1. はじめに 素材,材料及び構造物などの健全性を検査する非破壊的な方 法として超音波による検査法が広く用いられている。超音波検 査法では縦波,横波,表面波,板波など対象に適する波動の形 態を選択している。また,検査法として反射法,透過法および 共振法などが用いられている[1],[2]。一方,最近,振幅の大きな 音波を欠陥等に伝搬させると構造的あるいは物性的な不均一か ら,入射音波とは周波数の異なる高調波が観測される場合があ り,検査法の一つとして使用されつつある。 超音波によって固体の検査をする場合,超音波プローブなど の送受波器を用いるが,超音波ビームの送受波を行う超音波変 換器の音響放射面及び音波の受波面は有限な面積を持ってお り,これらよりも小さな領域または形状の欠陥があった場合, 音波の回折によって受波信号は音波の受波面で平均化されこれ らの欠陥を見落とす可能性が考えられる。すなわち空間分解能 が低くなると同時に欠陥とそうでない部分の音速の差が大きく ない限り時間的にその差を検出することは簡単でない。超音波 による非破壊試験の対象となる欠陥はき裂をはじめ構造物では 材料や部材の結合や接合の不完全,材料の音響的な不均一など 多種にわたる。前述のように欠陥のサイズが小さいと通常の超 音波法では検出が難しい。これは現状ではレーザのように細い 音波のビームを長い距離に渡って伝搬させる技術が確立されて いないためである。そのため微小欠陥および微小領域の検出が できる方法が必要とされている。 検査対象を構成する固体材料や物質のキャラクタリゼーショ ンの一つに素材や材料などの加工や組み合わせによって生ずる 固体内部の残留応力の測定による健全性や強度の評価法がある [1],[2] 。残留応力は切断や押出加工などの加工やそれに伴う欠陥 の発生に伴って現れ,亀裂や破断などの破壊に進展することか ら,残留応力の分布測定によって欠陥の発生箇所や材料の局部 的な特性変化の検出から欠陥場所の推定を行う新しい方法が期 待される。残留応力の存在や分布の評価は破壊法と超音波によ る方法などの非破壊法に分類される[3]。これらのうちガラスな どの透明物質の評価は上記の方法のいずれに対しても光学的方 法が提案されている。 筆者らは,光弾性法[4]および鋭敏色法[5]によってき裂や切断 に伴う残留応力が存在する場を伝搬する超音波のイメージング を行っている。これらの方法では,音波の伝搬の様子を画像と して表示するため全体の見通しはよいが,微小な点や部分の定 量的な測定はできない。その後,これらの解決をするため微小 な領域の特性を観測する目的でレーザ光を用いたガラス試料内 の音波の波形,伝搬速度および位相などの伝搬特性を観測でき ることを明らかにした[6],[7]。 この方法は固体試料中の音波によって位相変調されたレーザ 光をプローブ波として用いるもので,光弾性法などのイメージ ング法よりも微小な区間の特性を観測することができるという 特長があり,上述の微小な領域の観測が可能と考えられる。 本論文は欠陥や加工等によって生ずる試料中の残留応力の超 音波への影響をレーザ光(ビームスポット径20μm)を用いて 光学的に検出する方法を提案することを目的としたものであ り,超音波変換器のサイズの問題がなく,レーザ光のビームス ポットサイズ程度の高い空間分解が得られる特長がある。以下 では,アクリル試料中に存在する残留応力の分布とその領域を 通過した超音波から生じる高調波成分の検出を例としてとりあ げ,CAN[8]-[12]などの非線形振動以外でも高調波が発生するこ とを示し,新しい非破壊評価法としての本法の適用の可能性を
研 究 論 文
レーザ光を用いた超音波伝搬のプロービングによる
固体試料中の残留応力の一評価法
今 野 和 彦
*,赤 塚 雅 史
*An Method for Evaluating Residual Stress in the Solid Material by Observing Ultrasonic Wave Propagation with Laser Probing Method
Kazuhiko IMANO * and Masafumi AKATSUKA *
Laser light probing method is introduced in the ultrasonic measurement system to detect and identify the position of residual stress. Acryl sample having 1.5mm slit and compression or tension stress is used to demonstrate the usefulness of the method. The laser light via the APD sensor and vector signal analyzer(VSA)analyzed fundamental and second harmonic component including in the ultrasonic wave detected by the APD. Second harmonic component increases around the residual stress and rapid variation area of stress is revealed. Possibility of novel evaluation of the residual stress by the laser light probing method is also demonstrated.
