胃瘻造設後3年以上経過した重度認知症高齢者の家族がたどる心理的変遷
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(2) ======================================== 【要旨】 本研究の目的は、認知症高齢者の代理意思決定に関わった家族が、胃瘻造設後 3 年以上 が経過する中で、どのような心理的変遷を辿るかを明らかにすることである。方法として、 研究参加者 5 名に対し半構造化面接を実施し、SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用 いて分析を行った。結果、抽出された 42 概念から 14 サブカテゴリーが得られ、最終的に 3 つのカテゴリーにまとめられた。家族は、時間の経過とともに≪病状悪化で繰り返す一喜 一憂≫を繰り返し≪患者の衰弱を実感≫、ついには<反応を感じられない虚しさ>を介し た≪家族・医療者の無関心への憂い≫が現れる。≪延命の役割を認識して至る納得感≫を 得つつも老化には抗えない現状を踏まえ、≪死の受容≫を見据えていく。だたし、≪死の 受容≫を示しつつも≪生きてほしい願い≫は併存しており、 【苦悩】を引き起こす出来事や 思考から【納得感】を得る過程を繰り返しながら、 【安寧】の状態に近づくのである。胃瘻 造設後の患者やその家族に関わる医療者は、 【苦悩】と【納得感】の間の揺らぎを認識しな がら現状を評価することで、その人なりの【安寧】に近づくための援助ができる可能性が 示唆された。 ======================================== Ⅰ.はじめに エビデンスを元に医療的介入による害を減らし、本当に必要な選択を医療者と患者がで きることをコンセプトにしている Choosing Wisely international では、重度認知症患者 に対して胃瘻を含む経皮的栄養チューブの留置を勧めていない. 1). 。しかし、オーストラリア、. インド、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカの消化器科と総合診療科の医師 50 人を対 象にした調査では、胃瘻への肯定的な意見もあり、実際の医療現場における意見との乖離 が示されている 2)。本邦での調査では、高齢や認知症により嚥下障害をきたした高齢者に対 し、家族が希望しても経口摂取は禁止し、人工的な水分・栄養補給をすべきとする医師が 18%程度いることも報告されている 3)。 厚生労働省による 2018 年の社会医療診療行為別統計 4)によれば 4725 件の胃瘻造設術が新 たに施行されており、2008 年から 2011 年の間に 7000 件前後を推移していた頃に比べると 減少したが、ここ数年は 4000 件台を推移している。胃瘻を含めた人工的水分・栄養補給の 導入に関しては、2012 年に「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」が日 本老年医学会から提言された。本人の意思確認ができる場合はもちろんのこと、本人の意 思確認ができない場合にも家族と共に、本人の意思と最善について検討し、家族の事情も 考え併せながら、合意を目指すことが医療者に求められた 5)。 認知症高齢者の胃瘻造設における意思決定は、自己による選択が困難な場合が多く、家 族が代理で意思決定することが多い 6)。複数の研究. 3),7-9). で、胃瘻造設の代理意思決定を行. った家族が、その決定が結果的に良かったのかを思い悩む体験を報告している。Rickman は.
(3) 胃瘻造設を受けた本人においても不快となる心理があることを報告している. 10). 。Verelst. ら. 11). によると、認知症高齢者の胃瘻造設に関する家族の満足度について、説明する側の十. 分な情報提供と胃瘻造設決定までの慎重な検討過程が代理で意思決定する者の満足に繋が ることを指摘している。代理意思決定を行う家族は十分な情報を求めており. 12). 、胃瘻造設. の決断に関わろうとする医療者は、胃瘻造設後に生じる家族の思い悩む体験も含め情報提 供し、意思決定を援助する必要がある 7),10)。 胃瘻造設の決定に関わる先行研究として、胃瘻造設後の死亡率や合併症罹患率を示すも 13),14),15). の. 、本人による事前指示書の重要性. 13). 、胃瘻造設時点での代理意思決定プロセス. を示すもの 12),13),16)は報告されているが、本邦において胃瘻造設を決断した家族の胃瘻に対 する考えが一定の期間を経て変化するのか、またその変化はどのような因子に影響を受け るのかを示したものは少ない 7)。 本研究は、胃瘻造設後 3 年以上経過し、長期療養病床、自宅療養、自宅療養からの施設 入居と複数の環境で過ごす認知症高齢者の家族が、具体的にどのような心理的変遷を経験 するのかを明らかにすることを目的とする。 Ⅱ.方法 1.用語の定義 「重度認知症高齢者」:本研究では、研究対象者の意思疎通の困難さを明確にするため、 胃 瘻 造 設 時 に ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 病 期 で 用 い ら れ る Functional Assessment Staging17)の 7 の高齢者とした。 2.研究デザイン 本研究は、胃瘻造設後の患者の家族が抱く快・不快を対象者の背景やの思考に沿い詳細 に探究しようとするものであり、質的記述的研究デザインとした。 3.研究対象者、研究参加者 研究開始当初、研究者の勤務するA病院の長期療養病床に入院している重度認知症高齢 者を研究対象者とし、その家族を研究参加者とした。理由として、胃瘻後長期が経過して いる患者が多く、また ADL も全介助状態であること、環境条件も比較的統一していること などが挙げられた。研究の進行過程の中で、対立概念を含めより多くの環境条件でのデー タが必要と判断し、在宅療養を継続している認知症高齢者の家族、在宅療養から施設入所 に移行した認知症高齢者の家族を研究対象に加えた。 以上の過程を踏まえ、研究対象者の選考は以下の基準に従うこととした。.
