授業研究における数学教師の授業設計に関する一考察
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第66巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 66, No.2. 平 成 28 年 2 月 February, 2016. 授業研究における数学教師の授業設計に関する一考察 石 井 洋 北海道教育大学函館校数学教育研究室. A Study on the Instruction Plan of Mathematics Teacher in the Lesson Study ISHII Hiroshi Mathematics Education Laboratory, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 授業研究はPDCAサイクルをもった教員研修であり,教材研究を深め,授業の質的改善を志 向する教師の実践研究の場である。しかし,数学教育研究においては,授業研究における教材 研究の重要性は述べられていてもその方法論が明確化されていないという課題が指摘されてお り,その構成要素について十分に議論されてきたとは言い難い。 そこで本稿では,授業研究の構成要素を明らかにした上で,課題とされている研究授業前の 計画段階に焦点を当て,「教材研究」「学習指導案」「授業設計」という用語を明確化した。特 に「教材研究」に関する議論は近年盛んにおこなわれており,それらを比較することで「教材 研究」の構成要素の特定を試みた。今後は本稿で明らかとなった「評価」の実践研究が研究の 俎上に上がらない現状を反省的に捉え,学習者の実態把握や評価の在り方を主軸にした教材研 究の在り方をより一層深く考察していくことの必要性を指摘した。. 1.はじめに. 価がなされる傾向にある。 しかし,授業研究を日本以外の国が導入した際. 1999年に出版されたStiglerらの“The Teaching. の実践上の課題として,教材研究,課題設定,研. Gap”により,授業研究が国際的な注目を集め,. 究 授 業 の 開 発 が 挙 げ ら れ て い る(Hart et al,. 現職教員研修の一環として導入する国が増加し. 2011)。授業研究の導入は進むものの授業実践の. た。それ以降, 授業研究を対象とした研究も増え,. 質的な深まりにはまだ課題が残されているといえ. それらの研究には授業研究の様相を理論的に捉え. よう。Hart(2011)が指摘するこれらの課題は,. ようとするもの,教師教育の視座から教師の職能. いずれも授業研究の最初の段階,つまり授業研究. 成長を捉えようとするもの等,多様性が見られる. のプランニングの段階に関するものである。授業. (秋田, 2008; Lewis, 2009)。これらの研究では,. 研究の過程はその特性から4段階(Lewis, 2002). 授業研究の有用性が述べられており,肯定的な評. や5段階(藤井, 2014)等に分けられて論じられ. 107.
(3) 石 井 洋. ているが,その最初の段階で課題が認められてい. くことが主流となった。. るのである。. それとは別に,早くからアメリカに授業研究を. 授業研究は,PDCAサイクルをもった教員研修. 紹介したLewis(2009)は,授業研究の理論的モ. であり,授業実践の質的改善を志向する教師の実. デルとして,その構成要素を1) 調査 Investigation,. 践研究の場である。しかし,授業研究には多くの. 2) 計 画 Planning, 3) 研 究 授 業 Research. 暗黙の前提や公然化されていない活動があり,そ. lesson,4) 振り返り Reflectionの4段階として. れが必ずしも十分に解明されているとは言えない. いる。表1のように,それぞれの段階において細. 状況にある(藤井, 2014)。特に,数学教育研究に. 分化した項目を設け,授業研究の特徴をより詳細. おいては,授業研究における教材研究の重要性は. に示したものとなっている。. 述べられていてもその方法論が明確化されていな. 一方,藤井(2014)は,授業研究の過程を図1. いという課題(佐々木, 2013)が指摘されている. のように5段階に示している。Lewis(2009)と. ように,その構成要素について十分に議論されて. の違いは,振り返りの段階を研究協議会と分けて. きたとは言い難い。. 示している点である。