看図作文の授業開発(ⅩI) : ストーリーコーチング機能を高めた絵図の作成
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. 看図作文の授業開発(H) −ストーリーコーチング機能を高めた絵図の作成−. 鹿内 信善・石田 ゆき*・鬼玉 重嘉**・栗原 裕一***. 北海道教育大学札幌枚教育心理学研究室 *北海道教育大学岩見沢枚美術教育研究室 **札幌市立藻岩北小学枚. 軸一潮来市立津知小学校. DevelopmentofCompositionClassDesignbyAdopting. theFigurative−Sign−interpretationApproach(XI) SHIKANAINobuyoshi,ISHIDAYuki*, KODAMAShigeyoshi**andKURIHARAYuichi*** DepartmentofEducationalPsychology,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofArtEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation ** MoiwakitaElementarySchool,Sapporo *** TsuchiElementarySchool,Itako. 概 要 看図作文は,中国の国語(語文)教育で盛んに行われている作文指導方法である。筆者らは,中国式の看 図作文に心理学等の研究成果を取り入れた「新しい看図作文」を提案し,その授業方法開発を進めてきた。 本研究も,一連の授業開発研究の中に位置づけられる。本研究では,ストーリーコーチング機能を高めた絵 図を作成し,それを用いた看図作文授業を碇案する。また「争いを処理し解決する能力」育成に貢献する授 業づくりも試みる。. Ⅰ.問 題 ストーリーコーチング. 筆者らが開発してきた看図作文では,物語作文. を書かせなければならないのだろうか。物語を書 くこと,あるいは物語ることの意義については, これまで数多くの考察がなされてきている。 例えばAtkinsonは,次のように述べている。「ス. を書かせることが多い。また,新しい学習指導要. トーリーはまた自己発見のための道具でもある。. 領(文部科学省2008)でも,物語を書くことが国. つまり,ストーリーは,語らなかったら気付くこ. 語の指導内容に含まれている。では,なぜ,物語. とのない私たち自身の新たな面を教えてくれる。. 337.
(3) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. (Atkinson邦訳2006,p.3)」さらにBrunerは, 次のように述べている。「私がここで示唆しよう としているのは,ストーリーは次のようなことを. p.18)」大切である。このように整理してみると,. 筆者らがこれまでに開発してきた看図作文の授業 (鹿内2003,鹿内他2007a,2007b,2007c,200ぬ,. なすという点である。すなわち我々は,自身が『現. 2008b,2008c,2009a,2009b,2009c,2009d,. 実世界』について語るストーリーにあわせて『現. 伊藤他2009)は,効果的なストーリーコーチング. 実世界』を考えるようになるということになる。. の方法であると言うことができる。筆者らは,自. (Bruner邦訳2007,p.137)」. つまり物語(ストーリー)は,自己や現実世界. 然にストーリーがうまれてくるような絵図の工 夫,教示の工夫を数多く蓄積してきた。これらの. を理解するための重要なツールになると考えられ. 工夫はストーリーコーチングの手法そのものであ. ているのである。このため,物語は,様々な領域. る。. で活用されている。McLeodは,「物語ることを. 今後も,ストーリーコー. チングを意識した看図. 認識の一方法として位置づけ(McLeod邦訳2007,. 作文の授業開発を続けていくことが大切になる。. p.53)」た心理療法を展開している。. 本論文でも,まず,自然に物語(ストーリー)が. Wortmannは,ビジネスコミュニケーション. うまれてくるような,ストーリーコーチング機能. に物語を活用している。彼は次のように主張して. をもった絵図を作成する。さらにその絵図を用い. いる。「リーダー自身の成功と失敗のストーリー. た授業モデルを碇案していく。. こそが業績を向上させるための強力な武器となる. 看図作文による活用力の育成. …。自分の経験をストーリーにして成功につなげ. 現在「活用型の教育」が,教育改革のキーワー. ることが,優れたリーダーが求められる資質だと. ドになっている。看図作文はPISA型リテラシー,. いっても過言ではありません。(Wortmann邦訳. とくに非連続型テキストのリテラシー育成に活用. 2008,p.6)」さらにWortmannは,ストーリー. できる。筆者らはこのことを繰り返し指摘してき. を語ることをスポーツに例えている。スポーツ選. た。PISA型リテラシーにはOECDのDeSeCo. 手にコーチが必要なように,ストーリーを語るこ. プロジェクトが提案する「キー・コンビテンシー」. とにもコーチが必要なのである。この考えに基づ. の考え方が大きく反映されている。DeSeCoで. きWortmannは「IGNITE」と彼がよぶ,ストー. はコンビテンシーを次の3つのカテゴリーに分類. リーコーチモデルを提案している。しかし残念な. している。カテゴリー1一相互作用的に道具を用. ことに,このモデルはビジネスをフィールドにし. いる。カテゴリー2一異質な集団で交流する。カ. たものであり,教室での活用は難しい。. テゴリー3一自律的に活動する。「PISAの読解. Wortmannのモデルを教室にそのまま持ち込 むことはできない。ただし,物語づくりをコーチ. 力(readingliteracy)と数学リテラシー (mathematical1iteracy),およびALLで定義さ. する「ストーリーコーチ」あるいは「ストーリー. れた計算リテラシー. コーチング」という考え方は注目に催するもので. が提案するカテゴリー1の「キー・コンビテン. ある。菅原は,コーチングを次のように定義して. シーを具体化したものである。(OECD邦訳2006. いる。「『知っていること』と『知っていること』. p.211)」. を結びつけ,『知っていること』と『新しい情報』. (numeracy)は」DeSeCo. 上述したように看図作文は,カテゴリー1の. を結びつけ,これまでにない『結果』を作り出す. キー・コンビテンシーとくにリーディングリテラ. のがコーチングです。(菅原2003,p.19)」また,. シー育成に活用しうるものである。本研究ではさ. コーチングでは「一方的にああしろこうしろと教. らに,カテゴリー2のキー・コンビテンシーも育. え込むのではなく,相手の中の眠っている能力を. 成可能な看図作文用絵図と授業システムをつくっ. 引き出し,それを高めていくことが(菅原2003,. ていく。. 338.
