• 検索結果がありません。

教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. Author(s). 深井, 尚子. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 57(2): 205-218. Issue Date. 2007-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/835. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第57巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.57,No.2. 平成19年2月 February,2007. 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究 深 井 尚 子. 北海道教育大学釧路枚音楽研究室. DieStudienvonKlavierunterrichtsmethodeftir dieStudentInnen anderPadagogischenHochschule FUKAI Shoko. DepartmentofMusicEducation,KushiroCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本論は,小学校教師を目指す学生が,音楽の授業の際に不可欠なピアノ演奏を習得するためのピアノ指導 法を研究したものである.音楽を専門とする学生と小学校教師を目指すためにピアノを習得する学生のピア ノ指導法は,根本的に異なることは明白である.つまり,小学校教師を志望する学生のほとんどは,大学に おいて初めてピアノを習得する場合が多い.音楽を初めとする芸術にかかわる実技の習得は,そのような学 生にとって大きな困難を伴う.しかし,小学校教育において音楽の果たす役割は大きく,その中でピアノ演 奏実技は,小学校の授業に必須である.教育系大学における音楽科教員には,そのような学生のための特別 なピアノ教授法が必要である.. 本論では,初心者のピアノ教授法をさまざまな角度から検証し,小学校教師を目指す学生のためのピアノ 教授法を具体的に示し,内容を考察したものである.. 序 論 音楽を初めとする芸術は,一般的に子どもの情操教育に必要不可欠といわれているが,現実的には,小学 校教育において,音楽の授業時間は20年前と比較すると,大変少なくなっている.低学年で年間68∼70時間,. 高学年では,50時間,つまり,1週間に1時間(45分授業)も行われていないことになる.註1)そのような 状況の中で,教帥が音楽の喜びや楽しさを子どもたちに伝えていくためには,教育系大学教育学部の中での, 音楽基礎の習得が重要な意味を持つ.音楽基礎を習得するためには,ピアノが大きな役割を果たすため,大 学の授業では,ピアノが必修科目となっている.教員採用試験においても,ピアノ演奏や伴奏付けが義務付 けられており,ピアノが音楽の授業の中で大切な要素であることがわかる. 19世紀後半から現代に至るまで,高度な演奏技術獲得のための参考書は,数多く存在する.それらを基に して,音楽大学におけるピアノ科では,すでに幼少からピアノを専門的に学んだ学生に,さらに高度な専門. 205.

(3) 深 井 尚 子. 教育を行い,芸術的音楽表現を可能にするための指導が行なわれる.しかし,教育系大学の小学校教師志望 の学生は,大学で初めてピアノを習うという場合が多くみうけられる.そのような学生は,ピアノ演奏を難 解で困難なものとして捉えがちで,ピアノを通して音楽の良さを感じるところまでは至らない場合が多い. 初心者のための教則本や参考書も,子どものころからの習い事としてのものであり,小学校教師を目指すた めのものではない.. 本論では,筆者自らの過去5年間の教育系大学におけるピアノの授業を検証し,その検証を基に,ピアノ 学習初心者である学生に,音楽の意義と重要性が感じられるような実践的なピアノ指導法を研究するもので ある.ピアノ学習初心者であっても,将来,小学校教師となった時,ピアノを通して,音楽の大切さを子ど もに伝えられるようなピアノ教授法を考察する.そこから,音楽が人々に与えるよい影響や意義を見出し, 音楽教育をより良く実践できる学生を育成することを目的としている.. 第1章 音楽基礎におけるピアノの意義 教育系大学において音楽基礎を習得する場合,「楽典」と呼ばれる音楽基礎全般の授業の他に,さらに専 門性を持つ「和声法」,「編曲法」,「音楽理論」などが行なわれている.それらの授業は,講義形式であり,. 教科書を使用し音楽の基礎を説明するものである.しかし,音楽実践にその理論を取り入れ,応用するには 机上のみの学習では不充分である.理論を実践に結び付けるためには,ピアノの使用が有益である.演奏実 践を行うことで,「音楽」の中に,理論を応用することができる.管楽器,弦楽器,打楽器など,楽器には たくさんの種類があるが,その中でピアノ(鍵盤楽器)は,音楽基礎を実践的に学ぶ際に際立って優れた特 徴を持つ.音楽理論を実践的な音楽教育に役立たせるには,学生自らがピアノを演奏する必要があるため, 小学校教員養成課程では,ピアノが必修科目となっている.本論において,指導の対象は,小学校教師志望 の学生であるため,音楽理論も深い専門性に重きをおかず,音楽の基礎的な要素を学ばせ,ピアノ演奏にお いて実践させる事を目的としている.そのため,音楽基礎の内容を「楽典」レベルで論じることとする.こ の章では,ピアノが音楽基礎を習得するために適している理由を述べる.. 第1節 ピアノの特徴 ピアノは,音楽基礎を学ぶために適した楽器であり,その演奏法を知ることは,実際の小学校での授業に 大変役立つため,小学校教師志望の学生は,必修科目として学ばなければならない.まず最初に,ピアノの さまざまな特徴を見出し,その特徴を理解することでピアノの重要性を受け止めさせることが重要である.. 多くのピアノ指導者註2)が,ピアノ演奏法の参考書を書いているが,19世紀から現代に至る指導書,参考 書におけるピアノの特徴の記述をまとめると以下のようになる. 1.音程が固定していること.(すでに,調律されている状態である) 管弦楽器のように,音程を演奏者自身の耳で決定する必要がなく,音感をピアノによって養うことが できる.. 2.音域が広いということ. ピアノは,どの楽器より音域が広く管弦楽器すべての音域を所有しているため,表現が多様であ る.図1) 3.平均律註3)であること.. 平均律に対して,純正律は,調性の多様性が望めないが,平均律は,12の長調,短調,全24の調で演 奏が可能である.. 206.

