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1.学会講演後記録(学会企画)

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Academic year: 2021

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(1)

1.学会講演後記録(学会企画)

特別講演

 補助人工心臓における長期在宅治療(半永久治療:DT)の動向と在宅管理

DT 普及のために:在宅地域環境整備,遠隔モニタリング,それを支える人材養成の重要性

許  俊鋭

(東京都健康長寿医療センター センター長) 1.はじめに  腎臓や心臓などの全身臓器が末期的不全に陥った患 者さんの生命と QOL を回復させ,さらに在宅復帰・ 社会復帰を促進することに,人工臓器は大きな役割を 果たしてきた.しかしながら,現時点の人工心臓の機 能面の完成度および安全性の担保は血液透析や心臓移 植の水準にははるかに及ばず,特に在宅復帰・社会復 帰という観点からは多くの課題を抱えている. ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3>

図 1 日本でこれまで保険償還された補助人工心臓

・体外式 VAD ①ニプロ補助人工心臓(国循型),②ゼオン補助人工心臓(東大型),③ BVS5000(Abiomed 社), ④ AB 5000(Abiomed 社),⑫ EXCOR(BerlinHeart 社)

・第一世代拍動流植込型 LVAD ⑤ NovacorLVAD ⑥ HeartMateVE(Thoratec 社)

・第二・第三世代連続流植込型 LVAD ⑦ Jarvik2000(軸流ポンプ)⑧上HeartMateII(軸流ポンプ),下HeartMate3 (遠心ポンプ)(Abott 社),⑨ EVAHEARTLVAD(遠心ポンプ)(サンメディカル社)⑩ DuraHeart(遠心ポンプ)(テ

ルモ社)⑪ HVAD(遠心ポンプ)(HeartWare 社)

(2)

2.人工心臓による在宅治療

 1970 年の米国人工心臓開発プログラム(NHLI Arti-ficial Heart Program)で終生使用可能な補助人工心臓

(VAD=Ventricular Assist Device)や完全置換型人工 心臓(TAH=Total Artificial Heart)の開発が提唱さ れた.1982 年ユタ大学で Jarvik 7 TAH が開発され歯 ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3>

2 米国の補助人工心臓(VAD)および完全置換型人工心臓(TAH)のレジストリー(INTER-MACS:Interagency North American Registry for Mechanically Assisted Circulatory Support) VAD および TAH の適応別(Devise Strategy)症例数.2016 年には DT 適応が 51.6% を占めて いる.

BTT=Bridge to Transplant(Listed),DT=Destination Therapy,HM II=HeartMate II

ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm

【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし 

【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3>

図 3 植込型 LVAD 患者の在宅安全管理体制(VAD 装着患者および家族介護人へ の支援体制)

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科医 Barney Clark 氏(第 1 例目)に植込まれ 112 日 生存し,1984 年に第 2 例目の Bill Schroeder 氏に植込 まれ 620 日生存した.Schroeder 氏は旅行,釣りなど の通常の在宅生活活動を行うことができ,人工心臓の 在宅治療が始まった.1967 年に南アフリカの Bernard により始められた心臓移植は 1980 年初頭にシクロス ポリン A が臨床導入され世界的に爆発的な普及を見, 1990 年には全世界で年間 6000 例以上の移植が実施さ れるようになった.長期化した移植待機期間の克服の ために HeartMate VE や Novacor LVAD(第一世代拍 動流植込型 LVAD)の心臓移植へのブリッジ使用 (Bridge to transplant:BTT)が始まった(図 1). 2002 年には心臓移植を受け皿としない HeartMate VE を用いた長期在宅治療(DT:Destination Therapy) が FDA により承認され,2008 年に HeartMate II(第 二世代軸流ポンプ植込型 LVAD)の DT 適応が,2018 年に HeartMate 3(第三世代磁気浮上遠心ポンプ植込 型 LVAD)の DT 適応が FDA により承認された.今 日,米国の植込型LVADレジストリー(INTERMACS) では年間3000例前後の植込型LVAD治療が実施され, その半数が DT 適応であり,BTT 適応は 25%程度に 過ぎない(図 2).Abbott 社のレジストリーでは 2019 年 4 月までに HeartMate II 27000 例,HeartMate 3 8600 例の合計 35600 症例が登録されていて,5 年生存 3535 症例(10%),10 年生存 129 症例(0.4%)と報告 されている. 3.‌‌本邦における植込型 LVAD 患者の在宅安全管 理体制  本邦では BTT 適応のみ保険償還されているが,平 均 4 年間に及ぶ長期の待機期間を克服するためには在 宅管理支援体制の構築が不可欠である.支援チームに は心臓外科・循環器内科・脳外科などの医師を始め, 人工心臓管理技術認定士(欧米の VAD コーディネー ター,看護師・臨床工学技士)を中心に,ソーシャル ワーカー,理学療法士,薬剤師,栄養士,移植コーディ ネーター,病棟・外来看護師,創傷・排泄認定看護師, リエゾン専門看護師,臨床心理士などの多くの専門家 が参加する.このチームは植込型 LVAD 装着手術前か ら関わりを開始し,患者及び家族への抗凝固療法や植 込型 LVAD 機器管理教育,リハビリテーション,およ び退院後に発生するあらゆる合併症や機器の不具合へ の対処,精神的サポートなどの重要な役割を果たす(図 3).機器の不具合,感染,出血,脳卒中などの併発症 による 1 年目の再入院は 2/3 の症例で見られ,在宅安 全管理に果たす家族介護人と人工心臓管理技術認定士 の役割は極めて大きい.合併症の回避には日々のコア グチェックを用いたワーファリンコントロールや創部 ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3>

図 4 植込型 LVAD 在宅治療における日常生活管理で特に重要な事項(上段)と人工心臓 管理技術認定士による「Skype 面接」風景(下段)

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(ドライブライン挿入部の消毒・安静等)自己管理,ま た,植込型 LVAD 補助下の血圧・脈拍・SpO2モニター や心電計モニターによる心機能の自己評価・記録が極 めて重要である.在宅患者は月 1 回植込型 LVAD 専門 外来を受診し医師・人工心臓管理技術認定士(看護 師・ME)の専門的チェックを受ける.更に,我々は 人工心臓管理技術認定士により最低週一回「Skype 面 接」による安全管理チェックを行っている.こうした 長期にわたる植込型 LVAD 機器管理と在宅患者管理 (人件費を含む)のために 1 日 1500 点の在宅安全管理 費用が保険償還されている.  今後の最も深刻な課題は,同居家族介護人確保であ る.在宅生活全般のサポート,精神的サポート,緊急 時のバッテリーやコントローラの交換・操作に同居家 族介護人を必須としている.しかし,数年以上に及ぶ 植込型 LVAD 治療の過程で家族介護人の喪失や同居 が困難となる場合もあり,ボランティアや公的介護人 の支援も視野に入れた長期在宅治療体制を整える必要 がある. 文献 1) 許 俊鋭監修:補助人工心臓治療チーム実践ガイド.2018 年,メジカルビュー社,東京 2) 日本人工臓器学会監修:必携 ! 在宅 VAD 管理.2019 年,は る書房,東京

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1.学会講演後記録(学会企画)

本部企画

 在宅医療の安全性の向上

在宅医療の安全性はどこまで担保すればいいのか?