(4) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). DeSeCoのキー・コンビテンシー「カテゴリー. まれる条件を次のように考えている。「事態の激. 2」は次の3つの内容からなっている。「A 他. 変,つまり状況の転換は,日常の一連の出来事を. 人といい関係を作る,B 協力する。チームで働. 速やかにストーリーに変える。(Bruner邦訳2007,. く,C 争いを処理し,解決する(OECD邦訳. p.5)」事態の激変は,人に驚きを与える。人は,. 2006,p.213)」。. その驚きと折り合いをつけるためにストーリーを. 本研究では,この中の「C」に焦点を当ててい. つくっていく。これがBrunerの基本的な考え方. く。「C」には,次の能力が含まれると考えられ. である。このことについてBrunerは次のように. ている。「個人が争いを処理し解決する積極的な. 述べている。「ストーリー作りは,人のもつ驚き. 役割を担うために,以下の能力が必要となる。/. や奇妙さと折り合いをつけるための手段であり,. ●できるだけ異なる立場があることを知り,現状. そうした状態についての我々の不十分な理解に対. の課題と危機にさらされている利害(例えば,権. 処するための手段である。ストーリーは予期せぬ. 力,メリットの認識,仕事の配分,公正),すべ. ことについて驚きや奇異感をより小さくする。つ. ての面から争いの原因と理由を分析する/●合意. まり,ストーリーは予期せぬことを文化になじま. できる領域とできない領域を確認する/●問題を. せ,それに普通の状態としての輝きを与えるので. 再構成する/●進んで妥協できる部分とその条件. ある。(Bruner邦訳2007,p.120)」. を決めながら,要求と目標の優先順位をつける (OECD邦訳2006,p.215)」。 本研究ではさらにこれを,次の2つにしぼりこ む。「異なる立場があることを知る」「問題を再構. 成する」。本研究では,これら2つの能力育成に. 本研究では,このような驚きを与える絵図を作 成していく。またそれを用いて「異なった立場が あることを知る」「問題を再構成する」等の能力 を育成する授業を組み立てていく。. 本研究は,筆者らが行ってきた一連の看図作文. 活用可能な看図作文用絵図を作成し,それを用い. 授業開発研究の中に位置づけられる。このため授. た授業方法を開発していく。そのことにより,争. 業の中で学習者に看図作文を書いてもらう。本研. いやいじめなどに対応できる能力育成に貢献して. 究は看図作文授業のひとつのバリエーションの提. いきたい。. 案にもなっている。. Ⅱ.大学生に対する実験授業 Ⅰ−1 目 的 ストーリーコーチング機能をもち,かつ,「争. Ⅰ−2 授業の実際 Ⅰ−2−1 授業者・学習者等 授業者は,本論文第1筆者鹿内・学習者は鹿内. いを処理し解決する能力」育成に貢献可能な絵図,. の「発達と学習」を受講している北海道教育大学. を作成することが第1の目的である。また,その. 岩見沢校芸術コースの学生である。当日の出席者. 絵図をつかった授業モデルを考案することが第2. は84名であった。. の目的である。この2つは,本論文全体を通して の目的でもある。 本研究では,ストーリーコーチング機能を,次. この授業は常に小集団協同学習スタイルで行っ ている。そのため,この実験授業も小集団協同学 習スタイルで実施した。なお,本研究で用いてい. のように考えておく。「ああしろこうしろと教え. る絵図は,全て本論文の第2筆者右出が制作した. 込むことなく,学習者の中からストーリーを引き. オリジナル作品である。. 出していくはたらきかけ。」看図作文授業では学. Ⅰ−2−2 授業の概略. 習者からストーリーを引き出していくためには,. 授業のポイント. まず絵図の中になんらかの工夫を取り入れていか なければならない。Brunerは,ストーリーがう. 本実験授業では3枚の絵図を用いる。これらの 絵図には,1枚目から2枚目にかけて,2枚目か. 339.
(5) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. ら3枚目にかけて,それぞれ「事態の激変」を描. 2枚日給図呈示. き込む工夫がしてある。2枚目,3枚目で事態が 激変する。そのため,絵図が呈示される度に,学. 習者は「えー!」という驚きの声をあげる。この 本実践を行う前に何度か予備実践を行っている。 その結果,絵図に描き込まれている「事態の激変」 を「えー!」という驚きにつなげていくために,. 3枚一括呈示しない方がよいことがわかってい る。用意した3枚の絵図は1枚ずつ呈示していく。 これがこの授業を進めていく上でのポイントであ る。. ⑥yuki.ishida. 図2 2枚目の絵図. 1枚日給図呈示. 図2を配布し次の教示を与える。 こうなりました。このお話は,次どのように. なると思いますか。絵に描かれていることを根 拠にして予想してください。 ここでも話し合いが一段落したら何人か指名し 発表させる。 3枚目絵図呈示 ⑥yuki.ishida. 区= 1枚目の絵図. 図1を配布し次の教示を与える。. この絵の中でどんなことが起こっています か。次にどうなると思いますか。絵に描かれて いることを根拠にして話し合ってください。. 話し合いが一段落したら何人か指名し,各蛙で 話し合った内容を発表させる。. ⑥yuki.ishida. 図3 3枚目の絵図. 図3を呈示し,次の教示を与える。. このようになりました。このお話からみなさ んはどんな教訓を得ましたか。感じ取ったこと を話し合ってください。 ここでも,話し合いが一段落したら,何人かに. 発表させる。また次の「教訓シート」を配布し自. 340.
(6) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). 分が感じ取った「教訓」を書いてもらう。. 型は,学習者にとってなじみのあるものである。 そこでここでは,「こういうお話を読んだ。その. 教訓シート. いま見た一連の絵から,あなたはどんな教訓 やメッセージを感じ取りましたか。どんなこと でもいいです。感じ取ったことを,できるだけ たくさん箇条書きにしてください。. あらすじを紹介する。」という設定にしてお話を 書かせている。これは,看図作文の書かせ方とし ては新しい試みである。ただし,実際に学習者が 行うのは「絵図を読み解いて作文を書いていく」. という看図作文を書く基本的活動である。本実験 授業では,作文を書かせる設定は新しくしつつ,. (以下記入欄省略). 1枚日給国宝示からこの教訓シート記入までの 所要時間は約30分である。 作文記述. 教訓シート記入後,次のような作文シートを配. 看図作文を書くための基本的な活動はきちんと行 わせている。 また②では自分で書いたお話に自分で感想を書 くという新しい試みを行っている。しかし,この. 感想は「教訓シート」にあらかじめ書いておいた. 布し記入してもらう。. 内容をもとにしている。したがって「読後の感想」. 作文シート記入教示. という形をとっているが,実際には物語を読む前. 課題 以下の2つの課題を行ってください。 一連の絵を基にして,自分なりのお話を作っ てください。それを,(丑の欄に書いてください。. ②の欄には,教訓シートに記入したことを書 いてください。あなたが一連の絵を見て感じ. 取った教訓やメッセージを,読後感想文風にま とめなおしてください。教訓シートに書かな かったことを書き加えてもかまいません。. (書く前)にこの感想を書いていることになる。. 文字で善かれた物語を読む前に読後の感想を書い てしまうという,まったく新しい試みもここでは 取り入れている。. 最後の「◎」欄は,授業全体に対する「ふりか えり」記述欄である。以後,この欄への記述内容. は「ふりかえり」という名称で紹介していく。① は「作文」,②は「感想文」という名称で紹介し ていく。. 作文シート記入項目. ①わたしは今日,次のようなお話を読みました。 まず,お話の概略を紹介します。 (以下記入欄省略). ②このお話を読んで,わたしは次のようなこと を感じました。. 以上の作文シートの記入に約35分要している。 したがって今回の授業全体に要した時間は合計約. 65分である。また次時に1名の作文をコピー配布 し全体でのシェアリングも行った。. Ⅱ−2−3 授業の結果とその評価 ここでは,いくつかの事例を抽出紹介しながら,. 作成した絵図および授業展開の適切性を評価して. (以下記入欄省略). ◎このようにして絵を見ること,話し合うこと,. 作文を書くこと,についての感想を書いてくだ さい。 (以下記入欄省略). この作文シート記入項目はB4版横置き2段観 で印刷してある。. 今回の授業では,昔話「浦島太郎」のモチーフ を絵図の中に取り込んである。「浦島太郎」の話. いく。. 本論文は,新しく開発した看図作文の授業にっ いての報告である。したがってまず,今回作成し. た絵図と授業展開によって,学習者がどんな看図 作文を書いてくれたかを見ておく必要がある。ま た,今回の実験授業では,自分でつくったお話を もとに自分で読書感想文を書くという新しい試み. も取り入れている。学習者はどんな看図作文を書 き,どんな読書感想文を書くのか,大学生1を抽. 341.
