ音法(probetone. そうした方法で一般の聞き手の調性的体制. method)は,オクターブ12半音のうちのそ. 1本研究の一部は,日本心理学会第59回大会(1995年)で発表されている。本研究は,平成7年度文部 省科学研究費補助金(特別研究員奨励費,受付番号1737)の補助を受けた。 2本稿をまとめるにあたり,北海道大学文学部教授阿部純一先生より有益な御助言を頂きました。ここに. 記して感謝いたします。.
(4) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. れぞれの音高がその前に呈示されたメロ. は,調を感じる程度(調性感:tonalityfeel−. ディにどのくらい適合するかを評定する手. ing)は低く調の解釈は定まらない。音列が. 続きである。この手続きによって,やはり. 進むにつれて,フーガ主題に対する調性感. 聞き手の解釈した調の主音を導き出すこと. は高くなり,ランダム的昔列に対する調性. ができる。ただし,これらの2つの実験手. 感は低くなる。調反応の個人間の分散は,. 続きは,聞き手の解釈した調の主音を導き. フーガ主題に対しては小さく,聞き手の反. 出すことはできるものの,具体的な調名を. 応は少数の特定の調に集中する。ランダム. 特定することまではできない。西洋全音階. 的音列に対しては反応の個人間の分散は大. に限ったとしても,聞き手がメロディを長. きく,聞き手の反応が特定の調に集中する. 調と短調のどちらの全音階の調として解釈. ことはない。また,音列の各構成音が全音. したかは,導き出された主音とメロディの. 階上のどの階名の音高として解釈されたか. 音高構造を比較して推測するしかない。. (以下,“全音階上での解釈”と記す)を調. これに対して,ある程度以上の音楽訓練. べたところ,音列の各構成音は,長調のdo,. を受け,かつ,絶対音感を持つ聞き手なら. 短調の1a,長調のsol,長調のmi,短調の. ば,与えられたメロディに対して感じた調. mi,短調のdo,長調と短調のその他の8つ. を主音の音名によって言語的に答えること. の全音階音,その他の10の非全音階音,の. が可能である。3彼らは,“調〝という概念を. 順で解釈される頻度が高い,つまり,全音. 良く理解・体得しており,音楽非熟達者よ. 階音,特に主和音の構成音として解釈され. りも,偶然性に支配されずに,かつ,容易. る頻度が高い,などである。. に,感じた調を意識的に反応することがで. さらに,吉野・阿部(1995)は,1人の. きると期待できる。また,彼らは調名を絶. 音楽熟達者を被験者として用いた実験に. 対音高で答えることができ,実験手続きも. よって,個人内の調認知の安定性について. 容易になる,という利点がある。. も調べた。その実験の音列材料は,吉野・. 吉野・阿部(1994;Yoshino&Abe,1996). 阿部(1994)で用いたものと全く同じもの. は,絶対音感をもつ西洋音楽熟達者を被験. が用いられた。その結果,少なくとも音楽. 者として用い,彼らが与えられたメロディ. 熟達者に関しては,個人内の調認知の安定. に対して具体的にどのような調を感じる. 性は,バッハのフーガ主題に対しては非常. か,また,メロディの進行に伴って調の解. に高く,ランダム的音高列に対しては低い. 釈はどのように変化するか,について調べ. ことが確認された。. た。その実験では,J.S.Bachのフーガ主題. 以上のように,吉野・阿部(1994,1995;. 24種とランダム的音高列6種をそれぞれ. Yoshino&Abe,1996)は,聞き手の調解. 冒頭から1音ずつ加えながら呈示し,各音. 釈反応における特徴,つまりは調性的体制. 高列のそれぞれの時系列段階に対する聞き. 化の処理における規則性を見出そうと努力. 手の調解釈反応を求めた。その結果,以下. してきている。しかしながら,そこで得ら. のようなことが観察された。音列の冒頭で. れている知見は,実験で使用した音列が. 3 ただし,絶対音感を所持していなくても,音楽熟達者ならば,何らかの基準音高をたよりにして調名を. 答えることは可能である。. 83.
