招待論文
プリンテッド・スパイラル・インダクタを用いた交角計測システム
谷廣
憲利
†a)萬谷
海月
†b)山内
将行
†c)Crossing Angle Measurement System Using Printed Spiral Inductors
Kento TANIHIRO
†a), Mizuki MANTANI
†b), and Masayuki YAMAUCHI
†c)あらまし 近年,様々な場所でのRFID の利用が進み,日常生活になくてはならないものになりつつある.こ れらRFID にはスパイラル状の素子が利用されていることも多く,スパイラル状の素子を多くの人が日々身につ けて生活していると言える.このスパイラル状の素子の一つであるスパイラルインダクタは,薄く平坦であり, 重ね合わせて利用することが非常に行いやすく,また,非常に安価に作成することが容易い素子であると言える. そこで本研究では,プリント基板上に作成したスパイラル状の素子である,プリンテッド・スパイラル・インダ クタ(PSI) を複数重ねた際に発生する相互インダクタンスを利用した交角計測システムの提案を行い,提案する 交角計測システムに最適な形状について考察を行う. キーワード 交角計測システム,プリンテッド・スパイラル・インダクタ,相互インダクタンス,発振器
1.
ま え が き
近年,広範囲の状況を知りたい際などに,センサネッ トワーク[1]の構築が考えられつつある.また,様々 なシステムやものが自動化される傾向にあり,センサ があらゆる場で多用されつつある.そのため,より一 層安価で小型でありつつも精度が良く,耐久性のある センサが求められていると言える. このように数多くの場において求められるセンサに は,数多くの種類があると言える.例えば,目に見え る物体の動きを計測するセンサには,加速度センサや 回転角度センサ,また,交角センサなどがある.この 交角センサはロボットのアームの動きや扉や蓋の開閉, また,建物などの傾きを計測するためにも利用が可能 であると言える.この交角計測デバイスとして一般的 に用いられるセンサには,ロータリーエンコーダ[2]や ポテンショメータ[3]などがある.これらは高精度で あるが複雑な機構をもち,一つあたりの単価も十分に 安いとは言えない.更に,検出物の回転軸の回転角度 によって交角を検出するため,計測を必要とするシス †広島工業大学,広島市Hiroshima Institute of Technology, 2–1–1 Miyake, Saeki-ku, Hiroshima-shi, 731–5193 Japan a) E-mail: [email protected] b) E-mail: [email protected] c) E-mail: [email protected] テム内に,あらかじめ専用の空間を用意しておく必要 があると言える.これは言い換えれば,既存のシステ ムへの導入が容易ではなく,設計上ある程度大きなシ ステムでなければ対応できないと言える.よって,既 存のシステムへの導入も容易く,耐久性が高く,単価 が安いセンサがあれば,様々な場においてできること が増え,人間の安全などもより守られるようになると も考えられる.例えば,非常に薄く耐久性もあり,単 価も安いセンサがあれば,近年問題となりつつある建 物やインフラ設備などの老朽化[4]に対する監視への 利用なども考えられる.老朽化の仕方は様々であると 言えるが,経年劣化により形状が変化し,また,一部 が崩れ,その後全体の崩壊が始まる場合も多いと考え られる.そこで,建造物の柱や梁などのひずみやたわ み,橋梁のたわみや接続部のひずみなどを24時間監 視し続けられて容易に検出することができれば,事故 を防ぐことや点検のコストなどを抑え,更新計画も立 てやすくなると考えられる. 従来,我々は非常に薄く軽量で耐久性もあり,安価 に製作できると考えられるプリント基板上に構築した スパイラル状の素子である,プリンテッド・スパイラ ル・インダクタ(PSI)を用いた,計測システムの開発 を行ってきた[5].PSIは,非常に薄く,重ね合わせて の利用が容易であり,その間に発生する相互インダク タンスを利用しやすいと言える.
本研究では,これらPSIを2枚用い,その間に発生 する相互インダクタンスの変化を利用した交角計測シ ステムの提案を行う.特に,交角計測システムに適し たPSIの形状の検討については,我々の開発した有限 要素法とビオ・サバールの法則を用い,PSIの自己イ ンダクタンスと,2枚のPSI間の相互インダクタンス を導出するシミュレータを用いて行う.更に,センサ から計測場所までの距離が遠いと想定し,相互インダ クタンスの変化によって発振周波数が変化する発振器 を利用した交角計測システムを提案する.