(4) 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. 4.ペダルが存在すること.. 音色の変化を瞬時に感じることができる機能であり,ペダルは,音楽の本質について考察する際に有 益である. 5.楽譜と鍵盤の関係が自然であるということ.. 2段の五線譜を読みながら2本の手で演奏するようになっており,白鍵と黒鍵が規則正しく配置され ており,演奏がしやすい.. TJk・−1 ■■−ポ・−. ■ 号11≠ ℡ト. I争ンヰγl. 十卜て一っ∵・=L・−. サー・1■ すン. ■ ■■−._. ■■■ −・■■−........................... 一ンJII仁・∫1. l−、− −…ヰ…rr‥−…,.呵.。__iii.′ア1′. ”隼1≠ ︰・・・・川 .′ ㌧﹁. オFゼ. ・皇一. ン. 区= ピアノの音域(弦楽器,管楽器,人声との比較). 以上の特徴によって,ピアノは,容易に音を出すことができ,左右10本の指によって,単音のみではなく,. 重音(和音)演奏も可能な楽器である.そのため,初心者でも容易にピアノに親しむことができる.大学で 初めてピアノの学習を行う学生でも,これらの特徴をふまえて取り組むことによって,余計な不安や嫌悪感 を持つことなく導入することが可能である.. 第2節 音楽基礎の具体的内容 第1節で述べたようにピアノは,音楽の基礎を学ぶために有益であり,初心者にとっても,音を出すこと が困難ではなく,学びやすいことが検証された.具体的に,以下の音楽基礎が,ピアノを使用することで効 率よく学ぶことができる. 1.音楽の三要素−リズム,メロディ,ハーモニー A)リズム:. ピアノは,両手の使用が可能であり,複合的なリズムの習得に適している.学校教育における複数児. 207.

(5) 深 井 尚 子. 童,生徒による合唱,合奏を行う場合に,ピアノによって,そのリズムを正確に示す辛ができる. B)メロディ:. 旋律は,ピアノに限らず,他の単旋律楽器でも演奏は可能である.しかし,第1節のピアノの特徴5 で述べたように,演奏が容易であるピアノは,旋律を楽に演奏によって示すことができる. C)ハーモニー:. ハーモニー(和音)は,ピアノの長所がもっとも発揮できる要素である.学校教育における音楽の授 業は,合唱,合奏などほとんどの内容にピアノ伴奏が必要になる.メロディにハーモニーを付加するこ とで,音楽が豊かになり,音楽教育の目的を達するために特に有益である.. 2.デュナーミク(強弱) ピアノの強弱は,演奏者の指の重さによって明確に弾き分けることができる.初心者でも強弱をつけて演 奏することは容易である.強弱は,音楽表現を豊かにするための方法として,初心者でも会得しやすい.. 3.ペダル. ピアノには,大きく分けて2つのペダルがある.右のペダルは,指が鍵盤から離れていても,ペダルによっ て音を保持することができ,左のペダルは,音色を変えることができる.このことは,指だけではなく,ペ ダルを操作する足の運動の問題にもなるため,初心者には習得が困難といわれている.しかし,いくつかの 訓練によりペダルが使用できるようになると,その逆に,演奏の困難を排除するのに役立つ場合が多い.. 第3節 音楽基礎におけるピアノの意義 第1節において,ピアノの特徴を挙げ,ピアノは,初心者でも習得が容易な楽器であることを述べた.第 2節では,ピアノ演奏ができることによって,音楽基礎を理論だけではなく,音楽の表現の実践としてとら えやすくなり,具体的な音楽表現が可能となることがわかった.そのため,小学校教師志望であり,将来, たくさんの教科の他に,音楽も指導しなければならない学生が,ピアノを習得する理由が明確になった.し かし,初心者がピアノ演奏を教育実践に役立てることができるまで演奏技術が上達することは,現実的には 困難であり,過去5年間の学生指導実績を振り返ってみると,学生自身も上達をあきらめてしまう場合が多 く見受けられた.それを改善したのが,第1節,第2節で述べた,音楽におけるピアノの意義を説明するこ とであった.漫然とピアノ演奏技術の習得のみに終始する授業は,ピアノ演奏のための訓練がなされていな い指や体にとっては苦痛であり,喜びを見出すことができない.本論のテーマは,初心者の子どもに手ほど きをする,趣味として大人がピアノを習う,または,ピアノを専門的に学ぶ学生のための高度な演奏法の習 得などの一般論ではなく,小学校教師を目指すピアノ初心者の学生のための指導法である.大学で行われる 「/ト専音楽」の授業は,クラス授業であり,個々の学生の問題点の解決には至らない場合が多い.しかし,. 小学校教育における音楽の重要性を説明し,その意義を深く理解することで,初心者であっても「音楽」の 大切さを伝えることは可能である.たとえ,ピアノが上手に演奏できなくとも教育現場では,児童を指導す る立場になる.その際,音楽の意義を明確に見出し,演奏技術からピアノ演奏を見るのではなく,音楽の意 義から演奏にアプローチする辛が大切になる.. 第1章では,音楽基礎を習得するために,ピアノを用いることが有益であることを述べた.その音楽基礎 の習得は,音楽の意義に深く関連しており,このことを理解し,ピアノの演奏実践に取組むことは,ピアノ 初心者にとって,重要なことである.第2章では,第1章での内容をふまえながら,具体的なピアノ演奏法 の指導法を述べる.. 208.