しかし,両者ともに意図し. そこで本稿では,授業研究において実際に授業. ている内容について大きな違いはなく,分け方の. 実践を行う前段階でどのような計画や準備がなさ. 議論のみであり,授業研究の本質として4段階な. れるのかその構成要素を整理する。また,その際,. いし5段階としてそのプロセスを捉えることがで. 日本の授業研究においては自明のこととして扱わ. きる。. れている「教材研究」「学習指導案」「授業設計」. 藤井(2014)は,諸外国が最も注目している段. という用語に焦点を当て,それらの指し示すもの. 階として第3,4段階を挙げ,研究授業と研究協. を明確化することで,定義づけを行う。そして,. 議会の公開性をその理由として指摘している。し. 数学教育における授業設計に関する実践研究の実. かし,恐らくは反省的実践家としての教師像から,. 態を捉えた上で,授業設計の構成要素を検討し,. 省察に力点を置いた教員研修を志向している表れ. わが国の課題を考察する。. だと考えられる。近年,数学教師教育においては, 教師の省察が力量形成の促進要因として位置づけ. 2.授業研究の構成要素. られている(木根, 2013)。研究授業後における教 師集団の授業反省に諸外国の注目が集まるのも自. “The Teaching Gap” (Stigler & Hiebert, 1999). 然な流れであろう。. を契機に日本の授業研究が国内外問わず注目され. 藤井(2014)は,これまでの授業研究に関する. る中で,それまで暗黙裡にあり相対化されていな. 研究において,研究授業前の内実については十分. かった授業研究の構成要素を顕在化しようとする. に議論されてこなかったことを指摘し,第2段階. 動きが活発化した。“The Teaching Gap”では,. の指導案検討の重要性を述べ,その実態を捉えて. 1)問題の同定,2)授業の計画,3)研究授業,. いる。そこでは教師集団による指導案検討場面の. 4)授業の評価とその効果の反省,5)授業の再. 特徴を見出すことに成功しているが,第1段階の. 考, 6)再考された授業の実施,7)評価と反省,. 内実や第1段階と第2段階との関係性,つまり指. 8)結果の共有の8段階として授業研究は述べら. 導案作成前については射程としておらず,その点. れていたが, その後1)教材研究,2)研究授業,. は研究課題として残されている状況にある。そこ. 3)授業検討会(馬場, 2005;Yosida, 2008;岩. で本稿では,研究授業前の段階,すなわち図1の. 崎・真野, 2011)や1)学習指導案,2)授業観察,. 第1段階と第2段階に焦点を当てて,その構成要. 3)研究協議会(橋本, 2003)のようにPLAN,. 素を整理する。. DO,SEEの3段階のサイクルによって捉えてい. 108.
(4) 授業研究における数学教師の授業設計に関する一考察. 表1 授業研究の特徴 段 階 1 調 査. 細分化された項目 a 生徒の現状の考察 b 生徒の学習と発達についての長 期目標の考察 c 指導内容の研究:鍵概念,現行 のカリキュラム,学習の方向性, 先行研究. 2 計 画. a 研究授業の選択または創出 b 生徒の解答を予想するために課 題を解く c 学習指導案の作成。その際,生 徒の学習の目標,予想される生徒 の考え,データ収集の要点,授業 デザインの理論的背景,長期目標 との関連を含む. 3 研究授業. 4 振り返り. a 研究授業の実施 b 生の研究授業において,チーム メンバーが観察しデータを収集. 3.授業計画段階における用語の定義 授業研究の第1段階は,研究主題の設定が核と なり,生徒の実態把握や教材研究,カリキュラム を基にした指導計画の立案など,授業研究全体の 質に関わる重要な段階である。しかし,Lewis (2009),藤井(2014)が提示している授業研究 の構成要素には,どちらにも「教材研究」という 日本では使い込まれた言葉さえ明示されていない のが現状である。代わりに「学習指導案の作成」 という表現がなされており,「教材研究」という 言葉との相違点については明示されていない。 「教 材研究」とは具体的に何をすることなのかが必ず しも明確になっていない(佐々木, 2013)という 指摘もなされているように,それぞれの言葉が日 本の授業研究においては自明のこととして扱われ. a 研究授業後の討議会で研究授業. ている。そこで本節では,研究授業までの計画段. のデータを共有し討議する b チームメンバー(しばしば他の 参観者も)は,より広い意味での. 