古薗  勉

(近畿大学生物理工学部医用工学科) 1.はじめに  在宅血液透析(HHD)による頻回透析や長時間透析 によって,患者の生活の質(QOL)が,施設透析に比 較して格段に向上することはよく知られている事実で ある.特に,合併症の低減や自由度の向上は患者が就 業や社会活動などの社会貢献を行う上で,必ず広めな ければならない治療法となっている.一方で,わが国 が直面している問題,例えば,老年(65 歳以上)人口 の急増,生産年齢人口の減少,単独世帯の増加などか ら,我が国における医療の将来が不透明になっている. そのような趨勢の中,HHD は必ずしも一般化された治 療法とは言えない.  ここでは,最も安全性を担保されるべき対象として 独居患者に着目して,HHD を含む医療機器による在宅 医療の現状,および国際動向に基づいた医療安全の担 保について調査・検討したので報告する. 2.医療機器を用いた在宅医療  HHD 以外の人工臓器を含む医療機器を用いた在宅 医療に,在宅酸素療法(Home oxygen therapy,HOT), 腹膜透析(Peritoneal dialysis,PD)および補助人工 心臓(Ventricular assist device,VAD)などがある.  (1)HOT:2018 年度における HOT 患者数は約 17.5 万人であり1),570 人を対象としたアンケート調査では 独居患者がその 14%を占めている2).機器故障等につ いては事業者が対応し,また医学的な問題については 医療機関との連携が確立している.  (2)PD:2017 年末の PD 患者数は約 9 千人であり3) 独居患者を含めて我が国の在宅透析療法として確立し た治療法である.医療機器のトラブルなどは事業者に よるコールセンターにて 24 時間電話対応が施され,医 療機関との連携が図られている.近年,クラウドベー スの通信プラットホームの導入や,高齢患者に対する 訪問看護やデイケアを利用したアシスト PD と呼ばれ るケアシステムが構築されている.  (3)VAD:2017 年 12 月現在の VAD 植込み患者数 は 722 人である4).心臓移植待機のための治療(Bridge to transplantation,BTT),VAD を取り外せる離脱生 存(bridge to recover,BTR)などの治療形態に加え て,最近では移植を目的としない長期在宅治療(Desti-nation therapy,DT)の治験が行われている.ガイド ラインでは「介護者は原則必要」とされている5).在宅 VAD の安全性を担保するため,社会基盤の構築,レ シピエントコーディネータや補助人工心臓管理技術認 定士による患者教育・管理が積極的に行われている. 3.HHD の国際動向  米国では HHD に新しい風が吹いている.2017 年 8 月,米国食品医薬品局(FDA)は条件付きで介助者な しで治療が行える solo(単身)HHD 専用装置として, NexStageⓇ System One に対して 510(k)クリアラン

ス(認可)を与えた6).その条件とは,“during waking hours”である.直訳すると「起きている間(の治療)」 となるが,“nocturnal HHD”の対語ではないかと著者 は推察している.当該 HHD 専用装置を使って solo 治 療を行う上でのリスクや責任を理解し十分なトレーニ ングを積んだ上で,主治医の処方通りに適正に治療行 為ができることが認められた患者が対象である.この 治療の動向を見据えた上で,FDA が“nocturnal HHD” でのクリアランスを与えることも予想できる.FDA が 治療形態を盛り込んで医療機器にクリアランスを与え たことに興味が引かれる.既に HHD 患者の 15%以上 が安全に介助者なしで治療を行っている,また介助者 がいても 85%の患者が一人で治療しているといった 報告もある7)  2019 年 7 月,トランプ政権が在宅透析と腎移植促進 に係る大統領令を発令した8).ここでいう「在宅透析」 とは腹膜透析を念頭に置いているようであるが,QOL の向上と医療費削減効果を期待したものに他ならな い.その目標として,① 2030 年までに末期腎不全 (ESRD)患者を 25%減少,② 2025 年までに ESRD 患 者の 80%を在宅か移植へ移行,③ 2030 年までに移植

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腎臓の数を倍増が掲げられている.国の主導による挑 戦的な働きかけは,HHD 患者にとっても大きな福音と なっていることは明らかである.  オックスフォード大学附属病院の報告によると, 2010 年から solo HHD プログラムが開始されている9) Solo HHD のリスクとして,透析中の低血圧および失 血があるが,それぞれ単時間当たりの除水量に上限を 設けること,および失血センサーを装着することで事 故を回避できるとしている.加えて,安全性を担保す る上でのポイントとして,①緊急時に患者宅へ入れる ように鍵安全ボックスを戸外に設ける,②透析離脱手 順書を透析装置に装着する,③スタッフは各種通信手 段(携帯電話,email,skype など)を用いて 24 時間 支援体制を整える,④夜間より昼間に治療を行うこと を勧める,⑤緊急時に救急車を呼ぶための medical alarm を設置することなどがある.この報告では,Solo HHD の患者には不利益はなく,むしろ医療スタッフは 優れた生活の質を与えるべく患者の自立を促すべきで あると結論づけている.  加えて,医療技術に対する費用対効果を明確化して いる英国国立医療技術評価機構(NICE)では,腎代替 療法に係るマネージメントガイドラインにおいて介助 者の存在を推奨しているが,当該ガイドラインで規定 されたことは患者と家族等で協議の上での意思決定を 妨げるものではないとしている10).すなわち,患者の 自己責任の優先が根底にある. 4.まとめ  最も安全性が担保されるべきである独居患者をキー ワードとして,人工臓器を含む医療機器を用いた在宅 医療について調査した.“solo HHD”という新しい治 療形態が時代の先端を駆け抜けている.これまで,先 進諸国では独居患者の HHD は主治医の判断の下で容 認されているという情報を漏れ聞く機会が多々あっ た.最近になってやっと,規制側が solo HHD を承認 する方向で追いついてきた感が否めない.我が国にお ける「在宅医療の安全性はどこまで担保すればいいの か?」の答えは,旧態依然とした医療と新時代の医療 の狭間にある. 文献 1) ガスメディキーナ,24, 41(2019). 2) 日本呼吸器障害情報センター,慢性呼吸器疾患の患者に関 するアンケート調査(平成 27 年)https://www.j-breath.jp/ dcms_media/other/tk_WAM03.pdf 3) 日本透析医学会,我が国の慢性透析療法の現況(2017 年 12 月 31 日現在) 4) 日本における補助人工心臓に関連した市販後のデータ収集  https://www.jacvas.com/adoutus/registry/ 5) 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン  www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_kyo_h.pdf

6) FDA 510(k)Clearance Letter https://www.accessdata. fda.gov/cdrh_docs/pdf17/K171331.pdf

7) NxStage Home Hemodialysis Information for Healthcare Professionals(Ref. #24)https://www.nxstage.com/hcp/ care-settings/home/

8) Executive Order on Advancing American Kidney Health  https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/ executive-order-advancing-american-kidney-health/ 9) Achlarska M, Moon S, Identifying and overcoming

barri-ers to solo home haemodialysis. J. Kidney Care, 2, 246-250 (2017)

10) National Institute for Health and Care Excellence. Renal replacement therapy and conservative management 2018  https://www.nice.org.uk/guidance/ng107

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1.学会講演後記録(学会企画)

