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遺伝子型経営における経営志向性 : 企業遺伝子に関する調査にみる遺伝子型経営の実態と課題 (管理者教育研究グループ) 利用統計を見る

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(1)

遺伝子型経営における経営志向性 : 企業遺伝子に

関する調査にみる遺伝子型経営の実態と課題 (管理

者教育研究グループ)

著者

吉村 孝司

雑誌名

経営力創成研究

8

ページ

97-107

発行年

2012-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003367/

(2)

遺伝子型経営における経営志向性

―企業遺伝子に関する調査にみる遺伝子型経営の実態と課題―

Preliminary survey of the Genetic-management in Japan

東洋大学経営力創成研究センター 客員研究員 吉村 孝司 要旨 企業による経営行動における正負双方の行動性においては、ある種の特異性と 限定性の存在を確認することができる。すなわち正の経営行動のひとつとしての イノベーションや、負の経営行動としての不適切行為または不祥事については、 あまねく企業にその生起を期待または予見できるものの、現実的にはそれらの発 生事実においては特定の企業に限定的に確認されることが多い。本稿ではこうし た経営行動上の差異性をもたらす要因としての「企業遺伝子」の存在を示唆する とともに、創業期間の変化(長期化)過程における当該遺伝子の形成かつ継承過 程に関する解明・検証作業を通して、いわゆる遺伝子型経営としての企業経営に おける志向性の変化と、そこに存在する課題についての考察を内容とする。 キーワード(Keywords):企業遺伝子(corporate gene)、企業 DNA(corporate

DNA)、イノベーション(innovation) Abstract

We can find the factor of uniqueness and limitation on the positive and negative action of the corporate behavior.

For instance, innovation and injustice or scandals of corporation are never seen in all companies, but we can see on the certain specific companies.

The existence and process of formation and succession of a corporate gene is suggested by this research, and consider the preliminary survey of the Genetic-management in Japan.

問題の視座

現代企業を取り巻く経営環境の変化は加速化の一途をたどり、多くの企業が淘 汰をみてきた。1960 年代における経営戦略の体系化のはじまりと同時に戦略的経 営への志向性の高まりをみてきたが、その一方において、企業という存在をめぐ る再考に向けた動機づけをいまひとたび強化させることとなってきている。すな わち、90 年代の後半からは企業による不祥事もしくは不適切行為としての反社会 的行為が特に注目されるなかで、企業の社会的責任(CSR: corporate social responsibility)の在り方をめぐる検討が活発化する一方で、依然として企業によ る不祥事や不適切行為は根絶されることなく、その連続的発生にみる理由および

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原因、さらにはその背景に存在する要因のいずれもが人的要因であるとともに、 時に稚拙もしくは独善的な要因であることに気づく。 こうした現代企業をめぐる諸現象に注視するとき、指針と規則および戦略に裏 打ちされた経営を目的とした機能体(mechanism)を前提としてきた企業に対し、 その対極に存在するともいえる有機体(organ)としての側面を強く意識すると いう事実が存在する。本稿における先行研究としての(1)企業における革新 (corporate innovation) の具現プロセスにおける不連続性の存在および具現時 点における好機逸脱性と遅滞性の存在(吉村,1995)、(2)企業不祥事における 連続性の存在(吉村,2010,pp.170-174)の二例においては、製品革新(product innovation)の具現実態を産業レベルでの断続性を認めつつも、個別企業での連 続性確保における困難性の存在と、製品革新の実現における時期的遅滞性もしく は好機逸脱性の存在の確認および、不祥事の発生が特定企業に連続(頻発)する 事例が確認され、その発生要因としての人為性の存在が検証されるとともに、こ れら諸現象の起因としての企業(組織)に内在する有機的要因としての遺伝性に 着目し、企業遺伝子の存在が企業経営における、とりわけ革新的経営の展開状況 に強く作用していことが示唆されている。 本稿では経営に関するいわゆる理念や文化、哲学に関する考察だけでは完全に は解明することが困難こうした経営現象に鑑み、新たに企業遺伝子という視点か らの考察を加えることで、いわゆる遺伝子型経営としての企業経営の解明を試み ることを目的とし、以下にその考察を図るものである。