階で用いられている「教材研究」 「学習指導案」 「授. 教授・学習や生徒理解および教科 内容の理解のために,授業の再構 築に対しての示唆を引き出す c 授業研究で得られた知見を振り 返り,サイクルから何を学んだか 記述し総括する d 修正し再授業を行う (オプション) (Lewis, 2009より引用・一部修正). 業設計」という用語に焦点を当て,それらの指し 示すものを明確化することで,定義づけを行う。 まず,「教材研究」と「授業設計」に関して, その相違点について検討する。「教材研究」はそ の言葉から「教材を研究する」という限定的な捉 え方をされる傾向にある。佐々木(2013)が,数 学教育における「教材」とは,教科内容を指導す るための具体的な材料であり,教科の目標を達成 するための材料である,と述べているように,狭 義には教える材料としての研究ということになろ う。しかし,より広義な捉え方としては,目標や カリキュラム,方法,評価を含めて考えることで ある。Watanabe, Takahashi & Yoshida(2008) は,教材研究の過程を「数学の理解」「教育課程 の系列と範囲の理解」「生徒の数学の理解」「適切 な授業課題,活動,具体物の探究」の4つの項目 に分類してモデル化(図2)している。ここでは, 教材研究を教材や内容だけではなく,生徒の理解 や教育課程など,より広く捉えていることがわか る。そして,4つの項目が相互に関連しながら「教. 図1 授業研究の構成要素と過程 藤井(2014). 材研究」が進み,最終的に「授業設計」へと繋が るプロセスが提示されている。すなわち,「教材. 109.
(5) 石 井 洋. 研究」は「授業設計」の前段階であり, 「授業設計」. 佐々木(2013)は,わが国にさまざまな教材研究. は「教材研究」の帰着点であるという前後関係が. 論があるとしながらも,教材研究は教材開発を含. 確認できる。 「授業設計」は「教材研究」の成果. めて授業を実践するための個人的な準備であると. を授業の形に集約させていく過程とも言える。. している。また,教材研究が射程としている教師 の知識について,教科内容の知識(SMK)だけ ではなく,教授学的知識(PCK)も含めており, 子どもが学ぶ立場から,教材を構築することであ り,学習内容と過程,あるいは対象と方法を結び 付けることであると説いている。 岡崎(2013)も教材研究とBallら(2008)が提 唱した「指導のための数学的知識」を関連させて 論じている。Ballらの枠組みでは,教材研究がや. 図2 教材研究の過程(Watanabeら,2008). や指導法に偏ることを指摘した上で,Silverman ら(2008)の指導のための数学的知識の研究を挙. では, 「授業設計」と「学習指導案」にはどの. げ,教材研究の本分として教材の本質や系統性を. ような相違点があるのであろうか。 「学習指導案」. 理解することを説いている。この2つの枠組みを. には,次のような項目を記述するのが一般的であ. 「数学性を帯びた指導知」と「数学知の教授学的. る。1)単元名,2)単元の目標,3)評価規準,. 変換」とし,教材研究の縦糸-横糸の関係を表し. 4)教材観, 5)児童の実態,6)指導の手立て,. ていると主張している。すなわち,数学的な「教. 7)単元の系統,8)指導・評価計画,9)本時. 材」の研究を主体とした枠組みと数学の指導過程. の狙い,10)本時の展開,11)評価,12)板書計. において必要となる「指導知」の研究の枠組みが. 画(藤井,2014). 教材研究の基盤となっているという考えである。. このように, 「学習指導案」に記述する項目は「教. これは,Ballら(2008)の枠組みに対して,教材. 材研究」の内実とほぼ一致する。すなわち「教材. 研究の過程を明示している。. 研究」と「授業設計」は教師による思考の過程で あるが, 「学習指導案」はそれが一定の様式によっ て書面に表現されたものということができる。違. 授業研究の過程 共通的 内容知. う表現をすれば「教材研究」と「授業設計」はプ ロセスであり, 「学習指導案」は成果物としての. 水平的 内容知. 性質があるということになろう。. 専門的 内容知. 内容・生徒 の知. 内容・指導 の知. 内容・カリ キュラム の知. 図3 Ballら(2008)を基に筆者作成. 4. 数学教育における教材研究に関する研究 の動向. 教授学的内容知. 教科の知. 「教科の知」,つまり3つの数学的な内容知か. 近年,数学教育研究におけるわが国の教材研究. ら教材研究を進めていくか,もしくは,「教授学. に関する議論が,日本数学教育学会第1回春季研. 的内容知」,つまり生徒,指導,カリキュラムの. 究大会(2013)及び全国数学教育学会第39回発表. 知から教材研究を進めていくかの違いである(図. 会(2014)において行われている。そこでは,教. 3)。. 師教育研究の視座から,算数・数学を教えるため. 一方で,図2で提示したWatanabeら(2008). の知識(Ballら, 2008)に焦点が当てられている。. の教材研究の4つの分類は,Ballら(2008)の提. 110.
