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自立語と非自立語の境界―二字漢語を例に―

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(1)

著者

葉 秉杰

雑誌名

国際文化研究(オンライン版)

26

ページ

33-42

発行年

2020-03-31

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127386

(2)

1 .はじめに 日本語には「謝罪会見」や「謝恩会」のような、「謝罪+会見」や「謝恩+会」のように「二 字漢語+ X」と分析できる複合語が数多く存在する。これらの複合語の前項の二字漢語はいずれ も語構成が「動作―対象」であるが、同じ語構成でも、語によっては自立する、もしくは自立し ないという自立性の差が見られる。例えば、上記の「謝罪会見」と「謝恩会」のほか、「入浴剤」 と「入湯税」、「洗顔料」と「洗面所」の前項(二字漢語)はそれぞれ同じ語構成であるが、いず れにおいても後者の方は自立語としての用法があまり見受けられない。 ( 1 ) 謝罪((を)する)、入浴((を)する)、洗顔((を)する)(cf. ? 謝恩(を)する ? 入湯(を) する、? 洗面(を)する) このように複合語において「二字漢語+ X」と分析でき、語構成が「動作―対象」であるもの の、一般的に自立しないと思われる二字漢語が多数存在している(例は野村1975、1988、1998b、 1999及び葉2014から採集したものである)。 ( 2 ) 愛国心、開襟シャツ、救命胴衣、決死隊、殺人者、防臭剤、立憲国家、臨海団地、顕微 鏡、喫茶店、従業員、当事者、慰霊祭、養蜂業、防音用、産炭地域、臨戦体制、噴霧装置、 喫煙用具、洗面設備、抜本改革、抗生物質、産銅各社、止汗剤、止痢剤、洗眼薬、鎮痛剤、

自立語と非自立語の境界

―二字漢語を例に―

葉   秉 杰

要 旨 日本語には「謝罪会見」や「謝恩会」のような「二字漢語+ X」の複合語が数多くある。 しかし、語構成が「動作―対象」の漢語の中には「愛国」のような一般的に自立しないもの がある。先行研究ではこのような非自立的な漢語を「結合専用形態」などと位置付けられて おり、非自立語と見なされているが、国語辞典では自立語とされることもある。本稿では、 先行研究から採集した98語を対象に、コーパスによる語彙調査を行った。その結果、このよ うな漢語は少数ながらも自立語としての用法もあることがわかった。そして、プロトタイプ 理論に基づき、自立語と非自立語の連続体を提案した。 【キーワード:漢語 / 結合専用形態 / 規定用法のみの形容詞 / 自立性 / 連続性】

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吐水口、解熱剤、抗火石、抗癌薬、消炎剤、制汗剤、制癌剤、制球力、制空権、制酸薬、 制水弁、制吐剤、哺乳動物、脱脂粉乳、変電室、量水器、観海荘、観桜会、観月会、観艦式、 観相学、観楓会、観兵式、観葉植物、増圧弁、臨場感、謝恩会、更衣室、受話器、分水嶺、 望遠鏡、望夫石、防波堤、防潮堤、審美眼、読唇術、読心術、入湯税、牧羊犬、製氷機、 養鶏場、託児所、蓄音機、接骨院、調音器官、加湿器、拡音器、除光液、補聴器、配電盤、 送水車、防腐剤、迎賓館、騎馬像、集電装置、観瀑台、耐熱皿、耐震性、耐水性、断熱材、 砕氷艦、撥水加工、斬鉄剣、殺虫剤、離乳食、試金石、防弾チョッキ、救急車、跨線橋、 救世主、営利事業 このような漢語は、国語辞典類においても記述のゆれが見受けられる。例えば、「愛国」は『デ ジタル大辞泉』及び『大辞林第 3 版』では品詞が無表記である。また、前者においては例文がな く、後者においても「愛国心」、「愛国者」という例しかない。『精選版日本国語大辞典』におい ては名詞と表記されているが、例文は( 3 )に見るように、現代日本語ではない。 ( 3 ) ※百学連環(1870‐ 71頃)〈西周〉二「又人には〈略〉 patriotism (愛国の誠)といふあり。 〈略〉、唯だ自然に己れが生国を恋ひ思ふが如きこれを愛国の誠といふ」 〔荀悦漢紀 ‐ 恵 帝紀〕(https://kotobank.jp/word/ 愛国 -421233) 本稿では、( 2 )の下線部のような、先行研究において自立しないとされている二字漢語を対 象に、これらの使用状況について語彙調査を行うとともに、これらの現代日本語における位置付 けを試みる。 2 .日本語の漢語に関する先行研究 野村(1973,1974、1975、1988、1998a、1998b、1999)は漢語の語構成及び造語力について、 詳しい研究を行っている。野村は、語構成要素(野村は二字漢語を「複合字音語基」と呼んでい る)の意味から、下記( 4 )の 4 つの品詞性に分類している。 ( 4 )事物類(N)…叙述の対象となる物や事をあらわす        助辞ガ・ヲをともない、述語に要求される成分となる(例:宇宙・人間・交通・ 工業・科学)   動態類(V)…事物の動作・作用をあらわす        スルをともない、動詞として文の成分となる(例:研究・運動・変化・検討・観 察)   様態類(A)…事物や精神の性質・状態をあらわす        ナ(ノ)・シイをともない、連体修飾成分となる(例:簡単・愉快・重要・意外・永久)