(4) ア)選考基準 ・研究対象者は、重度認知症であり、かつ胃瘻造設後、現在も胃瘻が栄養補給の主な手段 であること ・研究対象者は、胃瘻造設後 3 年以上経過していること ・研究参加者は、胃瘻造設の代理意思決定に関わった家族であること ・研究参加者は、本研究の主旨を理解し同意していること イ)除外基準 ・研究参加者が、本研究への同意しない場合 ・研究参加者が、うつ病や認知症など精神疾患を抱えている場合 4.調査期間 2018 年 11 月 1 日 ~ 2019 年 5 月 13 日 5.データ収集方法 研究参加者には面接前に研究対象者情報と研究参加者自身の情報を記入してもらい、面 接では下記のインタビューガイドにそって半構造化面接を実施した。面接中の音声は IC レ コーダーを用いて録音した。音声データは逐語録に変換し、テキストデータとした。 「インタビューガイド」 1) 胃瘻を作った当時の状況を教えてください。 2) その時、あなたはどのように感じましたか? 3) 胃瘻を造ったことについて今どのように思っているか教えて下さい。 4) それは、胃瘻を造った当時と変化がありますか。 5) その変化には、何か理由がありますか。 6) 胃瘻を造ってから、現在までのご本人の変化(呼びかけへの反応の有無、介護の程度 など)を教えてください。 7) それは、あなたの心境にどのような影響を与えましたか。 8) 胃瘻を造ってから、現在までのあなた自身の変化(身体の変化、環境変化、介護の状 況、経済変化など)を教えてください。 9) それは、あなたの心境にどのような影響を与えましたか。 10) 胃瘻を造ってから、現在まで特に印象に残っている出来事があれば教えてください。 11) それは、あなたの心境にどのような影響を与えましたか。 12) 胃瘻を造る際から現在まで、ご家族には、どのような支援が必要だと感じますか。 13) 振り返って、胃瘻を造ると決める前に、どのような情報の提供があると良かったと思 いますか。.
(5) 6.倫理的配慮 本研究は、研究者の勤務する病院の倫理委員会によって審議され承認を得た。研究参加 は自由意志であること、不参加が不利益とならないこと、個人情報を保護すること、研究 結果を公表することを研究参加者に十分説明し、文書で同意を得た。また、面接調査であ るため、研究者の問いかけにより研究参加者が自責の念に駆られる可能性がないよう配慮 して面接を行った。 テキスト化したデータは CD-R または USB に保存し共同研究者に共有した。 遠隔でのテキストデータの共同分析では、テキストを事前に CD-R で共有しておき、テキ ストを削除した SCAT のマトリックス表を Google のスプレッドシートで共有し、書き込ん だ内容が迅速に反映されることでコード化を円滑に進めた。 7.分析方法 データの分析には、SCAT(Steps for Coding and Theorization)18) を用いた。分析は以下の 手順で行った。以下の過程は全て、共同研究者の 4 名で齟齬がないか確認し行った。 1) 逐語録をテキストデータとし、マトリックスの中にセグメント化した。 2) セグメント化したデータの中の着目すべき語句を抽出した。 3) 抽出した語句を言いかえるためのデータ外の語句を記述した。 4) 記述したデータ外の語句を含め、それを説明するための語句を記述した。 5) 上記全てを踏まえ、浮かび上がるテーマや構成概念を記述した。 6) 1 名の研究参加者のデータから抽出されたテーマや構成概念を紡いでストーリーライン を作成した。 7) 全対象者のストーリーラインを作成後、共通するテーマや概念をまとめるサブカテゴリ ーを生成した。 8) 生成したサブカテゴリーをカテゴリー間の関連性として、内容の類似性・相補性、時間 軸、対立概念の有無などを検討しながら結果図を作成した。 Ⅲ.結果 1.対象者と面接対象者の概要 対象者は、男性 2 人、女性 3 人、計 5 人で研究対象者平均年齢 92.4 歳、胃瘻造設後の期 間は平均 3 年 11 ヵ月(3 年 0 か月~5 年 1 か月)であった。面接対象者は、男性 3 人、女 性 2 人、計 5 人で研究参加者の平均年齢 59 歳であった。研究参加者の続柄は、長男 1 人、 次男 1 人、三男 1 人、長女 1 人、長男嫁 1 人であった。インタビュー平均時間 37 分であっ た。概要を表 1 に示す。.
(6) 表 1 研究参加者と研究対象者の概要 研究参加者の属性. 年齢. 前. (歳). 面接 続柄. 時間. 職種. (分). 年齢 (歳). 性別. 64. 次男. 11. 一般職. 97. 女性. B. 59. 三男. 25. 一般職. 94. 男性. C. 46. 長女. 29. 医療職. 84. 男性. D. 65. 99. 女性. E. 61. 88. 女性. 嫁 長男. 82. 36. 住 形 態. A. 長男. 胃瘻造設 居 FAST. 名. 研究対象者の属性. 元医療 職 医療職. 病 院 病 院 病 院 在 宅 特. から. 栄養. 面接まで. 摂取. の. 方法. 期間 7(f). 3 年 0 ヶ月. 7(f). 4 年 5 ヶ月. 7(f). 3 年 4 ヶ月. 7(d). 3 年 7 ヶ月. 7(f). 5 年 1 ヶ月. 養 平 均. 59. 37. 主疾患. 92.4. 胃瘻. アルツハイマー型. のみ. 認知症. 胃瘻. アルツハイマー型. のみ. 認知症. 胃瘻 のみ 胃瘻 のみ. 血管性認知症. 血管性認知症 胃瘻. レビー小体型認知. のみ. 症. 3 年 11 ヶ月. 2.分析結果 本研究では、胃瘻造設後の重度認知症高齢者の家族における心理的変遷について、42 の 概念から 14 サブカテゴリーを抽出し、最終的に 3 つのカテゴリーにまとめられた。以下に ケース B のストーリーラインを示し、結果図(図 1)に沿ってサブカテゴリーごとに内容を 説明する。なお、本文中では【. 】はカテゴリー、≪. ≫はサブカテゴリー、<. >は概. 念とし、表 2 に一覧として示す。 1) ケース B のストーリーライン 胃瘻造設時には≪延命に否定的立場の認識≫はあるものの<命を縮める決断への罪悪感 >や<飢餓による死への切迫感>を抱き、≪安定した栄養補給への期待≫から胃瘻造設を 決めた。胃瘻造設後には、≪自宅介護の理想に至らない苦悩≫や≪本人の幸せへの疑問≫ の【苦悩】を認めたが、それぞれ≪施設で適切なケアを受ける安心感≫、≪本人意思を推 定できずに至る延命への消極的納得≫、≪病状を安定化する医療への期待≫により再度納 得し≪生きてほしい願い≫が維持される【安寧】の状態に至る。時間の経過とともに≪病 状悪化で繰り返す一喜一憂≫を繰り返し≪患者の衰弱を実感≫することで再度【苦悩】が.