1. 企業遺伝子

本稿における企業に関する解釈については、企業を「組織を介して個人から編 成され、さらに外部環境に存在する異なる企業との関係を有する存在」かつ「器 官たる生命体」としてとらえ、特に生物学上の遺伝子によって制御される「個人」 を企業形成における始点ととらえることで、企業も最終的には遺伝子による影響 と作用から不可避の存在であるとしている(吉村,2010,pp.167-168)。あわせ て「企業遺伝子」に関しては、「目に見えない情報として組織に埋め込まれた企業 文化である経営理念や経営者が作り上げた独自の価値観をその“会社らしさ”と して醸成し、従業員の行動指針や価値基準となるもの」(日経情報ストラテジー, 2003)であり、「企業の存続・発展・衰退を規定する企業内人材のなかにある価 値基準という情報単位」とし、その本質を「企業哲学・企業価値・行動指針・企 業文化・社風といった価値基準=情報単位」に存在する(野口,2003)とする考 え方や、「創業から今まで、たとえわずかでもその企業で働いた経験をもつ人すべ てによって形成されたもの」であり、「創業から現在に至るまでに培われた、企業 の持続的競争優位の源泉となる組織文化」(リクルートワークス研究所,2005) とのとらえ方が存在している事実を踏まえ、「個々の企業において“すべての従業 員の価値基準や思考基盤および行動指針として脈々と継承されているもの”」であ り、「正の経営行動としてのイノベーションや戦略的行動、負の経営行動としての

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企業不祥事や不正行動に対する動因」として定義づける。 本来、遺伝子(gene)とは染色体中に一定の順序で配列され、遺伝形質を決定 し、細胞から細胞へと伝えられる遺伝情報因子を意味し、その本質は DNA (deoxyribonucleic acid:デオキシリボ核酸)と呼ばれる化学物資である。DNA は①形質決定、②維持・継承、③変化・変異、④進化・定着、という4 つの機能 のもと、種の環境適応を図るうえで不可欠であると同時に、生物にとっての情報 的因子としての機能を有し、情報の複製(copy:DNA 自体の複製)を行いなが ら伝承的機能を果たしている。 また遺伝子が有する特性としての利己性がある。遺伝子研究の一人者である Dawkins,R.(1964)は「遺伝子の利己性(利己的遺伝子仮説)」とは、遺伝子が 有する潜在的不滅性ゆえに、対立する遺伝子との競合のなかで、それらの遺伝子 を犠牲化することで自らの生存可能性の増幅化をはかる機能をさし、その結果と して、遺伝子は自らの優劣に基づいて生存もしくは死滅のいずれかに関する選択 を行い、優秀な遺伝子のみがその生存に適した特殊環境としての「遺伝子プール (培地)」(1) において生存し続けることを示唆した。培地としての遺伝子プールに おいて自らの生存を可能とさせる当該機能は、まさに遺伝子レベルでの環境適応 能力の存在を意味するともいえ、企業にとって不可欠な環境的能力についても企 業遺伝子によって制御されていると考えることができる。 以上にみた先行諸研究を踏まえ、本稿では「ソフト」としての企業遺伝子を内 包させた「ハード」としての企業DNA という構図での解釈を基に、つぎに企業 経営における遺伝子学的過程の分析をみることとする。

2. 企業経営における遺伝子学的過程分析

本稿では、企業遺伝子を構成する「個人遺伝子」、「組織遺伝子」、「企業遺伝子 (本社以外)」の三種の遺伝子と、各遺伝子を構成する因子として、「価値因子」、 「能力因子」、「理念因子」、「文化因子」、「革新因子」の五種の因子の存在をあげ る。「価値因子」とは、個人、組織および企業の三者(以下、三者と表記)が保有 する価値観を指し、三者による意思決定や行動における指針の基盤となるものを 意味する。「能力因子」とは、三者のそれぞれが有する各種の能力を指し、三者の 行動に差異を生じさせる要因を意味する。「理念因子」とは、三者が保有する哲学 や理念としての思考枠組みを指し、その結果としての意思決定や行動に決定的な 影響を及ぼすものを意味する。「文化因子」とは、三者が有する文化を指し、とり わけ企業文化に代表されるような、独自の思考および行動様式として具現される。 「革新因子」とは、前述の革新性とほぼ同様であり、三者が持ち得る資源を新た に結合(新結合)し、つねに創造的破壊を志向する際の基盤となるものを意味す る。 個人、組織および企業(本社以外)のそれぞれが保有する遺伝子は、これらの 五種の因子を結合させる中核体として存在し、三者の遺伝子を取り込むかたちで 企業遺伝子が存在するものとしてとらえることで、個人、組織、企業(本社以外)