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自立語と非自立語の境界  葉  秉杰   副用類(M)…動作や状態の程度・内容を限定・修飾する        単独でまたはニ・トをともない、連用修飾成分となる(例:結局・突然・直接・ 一斉・公然) 野村(1998b: 153-154一部改変) 上記( 4 )の分類は上からそれぞれ名詞、動詞、形容名詞、副詞(及び接続詞)に対応してい る。しかし、野村(1998b:154)は「複合語基の中には、意味の上ではこの 4 類のどれかに該当 しても、上記の形態的な特徴をもたないものがある」と述べ、自立せず、語の一部としてのみ用 いられる下記( 5 )のような「結合専用形態の複合字音語基」もあると指摘している。 ( 5 )事物類…国際(~的)・具体(~性)・羊頭(~狗肉)   動態類…当事(~者)・植民(~地)・東奔(~西走)   様態類…可燃(~性)・等差(~級数)・以遠(~権) 野村(1998b: 153-154一部改変) 野村は( 5 )のような「結合専用形態の複合字音語基」について、「それ自体としては単独で 文の成分となりえない以上、形態的には不安定であることをその特徴とする」(同:154)と述べ、 非自立的であるとしている。 また、野村(1999)では、動態類である「愛国」「開襟」「救命」「決死」「興業」「殺人」「防臭」「養鶏」 「立憲」「臨海」などについて、「これらは[V+N]に属し、[V+N]は[V>V]1とともにサ 変動詞の成分になりやすいパターンである。これらがなじみのある語でありながら、サ変動詞を 構成しないのは、ほとんどが結合専用の形式であることによる」(同:21)と述べている。 語構成が「動作―対象」でありながらも非自立語である二字漢語についての記述は村木 (2012)にも見受けられ、村木は文法機能の観点から、主語、目的語、述語として用いられない 下記( 6 )の二字漢語を自立しない「規定用法のみの形容詞」としている。 ( 6 ) 愛国、厭戦、懐旧、求心、救世、建学、建軍、好学、抗菌、消炎、審美、耐圧、耐火、耐寒、 耐久、耐酸、耐食、耐震、対人、耐水、対地、対敵、対日、耐熱、対物、排外、拝金、排日、 迫真、抜本、噴飯、亡国、忘年、臨海、臨港、臨戦(村木2012:96-97より抜粋) 上記の先行研究から、これらの二字漢語は現代日本語において語構成要素または拘束形態素、 非自立語として扱われていることがわかる。現代日本語の語彙全般について考察を行なっている 斎藤(2004)や石井(2007)、及び漢語動名詞に関する詳しい考察を行っている小林(2004)に おいても( 2 )や( 6 )のような漢語は考察対象として取り上げられていない。