(7) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. 出学習者にして見ていく。 大学生1の作文 秋の訪れを感じさせる,肌寒い朝だった。こ. のだろうか。こんな世の中,変えなくては……! 私は引き金に指をかけた。「まずはお前からだ」 と私は一番ズルそうな顔をした子どもに銃口を. の日私は,やたらとかぼちゃプリンが食べたく. 向けた。. なり,いつもよく利用する00マートに行くこ. その瞬間,カメが立ち上がり子どもの前で壁を. とにした。. 作った。. 00マートのプリンは他の店とは全然違う。. 「な…なに!?」. 比べものにもならない。でも少しばかり値がは るので,月に1度給料日にしか買えないのだ。 トロトロでまろやか…考えただけで心がはず. 大学生1の感想文. 自分にいやなことをした相手でも,危険な状. む。そんな事を考えながら,海沿いの道を歩い. 況におちいった場合には助けてあげるのが人の. てゆく。朝方の潮風は実に気持ち良い。/ト樽も. 道(カメの道)だなあと思いました。また,悪. 悪くない。. いことをしている人を見かけて,それを止めよ. すると,突然前方から何ともけたたましい鳴. うとするのはよいことだけど,その手段として. き声が聞こえてきた。「ピヨレーピヨーレエ」. 悪いことをしてしまっては正義ではなくなって. あまりに悲しげなその声に,私はいても立って. しまうと思いました。. もいられなくなり,走って声のもとに向かった。 すると,何ということだろう。/トさな子ども三. 人が,よってたかって大きなカメをいじめてい たのだ。あのカメはたしか,私が昔,付き合っ. ていたミチコがかわいがっていたカメだ。あん な大きい外来種,ミチコが飼っていたカメ以外 ありえないだろう。. 子ども達は実に楽しそうにカメをいたぶって いる。その様子を見つめながら,ミチコのこと. を思い出していた。いつも自己中心的で無責任. 大学生1の作文は,今回の実験授業で産出され た作文の中で,最もユニークで面白いと筆者らが 評定したものである。大学生1のこの作文はプリ ントして,次時に学習者全員でシェアリングした。 シェアリングのあと,この作文に対するコメント を全学習者に書いてもらった。大学生2は,この 作文に対して次のコメントを寄せてくれた。 大学生2のコメント. この課題を出された時に,自分は絵に出てく. な女だった。人のせいにばかりする,どうしよ. る登場人物だけ登場させたらいいや,と思い文. うもない奴。ミチコのことを思い出すと自然と. 章を作りました。すると意外性のあるストー. 怒りがこみあげてくる。それに加え,たった今,. リーを書いてやろうと頑張りましたが,ありき. 子どもがカメをいじめている。こんな朝っぱら. たりな話になってしまいました。00さんのよ. から。せっかく数分前まであんなにすがすがし. うに登場人物を増やして,第1場面よりも前の. い,さわやかな気分の朝をすごしていたのに…。. 回想などを取り入れてると,さらに話が広がり,. 私はこらえきれない怒りにかられ,気づいた ら一昨日カルロスから買ったピストルを子ども 達に向けていた。 「動物ぎゃくたい反対」そう叫ぶと子ども達 は震えあがり,後ずさりをした。じりじりと子 どもにつめよる。 どいつもこいつもどうしてこんなに非常識な. 読んでいる方も楽しめると分かった。素晴らし い作品だと思います。. 看図作文では,絵図を「看て」作文を書いてい く。筆者らは,絵図を看ることは,変換・要素関. 連づけ・外挿の3つの活動からなると考えてい る。これらの活動の詳しい説明は,鹿内(2003). などですでに行っている。そのためここでは詳述. 342.
(8) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). しないが,外挿活動については再び説明しておく。 外挿とは,テキスト中でかかれている内容を超え て,発展的に考える活動である。大学生1の作文 では,この外挿活動が効果的になされている。大. 学生2のコメントは,そのことを指摘しているの である。. 看図作文の授業では,学習者は多様な外挿活動 を行ってくれる。そのことにより,それぞれの学. 習者が,独自性の高い作文を書いていくことがで きる。大学生1以外にも,多くの学習者がユニー クな作文を書いてくれている。次に,大学生3を. せず,僕に悲しい目をしてみせた。「やめなさ い。」と言われているようだった。 おいおい,そんな目すんなよ。僕はお前を助. けようとしたんだぜ。手段を間違ったとでも言 うのか?そうだな,お前を助けたい一心で気付 かなかった。お前を助けようとした僕が,逆に 悪人かよ。皮肉だな。かっこわり−よ,僕…。. あいつは子どもたちだけでなく,僕のことも 救ってくれた。 大学生3の感想文. 抽出学習者として「作文」「感想文」「ふりかえり」 を紹介していく。 大学生3の作文. ある日,僕は一匹の亀と三人の子どもを目に. 亀,子どもたち,僕(青年)に分けて考えて みようと思う。 まず,亀の行動についてだ。亀は一瞬で人を. 殺すことのできる銃という恐ろしい武器を目の. した。通りがけに目にしたその光景は,目を疑っ. 前にしながらも,パニックにならず,冷静な判. てしまうような光景で,僕は足を止めてしまっ. 断をした。その場合での悪は誰なのか,誰を助. た。なんと子どもたちは言葉を発さない亀をい. け出さなければならないのか。助ける相手が誰. じめて楽しんでいたのだ。「嫌だ。やめて。」な. であろうと自分で判断した悪から救うという行. んて言わない亀に対して,子どもたちは,けっ. 為は誰にでもできるものではない。そして亀は. たり棒でたたいたり,やりたい放題だった。楽. 大きな勇気を見せてくれた。その行動に感心し. しさのあまり無我夢中で,自分たちがどんなに. た。. 悪事をはたらいているのか気付いていないよう だ。. 次に子どもたちについてだが,立場は逆転し, 罰が下された。. 僕は黙って胸に手を当てた。すると,一丁の. 僕は,助ける手段を選ばなければならないと. 銃が…!僕は子どもたちに対する怒りと,亀を. 思った。悪事をはたらく時は自分自身が見えて. 助けてやりたい一心でその銃を子どもたちの方. いないのだ。. へ向けた。「おい,いじめんな。それ以上やっ. たらうつぞ。」子どもたちの表情は一瞬でこわ ばり,だんだんと青くなり,しだいには冷や汗. 大学生3のふりかえり 今日の授業もとても楽しめました。まず,絵. をかきだした。持っていた棒を手離し,いじめ. を見る時は個人個人自分の考えを持ち,話し合. をやめたのだった。. うことにより,たくさんの意見を聞けて意見の. しかし,僕が驚いたのはいじめをやめた子ど. 幅が広がります。他人の意見にも刺激されつつ,. もたちの行動ではない。なんとつい先程までそ. また作文を書くことは三段階で自分の考えと向. の子どもたちにいじめを受けていた亀が,銃を. き合うことができて,とても良いことだと思い. 見るなり立ち上がったのだ。そして自分の身を. ました。. はってでも子どもを守るとでも言うように子ど もたちの前に立ちはだかったのだ。子どもはべ そをかき亀の後ろに隠れた。亀はおじけづきも. 本研究の目的のひとつは「争いを処理し,解決 する能力」を育成する看図作文用絵図を作成する ことであった。「争いを処理し,解決する能力」. 343.
