原 著
催螺薦。第麟6雑言〕
Persistent atrial standstillの臨床的および電気生理学的研究
一リウマチ性弁膜症および心筋疾患に合併したatrial standstill一
東京女子医科大学 循環器内科学教室(主任 イナ バ シゲ キ稲 葉 茂 樹
広沢弘七郎教授) (受付 昭和62年8月24日)Clinical and Electrophysiological Study on Persistent Atrial Standstill: Atrial Standstill in Patients with Rheumatic Valvular Heart
Disease and Myo.cardial Disease
Shigeki INABA
Department of Cardiology(Director:Prof. Koshichiro HIROSAWA) Tokyo Women’s Medical College
Clinical, electrocardiographic and intra−atrial mapping findings were analysed in 22 patients with atrial standstill(AS). AS was defined as existence of electrically inexcitable areas(EIA)in the atria. The patients were devided into two groups, VHD group of ll patients with valvular heart disease and CM group of ll patients with myocardial disease.
The incidence of Adams Stokes syndrome was signi且cantly higher in the CM group than in the VHD. Although there was no significant dif6erences in max RR interval between the two groups, the incidence of malignant ventricular arrhy‡hmias was higher in the CM group than in
VHD group during Holter monitoring,
There was a long interval between丘rst examination and diagnosis of AS in the VHD group (23.6±10.8years), during which the atrial rhythm changed from longstanding atrial fibrillation (Af)to ectopic atrial rhythm/tachycardia with small P waves(EAR/T), and then to disappear− ance of P waves. In the CM group, this interval was short(6.5±6.1years)and atrial rhythm progressed from sinus directly to EAR/T, and then to disappearance of P waves. EIA was confirmed during the stage of Af in the VHD group, and the extent of EIA grew larger as the abnormalities in the atrial rhyt㎞progressed.
In the VHD group,10 patients underwent cardiac surgery alld 7 underwent pacemaker
implantation. There was noαeath during follow−up. Although pacemakers were implanted in all patients in the CM group, there were 6 deaths(20f congestive heart failure,20f ventricular tachyarrhythlnia.10f cerebral embolism and l of sudden death)during follow−up.
緒 言
Wol任ら1)は1929年quinidine投与中の3症例
にみられたtransient atrial standstill(AS)を記
載した.この中で彼らは心電図のいかなる誘導で もP波が認められず,頚静脈波で心房収縮波が認 められないことなどを報告している.その後も
transient ASの症例報告が散見されている
が2)3),1946年以降,種々の慢性心疾患4)5)または神 経筋疾患6)に合併し心房筋の高度の器質的障害に よると考えられるpersistent ASの存在が報告さ れるようになった.persistent ASは非常に稀な不 整脈であり,心不全,動脈塞栓症,Adams Stokes一18一
表1 弁膜症群症例の臨床像 症例 年齢i歳) 性 基礎心疾患 心臓手術歴(手術時年齢) 1 52 F postMVR, Ar, Tr CMC(35), MVR(51) 2 49 F MsR, Asr, Tr CMC(32) 3 51
M
MS, Ar, Tr CMC(31) 4 52M
Msr, TR CMC(39), OMC十TAP(43) 5 64 F MSr, TR OMC(48) 6 43M