(7) 現れるが、≪病状を安定化する医療への期待≫や≪胃瘻が良いと思える本人の反応≫から 現状維持に【納得感】を持つに至る。さらなる時間経過によって、本人の身体機能、精神 機能が低下してくるに従って<反応を感じられない虚しさ>を介した≪家族・医療者の無 関心への憂い≫が現れる。≪延命の役割を認識した納得感≫を得つつも老化には抗えない 現状を踏まえ、≪死の受容≫を示す気持ちが現れてくる。だたし、≪死の受容≫を示しつ つも≪生きてほしい願い≫は併存し、【苦悩】と【納得感】を行き来する状態は持続するた め、完全に【安寧】の状態を維持することはない。 表 2 カテゴリー、サブカテゴリー、概念とその定義 カテ ゴリ. 定義. サブカテゴリー. 定義. 概念. 定義. ー 経口摂取の代用とし. 口から食事を摂る代わりとしての胃瘻に納. ての胃瘻に納得. 得するようす. 安定した. 栄養状態が良好. 体重増加から栄養状. 栄養補給. に維持できる胃瘻. 態の良さを感じた安心. への期待. に期待するようす. 感. 体重増加から栄養状態が良好と感じ安心 するようす 急な命の危機を回避. 急な拒食により進む栄養障害を受け入れら. する胃瘻造設. れず、胃瘻に期待するようす. 施設での献身的. 施設スタッフの献身的. 施設スタッフの献身的ケアに感謝するよう. 施設で適切. で適切なケアが. ケアへの感謝. す. 胃瘻造設し. なケアを受. 病状安定をもたら. 適切なケアでの病状. 納. 延命している. ける安心感. し安心感を与える. 安定がもたらす安心. 得. 現状に対し. 感. 納得している. 栄養管理や清潔保持などの適切なケアで 発熱がなく安心したようす ようす. 感 本人の幸せへの疑問. 本人の意思は推定困難であり、本人の幸せ. の消失. への疑問に終止符をうつようす. 本人意思を. 本人意思が推定. 推定できず. できず、胃瘻への. に至る消極. 疑問が消失する. 家族による決断の妥. 的納得. ことで起こる納得. 当性. ようす. 本人の意思が推定困難であったため、胃瘻 造設は家族で決めるしかなかったと結論を 出すようす 医療行為による延命. 病状悪化時の医療的介入に期待するよう. 効果への期待. す. 病状安定による安心. 医療者の管理で病状が安定し安心するよう. 感. す. 安定した現状の維持. 病状が安定している現状の継続を望むよう. を望む. す. 胃瘻を含めた医 病状を安定. 療的介入に対し. 化する医療. て、延命につなが. への期待. ることを期待する ようす.
(8) 胃瘻が良い. 本人の反応から. と思える. 家族が胃瘻を問. 本人の. 題ないと判断する. 胃瘻チューブに違和感. 本人が胃瘻チューブを抜こうとしないようすが. のない様子の本人. 違和感を感じていないと解釈するようす. 意思を伝えようとする. 明確でないが意思を伝えようとする本人に. 本人の元気さ. 元気さを感じているようす. 本人の表情から感じ 面会時にみせる表情から意思疎通できたと る意思疎通できた嬉し 反応. ようす. 嬉しさを感じるようす さ 可能になった経口摂. 胃瘻造設後に経口摂取できた姿に喜ぶよう. 取再開に感じた喜び. す. 終末期受容に必要な. 胃瘻造設後の時間が終末期を受け入れて. 準備期間の認識. いく過程に必要だった時間だと捉えるようす. 延命の. 胃瘻による延命. 意味を. が持つ意味を認. 胃瘻決断過程の再認. 胃瘻造設した当時を振り返り、意味を再確. 認識した. 識し納得するよう. 識による納得. 認し後悔が軽減するようす. 納得感. す 本人が家族に果たし. 育てた孫が成人したことを患者の人生の節. た役割の再認識. 目と捉えるようす. ピンピンコロリが理想. 死の間近まで元気な状態を理想とする考え. 胃瘻に関して否定. 的とする思想の認識. を認識しているようす. 的立場の意見を. 終わりの見えない延. 意識するようす. 命に懐疑的な立場の. 延命に 否定的 立場の. 元々、エンドレスな延命に懐疑的な立場を. 認識. 認識しているようす 認識 命を縮める決断への. 胃瘻により延ばせる命を縮めること(縮命). 罪悪感. は罪であるという観念. 飢餓による死への切. 胃瘻造設し. 本人の拒食で直面化した死に焦るようす 迫感. 延命すること 苦 が良いこと 悩. 自宅介護の理想に至. 自宅介護を良しとする理想を実行できず、. らない不甲斐なさ. 不甲斐なく思うようす. 施設入所による社会. 社会的には費用のかかる施設入所は好ま. への負担と現実との. しくないが、現実には施設に頼らざるを得な. 苦悩. いと悩むようす. 自宅療養の理想 なのか思い. 自宅介護 と施設入所の現. 悩むようす. の理想に至 実との差に悩むよ らない苦悩 うす. 本人の苛立つ反応か 本人の不穏状態をみて経管栄養を続けるこ. 胃瘻が本人の幸 ら感じる胃瘻への疑. 本人の幸. とに疑問を感じているようす. せにつながってい 問. せへの疑 るか疑問に感じる 問. 楽しみがないと感じる. 同じ生活動作が繰り返される毎日から経管. 単調な毎日への疑問. 栄養を続けることに疑問を感じているようす. ようす.