Keywords : laser light probing method, residual stress, ultrasonic wave, second harmonic wave
平成29年12月11日受付 ; 平成30年 4 月 3 日受理 *秋田大学大学院工学資源学研究科
〒010 8502 秋田市手形学園町1−1
† Graduate School of Engineering and Resource Science, Akita University 1-1 Tagata Gakuen-machi, Akita 010-8502, Japan
明らかにする。 2. レーザ光による音波の観測システム Figure 1 にレーザ光を用いて超音波伝搬に及ぼす残留応力 の影響を観測するシステム[6],[7]を示す。発振器からバースト 正弦波信号15波を繰り返し周期10ms で発振させ,これをバイ ポーラ増幅器(NF HSA4101)に入力して100V 程度まで増幅 する,バースト正弦波の周波数は超音波変換器の共振周波数 5 MHz に設定し印加している。試料中に送波された音波は,試 料の切り欠き(スリット)付近を伝搬するが,この時にビーム 幅20μm のレーザ光(He-Ne)を観測対象部分に照射して試料 を透過したレーザ光を APD(Avalanche Photodiode: APD) で 受波する。このレーザ光は試料中の超音波で位相変調されると ともに試料中の残留応力よって複屈折を生じる。すなわち試料 を透過したレーザ光は音波と試料中の残留応力の両方の情報を 含んでおり,この両者による屈性率変化によって位相変調され て APD で受光されることになる[6],[7],[13],[14]この方法は崔らが 行った光偏向法[15][16]と同じ構成であるが,10−3 rad.オーダ の偏向角を測定する必要がなく光の強度変化が偏向光のスペク トルに対応する[7],[13],[14]ため測定が容易で,APD 出力をフー リエ変換すれば各スペクトルの大きさに分解して観測できると いう利点がある。 Figure 2 は実験に用いたアクリル試料(100mm ×100mm × 20mm)および加工部分の寸法図(a)および同試料の鋭敏色 法による観測結果が同図(b)である。加工は厚さ0.8mm の歯 幅の回転のこぎりでアクリル試料の左側面から40mm までス リット加工をしており,加工されたスリットのギャップは約 1.5mm である。前述のように図中試料の上方に長さ30mm,幅 7 mm,厚さ0.2mm の矩形圧電振動子(Fuji Ceramics:C-9)が 取り付けられている。図(b)はスリット先端部分の拡大図で 赤色は音波の伝搬方向の圧縮応力(−),ブルーは引っ張り(+) 応力に対応している。これは事前にアクリルに圧縮と引張力を 加えて鋭敏色と応力符号の関係を確かめている。鋭敏色法は複 屈折光において 2 つの直交する偏光の位相差が570nm 程度と なる一波長板を被検体と検光子の間に追加すると,被検体にお いて発生する複屈折の位相差の変化により干渉色が変化する 原理を利用し,この色の変化により応力を観測する方法であ る[17][18]。本法において鋭敏色法を導入すれば,複屈折による 位相差の変化が色の変化として現れ,また光の進み位相と遅れ 位相で色の変化が異なるので超音波の音圧の極性判別が可能で ある。なおスリット先端部分には加工の際に発生したと思われ る熱的な塑性変形がみられる(図中 黄色の部分)。実験では 超音波振動子をバースト正弦波電圧で駆動し,スリット近傍に レーザ光を透過させて APD によってその出力波形を観測する。 なお,Figure 2(b)の右にある A∼E は後述の Figure 5 の A∼ E に対応させてある。Figure 3 は本システムにおける試料中の 音圧と APD 出力との関係を測定したものである。振動子駆動 電圧を変えると試料中に超音波が放射され,媒質の微小領域が 振動する速度である粒子速度 u[m/s]が変化し,これをレー ザドップラ振動計で測定した。音圧 p[N/m2= Pa]はこの粒 子速度 u と試料の音響特性インピーダンスρc(ρ:密度[kg/ m3],c : 音波伝搬速度[m/s])との積で求められることから 横軸に音圧,縦軸に APD 出力を示している。測定システムに おいて入力の光の強度と APD センサの電圧出力は電流−電圧 Figure 1 Experimental arrangement for observing the
residual stress using Laser probing system.
Figure 2 (a)geometry of sample(acryl),(b)sensitive tint image near the slit(white bold arrow indicate the Ultrasonic wave propagation. White lines are indicate the observing points in Figure 5).
