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事例外挿法による中学校技術科「計測と制御」教材の開発とその効果

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Academic year: 2021

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Title

事例外挿法による中学校技術科「計測と制御」教材の開発

とその効果( 本文(Fulltext) )

Author(s)

藤井, 務; 益子, 典文

Citation

[岐阜大学カリキュラム開発研究] vol.[23] no.[2] p.[35]-[41]

Issue Date

2006-03

Rights

Version

郡上市立石徹白小学校 / 岐阜大学総合情報メディアセンタ

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/23378

(2)

事例外挿法による中学校技術科「計測と制御」教材の開発とその効果

藤井 務

*1

・益子典文

*2 中学校技術科における情報とコンピュータ領域「プログラムと計測・制御」の学習において,計測と制御 のしくみを学ぶだけではなく,計測と制御の考え方に関する問題解決場面を提示しながら,科学技術活動を 理解する教材を事例外挿法により構成し,授業を行った.事例の選択にあたっては,教科書で扱われている 電子炊飯器など種々検討し,調査用紙により複数の事例を吟味した.結果として,技術科に対する意識等の 変容は見られたが,開発への参入意欲の向上は見られなかった.理科と技術科における外挿活動の目的や質 の違いをより明確にする必要がある. 〈キーワード〉 技術科,教材開発,科学技術活動,事例外挿法 Ⅰ.はじめに われわれの生活を支えている「道具や機械」を見渡し てみると,技術開発の目覚しい進歩によってほとんどわ ずらわしい操作をしなくても目的とする作業が確実に 行われるような「仕組み」を持っている.佐藤・入蔵・ 渡辺(1993)はセンサーとコンピュータにより制御され た機械を教えるための教材開発をする中で「最近の機械 の多くは「力のメカから知のメカ」という言葉が示すよ うに,へロンの5つの単一機械やルーローの機械の定義 からさらに進歩し,記憶や比較判断機能を有して自動化 されたものとなっている.身の回りの掃除機や洗濯機な どの家庭機械も例外ではなく,センサーやコンピュータ を内蔵し,ますます自動化され,便利になってきている. (佐藤・入蔵・渡辺,1993,p.119)」と述べている この「道具や機械」の変化をわれわれは「目覚しい 変化」ととらえ「大変便利になった」と感じている.な ぜなら,面倒な操作や負荷がかかった作業の経験がある からである.しかし,そういった体験や経験が少ない学 習者はどのように身の回りの「道具や機械」をとらえて いるだろうか.このような利便性への認識が基盤とな り,道具や機械のしくみや,計測・制御の必要性が認識 されるとするならば,技術科の中では,単に計測と制御 におけるプログラムの役割を学ぶだけではなく,①現代 的な計測の制御のしくみと特徴,②そのような特徴がど のように身近な科学技術と関わりを持っているのか,な どについても学ぶことが必要であろう.特に,科学技術 活動の重要性については,小林も指摘しているように, 科学技術の成果を受容することと,実際の科学技術活動 への興味・関心とがうまく接合していない現状では(小 林,1992),技術科授業におおいて,このような学習内 容を考えることは重要だと思われる. 生徒にとって身近と思われる事例を提示し,学習内 容が現実に問題解決に利用されている場面を提供しな がら教科の学習活動を展開する教材構成法として事例 外挿法が提案されている(益子,2003).これは理科学 習における教材開発が中心であるが,科学技術活動の認 識の重要性を指摘している点で,中学校技術家庭科と共 通の課題を含んでいる. そこで本研究では,種々の事例を検討しながら,事 例外挿法による技術科教材開発とその有効性を検証す ることとした. Ⅱ.教材開発のための基礎的調査 本研究の学習内容は「プログラムと計測・制御」の概 念形成である.この概念を活かして日常生活で使う多く の家庭用電気製品(以下,これを家電と表す)がつくら れている.たとえば,テレビ,全自動洗濯機,エアコン といったものである.これらはいわば,科学技術の成果 物(アメニティ)である.これらの機器をわれわれは当 然あるものとして利用している.しかし,これらが突然 *1 郡上市立石徹白小学校 *2 岐阜大学総合情報メディアセンター 岐阜大学カリキュラム開発研究 2006.3,Vol.23,No.2,35-41