postDVR DVR(25), MVR十TAP(33), MVR(34), DVR(43) 7 52M
MSr, Asr, Tr CMC(20) 8 52M
MS, TR CMC(29) 9 52 F postDVR+TVR CMC(37), DVR十TAP(44),DVR十TVR(52) 10 62 FPVE
MVR+TAP(56) 11 48M
postDVR+TAP DVR+TAP(41) MVR:僧帽弁置換術, A(S)R:大動脈弁(狭窄兼)閉鎖不全, TR:三尖弁閉鎖不全, CMC:非直視下僧 帽弁交連切開術,MS(R):僧帽弁狭窄(兼閉鎖不全), DVR:大動脈弁・僧帽弁置換術, TVR:三尖弁 置換術,PVE:人工巻心内膜炎, OMC:直視下僧帽弁交連切開術, TAP:三尖弁輪形成術,小文字の“s”および“r”:軽症の狭窄および閉鎖不全,大文字の“S”および“R”:中等症以上の狭窄および閉鎖不全
発作あるいは突然死などの重篤な合併症を高率に
併発することから予後不良とされている7>8).その
persistent ASの診断基準はBloom丘eld.ら6), Al・
lensworthら5)およびBaldwinら9)によってそれ ぞれ提唱されており,これらに共通するのは心房 全体の電気的興奮性および機械的収縮の消失であ る.しかし近年persistent ASの不全型と考えら れるpartial ASの存在が認識され10)∼13),これら の診断基準の再検討が必要となっている.また, ASの基礎疾患は多岐にわたるが,各基礎疾患に おけるASの病態についての詳細な検討は殆どみ られない.本研究の目的は著者の提唱するASの 診断基準により,弁膜症および心筋疾患にみられ るASの臨床像および電気生理学的検査所見を比 較検討し,それぞれのASの病態および臨床的意 義を明らかにすることである. 対 象
対象はtotal ASまたはpartial ASと診断され た22症例であり,男性11例,女性11例で平均年齢 53.4歳(26∼73歳)であった.基礎心疾患の内訳 はリウマチ性弁膜症11例,神経筋疾患に合併した 続発性心筋疾患3例,特発性拡張型心筋症2例, 心アミロイドーシス2例,甲状腺機能低下症に合 併した続発性心筋疾患1例および非特異的心筋疾 患3例であった.弁膜症の症例はいずれも過去に 表2 心筋疾患群の臨床像 症例 年齢i歳) 性 基礎疾患 12 55
M
unclassified CM 13 66M
DCM
14 33 F Congenital myopathy 15 57 F Cardiac amyloidosis16 39
M
Myopathy(Emery Dreifuss syndrome) 17 26 F Myopathy(Emery Dreifuss syndrome)18 61
M
Cardiac amyloidosis19 67
M
DCM
20 73 F Myxedema
21 65 F unclassified CM 22 56 F unclassified CM
CM:cardiomyopathy, DCM:dilated cardiomyopathy
!∼4回の心臓手術を受けていた(表1,2). 方 法 リウマチ性弁膜症を有する弁膜症群11例(症例 1∼11)と特発性および続発性心筋疾患を有する 心筋疾患群11例(症例12∼22)に分類し,両群の 臨床像,血行動態,心電図,Holter心電図,心房 内マッピング所見,治療および予後につき比較検 討した. 1.臨床像
New York Heart Association心機能分類3度 以上の心不全,動脈塞栓症およびAdams Stokes 発作の既往の有無につき検討し,AS診断時の心
胸比を求めた. 2.血行動態 右房圧,肺動脈圧,肺動脈懊入神,左室駆出率 および熱希釈法による心拍出量を測定した.ただ し中等度以上の三尖弁逆流を有した症例では Fick法を用いて心拍出量を測定した. 3.心電図
AS診断時の心電図から心房および心室の調
律,心室内伝導障害の有無につき検討した.また, 初診からAS診断に至るまでの心房の調律の推移 とその持続期間を検討した. 4.Holter心電図Reynolds Medical社製Path丘nder IIまたは Del Mar Avionics社製DCG−7によりHolter心
電図を記録し,24時間における最:小および最大心 拍数,最長RR時間とその出現様式および心室性 不整脈の種類と合併頻度を解析した.心室頻拍 (VT)は3連発以上の心室性期外収縮(VPB)と 定義した. 5.心房内マッピング
穿刺法にて右大腿静脈より電極間距離10mm
の6F4極および6F2極カテーテルを挿入し,前者を 用いて右房内マッピングを行い,後者は三尖弁中 隔尖付着部付近に置きHis東電位記二二とした. また,左鎖骨下静脈または左肘静脈より6F4極カ テーテルを挿入し冠静脈洞内のマッピングを行っ た.電位記録は日本電気三栄製361systelnを用い,時定数0.003sec, high cut丘lter lkHz,感度
200μV/cmにてvisigraphに紙送り速度100mm/
secでマッピング部位の電位をHis東電位(H