特別セッション 1

 大学で HHD を行う意義

1.当院における在宅血液透析導入

村田 智博

(三重大学医学部附属病院) 背景  在宅血液透析は十分な透析ができることにより QOL の改善が図れるといったことは以前から知られ ている1)2).さらに施設透析に比べて自由がききやすい といった長所がある.しかし 2017 年末時点で全国では 33 万 4500 人の透析患者に対して在宅透析患者は 684 人,三重県においては 4040 人に対して 6 人しかおら ず,限られた施設においてしか行われていないのが現 状である3).当院においても血液透析を 1969 年から, 腹膜透析を 2004 年から行っているが,これまで在宅透 析を行ったことはなかった.今回対象症例が当院勤務 中の医師という,やや特殊な条件下ではあるものの当 院で初めて在宅透析を導入し,導入にあたり苦労した 点などもあったためここに報告する. 症例  30 歳代男性 職業 当院医師 経過  1993 年慢性骨髄性白血病を発症,1998 年には近医血 液内科で骨髄移植などを受け,血液学的には改善した ものの,その頃から腎機能の低下をきたした.2008 年 末期腎不全となり仕事との両立を図るためにも,腹膜 透析を選択した.2010 年,徐々に残腎機能の低下を示 すようになり,当初は医療者側から在宅透析の提案を 行った.しかし導入実績がなく,可能な限りは腹膜透 析を継続していく方針とした.しかしその後も残腎機 能の低下は進行し 2013 年には一時 APD も行ったが効 果は不十分であり,血液透析を週 1 回併用するように なった.β2 マイクログロブリンの上昇なども見られた ため施設透析として対応可能な方法として HD から HDF に変更していた.2014 年ごろから尿量の低下, 透析不足が徐々に強くなり在宅透析への準備を開始す ることとした.まだこの時点ではパンフレットを収集 するなど,施設としても情報収集を行うことに時間を 要した.2015 年に入り,体重増加が多くなり 2015 年 4 月在宅透析に向けて本格的に準備を始め,その第一 歩 と し て 施 設 見 学 に 伺 っ た. ま た medical social worker(MSW)にも介入してもらうようになった. 予定介助者に血液透析を見学してもらい,透析の説明 や指導を行いつつ,2015 年 7 月最終的にカンファレン スを開き,医師,看護師,臨床工学技士,MSW, 患者 ともに在宅透析導入を最終決定し,8 月に自宅訪問を 行った.9 月には尿量が減り,血圧が上昇してきてし まうこともあり腹膜透析・血液透析併用療法での管理 が困難と判断し週 3 回 HDF へ移行した.患者ととも に機器の選定を行い,筆記テストによる理解度の評価, 準備・開始・回収・洗浄までの実技評価,トラブル発 生時の実技評価などを繰り返し,2015 年 12 月在宅透 析を開始した.  導入初期のトラブル対応事例としては,シャント穿 刺によるもの(中止,技士の訪問による穿刺,穿刺部 位の変更),操作ミス(再度病院でトレーニングの追 加,指導の見直し),回路内血栓(携帯画像による写真 の共有)などであった.最近では透析の開始・終了, トラブル報告,水質検査などの自宅訪問はスマート フォンアプリを用いて連絡を行っている(図).投薬内 容としては降圧剤の減量,リン吸着薬の減量が可能と なった. 考察  当院で 1 例の在宅透析を導入した.医療者側からの 発案から約 5 年,パンフレットの収集などを行ってか ら 1 年 10 か月,施設見学から約 8 か月と長い期間を必 要とした.その一つの理由としてこれまでやったこと のない治療法の導入であったことが医療者側の要因と して挙げられる.慢性腎臓病における腎代替療法の療 法選択において自施設で可能な治療方法であれば療法 選択の説明が十分可能であるが自施設で行われていな い治療については説明がやや不十分となりやすいと いったことが報告されているように4),これまで経験し たことのない治療法についてはなかなか十分な情報提

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供が行えないといったことがあった.全国的に見ても 限られた人数・施設しか在宅透析を行っていない現状 で大学病院において在宅透析を行う意義を考えてみる と,shared decision making の重要性が高まり,患者 側からの要望があった場合に,その要望に応えること は教育機関として大学病院に課せられた透析領域での 使命と思われる.  新規治療を始めるにあたりマニュアルの作成も必要 であった.在宅血液透析管理マニュアル5),施設のため の在宅血液透析・指導マニュアル6),施設訪問で見学さ せていただいた新生会第一病院の HHD 導入教育計画 などを参考にした.医学的には普通の患者さんより知 識があり,静脈留置針なども当然挿入できるといった 医学的メリットはあるものの仕事をしながらの導入計 画であり時間がなかなか十分に取れないといった問題 点もあった.そこで本症例に適すると思われる比較的 簡便な透析準備マニュアルや穿刺の手順書,施設への 連絡基準などを新たに作成した.  24 時間体勢で緊急時に受診が可能であり,本患者の 電子カルテを開くとメッセージで緊急時の受け入れ依 頼も記載してある.入院も可能であるといった大学病 院で在宅透析をすることは患者さんにとっての安心感 は強いかもしれない.しかしこの点については,在宅 透析を行っている施設の工夫によって,十分埋めるこ とのできる差であり,すでに経験の多い施設ではその ような心配はないのではないかと思う.  大学病院という施設の大きさが新規在宅透析導入に 足かせになった部分もあった.医療の質倫理審査検討 委員会に諮ったが,「大学病院でやらないといけない治 療なのか?」といった質問があった.対象者が本学の 医師であることや,山梨大学ですでに在宅透析を行っ ているといった前例が大きく後押しした.また自宅訪 問については,許可が下りず,友人宅を訪問するといっ た体裁をとった.訪問診療,訪問看護を行っていない 大学病院としての課題と思われる. まとめ  当院で在宅血液透析の導入を経験した.生活スタイ ルに応じたスケジュールとなり QOL は向上したと思 われる.施設側の知識不足のために開始まで時間を要 ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3>

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した.希望者にこたえられる医療機関でありたい.様々 な障壁はあったものの,在宅血液透析をはじめてよ かったという患者さんの喜びが現在の当院の在宅血液 透析を支えている.