(9) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. として,とくに「異なる立場があることを知る」「問. 題を再構成する」という2つの能力に焦点を当て た。 大学生3は,感想文の中で「亀」「子どもたち」. 「僕」それぞれの立場で問題を分析している。今 回筆者らが作成した絵図は,異なる立場からもの ごとを考える活動を引き出すことができる。大学 生3の感想はそのことを例証してくれている。. 大学生3はさらに,「問題を再構成する」とい う作業も行っている。大学生3の物語作文の中で 「僕」は最初,子どもたちの「悪」から亀を助け るための行動を起こす。しかし最後には,亀を「助 けようとした僕が,逆に悪人」であるということ に気付いていく。大学生3の作文は,「子どもた ちが悪である」という問題が「僕も悪である」と いう問題に再構成されていく物語になっている。. 大学生3はふりかえりの中でも大切なことを指 摘してくれている。この実験授業は小集団協同学 習スタイルを採用している。大学生3のふりかえ りは,小集団協同学習の有効性を支持してくれる 内容になっている。鹿内(2009)でも紹介してい るが,看図作文は協同学習のツールとしてきわめ て活用可能性が高いものである。. 今回作成した絵図が「争いを処理し,解決する 能力」の育成につながっていくものであることを 例証する事例として,さらに,大学生4の作文と 感想文・ふりかえりを紹介していく。 大学生4の作文. ある所に,3人の子供と,1匹の亀が住んで. 景を毎日見ていて,見るたびに心を痛めていた 青年,カレーラスはついに決心をしました。「亀 を助けるぞ!」と。 まず,カレーラスは,どのようにすればやめ. させることができるのか考えました。考えて, 考えて,考えました。そして,やっとのことで. 思いついたのは恐怖と脅迫をつかい,子供を追 い払うことでした。. そして,彼は計画を実行に移しました。 GUNSHOPでまずピストルを買い,その足で, 3人と1匹の所へ行きました。今日もかわらず 3人は亀をいじめています。亀はそのいじめに ずっとたえています。. 3人と1匹の前に立ち,ピストルを抜くカ レーラス。3人の顔は恐怖の色に染まり,血の 気が引いていくのがわかった。. カレーラスが「これで計画は成功だ。亀を助 けることができた。」と思ったその瞬間,さっ. きまでいじめられていた亀が3人をかばってい る。そして亀は「やめて!この3人は僕の友達 なの!」. なんと亀はいじめられていても3人のことを 友達であると思いつづけていたのです。三人の 子供は亀のそのひと言に涙を流し,これまでの 数ヶ月間のことを泣いてあやまりました。亀は 3人のことをゆるして,3人と1匹はまた前の ように仲良くなりました。. カレーラスはフツと笑って,その場をさりま した。. いました。. 3人と1匹はとても仲が良く,いつも一緒に. 大学生4の感想文. 遊んでいました。ところがある日のことです。. ふとしたことで友情にヒビが入ったとしても,. 亀は3人の子供が大切に食べていたサクマ式ド. 思いつづけていればそのキズはなおり,前より. ロップを1人で全部食べてしまいました。子供. も,もっとつよいキズナになるのだと思った。. 達は烈火のごとく怒り,亀をいじめるようにな りました。毎日毎日いじめていると,サクマ式. 私もこのような友情を持ちつづけていたいと 思います。. ドロップのことは忘れ,亀をいじめることに楽 しさをおぼえたのです。. そんな日々が何ケ月かつづいたころ,その光. 344. 大学生4のふりかえり このような授業ははじめてでビックリしまし.