(9) 胃瘻や施設入所は家族のみで決断したた 決断の妥当性に対す め、本人の希望にそっているか不安を感じ る不安 たようす 不可能な経口摂取へ. 期待していた経口摂取ができなくなることに. の落胆. 対して落胆するようす. 病状悪化で落胆. 本人の病状悪化に落ち込むようす. 復し安心すること. 繰り返す病状悪化に. 命に係わる危機を何度も乗り越えるたびに. を繰り返すようす. 一喜一憂. 一喜一憂するようす. 本人の状態をみて感. 閉眼したままの状態や酸素投与が繰り返さ. 病状や反応の低. じる衰弱. れることで患者の衰弱を感じているようす. 本人の衰. 下から、本人の衰. 予想どおりの衰弱過. 予想通りの身体機能の低下に納得するよう. 弱を実感. 弱を自覚していく. 程. す. 低下した本人の反応. 本人の反応が徐々に低下する様をみて、人. への寂しさ. 生の最終段階を実感していくようす. 病状の悪化をみ 病状悪化で て落胆するが、回 繰り返す一 喜一憂. ようす. 医療者が栄養剤を棚に置くようすから本人 雑に扱われた感覚と が雑に扱われていると感じ、みじめな気持. 本人に対して医療 みじめな気持ち 無関心へ. 者や家族が無関. の憂い. 心に至ることへの. ちになったようす 食事介助できず関わる機会が減ったことで 関心の低下がもたら. 憂い. 反応を感じる機会も減り、本人への関心が す憂い 薄れていることを憂うようす 食事介助していたときは感じられた患者の 本人の反応を感じら 反応が、何をしても感じられなくなったことに れない虚しさ 対して虚しさを覚えるようす. 生きてほし. 本人の存在の維. 説得を伴う延命への. 本人を説得してでも長生きしてほしいと願う. い家族の. 持に価値を感じる. 期待. ようす. 願い. ようす. 存在自体への有難さ. 本人の存在自体に嬉しさを感じるようす. 期限が近づいた生命. 生命の期限が近づいた現状を受け入れる. 抗えない本人の. の受容. ようす. 衰弱に死を受け. 終末期の受容に必要. 本人の反応の低下を感じる時間を終末期. 入れようとするよ. な時間の認識. の受容に必要な時間だと認識ようす. 現状に納得し 安 心穏やかな 寧 ようす 死の受容 うす. これまでの経験からいつ重症化するか分か 来る死への受容 らないが心の準備はできているようす.
(10) 2)各カテゴリー、サブカテゴリー、概念の定義および具体例 語句の定義は“ ” 、具体例は「 」、補足は(. ) 、アルファベットは研究参加者を表す。. ①【納得感】 “胃瘻造設し延命している現状に対し納得しているようす”を示し、6 サブカテゴリー、 19 概念からなる。 ≪安定した栄養補給への期待≫は“栄養状態が良好に維持できる胃瘻に期待するようす” を示し、以下の 3 概念からなる。 <経口摂取の代用としての胃瘻に納得>では「全く適切な処置じゃないですか」(A)や「父 のことに関しては前の経験があったので、兄とも話し合って納得いく形で胃瘻にしたんで す」(C)などで“口から食事を摂る代わりとしての胃瘻に納得するようす”として示された。 <見た目の栄養状態の良さによる安心感>は「胃瘻をしたら体重が減りそうなものを増 えてるぐらいで(中略)栄養状態は何かいい感じです」(C)と“体重増加から栄養状態が良 好と感じ安心するようす”が示された。 <急な命の危機を回避する胃瘻造設>では「まあ、 (拒食による栄養障害が)あまりにも 急激だったし、なかなかそう話す間もなかったというところもあって」(E)と“急な拒食 により進む栄養障害を受け入れられず、胃瘻に期待するようす”が示された。 ≪施設で適切なケアを受ける安心感≫は“施設での献身的で適切なケアが病状安定をも たらし安心感を与えるようす”を示し、以下の 3 概念からなる。 <施設スタッフの献身的ケアへの感謝>では「献身的に皆さんがよくやってくれてるっ ていうふうにありがたく思ってるんで」(B)や「これはもうほんとに、そういう施設がお世 話してくれるおかげなんですけどね。そのおかげさまはものすごく感じますよね」(E)と “施設スタッフの献身的ケアに感謝するようす”が示された。 <適切なケアでの病状安定がもたらす安心感>では「栄養状態はよくなってるってこと だし、きれいにしてもらってるんで、尿路感染も誤嚥性肺炎もないので、この 3 年間の間 に。ちょっとした発熱はあっても、ないので」(C)と“栄養管理や清潔保持などの適切なケ アで発熱がなく安心したようす”が示された。 ≪本人意思を推定できずに至る消極的納得≫は“確認したい本人意思が推定できず、胃 瘻への疑問が消失することで起こる納得”を示し、以下の 2 概念からなる。 <本人の幸せへの疑問の消失>では「本人のことを考えて、本人に聞いて、じゃあそう しようねって作ったわけではないので(中略)たまには悩みはするんだけど、まあしょう がないよねみたいな。」(D)と“本人の意思は推定困難であり、本人の幸せへの疑問に終止 符をうつようす”が示された。 <家族による決断の妥当性>では「これ(胃瘻造設)が本意だったのかどうかというこ ともね。まあ、あまりにも急激だったし、なかなかそう話す間もなかったというところも あって(家族が決めるしかなかった)」 (E)と“本人の意思が推定困難であったため、胃瘻 造設は家族で決めるしかなかったと結論を出すようす”が示された。.