変換および対数変換によってほぼ直線関係になっており,音圧 と直線関係にあることが確かめられている[7]。文献[7]では 音波の伝搬媒質が水の場合の例を示しているが,本論文のよう に固体のアクリル試料においても同様の直線関係があることが わかり,固体中での音圧値の推定やマッピングに使用できる。 APD で得られた音圧に比例した出力電圧はベクトルシグナル アナライザに入力され,直交位相検波が行われデータが複素化 された後,このデータを用いて複素フーリエ変換される。デー タが複素化されているため周波数スペクトルの振幅と位相情 報も同時に取得できる。本システムではレーザ光の各位置で の超音波波形の周波数スペクトルが得られ,このうち基本波 (5MHz)と 2 次高調波(10MHz)に着目する。以下では上述 の方法によって得られたスペ クトルと残留応力の関係につい て述べる。 3. 実験結果 実験は Figure 2(b)のようなスリット右端から右に 2 mm 程度離れた部分にレーザ光を透過させ,超音波が伝搬している 状態で図の上下方向に 1μm 毎に 4 mm ずつ(図中白抜き矢印 上の各点:8000点)計 8 mm にわたって APD 出力から超音波 の時間波形データの取得を行った。 図からわかるようにスリットの先端よりも上部(Figure 2 (b):赤色部分)ではが圧縮応力(−)に対応し,残留応力 の極性が−から+に切り替わるスリット先端部の右側付近 (Figure 2(b):藍色)を境にスリット先端下部(Figure 2(b): ブルー)の引張応力(+)が分布していることがわかる。また, スリット先端部では一部塑性変形部(Plastic part)がみられ 黄色に観測されている。 Figure 4(a)および(b)は,それぞれ残留応力のない点(鋭 敏色図では藍色:A 点),2 次高調波が発生している点(Figure 2 および Figure 5 中の 5 点)での APD 受波波形の例である。 上述のように実験ではこのような波形を8000ヶ所で取得し,基 本波と 2 次高調波のデータを得ている。Figure 4(c)および (d)は同図(a)および(b)に対応する超音波波形の周波数 スペクトルである。いずれの図も送波の基本波である 5MHz の時間波形の振幅の最大値で規格化してある。Figure 4(a),(b) の時間波形からは試料内部の残留応力による波形の特徴は観ら れないが,Figure 4の周波数スペクトルでは同図(d)のよう に 2 次高調波が観測され,同図(c)の残留応力のない部分と は明らかに異なることがわかる。一方,鋭敏色図において,上 記の 2 点間の色相の変化は判別できない。一般に鋭敏色法は試 料全体の応力分布の観測には有効であるが,目視による色相の 判別で応力極性の判別を行うことが多く,セナルモン法とは異 なり定量性には欠ける面がある[18]。この問題に対しても上述 の方法によれば 2 次高調波の有無あるいは大小関係から残留応 力の変化をより感度よく測定できるという特長があることもわ かる。以下ではこの 2 次高調波に着目して残留応力との関係に ついて述べる。 Figure 5 は Figure 2 の観測位置付近(白矢印に)対応した 鋭敏色像(図中上のカラーバー)を切り取り観測位置に対応さ せて表示し,観測位置に対する残留応力および 2 次高調波の関 係を示したものである。右側の縦軸には残留応力をとっている。 Figure 3 Characteristic of APD output versus sound
pressure p.
Figure 5 Relationship between observing points and second harmonic components.
Figure 4 Output waveform from APD(a)and(b),(c) and(d)are their spectrum. Figure 4(a)and(b) correspond to the position A and B in Figure 5, respectively.
