栄養素の消化と吸収―イヌとネコに注目して―
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(2) 村井 ず、口腔内でデンプンの化学的な消化は行われない。. 節されている。食物を見せたり、その匂いをかがせた直. 咀しゃくによって、食物は小片となり、唾液により粘. 後、その刺激は迷走神経経由で胃に達し、胃液分泌を刺. 滑性が増し、嚥下(えんげ=えんか=飲み下し)が容易. 激する。これを胃液分泌調節の頭相と呼び、頭相には条. になる。しかし、イヌやネコは嚥下に必要なだけの咀し. 件反射による分泌も含まれる。一方、摂取した食塊は食. ゃくを行うにすぎず、唾液との混和も少ない。唾液には、. 道を経由して胃に入り、胃を拡張させる。また、食物中. 消化液としての役割の他に、気化冷却作用によって体温. の栄養成分が誘起する化学的刺激あるいは物理的刺激に. を下げるという重要な役割がある。. より、幽門前庭部に散在するガストリン分泌細胞が刺激. 嚥下によって飲み込まれた食塊は食道に入り胃に移送. を受け、血液中にガストリンを放出する。放出されたガ. される。食道は筋組織で構成された管であり、食塊は蠕. ストリンは血管内を循環し、胃に到達すると壁細胞から. 動運動で移送される。イヌの食道は横紋筋からなってお. の胃酸分泌を促進する。このような胃液分泌調節を胃相. り、蠕動運動による食塊の速やかな移送に適している。. による制御と呼ぶ。胃液のpHが2以下になると、ガス. ネコの食道上部は横紋筋で構成されているが、胃に近い. トリン分泌が抑制され、そのため胃酸分泌も減少する。. 側の半分から1/3は平滑筋で構成されており、食塊の移. 主細胞から分泌されるペプシノーゲンは、塩酸により. 動が緩やかになる。イヌでは蠕動運動が2∼5 cm/秒の速. 不活性化因子が切断されるとペプシンが遊離する。また、. さで伝わり、食塊が食道を通過するのに4∼5秒しかかか. ペプシン自身によっても自己触媒的にペプシノーゲンは. らない。ネコでは9∼12秒かかる。液体の通過速度は固. 活性化される。こうして、ペプシンはタンパク質を分解. 形物の5倍以上である。. するプロテアーゼとして食物中のタンパク質の分解を始 動する。イヌやネコではコラーゲンを摂取するとペプシ ンの働きが活発になる。したがって、ペプシンは植物性. 3.胃内消化. タンパク質の消化よりはむしろ動物性タンパク質の消化 動物には、胃の内部が単一の腔である単腔胃と2個以. に重要な役割を果たすと思われる。主細胞からは脂肪を. 上の区画からなる複腔胃とがある。イヌとネコは単腔胃. 分解する胃リパーゼも分泌されるが、膵臓から分泌され. であり、単胃動物と総称される。. る膵リパーゼに比べると脂肪消化への寄与は小さい。. 胃を生理的な機能領域で区別すると、食物の貯留に携 わる食道端の近位部、および粉砕とふるい分けの機能を. 4.管腔内消化. 持つ小腸端の遠位部にわけられる。形態学的ならびに組 食塊は胃内で粥状となり、十二指腸へ送られると、膵. 織学的には近位部から遠位部に向かって噴門部、胃底、 幽門部の3つに分けられ、各部位に腺がある。各部位の. 臓から膵液、肝臓から胆汁が流れ、粘稠な腸液とともに. 粘膜表面には無数の胃小窩(いしょうか)が存在し、胃. 混合され、消化酵素による完全な消化作用が開始される。. 小窩は固有層まで入り込み、これに胃腺が開口する。こ. このように、消化管内に分泌された消化液による消化を. れらの腺からは胃液が分泌されるが、各胃腺を構成する. 管腔内消化という。小腸内に分泌される胆汁、膵液、腸. 細胞群および胃液に含まれる成分は各部位によって異な. 液のうち消化酵素を含むのは膵液だけである。. る。イヌの胃に比べて、ネコの胃は各部位の粘膜の様相. 