波),心室電位(V波)および体表心電図とともに 記録した.H波の始まりからV波の始まりまでを HV時間とし,その正常値は35∼55mSとした. マッピング部位は右房の高位・中位・低位外側壁, 前壁,右心耳,高位・低位心房中隔,低位三尖弁 三部および冠静脈洞の9ヵ所であり,次のプロト コールに従って施行した. 1)透視下で4極カテーテルを各マッピング部 位に置き,その遠位側2極を心房壁に十分に接触 させる.2)遠位側2極から電位記録を行い,心房 電位(A波)の有無を判定する.3)カテーテルを 同部位に固定したまま遠位2極をcardiac stimu− latorに接続し,近位側2極を記録器に接続する. パルス幅2.OmS,10Vの最高出力刺激を行い, ペーシング部位近傍の心房筋の反応の有無を判定 する.4)電位記録にてA波が認められずかつ高 出力ペーシングに対しても,反応しない部位を電 気的興奮性消失部位と判定した. 6.診断基準 Partial AS 右房および左房内のいずれかの部位でA波が 消失し,かつ高出力刺激に対しても反応のみられ ない部位(電気的興奮性消失部位)が認められる. Total AS 1)右房および左房内の多数の部位でマッピン グを施行し,その全ての部位で電気的興奮性消失 を認める. 2)心電図では如何なる心房波も認められない. 3)心房圧記録,僧帽弁および三尖弁のMモー ド心エコー記録で心房収縮波を認めない. 7.統計処理 StudentのT検定およびchi−square検定にて 行った. 結 果 1.弁膜症群および心筋疾患群の臨床像(表3) 弁膜症群と心筋疾患群の平均年齢はそれぞれ 表3 両群の臨床像の比較 年齢 i歳) 性比 i男:女) 心不全 塞栓症 Adams Stokes @ 発作 心胸比i%) 弁膜症群 in=11) S筋疾患群 in=11) 52.4±5.9 T4.3±15.2 6:5 T:6 7 i63.6%)@6
i54.5%) 4 i36.4%)@3
i27.3%) 2 i18.2%)@8
i72.7%) 70,9±6.8 U8.5±10.3 pValue NS NS NS NS 〈0.05 NS NS:not significant一20一
表4 戸〆の血行動態指標の比較 平 均 c房圧 immHg) 肺動脈 繒k期圧 immHg) 平均肺動脈 ?入 圧 immHg) 心係数 iL/min/m2) 左室駆出率 @(%) 弁膜症群 in=11) S筋疾患群 in=11) 10.5±3.1 X,5±3.9 51,3±15,9 R5.3±10.1 22.8±6.5 P3.0±4.4 2.40±0.75 Q.44±0.63 43.6±8.9 TL8±11.0 pValue NS <0.05 〈0.01 NS NS 52.4±5.9歳と54.3±15.2歳で両海鼠に差はな かった.心不全の既往はそれぞれ7例(63.6%), と6例(54.5%)に認められた.弁膜症群の4例 (36.4%)に動脈塞栓症の既往が認められたが,こ れらの発症はいずれもAS診断の17から27年前で あった.心筋疾患群では3例(27.3%)に動脈塞 栓症の既往がみられたが,これらの発症はいずれ もAS診断前1年以内であった.心不全および動 脈塞栓症の出現頻度には両群民で差は認められな
かった.Adams Stokes発作は弁膜症群の2例
(18.2%)に対し心筋疾患群の8’例(72.7%)に認 められ,後者で有意に高率であった.(p<0.05). Adams Stokes発作中の心電図は弁膜症群の2例 と心筋疾患群の3例で記録されたが,前者では2 例とも心室停止を示し,後者では2例が心室停止, 1例が心室頻拍を示した.AS診断時の心胸比は 弁膜症群70.9±6.8%,心筋疾患群68.5±10.3%で 出血問に差はなかった. 2.国守における血行動態(表4) 平均右記圧は弁膜症群が10.5±3.1mmHg,心 筋疾患群が9.5±3.9mmHgと雨漏とも軽度上昇 を示した.弁膜症群および心筋疾患群の心係数は それぞれ2.40±0.75と2.44±0.83L/min/m2であ り,両罰の左室駆出率はそれぞれ43.6±8.9%と 5L8±11.0であった.これらの血行動態指標では 両群問に差は認められなかった.一方,肺動脈収 縮期圧および平均肺動脈懊入圧は弁膜症群で有意 に高く,弁膜症群および心筋疾患群の肺動脈収縮 期圧はそれぞれ51.3±15.9と35.3±10.1mmHg (p〈0.05),平均肺動脈懊入圧はそれぞれ22.8± 6.5と13.0±4.4mmHg(p〈0.01)であった. 3.両群におけるAS診断時の心電図所見(表 5) 表5 各症例のAS診断時の心電図所見 症例 心房 QRS波形 1 P(一) narrow QRS 2 EAR/T CRBBB十NAD 弁 3 Af narrow QRS 4 P(一) narrow QRS 膜 5 P(一) narrow QRS 6 Af CRBBB十RAD 症 7 P(一) CRBBB十RAD 8 P(一) narrow QRS 群 9 P(一) narrow QRS 10 P(一) narrow QRS 11 EAR/T narrow QRS 12 P(一) unclassified IVCD 心 13 P(一) CRBBB十LAD 14 EAR/T narrow QRS 筋 15 EAR/T narrow QRS 16 EAR/T narrow QRS 疾 !7 P(一) CLBBB十LAD18 EAR/T unclassified IVCD 患 19 EAR/T unclassi且ed IVCD
20 P(一) narrow QRS 群 21 P(一) PM rhythm 22 EAR/T CRBBB十LAD P(一):心房波消失,Af:微細なf波を伴う心房細動, EAR/T:異所性心房調律または頻拍, IVCD:心室内伝導 障害,CRBBB:完全右脚ブロヅク,NAD:正常軸, RAD: 右軸偏位,CLBBB:完全左脚ブロック,LAD:左軸偏位, PM:ペースメーカー 心電図上の心房波の消失は弁膜症群の7例と心 筋疾患群の5例に認められた.著明に減高し規則
的なP波を伴う異所性心房調律または頻拍
(EAR/T)は弁膜症群の2例と心筋疾患群の6例 に認められた。微細なf波を伴う心房細動(Af) は弁膜症群の2例に認められたが,心筋疾患群に はAfを示したものはなかった. QRS時間0.12秒 以上の心室内伝導障害を示したものは弁膜症群3 例(27.3%)および心筋疾患群6例(54.5%)でVHD
CM
(Years) Time of
Cas。一30 −20 −10 the st・dy