これはセナルモン法[18]によってレーザ光を用いて各測定位置 におけるリタデーション R を測定し,R =σβt の関係から光弾 性係数β(アクリル:β=6×10−12 Pa−1)および試料の厚さ t(= 5×10−3 m)を用いて残留応力σをσ= R/βt として求めたもの である。Figure 5 で 2 次高調波は APD 波形の出力振幅値に対 応した基本波周波数スペクトル(5MHz)の振幅値で規格化し て示している(縦軸:左)。 Figure 5 中の赤色の破線は残留応力を示している(縦軸: 右)。この図から明らかなように,上部(Figure 5 中の A 点に 対応)では残留応力や欠陥が見当たらず 2 次高調波はノイズレ ベルと同程度かそれ以下(50dB∼−60dB)で明確に特定でき ず図中にも示していない。これに対して,中央部(Figure 5 の B 点)および下部(Figure 5 中 C,D および E)のように残留 応力の存在する部分で Figure 4(d)のように 2 次高調波が観 測される。特にスリットのすぐ右側(Figure 5 C 点)では 2 次 高調波が20dB 程度減少している。この点は残留応力の変化量 の符号(−から+)が切りかわる部分であり残留応力も急激に 減少する点に対応している。すなわち,圧縮と引張応力が相殺 し,残留応力が小さくなっている点にほぼ対応していると考え られる。また,この点から右側の D 点付近では 2 次高調波のレ ベルが−60dB 付近から−30dB まで急激に 2 次高調波が増加し ており,残留応力の変化量が+側に大きい部分に対応している。 図上部の鋭敏色図からこの付近(藍色)では残留応力が相殺さ れて応力が小さい状態から引張領域に移行する領域で,残留応 力の変化の大きな点とも対応していることがわかる。 以上の結果から,本実験方法のような方法で局所的な残留応 力の有無を音波長(5MHz でλ=1.1mm)よりも十分小さな寸 法を有するレーザ光のような“点”(20μm)の観測で 2 次高 調波発生量から残留応力やその符号や大きさの変化の検出に有 効であることが示唆される。なお,観測部位にはき裂などの構 造的な欠陥は存在しない。 2 次高調波の極小および極大となる点が残留応力の変化量の 負および正となる点に一致する理由については今のところ不明 である。応力−ひずみ特性が線形の材料と非線形の材料を接合 させて,線形材料側から音波を伝搬させるシミュレーションに よれば,接合部で応力の変化量が大きく変化し,2 次高調波が 発生することから,これらが一つの原因と考えることができる。 これらを測定あるいは観測できる他の確立された方法がないた め比較検証ができていない。今後,シミュレーションや文献19 のような音速変化による方法の結果と併せて検討したい。 ま た, 本 実 験 に お け る 超 音 波 の 音 圧 は Figure 4 お よ び Figure 3 の関係から数十 kPa 程度のレベルであり,大振幅で 発生することが多い CAN[10]-[13]による高調波成分の発生とは 明らかに異なるものと考えられる。換言すれば,構造的な欠陥 や音波の伝搬に伴う弾性的な非線形による波形ひずみに伴う非 線形成分以外に残留応力の存在が高調波成分の発生源となるこ とが示唆される。 4. おわりに レーザ光をプローブ光として残留応力が存在するアクリル試 料の音波伝搬の観測から試料中の残留応力の変化量に対応して 2 次高調波の大きさについての測定結果を示した。本実験で用 いたアクリル試料のモデルでは残留応力の値が MPa のオーダ であり,これに対して試料中を伝搬する音波の音圧は数十 kPa 前後であり,レーザ光と共に音波そのものもプローブ波と考え ることができ音波の伝搬によって生ずる媒質の非線形ならびに 残留応力分布に与える影響は小さいと推測される。 通常の超音波検査では音源が有限な幅を持っているため試料 中を伝搬する音波も幅を持つことになる。このため音波の幅よ りも小さな欠陥の情報が平均化されることが考えられる。また, 音波の送受波を試料の端面間で行うため,本実験のような構成 の場合,音波の伝搬路長100mm に対して残留応力が集中して いる領域は高々数 mm 程度であり,音波の幅と伝搬路長の情報 に残留応力の情報が埋もれてしまい残留応力の存在の明確な観 測ができなくなる可能性があるという 2 つの問題がある。本 論文で述べた方法はこの懸念がなく,20μm φのレーザ光のス ポット径の領域の情報を用いるため上記の問題がないという特 長がある。本システムで得られる情報は,残留応力の変化に伴 う 2 次高調波発生を観測するシステムに関するものであるが, 残留応力の集中を高調波観測で発見できると考えられ,非破壊 評価の一つの方法になり得ると考えられる。 本方法は光学的に透明な試料に摘用可能ではあるが不透明物 質には向かないという欠点がある。しかしながらガラスをはじ めとして高分子材料などの固体物質は表面から 破壊が起こる ことが多い[20]。そのような場合,本法のレーザ光の試料表面 での反射光の偏波面の回転の観測などによって,小さな領域の 非破壊検査への応用が可能と考えられ, 今後実験を行う予定で ある。 をすすめる予定である。 謝辞 本研究は JSPS 科研費(JP16K06376)の助成を受けたもので す。 参考文献 [1] 川嶋紘一郎:ものづくりのための超音波非破壊材料評価・ 検査,養賢堂,2009年. [2] 小林英夫,大岡紀一,牧原善次編,超音波による欠陥寸 法測定 ―非破壊検査の新しい展開,共立出版,2009. [3] 作花済夫,ガラス科学の基礎と応用,内田老鶴圃第 2 版, pp.135-246(2000).
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