胃から十二指腸へ流入した消化粥のpHは直ちに中性. が均一であり、視覚的に各部位を区分するのが難しい。. へと戻される。穀物や肉主体の飼料を摂取したイヌの小. 噴門腺部では腺の頸部に存在する粘液細胞から糖タン. 腸近位部のpHは6.2との報告がある。ネコでもほぼ同様. パク質のムチンが分泌される。胃底腺部では、主細胞と. であり、小腸遠位部へ向かってやや上昇する傾向にある (空腸で6.4、回腸で6.6) 。. 壁細胞が混在する。主細胞はペプシノーゲンの他に胃リ. 膵液は膵臓でつくられ、膵管を通して十二指腸内に分. パーゼを分泌する。壁細胞は、血液から拡散してきた CO2と水(H2O)を使って、H とHCO (重炭酸イオン). 泌される。膵液には、消化の中心的な役割を担う様々な. +. を生成する。生成されたH は塩酸(胃酸)として胃の. 消化酵素が含まれる。主要な酵素はアミラーゼ、脂質分. 内腔側に排出される。幽門腺部には、主細胞および消化. 解酵素およびタンパク質分解酵素である。また、高濃度. 管ホルモンであるガストリンを分泌するG細胞が存在す. にHCO3−が含まれており、十二指腸内腔に流入した胃酸. る。. を中和化する。. +. − 3. 胆汁は肝臓でつくられたあとに胆嚢に貯えられてお. 胃液の分泌は、頭相、胃相、腸相の3つの相により調 ペット栄養学会誌,24(1):39 - 45,2021. 40.
(3) 栄養素の消化と吸収―イヌとネコに注目して―. 図2 デンプンと糖類の消化・吸収過程の概要. り、胆管を通して十二指腸内に分泌される。胆汁には、. 広げている。小腸1 cm当たりの吸収面積はイヌとネコと. 肝臓においてコレステロールから合成された胆汁酸が含. でほぼ同じである(空腸ではイヌで54 cm 2、ネコで50. まれている。イヌ、ネコの胆汁酸の大部分はタウリンが. 。小腸粘膜 cm2;回腸ではイヌで38 cm2、ネコで36 cm2). 抱合しており、界面活性作用を高めている。ネコではタ. の吸収表面には、管腔内消化で部分的に分解された栄養. ウリンが欠乏すると、胆汁中でタウリンが結合していな. 素をさらに細かく分解するための膜消化酵素が存在し、. い遊離の胆汁酸が増加する。胆汁には、このほかにリン. そこで最終的な消化を行うと同時に吸収が行われる。体. 脂質やリゾリン脂質などが含まれている。抱合胆汁酸、. 重20 kg のイヌが一日に吸収する流体量は3 Lにも及び、. リン脂質をはじめとする両親媒性物質は脂肪の表面に接. そのうちの50%が回腸、40%が空腸、残りの10%が大腸. 触して脂肪を乳化し、膵液リパーゼの働きを助ける一方、. で吸収される。. 脂肪の分解産物と共にミセルを形成して吸収部位まで運. 腸上皮細胞は吸収細胞である円柱細胞と、粘液を分泌. 搬する。抱合胆汁酸はその場では吸収されず、そのまま. する杯細胞からなり、前者が腸絨毛の大部分を占める。. の形、あるいは腸内細菌により脱抱合されて回腸末端か. 管腔側細胞表面に数百から数千本の微絨毛が密生し、刷. ら吸収される。この胆汁酸は、門脈を経て、再び肝臓に. 子縁と呼ばれている。刷子縁を持つ側の細胞膜を刷子縁. 戻り再利用される(腸肝循環) 。. 膜(頂端膜)、それに対してに刷子縁をもたない側面お よび底面を合わせて側底膜という。刷子縁膜には種々の 酵素や担体タンパク質が存在し、消化・吸収の最終工程. 5.膜消化と吸収. を担う。 小腸は最大の消化部位であると同時に、最大の吸収の 場でもある。小腸粘膜にはヒダ(輪状ヒダ)が多く、そ. 5-1.デンプンと糖類(図2). の上に長さ2 mm程度の絨毛が密生し、さらに絨毛表面. デンプンは穀物に含まれている主要な炭水化物であ. が微絨毛で覆われることによって吸収面積を600倍にも. り、動物のエネルギー源として重要である。グルコース 41. ペット栄養学会誌,24(1):39 - 45,2021.