参考文献

1) Pierratos, A., Ouwendyk, M., Francoeur, R., et al.:Noctur-nal hemodialysis:three-year experience. J. Am. Soc. Nephrol. 1998; 9: 859-868 2) 政金生人:わが国の在宅血液透析の現状と普及対策―第 58 回日本透析医学会ワークショップより.透析会誌 2013; 46: 991-931 3) 新田孝作,政金生人,花房規男,他:わが国の慢性透析療 法の現況(2017 年 12 月 31 日現在).透析会誌 2018; 51: 699-766 4) 中野広文 ほか:日本腎臓学会雑誌.48: 658-663, 2006. 5) 日本透析医会・在宅血液透析管理マニュアル作成委員会 監:在宅血液透析管理マニュアル.日透医誌 2010;(別 冊):1-13 6) 日本透析医会・在宅透析委員会監:施設のための在宅血液 透析教育・指導マニュアル.日透医誌 1997;(別冊):1-21

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1.学会講演後記録(学会企画)

特別セッション 1

 大学で HHD を行う意義

2.未来へ繋ぐ在宅血液透析

大濵 和也

(埼玉医科大学病院 臨床工学部) 在宅血液透析導入迄の経緯  はじめて行われた在宅血液透析(HomeHemoDialy-sis;HHD)は米国で 1964 年にはじまり,わが国では 4 年後の 1968 年に名古屋で開始された.HHD は短時 間頻回透析,長時間透析,オーバーナイト透析などの 多様化する透析条件に対応しやすい治療法であり,高 い透析量と QOL を得ることのできる優れた治療法で あると認知されている.  我々の施設では 1999 年から開始して第 1 号の HHD 患者は医療従事者であり 2012 年には 64 名の HHD 患 者導入教育と管理を行った. 埼玉医科大学のミッション  我々大学病院でここまで HHD を普及することが可 能となったのは,理事長や病院長の協力と施設体制, 更には施行する先生方とそれを支える仲間に恵まれた ことだと考察する.施設体制は「Your HAPPINESS Is Our HAPPINESS」を埼玉医科大学のミッションとし て掲げていること.それはメイヨークリニックのミッ ションに通じている.メイヨークリニックは,1800 年 代アメリカミネソタ州片田舎のメイヨー兄弟が診療所 を開設して世界の大学へ導いて有名な医療施設へ発展 をとげた.患者のニーズを第一に考えること,統合さ れた診療,教育,研究を通じて日々あらゆる患者に最 善のケアを提供することが掲げられていた.前理事長 は優秀な指導者は 3 つの「しどう力」(始動力:組織, 集団の中で自ら指揮を執って動くこと,指導力:部下, 仲間に対して進むべき方向へ導くこと,志同力:膝を 突き合わせて志同じくすること)を備えていることが 必要であると述べた.HHD を主導して頂いた鈴木洋通 先生は,規律を重んじ,組織の士気を向上するために 労を厭わない圧倒的な行動力であった. 在宅血液透析の現状と今後  しかしながら,全国的には 2018 年末の日本透析医学 会統計調査によると,在宅血液透析患者数は全透析患 者の約 0.2%(720 名)と報告されている.現在,研究 会等で導入基準,施行条件など明確化され,問題点に ついても様々な議論がされるようになった.更に安全 に治療が施行できるかなどについても,医療従事者, 患者の意識も変わってきている.HHD 導入基準は,本 人の意思が明確であり自己管理ができる事,介助者が 存在する事,重度合併症がない事等があげられている.  今後効果的に HHD を施行するためには何が必要な のであろうか.基本に忠実に従いそのうえで,先人達 の努力によって成し得た HHD の効果を信じることで はないかと考察する.  基本とは,訓練・導入・維持管理の徹底である.訓 練は指導マニュアルを用い,概ね 3 ケ月の期間を目標 としてマンツーマンで指導を担当する.手技操作や身 体症状に関する HHD は日常より患者,介助者が予防 や危険回避行動を図り減少させることで可能となる. 患者が安全に HHD を実施するためには訓練時から透 析治療操作に関する基本的な知識・技術習得のほかに 危険予知トレーニングなどを取り入れることにより, リスクセンスを高めることが可能となる.維持管理で は患者の定期受診の他,看護師と臨床工学技士による 定期訪問や電話による緊急時対応である.一番多いト ラブルは装置関連が挙げられる.多い不具合内容とし て RO 流量下限,濃度異常,装置異音,加圧ポンプ漏 れ,バランステスト不合格が挙げられる.これらのト ラブルは殆どが 12 時間以内に解決可能であるので,や はり基本を徹底することが重要だと考える. さいごに  短時間頻回透析の場合,透析液流量を減量しても透 析量が変動しない kinetic modeling の試算がされる. これを前提とした小型透析装置の開発により,limited care や HHD が今後展開されると更に身近な治療に成 り得る.本邦の血液透析患者の予後は世界トップであ ることは知られている.しかし,透析患者は同年齢の 一般人よりも数年も生命予後が劣る現状である.血液

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透析患者の生命予後をさらに改善するためには,治療 を頻回・長時間行う必要がある.施設透析では限界が あるため,頻回・長時間透析が可能な HHD 装置の開 発と普及が望まれる. 文献 1) 2011 年 44 巻 11 号 p. 1074-1075 鈴木洋通 日本透析医学 会雑誌 2) 2013 年 46 巻 10 号 p. 982-984 鈴木洋通,渡辺裕輔 日本 透析医学会雑誌 3) 2013 年 46 巻 10 号 977-978 今田聰雄,小川洋史 日本透析 医学会雑誌

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1.学会講演後記録(学会企画)

特別セッション 2

 在宅血液透析管理マニュアル改訂の論点

1.在宅血液透析管理マニュアル改訂経過といわゆる「非自己管理型在宅透析」の問題

山川 智之

(仁真会白鷺病院/日本透析医会) 「在宅血液透析管理マニュアル」改訂の経緯  1998 年に設定された在宅血液透析(HHD)関連の保 険点数は,在宅血液透析指導管理料が月 3800 点,透析 液供給装置加算が月 8000 点であったが,これは実際に 要するコストと比べれば低いと言わざるを得なかっ た.そこで,2010 年の診療報酬改定に際して日本透析 医会が HHD 関連の診療報酬の増点を要望した.この 時には,名古屋の新生会第一病院の HHD 治療におけ る患者の教育やメンテナンスに要する費用も含めた実 際のコストを算出し資料として提出している.その結 果,2010 年の診療報酬改定では,在宅血液透析指導管 理料が月 8000 点,透析液供給加算が月 10000 点と大幅 な増点となった1)  この改定で,在宅血液透析指導管理料の算定条件と して「関係学会のガイドラインを参考に在宅血液透析 に関する指導管理を行うこと」と明記され(表 1),厚 生労働省から HHD の安全性を確保するためのマニュ アルの作成を指示された.そこで日本透析医会が中心 となり,日本透析医学会,腎不全看護学会,臨床工学 技士会,在宅透析研究会からなる委員で急遽在宅血液 透析管理マニュアル作成委員会を構成し,「在宅血液透 析管理マニュアル」を診療報酬改定に間に合うよう短 期間の集中的検討の上で,2010 年 2 月に作成した.  その後,在宅血液透析患者が増加し,HHD 施行施設 も増えるに従いこのマニュアルの記載内容に対する意 見が聞かれるようになった.  2017 年 11 月の在宅血液透析研究会(以下 JSHHD) 幹事会では,年齢制限の問題,介助者の必要性や位置 づけなどについて議論され,現行の在宅血液透析管理 マニュアルの内容についても見直しの必要性も含め議 論された.  この議論を踏まえ,現行の管理マニュアルが,日本 透析医会が中心となって作ったものであることから, 当時 JSHHD の幹事であった筆者がマニュアルの内容 の見直しについて,JSHHD 会員の意見を聞いて今後の マニュアルの見直しに反映させるためのワーキンググ ループ(WG)を設置し,筆者がそのグループ長にな ることを提案,幹事会で了承された.  筆者を含め JSHHD 幹事 6 名からなる「マニュアル 検討 WG」が設置され,WG で JSHHD 会員に対する アンケート案を決定し,2018 年 8 月に在宅血液透析を 行っていると事務局で把握している 91 施設を対象に マニュアルの改訂内容についてのアンケートを行っ た.52 施設が回答(回答率 57.1%)した.  2018 年 11 月に大津で開催された第 21 回在宅血液透 析研究会で,WG セッション 3「現行の在宅血液透析 ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3> 表 1 在宅血液透析関連診療報酬の規定(抜粋) C102-2 在宅血液透析指導管理料 注 1 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているも のとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関におい て,在宅血液透析を行っている入院中の患者以外の患者 に対して在宅血液透析に関する指導管理を行った場合に 算定するものとし, 頻回に指導管理を行う必要がある場 合には,当該指導管理料を最初に算定した日から起算し て 2 月までの間は,同一月内の 2 回目以降 1 回につき 2,000 点を月 2 回に限り算定する. 通知(5) 2012 年 4 月~2018 年 3 月 関係学会のガイドラインを参考に在宅血液透析に関する 指導管理を行うこと. 2018 年 4 月~ 関係学会のガイドラインに基づいて患者及び介助者が医 療機関において十分な教育を受け,文書において在宅血 液透析に係る説明及び同意を受けた上で,在宅血液透析 が実施されていること.また,当該ガイドラインを参考 に在宅血液透析に関する指導管理を行うこと. C156 透析液供給装置加算 注 在宅血液透析を行っている入院中の患者以外の患者に対 して,透析液供給装置を使用した場合に,第 1 款の所定 点数に加算する. 通知 透析液供給装置は患者 1 人に対して 1 台を貸与し,透析 液供給装置加算には,逆浸透を用いた水処理装置・前処 理のためのフィルターの費用を含む. ※下線は筆者による