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目の前に現れてきたものではなく,多くの先人たちの知 恵と努力によって技術開発がなされた結果であるとい う認識の上に立って理解しなければならない. では「プログラムと計測と制御」の学習においては, 学習前にどの程度,中学生はこれらの概念を認識してい るだろうか.普段接している中学生を見ていると,小林 の文明社会の野蛮人仮説にまったく合致した行為をす る姿がよく見られる.様々な家電に対する「これはすご い」,「なぜこんなことができるんだろう」といった驚 嘆や疑問の声はあまり聞こえてこない.つまり,様々な 家電製品を対象として考えた場合,普段見慣れているも のであるだけに,かえって認識の度合いは低いのではな いかと想像されるのである.中学生のアメニティに対す る認識を明確にするとともに,教材開発の資料とするた め,調査を行った. 1.調査 調査は,岐阜県内の公立A 中学校 3 年生 7 クラス 254 名を対象に行った.所要時間は10 分程度である. a.

調査事例

調査に用いる事例は,次の4 種類とした.選択理由 を含めて示す. ①携帯電話:学習者にとってもっとも身近で使用頻度 の高い(間接的も含む)アメニティである.使用方 法としては,電話としてはもちろん,メールやウエ ブ検索の端末機器として活用されることも多い.こ の機器が必要不可欠であると感じているものも少 なくない.時代の要請もあって最先端の技術が搭載 されている. ②電子炊飯器:学習者にとって身近ではあるが,直接 的に使用する頻度は少ないアメニティである.この 家電を使ってほとんどの家庭がご飯を炊いている と推測されるが,この機器の「必要感」や「仕組み」 について自分なりの考えを持っている生徒は少な いと考えられる.なお,「プログラムと計測・制御」 の内容で,教科書に掲載されているのは電子炊飯器 である. ③デジタルカメラ:学習者にとってあまり身近ではな 193 32 85 140 169 56 162 63 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 携帯 炊飯器 デジカメ アシモ それぞれの機器の機能を利用したい 思う 思わない N=225

(a)各機器に対する受容性

89 136 54 171 78 147 83 142 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 携帯 炊飯器 デジカメ アシモ それぞれの機器のしくみを考えたことがある ある ない N=225

(b)各機器のプロセスへの関心

206 19 168 57 189 36 192 33 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 携帯 炊飯器 デジカメ アシモ それぞれの機器を作った人はすごいと思う 思う 思わない N=225

(c)各機器の技術開発者に対する畏敬の念

42 183 22 203 41 184 59 166 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 携帯 炊飯器 デジカメ アシモ それぞれの機器を作る仕事をしてみたい 思う 思わない N=225

(d)各機器の開発に対する意欲

1 事例認識調査の結果(n=225)