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 2】 22
〔コsinu5「hythm _。t,i。l w。., n。t,e。。9.i.ed 肛Z鋤at「ial fib「illati。n 〔==]ECG.。t。bt。i.ed 璽ectopic atrial rhythm and/or tachyoardia
両群の各症例の初診からAS診断に至るまでの
〔一________
一
図1 心房の調律の推移 各columnの左端は初診時を示し,右端はAS診断 時を示す. あり,心筋疾患群の他の1例では永久ペースメー カーが既に植え込まれており自己のQRS波形は 不明であった. 4.各症例の初診からAS診断までの心房の調 律の推移(図1) 弁膜症群では初診からAS診断に至るまでの経 過は23.6±10.8年で,全例にAfの時期が観察さ れた.4例ではAf以前に洞調律が確認された.Af 確認された時期からAS診断時期までの平均期間 は23.3±10.7年であった.症例8と9はAf固定 後一時通院しなかったためこの問の心電図経過は 不明であった.それぞれ心不全の増悪および Adams Stokes発作のため当施設を再受診した が,そのときの心電図ではf波は認められなかっ た.他の9例ではAfの期間中に全例でf波の振 幅の漸減がみられ,7例はEAR/Tに移行した.この7例中4例ではその後さらにP波が消失し
た. 心筋疾患群では初診からAS診断までの経過は 22 II V261.a8,一群4墨譜_・睡一ト尉陣一二
7a6.n幽」L↓」しん」〉」・μ}1し
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閃。.14162 図2 症例2(弁膜症群)の心電図経過 心房の調律は初診時から15年間心房細動を示した(最 上段).その後,220/分の異所性心房頻拍が出現し(2 段目),3年後には廃怠したP波(矢印)を伴う35/分 の異所性心房調律に移行した(3段目).その後異所性 心房調律と頻拍(4段目)が交互に出現した. 6.5±6.1年であり,弁膜症群に比し有意に短かっ た(p<0.001).経過中Afのみられたものは症例 22のみであった.心筋疾患群中初診時洞調律を示 したものは5例であり,これらは平均4.5±4.1年 の経過でEAR/Tに移行した.この内の1例では 6ヵ月後,さらにP波の消失が認められた.また 初診時既にEAR/Tを示したものは4例であり, P波の消失を示したものは2例であった. 図2に症例2(弁膜症群)の心電図経過を示す. 最上段の初診時の心電図はAfであり,約15年間 にわたりAfが持続した後,2段目に示すような減高した規則的なP波を伴う異所性心房頻拍
(220/分)が出現した.3年後の3段目の記録では, さらに減高したP波を伴う緩徐な異所性心房調 律(35/分)が出現し,その後この調律と4段目に 示すような異所性心房頻拍が交互に出現した. 図3に症例15(心筋疾患群)の心電図経過を示 す.最上段の初診時の心電図では洞調律であった が,8ヵ月後の記録では緩徐で不規則な異所性の P波が認められた(2段目).1カ,月後にはP波は 一旦消失したが(3段目),さらに1ヵ月後再び不 規則な異所性心房調律が認められた(4段目). 5.両群の1{01ter心電図所見 永久ペースメーカー植え込み後にHolter心電 図検査を施行された6例および検査施行前に急死 した1例を除く弁膜症群9例と心筋疾患群6例の肌・
サ総蕪無茸i講i.
’82.9. ’82.10. 6. ll町. 6.デー≡..... 」一志刑し一」_」⊥「一、一,一トr・ 一三1韮;.≡≡畳≡一一==一=一 雑。,把1119 図3 症例15(心筋疾患群)の心電図経過 心房の調律は初診時洞調律を示し(1段目),8ヵ月後 には不規則な異所性心房調律が出現した(2段目).そ の1ヵ月後にはP波は一旦消失したが(3段目),さら に1ヵ月後には再び緩徐で不規則な異所性心房調律が 出現した(4段目). 表6 両群のHolter心電図所見の比較(1) 24時間における最小,最大および平均心拍数 最小心拍数 @(/分) 最大心拍数@(/分) 平均心拍数@(/分) 弁膜症群 @(n=9) S筋疾患群 @(n=6) 44.9±16,7 R8.7±6.1 126.9±29.1 X3.5±:33.1 69,7±13.8 U0.2±14,2 pValue NS <0.05 NS Holter心電図所見を比較した(表6∼8).弁膜症群および心筋疾患群の最小心拍数はそれぞれ
44.9±16.7/分と38.7±6,1/分であり,平均心拍数 は69.7±13.8/分と60.2±14.2/分でいずれも両群 間に有意差はみられなかった.最大心拍数は弁膜 症群の126.9±29,1/分に対し心筋疾患群は93.5± 33.1/分であり,前者で有意に大であった(p〈 0.05)(表6). 最長RR時間は弁膜症群で2,960±1,694mS, 心筋疾患群で1,940±492mSであり,前者で延長 している傾向がみられた(p<0.20).最長RR時 間の出現様式には両差間に差がみられ,弁膜症群 では発作性心停止が7例(78%)と多いのに対し 心筋疾患群では持続性徐脈が5例(83%)と多かっ た(p〈0.05)(表7). VPBは全例にみられ,その24時間における総数 は弁膜症群が903±L953個,心筋疾患群が2,724± 2,400個であり,後者に多い傾向が認められた(p<0.20).多源性のVPBは弁膜症群の7例
表7 両群のHolter心電図所見の比較(2) 最長RR時間およびその出現様式 心停止の出現様式 最長RR時間 @(mSec) 発作性心停止 持続性徐脈 弁膜症群 @(n=9) S筋疾患群 @(n=6) 2960±1694 P940±492 7 i78%)@1
i17%) 2 i22%)@5