(6) 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. 第2章 初心者のピアノ習得のための指導法 第1節 指導者の意識 教育系大学において,音楽教育講座では,中学校,高校の音楽科教師を養成することを中心に指導してい ることが多く,音楽科所属の学生も,子どもの噴からピアノを習得しており,高度な演奏技術を持っている 場合が多い.大学教員自身も,優れた演奏能力を持ち,専門的な高等音楽教育を受けているため,多くの場 合,高度なピアノ演奏法の指導に慣れている.しかし,本論で取り上げる学生は,ピアノに対して初心者で ありながら,将来,小学校教師志望であるために,ピアノ実技は必須である.つまり,ほとんどピアノが弾 けないにもかかわらず,ピアノ実技の授業を受けなければならない.この事実は,かなり特殊な状況と言わ ざるを得ない.音楽科の大学教員は,その点をよく理解した上で,指導に当たらなければならない.機械的 な指の訓練を強いたり,音の間違いを指摘するだけの授業は,彼らを困惑させるだけである.指導する側は,. まず,学生の指の形,ピアノを弾くための器用さの度合い,そして,音楽的な資質がどの程度あるのかを, 早いうちに見出し,その度合いによって,画一的ではない,個々の問題点を解決するような指導をしなけれ ばならない.このことは,高度な演奏技術や音楽表現の指導に慣れている指導者にとって,大きな違和感が ある.初心者は,指が左右ばらばらに動かないこともあるし,楽譜を見ながら指を動かすこともできない場. 合も多い.つまり,運動機能の個人差が大変大きい.註4). このような思いがけない事態に直面した場合,指. 導者は,困惑し,うまく指導できないことがある.大学で初めてピアノを学ぶ初心者の学生のための指導を する際には,まず,指導する教員の側が,指導への意識を大きく変える必要があると思われる.. 第1章において,ピアノが簡単に音を出すことができ,初心者にも困難が少ないと述べたが,実際にピア ノを弾くという作業は,複雑な行程を経ている.まず,楽譜を見る目,それを認識する脳,演奏実践する指,. という連結が必要である.さらに,演奏実践の際は,2本の手と10本の指をばらばらに動かすことが必要で ある.人間はみな,左右10本の指を持っているが,その指を日常生活において使用するのは,利腕側の親指,. 人差し指,中指が主であることに気づくことは少ない.意識を指の使用ということに持っていくと,字を書 く,箸を使う,物をつかむなどの行為の際,上記に述べた3本の指が主要になって使用されており,他の2 本の指は,添えられているか,バランスをとっているかなどに使用されていることに気がつくと思われる. 一般的には,10本の指を日常生活において,すべて均等に動かす必要はない.しかし,ピアノ演奏をするた めには,その10本の指を均等な強さになるような訓練をしなければならない.芸術的音楽表現をするための ピアノ演奏法は,10本の指が均等な強さである訓練ができていることが前碇である.しかし,ピアノ初心者 の学生にその前碇を当てはめることができないという意識を指導者は明確に持つ必要がある. 次に重要なことは,指導者が忍耐力と愛情を持って学生に対応することである.初心者にとっては指や身 体の運動機能を訓練する事になるため,「短期間で上達は無理である.」という諦観を持つ場合が少なくない. が,それでも,合理的な練習方法によって上達が可能であることを説きながら授業を進めることが必要であ る.長岡敏夫が「ピアノの学習」の中のピアノ教授に関する諸問題の章で次のように述べている.. 教えるということは相当忍耐のいる仕事である.本当に愛情のある教授とは,いかにしてピアノをひくか. を教えるより,いかにしてピアノを練習するかを教えることである.(下線:長岡敏夫)註5) ブラームス(J.Brahms1833∼1897)は,作曲家として一般に知られているが,優れた教師でもあった. ブラームスに指導を受けたフローレンス・メイ(FlorenceMay1845∼1923)は,教師としてのブラームス について次のように語っている.. 209.

(7) 深 井 尚 子 ブラー. ムスは弟子に向かって決してイライラせず,突き放しもせず,いつでも手を差しのべ,刺激を与え. 勇気づけてくれた.註6). ブラームスは,些細な事まで信じられないほど誠実で,生徒に向かって物知りぶったり,イライラしたり. 乾したりしなかった.註7) このような指導者の態度は,特に初心者の不安を取り除き,ピアノ学習者を上達させることができると考 えられる.第2節では,具体的な練習方法を述べ,指導法を明らかにするが,まず,最初に指導者が,ピア ノ初心者の学生に対する意識を変えなければならない.その前碇に立った上で,指導することが大切である と思われる.. 第2節 具体的な指導法 A)楽曲の選択. 一般的に,子どもや趣味でピアノを始める初心者に対しては,楽譜の読み方や単なる指の訓練のための教 材を選択し,2∼3ケ月は,鍵盤に対する指の位置や楽譜との対応の仕方をじっくり落ち着いて指導するが, 小学校教師を目指す学生は,短期間でのピアノ習得を余儀なくされるため,2ケ月も指の訓練のみに費やす 時間はない.そのため,第1週は,その学生の指の形や運動能力を観察し,今までの音楽経験を訊くなどの ガイダンスを行った上,すぐに楽曲を選択し,実演の中から音楽の基礎を学ばせることが重要である.園田 高弘は,学習者の曲の選択に関して,以下のように述べている.. 曲の選択はすべて教師の責任である.なぜならば,(中略)芸術というものは,最初はもっとも身近なも のの模倣から始まるのが普通である.したがって,その時々の教材となる楽曲にたいする教師の選択,判断. の能力,さらには音楽観,芸術観は必ずなんらかの形となって大きな影響を与えることになる.註8) このことから,指導者が豊富な楽曲の知識を持ち,ピアノ学習者の運動能力,読譜力などを止確に把握し て,楽曲を選ぶことが重要である.初心者には,大きく分けて,ピアノ演奏の二つの側面から楽曲を選択す ることが重要である.1つ目は,運動能力,脳と運動器官との連結を促すことを開発するもの註9),2つ 目は「音楽」として,内面的な表現力を養えるものである.大学の授業は,週1回30分を前期後期に各15回, 1年間で30回行われる.この授業時間は,決して多いものではなく,綿密な計画と明確な目標がなければ, よい成果が得られない.次に具体的な練習曲や楽曲を挙げ,練習方法と指導法を述べる.. A−1)運動能力,脳と運動器官との連結を促す練習曲 子どもの噴からピアノを習得することの利点は,骨格や筋肉が形成される前の柔軟な身体を持っているう ちに,運動機能を高める訓練が始められることにある.このことは,それほど頭を使わなくとも身体で覚え させることに繋がる.しかし,大学においてピアノを始める学生には,そのような方法はふさわしくないこ とは明白である.大人になってからのピアノ習得法は,第1章で述べた,音楽の意義やピアノが音楽教育に 必要不可欠であるということを認識させることが大切である.その認識の上に,以下の練習曲集を使用し, 指を初めとする運動機能の訓練を行うことが効果的である. 1.ハノン(CharlesLouisHanon1820∼1900)60のピアノ教本(LePianisteVirtuositeen60Exercises) ハノン練習曲集は,日本にピアノ教育が導入された当初より多くのピアノ指導者が初心者のために推薦す る曲集である.この曲集は,3つの部に分けられており,各部に訓練の目的が善かれている.. 210.