(5) 84. 吉野 巌. バッハのフーガ主題とランダム的音列のみ. るように選ばれた。これらのメロディは,. に限られていたため,バロック時代のバッ. 長調12種,短調12種の24種の調が1つず. ハのフーガ主題のみにしかあてはまらない. つとなるように,24曲のうちの一部が原曲. おそれがある。そこで,本研究では,吉野・. の調から移調された。なお,8音以内でで. 阿部(1994)における調解釈反応の特徴が,. きるだけ多くの種類の音高を呈示するた. 他の時代のメロディに対しても同じように. め,メロディ中の同じ音高やパターンの繰. 見出されるかどうかを調べることにする。. り返しは省略した。各メロディは,メロディ. 実験では,西洋音楽の歴史の中の,バロッ. を構成する8音のそれぞれの長さが均一に. ク,古典派,ロマン派,近代,の4つの時. されて,音列材料として使用された。原曲. 代からメロディを選び,それぞれの時代の. そのままの“リズムのある〝音列を使用し. メロディに対する聞き手の調解釈反応の基. なかったのは,音列の各構成音の長さの違. 本的な特徴を分析する。なお,本実験では,. いによって生じるリズムの違いが調の認知. 方法や結果の分析などを吉野・阿部(1994). に影響することを避け,音高のみから純粋. の実験とできるだけ同じにする。. になされる調認知の性格を明らかにするた. 方. 法. 被験者. めであった。音列の各構成音の長さはいず れも0.789秒とされ,1音列全体の長さは 6.812秒とされた。. 被験者は,吉野・阿部(1994)の実験と 同様に,絶対音感を持った西洋音楽の熟達. が6音列用意された。ランダム的音列は,. 者から選んだ。被験者は,北海道大学また. オクターブ内12半音の中から8つの音高. は北海道教育大学の学部学生と大学院生. をランダムに並べることによって作成され. 10名であり,いずれも西洋音楽(クラシッ. た音列であり,どの調の全音階にも一致し. これらの24音列の他に,ランダム的昔列. ク音楽)の楽器経験を10年以上(平均17.2. ないように作成された。昔列の各構成音の. 年)もつ者たちであった。. 長さ,1音列全体の長さは,上記の各時代. 材料. の音列と同一にされた。. バロック(Baroque),古典派(Classic),. 以上,本実験で使用した音列材料は,バ. ロマン派(Roman),近代(Modern)の各. ロック音列(BRQl∼6),古典派の音列. 時代からメロディ(単旋律の主題もしくは. (CLSl∼6),ロマン派の音列(RMNl∼. モティーフ)を任意に6曲ずつ計24曲選び. 6),近代の音列(MDNl∼6),ランダム. (付録参照),それぞれの冒頭から8音まで. 的音列(RDMl∼6),の5条件×6音列. を呈示する音列材料として用いることにし. で全30音列であり,この音列材料の5条件. た。音列を8昔日までとしたのは,予備実. を“音列の時代〝の要因として設定した。. 験や吉野・阿部(1994)の結果から,8音. 全ての音列材料は,被験者の反応結果とと. あれば特定の調を安定して感じることがで. もにTablelに示されている。. き,かつ,転調も起こりにくい,と考えた. 1試行における音列の呈示は,以下のよ. からである。. うになされた(Figurel参照)。最初に,音. どの時代のメロディも,作曲者の記譜し た調で,長調と短調が等しく3曲ずつにな. 列の第1音から第3青までが呈示され(第 3音段階),被験者はその段階での反応を要.
(6) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. 85. The3rd tonestage. mc4tb tonesはge. The 5th 10neSbge. Tbe(;th. tonestage. The 7th tonestage. TheBth toⅢe5tage. Fku7Vl.Anexampleofstimulipresentationinonetrial.Atonesequenceispresentedinorderof the3rdtonestage,the4thtonestage,andsoonuptothe8thtonestage.Subjectsperform“thek task”oneachtonestage.. 求された。続いて,同じ音列の第4音まで. の“GRANDPIANO”が使用された。音律. が呈示され(第4音段階),同様の反応が要. は平均律が使用された。音列は,上記のコ. 求された。以下,最終音の第8音まで,1. ンピュータによって制御され,DAT(Digi−. 音ずつ追加された音列が呈示され,その都. talAudioTape)に記録された。被験者へ. 度反応が要求された。こうした手続きは,. の音列の呈示は,上記のDATを再生する. 調解釈の漸進的(incremental)な変化,つ. ことにより,スピーカー(ElectroVoice社. まり,音列が冒頭から1音ずつ聞こえてく. 製“StageSystem80”)からなされた。. るにしたがって聞き手の解釈がいかに変化. 手続き. するか,を調べるために採用された。なお,. 被験者は,1名ないしは2,3名で実験. 第3音段階から第8音段階までの6種の普. に参加した。被験者は,正面に位置するス. 段階を,“音段階”の要因として設定するこ. ピーカーから呈示される音列を聞く。1試. とにした。. 行では,音列がFigurelに示されるように. また,直前の試行における調の認知が次. 第3音段階から第8音段階まで順に呈示さ. の試行に与える影響を少なくするため,試. れ,被験者は次の音段階が呈示されるまで. 行と試行の間には4秒間のホワイトノイズ. の14秒以内にその昔列に対する調の反応. が挟まれた。. を行わなければならない。被験者の反応は,. 装置. 各音段階ごとに,長調12種,短調12種の. 各音列は,マッキントッシュ・コンピュー. 計24種の調の選択肢から,直感的に感じる. タ上で作動するMIDIシーケンサー・ソフ. 調を選び,かつ,その調の調性感を10段階. ト(Mark of the Unicorn社製“Per−. (1:ほとんど“調性”を感じない∼10:非. former”)によって作成された。音色は,サ. 常に強く“調性〝 を感じる)で評定するこ. ンプリング・キーボード(ENSONIQEPS). とである。ただし,複数の調の可能性を感.