2.
交角計測システム
本研究の根幹技術であるPSIは,全てFR4を基材 としたプリント基板上に導体のパターンでコイルを構 成する. 2. 1 交角の検出方法 本研究における交角計測システムは,2枚のPSIの 相対位置の変化による,PSI間の相互インダクタンス の変化を利用する.システムの核となるPSIを用いた センサヘッド部を図1に示す.本研究では,図1に示 すように1次側PSIと2次側PSIに同じPSIを用い, それらの交角θ◦が自由に変化するように一辺を固定し て,完全に重ね合わせた状態を0度とし,一方のPSI を回転軸を中心に回転させたときに変動する相互イン ダクタンスを検出して,θ◦を求める.このように相互 インダクタンスを利用するシステムであるため,本研 究では2枚のPSIの間に何も挟まないこととする. 2. 2 プリンテッド・スパイラル・インダクタの自 己インダクタンス 本研究においては半円の弧を組合せてPSIを構築 することとし,最大直径,最小直径などを変更するこ とで半円弧数を変化させ,交角計測システムに最適な PSIを模索する. 2. 2. 1 構 造 半円弧を組合せて構成したPSIの構成図を図2に 示す.図3 (a)に基本となるPSIであるPSI-0の形状 を示し,図3 (b)に実際に作成した素子の写真を示す.PSIの周りは,PSIが見易いように黒く表示している. 表1にPSI-0の設計パラメータを示す.本論文ではこ のPSI-0を基本として,Dmin,Ws,Dmaxをそれぞ れ変化させた場合について調査する. 2. 2. 2 自己インダクタンスの導出手法 実測とシミュレーションにより自己インダクタンス を求める. 図 1 交角測定システムのセンサヘッド 図 2 PSIの構成図(表 1 参照) 図 3 基本となる PSI(PSI-0) 表 1 PSI-0の設計パラメータ 基材の幅Wb[mm] 64.0 最大直径Dmax[mm] 60.0 最小直径Dmin[mm] 6.0 導体幅Wm[mm] 0.6 線間Ws[mm] 0.3 半円弧数 61 導体厚Dm[µm] 18 基板厚Ds[mm] 1.6 基材の材質 FR4 図 4 PSIの等価回路 <実測> 本研究では,PSIの等価回路として図4に示す回路 を用いる.LはPSIの理想自己インダクタンス,rは PSIの内部抵抗,cはPSIの寄生キャパシタンスを示 す.PSI全体のインピーダンスZは,正弦波を用いる とすると,式(1)のように表せる. Z = r +1 − ωjωL2Lc (1) 共振回路を構成しているため,インピーダンスZが最 大となる角周波数ω0 が存在する.式(1)より,自己 共振角周波数であるω0は式(2)のように表せる. ω0 =√1 L c (2)
従って,寄生キャパシタンスcは式(3)のように表 せる. c = 1 ω20L (3) 波長はPSIの導体長に対して十分に長く,そのため Lなどの素子値に周波数への依存性がないとして,式 (3)を式(1)に代入し,インピーダンスの絶対値|Z| を求める. Z = r + jωL 1 −ω2 ω2 0 (4) |Z| = r2+ ⎛ ⎝ ωL 1 −ω2 ω2 0 ⎞ ⎠ 2 (5) 従って,ω = ω0のときの自己インダクタンスLは以 下のように求まる. L = ω02− ω2 |Z|2− r2 ω ω20 (6) 直流で測定したPSIの抵抗値をrとし,インピーダ ンスアナライザを用いてインピーダンス|Z|と自己 共振周波数f0を測定する.なお,|Z|の測定周波数 fは100kHzとする.測定周波数が100kHzと1MHz の場合のPSI-0の自己インダクタンスの相対誤差は, f = 100kHzを真値とした場合で0.89%となる.よっ て,計測用の配線などの影響を抑えるために低周波 で計測することが望ましいと言えるため,100kHzを 用いる.実測の結果,PSI-0の自己共振周波数f0は 24.3MHzであり,導体長より波長が十分に長いと言 える.そこで,100kHzと24.3MHzで自己インダク タンスが変化しないと考え,式(6)を用いて自己イン ダクタンスLを計算する. <シミュレーション> 本研究においては,我々が作成したシミュレータを 用いてPSIの自己インダクタンスを導出する.手法 としては,電流の波長が導体の長さに対して十分に長 く,導体上で一定であるものとして,有限要素法によ りPSI全体を格子状に分割し,分割された導体に流れ る電流素から,PSIの磁界をビオ・サバールの法則を 用いて求め,自己インダクタンスLを導出する.本シ ミュレータでは入力データにビットマップ画像を用い る.入力画像の全座標の磁束と,各微小空間にそれぞ れが影響を与えるその微小空間の巻き数no,pをそれ ぞれ計算し,式(7)に示すように鎖交磁束数Φtを求 める.巻き数については,各微小空間に対して導体の 位置が内側と外側で正負を入れ換えて計算する.微小 空間における計算点の位置は,分割格子の中心とし, 導体の厚みについては,本シミュレータでは考慮しな いものとする. Φt= omax o=1 pmax p=1 qmax q=1