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のそれぞれのレベルでの遺伝情報形成過程において、企業遺伝子との結合を果た していく過程モデルとしての企業遺伝子モデル(図表 1)を示す。ここで、企業 遺伝子を構成する遺伝子としての企業遺伝子(本社以外)に関する若干の注意が 必要とされる。企業は単体としての存在というよりも、複数の企業体を子会社ま たは関連企業として擁するかたちで存在することが多く、本社が保有する遺伝子 と、子会社または関連企業が保有する遺伝子は自ずと異なる存在であるが、後者 の遺伝子が前者の遺伝子に収斂されるかたちで遺伝情報を形成するものととらえ る。よって本稿における企業遺伝子とは、本社が保有する遺伝子を意味し、子会 社または関連企業が保有する遺伝子については、「企業遺伝子(本社以外)」とす る。 図表1 企業遺伝子モデル

3. 企業遺伝子に関する実証分析

3.1 実証分析方法の概要 本稿においては、企業遺伝子の存在事実の確認を目的として、わが国の企業を 対象として初めて実施された調査(2) を基に主題に対する見解を提起する。 当該調査は、わが国の代表的企業と、いわゆる老舗企業と称される創業期間の 長期におよぶ企業を調査対象とし、調査の精度を確保するための調査対象母数と して、わが国における株式市場の代表的指標の一つとしてのいわゆる「日経225」 対象企業(以下、「日経225 企業」と定義)を主たる調査対象としている。また 日経225 対象企業にあって、その創業期間が長期におよぶ企業については、まず

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創業または設立後100 年を基準として、その前後 10 年にある企業(以下、「100 年企業」と定義)と、いわゆる老舗と称される企業については、株式会社帝国デ ータバンクの定義(3) に基づく「創業や設立から100 年以上(1908 年以前の創業 または設立)経過した営利法人としての老舗企業(以下、「老舗企業」と定義)を 調査の対象としている。 調査方法については、企業遺伝子の存在に関する調査を主軸に、①従業員に関 する設問、②経営者および管理者に関する設問、③調査対象各企業の特徴に関す る設問、④調査対象各企業における経営に対する価値観に関する設問、の4 つの 分析視点から40 項目にわたる質問項目に対する評定尺度法(5点満点)による 回答および調査対象各企業における経営理念、企業文化、求める人的資源観、企 業遺伝子に関する具体的説明、の4 項目に関する記述式回答を内容とするアンケ ート方式(FAX によるアンケート方式)を採用し、当該調査における対象企業数 および回答数については図表2 のとおりである。 図表2 アンケート調査対象企業数および回答数 カテゴリー サンプル数 有効回答数(%) 日経225 企業 76 30(39.5) 100 年企業 149 16(10.7) 老舗企業 128 14(10.9) 計 353 60(17.0) 出所:筆者作成 3.2 実証分析内容の概要 (1)各設問にみる回答状況 当該調査における主たる回答状況はつぎのとおりである。 ①従業員に関する設問結果からの示唆 「社内の事情や前例、慣例にとらわれることなく、自分の考えに基づいて行 動している」に関しては、日経225 企業が 3.52 ポイント、100 年企業で 3.50 ポイント、老舗企業で3.14 ポイントとなり、老舗企業が若干ではあるが社内事 情や前例、慣例の遵守傾向にあることが示された。 「いまの仕事をこれからも長期にわたって続けたいと思っている」について は、日経225 企業が 4.13 ポイント、100 年企業が 4.06 ポイント、老舗企業が 4.57 ポイントであり、老舗企業の従業員における現在の仕事に対する継続意向 性の高さが明確に示されている。 ②経営者および管理者に関する設問結果からの示唆 「社内の事情や前例、慣例にとらわれることなく、自分の考えに基づいて行 動している」に関しては、日経225 企業で 4.00 ポイント、100 年企業で 4.00