(10) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). たが,とても楽しかったです。今後もこのよう な授業をつづけてほしいです。. OECDは,「争いを処理し,解決する能力」に ついて次のようにまとめている。「家庭や職場, あるいはより大きな地域共同体や社会を含め,争 いは生活のあらゆる局面で生じる。争いは社会的 現実の一部であり,人間関係に固有の部分でもあ る。2人あるいはそれ以上の個人やグループが多 様な要求,利害,目標あるいは価値観を理由に互. いに対立するとき争いが生じる。/建設的な方法 で争いに取り組む鍵は,争いを否定しようとする ことよりも,何かを行うための1つのプロセスと して争いを認識することである。(OECD邦訳 2006,p.215)」. 大学生4は「友情にヒビが入ったとしても」そ こから「もっとつよいキズナ」がうまれると考え. ている。さらに大学生4は感想文を「私もこのよ. 大学生5の作文 これはとある昼さがりの出来事。 海辺で3人の子供達が亀を虐めていました。 そこに一人の若い男性がやってきました。 「怒られるのかな」と少し心配になってきた子 供達。しかし,その子供達の予想とは裏腹に, なんと男性は銃を向けてきました。 生活にむしゃくしゃしていた男性は人殺しを して憂さを晴らそうしていたのです。. すると,驚くことに先程まで子供達に虐めら れていた亀が彼らの盾となり,子供達を守りま した。. そのことによってひるんでしまった男性はひ とつしか込めていなかったたまを外してしまい. ました。発砲音を聞いた近くの住民がすぐさま 警察に通報をし,男性はあえなく逮捕されてゆ きました。 「自分達を守ってくれた亀に対し,なんと酷. うな友情を持ちつづけていたい」という建設的な. 文章で結んでいる。大学生4のこれらの記述は OECDの「建設的な方法で争いに取り組む鍵は, 争いを否定しようとすることよりも,何かを行う ための1つのプロセスとして争いを認識すること である。」という主張を学習者の言葉で言い換え たものになっている。大学生4は,今回の看図作 文に取り組むことによって,「争いを処理し,解. 決する能力」を充分に発揮していると言える。大 学生4の事例も,本研究で作成した絵図の有効性 を例証してくれている。. 大学生4は,これ以外にも大事なことを言って いる。それは,「このような授業ははじめてでビッ クリしました」というところである。すでに紹介 したように,Brunerは,人は驚きと折り合いを つけるためにストーリーをうみ出すということを 指摘している。大学生4が感じた「ビックリ」は ストーリーを引き出す力になっていたことが示唆 される。次に,この,ストーリーを引き出す力,. なことをしてしまったのだろう…」. 子供達の胸は申し訳ない気持ちでいっぱいに なりました。. それからというもの,子供達は弱い者いじめ もやめ,近所でも有名な良い子になったのでし た。 大学生5のふりかえり. どのような展開が待っているのか,表情や姿 勢から判断するのは大変難しいと感じました。 また,話を作る際,教訓へ向けてどのように進. 行させていくかを考えるのも容易ではありませ んでした。ですが,自分の中で様々な考えを巡. らせたことで,自分の中にいくつもの教訓が 眠っていることを知りました。知らず知らずの うちにこんなにも沢山の教訓が備わっていたの だなと驚かされました。. 本研究のもうひとつの目的は,ストーリーコー. ストーリーコーチング機能に焦点を当てて大学生. チング機能をもった絵図を作成することであっ. 5の事例を検討していく。. た。大学生5はふりかえりの中で次のように述べ ている。「自分の中にいくつもの教訓が眠ってい. 345.
(11) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. ることを知りました。知らず知らずのうちにこん なにも沢山の教訓が備わっていたのだなと驚かさ れました。」前述したように,コーチングとは,. 教え込むことではなく「相手の中に眠っている能 力を引き出し,それを高めていくこと(菅原2003, p.18)」である。大学生5がふりかえりの中で言っ. てくれているのは,まさにこのコーチング機能の ことである。学習者の中に眠っているものを引き 出し,それをまとまりのあるストーリーにまで高 めていく。本研究で開発した絵図は,充分なストー リーコーチング機能を備えたものになっている。 これまで見てきた抽出例中の「ふりかえり」は,. すべてポジティヴな内容であった。上掲の抽出例 以外の学習者も,全員がポジティヴなふりかえり を記述してくれている。以下にあと4例,ふりか. しょうがなかったし,教訓の作文もとても楽し かった。こうやって改めて文章にして自分の考 えをまとめることによって,よりこの話から学 びとるものが自分の中ではっきりしてきてよ かった。 大学生9のふりかえり 絵を見ることで,頭の中でイメージが広がり,. 人と話し合うことでより世界が広がり,作文や 感想を書くことで,その世界が完成します。普 通に,完成した物語や本を読むことよりも,想. 像でき,より自分の気持ちを出すことができる ように思いました。 このように,多くの学習者が,今回作成した絵. えり部分のみを紹介しておく。. 図が与える驚きと,協同学習の効果について言及. 大学生6のふりかえり. してくれている。今回作成した絵図とそれを用い た授業の進め方はきわめて効果的であったと言う. 絵はどれも予想外の展開で面白かったです。. 他の人の意見も,自分では全く思いつかないも のであったりして考え方が広がりました。普段 本を読んだりしても漠然としか感想をもたない ので,こうして言葉にすることも大切だと思い ました。. 大学生7のふりかえり 1枚1枚見ることによって登場人物の様子を 細かく見ることができ話しあうことで,予想と 違う展開にいっそう驚いた。作文をかくことで この話の意図をよく考えることができたと思 う。そしてただ一連の流れを読むより,深く記 憶に残ると思った。 大学生8のふりかえり. 話しあうことによって,自分の中では一つし かなかった話のパターンが2つにも3つにも広 がり,こんな見かたもあるのかと感心したしお もしろかった。絵を見ただけで話が作れる人間 は本当にすごいと思う。. 作文は,お話を自分でつくるのが楽しくて. 346. ことができる。次に,小学生を学習者にしてこの 絵図を用いた実践例を報告していく。. Ⅱ.小学校5年生に対する実験授業(その1) Ⅱ−1 日 的 本研究で作成した絵図を用いた看図作文授業を 小学生に実施する。そのことにより,絵図の有効. 性と看図作文授業としての実践可能性を確かめて いく。. Ⅱ−2 授業の実際 Ⅱ−2−1 授業者・学習者等 授業者は本論文の第3筆者鬼玉,学習者は小学 校5年生1クラスである。このクラスは何度か看 図作文授業を体験している。またこのクラスはい つも一斉授業スタイルをとっている。そのため今 回の実験授業も一斉授業スタイルで行った。. Ⅱ−2−2 授業の概略 絵図の読み解き. 一斉授業であること以外は,大学生と同様に進 めた。授業者は次のような教示を順番にしながら 学習者たちとやりとりしていく。.