(8) 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. 第1部:どの指も,すばやく動く,1本ずつ独立させる,力強くなる,粒をそろえるための練習 第2部:さらに進んだテクニックを得るための練習 第3部:最高のテクニックを得るための練習. 一般的にハノン教本は,漫然と1番から60番まで弾くことに意義があるように思われており,現在も,多 くの学習者ができるだけ早いテンポで弾けるようになるよう訓練する場合が多く見受けられる.このような 練習方法は,子どもの訓練方法としては,ある程度の効果がある.子どもは,順を追って練習することによっ. て達成感を得ることができ,柔軟な身体機能を訓練によって鍛えることができるからである.しかし,学生 の初心者には,そのような方法は,あまり効果が得られないことが多い.ハノン教本は,読譜が容易く,10 本の指すべてを使用するように善かれているため,この教本を使用することには,このような学生のために は,大きな意義があると思われる.学生がこの教本を使用する場合は,以下の点に気をつけて練習すること で,大きな効果が得られる.. a.選択する曲は,第1部の1番から20香までのどれでも良く,常に2∼3曲を同時に練習する.その 際,2オクターヴに渡る全曲を練習するのではなく,上行,下行を各4小節行うだけでよい.譜例1). 言普例1 ハノン第7番の例 全曲は,29/ト節から成るが,以下のように,練習のために10/ト節のみを行う.. ■ ;. b.楽譜を読み,その楽譜を一度,脳に記憶させて,その記憶を指に伝達するという作業を意識的に行 う.. 目→脳→指 という連結を意識することで,おのずと各10本の指が独立する. C.練習の際は,できるだけ遅いテンポで行い(」=約50)1つ1つ確かめながら弾いていることを自 覚する.. d.音量は,f(強く)で行い,指を独立させながら強くしていることを意識する.. このような練習は,ハノン教本を使用して,運動機能を効果的に高めることができる. .常に何のためにこ. のような練習をするのかを考えながら訓練することで集中力が高まり,効果が早く出ることが多い.上記a ∼dの練習は,自己練習の際,10∼15分でよく,効果が明確に見えない場合でも,それ以上の練習は行わな い.大事なことは,継続して毎日行うことである.この訓練ができた時点で,リズムを複雑化し,さらにア クセントを付けて練習することで,頭脳に受け入れられた複雑な音符を指に伝達することになり,効果がさ らに高まる.その例を譜例2に示す.譜例2). 211.

(9) 深 井 尚 子 譜例2 ハノン第7番のある1/ト節をリズム変奏させた練習.アクセントも明確につけて練習することが効 果的である.. t・J. ヽ. ■ ′ >. l. ♪. > >. 教本は,指の訓練という目的が強く見出されるが,練習時間を短時間に限定することで,集中力を高め, 内容の濃い練習をしているという満足感が得られやすく,初心者の劣等感を軽減することができる.. 2.バーナム(Edna−MaeBurnum)ピアノテクニック(ADozenADay) このピアノ教則本は,比較的新しいタイプのピアノ導入書である.まさに子どものために書かれており, 単純なイラストと共に,1曲ずつ題名がついている.そのため,ハノンとは異なり,題名から練習の目的を 知ることができ,音楽の面白さを感じながら運動機能の練習ができる.この練習曲集は,ピアノ演奏の基礎 である,音階,和音,分散和音を無理なく修得できるように善かれており,左右の手のバランスも考慮され ている.1曲が,大変短く,教則本の題名にもあるように,1日に12曲を無理なく弾くことができるように なっている.バーナムをハノンと併用することで,曲が進みながら,指の訓練ができているという達成感を 得ることが容易になる.. このように,指導者は,ピアノの初心者である学生の毎日の練習が,目的を持って行えるような楽曲を選 択することが大切である.目的を持ち,ピアノを弾く意義を見出し,単なる指の訓練ではなく,頭脳を駆使 した練習をしているという自負を持てるように導く必要がある.. A−2)音楽的な内容を含んだ楽曲(学期末の試験曲として演奏することを想定する) A−1)で述べた運動器官の訓練に相当する教則本を使用しながら,同時に,音楽的な内容を持った芸術 作品を選択する.本来のピアノ演奏の目的は,これらの芸術的楽曲であり,訓練のための教則本とは,はっ きり違いを示さなければならない.学期末の試験のためには,少なくとも演奏時間は5分程度の楽曲が必要 である.A−1)によって訓練を行っていても,その効果には個人差があるため,楽曲の選択は,慎重に行 わなければならない.. 1.バロック時代の楽曲. バッハ くJ.S.Bach1685∼1750〉 を初めとするバロック時代の楽曲は,音符の数は少なく,一見演奏が平 易に見える.そのため,初心者には,選択しやすいように思われる.しかし,バロック時代の楽曲は,旋律 と伴奏という形式ではなく,多声音楽(ポリフォニー)であるために,訓練が少ない指で演奏することは, 大変困難な場合が多い.一見簡単そうに見えるバロック音楽を選択して,結果的には挫折する場合があるの. で,注意が必要である.バロック時代の音楽は,古典舞曲註10)の形式も多く,音楽的には愛らしく,親し みやすいものが多いため,将来的に小学校音楽教育の場で活用できる可能性がある.その点を踏まえ,この 時代の楽曲を選択し,学生に意欲を持たせながら演奏させることもできると思われる.楽譜は簡単そうに見 えても,左右の指を独立させて弾かなければならないことを説明し,「こんな簡単なものも弾けない.」とい う劣等感を取り除くようにしながら指導を行うべきである.さらに小学校音楽教育では,合唱や合奏が多く,. 212.