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ポイント、老舗企業で3.64 ポイントであり、老舗企業の経営者および管理者が 従業員同様に、社内事情や前例、慣例の遵守傾向が高い状況にあることが示さ れている。 「社員間の意見の対立やコンフリクトを恐れない姿勢で仕事を遂行している」 については、日経225 企業で 4.00 ポイント、100 年企業で 3.60 ポイント、老 舗企業で3.86 ポイントであった。日経 225 企業と 100 年企業との比較に関し ては、後者においてすでに老舗企業に近い志向性が表れ始めていることは興味 深く、日経225 対象企業であってもその創業からの経過年数が高まることで社 内環境および組織構成員間の関係性への配慮が反映される傾向にあることが考 えられる。 「経営者および管理者は内部昇進者である」については、日経225企業で3.79 ポイント、100 年企業で 4.40 ポイント、老舗企業で 4.00 ポイントとなってお り、日経225 対象企業にあってその創業期間が長期化している企業における経 営者および管理者層の内部昇進率が高いことが反映される結果となっている。 「経営者や管理者に同族(創業者の血縁者)が多い」に関しては、日経225 企業で1.40 ポイント、100 年企業で 1.73 ポイント、老舗企業で 3.00 ポイント と、3カテゴリー間での明確な差異が確認され、老舗企業における経営者また は管理者における同族性の高さが明確に示される結果となっている。 ③調査対象各企業の特徴に関する設問結果からの示唆 「独自の哲学または理念があり、その継承に努めている」に関しては、日経 225 企業で 4.03 ポイント、100 年企業で 4.13 ポイント、老舗企業で 4.57 ポイ ントであり、企業の創業以降の経過年数との関係性という点からみた場合、創 業期間の長期化に伴い、自社の経営哲学または経営理念の保有ならびにその継 承に注力する傾向が存在していることが反映され、とりわけ老舗企業における 当該志向型の経営展開状況が明確に示される結果と考えられる。 「社歌・社旗・社章(バッジ)、制服(主に事務職)が定められている」につ いては、日経225 企業で 3.72 ポイント、100 年企業で 3.31 ポイント、老舗企 業で4.21 ポイントとなっており、老舗企業における差異が確認できた。この点 については老舗企業のほうが当該施策等を導入するうえにおいて規模的な側面 において比較的有利であると考えられることに加え、老舗企業における経営哲 学または経営理念志向型の経営が展開される状況にあることが明確に示される 結果の表れととらえることも可能と考えられる。 「社員旅行や懇親会(飲み会など)が定期的に催されている」に関しては、 日経225 企業で 3.00 ポイント、100 年企業で 3.19 ポイントであるのに対し老 舗企業では3.86 ポイントと高く、従業員規模の点や従業員間関係の緊密性が経 営施策の一環として機能しているものととらえることができる。 ④調査対象各企業における経営に対する価値観に関する設問結果からの示唆 「利益の追求が一番大切なことと考えている」に関しては、最近の企業の社

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会性の重視に対する企業の思想を問うことを目的とした設問であるが、この点 については日経225 企業が 3.14 ポイント、100 年企業が 3.00 ポイント、老舗 企業が3.64 ポイントであり、老舗企業における経済目的志向性が他カテゴリー に比較してやや高いことが反映される結果となった。 「事業を未来永劫に続けることが大切であると考えている」に関しては、日 経225 企業で 4.43 ポイント、100 年企業で 4.25 ポイント、老舗企業で 4.57 ポイントであり、この点においても老舗企業における事業継続体(going concern)としての志向性の高さがわずかなりに明確に示される結果となって いる。 「会社の理念や哲学はこれからも脈々と継承されなければならない」につい ては、日経225 企業で 4.54 ポイント、100 年企業で 4.38 ポイント、老舗企業 で4.86 ポイントであり、老舗企業における回答値がきわめて高いことから、老 舗企業における経営哲学または経営理念志向型経営に対する志向性の高さと事 業継続性に関する志向性の高さが明確に示される結果といえる。 「優秀な経営者となりうる者がいれば、同族経営にこだわらない」について は、日経225 企業で 4.22 ポイント、100 年企業で 4.31 ポイント、老舗企業で 3.29 ポイントとなっており、老舗企業における他カテゴリーとの明確な差異が 確認できた。この点については日経225 企業および 100 年企業に比較して老舗 企業の経営における同族性の高さを示す結果と判断することができる。 「貴社には企業遺伝子とよばれるものが存在している」に関しては、本調査 において最も根幹をなすと同時に重要な位置づけとなる設問であり、企業遺伝 子の存在に対し、「あてはまる」43%、「どちらかといえばあてはまる」19%の 高率回答が得られ、3 カテゴリー合計のうち 62%の企業が企業遺伝子の存在を 肯定していることが判明した。なお、各カテゴリー別にみる平均ポイントでは、 日経225 企業で 3.74 ポイント、100 年企業で 4.20 ポイント、老舗企業で 4.25 ポイントであり、企業には「企業遺伝子が存在する」と判断しうる結果といえ る。 また企業遺伝子の存在に対する回答のうち、「あてはまる」および「どちらか といえばあてはまる」への回答選択状況については図表3のとおりであり、100 年企業における反応が他の2 カテゴリーに対し際立っている点が興味深い。こ のことは、日経225 対象企業にあって、創業以降の経過時間の長期化にともな い、企業遺伝子の存在を肯定する傾向が明確化してくることを示すものであり、 3 カテゴリーのなかで、100 年企業、老舗企業の二者に対して日経 225 企業に おける数値が他のカテゴリーよりも若干低いことがその事実を裏付けていると 考えられる。また日経225 対象企業にあって、とくに 100 年企業における企業 遺伝子の存在に対する肯定回答が71.4%と非常に高いことは、日経 225 対象企 業内での「老舗企業化に向けた遺伝子型経営への志向性の高まり」事実を示し ているものと考えられ、創業以降の経過時間が長期化する過程において当該企 業の経営における独自性や他社(他者)との比較相違性が際立ってくるものと 考えられる。

