複断面開水路での基本的な魚類行動特性
著者
青木 宗之
雑誌名
工業技術 : 東洋大学工業技術研究所報告
号
36
ページ
73-77
発行年
2014
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007615/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja複断面開水路での基本的な魚類行動特性
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Compound Open Channel
青木宗之*
1
.はじめに
1
9
9
2
年(平成4
年)に,生物多様性条約が採択され た.この条約の目的は, (1)生物の多様性の保全, (2)生 物多様性の構成要素の持続可能な利用, (3)遺伝資源の 利用から生ずる利益の公正で衡平な配分,であり,日本 は1
9
9
3
年(平成5
年)に条約を締結した1) これを受 けて,動植物や植生の分布,河川│や湖沼,湿地などの自 然環境調査や生物の繁殖場のモニタリング調査などが 実施されてきている.また,河川では,1
9
9
7
年(平成 9年)に河川法が改正され, I河川環境」が注目を受け て,河川における環境や生態(系)に関する研究の論文 数が増加してきていることが指摘されている2) 国土交 通省河川局の Web上では,河川環境整備に関する指 針・マニュアル・ガイドライン等3)が非常に多く掲載さ れており, 2006年(平成18年)には I多自然川づく り基本方針J4)が発行された.このことも相まって,河 川│中に生息する 「魚類」を対象とした研究事例が増加し た例えば5),6) また,近年では地球温暖化による気候変動の影響で, 集中豪雨などにより降水量が増加し7),洪水が頻発化し ている.日本の河川の多くは,低水路と洪水時に水を安 全に流下させるために設けられる高水敷とで構成され る複断面開水路である.複断面開水路内で、の流れは,低 水路と高水敷との境界部などに形成される水平渦や二 次流などの三次元的な複雑な流れの様相を示すが,流れ 構造の解明への努力が多くされてきた例えば8),9) しかし, その複断面開水路内での魚の行動に関する研究は多い とはいえず,特には明確にされていない.洪水時の魚の 行動を明確にすることは,魚の生息、実態の把握,生息環 境,避難場所や生態系の維持・創生を計るうえで非常に 重要で、あると考えられる.これは,生物多様性を考慮し た今後の河川計画にとって重要である. *理工学部都市環境デザイン学科E
令
b=12.5(cm)1 B=20(cm) 低水路 b f=7.5(cm) 高水敷 150(cm) a) 平面図 て7 h=2.8(cm) に 呂J 1 1 高水敷 両 、、 y b) 断面図 図-
1
小型実験水路 2.実 験 概 要2. 1
模 型 実 験 の 意 義 実験水路では,多様な流れを容易に形成することがで き,目的に応じた流れをつくり出すことができる.また, その流れに対し,実魚を使用した実験を繰り返し行うこ とが可能である.これより,模型実験は魚類行動特性把 握データの積み重ねができ I流れ」に対する魚類行動 特性把握を明確にするために,非常に有利である. また,魚は体長相当分の長さしか流れを認識できない ため 10),流れに対する魚類行動特性把握を明確にする ためには,その場の「流れ」の把握が重要である.よっ て,魚と実験水路の縮尺については,過度にこだわる必 要はない.2. 2
実験水路および実験ケース 実験水路は,小型の模型実験水路を用いた.実験水路 は図一1であり,水路幅B=20(cm)の小型水路を用いた. 実験は,複断面開水路の流れ特性に対する魚類行動特性複断面開水路での基本的な魚類行動特性 Basic Behavior Characteristic of Fish in Compound Open Channel 青木宗之 表
-
1
小型実験水路を用いた実験ケース 流量 局水敷高さ 低水路水深 雨水敷 水深 h/H HID Q(νs) D(cm) H(cm) hやm) Run1 6.3 7.8 Run2 6.0 5 7.8 2.8 0.36 1.56 把握に着目している.高水敷は,水路右岸側に設け,高 さD=5(cm)とした.ここで,複断面開水路の流れの特 徴である,二次流等が形成される条件は,HID>1.5で
あるため 11),実験水深Hを7.8(cm)とした.これによ り,
H/D=1.56となり,複断面開水路流れを形成するこ ととした.なお,実験ケースは表-1である.Run2が複 断面開水路であり,この比較対象として, Run1には高 水敷を設けていない単断面開水路流れとした.なお,実 験を行うにあたり, Run1およびRun2での水路壁面に おける流速を同程度にするために,流量Qが異なって