i83%) pValue NS <0.05 表8 両群のHolter心電図所見の比較(3) 心室性期外収縮の総数およびその出現様式 VPB総数 i/24時間) 多幸性uPB
2連発VPBRonT
uPB
心 室p 拍 弁膜症群 @(n=9) S筋疾患群 @(n=6) 903±1953 Q724±2400 7 i78%)@6
i100%) 6 i67%)@6
i100%) 0 i0%)@2
i33%) 0 i0%)@3
i50%) pValue NS NS NS NS <0,05 80%勿
VHD group 13% 82% 、ぐ’づ 43% 、凸8% (anterior> 20% 82% /.0% CM group》讐、
5G% \『 A8% (anterior) 100% 30% 図4 両群の心房内マッピング所見 40% 図中の数字は弁膜症群(VHD group)および心筋疾患 群(CM group)の各マッピング部位における電気的興 奮性消失の出現頻度を示す.両群とも右房外側壁が最 も高く,房室二輪近傍は低かった. (78%)と心筋疾患群の全例にみられた.VPBの 2連発は弁膜症群の6例(67%)と心筋疾患群の 全例にみられ,VTは弁膜症群では認められず心 筋疾患群の3例(50%)にみられた(p<0.05). Ron TのVPBは心筋疾患群の2例(33%)にみ られたが,弁膜症群では認められなかった(表8). 6.両群の心房内マッピング所見(図4) Total ASと診断されたものは心筋疾患群の症 例12と17のみであり,他の20例はいずれもpartial ASであった.電気的興奮性消失部位の分布は両一23一
1 一 一一一一一一 Vにドー
II 一一脇愚
HIコ甦一歪顎v・ゴ_一一一唖三曇醇
aVL一一一 一一一一 V5 一 一 _一L_ _ 影・ ’ク !ノ lECG 10V pacin賃iSISS1’一
「「「け「「「一「 upper TVR ム ハレ ム ハーピー一
iower TVR A A A A A り 10V pacing SI Sr Sl一←一
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酔暗黙帰起姪垂
図5 症例7(弁膜症群)のAS診断時心電図および心房内マッピング所見upper TVR:高位三尖弁証悟,10wer TVR:低位三尖弁輪部, IECG:心房内電位 記録S:Pacing stimulus, A:A波, V:V波,説明本文参照
群とも類似していた.弁膜症群における電気的興 奮性消失の頻度は高位・中位・低位右房外側壁で 80∼82%と最も高く,低位心房中隔低位三尖弁 輪部,冠静脈洞など房室弁論部近傍で0∼20%と 最も低かった.右心耳および右房前壁はこれらの 中間に属し13∼43%であった.心筋疾患群におい ても電気的興奮性消失の頻度は右房外側壁で 73∼100%と最も高率であり,房室弁輪近傍部で 18∼40%と比較的低率であった.また右心耳およ び右房前壁では43∼50%と両者の中間であった.、 His東電位記録では弁膜症群の7例と心筋疾患
群の9例でV波の直前にH波が記録され,弁膜
症群の4例と心筋疾患群の1例ではH波は記録
されなかったが,一定間隔でV波に先行するA 波が認められた.心筋疾患群の1例では心室ペー スメーカーが既に植え込まれておりH波とV波 の関係は不明であった.H波が記録された症例の HV時間は弁膜症群が52.1±7.OmS,心筋疾患群 が66.1±14,5mSであり,後者で有意に延長して いた(p<0.05). 図5は症例7(弁膜症群)の心電図および心房 内マッピング所見である.52歳,男性で20歳時僧 帽弁狭窄症のため非直視下交連切開術を受け,そ の2年後よりAfに固定した.失神発作が出現し たため緊急入院となった.心電図ではf波あるい はP波は認められず,QRS波は85/分で規則正し く,右軸偏位を伴う完全右脚ブロックパターンを 示した.心房内マッピングでは高・中。低位右房 外側壁高位心房中隔,右心耳,および右房前壁で はA波が記録されず,10Vペーシソでも心房の反 応はみられなかった.低位心房中隔および低位三尖弁輪部ではAA間隔350mSで規則的な頻拍が
認められ,この頻拍は2:1房室ブロックを伴い,HV時間55mSで心室を捕捉した.低位三尖弁輪
部の刺激間隔250mSの10Vペーシングにより心
房の反応がみられた.本症例では右房内に広範囲 の電気的興奮性消失部位がみられたが,三尖弁輪 周辺には興奮性が残存しておりpartial ASと診 断した. 図6は症例17(心房疾患群)の心電図および心 房内マッピング所見である.26歳女性で,1歳時 より筋力低下が認められ先天性ミオパチーと診断 されていた.22歳頃より労作時呼吸困難,動悸発 作,眩量発作が出現し,入院4ヵ月前脳塞栓を発 症し心精査目的で入院した.入院時心電図ではP 波は認められず,QRS波は50/分で規則正しく,左一24一
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Coronary sinu5 1000m88c. 図6 症例!7(心筋疾患群)のAS診断時心電図および心房内マッピング所見 HBE:His東電位記録 説明本文参照 軸偏位を伴う完全左脚ブロックパターンを呈し た.心房内マッピングでは官房内および冠静脈洞 内の計9ヵ所で電位記録を行ったが,いずれの部 位にもA波は認められなかった.His東電位記録 をのぞく8ヵ所で10Vペーシングを行ったが,い ずれの部位でも心房の反応は認められなかった.His東電位記録ではv波に先行するH波が認め
られHV時間は70mSであり,心室内変熱伝導を ともなった房室接合部調律と診断された.本症例 では房室弁の心エコー,右房および肺動脈王入圧 記録のいずれでも心房収縮波が認められずtotal ASと診断した. 7.AS診断時の心電図と心房内マッピング所 見との比較(表9) 弁膜症群のAS診断時の心電図では微細なf波を伴うAfが2例, EAR/Tが3例およびP波の