(7) 86. 吉野 巌. じる場合には,被験者はそれらの調全てを. ついては評定値を“0〝 とした。. 選び,それぞれに対して個々に評定を行う。. 各音列に対する調反応をTablelに示. また,調を特定できない場合や調性感を全. す。Tablelでは,各音列毎に,その各音.段. く感じない場合には,“そのほか”を選び,. 階に対する調反応が左から右へと楕円で表. 調性感を10段階で評定する(調性感を全く. 示されている。楕円中の英字は被験者の反. 感じない場合は0として評定する)。. 応した調のその普段階での階名,楕円右上. 本試行に先立って6試行の練習試行を行. の数字は被験者10人のうちその調に反応. う。練習試行で使用される音列は,上述の. した人数で,2人以上が反応したものだけ. 30音列とは別な音列である。本試行では,. が楕円として表示されている。楕円の面積. 全30試行を,2回の休憩を挟んで,10試行. はこの人数に比例している。楕円を結ぶ線. ずつ3回のセッションに分けて行う。なお,. は同じ調の解釈であることを示し,その左. 被験者は全30試行をそれぞれランダムな. 端に,長調の調名を大文字の英字で,短調. 順序で行う。. を小文字の英字で示す。楕円右下の数字は 結果と考察. 本実験では,各時代の有名なメロディを 材料として用いたので,西洋音楽によぐ慣. 調性感の平均評定値である。なお,Tablel では,被験者が複数の調を答えた場合,そ れぞれが単独の反応として扱われている。. なお上記の階名は,被験者の反応した調. れ親しんでいる被験者が音列の出だしの. を長調か短調かで分け,長調の場合は調の. 2,3音を聞いただけで原曲をわかってしま. 主音をdo(短調の場合は1a)としたうえ. う危険性があった。こうした場合,被験者. で,全音階上の位置に基づいて決まる。階. は音列のまだ呈示されていない部分を予測. 名は本来,全音階音に与えられるものであ. することによってその曲の調を解釈するこ. るが,音列の構成昔が非全音階昔(音階か. とも可能になるわけであり,本実験の意図. らはみだす音)として解釈されてしまう場. とは無関係の要因が被験者の反応に影響す. 合は,特別に臨時記号:♯で表すこととす. ることになってしまう。しかし,実験後の. る。すなわち,音列の全ての構成音は,長. 報告によると,昔列の原曲に気づいた被験. 音階の階名12種(do,do♯,re,re‡,mi,. 者は全くいなかった。また,本実験の被験. fa,fa♯,SOl,SOl♯,1a,1a♯,Si)と短. 者の反応には,白鍵上の調を優位に聞くと. 音階の階名12種(la,1a♯,Si,do,do♯,. いう絶対音感保持者に固有の傾向が若干認. re,re♯,mi,fa,fa♯,SOl,SOl♯)で表. められた。しかし,この傾向は音列の第3. 記されることになる。短音階の全音階音は,. 音段階などごくわずかな反応に限られてい. 自然的短音階,和声的短音階,旋律的短音. たので,以下の分析では,全被験者の全て. 階で若干異なるが,本研究では,最も標準. の反応を用いることにした。. に使用されると思われる和声的短音階の構. 本実験の結果の分析にあたっては,各音. 成音(1a,Si,do,re,mi,fa,SOl♯)を. 列,各昔段階の,長調12種,短調12種に. 全音階音とみなすことにする。. 対する計24の評定値を分析の対象として 用いた。被験者が選択した調については評. 調性感. 定値をそのまま使い,選択しなかった調に. うに変化するかを調べるために,各音列の. 昔列の進行にしたがって調性感がどのよ.
(8) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. 87. Table 1 7九人り,J■.・∨りりハ立トイ∫/J/小爪./こり■晶、んい〃t、バー小・/.〃(、l、/ノJJlイ∼んソJll・//‘/裾・ 柏川いtリ◆仙榊ん∫/JJJバ(り〃んナス∵lI、ヾ.仙−〟〃=信吋トリーい〃−イ/小.J∴イ/岬−∴ ‘仙////.・〃〟川/−tソ1.リ■州毎〟ヾ什/い/、バ/㍉り/‘/【、‘ノ/り仙・Å、り,∫‘けl・メ/い廿〃. Tonesequence. Tone stage 3rd 4th 5th 6th 7th 8th. [a]‖▼「 一針疏一噛. [G]⑬!空軍攣黎二二 【c】綱J−−【・. (頭,. [d](覇言−−−=−−−嘲2 [Eb]《戦. [Bb]匂ぃG㌃・嘩。 一一一一−−一一一郎.2 [db](覇3.
(9) 88. 吉野 巌. Tablelkontinued). Tonesequence. Tone stage 3rd 4th 5th 6th 7th 8th. 【E】抽頭.5. [a値髄値一嘲3. [Eb]嘲.2. 【e]醐・5 [C噸. [b】領言ぺ覇.7. −∴=・ニー. 「=.
(10) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. 89. Tablel. Tonesequence. ∧. Tone stage 3rd 4th 5th 6th 7th 8th. [B咽8. Ll‖」、了.3. 〔d]嘩。. [c]Q読−・哺。. [c](重言一一−…−−・嘲4. 【Bb]噂i=…一一嘲. 5.
(11) 90. 吉野 巌. Tablelkontinued). Tonesequence. Tone stage 3rd 4th 5th 6th 7th 8th. [d]嘲.5 【A】錮.。. [c#哺「(覇.5 【a]領。.
(12) 91. 異なる時代のメロディに対する調の解釈 Tablel. Tone stage. Tonesequence. 3rd 4th 5th 6th 7th 8th. [ e]. [昭▲. [ミ. [B璃函慧ふ 5. L▲」、く=勺.. ●嘲. [Ab】(敲丁−・頭。[F#]吼 、i一¶.2. 【Eb](卑2【bb】鉱一・嘲6 【Db]く説8. [Eb嘲中嶋i…−一ニーーーーーーー…・. 嘲,6. [云b靂a隠. [Ab嘲.9. [誓∃㌘・3. ・広言5. [c]輌.4. [b]嘲.4. [可嘲 .2. Note・Theovalsrepresentonlythekeyresponsesfrom20rmOre. subjects.Thelettersintheovalsarethesyllablenamesofeach. tonestageintherespondedkeys・Theupperrightnumbersof. syllablenamesarethenumbersofsubiectswhorespondedtothe. keys・Thelowerrightnumbersofsyllablenamesarethemean ratlngSOftonalityfeeling・TheovalsconnectedbyarrOWSareal1 thesamekeyreヲPOnSe,andthenameOfthekey(mqjorkeys‥. CaPitalletter,mlnOrkeys‥Smallletter)isshownintheleftofthe OValssequence..