いる. 2. 3 水 理 量 の 測 定 魚類行動は,主として流速に依存することが分かつて いる 12) そのため, xy 方向 (uゆおよび yz 方向(~比お ける流速の測定を行った.これにより, 3次元の流速デ ータを把握できる.測定には,二次元電磁流速計I型お よびL 型を使用し,サンプリング周波数を 100(Hz)と し, 1測点毎に512個のデータを採取した.2. 4
魚 類 行 動 特 性 の 把 握 魚類行動特性を把握するために,実魚を用いた魚類行 動特性把握実験を行った.実魚には,水産価値が高く, 河川環境の指標種としてよく用いられるアユと同様に, 強い走流d生を持っているウグイを用いた.ウグイは,体 長4.0(cm)以上であれば,成魚と同様の流速を好んで、遊 泳する 13)ため,平均体長BL
が5.0(cm)のウグイを用い た.これにより,魚類行動特性を十分に把握することが できる.なお,用いたウグイの最大体長は5.9(cm),最 小体長は 4.0(cm))である. 水路サイズと魚が魚群行動をする習性を考慮し, 1回 74 8遊泳深度(cm) 平均遊泳深度 1.7(cm) 6 4 2。
。
5 10 15 20 a) Run1 (単断面開水路) 8遊泳深度(cm) 一 部 深 度(cm)一 平均(cm)j 平均遊泳深度:1引cm) 6 2。
。
5 10 15 20 b) Run2 (複断面開水路) 図-
2
魚の遊泳深度(小型実験水路) の実験につき 3尾のウグイを使用した.方法は,それ らの魚を測定対象領域の下流に放流し, 30分間を流水 に馴れさせた.その後に,魚の遊泳行動を上方および側 方から高速・高解像度カメラで撮影し,魚の遊泳行動を 解析した. 3.実験結果3
.
1
魚の遊泳深度 Run1 (単断面開水路)における実験開始時からの魚の 遊泳深度は,概ね水路床付近であり,単純平均した結果, z=1.7(cm)で、あった(図-2a)).一方, Run2 (複断面 開水路)における魚の遊泳深度の単純平均は z=1.4(cm) であり(図ー2b)), Run1と同様に底面付近を遊泳して いた.しかし単断面および複断面開水路流れにおける, 遊泳深度の標準偏差σおよび分散がに着目すると(表 -2), Run1よりも Run2の標準偏差σおよび分散σ2の ほうが大きい値であった.このことは, Run2におけるy(cm) 20,.-一 一 10 15 5 魚の遊泳深度における平均・標準偏差 ・分散 Run1 (単断面) Run2 (複断面) 平 均μ 1.7(cm) 1.4(cm) 一 一 一一一圃目一一圃目一一一一一圃目一一一……圃目一一一……圃目一一一…一圃目一……一一圃目一一一……一一一一一圃目一一……一圃目一一一……,目一一一…圃目一一一…圃一一 一一一目,一一一…,目一一一一 一 一E目一,一一一一一圃目一一一一,一一一一一目一一一一…圃“山…一一…山…一…圃一目一一一……圃目一一……“山………e…圃目一……,…“…一……e.一……阻目山一一…. .山一一一山一……‘h山….吋叫‘“‘一一目一一圃目圃 可.目.目可圃一一目 一 一 可 標準偏差σ 0.45 0.82 一一 一 分 散σ2 0.21 0.68 表
-
2
。
x(cm)150 100 50。
一一一-重堕亘 一一一単監亘 Run1 (単断面開水路:平面) z~cm) 8 6 4 2 同 一 一同 一ん
と
c -寸 , 一 -A 守 -度 一 一度 一 深 一 一深 一 泳 一↑ 泳 -遊 一 一 遊 一 均 一 一均 一 平 一一 平 一 る 一 一 る 一7
一
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一 同 一 同 十 l l J ﹄ A -2 q d -ユ m 一 一 m 一 一 、 一F
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﹂ - l A L ↑ ¥ 一 件 , ‘ k、
-魚の遊泳深度の確率密度 圏一3
0.8 0.6 0.4 0.2。
y(cm) 0 5 10 15 20。
Run1 (単断面開水路:横断,投影データ) b) 遊泳深度が, Runlの遊泳深度よりもパラついているこ とを示している.また, RunlおよびRun2おける遊泳 15 Run2での遊泳 深度のピーク値は, Runlに比べて小さい値を示してい y(cm) 20 ーョ届 管。 r F
。
。
3 2
。d も . . K 。~ 向。 も。問。句<f'(/'。も6p -深度の確率密度を比較しでも(図-
3
)
, 8 8 r。
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令
10 5 ることが分かる.。
魚の遊泳特性2
3.