消失が6例であった.電気的興奮性消失部位の割 合はこの順に増加する傾向がみられ,それぞれ 22.9±10.4%,43.0±9.7%および56.4±10.2%で あった(NS).一方の心筋疾患群ではEAR/Tが 6例,P波の消失が5例であり,それぞれの場合の 電気的興奮性消失部位の割合は36.7±9.2%と 73.1±11.5%で後者で有意に大であった(p< 25 表9 両群のAS診断時の心電図所見と心房内にお ける電気的興奮性消失の拡がりの関係 ECG 症例数 サ奮性消失%電気的 pValue Af ル膜症群 EAR/T @ P(一) 236 22.9±10.4 S3.0±9.7 T6.4±10.2 ]器:::]幣 心筋疾患群 EAR/T @ P(一) 65 36.7±9.2 V3.1±11.5 ]Pく0’05 %電気的興奮性消失= 電気的興奮性消失部位 ×100 総マッピング部位 0.05). 8.両三の治療および予後(表10,11) 弁膜;症群では全例がAS診断後12ヵ月以内に弁 置換術あるいは三尖弁輪形成術を受け,11例中7 例がAdams Stokes発作および徐脈による心不 全の予防目的で心室ペースメーカー植え込み術を 受けた.平均28.9ヵ月の経過観察期間中死亡した ものはなかった(表10)心筋疾患群では弁置換術 等の心臓手術を受けた症例はなかったが,11例全 例でAdams Stokes発作あるいは心不全予防の ためペースメーカー植え込み術が施行された.平 均18.5ヵ月の経過観察期間中に6例(54.5%)が 死亡した.死因は心不全3例,脳塞栓1例,心室表10 弁膜症群における治療および予後 症例 治 療 ペースメーカー 予後 経過観察期間@ (月) 1 一 生 63 2
MVR
十 生 49 3MVR
『 生 41 4 MVR, TAP 十 生 33 5 MVR, TAP 』 生 18 6 DVR, TVP 十 生 16 7 MVR, TAP 十 生 17 8 MVR, TAP 一 生 15 9 MVR, TVR 十 生 20 10MVR
十 生 31 11MVR
十 生 15 7/11(63.6%) 表11 心筋疾患群における治療および予後 症例 ペースメーカー 予 後 経過観察期間 @ (月) 12 十 死(脳塞栓症) 6 13 十 死(心不全) 4 14 十 生 58 15 十 死(心室細動) 3 16 十 死(突然死) 20 17 十 生 46 18 十 死(心不全) 1 19 十 死(心室頻拍→心不全) 4 20 十 生 16 21 十 生 32 22 十 生 13 細動1例および瞬間死1例であった.心不全で死亡した1例では難治性VTが心不全の原因で
あった.また瞬間死の症例では生前のHolter心電図で多形性非持続性VTおよびR Qn Tの
VPBが認められた(表11). 考 察 1.本研究におけるASの診断基準の意義 ASはWol丘ら1)により初めて報告されて以来, 検査法の進歩にともなってその診断基準も変遷を 遂げた.1973年Baldwinら9)が提唱した診断基準 が広く普及している.すなわち,1)12誘導食道 誘導および心内心電図のいずれでもP波が欠如 する.2)頚静脈波および右房圧記録のいずれにも A波が認められない.3)上室性のQRS波形を示 す.4)心透視で心房の拍動を認めない.5)心房 ペーシングにても心房が反応しない. その後AS症例に対し心房内マッピングによる 検索が広く行われるようになり,上記の5項目を 満たしていても心房内を詳細にマッピングすると その一部に電気的興奮性の残存する症例が報告さ れるようになった10)∼12).Levyら15)は心房内に部 分的な電気的興奮性の消失を示す症例は必ずしも 稀ではなく,過去にASと診断された症例の中に もこのような症例が含まれている可能性を指摘し た.さらに心電図上微小なP波を示す症例でも心 房内マッピングにより一部屋電気的興奮性消失が 認められており,これもASと関連を有する病態 として注目されている14)∼18).以上の経緯:からASの概念は拡大され, partial ASという新しい 概念が提唱されたが,その定義に関しては未だ確 立されていない.従来のASの診断基準で共通す るのは心電図上のP波の消失と心房の機械的収 縮の欠如であるが5)6)9),これらは電気的興奮性消 失部位の拡がりにより二次的に規定される因子で あり,total ASの診断には不可欠であってもpar− tial AS診断の必要条件ではないと考えられる. そこで著者はASの基本的要素を心房内における 電気的興奮性消失部位の存在として捉え,心電図 所見によらず心房内マッピングによる電気的興奮 性消失部位の拡がりからtotal ASおよびpartiaI ASに分類することを提唱した.すなわち電気的 興奮性の消失がマッピング部分の全てで認められ たものをtotal AS,部分的に認められたものを partial ASと定義した.しかしこのようなtotal ASとpartial ASの区別も,左房自由壁のほとん どの部位についてカテーテルマッピングによる検 索を行うことが困難なため,相対的なものとなら ざるを得ない.したがってtotal ASとpartia1 AS は,一連のスペクトル上に位置する病態として理 解すべきと考えられる13).ASの病態および臨床 的意義は基礎疾患により大きく異な:ると考えられ るが,この点に関する報告は未だない.その理由 としてASが非常に稀な疾患であるばかりでな く,その基礎疾患が多岐にわたるためと考えられ る.1975年から1986年までに当施設で診断された ASは22症例であり,その基礎疾患はリウマチ性
一26一