(4) 村井 がα-1, 4-グルコシド結合したアミロースと、α-1, 4結合の. 腔へ放出され、血液中に流れ込む。. ところどころにα-1, 6グルコシド結合したアミロペクチ ンとからなる。膵液から分泌されるα-アミラーゼはα-1,. 5-2.脂質(図3). 4-グルコシド結合を分解する主要な酵素である。α-アミ. 食餌中の脂肪の大部分は3分子の脂肪酸が1分子のグリ. ラーゼによりアミロースは主に二糖類のマルトース(麦. セロールとエステル結合したトリグリセリドである。前. 芽糖=グルコース+グルコース)と少量のグルコースに. 述した通りイヌもネコも胃でリパーゼ活性が見られる。. 分解される。α-アミラーゼはα-1, 6結合を分解できない. したがって、初期のトリグリセリド分解は胃で開始され. ため、アミロペクチンの分解ではα-1, 6結合をもつ二糖. ると考えてよい。初期段階では、消化によって作られた. 類のイソマルトースが作られる。α-アミラーゼの活性は. 両親媒性の物質がトリグリセリドの乳化を促進し、リパ. ネコよりもイヌの方が高い。イヌは食餌中のデンプンレ. ーゼによる脂肪の分解を助ける。本格的なトリグリセリ. ベルに応じてα-アミラーゼ活性を容易に変化させること. ドの消化は小腸で行われ、胆汁中の胆汁酸塩や膵液に含. ができ、大部分のデンプンを消化することができる。ネ. まれるコリパーゼの助けを借りて膵リパーゼにより行わ. コではデンプンの消化能力が小さいと言われているが、. れる。この時、グリセロールの3個の炭素骨格のうち1位. 通常レベルのデンプンを消化するのに必要なα-アミラー. と3位炭素に結合した脂肪酸が切断され、2分子の脂肪酸. ゼ活性が見られる。. と1分子の2-モノグリセリドが生ずる。イヌやネコの母. α-アミラーゼでは消化できない形で残ったマルトース. 乳には胆汁酸によって活性化されるリパーゼが含まれて. やイソマルトースはそれぞれ小腸の刷子縁膜(栄養素を. おり、授乳期の子イヌや子ネコで脂肪の消化機能を補っ. 吸収する上皮細胞の管腔側の細胞膜)に存在するマルタ. ている。他の動物と同様にイヌやネコでも、リン脂質. ーゼとイソマルターゼにより加水分解される。これらの. (リゾリン脂質+脂肪酸)を分解するホスホリパーゼA2. 酵素を二糖類分解酵素と呼ぶ。スクロース(ショ糖=グ. やコレステロールエステル(コレステロール+脂肪酸). ルコース+フルクトース)やラクトース(乳糖=グルコ. を分解するコレステロールエステラーゼが膵液に含まれ. ース+ガラクトース)も二糖類であり、これらは食餌や. ており、脂肪酸を遊離させる。モノグリセリド、脂肪酸、. 母乳から直接摂取されることが多い。スクロースを分解. リゾリン脂質、コレステロール等の脂溶性物質は比較的. するスクラーゼやラクトースを分解するラクターゼも二. 細胞膜を自由に通過できるため、これらの多くは輸送担. 糖類分解酵素であり、これらの二糖類を単糖まで加水分. 体を利用することなく受動拡散により吸収される。. 解する。哺乳期の子イヌや子ネコではラクターゼ活性が. 上皮細胞へ吸収されたモノグリセリドおよび脂肪酸は. 高いが、離乳後はその活性が低下するため乳糖不耐性に. 細胞内の滑面小胞体で新たなトリグリセリドに再合成さ. なりやすい。一般に、二糖類分解酵素の活性は十二指腸. れる。リン脂質やコレステロールの一部も再エステル化. で最も低く、次の空腸前半で最も高くなり、回腸に向か. され、これらのトリグリセリド、リン脂質、遊離および. うに従って次第に低くなる。. エステル型コレステロールは水との親和性に応じて層を. イヌもネコも、消化によって生じた単糖を刷子縁膜に. なしミセルをつくる。その表層には運搬タンパク質(ア. 存在する2種類の担体で運搬する。一つはグルコースお. ポリポタンパク質)が組み込まれて、リポタンパク質の. よびガラクトースを輸送するNa との共輸送体である. 