150 x(cm) 100 50。
b)であり,約 Runlでの魚の存在箇所は図-
4
a), Run2 (複断面開水路:平面)i
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高水敷 日。。
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8 ∞ a 巴 95(%)の魚が壁際を遡上していた.魚の存在箇所を横断 分布で見ると,壁際を遡上していた約95(%)の魚が,左 8 20~ 右岸に二分化していた.壁際の時間平均流速は, 6 このとき,魚は走流性を発揮し 30(cm!s)程度であった. 4 (側壁選好性).魚が遡上した箇所の て壁際を遡上した 2 時間平均流速は,魚の体長の 4~6 倍程度の流速であ y(cm)0 5 10 15。
20。
り,魚の遊泳特性(走流性,側壁選好性)が明確に現れ た. Run2 (複断面開水路 :横断,投影データ) d) Run2における魚の存在箇所は図ー4
C),d
)
で 一方, 魚の存在箇所 図-
4
あり,左岸側,低水路河岸および右岸側(高水敷上)と, これは,魚 大きく分けて 3箇所に魚が存在している. Run2 における時間平均流速は,低水路で 5~ また, が低水路河岸を側壁として認識したためであると考え それぞれ魚の 1~5倍と,水深方向および横断方向 高水敷で 5~30(cm/s) であり, 体長の 1~13 倍, -75 -65(cm/s), られる.そのため,左右岸および低水路河岸において, 魚の遊泳特性である側壁選好性が確認されたといえる.複断面開水路での基本的な魚類行動特性 Basic Behavior Characteristic of Fish in Compound Open Channel 青木宗之 g
再
m) ー 、 3 21
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5 y(cm) 0 お線層圏圃E・
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工
3040
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60
II{c凶s70
) 図-
5 Run2
での時間平均流速コンターと魚の遊泳軌 跡図(複断面開水路:x=80~150(cm)) -6 -8。
2 3 4 (s) 5a
)
流速v
同 吋 叫 C C C 2 A 斗 r o - - 一 一 一 一z
z
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二二二
;
z
i
j
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│
。
2 3 4 (s) 5 b) 流速 w 図-
6 Run2
での流速V,流速wの時間変化(
y
=
l1(
c
m
)
)
に多様な流れが形成されている(図-
5
)
.
このような流 れの状況において,魚は低水路河岸から高水敷へ移動し た.魚が高水敷へ移動した行動を動画解析した結果,魚 は頭を水面方向に向けて遊泳していた.そこで,Run2
S約:スベクトル 100.~V" '. 10 -A U I A U。
1
0
1
0
0
f:周波数(Hz) a) 高水敷周辺(
y=
9
(
c
m
)
,z
=
5
(
c
m
)
)
S
(f):スベクトル100-V"'.
IO。
0.10
.
1
1
0
1
0
0
f:周波数(Hz) b) 水路中央付近周辺(
y
=
l1(
c
m
)
,z
=
4
(
c
m
)
)
図-
7 Run2
における低水路内の乱れのスベクトル におけるy
=
1
1(
c
m
)
で、の流速Vおよび流速Wの時間変化 に着目した(図-
6
)
.図-
6
は,z
=
2
(
c
m
)
からl
(
c
m
)
毎にz
=
6
(
c
m
)
までの流速κ流速 wを示しており,流速wは 流速 vの2
倍程度の大きさである.y
=
1
1
(
c
m
)
は,魚が 高水敷に向かつて遊泳した場所であり,流下方向の流速 uに加えて高水敷から落ちる流れが形成された結果,鉛 直方向の流向は下向きになっている.y=l1(
c
m
)
での時 間平均流速は, 20~40(cm/s)程度で、あり,流速 w の 4 ~7 倍程度の大きさである.そのため,魚は流速 u のつ ぎに流速 wの流れを優先して感知したものと考えられ る.高水敷に乗った魚は,その後低水路へ降り,左岸側 へ移動した(図-
5
).
さらに,Run2
において低水路内で魚が遊泳した箇所 周辺の流れの乱れについて,FFT
解析を行った(図ー7). その結果,高水敷周辺や水路中央部におけるスベクトル-76
一はlIf勾配14)であり,流れがlIfゆらぎを持っているこ とが分かつた. lIfゆらぎは, 全ての生体に対して快適 な感覚と与えるものとして知られている 15) そのため, 魚が l/fゆらぎの流れを感知し,低水路・高水敷聞を移 動したものと考えられる.