(13) 92. 吉野 巌. 時代および各普段階ごとに,調性感の評定 値の平均を求めた。本実験では被験者に複. 間には有意な差が認められなかった。 音列の時代の主効果も有意であった(F. 数の調の反応が認められていたが,1人の. (4,36)=174.04,♪<.0001)。各時代の音. 被験者が1回に反応した調は平均1.31個. 列の調性感の平均評定値は,ロマン派:. とほぼ1に近かったので,被験者が複数の. 6.63,古典派:6.40,バロック:6.26,近. 調を反応した場合は評定値の中で最も値の. 代:5.03,ランダム的音列:3.33であり,. 高いもののみを取り出して以下での分析に. ロマン派,古典派,バロックそれぞれと,. 使用した。. 近代およびランダム的音列との間,また近. 調性感の評定値に対して,普段階の要因. 代とランダム的音列の間に有意な差が認め. と音列の時代の要因の2要因の分散分析を. られた(いずれもScheffeの下位検定によ. 行った。音段階の主効果は有意であった(ダ. り,朋S∂=.46,α<.05)。. (5,45)=35.47,♪<.0001)。第3普段階 から第8音段階までの各音段階での平均評. また,音段階と音列の時代との交互作用 が有意であった げ(20,180)=7.77,. 定値は,それぞれ,4.57,5.04,5.29,5.79, カ<.0001)。普段階の進行に伴う調性感の 6.24,6.25であり,第3音段階と第5音段 評定値の推移を各時代の音列ごとにFig− 階の問,第4音段階と第6音段階の間,第 5音段階と第7音段階の間に有意な差が認. ure2に示す。いずれの時代の音列も,第3. められたが(いずれもScheffeの下位検定. 度で時代の条件間での違いは見られない。. により,〟Sβ=.54,α<.05),第6音段. しかし,音列が,第4,5,6,7普段階. 階,第7音段階,第8音段階のそれぞれの. と進行するのに伴って,バロック,古典派,. 音段階では調性感の評定値が平均4.57程. ロマン派の音列に対する評定値は徐々に高. くなっていき,近代の音列に対する評定値 はほとんど変わらず,ランダム的音列に対 する評定値は低くなっていく。 ︵Ot=焉E︶浮葛讐簑羞. 7‘U54つJ. 調反応の個人間の分散 被験者の問で調の反応がどの程度分散す. るかを調べるために,被験者全員の反応が. 少数の特定の調へ集中する度合いを示す “集中度係数”を各音列,各普段階ごとに. 求めた。なお,集中度係数は,式c= ズ2/〈Ⅳ(烏−1)〉で表される(岩原, 1964)。ここで,方は反応のカテゴリー数で あり,本実験の場合は可能な調の種類数24 3rd. 4th. 5th. (〉lh. 7th. 飢h. ToneStage. である。Ⅳは反応総数であり,基本的に被 験者数10である。ただし,複数回答があっ. 物77?2.The mean rating of“tonality feel−. た場合は,その分の反応数を加算した。ズ2. ing”・Itis shown by periods proceeding. は観測値邦吉の期待値E∫(Ⅳ/24で表され. througheachdifferenttonestage.. る)からのずれの総和であり,式ズ2=∑.
(14) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. 〈(犯オー&)2/&〉で表される。 この集中度係数に対して,音列の時代と. 応が特定の調に集中せず,昔列の第8音段 階ではMDN4とMDN6を除いて被験者. 音段階の2要因の分散分析を行った。その. の半数が一致するような調の反応は見られ. 結果,音列の時代の主効果が有意であった. ない。特にMDN3に対しては,反応は被験. (F(4,36)=24.87,P<.0001)。Scheffe 者間で4∼7の調に散らばっている。ラン の下位検定の結果,ロマン派(平均.675),. ダム的音列に対しては,RDM3を除いて,. 古典派(.667),バロック(.590)それぞ. 反応の個人間の分散は大きく,また調性感. れと,近代(.492)およびランダム的音列. の評定値も低くなっている。. (.428)の間に有意な差が認められた(いず. 一般に被験者の反応が特定の調に集中す. れも,朋5∂=.09,αく.05)。つまり,ロ. る音列は調性感の評定値も高く,反応が散. マン派,古典派,バロックの音列に対して. らばる音列は評定値も低くなっている。評. は,反応の個人間の分散は小さく,近代の. 定値が高く集中度係数の高い音列に対する. 音列とランダム的音列に対しては,個人間. 被験者の反応は十分に安定したものであ. の分散は大きかったということである。音. り,評定値が低く集中度係数の低い音列に. 段階の主効果げ(5,45)=.22,♪>.95). 対する被験者の反応はより不確かで不安定. と交互作用(F(20,180)=.75,♪>.76). なものであった,ということであろう。. は有意ではなかった。. 各構成音に対する全音階上での解釈. 反応が特定の調に集中する程度は,. 聞き手の反応した調名から,与えられた. Tablelからも各音列,各普段階ごとに見. 音列に対する全音階上での解釈の構造,す. てとることができる。古典派の音列(CLS. なわち,音列の各構成音を全音階上のどの. l∼6)とロマン派の音列(RMNl∼6). 位置の音高として解釈したか,を導き出す. に対しては,第3音段階では被験者の反応. ことができる。音楽学では,この全音階上. がいくつかの調に散らばっており,それぞ. の特定の位置にある全音階音に“階名〝が. れの調に対する調性感の評定値も低いが,. つけられている。以下では,その全音階上. 第4音段階以降では被験者10人中7人以 上が全く同じ1つの調か(CLS3∼6, RMNl∼6)もしくは2つの調のうちい ずれか(CLSl,CLS2)を答え,その調. での解釈を分析することによって,聞き手. 性感の評定値も高いことがわかる。特に,. が音列の各構成音をオクターブ12半音の 中の特定の階名の音高として解釈する傾向 があったかどうかを確認する。. 本実験の全30種の音列に対する被験者. CLS5,CLS6,RMN5の音列では,第5. の反応について,被験者の解釈した調に基. 音段階以降,10人の被験者が全員同じ調を. づいて,音列の各構成音が長調と短調の2. 反応している。バロックの音列(BRQl∼. 種の全音階上のどの階名の音高として解釈. 6)に対しては,第3音段階では被験者の. されたかを分析した。各調反応の各構成昔. 反応がいくつかの調に散らばっており,第. に対応する階名は,Tablelにも示されて. 4音段階以降では2∼3程度の調に集中し. いる通りである。次に,オクターブ内の長. ている。BRQ6だけは,第5普段階以降,. 音階の階名12種と短音階の階名12種のそ. 10人中8人が全く同じ調を反応している。. れぞれに対して“解釈された頻度〝 を音段. 近代の音列(MDNl∼6)に対しては,反. 階ごとに求め,さらにそれを全音段階分加. 93.