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管理マニュアルの問題点を考える」を開催,筆者から はアンケート結果を報告した.このセッションでは特 に年齢制限,介助者の問題,及びマニュアルの見直し のプロセスを中心に議論がなされた.  2019 年 3 月 29 日に日本透析医会腎不全対策委員会 在宅血液透析部会を開催し,JSHHD におけるアンケー ト結果も含めたここまでの経緯を報告し,同部会およ び新たに部会に設置する「「在宅血液透析管理マニュア ル」改訂に向けたワーキンググループ」において,マ ニュアルの改訂作業を進めていくことが決まった.  「「在宅血液透析管理マニュアル」改訂に向けたワー キンググループ」は執筆時点で,2019 年内に 2 回開催 しており改訂作業は佳境に入っているが,なにより HHD の安全性を重視することを大前提として,安全性 や治療の合理性を損ねない制約については,最終的に 医師の判断があることを前提に減らしていくこと,ま た介助者については,「患者がどうしてもできないとこ ろを補助し,患者から指示を受けて操作を行う.患者 が指示を出せないような緊急事態が発生した時は,直 ちに治療を中断し病院へ連絡するなどの役割を担う」 という位置づけではどうか,という方向で議論が進ん でいる. いわゆる「非自己管理型在宅血液透析」の問題  2010 年の HHD の診療報酬引き上げ後,高齢者住宅 に入居している透析患者に,施設内で血液透析を行い, HHD として保険請求する施設が現れた.これは通院困 難な高齢者を高齢者住宅に入居させ,透析施設のス タッフが穿刺,回収時に出向き透析を行うというもの であった.中には住宅の共用施設として透析室を設置 し透析機器を共有しながら,一人一台の透析機器であ ることが大前提である透析液供給装置加算を請求する 施設もあったという.  患者の自己管理を前提としないことから,我々がい わゆる「非自己管理型在宅血液透析」と定義したこの 血液透析は,2011 年の日本透析医学会学術集会で,こ のような透析を HHD として報告した施設があったこ とから,日本透析医会としてその存在を認知するに 至った.  非自己管理型 HHD は,通院の手間が必要ないこと から患者の負担が少なく,低コストで,また在宅血液 透析の診療報酬を利用して頻回透析も可能であるとし て,推進している施設があり,また新しい高齢者透析 のあり方として,不動産業者が勧めるようなケースも あったという.しかしながら,非自己管理型 HHD は きわめて重大な問題を複数有している.  前述の 2010 年に作成された在宅血液透析管理マ ニュアルには「在宅血液透析の定義」という項目があ り,そこには「患者及び介助者が,医療施設において 十分な教育訓練を受けた上で,医療施設の指示に従い, 1 人に対して 1 台患者居宅に設置された透析機器を用 い,患者居宅で行う血液透析治療である」と記してい る.すなわち,本マニュアルは患者に対する教育訓練 を前提に,患者の自己管理と治療における有責性を在 宅血液透析の必要条件としている.  また同マニュアルにおいては HHD の適応として 10 の条件を挙げているが,少なくとも,通院困難な高齢 者住宅に入居している透析患者を対象としている非自 己管理型 HHD においては,④教育訓練を受けること ができること⑤教育訓練の内容を習得する能力がある こと⑧年齢は 16~60 歳程度が望ましい.⑨社会復帰の 意思があること,の 4 つはまずあり得ない.  前述のように在宅血液透析指導管理料の算定条件と して「関係学会のガイドラインを参考に在宅血液透析 に関する指導管理を行うこと」との一文があり,この 関係学会のガイドラインとは「在宅血液透析管理マ ニュアル」を指すが,非自己管理型 HHD は,在宅血 液透析管理マニュアルの記載を無視しているという意 味で,保険診療上のコンプライアンスに問題がある.  また,透析液供給加算は HHD 患者に透析液供給装 置を使用した場合に,在宅血液透析指導管理料に加算 できる診療報酬上の点数であるが,請求の条件として 「透析液供給装置は患者 1 人に対して 1 台を貸与し,透 析液供給装置加算には,逆浸透を用いた⽔処理装置・ 前処理のためのフィルターの費用を含む」としており (表 1),在宅血液透析として診療報酬を請求する以上 は,⽔処理装置・RO 装置も含めた個人機の使用が前 提となり,機器の共有もあり得ない.  更に大きな問題は,治療の安全性と責任の所在に関 する点である.本来の在宅血液透析は,患者本人およ び介助者が管理施設で,安全対策を含めた十分な教育 を受けることで,体外循環を行うことによる危険を内 在している透析医療の安全性を担保しているが,非自 己管理型 HHD においては,責任の所在は極めてあい まいになる.抜針事故などの重大事故発生時,非自己 管理型 HHD においては,誰が責任を負うのか法的な 扱いも確立されていない.  在宅血液透析として請求する以上,機器の共有はな く,共有スペースでの透析もないため個室透析での実 施となるが,これは監視がしやすい多人数の透析室に