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3 .語彙調査 1 先行研究から採集した( 2 )の98の漢語は辞書ではどのように位置付けられているのかを確認 するため、筆者はコトバンク(https://kotobank.jp)を利用し、その中に収録されている『大辞 林第 3 版』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』の三種類の国語辞典の横断検索を行った。 紙幅の都合上、同様な結果が出た語の記述は省略するが、全ての語は下記表 1 の通り、辞書の品 詞表記にゆれが見られ、計12パターンである。 表 1 .『大辞林第 3 版』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』の調査結果    辞書 語例 大辞林第 3 版 デジタル大辞泉 精選版 日本国語大辞典 加湿 名詞(する) 未収録 未収録 砕氷 名詞(する) 名詞(する) 名詞 謝恩 名詞(する) 無表記 名詞 愛国 無表記 無表記 名詞 慰霊 無表記 名詞(する) 名詞 顕微 無表記 未収録 名詞 開襟 未収録 無表記 名詞(する) 解熱 未収録 名詞(する) 名詞 喫煙 未収録 名詞(する) 未収録 止痢 未収録 無表記 未収録 受話 未収録 未収録 名詞 噴霧 未収録 未収録 未収録 『大辞林第 3 版』及び『デジタル大辞泉』では無表記となっているが、『精選版日本国語大辞典』 では名詞として扱われている語は「愛国」を始めとして42語あった。いずれの辞典にも見出し語 として掲載されておらず、「噴霧 N」のように一つの語として掲載された語は27語あった。そして、 『大辞林第3版』及び『デジタル大辞泉』では動名詞、『精選版日本国語大辞典』では名詞として 扱われている語は「砕氷」を含め17語あった。『大辞林第3版』及び『デジタル大辞泉』では無表 記となって、『精選版日本国語大辞典』では名詞として扱われている語は例文を見ると、ほとん ど( 7 )~( 9 )に見るような現代日本語の文ではなかった。 ( 7 )再昌草 ‐ 大永六年(1526)一〇月一〇日「寒声未レ雪竹相、微霰珊々如二砕氷一 ( 8 ) 内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉九「心計(ばかり)なる餞別も得せず。謝恩(シャ オン)の万分一も表する能はず ( 9 ) 続俳諧師(1909)〈高浜虚子〉四三「其翌日もう解熱(ゲネツ)したのを幸ひに起き出でた 一方、『大辞林第 3 版』及び『デジタル大辞泉』で動名詞として扱われている語は例文がない、 もしくは作例(=(10))と思われる文及び複合語のみであった。