(15) 94. 吉野 巌. 算したものを各音列ごとに求めた。この値. の下位検定の結果,上位5位までの解釈の. に対して,階名の種類(長調,短調各12種. 間には有意な差は見られなかった. の計24種)による1要因の分散分析を行っ. (〟Sβ=.95,α>.05)。なお短調の場合,. た。その結果,主効果(ダ(23,207)=53.36,. 和声的短音階と旋律的短音階の上昇形で用. ♪<.0001)が有意であった。階名の種類の. いられる“sol♯〝が自然的短音階と旋律的. 主効果が有意であったことは,階名の種類. 短音階の下降形で用いられる“sol”よりも. によって解釈された頻度が異なることを意. 解釈される頻度が多かった。また和声的短. 味する。全音階上での各階名に対する解釈. 音階,自然的短音階,旋律的短音階の下降. の頻度を多い順に並べたものをTable2. 形で用いられる“fa”が旋律的短音階の上昇. に示す。Table2から,上位14位までは全. 形で用いられる“fa♯”よりも解釈される頻. て全音階音,15位と16位は旋律的短音階. 度が多かった。このことは,短調のメロディ. もしくは自然的短音階による短調の音階. が基本的に和声的短音階に基づいて作曲さ. 音,17位以下は全て非全音階音であること. れることを示唆すると同時に,聞き手にも. がわかる。また,上位6位までは全て長調. 和声的短音階が十分自然な短音階として知. と短調の主和音構成音であった。Scheffe. 覚されている,ということを示唆している。 全音階上での各階名に対する解釈の頻度. を時代別にFigure3に示す。Figure3に. Table 2 〃/t./)=/J汀〃り・一三J−ハ1押(りけりiけl情ノJllイ山/)ん/〟川ハ. は,被験者が長調として解釈した反応(a)と. ・J′′/り〃lメl小…′(1バ. si(minor). fa(minor). 1 1. 1a(major). 1. re(major) sol(minor) fa♯(minor) sol♯(major) 1a♯(major) re♯(minor) fa♯(major). 1 0. 3 4. 1a♯(minor). re‡(major). 0 0. 5 6. do♯(major). さが際だっている。これに対し,近代の音列とラ ンダム的音列では,全音階音として解釈した頻 度と非全音階音として解釈した頻度の間に明ら かな違いがみられない。特に,ランダム的音列で はほとんど違いがない。短調として解釈した反 応について見てみると,ランダム的音列を除く 4つの時代の音列では,それぞれ細かい違いは. 1 1. 1 2. do♯(minor). して解釈した頻度が非全音階音として解釈した に,長調のdo,mi,SOlとして解釈した頻度の多. 1 1. re(minor). 9 0. 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2. sol♯(minor). 然のことではあるが昔列の構成昔を全音階音と 頻度より顕著に多く,その違いは明瞭である。特. 1 1. 1. 7 8. 1. si(major). と,バロック,古典派,ロマン派の音列では,当. 2 1. 5 6. fa(major). do(minor). る。長調として解釈した反応について見てみる. 2. 4. do(major). 2. sol(major). 2. 3. mi(major). 1 3 6 4 0 6 8 0 8 6 4 3 4 9 8 8 1 0 0 9 2 0 5 8 4 2 1 1 8 5 4 3 2 2 1 1 9 5 4 3 3 3 3 2 2 2 1. 2. mi(minor). 2. 1a(minor). 短調として解釈した反応(b)とで別々に示してあ. 2. 1. Rank Tone Syllable Frequency. 見られるものの,全音階音として解釈した頻度 が非全音階音として解釈した頻度よりも明らか に多く,その違いは明瞭であった。これに対し て,ランダム的音列では,長調として解釈した反 応と同様に,全音階音として解釈した頻度と非 全音階音として解釈した頻度の間にほとんど違. 7. 0. ¢U. 0.