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いが存在は認識しているアメニティである.最近は 携帯電話にもこのカメラ機能がついていることも あり,興味・関心は高いと推測される.一般的にIT 機器の1つとして活用頻度も高く,パーソナルコン ピュータの発達に伴って最先端技術が搭載されて いる. ④アシモ(最先端ロボット):学習者にとって「未来 から来た夢のような」アメニティである.厳密に言 うとまだアメニティとは言いがたいが,マスコミな どから注目され,実際に動いたりしゃべったりする 様子を映像等で見ることができるため,見たことが ないという生徒はほとんどいないと推測される.普 及率は大変低いし,その使用目的も明らかになって いないが,「最先端技術の象徴」のような存在であ る. b.調査内容 生徒の認識の実態を具体的・数値的に調査するために それぞれの事例に対し,4つの質問項目を用意した.項 目については,小林の科学技術と文明・社会の連関モデ ルにある「成果物に対する受容性(それぞれの機器のさ まざまな機能を利用したい)」「プロセスに関する関心 (それぞれの機器がはたらくしくみを考えたことがあ る)」「科学技術活動に対する参入意欲(それぞれの機 器をつくる仕事がしてみたい)」の項目を採用し,カッ コ内に記したように,中学生に対して具体的にイメージ しやすい文章で質問する.さらに「技術開発者に対する 畏敬の念(それぞれの機器を作った人はすごい人だと思 う)」という項目を追加した.その意図は,成果物(ア メニティ)を認識するとき,ハードの部分やテクノロ ジーの成果を受容的に認識するのではなく,それらを設 計開発した人の技術に着目することが重要と考えたか らである. 2.結果 分析対象としたのは,254 名中全質問項目に回答の あった225 名である.4 件法による回答を,ポジティブ な回答およびネガティブな回答に再集計した結果を図2 に示す. 全般的に,「受容性」と「技術者に対する畏敬の念」 は高い割合でポジティブな回答の割合が高いが,「プロ セスへの関心」と「開発意欲」は逆にネガティブな回答 の割合が高い.それぞれの項目の個々の事例について, ポジティブな回答とネガティブな回答の頻度を二項検 定したところ,すべて1%水準で有意であった.ただし, ①「受容性」については,電子炊飯器のみネガティブな 回答の割合が高い(利用したくない),②「プロセスへ の関心」では,すべての事例に対して「考えたことがあ る」という回答の割合が有意に高い,③すべての事例に 対し,その技術に畏敬の念を持ち,④開発に携わる意欲 についてはすべての事例についてネガティブな反応の 割合が有意に高い,という結果であった.また,それぞ れの項目において,4 つの事例を比較すると,①いずれ の項目でも電子炊飯器はポジティブな反応の割合が低 い,②「受容性」「プロセスへの関心」「技術開発者に 対する畏敬の念」はいずれも携帯電話が最もポジティブ な反応の割合が高いが,「開発に対する意欲」ではアシ モが最もポジティブ反応の割合が高い,という特徴も見 られる. 以上の結果から,教材の構成としては,携帯電話を事 例として様々な外挿活動を展開することが最も適して おり,電子炊飯器はそのような学習活動に最も適してい ない事例であると考えることができる. 3.教材に用いる事例の検討 事例外挿法では,学習者が現象の観察や簡単な解説に より,事象に対する納得が得られることが重要である. つまり,現象を理解するための解説が複雑になればなる ほど,本来の目的である概念形成からはずれ,科学技術 活動そのものの理解に労力が費やされることになる. 「プログラムと計測・制御」の内容では,単にフィー ドバック制御のプロセスを学ぶだけではなく,制御のた めにコンピュータ・プログラムが利用されていることを 知ることも重要な目標である.調査結果から最適と示唆 された携帯電話は,多種多様な制御メカニズムを備えて いる一方で,それらの制御を実現する「プログラム」の しくみは複雑であり(例えば人間の声のみを取り出す SAW フィルタなど),そのプログラム以前に「しくみ」 を理解するだけで時間と知識が必要となってしまう.一 方,理解が容易な計測・制御とそのプログラムという基 準で考えると,電子炊飯器が理解しやすいアメニティー

(5)