(10) 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. 多声音楽が思いのほか多いことにも気づかせ,これらの楽曲を学習することは,教育のためにも重要である ことを説明するとよい. 2.古典派の楽曲. ハイドン(J.Haydn1732∼1809),モーツアルト(W.A.Mozart1756∼1791),ベートーヴェン (L.v.13eethoven1770∼1827)に代表される,ソナタ形式を中心とした楽曲は,初心者にも喜びを持って 演奏することが可能な楽曲が豊富である. .ソナタの1つの楽章や小品は,旋律と伴奏という音楽の基本的な. 形式を持っている場合が多いため,初心者にもわかりやすく,達成感を持つことができる.初心者であって も,A−1)の訓練の効果が著しく高い学生も多いので,そのような学生には,題名がついた,ある程度有 名な楽曲を選択することも大切である.ソナタの1つの楽章のみではなく,変奏曲,幻想曲などにも,選択 肢を広げることで,同じ古典派であっても,音楽の多様性を示すこともできる. 3.ロマン派の楽曲. ロマン派の楽曲は,シューベルト(F.Schubert1797∼1828),ショパン(F.Chopin1810∼1849),シュー マン(R.Schumann1810∼1856),メンデルスゾーン(F.Mendelssohn−Bartholdy1809∼1847),ブラーム ス(J.Brahms1833∼1897),リスト(F.Liszt1811∼1886)など,多くの楽曲があり,各作曲家独特の特 徴がある.ロマン派は,形式にとらわれない自由な音楽であり,学生の演奏能力に応じて,多彩な選択肢が あると思われる.難易度も,初級から上級まであり,曲の長さも多彩である.ロマン派の楽曲は,一見難し そうであるが,バロック時代の楽曲とは異なり,楽譜が複雑に見えても弾きやすい楽曲が多く見受けられる.. それは,ピアノの発達により,ピアノ演奏法も確立してきた時代であったためである.ロマン派の時代は, 科学的な演奏法を意識するようになった時代である.ロマン派といっても,音楽的内容は,初期ロマン派に 分類されるシューベルトと後期ロマン派に分類されるブラームスでは,音楽的内容は大きく異なる.指導者 は,その内容を明確に説明し,学生に理解させた上で楽曲を選択することが望ましい.ロマン派の音楽は, 技術の問題だけではなく,内面性の表現の困難が伴うため,初心者が取り組める楽曲は多いとはいえないが, 技術的な困難があっても,音楽的に優れた感性を持った学生には,有効な場合もある. 4.印象派の楽曲 ドビュッシー. (C.Debussy1862∼1918),ラヴェル(M.Ravel1875∼1937)に代表される印象派の楽曲. は,1∼3で説明した分類とは,さまざまな点で異なっている.1∼3までの作曲家は,ほぼドイツ,オー ストリアなどのゲルマン系であった.印象派の作曲家は,フランスのラテン系が主であり,一般的に言われ るヨーロッパ人のメンタリティの違いが大きく表出している.時代もほぼ現代に近く,思想的にも自由平等 が確立された時期であった.さらに科学の発達が著しく,万国博覧会などにより,世界中の文化芸術や科学 が広く知られるようになった.このため,印象派の楽曲には,世界各国の民族音楽のメロディやリズムが取 り入れられている.このような時代背景から生まれた楽曲も,それらの要素を排除しては語ることができな い.クラッシック音楽の新しい形であることを明確に認識して,楽曲を選択しなければならない.大きな音 楽上の変化を指導者が認識し,知識を持った上で,楽曲を選ぶことが大切である.初心者にとっては,この カテゴリーからの楽曲選択は,困難を要する場合が多い.ごくまれに,印象派の雰囲気に興味を示し,演奏 を希望する初心者の学生もいるが,1∼3の楽曲をまったく学習せずに,印象派の楽曲を選択することは, 困難である.しかし,印象派の音楽を明確に説明し,その難易度を説明した上で,学ばせることもある.そ の場合も,指導者が技術上の問題点のみを挙げるのではなく,楽曲の変遷や特徴を理解させる辛が必要であ る.. 5.現代の楽曲. 現代音楽は,1∼4の分類とは,まったく異なる音楽としてとらえなければならない.音楽理論も音階の. 213.