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自立語と非自立語の境界  葉  秉杰 (10)「冷水で洗面する」(下線部分は筆者による補足) この結果から、国語辞典におけるこれらの漢語の扱いはゆれがあることがわかった。また、こ れらの漢語を野村(1998b)が提案した「結合専用形態の複合字音語基」あるいは村木(2012) が提案した「規定用法のみの形容詞」と見なすと、( 8 )、( 9 )、(10)がその定義の反例となる。 少なくとも、( 2 )の漢語は仮に同一のカテゴリーに属する成員でも、その性質は均一ではない と考えられる。 4 .語彙調査 2 野村(1998b:154)は「結合専用形態の複合字音語基」の判定について、「統計的な根拠があ れば申し分がないが、ほとんどが低使用頻度のものである以上、それによることはできない。国 語辞典の記述が参考にできないのは、既述のとおり(名詞とされている2)である」と述べ、内 省による方法を採っている。本稿では、先行研究で非自立語とされているこのような二字漢 語に自立語としての用法が見受けられることに着目し、より正確に( 2 )の漢語の使用の実態 を把握するため、国立国語研究所の「KOTONOHA 現代日本語書き言葉均衡コーパス少納言」 (BCCWJ)を用いて、調査を行った。 調査の結果、16,964件3の結果を得た。格助詞を伴うもの、及びそのまま単独で用いられている ものを名詞用法とし、[- する]及びその活用形を伴って用いられている例を動詞用法に分類した。 また、語によってはヒット数のばらつきがあったが、上記の二種類の用法以外はほぼ全て複合語 の一部として用いられた例4であった。 複合語の一部として用いられた例には「忠君愛国」や「連続殺人」のように、複合語の後項に なった例も若干見受けられたが、ほとんど「愛国心」のように複合語の前項として用いられている。 格助詞を伴って文の補語として使われている例、もしくはそのまま単独で名詞として用いられ ている例は異なり語数が69語で全体の三分の二以上の割合を占めたものの、全部で1,424件5と全 体の十分の一弱であった。また、[- する]及びその活用形を伴って、動詞として用いられる用例 は異なり語数が38語で、およそ全体の三分の一であり、数も全部で177件と少ない。全く自立用 法のない漢語は、ヒットしなかった「抗火」「観楓」「望夫」「拡音」「斬鉄」の 5 語を除き、「止痢」「抗 癌」「制汗」「制癌」「制酸」「制水」「量水」「観海」「観艦」「観兵」「観瀑」「除光」「跨線」「開襟」「防波」「蓄 音」「補聴」「顕微」「当事」「産炭」「臨戦」の21語でむしろ少数であるが、非自立的な用法の使用頻度 から考えると、これらの漢語は複合語の一部としてしか使用されない「結合専用形態字音語基」 である傾向が強いと言える。 5 .自立語に転用される条件または漢語の特徴 自立語の名詞であれば、主語や目的語として用いることができ、つまり格体系を持つはずであ る。また、動名詞ならば主語や目的語としての機能に加え、[- する]をつけて述語としても用い

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ることができる。( 2 )のような漢語は、前節の調査の結果、自立的な用法が1,601件で全体の十 分の一ぐらいであることから、先行研究で「結合専用形態字音語基」と位置付けられているのが 妥当であると考えられる。しかし、これらの漢語に自立語としての用例が存在することに注目さ れたい。つまり、本来非自立的であるが、ある一定の条件の下自立的に用いられることがあると 考えられる。以下(11)~(22)が本稿の調査で得た自立用法の例である。(11)~(16)は名詞用 法で、(17)~(22)は動詞用法である(下線は筆者が施したものである)。 (11) 恵比寿は「実業上の大方針」と書いた磁石器を抱え、そこには「正直・親切・和合・愛 国・得意大切・勉強・交際・温和」との徳目を書いてある。  (12) 能登半島地震復興基金において、耐震・耐雪、バリアフリー等の一定の基準を満たす住 宅の再建を行う世帯に対し、最大200… (13) 烏梅は、止血・鎮痛・回虫駆除・解熱・鎮咳・去痰に有効とされたが、江戸時代には、 紅染めの染料を繊維に定着させる媒染剤… (14) 家庭用品も季節用品が動かず14.0パーセント減と低迷した。食堂・喫茶は百貨店、スーパー とも引き続き好調で、それぞれ10.7パーセント増。 (15) そして通路側は、隣室と半分ずつスペースを出し合った格好で、二室共用の洗面・シャ ワールームになっている。 (16) 甲斐武田家にも独立の騎兵隊がいたわけではない。この当時、騎馬は身分の高い将校で あり、兵士はすべて徒、つまり歩兵である。 (17) 捜索願を受けた新宿署から、数名の捜査員が朝野家に臨場した。捜査員はすでに事件と して対応していた。 (18) エコカラットやハーモナイト除湿したり加湿したりします。調湿性能です。タイルのよ うなものです。 (19) 0.02%ヒビテン液®などの薬剤を、量を限定して霧吹き用噴霧器で噴霧してもよい。 (20) この風で遭難した多数の漁民を慰霊するために建てたのが白亜の塔。春一番の起源をも 伝える。 (21) 成虫を薬で殺虫する「薬剤散布」、松の葉などから侵入してくるマツノザイセンチュウを 殺虫する「薬剤樹幹注入」の方法があります。 (22) 実技指導に積極的に取り組んでいくことが重要である。現在、特に心肺機能停止傷病者 を救命する心肺蘇生法(CPR)技術の習得に主眼を置き、住民体験型の普及啓発活動 が推進 ... 今回の考察の結果を見る限り、自立語に転用される二字漢語及び文の特徴は以下の通りである。