no,p4πμ0Idlq× ro,p,q
r3o,p,q · dS (7) ただしoとpは,それぞれ現在の計算点のx座標と, y座標の番号を示し,qは計算する各電流素片の番号 を示す.そのため,omax,pmaxはそれぞれ画像のx 方向への分割数とy方向への分割数を示し,qmaxは 導体の分割数を示す.また,o,p,qは共に整数値と なる.μ0は真空の透磁率を表し,Iを導体に流れる 電流とし,Idlqは各電流素片のベクトルとする.各 電流素片と計算する各座標との間のベクトルをro,p,q とし,各電流素片と計算する各座標の距離をro,p,qと する.dSは有限要素法の各座標の面素ベクトルとす る.PSI-0においては,omax= 1353,pmax= 1343,
qmax= 92673となる.これらの値は,ガーバーデー タから画像へ変換するツールを用いているため端数が 出ている.画像の横幅の実際の長さは60.6mmであ るため,1格子の幅は約0.0448mmとなる.導体間が 0.1mmオーダーであるため,1格子の長さが0.1mm 程度になることは精度を考える上で好ましくないと言 える.上記の画素数を半分にすると,計算時間は短く なるが,1格子の長さが約0.09mmとなり好ましくな いと言える.また,画素数を倍にすると精度は良くな ると言えるが,計算時間が大きく増大するにもかかわ らず,実質0.12%程度良くなるだけであることから, 上記の画素数が本PSIには最適であると言える.また, 計算時間を考慮し,導体の最も外側のエリアは5mm のマージンで計算する. 1次側PSIから1次側PSIへのΦtをΦ11として, 式(8)に示すように自己インダクタンスLを導出す る.ただし,Iは1Aとして考える. L =Φ11 I (8) 本研究における交角計測システムは2枚のPSIを巻 方向が同じになるよう向かい合わせて構築するため, 図3に示したPSIを1次側とし,左右反転したものを 2次側とする.これら2枚のPSI-0の素子値の測定結果 及び計算結果を表2に示す.自己インダクタンスの実 測結果と計算結果の相対誤差は,実測値を真値とすると
表 2 1次側と 2 次側の PSI-0 の素子値 実測結果 シミュレーション結果 r [Ω] c [pF] L [µH] L [µH] 1次側 5.66 1.74 24.5 24.2 2次側 5.68 1.86 24.5 −1.22%と低く,精度良く求められている事がわかる. 2. 3 2枚のPSI間の相互インダクタンス 本研究における交角計測システムは,2枚のPSI間 の相互インダクタンスの変化を利用する.相互インダ クタンスの実測手法及びシミュレーションによる導出 方法について示す. <実測> 1次側PSIと2次側PSIを直列に接続し,それぞれ の巻方向が同じとなるように結合している場合の等価 回路を図5に示す.PSIの理想自己インダクタンスを それぞれL1,L2とし,r1及びr2はそれぞれのPSI の内部抵抗,c1及びc2はそれぞれのPSIの寄生キャ パシタンスを示す.全体の電圧をV とし,1次側及び 2次側PSIの両端の電圧をそれぞれV1,V2とする. 全体に流れる電流をItとし,1次側PSI及び2次側 PSIのインダクタ部分に流れる電流をそれぞれIL1, IL2とする.Itについて以下の連立方程式を立てる. ⎧ ⎨ ⎩ It= IL1+ jωc1(jωL1IL1+ jωMIL2) It= IL2+ jωc2(jωL2IL2+ jωMIL1) (9) また,V1及びV2は以下のようになる. V1= r1It+ jωL1IL1+ jωMIL2 (10) V2= r2It+ jωL2IL2+ jωMIL1 (11) 式(9)–(11)より,回路全体の電圧V を以下のように まとめる. V = (a + jb)It (12) よって,回路全体のインピーダンスZはZ = a + jb となる.a及びbは以下のようになる. a = r1+ r2 (13) b = −ω(−AM 2− 2M + B) C − DM2 (14) ただし,A,B,C,及びDは以下のとおりとする. A = ω2(c1+ c2) B = ω2L1L2(c1+ c2) − L1− L2 C = ω4L1L2c1c2− ω2(L1c1+ L2c2) + 1 図 5 相互インダクタンスの測定回路 D = ω4c1c2 インピーダンスZ の絶対値|Z| =√a2+ b2より,b は以下のように表せる. b =|Z|2− a2 (15) 式(14)に式(13),(15)を代入し,Mについて以下の ように解く. M = −ω + √ E ωA + bD (16) ただし,Eは以下のとおりとする. E = ω(ω + bBD + AB + AbC) + b2CD (17) ω = 2πfとし,fは測定周波数とする.インピーダン スアナライザを用いてインピーダンス|Z|を測定し, 相互インダクタンスMを算出する.なお,|Z|の測定 周波数fは100kHzとする. <シミュレーション> 2枚のPSI間の相互インダクタンスの導出には,用 いる周波数が十分に低く,2枚のPSIの導体の長さの 合計値に対して十分に長い波長をもち,同じ電流が流 れることとし,2. 2. 2で用いた自己インダクタンスの 導出シミュレータにおける座標を3次元に拡張し,相 互インダクタンスを求める.相互インダクタンスM は,1次側PSIから2次側PSIへの鎖交磁束が導体 に影響を与える総鎖交磁束数Φ12から以下のように求 められる. M = Φ12 I (18) ただし,Iは1Aとして考える.また,二つのコイル 間の結合係数kは以下のように求まる. k = √M L1L2 (19) 2. 3. 1 2枚のPSI間の相互インダクタンスの実測 結果とシミュレーション結果の比較 自己インダクタンスの異なるPSIについて比較検
図 6 PSI-0間の結合係数のシミュレーションと実測結果 討していくため,比較には結合係数kの値を用いる. シミュレータの正確性を検証するために,基本のPSI である図 3のPSI-0を2枚用いて,交角が10度か ら180度まで10度ずつ変化させた際の結合係数の変 化を計算し,実測結果と比較する.結果のグラフを 図6に示す.交角の変動とともに結合係数が変化して いくことが確認できる.実測結果とシミュレーション 結果の,実測結果を真値とした場合の平均相対誤差は −0.20%と低く,本シミュレータは非常に精度が高い と言える.そこで,以降は半円弧を組合せたPSIにつ いてシミュレータを用いて最適形状の検討を行う. 2. 4 最適なPSIの形状の模索 結合係数の角度特性の理想は,角度の変化とともに 結合係数が線形に,大きな範囲で変化することと言え る.なお,本論文では結合係数の変化幅Δk(図6参 照)が大きくなるPSIの形状を模索する.PSIを構 成する半円弧数を変化させた場合における結合係数の 角度特性について,シミュレータを用いて調査する. PSIの半円弧数を少なくする主な手法としては,PSI の最大直径Dmaxを固定した場合,すなわちPSIの サイズを固定した場合では,PSIの最小直径Dminを 大きくしながらPSIの内側から半円弧を取り除いてい く手法と,PSIの線間Wsを大きくしていくことで巻 きを疎にして半円弧数を減少させる2通りの手法が考 えられる.PSIのサイズを固定しない場合では,PSI の最大直径Dmaxを小さくしていくことでPSIの外 側から半円弧を取り除いていく手法が考えられる.こ れら三つの手法について,基本のPSIから半円弧数を 減少させ,結合係数の特性の変化について調査する. シミュレーションにおける交角システムの回転軸は, PSIの基板サイズが異なる場合でも条件を揃えるため に,PSIのパターンの入力画像右側の接線とする. 2. 4. 1 内側から半円弧数を減少
PSIの最大直径Dmaxを固定し,最小直径Dminを
図 7 内側から半円弧数を変更した PSI(手法 A)