(6) 授業研究における数学教師の授業設計に関する一考察. 示している「指導のための数学的知識」と各々の. 素の整理の必要性を指摘している。次節では,こ. 項目で表現は異なるものの,その対応した関係が. の「目標・内容・方法・評価」に着目し,近年の. 見出せる。Watanabeら(2008)のモデルの大き. 数学科授業設計に関する実践研究の実態を捉えて. な特徴は, 「教材研究のプロセス」という言葉を. いく。. 用いながらも,その順序性については,教材研究 の主体者である教師の裁量に任されているという ことを矢印を用いて示している点にある。そこで は,教材研究を始めるに当たってどの項目を最初. 5.数学教育における授業設計に関する実践 研究の動向. に考慮するかなどは射程としておらず,各教師の. 本節では,数学教育における授業設計に関する. 教育的価値に基づいた教材研究の特性を明示して. 実践研究の実態を解明するため,日本数学教育学. いるといえよう。それを教材研究モデルの中に組. 会が毎年夏季に実施している全国大会の研究内容. み入れ,頂点に置くことで顕在化したのが藤井. に着目して,これまでの研究の動向を捉えていく。. (2012)のモデルである(図4)。. 全国算数・数学研究大会は,全国から集まった小 学校,中学校,高等学校の教師が主として参加し ており,研究の内容に応じて分科会に分かれ,日々. 教育学的価値. の授業実践を基にした研究発表を行っているもの である。そのため,現在の教師がどのような教育 学的価値に基づいて授業設計をしているのか,そ. 教育課程の系列 と範囲の理解. 生徒の数学 の理解. の傾向を捉えることができると考える。本大会は, 校種別に20を超える分科会に分かれているが,数 学教育研究において主要な研究領域とされている. 数学の理解. 適切な授業課題, 活動,具体物の探究. 図4 三次元教材研究過程モデル(藤井, 2012). 「目標」「内容」「方法」「評価」に集約する形で 分類した1)。2012年から3年分の研究発表本数を 校種別,研究領域別に集計した結果,表2のよう になった。. このモデルでは, 「教育学的価値」を他の構成 要素と同じ次元ではなく,1つ高い次元でモデル. 表2 日数教全国大会の研究発表本数(2012年~2014年). 化していることに特徴がある。藤井(2012)は,. 2012. 「価値の吟味こそ規範学としての数学教育学が担. 2013. 2014. 合計. 小. 中. 高. 小. 中. 高. 小. 中. 高. う役割である」として, 「教育学的価値」から始. 目標. 8. 8. 8. 0. 4. 8. 8. 5. 3. 52. 動する有機体としての教材研究モデルを主張して. 内容. 79. 79. 42. 55. 64. 38. 63. 64. 43. 527. いる。すなわち,各構成要素が「教育学的価値」. 方法. 102. 61. 62. 66. 50. 19. 74. 41. 26. 501. を前提に成り立っていることから,教材研究は常. 評価. 6. 8. 3. 8. 4. 1. 4. 1. 3. 38. に各構成要素と「教育学的価値」の往還によって. その他. 14. 15. 33. 6. 9. 15. 6. 8. 18. 124. 行われているということになろう。 一方,飯田(2013)は,藤井(2012) ,Watanabeら. 全体的な傾向としては,4つの研究領域におい. (2008)のモデルに対して,日本の教材研究の柱. て「内容」「方法」に偏った研究発表がなされて. である「目標・内容・方法」とこれらの要素とが. いることが明らかとなった。「内容」は,各校種. どう関連しているのかについては明らかにされて. の領域毎(小学校であれば,数と計算,量と測定,. いないとし,数学教育における教材研究の構成要. 図形,数量関係)に複数の分科会が設定されてお. 111.