(12) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). 1枚日給図読み解き教示 ・誰が何をしていますか。 ていますか。. せていく。 ・どんな表情をし. ・この男の人はどうすると思い. 1段落目は本を紹介します。本を選んだ理由 も書きます。. ますか。・次の絵はどんな絵だと思いますか。. 今回は「読書感想文を書く練習である」という. 学習者発言はとくに板書はせず,やりとりを続. 想定にしてある。そのため,上の教示を学習者に. けていく。次の絵図の予想を出させたあと2枚目. 与えるが,細かな記述は求めない。全員に次のよ. の絵図を呈示する。授業記録は省略するが,2枚. うな省略した文を書かせる。「私(僕)が,この. 目の絵図を黒板に貼ったとたんに「えー. !?」と. 本を選んだ理由は○こあります。一つ目は…二つ. いう声がわきおこり,爆笑が始まった。授業者は,. 目は…。それでは,あらすじを紹介します。」「…」. その反応をとらえ,次の教示を行った。. の部分もそのまま「…」と書かせる。この文章を. 2枚日給図読み解き教示. 記述させたあと,次の教示を順番にし3枚の絵図. ・なぜみんな「えー!?」と思ったのですか。 ・次の絵はどんな絵だと思いますか。. ここでも学習者発言は板書せず,やりとりを進. を用いた看凶作文を書かせていく。 2段落目は,1枚目の絵の物語を書きます。. 全員書き終わったら2枚目の絵図の作文に移. めていく。次の絵図の予想を出させたあと,3枚. る。あまり長い文章は求めない。「紙が足りなく. 目の絵図を呈示した。このときも「えー!?」と. なったらどうしたらいいですか」という学習者質. いう反応が一斉におこった。その反応をとらえ授. 問には「紙1枚におさめるように」と授業者は答. 業者はまた,次の教示を行った。. えている。. 3枚目絵図読み解き教示. 3段落目は,2枚目の絵の物語を書きます。. ・なぜみんな「えー!?」と思ったのですか。 書き終わったら次の教示を与える。. 学習者とのやりとりが一段落したら,次の「教 訓シート」記述に移る。ただし児童には「教訓シー ト」という表現はしていない。. 4段落目は,3枚目の絵の物語を書きます。 書き終わったら次の教示を与える。. 教訓シート記述 次の教示により,教訓シートに記述してもらう。. 5段落目は,この物語から自分が感じたこと, 学んだことを書きます。. この3枚の絵から,みんなが学んだことや感 じたことを書いてください。. これを書き終わったら何人かに発表させる。3 枚の絵図の読み解き・教訓シート記述・教訓の発. 5段落目には,先に教訓シートに書いておいた 内容を記述させる。必要に応じて書き直したり書 き加えてもよい,ということも伝える。 以上,すべて書き終えたら,「回し読み」をし. 表まで含めて約14分要している。. てもらう。「作文記述」のステップには,清書と. 作文記述. 回し読みの時間も含めて45分とってある。した. 「夏休みに書く宿題『読書感想文』の役に立つ. がって,この授業には全体でほぼ60分の時間をか. ような書き方をしてもらいます。」という教示を. けている。. 与える。ここでは,「現代版浦島太郎」を読んで. Ⅱ−2−3 授業の結果とその評価. その感想文を書く,という想定で作文を書いても らう。以下の教示によって,各段落を順番に書か. 学習者の作文を3例抽糾し紹介する。どの作文 も第1段落目は「私(僕)が,この本を選んだ理. 347.
(13) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. 由は○こあります。一つ目は…二つ目は…。それ. 葉を使わないようにしたいと思った。. では,あらすじを紹介します。」となっている。. このため,この部分は省略する。 また,実験授業のために使える時間が限られて いるので,今回の授業でも推敵指導は行っていな い。そのため,児童作文の中には推敵が必要なも. のもあるがそのまま載せていく。ただし明らかな 誤字・脱字等は修正しておく。/ト学生の作文例は すべてこの方針に基づいて紹介していく。. 小学校5年生1の作文 ある日,海辺でカメをいじめている少年たち. 小学校5年生3の作文. ある日,海でカメをいじめている子どもたち がいました。そこに男の人がやってきて,じっ と見ています。. 男の人が胸元に手をそえると思ったら,鉄砲 をだしました。こどもたち,それにカメまでびっ くりしています。 男の人が鉄砲を向けました。すると,さっき までいじめられていたカメが子どもたちの前に. がいました。カメは泣いていてすごくいたそう. 立ち守ったのです。カメをたすけるつもりだっ. でした。それを1人の若い男の人はそのイジメ. た男の人は,おどろいています。子どもたちも. る姿をずっとみていました。. おどろいています。. 男は胸のポケットからけんじゅうをとりだ. 私は,この本を読んで,どんな人がどんな物. し,イジメている子どもたちにけんじゅうを向. を持っているかわからない。だから歩くだけで. けました。すると,子どもたちやカメはすごく. も気をつけた方がいいと思いました。. こわがりあ然としていました。. カメは立ち上がり,子どもはカメのうしろへ かくれました。男はカメを助けようとしたのに, カメが子どもたちを助けているのであせをかき ました。 ぼくは,この本を読んでこう思いました。人. は助けようとすると危険な物で助けようとす る。でも,それはうらめにでます。カメはイジ. メられているけど心は一番強かった。そして, こういうことがわかった。イジメる人は力が強 い。イジメられる人は,心が強い。. 小学校5年生2の作文 ある日,カメをイジメていた子どもたち3人 のところに1人の男の人が来ました。 男の人が,カメをイジメているのを見ると, いきなり子ども3人に鉄砲をむけました。. すると,イジメられていたカメが子ども3人 のたてになり,子ども3人を守りました。 ぼくは,この本を読んで,カメがイジメられ たはずなのに命は大切と思い自分がたてになっ たのがすごいと思った。これからは,ひどい言. 348. この実験授業では,できるだけ短時間で作文を 書き上げさせる授業を心掛けた。そのため学習者 の作文は短い文章になっている。しかし,このよ. うにすることにより,すべての学習者が作文を書 き上げている。もともと看図作文は,誰でも作文. が書けるようになる指導方法である。さらに学習 者の状況・作文指導に許容される時間等を考慮 し,必要に応じて今回のような工夫を加えていけ ば,看図作文は一層効果的な「誰でも書ける」作 文指導方法となる。. 2枚日・3枚日の絵図を呈示したときの 「えー !?」という驚きの声は,大学生以上に大. きかった。また学習者たちはこの驚きを楽しんで いた。この驚きは,予想とのズレから生じている。. ここで学習者たちは,予想と絵図とのズレを埋め るための文章をつくり出している。つまり学習者 は,Brunerが言うように,驚きと折り合いをつ けるためにストーリーを創っているのである。今 回作成した絵図は,学習者の中から物語を引き出 していく,ストーリーコーチング機能を充分に備 えたものになっている。. 小学校5年生1と2が書いた作文の最終段落内.