(16) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. くなっていくこと,近代の音列に対する評. (a)rnterpretatlOnaSMq)OrKeys. 定値はほとんど変わらないこと,ランダム 的音列に対する評定値は低くなっていくこ と,などが確認された。. これらの結果から,メロディの出だしの 3音のみを聞いた段階では,どの時代のメ. ロディに対しても,明確な調性感はまだ確 立されないといえる。4音目以降に関して DO DO# RE RE# MI FA FA# SOL SOL# LA LA#. SJ. Sy11ableNameinM再OrScalじ. は,バロックから古典派,ロマン派までの メロディに対しては,メロディのほぼ6,7. 音目までに明確な調性感が確立され,調の. 5. 認知は十分に安定したものになるといえる. 4. であろう。つまり,これらの時代のメロディ ぎ3. に関しては,6,7昔日あたりでtonalcen−. コ ○■ 巴h. terが参照点(referencepoint)として定ま り,メロディの各音高の間に有機的なまと 1. まりが形成される,ということが示唆され 0. LA LA# SJ DO DO# RE RE# MI FA FA# 50L SOL# SyllableNamelnMinorScale. る。一方,近代のメロディに対しては,メ ロディが進行しても明確な調性感は確立さ. Fなure3.Thefrequency ofresponsefor each. れない。近代のメロディに対しては,聞き. Syllable namein tone sequences.The fre−. 手の感じる調は相対的に曖昧であることが. quencyistheaveragenumberoftimesasubject assigned each syllable name in the diatonic SCaletocomponentsinonetonesequence,based. 多く,調の認知は安定しないと考えられる。 つまり,近代のメロディに対しては,調性. OnSubjects’keyresponse.(a)isthedatainter− pretedasmajorkeys,and(b)isthedatainter−. 的体制化を十分に安定して行うことができ. pretedasminorkeys.. ないということになる。. 調性感とは,入力されたメロディが聞き いが見られなかった。. 一般的考察 “結果と考察”で分析した,調性感の評定. 手のもつ調性スキーマ(tonalschema)に 同化される度合いを示していると考えられ. る。メロディがスキーマに良く同化され, 調性的体制化がうまくいく場合は,調が強. 値,調反応の個人間の分散,全音階上での. く安定して感じられるというわけである。. 解釈,の3つの側面のうち,はじめに,調. 本実験の結果から,西洋音楽の聞き手は,. 性感の評定値について考察する。まず第3 昔段階では,いずれの時代の音列に対して. バロック,古典派からロマン派までの時代 のメロディに適用可能な一般的な調性ス. も調性感の評定値は中程度であり,時代間. キーマとは別に,“近代のメロディに特有な. の違いは見られないことが確認された。そ. 調性スキーマ〝 をもっている,という可能. れ以降の音段階では,バロック,古典派,. 性も考えられる。しかし,本実験の被験者. ロマン派の昔列に対する評定値は徐々に高. は,近代の音列に対して長調や短調ではな. 95.
(17) 96. 吉野 巌. く「そのほか」を選択することが可能であっ. きであろう。本実験で使用した近代の音列. たにも関わらず,そのような反応はごくわ. の中には,“どの調の全音階にも一致しない. ずかであった。4彼らの多くは近代の音列. もの”が3音列(MDNl,MDN2,MDN5). を長調や短調として解釈しようとしたわけ. 含まれていた。西洋音楽の聞き手は全音階. であり,調性感もバロックからロマン派ま. に一致する調の解釈をする傾向がある(阿. での音列には及ばないが,ランダム的音列. 部・星野,1985a)ことを考えると,それら. ほど低いわけではない。つまり,彼らが,. の“どの調の全音階にも一致しない音列”. 長調と短調以外の調性システムに基づいて. が聞き手の調の解釈を難しくさせ,感じら. 一貫して近代の音列を解釈したとは思われ. れる調性感も低いものにさせたということ. ない。また,近代では確かに,長調や短調. は不思議ではない。つまりは,彼らのもつ. とは異なる古い時代の教会旋法や民族音楽. スキーマは基本的に全音階に一致する解釈. に特徴的な旋法などが使用されることは. をするようなスキーマである,ということ. あったが,長調や短調にかわって特定の調. であろう。. 性システム(旋法)が統一的に用いられた. 反応の個人間の分散に関する分析では,. わけではない。以上のことがらを考えると,. ロマン派,古典派,バロックの音列に対す. 近代のメロディを聞くとき西洋全音階の調. る反応の集中度が,近代の音列とランダム. 性スキーマを中心にいくつかの音階(旋法). 的音列の反応の集中度よりも高いことが確. の調性スキーマが組み合わされて適用され. 認された。本実験の被験者の調の反応は, バロックからロマン派までの時代のメロ. る可能性はあるものの,“近代のメロディに 特有な調性スキーマ”の存在を仮定するこ. ディに対しては,個人差が小さく,特定の. とは現実的ではないであろう。. 少数の調に集中していたといえる。この結. 実際のところ,現代の西洋音楽に慣れ親. 果から,現在の西洋音楽の聞き手は,バロッ. しんだ聞き手の調性スキーマは,バロック,. クからロマン派までの時代のメロディに対. 古典派からロマン派,近現代までの様々な. して,ほぼ同じ調性的体制化を行っている. 時代のメロディを経験し,同化(assimila−. ことが推定される。近代のメロディに対し. tion)と調節(accommodation)の過程を. て個人差が大きくなったことは,近代のメ. 経て形成されると推測される。この考えに. ロディに対する調性的体制化の処理が個人. 従えば,西洋音楽の聞き手は1つの同じ調. 個人で異なる,ということを意味するもの. 性スキーマを様々な時代のメロディに適用. ではないであろう。むしろ,前述したよう. している,といえるであろう。近代のメロ. に,聞き手の調性スキーマが近代のメロ. ディに対しては,彼らの調性スキーマはま. ディをうまく同化できないために,個人個. だ十分に調節されていない,ともいえるか. 人の調の反応が,より不確かで不安定なも. もしれない。より正しくは,近代のメロディ. のになった,と解釈すべきであろう。. は,我々のスキーマが同化しづらいような 特徴を持つように作曲されているというベ. 全音階上での解釈に関する分析では,階 名の種類(全音階上での位置)によって解. 4ただし,手続き上,被験者の反応が“できるだけ24種の長短調から調を選択する”ように方向付けられ. ていたことには注意する必要がある。.