表 3 手法 A の設計パラメータと自己インダクタンス PSI-0 PSI-A1 PSI-A2 最小直径Dmin[mm] 6.00 33.0 51.0 半円弧数 61 31 11 PSIの自己インダクタンス [µH] 24.2 15.2 3.65 図 8 手法 A における結合係数の変化 大きくすることで半円弧数を内側から減少させる.こ れを手法Aとする.半円弧数を変更したPSI-A1,及 びPSI-A2を図 7に示す.変更したそれぞれの最小 直径Dminと,半円弧数及び自己インダクタンスの シミュレーション結果を表 3 に示す.また,PSI-0, PSI-A1,またはPSI-A2を2枚用いたシステムにお いて,10度から180度まで交角θ◦を10度ずつ変化 させた場合のシミュレーション結果を図8に示す.縦 軸に結合係数を示し,横軸に交角を示す.半円弧数が 減少するに従って,結合係数の変化幅が小さくなって いることがわかる. 2. 4. 2 線間Wsを変化させ半円弧数を減少
PSIの最大直径Dmaxと最小直径Dminを固定し, 線間Wsを大きくすることで巻を疎にし,半円弧数を 減少させる.これを手法Bとする.半円弧数を変更 したPSI-B1,及びPSI-B2を図9に示す.変更した それぞれの線間Wsと,半円弧数及び自己インダクタ ンスの計算結果を表4に示す.手法Bでは最大直径 Dmaxと最小直径Dminを固定するため半円弧数を11 とすることができない.本研究では,10半円弧とす る.また,PSI-0,PSI-B1,またはPSI-B2を2枚用
図 9 巻を疎にして半円弧数を変更した PSI(手法 B)
表 4 手法 B のパラメータと自己インダクタンス PSI-0 PSI-B1 PSI-B2 線間Ws[mm] 0.300 1.20 5.40 半円弧数 61 31 10 PSIの自己インダクタンス [µH] 24.2 6.48 0.856 図 10 手法 B における結合係数の変化 図 11 外側から半円弧数を変更した PSI(手法 C) に示す.手法Aと比較して,61半円弧と31半円弧に おいては半円弧数の影響が少ないことが確認できる. しかしながら,10半円弧においては半円弧数の影響が 見られ,手法Aと同じく変化幅が小さくなっているこ とがわかる. 2. 4. 3 外側から半円弧数を減少
PSIの最小直径Dminを固定し,最大直径Dmaxを 小さくすることで半円弧数を外側から減少させる.こ れを手法Cとする.半円弧数を変更したPSI-C1,及 びPSI-C2を図11に示す.変更したそれぞれの最大 円直径Dmaxと,半円弧数及び自己インダクタンス の計算結果を表 5 に示す.PSI-0,PSI-C1,または PSI-C2を2枚用いたシステムにおけるシミュレーショ ン結果を図12に示す.手法A及びBと比較して,結 表 5 手法 C の設計パラメータと自己インダクタンス PSI-0 PSI-C1 PSI-C2 最大直径Dmax[mm] 60.0 33.0 15.0 半円弧数 61 31 11 PSIの自己インダクタンス [µH] 24.2 4.06 0.354 図 12 手法 C における結合係数の変化 図 13 各手法を用いて半円弧数を変化させた場合の結合 係数の変化幅の割合 合係数の特性に大きな変化がないまま,半円弧数が減 少するに従い値が徐々に上にずれていることが確認で きる. 2. 4. 4 それぞれの手法の比較 各手法において,PSIの半円弧数を減少させた場合 に,PSI-0の結合係数の変化幅を基準として,結合係 数の変化幅の変化の割合αを以下の式を用いて定義 する. α = ΔkΔk P SI−0. (20) 交角が10度から180度の間のPSI-0を用いた場合の 結合係数の変化幅をΔkP SI−0とし,Δkをそれぞれ の半円弧数での結合係数の変化幅とする.各手法にお けるαを比較したグラフを図13に示す.それぞれの 手法において半円弧数は同じでもPSIの自己インダク タンスは異なるため,横軸にPSIの自己インダクタン スをとる.縦軸に変化幅の割合αを示す.手法Aで は,半円弧数を61から51,41,31,21,11と変え,
手法Bでは半円弧数を61から46,37,31,28,21, 16,10と変え,手法Cでは半円弧数を61から51, 41,31,21,11と変えて計算する.半円弧数を内側 から減少させた手法Aでは,自己インダクタンスが小 さくなるに従って結合係数の特性が悪くなっていくこ とが確認できる.巻を疎にすることで半円弧数を減少 させた手法Bでは,手法Aと比較すると20μHほど 自己インダクタンスが小さくなった辺りから急しゅん に特性が悪くなることが確認できる.半円弧数を外側 から減少させた手法Cでは,自己インダクタンスが小 さくなるに従って結合係数の変化幅が広くなっている ことが確認できる.