(7) 石 井 洋. り, 最も多くの研究発表が行われている。「方法」. しているかという視点については不十分であっ. については, 「学習指導法」が最も多く,「問題解. た。しかし,今回,近年の実践研究の動向を整理. 決」 , 「数学的な考え方」等でも多数の研究がなさ. したことによって,幾つかの特徴を浮かび上がら. れている。校種別でみると,小学校は「方法」が. せることができた。まず,わが国の教材研究は,. 最も多く,中学校・高校では「内容」に関する研. 「目標」「内容」「方法」「評価」の4項目を均質. 究発表が多くなっていた。. に捉えているのではなく,各教師の教育学的価値. その中でも注目すべき点は, 「目標」と「評価」. によって比重の置き方に多様性があるということ. に関する研究発表が著しく少ないことである。 「目. である。また,わが国では特に「目標」と「評価」. 標」の研究領域が少ない背景には,白水・三宅. を軸に据えた実践研究が相対的に少なく, 「内容」. (2008)が指摘している日本の教育システムに内. 「方法」に主眼を置いている傾向にある。数学教. 在する社会文化的制約が関係していると考えられ. 育研究においては,数学教育の目標や学習者の認. る。すなわち,日本の画一的な学習指導要領や検. 知・認識論に関する研究も活発に行われている. 定教科書の存在により,目標やカリキュラムにつ. が,実践研究においては,その研究領域の進展に. いては,個々の教師が問い直す必要がないという. 課題が残されているといえよう。. ことであろう。本大会において「目標」に関する 研究発表が少ないのは,そうした影響が大きいと 考えられる。一方,「内容」については,「目標」. 6.おわりに. とともに学習指導要領によって規定されている. 本稿では,まず授業研究の構成要素を明らかに. が, 研究が数多くなされている状況である。白水・. した上で,課題とされている研究授業前の計画段. 三宅(2008)は,目標や内容が学習指導要領によっ. 階に焦点を当て,「教材研究」「学習指導案」 「授. てはっきりしているので,日本の授業研究におい. 業設計」という用語を明確化した。特に「教材研. ては“How-to”に集中すると指摘している。し. 究」に関する議論は近年盛んにおこなわれており,. かし実際には,教科教育研究において,その固有. それらを比較することで「教材研究」の構成要素. 性に関わる「内容」については,教師たちの価値. の特定を試みた。教師教育研究の進展から, 「指. が高いことが窺える。. 導のための数学的知識」と関連させて論じる傾向. 一方で, 「評価」に関する研究発表が少ない状. が強く,「Lesson Study」と同様に諸外国の関心. 況も明らかとなっている。 「指導と評価の一体化」. が日本の「教材研究」へと向かっている。その際,. という言葉が学習指導の実践において頻繁に用い. これまでのように「kyozai-kenkyu」というので. られているが, 「評価」に着目した研究は例年数. はなく, 「Instructional Material Study」 (Watanabe. えるほどしか行われていない。学習者の実態把握. ら, 2008)のように国外への発信力の伴った表現. ということに重きを置き,学習指導案作成の際は. を今後考慮していく必要あるだろう。. 必ず項目として取り上げて検討しているはずであ. また,藤井(2014)が指摘しているように,授. るが, 「評価」における実践研究はなかなか研究. 業研究の特徴は「問い」から始まる点であり, 「問. の俎上に上がっていないのが現状である。. い」は教育学的規範と目の前の児童生徒の実態の. ここで,藤井(2012)の教材研究モデルについ. ギャップから生まれるものである。今後は本稿で. て飯田(2013)が投げかけていた「目標」 「内容」. 明らかとなった「評価」の実践研究が研究の俎上. 「方法」との関連性について整理したい。渡辺. に上がらない現状を反省的に捉え,学習者の実態. (2012)も指摘するように,これまでの教材研究. 把握や評価の在り方を主軸にした教材研究の在り. の理論的モデルでは,教材研究に関するこれらの. 方をより一層深く考察していくことも課題といえ. 知識をどのように活用して教師が授業をデザイン. よう。. 112.