(18) 異なる時代のメロディに対する調の解釈 釈される頻度は異なることが確認された。. 高,つまり主和音構成音が多い,というこ. 結果と考察で述べたように,解釈の頻度の. とが見出されている。こうした先行研究の. 多い階名は,上位14位までが全て全音階音. 結果もあわせて考えると,必ずしも主音の. であった。このことから,聞き手は,どの. みが体制化処理における参照点的役割を果. 時代のメロディに対しても,その構成音を. たしているのではなく,主音以外の主和音. できるだけ全音階音として解釈しようとし. 構成青も主音に準じる役割を果たしている. た,つまり,入力音列を全音階的なスキー. と考えるべきであろう。主音やその他の主. マの中で解釈しようとしたことが推測され. 和音構成昔は,参照点というよりは,いわ. る。さらに,解釈された頻度の多い上位6. ば“参照枠”とでもいうべき役割を果たし. 位までは,長調と短調の主和音構成音で. ていると考えることもできる。この“参照. あった。この結果は,吉野・阿部(1994). 枠”という概念を用いると,調性的体制化. の結果とも一致している。. の過程では,その参照枠でメロディの構成. 主音や主音以外の主和音を構成する音高. 音を捉えようとする処理,つまり,メロディ. がメロディ認知において重要な役割を果た. の中に主音を中心とした主和音の構成音を. していることは,過去の研究からも示唆さ. 見つけだそうとする処理が行われる,とい. れている。例えば,Krumhanslらのプロー. うことになるであろう。. ブ音評定法を用いた一連の研究(Krum−. 本研究では,聞き手の調解釈反応は4種. hansl,1979,1990;Krumhansl&Kessler, の時代のメロディを通して基本的には類似 1982;Krumhansl&Shepard,1979)では,. していたが,バロックから古典派,ロマン. 調性的な文脈のもとでは,主音が最も安定. 派までの時代のメロディに対してと近代の. して聞こえ,次いで主音以外の主和音構成. メロディに対してとで,反応が若干異なっ. 音(長音階でのmiとsol,短音階でのdoと. ていた。バロックからロマン派までの時代. mi),それ以外の全音階音,非全音階音の順. のメロディに対する調解釈反応について. で安定性が低くなる,つまり,オクターブ. は,吉野・阿部(1994)の実験結果と一致. 内12音の安定性には階層性があることが. している。前述したように,メロディの時. 見出されている。5さらにKrumhanslらの. 代によって反応が異なったことは,本実験. 研究では,多次元尺度構成法によって調性. の被験者がメロディの作曲された時代に. の階層性が主音を頂点とする円錐上に表現. よって調の認知の仕方を変えたり異なる調. され,主音以外の主和音構成音,その他の. 性スキーマを適用していた,ということを. 全音階音,非全音階音の順で,主音との心. 意味するものではないと考えられる。むし. 理的な距離は遠くなることが示されてい. ろ,聞き手はどの時代のメロディに対して. る。また,星野・阿部(1984)の終止音導. も,同じ調性スキーマを適用し,同じよう. 出実験では,終止音として導出される音高. に調性的体制化の処理を行ったと考えられ. は,主音が最も多く,次いで,主音と非常. る。そうした体制化処理の結果,調性スキー. に心理的に距離の近い音程関係にある音. マにうまく同化されるメロディは十分メロ. 5 Figure3の,特にバロック,古典派,ロマン派の音列については,長調と短調共に,Krumhansl& Kessler(1982)の調性的階層性のプロファイルとの類似を指摘することができる。. 97.