(11) 深 井 尚 子. 構成音も聴きなれた1∼4までの分類の音楽とは異なり,今までの音楽理論から外れている.これらの音楽 を選択することは,初心者にとっては,困難であることが多い.指導者も現代音楽に慣れ親しんでいること が少ない場合が多い.しかし,現代的な音楽は,リズムなどが多彩であり,興味深い楽曲もあるため,学生 が希望した場合は,その興味の内容にも注目し,これらの楽曲のどこに興味を持ったのかを話し合った上で, 選択する余地はある.. 初心者の楽曲を選択する場合,楽曲の時代的分類を念頭に置き,指導者があらゆる時代の楽曲についても 解説できる知識が必要になる.ピアノ専門の学生は,あらゆる音源を聴いたり,または,今までの経験から,. 自ら曲を選択することができるが,初心者は,そのような背景が少ないため,指導者が,楽曲を選択しなけ ればならない.その際,指導者の好みや専門分野からのみ選択することは,避けるべきであり,学生の運動 機能,音楽的興味をよく観察し,さらに,ある程度の音楽的背景を説明し,その楽曲が,その学生に合って いるかどうかを,見極めなければならない.. B)具体的な指導法. 楽曲の選択の後,実際に演奏に向けての指導を行うが,B−2)で述べたように,楽曲の時代背景や特徴 を反映するような授業が必要であることは,明白である.さらに,指導者が,実演することも初心者にとっ ては有効であり,正しい演奏法を視覚的にも示すことにより,模倣して学ばせることも可能である.全曲を 演奏することは短い授業時間内では,不可能であるが,曲の雰囲気をつかませるにはよい効果を生むことが 多い.. 具体的な演奏法の中で,初心者にとって最も重要なことは,指使いである.その後に,正確なリズムの把 握,強弱法,ペダルなどの演奏法を教授することが望ましい.. B−1)指使い. 道指法については,ピアノ演奏法の参考書に必ず項目として挙げられる.註11)指使いは,プロの演奏家で あっても,常に研究の対象になる重安な事柄である.多くのピアノ指導者は,楽譜に書かれた指使いは,止 確に守らなければならないという.しかし,その楽譜に善かれた指使いも,たった一人が選択した違指法に よって善かれている場合が多く,その校訂者の手の大きさや,癖が反映されていることが多い.そのことは. ヨーゼフ・デイツヒラー氏も次のように述べている.. 指使いも問題である.その解決は一義的ではなく,編集者による譜面はしばしば表面的であって,よくな かったりすることが多い.註12). また,指使いの多様性について,ゲンリッヒ・ネイガウス氏も以下のように述べている.. 大ピアニストたちのいくつもの演奏を注意深く見定めていると,彼らの違指法は,それぞれ相違があるこ とが分かります.註13). このように,指使いは,演奏者の手の大きさ,動きやすさの個人差によって決められるべきであり,楽譜 に善かれている指使いを盲目的に信じる必要はないことがわかる.しかし,基本的な違指法は,身につける べきであり,よい指使いのモデルは存在する.左右各5本の指の中で,1つのフレーズが終っている場合, 単純に鍵盤に始まりの音に1の指註14)をのせる事で自動的にその音型を楽に弾くことができる.また,1. 214.

(12) 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. の指とそれ以外の指は,構造が異なっており,他の指に1の指をくぐらせることができる.それによって, 5本の指では弾ききることができないフレーズを弾き続けることができる.このことは,知っていて当然と 思われており,明確に確かめない指導者が多いが,初心者は,その事を明確に知ると,格段に指の動きがな. めらかになる.譜例3) 書普例3 指使いの例. 5本の指の中で済む音型(a)とそれを越える音型(b)の例.. /二==i\. 1. す. 5. ¢ ヲ Il ユヨ之. ヱlヱヲヰち中3. しかし,両手で演奏をする段階になると,左右対称の動きから外れた時に,大きな困難を伴う.その際に, 基本的な指使いを楽譜に書き込むことが重要である.基本的な指使いは,楽譜に善かれていないことが多い. それは,当然わかっていることという暗黙の了解があるからであるが,. 初心者にとって,楽譜を読むときに. 同時に指使いを読むことで,演奏がスムーズになることが非常に多い.. 初心者は,以下のような左右対称に動く指使いは簡単に演奏できる.. 右 12345 右 12345. 左 54321 左 12345 しかし,以下のような指使いで,突然弾けなくなる場合が多い.. 右 12345 右 52413. 左 31532 左 43125 このような場合,音符の正確さと共に,指使いを書き込むことがスムーズな演奏に効果がある.学生自身 が,楽譜に指使いを書き込むことが大切で,能動的にピアノに対応しているという気持ちが芽生える.その ため,演奏の達成度が高くなる.. B−2)強弱法,正確なリズムの習得について 楽曲がほぼ演奏できるようになったら,強弱をつけ,音楽的な学習に進んでい. く.強弱法は,ppから任. まで,多彩な表現が可能であり,指の強さや腕の重さによって,音楽を豊かにすることができる.初心者に は,楽譜に書いてあるから強く,または,弱く,ということではなく,ここでも,音楽の基礎的な感覚を説 明する必要がある.つまり,音型が上昇する時は,だんだん強くしたくなり(クレツシュンド),音型が卜 降する時はだんだん弱くしたくなる(デミュニュンド)という感覚は,多くの人々が共通に感じるものであ る.また,fやpも,音楽の中でどう感じるかによって行わせることが重要である. 正確なリズムは,よく耳を澄まして,自分の演奏と楽譜にあるリズムが適合しているかを確かめさせなが ら,習得させる.専門家であれば,かなり微妙なリズムの違いにも敏感に反応するが,初心者には,それら の正確さがわかるまでには,自分の演奏をよく聴くという訓練を課さなければならない.耳は,聞こえると. 215.