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自立語と非自立語の境界  葉  秉杰 (23)自立語に転用される二字漢語の特徴、文の特徴:   a. 関連概念・類似概念と並列した時(=(11)、(12)、(13))   b. モノ化していると考えられる(=(14)、(15)、(16))   c. 特定の業種で使用される(=(17))   d. その道具を使用して始めて実現可能な動作(=(18)、(19))   e. 後項の意味が希薄化、または目的語の一部である(=(20)、(21)、(22)) 漢語動名詞は[- する]が付いていない場合でも、そのままある行為や出来事を表す自立語と して用いることができるが、一方、( 2 )のような漢語は後項に依存し、一般的に自立しないが、 例えば「愛国心」は「国を愛する心」のように、漢語動名詞と同様に行為や出来事を表すことが できると思われる。そのため、(11)~(13)のように関連概念と並んで、出来事を表す時に一時 的に複合語から抽出し、自立語として用いられると考えられる。(14)~(16)の「喫茶」「洗面」 「騎馬」はそれぞれ「喫茶店」「洗面所」「騎馬隊」のように、後項を補足しても意味が変わらない ため、人や場所も含めた「モノ」を意味すると考えられる。日本語では「お守り」「切り抜き」「翻 訳」「料理」に見るように、語種を問わず、動詞の名詞化(あるいはモノ化)は広く見られる現象 であり、(14)~(16)の用法もそれに動機付けられたものと考えられる。(17)の「臨場」は例文 に「新宿署」や「捜査員」があるように、警察関係者のいる場面で使用されている。実際、今回 得た 6 件の中で 5 件が警察関係者の現れた場面で使用されていたため、語によっては特定の業種 では自立語としても用いられ得ると考えられる。(18)、(19)の「加湿」「噴霧」は、まず、エコ カラットやハーモナイト(いずれも商品名)、「噴霧器」という商品、道具があり、その道具があっ て初めて「加湿する」「噴霧する」ことが可能となる動作である。(20)~(22)の「慰霊」「殺虫」「救 命」は「漁民の霊を慰める」「マツノザイセンチュウという虫を殺す」「心肺機能停止傷病者の命を 救う」というようにパラフレーズできる。日本語にはこのような動名詞が数多くある。例えば、 「ケータイを充電する」「船は九州に上陸した」がそうである。「充電」の後項「電」はケータイの 一部分を構成し、また、「上陸」の後項「陸」は意味が希薄化している。そのため、新たに獲得 する項を「外部表示」することができる(影山・由本1997、影山1999)。「慰霊」や「殺虫」は本 来非自立的であるが、そのように再分析できるため、自立語としての用法はそのような意味に動 機づけられたものだと考えられる。 6 .語彙体系における再位置付け 本稿の考察から、( 2 )の二字漢語は「結合専用形態字音語基」であると同時に、語によって は(23)のような条件の下で自立語として転用され得るものがあることが明らかになった。 これまで、古典的なカテゴリー観に基づき、意味を持ち、尚且つそれ以上分解できない最小の 単位である形態素はその自立性の差から自立しない拘束形態素、自立する自由形態素と二分類さ れるのが一般的であった。また、「語」と定義されるものは一般的に自立する性質があると考え