一種であるカイロミクロンが作られる。上皮細胞から放. (SGLT)。この輸送体はエネルギー(ATP)を消費して. 出されたカイロミクロンはリンパ毛細管の乳び腔より取. 作り出したNa の濃度勾配を利用して、グルコースやガ. り込まれて、その後循環血液中に入り代謝される。グリ. ラクトースを細胞内に取り込む。もう一つの輸送体はフ. セロールや炭素鎖の長さが短い中鎖脂肪酸はカイロミク. ルクトースなどを取り込む担体(GLUT5)である。こ. ロンに取り込まれることなく門脈に入る。. +. +. の糖輸送はNa+非依存的・エネルギー非依存的で吸収速 度が遅い。糖の吸収速度は、グルコース=ガラクトー. 5-3.タンパク質(図4). ス>フルクトース>マンノース、キシロース、アラビノ. 膵液中のタンパク質分解酵素も不活性型の酵素原とし. ース(これらの糖は主に担体を利用しない単純拡散で取. て分泌顆粒中に存在し、消化管内腔に分泌されてから活. り込まれると考えられてきたが、Na+依存的に担体で吸. 性化される。タンパク質分解酵素はペプチド鎖を内側か. 収されるものもある)である。いったん細胞内へ流入し. ら切断するエンドペプチダーゼと、末端からアミノ酸を. た糖はすべて促通拡散する担体(GLUT2)により側方. 一個ずつ切断するエキソペプチダーゼに分類される。ト. ペット栄養学会誌,24(1):39 - 45,2021. 42.
(5) 栄養素の消化と吸収―イヌとネコに注目して―. 図3 脂質の消化・吸収過程の概要 リン脂質は食物中に最も多く含まれるホスファチジルコリン=レシチンを代表例とした。. リプシン、キモトリプシンは前者で、胃液に含まれるペ. やトリペプチドはH+共輸送担体(pepT1)を通過して細. プシンもエンドペプチダーゼである。カルボキシペプチ. 胞内に入る。細胞質内にはジペプチダーゼやトリペプチ. ダーゼはエキソペプチダーゼでペプチド鎖のカルボキシ. ダーゼが存在し、細胞内に入ったこれらの短鎖ペプチド. ル基末端から順次アミノ酸を一つずつ切断する。これら. をアミノ酸にまで分解する。したがって、門脈中には短. の消化酵素の作用によって、タンパク質は短鎖のペプチ. 鎖ペプチドは出現しない。. ドと遊離アミノ酸に分解される。. タンパク質やアミノ酸の消化・吸収の仕組みは単胃動. 遊離アミノ酸は刷子縁膜に存在するそれぞれのアミノ. 物では大差がないと考えられている。イヌもネコも消化. 酸に対応する輸送担体を介して細胞内に吸収される。一. 性の優れたタンパク質を摂取している限り、その能力に. 方、短鎖ペプチドの一部は刷子縁膜に存在する各種ペプ. 大差はないが、同じフードを食べさせるとイヌよりもネ. チダーゼによってより小さなペプチドや遊離アミノ酸に. コの方がややタンパク質の消化率が劣る。これは、ネコ. まで加水分解される。遊離アミノ酸の多くはNa 依存性. の体長当たりの小腸の長さが短いことに起因するようで. の共輸送担体による能動輸送で吸収細胞内に入る。しか. ある。. +. しながら、Na+非依存性の輸送体も多く存在し、同じア ミノ酸でも複数の吸収系で吸収されるものがある。吸収. 5-4.ミネラルとビタミン. 上皮細胞に取り込まれたアミノ酸は同じく基底膜側に存. 金属類(金属イオン)の多くはリン脂質二重層を横断. 在するいくつかのアミノ酸輸送体により血液中に移行. する膜タンパク質チャネルが通路になる。しかし輸送の. し、門脈に入る。ただしグルタミン酸やグルタミンは腸. ための駆動力は金属イオンにより異なる。ナトリウムや. 管細胞に必須のエネルギー源として消費されてしまうた. カリウムなど体内で大量に必要なミネラル類は吸収効率. め、門脈中にはほとんど出現しない。一方、ジペプチド. が高いが、それ以外のミネラル類は吸収効率が低いもの 43. ペット栄養学会誌,24(1):39 - 45,2021.