弁膜症,特発性心筋症,神経筋疾患あるいは甲状 腺機能低下症に合併した続発性心筋疾患,および アミロイドーシスと多岐にわたる.本研究では心 房筋障害の成立機序が異なると考えられる弁膜症 群と心筋疾患群に分類した.各々のASの臨床像, 心電図および心房内マッピング所見を比較検討す ることはその病態および臨床的意義を考える上で 重要なことと考えられる. 2.弁膜症群および心筋疾患群の臨床的意義に 関する検討 Adams Stokes発作は弁膜症群では18.2%にみ られ,失神発作中の心電図で心室停止が確認され ている.心筋疾患群ではAdams Stokes発作の頻 度は72.7%と非常に高率で,発作時の心電図が記 録された3例のうち2例では心室停止,1例では VTが認められた. 弁膜症群および心筋疾患群のHolter心電図所 見を比較検討すると,弁膜症群では最長RR時間 が長い傾向がみられ,一方,心筋疾患群ではVPB の総数およびVTの頻度が多かった.以上の結果 とAdams Stokes発作中の心電図所見から弁膜 症群におけるAdams Stokes発作の機序として は徐脈性不整脈が考えられ,心筋疾患群では徐脈 性不整脈のみならず心室性不整脈の関与が大きい と考えられる. 弁膜症群では10例が弁置換術などの手術を受 け,7例がペースメーカーの植え込み術を受けた が,観察期間中死亡例はなかった.一方,心筋疾 患群では全例がペースメーカー植え込み術を受け たが6例が観察期間中に死亡した.死亡二二2例
の死因は難治性VTによる心不全および心室細
動であり,瞬間死の1例では生前のHolter心電図で多形性VTおよびRon TのVPBが確認さ‘
れている.このように心室性不整脈の有無とその 重症度が山群の予後に影響を与える重要な要因の ひとつであると考えられる.AS症例における心 室性不整脈の臨床的意義に関する報告は未だない が,今後充分に留意すべきことと考えられる. また心筋疾患群の死亡山中3例は心不全による ものであったが,弁膜症群では血行動態的障害が より高度であったのにもかかわらず死亡例はな かった.これは弁膜症群における血行動態的障害 は弁の機能障害によるものが主体であり,弁置換 などの手術により改善し得るためと考えられる. 広沢は心臓手術が普及する以前には弁膜症例で長 期間持続したAfが自然停止し, P波が出現する とその後の内科的予後は極めて不良であったこと を観察している.これらの症例では心房内マッピ ングは行われていないが,EAR/Tを伴うpartial ASであった可能性が考えられる.本研究で弁膜 症群の予後が良好であったのは心臓外科の進歩に よるものと考えられる.一方,心筋疾患では心室 筋自体の不可逆的な変性が血行動態的障害の主体 をなすため,心室筋病変の進行にともない出現す る心不全は難治性で予後が不良となると考えられ る.動脈塞栓症は心筋疾患群の3例にみられ1例
(症例12)は脳動脈塞栓症により死亡した.本症例 は心房内マヅピングでtotal ASと診断されたが 抗凝固剤の投与は受けていなかった.他の2例は 比較的広範なpartial ASであり,これらでは抗凝 固剤が投与されていた.動脈塞栓症はASを合併 していない心筋疾患でもしぼしばみられるが,広 範囲におよぶASの合併によりその出現頻度が増 加する可能性は否定できない.弁膜症群で動脈塞 栓症を有した4例ではAS診断の17∼27年前に発 症しておりASとの関係はないと考えられた. したがって弁膜症群は心室性不整脈が少ないこ とおよび心臓手術により心不全が改善し得ること から,その予後は良好と考えられる.一方,心筋 疾患群は重篤な心室性不整脈や難治性心不全によ り予後は不良となると考えられる.ASの予後は 抗凝固剤の投与とペースメーカー植え込みのみで 比較的良好であるとの報告もあるが19)20),ASの治 療においてはペースメーカー植え込みのみならず 心室性不整脈および心不全の管理が予後改善の上 で不可欠と考えられる. 3.弁膜症群におけるASの成立過程に関する 検討 ASに至るまでの両群の心電図経過は大きく異 なる.弁膜症群では全例が長期におたるAfの時 期を有し,初診からAS診断に至るまでの経過が一27一
極めて長いことが特徴である.弁膜症群における 心房の調律は慢性Af固定→f波の減高→EAR/ T→P波消失という経過を辿り,心房内における 電気的興奮性消失部位出現の過程はAfの時期か ら既に始まっていると考えられる.Afは心房内に おける複数のwaveletのrandom reentryである とされ,それが存続するためには一定量の心房筋 の存在が必要である21)22).CQtoiら23)は年余にわた るAfが自然停止したリウマチ性弁膜症の6例を 記載し,その内の1例ではAf停止後P波が認め られず,心房内マッピングでASが確認されたと 報告している.彼らはAfの自然停止の機序とし て心房の線維化に伴う心房筋の脱落と考えてい る.本研究の症例でみられた心電図所見の推移も このような心房における病理学的変化の進行を反 映していると考えられる.すなわちAfを維持す るのに必要最低限の心房筋のmassが保たれてい る時期には心房筋の脱落はf波の減高として現れ るが,ある限度を越えるとAfは停止し, EAR−T が出現すると推測することも可能である.この EAR/Tの出現する機序は未だ充分解明されては いないが,Yonedaら24)はASを合併した弁膜症 例の右心耳の一部を弁置換二時に採取し,微小電 極法による検索を行っている.それによると心房 筋の活動電位は静止電位の減少,Vmaxおよび振 幅の低下を示し,verapamiiにより抑制を受けた ことより,この電位はCa channelに依存する slow responseと考えられている.最近,著者らが 経験したpartial ASの症例にみられた心房頻拍 が高頻度刺激により停止したことから頻拍の機序 として異所性自動能のみならず,reentryまたは triggered activityの存在が示唆される(投稿予 定). 