(8) 授業研究における数学教師の授業設計に関する一考察. 註 1) まず, 校種別に各分科会の発表本数を調査し, それぞれの分科会の内容を研究領域に分けてい くことで,その総数を出した。発表本数とした が,ポスターセッションの数は除いている。. (Eds.), The international handbook of mathematics teacher education: Vol. 2, Tools and processes in mathematics teacher education, pp.85-106 秋田喜代美. (2008) . 『授業の研究 教師の学習 レッスン スタディへのいざない』 ,明石書店 飯田慎司. (2013) . 「算数・数学教師教育における教材研 究の理論化に向けて」『第1回春季研究大会論文集』 pp.191-194 石井洋. (2011) . 「ザンビア授業研究における教師の技術. 引用・参考文献 Ball, D. et al.(2008). Content knowledge for teaching: What makes it special? Journal of Teacher Education, 59, pp.389-407 Diane, H. & Joan, M. (2011). Examining Change in Teacher Mathematical Knowledge Through Lesson Study, Lesson Study and Practice in Mathematics Education, pp.59-77 Döhrmann et al. (2012). The conceptualisation of mathematics competencies in the international teacher education study TEDS-M Hart et al. (2011). Final Thoughts, Lesson Study Research and Practice in Mathematics Education, pp.289-290 Silverman, J. and Thompson, P. (2008). Toward a framework for the development of mathematical knowledge for teaching. Journal of mathematics Teacher Education, 11, pp.499-511 Lewis, C.(2002). Lesson study: A handbook of teacherled instructional change. Philadelphia, PA: Research for Better Schools. Lewis, C., Perry, R., & Hurd, J. (2009). Improving mathematics instruction through lesson study: a theoretical model and North American case, Journal of Mathematics Education, 12 pp.285-304 Stigler, J.W. & Hiebert, J.(1999). The teaching gap: Best ideas from the world’ s teachers for improving education in the classroom. The Free Press UNESCO.(2011) . Ensuring quality by attending to inquiry: Learner-centered pedagogy in sub-Saharan Africa, UNESCO Watanabe, T., Takahashi, A., Yoshida, M.(2008) . Kyozaikenkyu: A Critical Step for Conducting Effective Lesson Study and Beyond. Inquiry into Mathematics Teacher Education, pp.131-142 Yoshida, M.