(14) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). 容からもわかるように,今回の作文は,人間関係. の問題を考えるきっかけになっている。多くの学. ない。. Ⅲの授業と異なる点がもうひとつある。本実験. 習者は最終段落で,「いじめ」等の争いごとに関. 授業では絵図を1枚看る度に作文シートに作文を. する内容を記述している。このことは,本研究で. 記述させるようにした。作文シートは3枚用いる。. 作成した絵図は,小学生においても「争いを処理. それぞれ上部に絵図を印刷し下部に記入欄を設け. し,解決する能力」を引き出す教材になっている. てある。1枚目と2枚目には次のような,作文を. ことを示している。. 書くための手掛かりが印刷されている。下の例で. ただし,小学校5年生3のように,少し変わっ. は横書きになっているが授業では縦書きで印刷し. た気づきを書いてくれた子もいた。これは今回の. たものを用いた。. 授業がひとつの見方や考え方を押し付けるだけの. 1枚目看図作文シート. 単純な「道徳授業」にはなっていないことを示し. )を歩いていると,こどもたちがカ. (. の考え方の自由度を高める授業になっている。 この実践では「読書感想文の書き方を覚える」. という付加的な目標も達成されている。以上から, 今回開発した絵図と授業方法は小学校5年生を学. )の日のことです。ぼくが. ある(. ている。今回の授業は様々な見方を許容し,児童. メを…[記入のための空欄]. ぼくは,「[記入のための空欄]」と思いました。. 授業中に授業者と学習者のやりとりがあり,そ. 習者とした場合でも実践可能性がきわめて高いこ. の結果,文章末の「と思いました」は「と言いま. とが確かめられた。. した」等に変更してもよいことになった。. Ⅳ.小学校5年生に対する実験授業(その2) Ⅳ−1 目 的 授業者・学習者を変えて,同じく小学校5年生 に実施してみる。また時間割上の1時限(45分) におさまるような授業化を試みる。. 2枚目看図作文シート ぼくは持っていたピストルをこどもたちに向 けて「[記入のための空欄]」と言いました。 こどもたちは,[記入のための空欄] カメは,[記入のための空欄]. 3枚目のシートは自由記述様式にしてある。 Ⅳ−2 授業の実際 Ⅳ−2−1 授業者・学習者等 授業者は本論文の第4筆者栗原,学習者は小学. Ⅳ−2−3 授業の結果とその評価 上述した進め方をすると1時限(45分)で授業 をおさめることができる。またすべての学習者が. 校5年生である。栗原はクラスを担任していない. 作文を書きあげている。また前述した2つの実践. ので1クラスを借りて実施した。指導形態は一斉. と同様に2枚目・3枚目の絵図を呈示したとき. 指導である。このクラスはこれまでに看図作文の 授業を受けたことがない。. 「えー !?」という驚きの声があがった。とくに. 3枚目は写真1・2のように絵図を一部分ずつ. Ⅳ−2−2 授業の概略. 徐々に開いていったので学習者の驚きと喚声は,. 絵図の読み解き. 本論文中の3つの実践の中で最も大きなものに. 45分におさまる授業にしたため,教訓シートの. なった。. 記述を省略した。この点がⅢ・Ⅲの実験授業と大 きく異なる。それ以外は同様の手続きをとった。 絵図は1枚ずつ呈示していく。またⅢで報告した 実験授業と同様の教示によって絵図を読み解かせ ていく。Ⅲの授業同様,学習者発言は板書整理し. 349.
(15) 鹿内 借善・石田 ゆき・鬼玉 重嘉・栗原 裕一. そんなふうにしてボクは助けられたってうれし くないよ」とカメがいいました。するとピスト ルをもっていたお兄さんが「だって君は,おれ がなにもしなかったら,もっと大きなけがをし ていたかもしれないんだぞ。それなのにどうし てこどもたちを守ろうとするんだよ。」といい ました。. すると子どもたちが「もういいよ,けんかは 写真1. しないでよ…ほんとうは,ボクたちがいけない んだから」というと,お兄さんが「ご,ごめん. よ,ピストルをださないで言葉でいえばよかっ たよ。それから,もうカメとかをいじめないで くれよ。」 すると子どもたちが「うん,わかった。カメ. ともなかよくするよ。それからカメさんいじめ たりしてごめんなさい。」. カメは「うんべつにいいよ。でも,もうぼく をいじめたりしないでね。それからお兄さん人 写真2. をたすけたりするのはいいことだけどピストル なんかはぜったい使わないでっ約束してね。」. 次に作文の抽出事例を2つあげておく。 小学校5年生4の作文 ある夏の日のことです。ぼくが浜辺を歩いて いるとこどもたちが,カメをぼうでなぐったり けろうとしたりのったりしていじめているのを 見た。. ぼくは,「どうしてカメをいじめているのだ ろう?カメがなにか子どもたちにいたずらなど してしまったのだろうか?」と思いました。. ぼくは,持っていたピストルを子どもたちに 向けて,「おい,なにやってんだよ。おまえら うたれないとわかんねえのか」と言いました。. 子どもたちは,ど,どどどどうしよう,このお 兄さんそんなことすると思わなかったのに… カメは,わ,ピ,ピピピストル!!おれをたす けようとしたんじゃないのかよ…. すると,カメが「どうしてボクを助けようと してピストルで子どもたちをうとうとしたの!!. 350. するとお兄さんは「うん約束するよ。それじゃ あみんなで帰ろう」といってみんなでなかよく 帰りました。. この学習者は,カメの立場・子どもたちの立 場・お兄さんの立場,で考えた作文を書いてくれ ている。これは「異なる立場があることを知る」 という,今回の授業目標を達成している作文であ る。この授業でも,Ⅲの授業と同様に,いじめ等. の人間関係に関する問題を考えて書いている作文 が多く見られた。. 多くの学習者が,人間関係について考えた作文 を書いてくれている。しかし,今回の(Ⅳの)授 業もひとつの考え方や見方を押し付けるだけの 「道徳授業」にはしていない。例えば,今回は次 のようなユニークな作文も見られた。. 小学収5年生5の作文 ある夏の日のことです。ぼくが浜辺を歩いて いるとこどもたちが,カメをわらいながらぼ.
(16) 看図作文の授業開発(ⅩⅠ). うでたたいたりけったりしていじめていまし た。. ぼくは,「そのカメがもしぜつめつきぐしゅ だったらどうするのさ?」と思いました。ぼく は,もっていたピストルを子どもたちに向けて,. 「うごくな!両手を上げろ!さもないとうつ ぞ!」と言いました。. 子どもたちは,うぎゃああああああっと思っ てかたまっていましたが,一ばんうしろの子が, 両手をあげました。. カメは,しまった!万引きしたことがばれ た!と思いました。 すると子どもたちが「お母さんこわいよ」と いったので,カメは「わたしがたてになるから, おまえたちは先ににげていなさい!」といいま した。子どもたちは「お母さんやめてえー!」. とさけびましたが,ぼくは「手ごわいなコイツ ら」と思ったので「おまえらはどんだけえんぎ が上手なんだ!!」とさけびました。. するとカメが「チッ,おまえがゆだんしたス キに,子どもたちとにげようと思っていたの に!」といったので,ぼくはおこってカメと子 どもをつかまえて,子どもにはせっきょうして, カメはけいむしょにおくりました。. これは,型にはまっていない面白い作文である。. もてるようになる。そのことが「争いを処理し, 解決する能力」につながっていくのではないだろ うか。Ⅳの授業は,教訓シートを書かせることの 重要性に気付かせてくれる貴重な実践になった。. Ⅴ.提 案 一般的には,論文の最後は「考察」で締めくく られる。しかし,今回報告した3つの授業につい ては,「授業の結果とその評価」の項で,「考察」 にあたる内容をすでに記述している。そこで,こ こでは,残りのスペースを借りて,用語法につい てひとつの提案をしていきたい。 筆者らは,先の論文「看凶作文の授業開発(Ⅹ)」 から「みる」という言葉の漢字表現を「見る」と 「看る」に遣い分けている。網膜上に投影された 外界刺激を感じ取るという意味での「みる」を「見. る」と表記している。しかし,絵図などのヴィジュ アルテキストを「読み解き意味を理解していくプ ロセス」としてなされる「みる」を「看る」と表 記している。 これまでの「看図作文の授業開発研究」では「絵. 図を『見る』」のように「見る」という表記を用 いてきた。これは,次の2つの理由による。第1 は,国語教育の文脈で「みる」活動が取り上げら れるとき,「見る」という表記がなされているた めである(例えば浜本2004)。第2は,英語圏の. この作文例も,今回作成した絵図は,いろいろな. 言語教育を紹介した論文の多くがviewingに「見. 可能性を引き出すストーリーコーチング機能を. る」という訳語をあてているためである(例えば. もったものになっていることを例証してくれてい. 奥泉2006)。. る。 ただし,今回の授業ではひとつだけ,気になる. 現在の国語教育研究・言語教育研究の動向に, 筆者らの研究を「接続」していくために,「見る」. 現象が観察された。それは,男の人がピストルを. という表記を筆者らも用いてきた。しかし,絵図. 発射してしまう作文が3例あったことである。こ. を「みて」作文を書いていく看図作文を説明する. れはⅢ・Ⅲの授業では見られなかった現象であ. とき,「看る」ではなく「見る」を用いることには,. る。Ⅳの授業では,教訓シートを書かせていない。. 用語上の不整合が生じる。そこで,先の論文から,. これが先の2つの授業と大きく異なっている。今. 絵図などのヴィジュアルテキストを読み解き,意. 回作成した絵図を読み解いたあとに,教訓シート. 味を理解していくときにはたらく「みる」を「看. を書かせるという操作がやはり必要なのではない. る」と表記することにした。. だろうか。教訓シートを書くことによっていろい ろな立場から考えたり,問題を再構成する時間が. 表記法を改めるにあたって次のことも考慮し た。中国語では,文章テキストを読み解く活動を. 351.