(6) 村井. 図4 タンパク質の消化・吸収過程の概要. が多い。. が減少することが知られている。. ナトリウムは、小腸上部(十二指腸と回腸)ではグル. 鉄は無機鉄と有機鉄の両方で含まれている。後者は特. コースやアミノ酸と共輸送されて細胞内に取り込まれ、. にヘムの形で含まれるものが大部分である。鉄のフード. 回腸や結腸では塩素と共輸送される。ナトリウムの吸収. 中含量が増加するとその吸収効率は低下する。また、カ. 効率はイヌ・ネコでも極めて高い。カリウムの吸収も極. ルシウム、リン、亜鉛、銅などの食餌中含量が増えると. めて高いことが知られており、これはカリウムが腸の吸. 鉄の吸収効率が低下する。鉄の吸収には塩酸が重要であ. 収上皮細胞の間隙を通過できるためである。. る。塩酸は鉄を溶解して、アスコルビン酸(ビタミンC). カルシウムの吸収は、主に上部小腸で、能動輸送およ. などと可溶性の複合体を形成し、吸収されやすい還元型. び拡散の両方で細胞内に取り込まれるが、活性型ビタミ. Fe2+の状態にする。Fe3+はFe2+に比べ吸収効率が低い。. ンDが重要な正の制御因子となっている。カルシウムの. ビタミンの吸収機構は脂溶性ビタミンと水溶性ビタミ. 吸収効率は、イヌ・ネコのライフステージ、系統、食餌. ンとで異なり、また個々のビタミンによっても異なる。. の構成成分により変化するために理解が複雑である。一. 脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収には他の脂質と. 般的には、ライフステージが進むにつれてカルシウムの. 同様に胆汁酸によるミセル形成が必要であるが、多くの. 吸収効率は低下する。また、カルシウムの摂取量が増加. 場合、濃度勾配に基づく受動的拡散により細胞内に取り. するとその吸収効率は低下する。また、小腸内腔での. 込まれる。吸収された脂溶性ビタミンは、大部分がカイ. pHの低下はカルシウムの吸収効率を増加させる。. ロミクロンに内包され、リンパ管を経て、循環血液中に. リンは、動物性のフード原料には無機リンとして含ま. 入るが、一部は門脈に入るものもある。一方、水溶性ビ. れており、効率よく吸収される。一方、植物性のフード. タミンは特別の吸収機構を必要とするものが多く、B1や. 原料にはフィチン態リンとして有機リンの形で含まれて. B2はNa+依存性あるいは非依存性の担体によって吸収さ. おり、これらは極めて吸収されにくい。また、食餌中の. れる。ビタミンB12(コバラミン)の吸収は特徴的で内. リンに対するカルシウムの比率が増えるとリンの吸収量. 因子(intrinsic factor)を必要とする。イヌ・ネコでは. ペット栄養学会誌,24(1):39 - 45,2021. 44.