(11) ≪病状を安定化する医療への期待≫では“胃瘻を含めた医療的介入に対して、延命につ ながることを期待するようす”を示し、以下の 3 概念からなる。 <医療行為による延命効果への期待>では「 (病院にいると)1 番安心じゃないですか。」 (A)と“病状悪化時の医療的介入に期待するようす”が示された。 <病状安定による安心感>では「胃ろうで病院で見てもらってることに、安堵感とか」 (B)と“医療者の管理で病状が安定し安心するようす”が示された。 <安定した現状の維持を望む>では「これ(胃瘻をやめること)が病気を繰り返して入 院退院を繰り返すとか、そういう状況があれば考えるのかもしれないですけども、幸いも う非常に安定してるんですね。 (中略)経管をやめるとかっていうのは今のところあんまり 考えてないですね」(E)と“病状が安定している現状の継続を望むようす”が示された。 ≪胃瘻が良いと思える本人の反応≫は“本人の反応から家族が胃瘻を問題ないと判断す るようす”を示し、以下の 4 概念からなる。 <胃瘻チューブに違和感のない様子の本人>では「違和感がなくって。父は胃瘻を取ろうと かもしないんで。姑はしょっちゅう外すんですよ。なので、ああ、あーあって感じもあり ますけど」(C)と“本人が胃瘻チューブを抜こうとしないようすが違和感を感じていないと解 釈するようす”が示された。 <意思を伝えようとする本人の元気さ>では「おいでみたいなとか。だからきれいにし ゃべりはしないけど、自分の意思を何か伝えてるような感じ。ちょっと私たちのほうが聞 き取れないので、何言ってるか分からんっていうのもありはしたんだけども。そういった 元気さはあったので」(D)と“明確でないが意思を伝えようとする本人に元気さを感じてい るようす”が示された。 <本人の表情から感じる意思疎通できた嬉しさ>では「コミュニケーション取れません けども、表情は少しつくってくれたりするときもありますので。だから、通じた感じがし て。まあそれを楽しみに顔見に行くような形で」(E)と“面会時にみせる表情から意思疎通 できたと嬉しさを感じるようす”が示された。 <可能になった経口摂取再開に感じた喜び>では「メリットのほうを最初は良かったな と思って。1 年ぐらいはお楽しみで、もう甘いものは食べれましたからね」(E)と“胃瘻造 設後に経口摂取できた姿に喜ぶようす”が示された。 ≪延命の役割を認識した納得感≫は“胃瘻による延命が持つ意味を認識し納得するよう す”を示し、以下の 3 概念からなる。 <終末期受容に必要な準備期間の認識>では「本人の終活に向けての家族の心の準備期 間なのかなっていうふうにも思ったりしますね」(B)と“胃瘻造設後の時間が終末期を受け 入れていく過程に必要だった時間だと捉えるようす”が示された。 <胃瘻決断過程の再認識による納得>では「私も悩んでたけど、ああ、そういえば、あ のとき、あの顔が苦しそうだったから、これ決めたんだと思ったら、自分の中の理由を思 い出して、ああ、理由あったなって、整理がつくじゃないですか」(C)と“胃瘻造設した当.
(12) 時を振り返り、意味を再確認し後悔が軽減するようす”が示された。 <本人が家族に果たした役割の再認識>では「非常に孫をかわいがっていた母だったも んですから。孫が成長、成人したっていうのを見届ければ、一つの区切りかなとは思って ますけども」(E)と“育てた孫が成人したことを患者の人生の節目と捉えるようす”が示さ れた。 ②【苦悩】 “胃瘻造設し延命することが良いことなのか思い悩むようす”とし、6 サブカテゴリーと 18 概念からなる。 ≪延命に否定的立場の認識≫は“胃瘻に関して否定的立場の意見を意識するようす”を 示し、以下の 2 概念からなる。 <ピンピンコロリが理想的とする思想の認識>では「(祖母は)103 歳までずっと動いて て、1 カ月もしないぐらい横になって、自然死っていうんですかね、になったんで。一番、 理想的な形だと思いますけど」(B)と“死の間近まで元気な状態を理想とする考えを認識し ているようす”が示された。 <終わりの見えない延命に懐疑的な立場の認識>では「今までは胃ろうに対してはちょ っとこの、延命のね、なかなかエンドレスな延命になっちゃうからということもあって、 あまりつくることに対しては慎重派だったんですけども」(E)と“元々、エンドレスな延命 に懐疑的な立場を認識しているようす”が示された。 ≪延命に否定的立場の認識≫はあるものの胃瘻造設を決断し≪安定した栄養補給への期 待≫するに至る経過に影響を与えた概念として、以下の 2 概念が示された。 <命を縮める決断への罪悪感>では「胃ろうしないと自分たちが親の命を縮めてしまう っていう観念にとらわれたような感覚はありましたね」(B)と“胃瘻により延ばせる命を縮 めること(縮命)は罪であるという観念”が示された。 <飢餓による死への切迫感>では「余りにも急激な認知の進行だった、ADL の低下だった もんですから、僕たちもやっぱり心の準備というのがほとんどできてなかったので、この まま食べれないまま続くということになると、ちょっと受け入れられないという、心情的 に」(E)と“本人の拒食で直面化した死に焦るようす”が示された。 ≪自宅介護の理想に至らない苦悩≫は“自宅療養の理想と施設入所の現実との差に悩む ようす”を示し、以下の 2 概念からなる。 <自宅介護の理想に至らない不甲斐なさ>では「本来ならば自宅で見なければいけない っていう慣習とかありますよね。どうしても。病院のほうに、もうやむを得ず見てもらう のはちょっと心苦しくて、不甲斐ないっていうか」(B)と“自宅介護を良しとする理想を実 行できず、不甲斐なく思うようす”が示された。 <施設入所による社会への負担と現実との苦悩>では「施設がないと(家族は)普通に 生活を送れないだろうなとは思いますね。でも本当は、そういう施設もないほうが、 (医療) 経済的にはいいはずなんですけど。でも、現実はそうはいかないんで」(B)と“社会的には.