(2008). Exploring Ideas for a Mathematics Teacher Educator’ s Contribution to Lesson Study: Towards Improving Teachers’Mathematical Content and Pedagogical Knowledge, In D. Tirosh & T. Wood. 的側面・資質的側面の変容」 『アフリカ教育研究』2, pp.55-64 岩崎秀樹・真野祐輔. (2011) . 「授業研究を通した数学教 師教育の課題と展望」,『日本数学教育学会第34回数学 教育論文発表会課題別研究部会』pp.61-68 岡崎正和. (2013) . 「算数・数学科教材研究に含まれる教 師の知識の様相について-数学教育学研究の課題にす る為に-」 『第1回春季研究大会論文集』pp.195-200 国際協力機構. (2007) . 『JICA理数科教育協力にかかる 事業経験体系化研究報告書-その理念とアプローチ-』 坂本篤史・秋田喜代美. (2008) . 「授業研究協議会での教 師の学習-小学校教師の思考過程の分析-」『授業の研 究 教師の学習 レッスンスタディへのいざない』,明石 書店,pp.98-113 佐々木徹郎. (2013) . 「わが国の算数・数学教師教育にお ける教材研究」『第1回春季研究大会論文集』pp.187190 白水始・三宅なほみ. (2008) . 「学習科学からみたレッス ンスタディ」『授業の研究 教師の学習 レッスンスタ ディへのいざない』 ,明石書店,pp.202-207 杉野本勇気. (2012) . 「数学教師教育のための授業研究の 方法論に関する検討-数学教育研究を基盤とした取り 組みに向けて-」『数学教育学研究』,18-2,pp.153160 髙橋昭彦. (2011) . 「算数数学科における学習指導の質を 高める授業研究の特性とメカニズムに関する考察-ア メリカにおける10年間の試行錯誤から学ぶこと-」 『日 本数学教育学会誌』 ,93-12,pp.2-9 辰野千壽・他(2006) 『教育評価事典』図誉文化 田中義隆. (2011) . 『レッスンスタディは授業の質的向上 を可能にしたのか』 ,明石ライブラリー 中村光一. (2013) . 「算数・数学科授業研究の背景にある 考え方-研究協議会での議論の分析を通して-」 『数学 教育学論究臨時増刊』95,pp.241-248 日本数学教育学会. (2012) . 『日本数学教育学会誌臨時増 刊第94回大会特集号(福岡大会) 』 ,日本数学教育学会 日本数学教育学会. (2013) . 『日本数学教育学会誌臨時増 刊第95回大会特集号(山梨大会) 』 ,日本数学教育学会 日本数学教育学会. (2014) . 『日本数学教育学会誌臨時増 刊第96回大会特集号(鳥取大会) 』 ,日本数学教育学会. 113.
(9) 石 井 洋. 橋本重治(1976)『新・教育評価法総脱』金子書房 橋本吉彦・坪田耕三・池田敏和.(2003).『今,なぜ授業 研究か-算数授業の再構築』,東洋館出版社 馬場卓也.(2005).「授業研究」『日本の教育経験 途上国 の教育開発を考える』,pp.271-283,東信堂 馬場卓也・中井一芳.(2009).「国際教育協力における授 業研究アプローチの可能性-ザンビアの事例をもとに -」,『国際教育協力論集』,12-2,pp.107-118 馬場卓也.(2014).「数学教育の内発的発展へ向けたプロ セス重視の国際協力アプローチ」『日本数学教育学会 誌』96⑺,20-23 藤井斉亮.(2012).「理論構築の萌芽領域としての授業研 究-Lewis(2009)の理論的モデルの検討-」『第45回 数学教育論文発表会論文集』1,pp.31-40 藤井斉亮.(2014).「授業研究における学習指導案の検討 過程に関する一考察」『日本数学教育学会誌算数教育 96-10』63-5,pp.2-13 松田菜穂子(2013)「授業研究と協議を通じたアフリカ教 師教育者の授業観の変容-問題解決型の授業に焦点を 当てて」『数学教育学論究臨時増刊』95,pp.329-336 文部科学省. (2008). 『小学校学習指導要領解説 算数編』 , 東洋館出版 渡辺忠信.(2012).「数学教育研究の国際化:アメリカか ら見た日本の数学教育研究」『第45回数学教育論文発表 会論文集』. . 114. (函館校講師).
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