(17) 庭内 信善・石田 ゆき・鬼王 墓嘉・栗原 裕一. 「看書」と表現する。またヴィジュアルテキスト を読み解く活動を「看図」と表現する。現代中国 語では「看」は,文章テキストとヴィジュアルテ キストという2種類の異なったテキストの読解を 表す語として用いられている。「漢字」は「中国 の文字」という意味である。したがって「やまと ことば」に「漢字」をあてはめていく場合には, 中国語の意味も考慮する必要がある。 以上の理由から,今後は,ヴィジュアルテキス トを読み解いていく活動を表す「みる」には「看 る」をあてていくことを提案していきたい。 文 献. Atkinson,R.塚田守(訳) 2006『私たちの中にある 物語一人生のストーリーを書く意義と方法−¶ ミネル. ヴァ書房 Bruner,J.S.岡本夏木他(訳) 2007『ストーT)−の 心理学一法・文学・生をむすぶ−¶ ミネルヴァ書房 浜本純逸 2004「国語教育・国語科教育」田近拘一他(編). 『国語教育指導用語辞典第3版』教育出版 256257 伊藤公紀・栗原裕一・真家恭子・石田ゆき・鬼玉重義・ 渡辺聡・鹿内信善 2009「看図作文授業の追試研究− 『見通す力』をつける授業の小学校第4学年における 実践−」『札幌大学総合論叢』27号 41−63. McLeod,J.下山晴彦(監訳) 2007『物語りとしての 心理療法−ナラティヴ・セラピィの魅力ー¶ 誠信書房 文部科学省 2008『小学校学習指導要領』東京書籍. OECD 立田慶裕(監訳) 2006「コンビテンシーの定 義と選択」『キー・コンビテンシー一国際標準の学力を めざして−¶ 明石書店199−224 奥泉香 2006「『見ること』の学習を,言語教育に組み込 む可能性の検討」リテラシーズ研究会(編)『リテラシー. ズ2−ことば・文化・社会の日本語教育ヘー¶ 37−50. 鹿内信善・渡辺聡・栗原裕一・伊藤公紀・石田ゆき・菅 原春紀 2007c「看図作文の授業開発(Ⅲ)一自己を ふり返り,未来を探る活動を促す絵図の作成−」『北海 道教育大学紀要(教育科学編)』58巻1号 265−278. 鹿内信善・渡辺聴・栗原裕一・伊藤公紀・石田ゆき 2008a「看図作文の授業開発(Ⅳ)−オリエンテーショ ン変更作文に活用可能な絵図の作成−」『北海道教育大. 学紀要(教育科学編)』58巻2号147−157 鹿内信善・渡辺聴・石田ゆき・伊藤公紀・栗原裕一 2008b「看図作文の授業開発(Ⅴ)−インプット・ア ウトプット法に活用する絵図の作成−」『年報いわみざ わ』29号 29−40. 鹿内信善・鬼玉重嘉・石田ゆき・渡辺聡・伊藤公紀 2008c 「看凶作文の授業開発(Ⅵ)−『見通す力』を 育てる試み−」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』59. 巻1号 209−224 鹿内信善・渡辺聴・石田ゆき・伊藤公紀・鬼玉重嘉 2009a「看図作文の授業開発(Ⅶ)着図作文を活用 した行事作文の授業モデルー」『北海道教育大学紀要(教. 育科学編)』59巻2号183−193 鹿内信善・鬼玉重嘉・石田ゆき・渡辺聡・伊藤公紀 2009b「看図作文の授業開発(Ⅷ)−キャラクター設. 定法のための絵図作成と授業モデルー」『北海道教育大 学紀要(教育科学編)』59巻2号195−206 鹿内信善・栗原裕一・高木裕子・渡辺聡・石田ゆき・伊 藤公紀 2009c「看図作文の授業開発(Ⅸ)一低学年 指導用の絵図と授業モデルー」『年報いわみざわ』30号 59−71. 鹿内信善・石田ゆき・伊藤裕康・栗原裕一・真家恭子・ 石川清英 2009d「看図作文の授業開発(Ⅹ)−メル ヘンスケープ法の試み−」『北海道教育大学紀要(教育 科学編)』(印刷中). 菅原裕子 2003『コーチングの技術一上司と部下の人間 学−¶ 講談社. Wortmann,C.イースト・プレス編集部(訳・編)2008 『物語力』イースト・プレス. くろしお出版 鹿内信善 2003『やる気をひきだす看図作文の授業一創 造的[読み書き]の理論と実践−¶ 春風社. 鹿内信善 2009「協同学習による看図作文授業の進め方」 『協同と教育』5号(印刷中). 鹿内信善・栗原裕一・渡辺聡・伊藤公紀・石田ゆき 2007a「看図作文の授業開発(Ⅰ)一心理的リアクタ ンスを作文の動機づけに活用する試み−」『北海道教育. 大学紀要(教育科学編)』57巻2号101−111 鹿内信善・渡辺聴・栗原裕一・伊藤公紀・石田ゆき 2007b「看図作文の授業開発(Ⅱ)一創造的看図作文 を可能にする絵図の作成−」『年報いわみざわ』28号 9−20. 352. (鹿内 信善 北海道教育大学札幌校教授) (石田 ゆき 北海道教育大学大学院学生) (鬼玉 重嘉 札幌市立藻岩北小学校教諭) (栗原 裕一 潮来市立津知小学校教頭).
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