(13) 深 井 尚 子. いう状態と,聴くという状態で機能していることは,周知していると思われる.しかし,ピアノの練習の際 に,たとえば,「本当にfで弾いているだろうか?」や「本当に正しいリズムで弾いているだろうか?」と いう気持ちで自分の演奏を聴いた時,集中して練習していない時は,ただ聞いているだけということがよく あることに気づく.特にリズムに関しては,明確に間違いを認識するためには,これらの意識が大変重要で ある.. B−3)ペダル. ピアノには,3つのペダルがついており,ピアノ演奏には,必要不可欠の機能である.ペダルは,高度な 演奏表現のために,さまざまな技術があり,ペダルだけで数ページに渡って説明する必要がある.しかし, 初心者には,必要のない機能としてとらえられている.初心者は,指の運動だけでも困難を要する上に,足 の運動も加えることは無理であると言われることが多い.多くの初心者は,ペダルの機能を知らない場合が 多いため,必要性を認知できない.まず,指導者は,ピアノにとってペダルがどのような機能を持っている かを説明し,その重要性を説明しなければならない.ペダルには,大きく分けて2つの機能があり,1つは, 指を離しても音が持続するレガートペダル,もう1つは,音を豊かに響かせるためのアクセントペダルであ る.これらの機能は,指との連結によって,初心者でも使用することができる.そのことは,演奏実践と共 に,同時に指導するべきである.. 第3節 初心者の指導法のまとめ 第1節,第2節で述べたピアノ学習初心者の学生への指導法には,「説明する」という基本方針がある. 子どもの初心者には,このような説明はなされないことが多く,長い年月をかけて徐々に理解を深めるとい う方法をとることが多い.しかし,小学校教員を目指す学生が,短期間でピアノを習得するには,ピアノを 専門にしている者が,当たり前と思われることも丁寧に説明する辛が重要である.身体の機能,ピアノの機 能を知ることで,合理的な練習ができ,短時間でも練習の効果が早くでることが多い.次に,練習を能動的 に行えるように導くため,指使いを学習者自らの手で書かせるなど,楽譜に対する親近感を持てるよう指導 する.次の授業までの目的を明確に示し,段階的な達成感を持たせる.その際,その目的は,将来の小学校 教員に必要な事柄であることも同時に説明するようにする.. これらの指導法は,北海道教育大学釧路校音楽教育講座深井研究室における,過去5年間の指導の実践に おいて,大きな成果を挙げている.この指導法によって,まったくピアノが弾けなかった学生が,一定の楽 曲を演奏できるようになり,その実績が小学校音楽教育に役立つことを実感できるようになった.. 結 論 文部省(現文部科学省)が平成11年5月発行した,小学校学習指導要領解説∼音楽編∼によると,音楽と いう教科の目的は,「表現及び鑑賞の活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育てるとと. もに,音楽活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養う」註15)というものである.子どもたちが音楽を通 して豊かな情操を養うためには,音楽の授業における小学校教員が音楽の喜びや音楽の価値を見出し,それ を伝えなければならない.教育系大学における小学校教員課程では,たくさんの科目を広く習得しなければ ならないため,日々の練習を要するピアノ演奏の授業によって,喜びや価値を見出すことは,困難な場合が 多い.指導者は,ピアノを専門としている学生と,小学校教員志望の学生の指導法を見直さなければならな い.短時間の授業数,または練習時間で,音楽のよさを見出すことは,大変困難であるが,演奏技術のみを. 216.

(14) 教育系大学音楽科におけるピアノ指導法の研究. 指導するのではなく,ピアノ演奏を通して,多角的に興味の範囲を広げるような指導を行うことが大切であ る.つまり,教職の意義をピアノ演奏から培うことができるような指導法である.ピアノの習得は,積み重 ねの日々の練習,能動的な楽譜へのアプローチ,そこから見出される音楽の楽しさや喜びを伴っており,授 業を通してそれらの事柄を実践すること大きな効果が得られる.その経験が教職についたときに活かされる ことを念頭においた指導法が大切である.. 註 註1 過去の小学校学習指導要領を比較してみると以下の表になる. 1,2学年の授業数に変化はないが,中学年,高学年になるにつれて音楽の授業時間数が著しく減少している事がわか る.. 各 教 科 の 授 業 時 数. 区 分. 平成10年12月発行. 道 徳 の 画. 授. 工. 業 時 数. 時. 第1学年 272 / 114 / 102 68 68 / 90 34 34 / 782 第2学年 280 / 155 / 105 70 70 / 90 35 35 / 840 第3学年 235 70 150 70 /. 60 60. 90 35 35 105 910. 第4学年 235 85 150 90 / 60 60 / 90 35 35 105 945 第5学年 180 90 150 95 / 50 50 60 90 35 35 110 945 第6学年 175 100 150 95 / 50 50 55 90 35 35 110 945 区. 分 国. 第1学年. 語. 社 会 算 各教科の. 第2学年. 306. 数. /. /. 活. /. 102. 授業時数 図画工作. 家 体 道徳の授業時数. 庭 育. /. 102 34. 特別活動の授業時数 稔 授 業 時 数. 68. 34. 850. 第4学年. 280. 175. 105 175. /. 136. 理 科. 第3学年. 315. 105. 105. /. 70 70. 70 70. /. /. 第5学年. 平成元年3月発行. 第6学年. 280 105. 210 105. 210 105. 175. 175. 175. 105. 105. 105. /. /. 70 70. 70 70. 70 70. /. 70. 105. 105. 105. 70 105. 105. 35. 35 35. 35 70. 35 70. 35 70. 980. 1,015. 1,015. 35 910. 1,015. 註2 J.デイツヒラー,渡辺護・尾高節子訳(1957):. ピアノ演奏法の芸術的完成 DerWegzumKtlnstlerrischenKlavierspiel. 音楽之友社. ライマー・ギーゼキング,井口秋子訳(1978):現代ピアノ演奏法 ModernesKlavierspiel. 音楽之友社. G.ネイガウス,森松暗子訳(2003):ピアノ演奏芸術. 音楽之友社. J.ラスト,黒川武訳(1974):ヤング・ピアニストAnApprochforteachersandstudents 全音楽譜出版社 E.リーベルマン,林万里子訳(1978):現代ピアノ演奏テクニック. 音楽之友社. など,多くのピアニストやピアノ指導者が参考書を執筆している. 註3 平均律とは,純正律に対して,オクターヴを12の半音に平均して調律したもの.耳では判断できないほどの濁りを持つ ことで,どのように調性が変化しても,不自然に聞こえないような調律法. 註4 『最新ピアノ講座 6』(1982)ピアノ技法のすべて. 音楽之友社. 第1章 練習について pp.9∼10 園田高弘 註5 『ピアノの学習』(1960) 長岡敏夫著. 音楽之友社. 217.