であるが,今回の調査で示されたように,最も評価の低 い事例でもある.しかし,74.7%の学習者が畏敬の念を 持っていることから,学習の冒頭に,電子炊飯器に関す る科学技術活動をそのまま提示し,計測・制御とプログ ラムとの関係を学習し,素朴な形での概念形成を図るこ ととした.すべての項目において評価が低いが故に,本 物の科学技術活動を体験的に理解することが逆に,最も 効果的な事例と判断したのである. デジカメとアシモを事例として選択した場合の授業 について種々検討を行った.デジカメの場合もオート フォーカス機構などに着目すべき技術が活かされてい るものの,CCD のしくみなどを併せて理解する必要が あり,このしくみの理解そのものは授業の目標とは異な るため,携帯電話と同じ理由で教材化には相応しくない と判断した.開発に対する意欲で最も評価の高かったの はアシモであるが,ロボットには多種多様な計測・制御 メカニズムが活かされており,これも容易に教材化する ことができるとは言えない.しかし,①アシモは開発に 対する意欲が最も高い事例であること,②ロボット開発 全体の理解ではなく,制御プログラムを作動させるため にセンサーを工夫している事例を扱うことは可能であ ること,③ロボットと「見た目は同じ」である「からく り人形」の制御方法と比較することにより,技術科の目 標であるフィードバック制御の概念形成を図りやすい こと,という3 つの理由により,ロボット開発における 「角度センサーであるエンコーダの動作原理」に焦点を 当てて教材化を図ることとした(ロボットの関節など曲 がる部分に取り付けられており,モーターの軸にスリッ トを設けたディスクを取り付け,これに光を照射する. モーターが回転するとスリットが光を遮る.この結果, 回転速度に応じた光パルス信号が得られる.このパルス 信号を読み取り,傾斜角度や方向・スピードなど測定す ることができるようになっている.) Ⅲ.教材開発と授業設計 ここまでの検討の結果を図2 に示す. 授業は全体で3 時間構成の学習とし,次のような構成 とした.なお,教材開発にあたっては,ロボット研究者 へのインタビューを行っている. 第1 時間目(基本的概念形成):電子炊飯器を分解す るプロセスならびに内部のセンサーや制御部の ロボット「ながら」 ロボット「ながら」 エンコーダー (角度センサー) 6軸 力 覚 センサ ー

機械制御

(シーケンス制御)

電子制御

(センサーによる

フィードバック制御)

先端技術における制御の工夫

(センサーの機能)

「違いは何か?」

センサー

「どうすれば計測(制御)できるか?」

プログラム制御

外挿

計測・制御の概念形成

外挿

2 事例外挿法による「計測・制御とプログラミング」教材の構成

(6)

コンテンツを開発し,学習者に提示する.さら に,電子炊飯器開発者の活動を記録したテレビ 番組のVTR(NHK 特集「新・電子立国・マイ コン・マシーンの時代」)の一部を提示し,プ ログラム開発に携わる努力を理解する.さらに, 条件を考慮し,模擬的にプログラミングを行う. 第2 時間目(外挿活動1):シーケンス制御とフィー ドバック制御の違いを理解することが目標であ る.からくり人形(学研「「大江戸からくり人 形」」を実際に学習者に提示し,電子炊飯器の 計測・制御とどこがどのように異なるのかを推 測する. 第3 時間目(外挿活動 2):センサーの工夫により, 様々な計測・制御が可能となることを理解する ことが目標である.岐阜県生産情報技術研究所 において開発中の二足走行ロボット「ながら」 のデジタルコンテンツを提示し,エンコーダー がどのようなしくみで角度を測定しているかを 推測する. 第2 時間目に,からくり人形のモデルを提示しながら 動作のしくみを解説している教室の様子を図3 に示す. Ⅳ.教材の評価 事前調査と同じ中学校において授業を行い,開発した 教材の評価を行った. 1.対象 岐阜県内公立A 中学校 3 年生 30 名. 2.評価方法 次の3 種類の評価を行う. ①教材の効果:授業で用いる自己評価シートに,次の 項目を掲載し,各授業の終了時に自己評価を求め る.授業に対する好意度(「今日の授業は楽しかっ た」),アメニティーに対する認識(「身の回りの 家電について見方・考え方や関心の持ち方が変わっ た」),技術者に対する畏敬の念(「技術開発に携 わる人たちの発想や活動に感動した」),計測・制 御の概念形成(「プログラムと計測・制御について それぞれの必要性や機能について知り,どんな働き をしているのか分かった」). ②授業前後の事例認識調査:事前調査で行った「携帯 電話」「電子炊飯器」「デジカメ」「アシモ」に対 し,受容性・プロセスへの関心・技術に対する畏敬 の念・開発に対する意欲の4 項目について 4 件法の 調査を行う.3 時間の授業前後で同一調査を実施し, 変容を見る. ③技術科の認識調査:金子・藤田の理科学習意欲調査 をもとに技術科用にアレンジした11 項目に対し,3 時間の授業前後に 4 件法で回答を求める.好感度 (「技術科の時間は,他の授業より短く感じる」,1 項目),挑戦(「技術科で学習したことをもっと詳 しく調べたい」等3 項目),教科の社会的価値(「技 術科の学習は将来の生活に役立つものが多いと思 う」等4 項目),有能感(「技術科の授業の中で友 達から頼りにされることが多い」等3 項目). 3.結果 a.教材の効果 次に,各授業時間毎の6 件法の回答を「思う」「思わ ない」の2 つのカテゴリーに分類し,ポジティブな回答 をした人数を表1 に示す.なお,2 時間目に休んだ 1 名 の学習者を除く29 名を対象とした. 項目毎・時間毎に統計量Z 値を算出し,検定を行った が有意差は認められなかった. 授業に対する好意度は,3 時間を通じて 80%以上を維 持し,意欲的に学習ができた傾向が見られる.それ以外 の3 つの項目については,授業ごとに「思う」という回 答数の割合が漸増していることがわかる.「プログラム