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比較すれば安全上の問題はきわめて大きくなる.また 医師不在の高齢者住宅で行う透析であることから,緊 急時の対応にも支障が出ることは必至である.  なお,フランスなどで普及しているリミテッドケア 透析も医師不在で行われているが,リミテッドケアは 斉藤によれば「患者自身が穿刺,回収,終了など透析 操作を含めて中心的に行う透析.患者自身が管理する 部分を増やした「自己管理透析」」であり,非自己管理 型 HHD とは本質的に全く異なる2)  以上のように,非自己管理型 HHD は,患者に対す る訓練を前提とした患者自己管理と有責性を必要条件 としている在宅血液透析管理マニュアル,及び現行の 診療報酬の定める在宅血液透析とは全く異なるもので あり,これを在宅血液透析として診療報酬を請求する ことは脱法行為と言わざるを得ない.また,これをな し崩しに黙認し,本来の在宅血液透析と診療報酬上同 一視されるような事態になれば,HHD の大きな長所で ある頻回透析に制限がかけられる可能性も高くなる. 「非自己管理型在宅血液透析」に対する日本透析医 会および日本透析医学会の対応  日本透析医会は,前述のような非自己管理型 HHD の問題を踏まえ在宅血液透析部会で検討,2012 年 6 月 に医会会員向けに「在宅血液透析の条件について」と いう通知をした.その内容は在宅血液透析の条件を「① 個人用透析機器の共用ならびに,共有スペースにおけ る在宅血液透析ではない(居宅で実施する).②原則と して 1 人の介助者が担当する患者は 1 人のみ.同様に, 1 患者に対して透析機器は専用器を用いる.③介助者 は原則として透析開始から終了まで付き添う.④シャ ントは自己穿刺を原則とする」と定義するものであっ た.  また,日本透析医会として厚労省訪問時には,非自 己管理在宅血液透析は我々の定めたガイドラインの条 件をみたすものでなく,大きな問題があることを指摘 し対応を求めた.また日本透析医学会の執行部とも連 携を取り,2015 年 1 月に,日本透析医学会の役員と共 に厚生労働省を訪問,もし行政として,非自己管理型 HHD を認める方向で考えるのであれば,安全性の確保 と治療の責任の担保を明確化,関わる医師やスタッフ の質を学会等で担保すること,従来の HHD とは異な るカテゴリーであることを明確化するなど,いくつか の条件が必須であることを透析の専門家の立場から主 張した.  また,同年 2 月に日本透析医会として在宅血液透析 部会を開催.非自己管理型 HHD は安全性など様々な 問題があり,現状は許容できる状況ではないこと,少 なくとも現行の在宅血液透析とは別物であることの確 認がほぼ参加者の全会一致でなされた.  日本透析医学会はこの問題に対し,「高齢化社会に向 けた在宅医療の検討小委員会」を保険委員会の下に設 置,2015 年 11 月に会議を開催し日本透析医学会とし ても医会と同様の見解であることが確認された.  これらの様々な活動の結果,2016 年の診療報酬改定 において,在宅血液透析指導管理料の運用を厳格化す るという判断が行政よりなされた.具体的には,従来 「関係学会のガイドラインを参考に在宅血液透析に関 する指導管理を行うこと」とされていた在宅血液透析 指導管理料の記載が「関係学会のガイドラインに基づ いて患者及び介助者が医療機関において十分な教育を 受け,文書において在宅血液透析に係る説明及び同意 を受けた上で,在宅血液透析が実施されていること. また,当該ガイドラインを参考に在宅血液透析に関す る指導管理を行うこと」となった(表 1).これにより 患者自身が在宅血液透析について教育を受けることが できる能力がある透析患者のみが,在宅血液透析指導 管理料を算定することとされ,診療報酬上もいわゆる 非自己管理型 HHD では,在宅血液透析指導管理料は 事実上請求できないことが明確化された3)  しかしながら,現時点でも,未だ高齢者住宅におい て血液透析を行い,在宅血液透析指導管理料を請求し ている施設という情報もあり,今後行政と協議し,行 政による監査が必要となるかもしれない.  現在改訂作業中の在宅血液透析マニュアルにおいて は,いわゆる非自己管理型 HHD については,現行の マニュアル以上にはっきりと,このマニュアルで扱う HHD とは少なくとも全く別物であることは明記する 予定となっている. おわりに  本邦における透析患者の高齢化は著しく,それに伴 う様々な問題があるのが実情である.その中で,在宅 血液透析の診療報酬が増点されたタイミングで,高齢 者住宅において透析を行い,これを在宅血液透析とし て診療報酬を請求する,というアイデアはある意味社 会のニーズに応えたといえなくもない.しかしながら, このいわゆる非自己管理型在宅血液透析は,少なくと も既存の在宅血液透析とは別物である,という一線は 守らなければならない.  仮にこれを既存の在宅血液透析と同一として認める

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ことになれば,自宅での血液透析における安全性に腐 心してきた日本の在宅血液透析が 50 年積み上げてき た成果は,一気に吹き飛ばされることは避けられない. 更には医師不在透析をなし崩しに透析業界として認め ることになりかねない危険な行為であることを,透析 に関わる全ての医療者は認識する必要がある. 文献 1) 太田圭洋:在宅血液透析の歴史.腎と透析 81: 731-736, 2016 2) 斎藤 明:リミテッドケア透析(1)日本で普及させるため の問題点とは? 臨牀透析 26, 183-188, 2010 3) 山川智之:2016 年度診療報酬改定と透析医療.日透析医会 誌 31: 267-276, 2016

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1.学会講演後記録(学会企画)

特別セッション 2

 在宅血液透析管理マニュアル改訂の論点

2.海外の在宅血液透析状況と介護者の問題

政金 生人

(矢吹病院) はじめに  在宅血液透析(Home hemodialysis:HHD)は,自 己のライフスタイルに合わせた十分な透析量を確保出 来るため,理想的な治療モダリティとして広く認識さ れている.しかしながら,日本透析医学会統計調査に よると,2018 年末の HHD 患者数は 720 人で,その増 加速度はやや頭打ちとなり,依然として全透析患者の 0.2%に過ぎない1).2018 年の United States Renal Data

System(USRDS)の腎代替療法選択の国際比較にお いて,わが国は腎臓移植,腹膜透析と HHD を含めた 在宅透析の比率はいずれもほぼ最低レベルである2).特 に HHD はニュージーランドでは全透析患者の 17%を 占めており,わが国の HHD の現状と大きな隔たりが ある.諸外国では透析総医療費の削減効果と透析患者 の生存率や QOL 改善を目的に,在宅透析が推進され, その比率を伸ばしている.わが国でもその状況は似て いるのであるが,腹膜透析も HHD も,諸外国に比し 増加しているとは言いがたい.本稿では,HHD 普及を 阻むチャレンジの一つである介護者の問題について, 諸外国と比較し,今後のわが国のあるべき方向を考察 する. わが国の HHD における介護者の役割  わが国の HHD は 2007 年に日本透析医会から発行さ れた,「施設のための在宅血液透析教育・指導マニュア ル」3)に沿って行う事で保険請求することになってい る.これを見ると,わが国で HHD では,介助者の存 在が必須になっており,介助者は患者と共に HHD の ために指導を受けることになっている.しかしながら, このマニュアルでは介助者の厳密な定義は示されてお らず,介助者が何処までの能力を有しているべきかに は言及されていない.そのため,介助者にどこまでの 対応能力を要求するかは施設により差があり,患者と 同様の知識,技術を要求する施設もあれば,緊急時の みの対応程度で可としている施設もある.新生会の小 川によれば,介助者の加齢等により,HHD を中止せざ るを得ない症例が一定数存在すると報告されている [小川私信]. HHD における介護者の役割とサポート体制  筆者は海外の HHD における介助者の役割や社会の サポート体制について,米国,カナダ,オーストラリ ア,ニュージーランド,イギリス,フランスの 6 ヶ国 の筆者の友人にアンケート・聞き取り調査を行った. 米国,ニュージーランドの友人からは,今回は直接返 事はなかったが,過去の情報で補足した.本稿では紙 面の関係ですべての返答を詳細に示すことはできない が,本稿の核になる結果は表 2 にまとめた.  アンケート結果を概観してわかることは,海外にお いて HHD は自立した本人が,自己責任で行う治療で あり単身者でも可能であるということである.特筆す べきは,カナダにおいては,週 3 回の HHD を行う患 者は介助者が付き添う必要があるが,NHD や SDHD には必要としないということであった.これは HHD において最も危険なのは,単位時間あたりの除水量を あげることであるという極めて合理的な判断による. ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3> 表 1 海外の HHD のアンケート質問内容 1.単身居住者は HHD 出来ますか? 2.実際に行っている人はいますか? 3.単身居住者 HHD へのサポートシステムはあります か?またそれはどのようなものですか. 4.介助者に(資格)制限はありますか. 5.介助者は穿刺できますか? 6.介助者は透析の最初から最後まで付き添う必要があ りますか? 7.HHDを選択した患者へのインセンティブはあります か? 8.HHDを開始した患者への公共のサポートはあります か? 9.HHD を行う施設,医師へのインセンティブはありま すか? 10.透析液,回路,ダイアライザ,消耗品の廃棄に規制 はありますか? 11.HHD 普及への障害は何ですか.