(13) 費用のかかる施設入所は好ましくないが、現実には施設に頼らざるを得ないと悩むようす” が示された。 ≪本人の幸せへの疑問≫は“胃瘻が本人の幸せにつながっているか疑問に感じるようす” を示し、以下の 4 概念からなる。 <本人の苛立つ反応から感じる胃瘻への疑問>では「作ってよかったのかな。自分たち はいいことをしたって思ってるんだけども、本人にしては、作らないでそのまま逝ったほ うがよかったのかねって思う、やっぱ後悔もありますよ。何かすごいわーわーしたときに とか。(夫が)こんなして生きててもどんなかなみたいな感じで言うときには」(D)と“本 人の不穏状態をみて経管栄養を続けることに疑問を感じているようす”が示された。 <楽しみがないと感じる単調な毎日への疑問>では「やっぱほら、しゃべれたら楽しみ もあるかもしれないけど、しゃべれもしないから、結局寝て、おむつ交換して、ご飯あげ てとかって、もうこれの繰り返しだから、本人はこんな生かされててどんなかねとかって 言ったりもたまにはあるので。そういうときには、自分たちも、本人のことを考えて、本 人に聞いて、じゃあそうしようねって作ったわけではないので、だから自分たちもそうい うときにはたまには悩みはするんだけど、まあしょうがないよねみたいな」(D)と“同じ生 活動作が繰り返される毎日から経管栄養を続けることに疑問を感じているようす”が示さ れた。 <決断の妥当性に対する不安>では「何か自分たちの都合で胃ろうを入れられて、自分 たちの都合で施設に入れられてっていうことね、やってくるっていうことを考えると、ど うも、本人のね、意向はほとんどない、考えずに、僕たちだけの意向で全部やってるなっ ていう気がして」(E)と“胃瘻や施設入所は家族のみで決断したため、本人の希望にそって いるか不安を感じたようす”が示された。 <不可能な経口摂取への落胆>では「 (胃瘻しながらの経口摂取について)説明をしっか りとやったけど、自分たちが思うとおりにはならなかったっていうのが。ミキサー食くれ ていて、全部食べなかったらディスポで胃瘻に入れてたかもしれないけども、その後すぐ 敗血症になったもんで」(D)と“期待していた経口摂取ができなくなることに対して落胆す るようす”が示された。 ≪病状悪化で繰り返す一喜一憂≫は“病状の悪化をみて落胆するが、回復し安心するこ とを繰り返すようす”を示し、以下の 2 概念からなる。 <病状悪化で落胆>では「(病院に呼ばれて)来るたびにがっかりするのが怖くてよ。ま た、良くなりませんからね。」(A)と“本人の病状悪化に落ち込むようす”が示された。 <繰り返す病状悪化に一喜一憂>では「もう危ないっていうふうに何度か言われてるん ですけど、また峠越して頑張ってるっていうのは、もうそういったことに一喜一憂してる っていう感じですかね」(B)と“命に係わる危機を何度も乗り越えるたびに一喜一憂するよ うす”が示された。.
(14) ≪本人の衰弱を実感≫は“病状や反応の低下から、本人の衰弱を自覚していくようす” を示し、3 概念からなる。 <本人の状態をみて感じる衰弱>では「最近はもう、反応しない。人工呼吸器(経鼻酸 素を表すしぐさ)が半年くらい付いているから、どんどん悪くなっているんじゃないです かね」(A)と“閉眼したままの状態や酸素投与が繰り返されることで患者の衰弱を感じてい るようす”が示された。 <予想どおりの衰弱過程>では「どんどんコミュニケーションが取れなくなって、今は 意思疎通が曖昧なんですけど。状態は、言えば、普通に段階踏んで悪くなってるだけとい うことで、胃瘻のせいでどうのっていうのはないです」(C)と“予想通りの身体機能の低下 に納得するようす”が示された。 <低下した本人の反応への寂しさ>では「そのころ(施設入所時)はもうかなり反応も ないので、もう完全経管栄養と、コミュニケーションはもうゼロということで、はい。そ の状態が 2 年ぐらい今続いているわけですけども。ちょっと寂しい気もします」(E)と“本 人の反応が徐々に低下する様をみて、人生の最終段階を実感していくようす”が示された。 ≪無関心への憂い≫は“医療者や家族が本人に対して関心を低下させる状況から、無関 心に至ることへの憂い”を示し、以下の 2 概念からなる。 <雑に扱われた感覚とみじめな気持ち>では「(栄養剤を)ポーン、ポーン、ポーンと、 何か置いて。ちょっと投げるように置いていくの見たとき、何か、みじめだなっていう気 持ちになりますね」(C)と“医療者が栄養剤を棚に置くようすから本人が雑に扱われている と感じ、みじめな気持ちになったようす”が示された。 <関心の低下がもたらす憂い>では「 (胃瘻にすると)面会が減るかなっていう。気持ち の負担、食事負担。介護の負担はなくなったけど、気持ちも何か離れてく感じがして」(C) と“食事介助できず関わる機会が減ったことで反応を感じる機会も減り、本人への関心が 薄れていることに寂しさを感じているようす”が示された。 <本人の反応を感じられない虚しさ>は≪無関心への憂い≫に影響する概念で、 「兄なん かは看護師でありながらも、すごい一生懸命な人ではあるんですけど、反応がないから、 何か、行ったら、むなしくなるみたいな感じで」(C)と“食事介助していたときは感じられ た患者の反応が、何をしても感じられなくなったことに対して虚しさを覚えるようす”が 示された。 ③【安寧】 “現状に納得し心穏やかなようす”とし、2 サブカテゴリーと 5 概念からなる。 ≪生きてほしい家族の願い≫は“本人の存在の維持に価値を感じるようす”を示し、以 下の 2 概念からなる。 <説得を伴う延命への期待>では「 (もし本人が胃瘻を拒否しても)やったほうがいいっ て言ったかもしれないですね」(B)と“本人を説得してでも長生きしてほしいと願うようす” が示された。.
(15) <存在自体への有難さ>では「いてくれるだけでも何かうれしいなと」(E)と“本人の存 在自体に嬉しさを感じるようす”が示された。 ≪死の受容≫は“抗えない本人の衰弱に死を受け入れようとするようす”を示し、以下 の 2 概念からなる。 <期限が近づいた生命の受容>では「結構、年ですからね。もう、天命じゃないですか」 (A)と“生命の期限が近づいた現状を受け入れるようす”が示された。 <終末期の受容に必要な時間の認識>では「 (胃瘻造設時は)受け答えもちゃんとするし、 それが徐々にできなくなっていってることに関して、本人の終活に向けての家族の心の準 備期間なのかなっていうふうにも思ったりしますね」(B)と“本人の反応の低下を感じる時 間を終末期の受容に必要な時間だと認識ようす”が示された。 <来る死への受容>では「急変したときには年齢的に、もう 100(歳)もなってるし、体的 にきついのかなっても思いもするし。だからそうなったら、もう自然に逝かしたほうがい いのかなっていう思いはありますよ」(D)と“これまでの経験からいつ重症化するか分から ないが心の準備はできているようす”が示された。 図 1 結果図.