3.
実回路による交角計測
基本のPSI-0と,2.で検討を行った手法A,手法 B,及び手法Cのうち最も結合係数の変化が大きかっ た手法CによるPSI-C2と,PSI-C2と自己インダク タンスが近いが結合係数の変化幅が小さいPSI-B2を 実際に作成し,交角計測を行うための回路を構築す る.ただし実際の基板は,PSIの最も外側の導体から 数mmのマージンを設けて基板の外形をカットし作成 する.よって導体の端から回転軸までの距離はシミュ レーションでは0であったのに対し,実験においてはPSI-0とPSI-B2では1.7mm,PSI-C2では0.5mm となる.センサを設置できる空間が非常に小さく,し かし観測場所が離れていると仮定し,計測信号が伝播 途中で環境の影響を受けにくい方式を用いることとす る.すなわち,交角の変化を周波数の変化に置き換え, かつ非常に小型化できることを考慮し,変形コルピッ ツ発振器のインダクタにセンサヘッド部を用いる.計 測回路を図14に示す.図1のセンサヘッドの2枚の PSIを直列接続したものを,変形コルピッツ発振回路 のインダクタ部へ接続することで,相互インダクタン スの変化を周波数の変化として検出する.1次側と2 次側のPSIのインダクタンスをそれぞれL1,L2とし, r1,r2をそれぞれのPSIの内部抵抗とする.c1,c2は それぞれのPSIの寄生キャパシタンスを示す.Cp及 びRpは測定に用いるプローブの等価回路を示す.こ の回路の発振周波数fは,以下のように表される. f = 1 2π√LcomCcom, (21) ただし,Lcom及びCcomは以下のとおりとする. Ccom= 1 1 C1+ 1 C2+Cp+ 1 C3 + C4, 図 14 交角測定回路(R1 9.77kΩ, R2 9.83kΩ, R3 20.0kΩ, C1 117pF, C2 81.2pF, C3 302pF, C4 21.7pF, Rp 50kΩ, Cp 0.34pF, Tr:2SC4083) 図 15 発振周波数の実測結果 Lcom= L1+ L2+ 2M. 式(19)より,M = k√L1L2であるので,Lcomは以 下のようになる. Lcom= L1+ L2+ 2k√L1L2. (22) 従って,結合係数kの変化によって回路の発振周波数 が変化することがわかる. 交角θ◦を10度から180度まで10度ずつ変化させ た場合の発振周波数を実際に測定する.結果のグラフ を図15に示す.縦軸に発振周波数を示し,横軸に交角 を示す.発振周波数の変化幅はPSI-0で約0.42MHz, PSI-B2で約2.0MHz,PSI-C2で約3.4MHzとなり, 手法Cを用いたPSI-C2が前述の結果と同じく最も広 い変化幅をもつことがわかる.
4.