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また,HHD を支える,推進するシステムとして,介助 者は家族に限定しておらず,もちろん専門施設におけ る研修後ではあるがアクセス穿刺もすべての国で許可 されていた.電気代水道代が保証されている点も我が 国と大きく違う点であった.

オンタリオ州の Personal support worker (PSW)システム  カナダのオンタリオ州では,HHD の在宅治療環境を 整えるために,PSW システムを開発した4).このシス テムは,週 3 回施設透析の 1 年間の医療費から,週 3 回の HHD に移行することで生じる差額(52,000Ca$- 22,000Ca$=30,000Ca$:約 250 万円)を,HHD の介助 者の人件費に充てるという試みである.このシステム にはエージェントが介するが,PSW は概ね 2 人の患者 をケアすると,週 5-6 万円の収入になる.この計算だ と患者 2 人を施設血液透析から HHD に移行させると, PSW の経費を見積もっても年額約 250 万円の医療費 を削減することになり,1000 人の移行が達成されれば 25 億円の削減効果がある.オンタリオ州では,このシ ステム試用期間中で HHD の選択率が 0.2%から 2.2% に上昇したと報告している4) 諸外国との比較における我が国の課題  諸外国ではオンタリオ州の PSW システムにも見る ように,施設血液透析から HHD に移行するともちろ ん患者の QOL が上がり,生命予後を改善させられる というメリットもあるが,透析医療費の削減効果が大 きいことが最大のメリットである.これがドライビン グフォースとなって,諸外国では HHD 普及のための 社会的インフラ整備が進められている.一方我が国で は,総医療費の削減効果のインパクトは諸外国より若 干低いが,HHD に対する情報の不足がベースにあっ て,オプション提示がない,安全性への不安から HHD を選択しない,患者数も少なくビジネスモデルとして 確立していないという悪サイクルを形成している.そ の上,患者の医療施設への依存度が高い点,医療サイ ドの医事訴訟への過度の不安「なにかあったらどうす る.」など,我が国特有の背景が,HHD の普及を阻ん でいると思われる.まず,HHD についての正しい知 識,正確な情報を発信し,オプション提示や HHD 選 択を行いやすくすることが重要である.次にこれらを 積み重ねて,HHD が行いやすいサポート体制を充実さ せ,ビジネスモデルとして成立させる事である.その 上で,単身者の HHD 許可,介助者の穿刺を可能にす るための方策を検討していくべきだろう. おわりに  HHD は患者の QOL を改善し,生命予後を改善する ことが期待されるだけでなく,透析医療費の削減効果 が期待される.しかしながら,我が国ではまだ HHD についての正確な情報が,患者,医療者,施策サイド のいずれにも発信不足である. 参考文献 1) 新田孝作,政金生人,花房規男,他:わが国の慢性透析療 法の現況(2018 年 12 月 31 日現在).透析会誌 52:679-754, 2019

2) United State Renal Data System: Chapter II: International Comparisons. 2018 USRDS ANNUAL DATA REPORT | VOLUME 2: ESRD IN THE UNITED STATES: 549-594, 2018

3) 日本透析医会.施設のための在宅血液透析教育・指導マニュ アル

4) Pierratos A, Tremblay M, Kandasamy G, Woodward G, Blake P, Graham J, et al. Personal Support Worker(PSW)- supported home hemodialysis: A paradigm shift. Hemodial Int 2017; 21(2): 173-9. ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3> 表 2 アンケート結果の概略 日本 海外 単身者は HHD 可能か 不可 可(5/6),不可(1/6) 介助者は穿刺可能か 不可(医療者のみ可) 可(6/6) 電気水道代のサポート 無し 有り(4/4) 廃棄物 施設による, 多くはボランティア 自治体のゴミ(2/4) メーカー回収(2/4) 今後の課題 普及啓発 安全性の向上 介助者の負担軽減 ビジネスモデルの確立 介助者の育成(カナダ) 医師への HHD 教育(英国・ オーストラリア)

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1.学会講演後記録(学会企画)

ワークショップ 1

 HHD 施行に関わる諸問題(透析排液,機材廃棄)