(7) 栄養素の消化と吸収―イヌとネコに注目して― 内因子は膵臓で作られており、膵液に含まれるものが多. 上皮細胞のエネルギー源となる。. い。内因子はコバラミンと結合して、空腸や回腸の上皮. 発酵性の炭水化物の他に非発酵性の炭水化物(セルロ. 細胞の刷子縁膜に存在する受容体と内因子が結合するこ. ース、リグニン)もあり、これらを総称してルミナコイ. とで細胞内に飲作用で取り込まれる。. ド(小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健 康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分)と呼ば れている。ルミナコイドは、大腸内で多様な生理作用や. 6.大腸の機能. 腸内細菌に対する作用を発揮するとともに、SCFAなど 大腸は盲腸、結腸、直腸よりなる。採食後には回腸に. の発酵産物が管腔内外で多彩な生理作用を発揮する。発. 一連の蠕動運動が起こり、その結果、腸内容物が大腸に. 酵性や非発酵性の炭水化物を摂取すると膨満感がもたら. 移動する。大腸の機能は動物により異なるが、主として. され、消化管の通過速度を遅延させることで、食餌の摂. 1)水分の吸収、2)不消化物の処理・排泄、3)有機物. 取カロリーを減少させることができる。これらの成分は. の発酵である。大腸前半部の機能は、回腸から移送され. 他の栄養素の利用性を低下させることも知られており、. てきた液状内容物から水および電解質を吸収することに. 体重減少を目的としたダイエット食に利用されている。. ある。後半部は糞便を形成してこれを溜め、適当な時期. イヌ・ネコにおける、ルミナコイドによる高次の生理機. に体外へ排出することである。. 能に対する評価については研究成果の蓄積とその評価を. 発酵性の炭水化物でデンプン性のレジスタントスター. 待ちたい。. チ(抵抗性デンプン:食物中に見られる小腸で消化され にくいデンプン)や難消化性デキストリン、あるいは非. 参考資料. デンプン性の食物繊維(ヘミセルロース、ペクチンなど) やオリゴ糖などは、小腸で吸収されずに大腸で発酵を受. [1]Fahey Jr., G. C., K. A. Barry and K. S. Swanson.. ける。イヌ・ネコでの主要な発酵性基質は穀物や豆類な. (2006)Age-related changes in nutrient utilization by companion animals. Annu. Rev. Nutr., 28: 425-445.. どの植物性原料に多く含まれている。近年では、サプリ メントとして多くの難消化性人工合成物が生産されてい. [2]Gross, K. L., K. J. Wedekind, C. S. Cowell, W. D.. る。これらは、小腸では消化を受けずにバイパスされて. Schoenherr, D. E. Jewell, S. C. Zicker, J. Debraekeleer. 大腸に到達する。盲腸や結腸で腸内細菌による発酵性炭. and R. A. Fey.(2001)栄養素.[小動物の臨床栄養学. 水化物の分解が行われ、短鎖脂肪酸(short chain fatty. 第4版/M. S. Hand, C. D. Thatcher, R. L. Remillard and. acids=SCFA)が産生される。ネコは肉食動物のため、. P. Roudebush, eds.](元好茂一,監訳)pp.23-120.マ. 結腸が短く、機能的な盲腸を備えていないため、他の単. ーク・モーリス研究所日本連絡事務所発行,東京.. 胃動物よりも発酵性の炭水化物の利用性が低い。しかし、. [3]村井篤嗣・古瀬充宏(2000)イヌ・ネコの基礎栄養 (5)消化・吸収.ペット栄養学会誌,3:98-106.. 発酵原料を摂取した場合は、大腸内容物や糞のpHは低. [4]National Research Council. 2006. Nutrient require-. 下するためSCFAが産生されていることは疑いがない。 それに比べると、イヌでは発酵性の炭水化物の利用性は. ments of dogs and cats. The National Academies Press,. 高い。SCFAのうち酢酸、プロピオン酸は体内に吸収さ. Washington, D. C.. れてエネルギーや糖の産生に利用される、酪酸は腸管の. 45. ペット栄養学会誌,24(1):39 - 45,2021.
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