(19) 98. 吉野 巌. ディらしく聞こえ調性も強く感じられるよ. 知における“調性感”と“パターンのま. うになる,ということであり,調性スキー. とまり性”.HokkaidoBehavioralSci−. マにうまく同化されないメロディは調性的. ence Report,Series P(Supplement),. に不安定に感じられ主音の支配性は強く意 識されない,ということであろう。我々の. No.23.. 星野悦子・阿部純一(1984).メロディ認知. 調性スキーマは,バロック,古典派からロ. における“調性感”と終止音導出.心理. マン派までの時代のメロディを受け入れや. 学研究,54,344−350.. すい形で形成されていると推測される。一 方,近代のメロディの調性は,バロック等. と比較して単純には認知できないが,そう. 岩原信九郎(1964).ノンパラメトリック 法 改訂版.日本文化科学社.. Krumhansl,C.L.(1979).Thepsycholog−. した調性の不安定さや曖昧さが近代のメロ. icalrepresentationofmusicalpitchin. ディに逸脱感や複雑性といった“おもしろ. atonalcontext.C(哲nitiue角γChoIcw,. さ”をもたらしており,近代の音楽の芸術. 11,346374.. 的な新しさにつながっているといえるかも. Krumhansl,C.L(1990).Cognitive /∴、畑山/1=\.!′l/.・卜/..イ/九/∴ \川. しれない。. 引 用 文 献. York:OxfordUniversityPress. Krumhansl,C.L.,&Kessler,E.J.(1982).. るか.波多野誼余夫編,音楽と認知(pp.. Tracing the dynamic changesin per− Ceivedtonalorganizationin a spatial. 4168).東京大学出版会.. representation of musicalkeys.角γ−. 阿部純一(1987).旋律はいかに処理され. 阿部純一・星野悦子(1985a).メロディ認 知におけるスキーマ依存性について:音. CゐoJ曙gC(ZJ月g〃gどれ′,89,334−368.. Krumhansl,C.L.,&Shepard,R.N.(1979).. 楽熟達者による終止音導出実験.基礎心. Quantification of the hierarchy of. 理学研究,4,1−9.. tonalfunctions within a diatonic con−. 阿部純一・星野悦子(1985b).音楽の認知. text.ノ0〟γⅥαJqr 且ゆgγg∽g乃わJ角リー. 心理学的研究について.心理学評論,. ′ソ.・イ‥ごご.l・.・//.・′′′.・・∴J/1∫−.・./心り.・.し/1品卜. 28,267−279.. 刑α乃Cg,5,579−594.. Abe,J.,&Hoshino,E.(1990).Schema吉野巌・阿部純一(1994).“調”認定に反. drivenpropertiesinmelodycognition: Experiments on finaltone extrapola. 映する調性的スキーマの性質 一笑験と. tionbymusicexperts.fbchomliSicol唱)ノ,. 58回大会発表論文集,735.. 9,161172.. Dowling,W.].(1982).Melodicinforma−. シミュレーションー.日本心理学会第 吉野巌・阿部純一(1995).メロディの調を 認知する過程について 一反応の変動を. tion processing andits development.. 中心とした分析−.北海道心理学研究,. In D.Deutsch(Ed.),77tep即Cholqgy qf. 18,8388.. music(pp.413429).NewYork:Aca− demic Press. 星野悦子・阿部純一(1981).メロディ認. Yoshino,I.,&Abe,J.(1996).Cognitive. modelingoftheprocessoftonalorga− nizationinmelody perception.hter−.
(20) 異なる時代のメロディに対する調の解釈. 99. 乃α如乃αJノb〝γ乃αJげ角リCゐoJ脚,31,51.. 付 銀 実験で使用した音列の原曲の作曲者と曲名 音列名 バロックのメロディ BRQl バッハ BRQ2 バッハ BRQ3 バッハ BRQ4 バッハ BRQ5 バッハ BRQ6 バッハ. 原曲の作曲者 (J.S.Bach) (],S.Bach) (],S.Bach) (J.S.Bach) (].S.Bach) (J.S.Bach). 古典派のメロディ CLSl ハイドン(J,Haydn) CLS2 ハイドン().Haydn) CLS3 モーツアルト(W.A.Mozart) CLS4 モーツアルト(W,A.Mozart). CLS5 ベートー. ヴェン(L.Ⅴ.Beethoven). CLS6 ベートーヴェン(L.Ⅴ.Beethoven) ロマン派のメロディ RMNl シューマン(R.Schumann) RMN2 ヴェルディ(G,Verdi) RMN3 ヴァーグナー(R.Wagner) RMN4 ブラームス(J.Brahms) RMN5 チャイコフスキー(P.Tchaikovsky) RMN6 Rコルサコフ(N.Rimsky−Korsakov) 近代のメロディ MDNl デュカ(P.Dukas) MDN2 ラヴェル(M.Ravel) MDN3 ドピッシー(C.I)ebussy) MDN4 R,シュトラウス(R.Strauss) MDN5 R.シュトラウス(R.Strauss) MDN6 シェーンベルク(A.Sch6nberg). 原曲の曲名 平均律タラヴイ←ア曲集第1巻∼第2番フーガ主題 平均律クラヴィーア曲集第2巻/)第16番フーガ主題 平均律クラヴィーア曲集第2巻/)第21番フーガ主題 平均律クラヴイーア曲集第1巻∼第7番フーガ主題 平均律クラヴイーア曲集第1巻∼第12番フーガ主題 平均律クラヴィーア曲集第2巻∼第12番フーガ主題 弦楽四重奏曲第77番「皇帝」∼第4楽章 弦楽四重奏曲第63番「ひばり」∼第4楽章 交響曲第40番∼第3楽章 ヴァイオリン協奏曲第5番∼第3楽章 ヴァイオリン協奏曲∼第1楽章 ピアノソナタ第23番「熱情」∼第3楽章 チェロ協奏曲∼第1楽章 歌劇「椿姫」∼前奏曲 歌劇「タンホイザー」ハ〉第2幕「入場行進曲」 クラリネット五重奏曲∼第4楽章 「四季」∼「トロイカに」 「シュエラザード」∼第3楽章. 「魔法使いの弟子」 「ラ・ヴアルス」 「ゴリウオツグのケークウオーク」 交響詩「英雄の生涯」∼「英雄の伴侶」 交響詩「ツァラトウストラはかく語りき ∼「歓喜と情熱について」 弦楽六重奏曲「浄夜」. 1998年9月3日 受稿 1998年12月18日 受理.
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と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その
(2)コネクタ嵌合後の ケーブルに対する
は,医師による生命に対する犯罪が問題である。医師の職責から派生する このような関係は,それ自体としては