1.‌‌排水とゴミ,在宅血液透析の 2 大問題について 考える 杉本 謄寿 医療法人やまびこ会 福岡東ほばしらクリニック はじめに  本邦における在宅血液透析(以下,HHD)は,施設 透析で使用している装置・医療材料を自宅に持ち込み 行う治療である.諸外国のように専用の装置があるわ けではないため,排出されるものもまた,施設透析で 発生するものと同様である.HHD の普及を考えたと き,その臨床効果や QOL の改善などに注目されるこ とが多いが,在宅医療のひとつである HHD は透析液 排液や廃棄物についても注意しておかなくてはいけな い.  今回,透析液排液と廃棄物について,どのような問 題があり,どのような解決策が考えられるかを提示し, 今後の HHD 普及に繋げていきたい. 問題  HHD の諸問題のなかでも,とくに大きな 2 つについ て述べる. ・透析液排液  在宅血液透析研究会の FAQ にも示されている通 り,HHD を行うためには「上下水道が完備されている こと」が条件とされている.上水に関しては,透析液 作成に使用する水の水質に関わるため,RO 装置や軟 水装置を使用し事前に対応を行うことができる.しか し下水に関しては,治療後に発生する排水の行き先で あり直接人体に影響を及ぼすものでないため,対策が 遅れていることは否めない.  下水道がない場合,透析液排液は各家庭に埋設され ている浄化槽に流入したり,場合によってはそのまま 河川放流されたりすることになる.しかし,透析液の BOD(生物化学的酸素要求量)は 1200mg/l と高値で あり,そのままでは浄化槽の処理能力を超えるため, 本来流入できる性状ではない.ましてや河川放流を 行った場合,その流路である側溝などの生態系に与え る影響は未知数である.また,消毒工程で使用する薬 液の pH も,濃度や時間によっては問題になる場合が ある. ・廃棄物  HHD における廃棄物に関しては,廃棄物処理法によ り「家庭系一般廃棄物」として処理すべきという区分 が,明確に示されている.つまり,在宅医療の廃棄物 は家庭から出る“燃えるゴミ”として処理すべきとい うことである.しかし,その最終判断は実際に処理を 行う自治体(市町村など)に委ねられている.そのた め,自治体の判断によっては家庭からゴミとして出す ことができない.現状そういった場合は,患者が自分 で廃棄物を溜めておき,受診時などに施設に持ち込む 必要がある.なお,このように持ち込まれた場合は, 同じ廃棄物であるが,医療廃棄物として施設が責任を 持って処理しなくてはいけない.ゴミはその内容もさ ることながら,「どこから出るか」が重要であると言え る. 解決案 ・透析液排液  pH については,RO 装置の排水で希釈されること, また使用される薬液量が少ないため,大きな問題とな ることは少ない.  BOD は RO 装置の排水との混合で倍に希釈された としても 600mg/l 程度であり,理論値で考えると,さ らにここから 3 倍以上希釈される必要がある(※浄化 槽の処理能力は,流入 BOD の 90%を除去するもの, また流出 BOD は 20mg/l 以下と浄化槽法にて定められ ているため).しかし,現実的に透析中ここまでの希釈 を行うことは難しい.実際の浄化槽には透析排水以外 の様々な家庭排水が流入しており,これらと混合され ることで希釈されている可能性は十分考えられるが, 具体的な数値で示すことは難しい.  現在,この問題について実測データを集めている施 設もあり,こういった実践例を積み重ねることで透析 液を浄化槽に流入させることに問題がないことを提言 できる今後に期待したい.  また,透析用に専用の浄化槽を埋設する方法もある が,患者の自己負担が数百万になるため,HHD 普及の 後押しになるとは言い難い. ・廃棄物  廃棄物については,現在すでに全国各地の自治体が 家庭系一般廃棄物での廃棄を認めている前例がある. これから新たに HHD を始める患者を有する自治体に 関しては,管理施設の担当者が問い合わせを行い,廃 棄物の性状や安全性,取り扱い方法などを十分に協議 することで,廃棄を認めてもらえる可能性が高いと考 える. 考察  透析液排液,廃棄物ともに「治療のあとに出るもの」 であるため,直接自分の身体に何か不都合が降りか かってくるものではない.しかし,HHD を今後一般的 な治療法として普及させるためには,周辺環境への配 慮は必須である.  施設やメーカーの技術的な改善努力だけでなく,自 治体なども巻き込んだ新たなルールの制定なども視野 に入れた解決法を,今後も模索し続けていく必要があ る.

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ワークショップ 1

 HHD 施行に関わる諸問題(透析排液,機材廃棄)

2.東京地域での廃棄物処理について 吉田 智史,中山 友子,藤井 和真, 右谷 美穂,高橋美有紀,陣内 彦博, 秋葉  隆 医療法人社団瑛会 東京ネクスト内科・透析クリニック はじめに  在宅血液透析(以下 HHD)は緩徐であるが増加して きている.しかし,整備されていない問題も多く,そ の中のひとつに廃棄物処理が挙げられる.廃棄物処理 についての最終的判断は各市町村のため地域差が見受 けられるが,本稿では東京近郊での廃棄物処理につい て報告する. 在宅医療廃棄物の処理方法  処理方法は,各市町村に処理責任があるが,現段階 では二つの分類がある. 1.注射器等の鋭利な物は,医療関係者あるいは患者・ 家族が医療機関に持ち込み,感染性廃棄物として処理 をする. 2.その他非鋭利な物は,市町村が一般廃棄物として処 理をする.  このような分類を受け,当クリニックの分類を図 1 に示す.鋭利な物として穿刺針,注射針,採血ホル ダー,血液回路プラスチック針は,クリニックにて廃 棄している.このとき,針刺し事故防止のため空き缶 やプラスチック容器などに入れ月 1 回の外来時に持参 してもらっている.その他非鋭利な物として,血液回 路,ダイアライザ,シリンジ,ガーゼ等は,一般廃棄 物として処理しており,近隣トラブル防止のため,廃 棄物は新聞紙や透明でないビニール袋に入れるよう指 導している. 当クリニックにおける廃棄現状  当クリニック HHD 患者の分布を図 2 に示す.東京 都だけでなく,千葉県,埼玉県,神奈川県の HHD 患 者を管理している.18 名中 16 名はその他非鋭利な物 を一般廃棄物で処理し,流山市と草加市の 2 名はクリ ニックへ持参し廃棄している.2 名のうち 1 名は市町 村への確認を取らずに持参する方法を選択し,もう 1 名は確認したところ費用がかかると言われたため,ク リニックへ持参する方法を選択している. 医療機関の介入  基本的には,患者自身において各市町村に廃棄方法 を確認してもらっているが,廃棄不可と判断される ケースもある.しかし,医療従事者の立場から HHD の説明や廃棄物の種類を説明することで問題が解決さ れることがほとんどである.この時に,腹膜透析を例 にすると理解してもらいやすくなる.また,他の HHD 管理施設の患者の廃棄方法が情報共有できれば説明時 に役立つと考える. ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3> 図 1 廃棄物の分類例 ZAIT(RGB)雛形 【版面】 W:165.75(片段 78)mm H:246mm 【図】◆図番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆図説:リュウミン R 12Q 16H ◆図説の幅 片:段幅・全段:図幅 ◆ 1 行→センタリング 2 行以 上→折り返し字下げなし  【表】◆表番号:太ゴ タイトル:リュウミン R 12Q 16H ◆表説の幅:表幅 ◆ 1 行→センタリング  2 行以上→折り返し字下げなし ◆表中:リュウミン R 12Q 14H または 18H ◆脚注:リュウミン R 12Q  14H または 18H 左右字下げなし

【統一事項】算術記号は和文を使用(%と& は欧文)/ギリシア文字は Symbol /リュウミンの欧文がイタリックになる場合は Palatino Italic

<2020.3.3>

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廃棄コスト  医療機関側で廃棄物(鋭利な物とその他非鋭利な物) を処理する場合,1 回の透析あたりの廃棄物を約 1.0kg,透析回数を月 20 回とすれば患者 1 名あたり年 間約 3.2 万,当クリニックの患者 18 名全員に換算すれ ば年間約 57 万円となる.すべての地域において一般廃 棄が可能となれば,HHD 管理施設のコスト軽減にもつ ながる. まとめ  東京近郊ではほとんどの地域でその他非鋭利な物を 一般廃棄が可能である.多くの事例が作られることで 在宅医療廃棄物の処理系統が整備されていき,HHD 患 者や HHD 管理施設の増加が期待される.

図 1  日本でこれまで保険償還された補助人工心臓
図 2  米国の補助人工心臓(VAD)および完全置換型人工心臓(TAH)のレジストリー(INTER- 米国の補助人工心臓(VAD)および完全置換型人工心臓(TAH)のレジストリー(INTER-MACS:Interagency North American Registry for Mechanically Assisted Circulatory Support)
図 4  植込型 LVAD 在宅治療における日常生活管理で特に重要な事項(上段)と人工心臓 管理技術認定士による「Skype 面接」風景(下段)
図  コンソールには当院透析センターへの連絡先が記載されている
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参照

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