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図表3 「企業遺伝子の存在(3カテゴリー別計)」 (%) 出所:筆者作成 (2)「企業遺伝子の存在」との関係 つぎに当該調査における主要設問である「企業遺伝子の存在の有無」に関し、 各設問との相関関係について検討する。ここでの具体的な分析方法は、企業遺伝 子の存在に関する設問(調査対象各企業における経営に対する価値観に関する設 問10)と当該設問を除く 39 問のそれぞれにおける相関係数を算出し、相関関係 の高低に基づいて精査することを内容としており、5%の有意水準に照らしての 分析においては、創業年度と企業遺伝子の有無に関するレベルは有意に負の相関 があるといえ、創業以降の経過年数が短いほど、企業遺伝子の存在反応が弱くな る(=創業以降の経過年数が長期化するのに伴い、企業遺伝子の存在反応が強ま る)という結果を得た。 ①従業員に関する設問結果からの示唆 企業遺伝子の存在を肯定する老舗企業ほど従業員における経営理念の理解度 が高いことが判明した。また、従業員の自立性の高まりと企業遺伝子の存在と の間における相関性が存在することが明らかとなり、企業目的に合致した行動 をとるためには企業遺伝子が受容されていることが要件であると考えられる。 企業遺伝子の存在に肯定的な老舗企業では従業員が組織構成員として高い誇 りを有している実態を伺うことができるとともに、老舗企業における「事業の 継続性志向」と「従業員による仕事継続性の高さ」と企業遺伝子の存在との間 には相関性が存在していることが確認できた。 ②経営者および管理者に関する設問結果からの示唆 企業遺伝子の存在に肯定的な老舗企業の経営者または管理者は、自社の方針 や経営理念に忠実な経営を志向していることが確認された。 ③調査対象各企業の特徴に関する設問結果からの示唆 企業遺伝子の存在を肯定する日経225 企業においては、自社の経営理念や将 来のビジョンに触れる機会が多いことが確認できた。 「独自の哲学または理念があり、その継承に努めている」に関しては、日経 225 企業で(0.69)、老舗企業で(0.54)と高い相関が確認できた。 「社外者からの助言や提言を大切にしている」については、日経225 企業の あてはまる どちらかと いえばあて はまる どちらとも いえない どちらかと いえばあて はまらない あてはまら ない N.A. 日経225 企業 35.7 17.9 21.4 7.1 7.1 10.7 100 年企業 52.4 19.0 19.0 4.8 0 4.8 老舗企業 42.9 21.4 21.4 0 0 14.3