(15) 深 井 尚 子 ピアノの教授に関する諸問題 pp.287∼288. 註6 『ブラームス回想録集 1』ブラームスの思い出 デイートリヒ,ヘンシェル,クララ・シューマンの弟子たち著 クララ・シューマンの弟子たちの回想録 pp.160∼161. 註7 同上 pp.163 註8 『最新ピアノ講座 6』ピアノ技法のすべて. 音楽之友社. 第1章 練習について pp.16∼17 園田高弘 註9 ピアノ演奏技術の向上と音楽表現の可能性 北海道教育大学紀要 第56巻 第1号 第2章 第3節 pp.120 深井尚子 註10 古典舞曲は,16世紀に舞踏が盛んになった頃に現れた舞曲で,バロック時代の音楽において,器楽曲にも用いられる. アルマンド,クーラント,サラパント,ジーグ,メヌエット,ガヴォットなどがある. 註11註2で挙げた参考書のすべてに,「運指法」の項目がある.. 音楽之友社. 註12 ピアノ演奏法の芸術的完成 ヨーゼフ・デイヒラー著. 第4章 練習法 pp.282∼283 音楽之友社. 註13 ピアノ演奏芸術 ゲンリッヒ・ネイガウス著. 第4章への補足 p.193 註14 ピアノ学習者は,各指に番号をつけており,左右とも,親指から小指まで順に,12345という.. 註15/ト学校学習指導要領解説 音楽編 平成11年5月版 文部省 第2章 p.8. 参考文献. ・ライマー・ギーゼキング,井口秋子訳(1978):現代ピアノ演奏法 ModernesKlavierspiel. 音楽之友社. ・E.リーベルマン,林万里子訳(1978):現代ピアノ演奏テクニック. 音楽之友社. ・J.デイツヒラー,尾高節子訳(1973):ピアノの解釈と限界 VerstandundGeftihl. 音楽之友社. ・J.デイツヒラー,渡辺護・尾高節子訳(1957):. ピアノ演奏法の芸術的完成 DerWegzumKtinstlerrischenKlavierspiel ・G.ネイガウス,森松時子訳(2003):ピアノ演奏芸術. 音楽之友社 音楽之友社. ・F.Eノマッハ,東川清一訳(1963):. 正しいピアノ奏法 上 Versuchtlberdiewahre Art zu spielen. 全音楽譜出版社. ・笈田光書(1974):ピアノペダルの使い方. 音楽之友社. ・長岡敏夫(1960):ピアノの学習. 音楽之友社. ・C.クック,堀内敬三訳(1975):ピアノの技法 PlayingtheianoforPleasure ・J.ラスト,黒川武訳(1974):ヤング・ピアニスト AnApprochforteachersandstudents. 音楽之友社 全音楽譜出版社. ・C.シューマンの弟子たち,大崎浩二編・訳,関根裕子共訳(2004):. ブラームス回想録集1 ヨハネス・ブラームスの思い出 ErinnerungenanJohanesBrahmsl ・R.カヴァイエ,西山志風(1987):日本人の音楽教育. 音楽之友社 新潮選書. ・D.}†−ネット,大場哉子訳(1980):ピアノによる音楽の演奏 ThePerformanceofMusic. 音楽之友社. ・浅香淳 他編(1982):『最新ピアノ講座 6』ピアノ技法のすべて. 音楽之友社. ・深井尚子(2005):ピアノ演奏技術の向上と音楽表現の可能性 北海道教育大学紀要 第56巻 第1号 ・池内友次郎 他編(1976):新音楽辞典(楽譜). 音楽之友社. ・小学校学習指導要領解説(1999). 文部省. ・小学校学習指導要領(1998). 文部省. ・小学校学習指導要領(1991). 文部省. (釧路校助教授). 218.

(16)

参照

関連したドキュメント

G,FそれぞれVlのシフティングの目的には

音節の外側に解放されることがない】)。ところがこ

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

ピアノの学習を取り入れる際に必ず提起される

本章の最後である本節では IFRS におけるのれんの会計処理と主な特徴について論じた い。IFRS 3「企業結合」以下

 日本語教育現場における音声教育が困難な原因は、いつ、何を、どのように指

第五章 研究手法 第一節 初期仮説まとめ 本節では、第四章で導出してきた初期仮説のまとめを行う。

はじめに 第一節 研究の背景 第二節 研究の目的・意義 第二章 介護業界の特徴及び先行研究 第一節 介護業界の特徴