3 2 時間目の授業の様子

(7)

と計測・制御」の概念形成が徐々になされ,科学技術活 動への理解が少しずつ深まった傾向が見られる. 授業時間毎に記述を求めた自由記述の回答欄には,1 時間目終了時には「操作はボタン1つ押すだけれど,機 器の中ではプログラムのはたらきでいろいろなことが 行われていたことがわかった」「初めて炊飯器の中身を 見ることができてよかった.あんな風になっているとは 思わなかった」など,2 時間目終了時には「昔からの技 術が今につながっていることがわかった.(いろいろな 研究を重ねて今の技術がある.)」「改めて炊飯器はす ごいんだなと思った.応用が利くところがすごい.」な ど,3 時間目終了時には「人間の具体的な動きについて 考えることすら難しい.」「大変な工夫をしてつくられ ていることがわかった.」などの記述が見られた. b.事例認識調査 4 件法の回答を,「思う(してみたい)」「思わない (したくない)」に分類し,「思う(してみたい)」と いうポジティブな回答をした人数を表2 に示す. 授業前の傾向を見ると,受容度については電子炊飯器 が低く,プロセスへの関心および開発意欲は全般的に低 い.また,畏敬の念については全般的に高いことが分か る.授業後には特に,プロセスへの関心が高くなってい ることが読み取れる. 授業前後の「思う」「思わない」の人数の比を統計量 Z 値を算出することにより比較したところ,電子炊飯器 の受容度のみが5%水準で有意であった. c.技術科の認識調査 11 の項目に対し,ポジティブな反応とネガティブな反 応に分類し,ポジティブな反応を示した人数とその割合 を表3 に示す. 項目群で顕著な伸びが見られるのは「教科の社会的価 値」に関する項目である. 授業前後の「思う」「思わない」の人数の比を統計量 Z 値を算出することにより比較したところ,「技術科で 学習したことをもっと詳しく調べたい(挑戦)」,「技 術科の学習は将来の生活に役立つものが多いと思う(社 会的価値)」のみが有意であった. Ⅴ.考察 中学校技術科における事例外挿法による教材開発と その実践について述べた.今回の教材開発では,学習者 が学習前に持っている知識と,技術科で学習する知識と の調整が教材開発のポイントとなった.「計測・制御と プログラミング」の概念形成を図る立場から,第一の外 挿ではシーケンス制御とフィードバック制御の違いを 考える外挿活動を,第二の外挿では,ロボットを実現す る技術の関節部分のセンサーを事例として取り上げた. 時間数が極端に制限されている中(中3 で年間 17.5 時 間)での試行であったが,家電に対する認識としては, 開発技術に対する畏敬の念は事前からかなり高い割合 を示し,3 時間目終了時には約 90%の学習者がポジティ ブに回答している.また,今回教材として取り上げた電 子炊飯器に対する認識は授業の中でプラスの方向へ変 容するとともに,4 種類の事例すべてのプロセスへの関 心が向上した.また,概念形成の自己評価も約90%の学 習者が理解したと回答していることから,今回の教材に よる技術科における「計測・制御とプログラミング」の

1 授業時間毎の評価(n=29)

