Title
マレーシア・パソ地域の異なる土地利用形態における土壌
炭素動態( 内容の要旨 )
Author(s)
安立, 美奈子
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第387号
Issue Date
2005-09-14
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/3084
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本(国)籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 会 安 立 美奈子 (愛知県) 博士(農学) 農博甲第387号 平成17年9月14日 学位規則第3条第1項該当 連合農学研究科 生物環境科学専攻 岐阜大学 マレーシア・パソ地域の異なる土地利用形態における 土壌炭素動態 主査 岐阜大学 副査 岐阜大学 副査 静岡大学 副査 信州大学 博 侃 孝 造 嘉 圭 長 山 張 崎 小 秋 角 川 授 授 授 授 教 教 教 教 論 文 の 内 容 の 要 旨 陸上生態系の中で最も炭素が貯蔵されている場所は土壌である。森林伐採や土地利用形 態の変化によって土壌中の有機炭素量は大きく変化すると予測されるが、熱帯域での研究 例がほとんどない。近年、熱帯林は急速な開発により二次林化や農地化が進んでおり、土 地利用形態の変化が土壌炭素動態に与える影響の評価は、今後の地球温暖化問題を考える 上でも急務の課題の一つである。土壌から放出される炭素の多くは二酸化炭素で、土壌呼 吸と呼ばれている。土壌呼吸速度は土壌圏を中心とする多くの要因によって決定され、空 間的にも時間的にも変動する。土壌呼吸量を精度良く推定するためには、その変動に影響
を与える環境要因との関係を明らかにする必要がある。また、土地利用形態の変化に伴っ
て土壌圏の環境が変化し、土壌呼吸量にも影響していると考えられる。そこで本研究では、 マレーシア・パソ地域の土地利用形態の異なる生態系を対象に、①土壌呼吸速度の空間的 不均一性と時間的変動(日変化・季節変化)を明らかにすると共に、②土壌呼吸速度を規 定する要因を解明し、③土壌呼吸量と土壌圏の炭素動態を明らかにすることを目的とした。 調査地として、半島マレーシアのパソ地域に天然林、二次林、ヤシ園、ゴム園の4種の土 地利用形態の異なる生態系を設けた。 天然林、二次林、ヤシ囲およびゴム園における大面積(1ha∼2ha)での土壌呼吸速度の空 間的不均一性を把握するとともに、必要試料採取数についての検討を行った。各生態系の 土壌呼吸速度は、天然林で769mgCO2mT2hr-1、二次林で708mgCO2m-2hr,1、ヤシ園で-27-815mgCO2m.2hr-1、ゴム園で450mgCO2m 2hr-1の値を示した0また、各生態系の土壌 呼吸速度を平均値から±10% 以内の誤差範囲で推定するためには、測定点数を67-85地点 と多点での測定が必要であることが示唆された。本研究における測定は各生態系において 16地点で行っていることから、本調査に基づいた広域評価は20数%の誤差が生じているも のと推察された。また、土壌呼吸速度と環境要因との関係を調べたところ、地温とはどの 生態系においても有意な相関関係は認められなかった。一方、天然林、二次林およびゴム 園では、土壌呼吸速度と土壌含水率の間に有意な負の相関関係が認められた。さらに土壌 呼吸速度の空間的不均一性の要因をより詳細に明らかにするため、土壌呼吸速度の測定後 に土壌を採取し、直径1mm以下の細根量、土壌微生物バイオマス、土壌含水率および土壌 炭素含有率等を測定した。その結果、空間的不均一性に影響を与える要因は天然林では細 根量、二次林では土壌含水率、ヤシ園では土壌炭素含有率というように土地利用形態ごと に異なっていた。 さらに、土壌呼吸速度の日変化、季節変化について検討した結果、本研究の調査地では 1日を通しても年間を通しても地温の変動は少なく、土壌呼吸速度の時間変動に対して地 温の影響は小さいことが示唆された。一方、土壌呼吸速度の平均値は季節を通して変動し ており、その要因として土壌含水率の影響が考えられた。そこで土壌含水率がどのように 土壌呼吸速度に影響するかについて明らかにするために、天然林と二次林、ヤシ園におい て人工降雨実験を行ったところ、土壌呼吸速度と土壌含水率の間に負の相関関係が認めら れた。また、季節を通した実測データからも同様の関係が得られた。さらに土壌の物理的 特性・に着目し、土壌気相率を調査した結果、天然林の土壌気相率は44・7%、ヤシ園では 21.3%、ゴム園では16.0% の値を示した。