(16) Ⅳ.考察 1. 胃瘻造設後における家族の心理的変遷 複数の報告 3),7-10)で、胃瘻造設に対して「よかったこと」と「よくなかったこと」の両方 が共存していることが示されている。本研究開始前に我々は、これらの肯定的心理状態と 否定的心理状態の狭間にいる家族は心理的葛藤を徐々に増大させていると想定していた。 しかし実際には、 【苦悩】という否定的な心理状態が【納得感】という肯定的心理状態を併 存させることで、心理的に穏やかな状態が持続していると考えられた。この心理的に穏や かな状態を本研究では【安寧】とした。 Folkman ら 19)は、ストレスの強い出来事の中に肯定的な意味を見出すことができれば、肯 定的な感情がもたらされたり強められたりすることをモデル化している。本研究では、B 氏 が「病院のほうに、もうやむを得ず見てもらうのはちょっと心苦しくて、不甲斐ないって いうか」と苦悩する一方で、 「献身的に皆さんがよくやってくれてるっていうふうにありが たく思ってるんで」といった安心感から「(不甲斐なさは)弱まってきてはいますね」と【苦 悩】の軽減が伺えた。D 氏は「やっぱ後悔もありますよ。何かすごいわーわーしたときにと か」や「結局寝て、おむつ交換して、ご飯あげてとかって、もうこれの繰り返しだから、 本人はこんな生かされててどんなかねとかって(主人が)言ったりもたまにはあるので」 など≪本人の幸せへの疑問≫を感じつつも、 「たまには悩みはするんだけど、まあしょうが ないよね」と積極的に胃瘻を選択できず消去法により選んだ現実から≪本人意思を推定で きずに至る消極的納得≫を示した。この B 氏と D 氏のように【苦悩】となる考えに論理的 思考を加え【納得感】を得るための肯定的な意味づけを行うようすが伺えた。 時間経過に伴い、本人の繰り返す病状悪化や反応の低下に【苦悩】するが、 【納得感】を 得るための理由を探っていくようすがみられた。A 氏は「 (病院に呼ばれて)来るたびにが っかりするのが怖くてよ」と回復が困難な状況に【苦悩】を抱く一方、 「結構、年ですから ね」と【納得感】を得るための理由を挙げていた。C 氏は「介護の負担はなくなったけど、 気持ちも何か離れてく感じがして」や「(栄養剤を)投げるように置いていくの見たとき、 何か、みじめだなっていう気持ちになりますね」と≪家族・医療者の無関心への憂い≫を 示すが、振り返る機会を得て「あの顔が苦しそうだったから、これ決めたんだと思ったら(中 略)整理がつくじゃないですか」と<胃瘻決断過程の再認識による納得>を得ていた。 そして、本人のようすの変化に【苦悩】を感じながら、≪延命の役割を認識した納得感 ≫を得ていくようすが伺えた。B 氏の「本人の終活に向けての家族の心の準備期間なのかな っていうふうにも思ったりしますね」や E 氏の「孫も一番下が成人したばかりなので(中 略)一つの区切りかなとは思ってますけども」という発言は、胃瘻造設後に得られた時間 に意味を見出すことで、 【納得感】を後押ししていた。 常に根底にある考えとして≪生きてほしい家族の願い≫があるのだが、胃瘻造設後にさ まざまな【苦悩】を経験しながら【納得感】を得ていく過程を経て≪死の受容≫に至るよ うすが伺えた。A 氏の「もう、天命じゃないですか」や B 氏の「本人の終活に向けての家族.
(17) の心の準備期間なのかなっていうふうにも思ったりしますね」 、そして D 氏の「急変したと きには(中略)もう自然に逝かしたほうがいいのかなっていう思いはありますよ」といっ た本人の死を意識し受け入れようとするようすがみられた。 Folkman ら 19)は、肯定的心理状態に導く意味づけの過程を肯定的再評価、目標の建設的変 化、スピリチュアルな信念、出来事の肯定的解釈の 4 つで構成した。本研究の結果をこの 意味づけの過程に当てはめると、肯定的再評価に当たるカテゴリーとして≪安定した栄養 補給への期待≫と≪施設で適切なケアを受ける安心感≫、目標の建設的変化として≪病状 を安定化する医療への期待≫、出来事の肯定的解釈として≪胃瘻が良いと思える本人の反 応≫と≪本人の意思を推定できずに至る延命への消極的納得≫、スピリチュアルな信念と して≪生きてほしい家族の願い≫と≪延命の役割を認識して至る納得感≫が相当するだろ う。シュトレーベら. 20). は、死別へのコーピングの二重過程モデルの中で、肯定的感情と否. 定的感情の間、そして否定的再評価と肯定的再評価の間で揺らぐことにより、人は悲嘆経 験のさまざまな次元に対処できる経路を見つけ、進んでいくことができるとしている。本 研究は生前の高齢者を対象としているが、死を意識した苦悩という共通点からこのモデル の考えを本研究に当てはめると、家族が考える理想との乖離や本人の病状悪化、反応低下 により生じた【苦悩】と安心できる現状や延命の価値の再認識を基にした【納得感】の間 で揺らぐことで≪死の受容≫を徐々に獲得し、 【安寧】の状態に近づくと考えられる。 2. 意思決定と否定的感情 目の前の情報と本人の状態や反応を踏まえ、その時は最善だと判断し行われた胃瘻造設 だが、造設後にも様々な【苦悩】と感じる思考が本研究で示された。 【苦悩】のような否定 的感情は、当事者が現在の状況をもたらしたのが自分であるという認識が強く影響してい ると指摘されている. 21). 。そして、この否定的感情は、家族にのみ意思決定を託した際に最. も大きくなるとされ、対処として医療者が意思決定にきちんと関わり、選択肢を提示する ことで軽減できるという。医療者は胃瘻造設後に起こりえる家族の苦悩に配慮しながら、 医療者も代理意思決定の参加者の一人として議論の場に立つことが、その決定を納得のい くものにする重要なプロセスになる。 Ⅴ.研究の限界と今後の課題 本研究の対象者は、長期療養病床に長期間在籍する 3 人、在宅介護から施設入所に移行 した 1 人、在宅介護を続けている 1 人というように複数の環境で過ごす認知症高齢者で、 彼らに関わる家族の声を拾うことができた反面、人数が少なく、必ずしも認知症高齢者に 胃瘻造設を決定した家族を代表しているとはいえない。加えて、研究者が勤務する病院に 入院中または外来通院中の認知症高齢者が対象となっており、否定的感情や医療機関に対 する不満が示されなかった可能性がある。これらの限界の解決のため、対象者を研究者が 直接関わりのない施設から選ぶことや在宅で療養を続けている者、または認知症以外の理 由で胃瘻となった者、意思疎通の良好な者など、病状や環境の異なる場合を調査する必要.