む す び
本論文では,PSIを用いた交角計測システムを提案 し,シミュレーションを用いた最適形状の検討を行っ た.この最適形状の検討に用いた我々の作成したシ ミュレータの精度は高く,形状の検討に十分に利用す ることができることを示した.交角計測システムにお けるPSIの最適形状の模索において,本研究で検討し た三つの方式では,結合係数の特性が良くなる条件として,PSIの中心まで線間を小さくして密に巻くこと が重要であることが明らかになった.更に,発振器を 用いた計測手法について提案した.提案した計測手法 では,交角θ◦の変化に伴って発振周波数が変化する ことが確認でき,PSIを用いた交角計測が可能である ことを示した.発振周波数を用いた計測システムにお いては,式(21),(22)より,計測回路のキャパシタン スを固定した場合,同じ結合係数の変化でも発振可能 範囲においてPSIの自己インダクタンスが小さくなる と,発振周波数の変化幅が大きくなることが明らかで ある.このため発振周波数を利用した計測システムの 高精度化の手段としては発振可能な範囲でPSIの自己 インダクタンスを小さくすることであると言える.特 に,発振周波数を利用した計測システムにおいては, PSIの自己インダクタンスを小さくし結合係数の変化 幅が大きくなる手法Cを利用することが最も適して いることを明らかにした.ただし,本論文で提案した PSI-C2と測定回路では,発振周波数が3桁目まで変 化しているのは110度までであり,180度を2枚の PSI-C2のみやこれらの回路パラメータで計測するこ とは難しいと考えられる.そのため,更なる計測用の 回路を考案するか,2枚のPSIで構築されたセンサー ヘッド部を複数重ねて利用するなどする必要があると 言える.また,本システムを実際に設置するにあたり, 設置場所の基材の影響を考慮する必要があると言える. 本システムの設置場所の比透磁率が非常に高い場合, 若干の影響がでると考えられるが,PSI間に透磁率の 高い材料を設置するのではない為,計測そのものは十 分に可能であると考えられる.実際,78パーマロイ の0.01mm箔をPSIの両背面に貼り付け計測を行っ たが,本PSI-C2の場合,変動幅が約0.94倍になった のみで,計測が十分に可能であることが確認できてい る.そのため,設置時に一度テストを行うか,材質ご とにデータセットを用意することにより,様々な場へ の設置が十分にできるものと考えられる. 謝辞 本研究で用いたシミュレータ開発に当たり, 貴重なご助言を頂いた上智大学の田中衞名誉教授に感 謝の意を表します. 文 献
[1] N. Dey, A.S. Ashour, F. Shi, S.J. Fong, and R.S. Sherratt, “Developing residential wireless sensor net-works for ECG healthcare monitoring,” IEEE Trans. Consum. Electron., vol.63, no.4, pp.442–449, Nov. 2017.
[2] D. Maschera, A. Simoni, M. Gottardi, L. Gonzo, S.
Gregori, V. Liberali, and G. Torelli, “An automati-cally compensated readout channel for rotary encoder systems,” IEEE Trans. Instrum. Meas., vol.50, no.6, pp.1801–1807, Dec. 2001.
[3] Y. Kwon and W. Kim, “Development of a new high-resolution angle-sensing mechanism using an RGB sensor,” IEEE Trans. Mechatronics, vol.19, no.5, pp.1707–1715, Oct. 2014.
[4] 坪谷 剛,市口恒雄,“インフラ長寿命化における道路橋の 新たな点検技術の開発,”科学技術動向 2014 年 3・4 月号 (143 号)http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/
11035/2909/1/NISTEP-STT143-36.pdf
[5] J. Fukatani, S. Yamaguchi, M. Yamauchi, K. Yoshimatsu, H. Aomori, and M. Tanaka, “A coin de-tection system by coupled printed spiral inductors,” WASEAS Trans. Circuits and Systems, vol.7, no.8, pp.832–842, Aug. 2008. (平成 30 年 4 月 5 日受付,7 月 10 日再受付, 11月 12 日公開) 谷廣 憲利 (学生員) 2017年広島工業大学卒業.現在,同大 学大学院在籍.プリンテッド・スパイラル・ インダクタを用いたセンシングデバイスの 開発に従事.電子情報通信学会学生員. 萬谷 海月 2018年広島工業大学卒業.現在,同大 学大学院在籍.プリンテッド・スパイラル・ インダクタのシミュレータの開発に従事. 山内 将行 (正員) 2003年徳島大学大学院博士後期課程修 了.2000∼2003 年日本学術振興会特別研 究員.2003 年上智大学客員研究員.2004 年同大学助手.2006 年広島工業大学講師, 現在,同大学准教授.非線形回路解析,プ リンテッド・スパイラル・インダクタを用 いたセンシングデバイスに関する研究,及びデータマイニング の研究に従事.博士 (工学),電子情報通信学会,信号処理学会, IEEE会員.