弁膜症群でのAS診断時の心電図の心房調律と 心房内マッピングの結果を対比すると電気的興奮 性消失部位の拡がりはAfの時期にマッピングを 行った症例で最も小さく,次いでEAR/T, P波消 失の順に増加する傾向がみられた.このことは心 電図経過の観察から得られた推測とも一致し,心 房病変の進行にともない心房の調律がAfから EAR/T,次いでP波消失へと推移することが示 唆される. 4.心筋疾患群におけるASの成立過程に関す る検討 心筋疾患群では初診からAS診断に至るまでの 期間は短く,経過中にAfがみられたのは1例の みであった.この1例を除けば心筋疾患群におけ る心房の調律は洞調律から直接EAR/Tへ,次い でP波消失へと推移し,この変化は急速に進行す ると考えられた.このうちEAR/T以降の過程は 弁膜症群と共通しており,EAR/Tは心房筋障害 の成立過程にかかわらず高度な障害が存在する時 にみられる調律であると推測される.AS診断時 の心房の調律と心房内マッピング所見を対比する
と電気的興奮性消失部位の広がりはEAR/Tを
示した症例ではP波消失の症例に比し有意に小 さく,前者から後者への移行が心房筋障害の進行 によるものであることが示唆される. 5.心房内マッピングによる電気的興奮性消失 の心房内分布と拡がりに関する検討 前述したように心筋疾患群と弁膜症群ではAS の成立過程は異なると推測されるが,両三の心房 内マッピングでみられた電気的興奮性消失部位の 分布には共通するパターンが認められた.すなわ ち,両群とも右回外側壁がもっとも障害を受け易 く,房室半輪近傍は障害を受けにくい傾向を示し た.弁膜症群では心房外側壁は圧負荷または容量 負荷により最も伸展を受けやすく心房筋障害も高 度となり,房室弁輪近傍は線維輪のために伸展を 受けにくく心房筋障害も比較的軽度であると考え られる.心筋疾患群においても弁膜症群と同様に 血行動態的障害の影響も考えられるが,心房筋変 性の好発部位であるという可能性も考えられる. 電気的興奮性消失部位の分布と拡がりに関しては 今後,心房の病理を含む詳細な検討が必要と考え られる. 6.ASにおける心室の調律に関する検討 両群のHis東電位記録ではペースメーカー植え込み後の1例を除きV波に先行するH波また
はA波が認められ,QRSが上室性であることが
確認された.また,心筋疾患群ではHV時間の延 長が認められた.QRS波形は弁膜症群の3例と心一28一
筋疾患群の6例で心室内伝導障害を示した.前述 のごとくASの症例における心室筋病変の存在は 稀でなく,HV時間の延長および心室内伝導障害 はHis−Purkinje系への病変の波及を反映してい るものと考えられる.従来のASの診断基準では QRS波は上室性の波形を示すことが挙げられて いる1)‘)6)9),しかし心電図上ではwide QRSを示す
場合にはQRS波が上室性か否かは判定できな
い.また,補充調律が心室性であることはASの存 在を否定するものではない.したがってこの項目 はASの診断基準から除くべきだと考えられる.Total ASによる上室性QRSの起源について
は2つの可能性が考えられている.すなわち房室結節接合部調律によるものおよび洞結節の
sinoventricular conductionによるものであ る25>∼27).後者は高カリウムによるASで洞結節お よび心房内結節回路の興奮性が保たれるという Vassalleら28)の実験結果に基づいているが,臨床 的には立証することは困難である.また本研究中 のpartial ASの症例では弁輪近傍に残存した異所性の心房活動が1:1または整数比の房室ブ
ロックをともなって心室を捕捉する所見がみられ たが,total ASと診断された症例でもこのような 心房活動が左房内に存在し心室を捕捉している可 能性は完全には否定できない. 結 論 著者の提唱するASの診断基準により診断され たASの22症例をその基礎心疾患から弁膜症群お よび心筋疾患群に分類した.晶群の臨床像,心電 図および心房内マッピング所見の比較検討から以 下の結論を得た. 1.Adams Stokes発作は弁膜症群に比し心筋 疾患群で有意に高率であった. 2.弁膜症群では心房の調律は洞調律→Af→ EAR/T→P波消失へと推移し,全例に長期にわ たるAfの時期が観察された.一方,心筋疾患群で は洞調律→EAR/T→P波消失へと推移し,その 経過は短かった. 3.両三のHolter心電図では連発およびR on T のVPB, VTは心筋症群で多い傾向がみられた. 4.心房内における電気的興奮性消失の頻度は 両為とも右心外側壁が最も高く,房室一輪近傍部 が最も低い傾向を示した. 5.弁膜症群では10例が心臓弁膜手術を受け,6 例がペースメーカー植え込み術を受けたが,予後 は良好で観察期間中死亡はなかった.一方,心筋 疾患群では11例がペースメーカー植え込み術を受 けたが観察期間中3例が心不全,1例が心室頻拍, 1か日突然死および1例が脳塞栓で死亡した. 6.したがって,弁膜症および心筋疾患に合併す るASではその病態および臨床的意義は大きく異 なると考えられた. 稿を終えるにあたり,御懇篤なる御指導,御校閲を 賜りました東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究 所内科主任教授広沢弘七郎先生に謹んで感謝の意を 表します.さらに直接御指導を賜りました笠貫宏先生 に心より感謝申し上げます. 文 献1)Wo匿L, White PD l Auricular standstill dur・ ing quinidine sulphate therapy. Heart 14: 295−303, 1929
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