(18) がある。さらに、胃瘻造設前に代理意思決定を行う家族に対して、ともに悩む医療者の関 わりがその後の家族の否定的感情の軽減に寄与するのかも将来的な課題である。 Ⅵ.参考文献 1) Daniel Fischberg, et al: Five things physicians and patients should question in hospice and palliative medicine. J Pain Symptom Manage, 2013; 45(3): pp595-605. 2) Naveen Mohandas, et al; International Survey of Physicians’ Perspectives on Percutaneous Endoscopic Gastrostomy Tube Feeding in Patients with Dementia and Review of Literature. Cureus, 2019; 11(4): p e4578. 3) 飯島節, 他: 胃瘻造設及び造設後の転帰等に関する調査研究事業報告書, 医療経済研 究機構, 2012; pp xi-xii, 14. 4) 総務省統計局: 「平成 30 年社会医療診療行為別統計 表番号 8」 政府統計の総合窓口, 2019 年(最終閲覧日:2019 年 8 月 27 日) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=0045004 8&tstat=000001029602&cycle=7&tclass1=000001130155&tclass2=000001130156& tclass3=000001130437 5) 大内尉義, 他: 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄 養補給の導入を中心として, 日本老年医学会, 2012; pp14-15. 6) 塚原節子,他: 患者の PEG(胃瘻造設術)を決定する家族の意思決定過程,日本看護研 究学会雑誌,2005; 28,p274. 7) 簑原文子: 認知症高齢者の胃ろう造設を代理意思決定した 家族の心理的変化造設から 看取り後まで, 老年看護学, 2018; 22(2) : pp70─78. 8) 相場健一, 他: 重度認知症高齢者の代理意思決定において胃瘻造設を選択した家族が たどる心理的プロセス, 老年看護学, 2011; 16(1): pp75-84. 9) 菅沼敦子, 他: 胃瘻造設術を受けた患者の家族の心理的変化, 日本看護学会論文集 老 年看護, 2008; 39, pp47-49. 10) Jenny Rickman: Percutaneous endoscopic gastrostomy, psychological effects, Br J Nurs, 1998; 7(12): pp723-9. 11) Verelst SG, et al: Experience of family members with the decision concerning artificial nutrition and hydration in people with dementia in nursing homes, Tijdschr Gerontol Geriatr. 2006 Apr; 37(2): pp51-8. Dutch. 12) Guido M.A, et al: How Are Decisions Made About the Use of Percutaneous Endoscopic Gastrostomy for Long -Term Nutritional Support?. Am J Gastroenterol. 1999; 94(11): pp3225-8. 13) Denise Baird Schwartz, et al: Gastrostomy Tube Placement in Patients With Advanced Dementia or Near End of Life, Nutr Clin Pract.2014; 29(6): pp829-40..
(19) 14) 飯田武ら: PEG 症例の長期予後に関する追跡調査, 静脈経腸栄養, 2012; 27(4): pp47-53. 15) Simcha Kimyagarov, et al: Artificial tube feeding of elderly suffering from advanced dementia, Harefuah. 2008; 147(6): pp500-3, 575. 16) 加藤真紀, 他: 介護老人福祉施設入所高齢者の胃瘻造設における家族の代理意思決定プ ロセス. 老年看護学, 2012; 16(2): pp38-46. 17) Reisgerg B: Dementia: A systematic approach to identifying reversible causes, Geriatrics. 1986; 41(4): pp30-46.. 18) 大谷尚: SCAT: Steps for Coding and Theorization-明示的手続きで着手しやすく小規模デ ータに適用可能な質的データ分析手法-, 感性工学, 2011; 10(3): pp155-160. 19) Susan Folkman; positive psychological state and coping with severe stress, Soc Sci Med. 1997; 45(8): pp1207-21. 20) ロバート・A・ニーマイヤー著, 富田拓郎・菊池安希子訳: 喪失と悲嘆の心理療法 構成主義による 意味の探究, 金剛出版. 2007; pp68-82. 21) シーナ・アイエンガー著, 櫻井祐子訳: 選択の科学, 文春文庫. 2014; pp334-342.. 本研究は、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団による助成を受けて作成しています。.
(20) 感想 この度は貴財団より助成をいただき、長年できずにいた研究を進めることができました。 心から感謝申し上げます。 普段の業務をしながらの研究は負担も大きく、家庭にも負担を強いる状況がありました が、助成を受け、特に逐語録をテープ起こし会社に依頼できたことは非常に助かりました。 ただ、助成を受けてからの報告までの期間が 1 年では短いように思いました。理由とし て、私の取り組んだ研究が質的研究であり、質的研究においては、調査しながら結果によ って適切な対象者を新たに探したり、新しい概念の発見があれば、それについて書籍を読 み勉強したりと、調査開始後に非常に時間のかかる研究です。そのため、量的研究と違い、 研究前に事前に全てを決めておくことは困難が伴います。よって、期間の延長、本研究で かんがえると 2 年あれば、より良い研究ができたかと考えております。 いずれにしても、貴財団の助成により本研究が完成したことには、改めて感謝申し上げ ます。ありがとうございました。.
(21)
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