全ての調査地において土壌含水率と気相率には 有意な負の相関関係が認められ、気相率と土壌呼吸速度との間には統計学的に有意な正の 相関関係が認められた。従って、土壌呼吸速度と土壌含水率の負の相関関係には、土壌の 物理的特性が背景にあることが示唆された。 次に、土壌含水率をパラメーターとした3つの異なるモデル式を構築し、年間の土壌か らの炭素放出量を推定した。その結果、天然林では1年間に1ヘクタールあたり16・9∼ 19.2トンの炭素量を、二次林では17.5∼18.5トンが、ヤシ園では14.3∼14.5トンが、ゴム 園では11.2トンの炭素量が土壌表面から放出されていることが明らかになった。天然林、 二次林、ヤシ園ではモデル式の違いによって炭素放出量の推定値には大きな違いは認めら れなかった。 最後に本研究で得られた年間の炭素放出量と文献データ値に基づき、パソ地域における 代表的な3つの生態系(天然林、ヤシ園、ゴム園)における土壌炭素動態について、単純 なモデルであるtxⅨmOdelを用いて検討を行った。2-boxmcxlelに基づいた年間の土壌有 機炭素蓄積量は、1年間に1ヘクタールあたり天然林ではJ.3トン、ヤシ園では-2・2トン、 ゴム園では-3.1トンとなり、いずれの生態系でもマイナスの値を示し、特に天然林では多
くの炭素が土壌圏から失われていることが示唆された。しかしながら、㌻boxm∝始1を用 いて推定を行うと、モデルに新たな枯死根量を示すコンパートメントが入ること■によって
年間の土壌有機炭素蓄積量の値が大きく変化する可能性がある。試算では天然林の土壌炭
素蓄積量はほぼゼロとなった。土壌圏で生じている炭素動態のパラメーターはいまだ十分 に把握されておらず、特にヤシ園やゴム園の炭素循環に関連するデータはほとんど存在し なかった。このように高い精度での炭素動態・収支の推定には多くの問題点があることが 示唆された。 審 査 結 果 の 要 旨本学任意文は、マレーシア・パソ地域の土地利用形態の異なる生態系(天然林、
二次林、ヤシ囲およびゴム園)を対象に、①土壌呼吸速度の空間的不均一性と時 間的変動(日変化・季節変化)を明らかにすると共に、②土壌呼吸速度を規定す る要因■を解明し、③土壌呼吸量と土壌圏の炭素動態を明らかにすることを目的と した。本研究で得られた知見は以下の通りである。天然林、二次林、ヤシ囲およびゴム園における大面積(1ha∼2ha)での土壌呼吸
速度の空間的不均一性を把握するとともに、必要試料採取数についての検討を行っ
た。各生態系の土壌呼吸速度は、天然林で769mgCO2m.2hr-1、二次林で708 mgco2m,2Ⅰ廿 1、ヤシ園で815mgCO2mT2加,1、ゴム園で450mgqO2mlZ址.1の 値を示した。また、各生態系の土壌呼吸速度を平均値から±10% 以内の誤差範囲 で推定するためには、測定点数を67∼85地点と多点での測定が必要であることが 示唆された。本研究における測定は各生態系において16地点で行っていることか ら、本調査に基づいた広域評価は20数%の誤差が生じているものと推察された。 また、土壌呼吸速度と環境要因との関係を調べたところ、地温とはどの生態系に おいても有意な相関関係は認められなかった。一方、天然林、二次林およびゴム 園では、土壌呼吸速度と土壌含水率の間に有意な負の相関関係が認められた。さ らに、土壌呼吸速度の日変化、季節変化について検討した結果、本研究の調査地 では1日を通しても年間を通しても地温の変動は少なく、土壌呼吸速度め時間変 動に対して地温の影響は小さいことが示唆された。一方、土壌呼吸速度の平均値 は季節を通して変動しており、その要因として土壌含水率の影響が考えられた。 そこで土壌含水率がどのように土壌呼吸速度に影響するかについて明らかにする ために、天然林と二次林、ヤシ園において人工降雨実験を行ったところ、土壌呼 吸速度と土壌含水率の間に負の相関関係が認められた。 次に、土壌含水率をパラメーターとした3つの異なるモデル式を構築し、年間の土壌からの炭素放出量を推定した。その結果、天然林では1年間に1へクター
-29-ルあたり16.9∼19.2トンの炭素量を、二次林では17、5∼18.5トンが、ヤシ園では 14.3∼14.5トンが、ゴム園で時11.2トンの炭素量が土壌表面から放出されてい.る ことが明らかになった。天然林、二次林」ヤシ園ではモデル式の違いによって炭 素放出量の推定値には大きな違いは認められなかった。 以上について、審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の 学位論文として十分価値あるものと認めた。 学位論文の基礎となる学術論文は以下の通りである。