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られてきた6。例えば、影山(1993)は自立性によって、自立する形態的単位を「語」に、自立 しない形態的単位を「語幹」7およびそれより小さい「語根」と設定している。しかし、「語」と されるものには「あの」などの連体詞のように自立せず、常に[[あの]X]という名詞を従え る形で現れるものがある8 本稿では、ある特定のカテゴリーにおけるメンバーはプロトタイプ的なものと非プロトタイプ 的なものがあり、また、カテゴリー間の境界もファジーであるとするプロトタイプ理論に基づ き、「語」(もしくは自由形態素)にも「結合専用形態字音語基」(もしくは拘束形態素)にもより プロトタイプ的なメンバーとより非プロトタイプ的メンバーがあると考える。上で述べたように、 「語」と定義されるものは一般的に自立する性質があると考えられてきたため、自立するものは 典型的な「語」であると見なすことができるだろう。そして、自立しない連体詞は非典型的な 「語」と見なすことができる。つまり、「語」というカテゴリーに入っているメンバーにも自立す るものと自立しないものがあり、連続性があるわけである。一方、一般的に「語」ではなく、「結 合専用形態」とされるものは自立しないが、本稿の考察で明らかになったように、中には条件付 きで臨時的に自立語に転用されるものもある。では、連体詞は「語」で、「結合専用形態」は「語」 でないとされる理由は何であろうか。本稿では、それらの後ろに現れ得る表現に注目し、「語」 と「結合専用形態」の認定は共起する表現の数によると考える。連体詞は「あの学生」、「あの頃」 のように、後ろに現れる名詞は比較的制限されていない。それに対し、「謝恩」は「謝恩会」や 「謝恩セール」など限られた名詞としか共起せず、そして「顕微」はほぼ「鏡」としか共起しない。 連体詞、「規定用法のみの形容詞」、「結合専用形態」の順に後続する名詞の制限が厳しくなるの である。特に複合語の内部にしか現れず、自立語として用いられない二字漢語は一般的に連体詞 のように「語」であるとは考えられない。 一般的に自立するとされる「語」に自立しない連体詞の存在及び本来非自立的な二字漢語が自 立した(動)名詞としての用法があり得るということは自由形態素と拘束形態素に連続性がある ことを示している。本稿では下記の形態的単位の連続体を提案したい。 語構成要素(複合語基) 語 拘束形態素 自由形態素(伝統的な分類) 非自立的 自立的 意味が抽象的 あの 意味が具体的 止痢 愛国 ※破線はカテゴリー間の境界線がはっきりしないことを示す 謝罪 図 1 .形態的単位の連続性

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自立語と非自立語の境界  葉  秉杰 7 .終わりに 本稿では語彙調査を通して従来非自立語とされてきた二字漢語には自立語としての派生用法が あることを明らかにした。自立語としての派生用法が存在する非自立語は、自立語と非自立語に も連続性が存在することを示唆する。今後の課題として、より大規模な語彙調査を通して、(23) の特徴の検証をしたい。 参考文献 荒川清秀(2013)「日中字音語基の造語機能の対照」野村雅昭(編)『現代日本漢語の探求』東京堂出版、60-82 庵功雄(2012)『新しい日本語学入門 ことばのしくみを考える 第 2 版』スリーエーネットワーク 石井正彦(2007)『現代日本語の複合語形成論』ひつじ書房 奥津敬一郎・沼田善子・杉本武(1986)『いわゆる日本語助詞の研究』凡人社 影山太郎(1993)『文法と語形成』ひつじ書房 影山太郎(1999)『形態論と意味』くろしお出版 影山太郎・由本陽子(1997)『語形成と概念構造』研究社 小林英樹(2004)『漢語動名詞の研究』ひつじ書房 小林英樹(2006)「漢語の造語機能」前田富祺・野村雅昭(編)『朝倉漢字講座 2  漢字のはたらき』朝倉書店、83-97 斎藤倫明(2004)『語彙論的語構成論』ひつじ書房 田中春美他(1981)『言語学のすすめ  5 版』大修館書店 陳力衛(2010)「語彙史」沖森卓也(編著)『日本語ライブラリー日本語史概説』朝倉書店、55-79 中川秀太(2013)「字音語基の造語力」野村雅昭(編)『現代日本漢語の探求』東京堂出版、109-133 日本語教育学会(編)(1990)『日本語教育ハンドブック』大修館書店 野村雅昭(1973)「複次結合語の構造」『電子計算機による国語研究』5 :72-92 野村雅昭(1974)「三字漢語の構造」『電子計算機による国語研究』6 :37-62 野村雅昭(1975)「四字漢語の構造」『電子計算機による国語研究』7 :36-80 野村雅昭(1988)「二字漢語の構造」『日本語学』7 ( 5 ):44-55 野村雅昭(1998a)「現代漢語の品詞性」東京大学国語教室創設百周年記念 国語研究論集編集委員会(編)『東京大学 国語教室創設百周年記念国語研究論集』汲古書院、128-144 野村雅昭(1998b)「結合専用形態の複合字音語基」『早稲田大学日本語研究教育センター紀要』11:149-162 野村雅昭(1999)「サ変動詞の構造」森田良行教授古稀記念論文集刊行会(編)『日本語研究と日本語教育』明治書 院、1-23 野村雅昭(2013a)「現代日本漢語研究の展望」野村雅昭(編)『現代日本漢語の探求』東京堂出版、5-56 野村雅昭(2013b)「品詞性による字音複合語基の分類」野村雅昭(編)『現代日本漢語の探求』東京堂出版、134-145 村木新次郎(2000)「「がらあき―」「ひとかど―」は名詞か、形容詞か」『国語学研究』39:1-11 村木新次郎(2012)『日本語の品詞体系とその周辺』ひつじ書房 山下喜代(2013)「接辞性字音形態素の造語機能」野村雅昭(編)『現代日本漢語の探求』東京堂出版、83-108 葉秉杰(2014)「中国語から見た日本語における「非述形容詞」の可能性-二字漢語を対象に-」『政大日本研究』 11、371-391