1時間目 2時間目 3時間目 好意度 25(86.2) 25(86.2) 24(82.8) アメニティー認識 17(58.6) 22(75.9) 25(86.2) 畏敬の念 20(69.0) 23(79.3) 26(89.7) 概念形成 21(72.4) 25(86.2) 26(89.7) 受容度 プロセス関心 畏敬の念 開発意欲 携帯電話 授業前 28(93.3) 8(26.7) 25(83.3) 6(20.0) 授業後 23(76.7) 15(50.0) 27(90.0) 7(23.3) 電子炊飯器 授業前 7(23.3) 7(23.3) 20(66.7) 5(16.7) 授業後 16(53.3) 13(43.3) 26(86.7) 7(23.3) デジカメ 授業前 20(66.7) 8(26.7) 24(80.0) 6(20.0) 授業後 24(80.0) 15(50.0) 27(90.0) 7(23.3) アシモ 授業前 21(70.0) 9(30.0) 24(80.0) 7(23.3) 授業後 25(83.3) 16(53.3) 28(93.3) 11(36.7)

表 2 授業前後の事例認識調査の結果(n=30)

3 授業前後の技術科の認識の変容(n=30)

授業前 授業後 好感度 ① 技術科の授業時間は,他の授業より短く感じる 17(56.7) 14(46.7) 挑 戦 ② 技術科に関することならどんなことでも知りたくなる 10(33.3) 13(43.3) 挑 戦 ③ 技術科の授業で設計どおり作品ができないと悔しい 25(83.3) 24(80.0) 挑 戦 ④ 技術科で学習したことをもっと詳しく調べたい 6(20.0) 13(43.3) 社会的価値 ⑤ 技術科の学習は生活と関係がある 27(90.0) 22(73.3) 社会的価値 ⑥ 技術科の学習は最新技術やIT機器の理解をするのに役立つ 17(56.7) 23(76.7) 社会的価値 ⑦ 技術科の学習は将来の生活に役立つものが多いと思う 15(50.0) 25(83.3) 社会的価値 ⑧ 技術科の学習は,社会生活や家庭生活を向上させる 12(40.0) 19(63.3) 有能感 ⑨ 技術科の授業の中で友達から頼りにされることが多い 9(30.0) 10(33.3) 有能感 ⑩ 技術科の実習などは,ほかの友達よりはやく進めることができる 12(40.0) 13(43.3) 有能感 ⑪ 技術科の授業はどちらかというと得意だ 21(70.0) 18(60.0)

(8)

概念形成と科学技術活動との橋渡しはある程度成功し たものと考えることができる.しかしながら,第一に, 各事例の開発への参入意欲はほとんど向上しなかった こと,第二に,中学校技術科の学習内容が身近な科学技 術活動が実感できる題材へと変化してきていることな どを考えると,益子らが提唱したような,理科における 「理科で学習する知識が実際に身近な事象における科学 技術活動で利用されている」ことを知る外挿活動とは質 的に異なる外挿活動を目標にすることが,技術科では必 要なことなのかもしれない.理科と技術科での外挿活動 の質的な違いについては,今後検討する必要がある. 引用・参考文献 1) 相田洋・荒井岳夫(1996)マイコン・マシーンの 時代,日本放送出版協会 2) 金子基一・藤田剛志(1996)理科における学習測定 尺度の開発,千葉大学教育実践研究,3, 107-119 3) からくり半蔵研究同志会(1995)機功図彙,高知県 南国市立研究所 4) 小林信一(1991)「文明社会の野蛮人」仮説の検討, 研究・技術計画学会,Vol.6,No.4,247-260 5) 益子典文(2003)科学的概念の理解を促進する事例 外挿法によるストリーミング・学習コンテンツの開 発,平成 14 年度科研費研究成果報告書(特定領域研 究[新世紀型理数科系教育の展開研究],課題番号 14022238) 6) 佐藤博・入蔵靖彦・渡辺武(1994)センサとコンピュー タにより制御された機械を教えるための教材開発,日 本産業技術教育学会誌,Vol.36,No2,119-126

参照

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