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監訳2011『認知文法論序説』研究社) 辞書 松村明(監修)(2017).『デジタル大辞泉』   (https://kotobank.jp/dictionary/daijisen/)小学館 松村明(編)(2006).『大辞林第三版』   (https://kotobank.jp/dictionary/daijirin/)三省堂書店 小学館国語辞典編集部(編)(2006)『精選版 日本国語大辞典』   (https://kotobank.jp/dictionary/nikkokuseisen/)小学館 コーパス 国立国語研究所「現代日本語書き言葉均衡コーパス」   (http://www.kotonoha.gr.jp/shonagon/) 注 1 「愛用」や「滑降」、「誤診」のような連用修飾関係の漢語を指す。筆者注。 2 野村(1998b:149)より;筆者注。 3 語によっては検索結果が500件を超えたものもあるが、表示の上限が500であるため、上位の500件をサンプル として採集した。 4 ごく僅かであるが、「観月ありさ」のような固有名詞(人名)を表すものもあるが、そのような例を除けば全 て複合語の一部になっている例である。 5 「受動喫煙」や「漫画喫茶」、「無差別殺人」、「非営利」のように複合語の語構成要素の後項となっており、自 立性が判断できないものは除外した。また、誤植と思われる「鮎の開襟」(解禁)「製制水」(精製水)も除外した。 6 国語学、日本語学において、語はさらに自立語(詞)と非自立語(辞)の区別がされているが、詞とされて いるものは主に動詞、形容詞、形容動詞などであり、辞とされているものは主に助動詞と助詞である。 7 影山(1993)が設定した「語幹」は、日本語学の語幹、つまり動詞、形容詞の不変化の部分という定義とは 異なり、「語」より小さく、「語根」より大きい単位である。 8 連体詞は非自立的でありながら橋本文法では自立語(詞)の類に分類されている。また、筆者が日本語教育 学会(編)(1990)など言語学の入門書を調べたところ、拘束形態素の議論において連体詞を例として挙げられ ているものは一冊もなかった。また、庵(2012)では連体詞が「あの男」のように名詞を修飾できるとして、連 体詞を自立語に分類している。このことから、連体詞は後部の名詞に大きく依存しているにもかかわらず、「語」 であると意識されていると考えられる。 (葉秉杰 国立政治大学日本語文学系 助理教授/言語文化交流論講座 修了生)

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式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