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みにおいて高い相関(0.58)が確認されたのに対し、老舗企業においては極め て低い相関(0.05)となっていることが興味深い。100 年企業における相関も (0.19)と低く、創業期間が長期化するのに伴い、外部からの助言や提言を入 れる環境に劇的な変化が生じてきていることが明らかとなっている。 ④調査対象各企業における経営に対する価値観に関する設問結果からの示唆 「会社の理念や哲学はこれからも脈々と継承されなければならない」につい ては、日経225 企業においてのみ高い相関(0.55)の存在が確認され、当該カ テゴリー企業は企業DNA が未整備であるがゆえの反応と見ることができる。 (3)実証分析からの知見 今回の調査を通して得られた結果については、大きく以下の3点に集約するこ とができる。 ①企業遺伝子の存在事実の証明 従前までの先行研究においては、「企業遺伝子」という因子の存在は肯定され つつも、そのほとんどにおいて前提的存在として処理され、当該概念に関する 言及も理念的または抽象的な内容に終始していたが、企業対象とするアンケー トおよびヒアリング調査による本調査において実態としての企業遺伝子の存在 が初めて検証されたといえる。 ②企業遺伝子の内容における相違の解明 今回の調査においては、企業遺伝子を具体的にはいかなるものとしてとらえ ているかについての記述回答を求めた結果、概ねつぎのような結果をえた。そ れによれば日経 225 企業にみる企業遺伝子は「経営理念(企業理念)」、「社会 貢献」、「精神」、「創造と革新」が上位を占め、100 年企業においては「事業に 対する誠実性」、「社是・社訓・標語」が、老舗企業においては「(自社の)商品 自体」が多いのが特徴である。日経225 企業においては、経営理念に裏打ちさ れた理念型経営への志向性が強く、社会の公器としての自社の位置づけに強い 関心を有しているのに対し、100 年企業においては、自社が展開する個々の事 業に対する関心が次第に高まる傾向が確認され、老舗企業においては自社製品 という具現化されたかたちでの企業遺伝子のとらえかたに特徴がみられる。 ③異なる二種の企業遺伝子の解明 さらなる成果として「異なる二種の企業遺伝子の解明」がある。今回の調査 においては異なる二種類の企業遺伝子が存在していることを示唆する結果を得 ることができた。 今回確認できた二種類の企業遺伝子とは、本考察で「日経225型企業遺伝子」 と「老舗企業型企業遺伝子」と名づけるものであり、「日経225 型企業遺伝子」 とは、「生成および浸透過程にある企業遺伝子であり、その代替(組み換え)可 能性を有するため、革新的挑戦や外部からの意見を取り込む余地をいまだ有し、

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経営環境の変化に対して最適な遺伝子として今後も強化・継承されうる遺伝子」 を意味する。これは今回の調査における日経225 カテゴリー企業における革新 志向性の高さや外部意見の取り込みに対する積極性において顕著な反応を以っ て示されている。 一方、「老舗企業型企業遺伝子」とは、「すでに継承過程にある企業遺伝子で あり、経営環境との関係性において長期間を通して生成、継承されてきた結果、 もはや代替(組み換え)不可能なレベルまでに昇華されているため、今後はそ の継承のみが最大の課題とされ、そのために革新的挑戦や外部からの意見から の隔離性が見られる遺伝子」を意味する。これは今回の調査対象とした老舗企 業における革新志向性の低さや外部意見の取り込みに対する消極性に反映され る状況から導出されている。

4. 結語

今回の調査においては、創業以降の経過時間の長期化にともない、特に創業100 年付近を一つの分岐点として、それ以降の企業経営においては、長期にわたって 形成、継承してきた自社の企業遺伝子を変質させることなく継承・伝播させてい こうとする志向性が強化され、広義の経営概念とは一線を画した経営を志向する 段階に進行していこうとする経営のあり様が確認された。このことは一定の創業 期間を超えることをもってのみ「老舗企業」と称し、「継続事業体(going concern)」 としての企業および経営の“あるべき姿”として肯定してきた従前の経営概念に 新たな考察の余地とその必要性を示すことと思われる。 加速性を伴って変化する経営環境にあって、環境適応体としての企業に関して は、環境適合理論に代表される多くの知見をみてきたが、企業遺伝子とそれに基 づく遺伝子型経営の視点からは、必ずしも従前からの理論的考察とは合致しない 経営実態がうかがえた。特に経営の長期化に伴い、外部環境に対する乖離が高ま り、経営志向性における革新性に対する慎重さや外部社会との遮断性が強化され る傾向が存在することが明らかとなった。ついては企業遺伝子の形成かつ存在基 盤の実態と、組織内における継承過程に関する具体的解明に関する作業が次なる 課題として浮上してくるが、この点についてはいずれの機会に委ねることとし、 本稿の結語とする。 【注】 (1)遺伝子の生存領域としての「プール」に関しては、佐倉統が「培地」という表現を用いて いる。(佐倉統(2001)『遺伝子 VS ミーム』廣済堂出版,pp.30-31) 2)平成 22 年度科学研究費補助金助成対象研究,(挑戦的萌芽研究,課題番号:22653046, 研究課題「企業遺伝子の形成過程および継承過程とその影響に関する研究」研究代表者: 吉村孝司) (3)株式会社帝国データバンクの企業概要データベース「COSMOS2」に収録されている約 125 万社のうち、宗教法人や学校法人、医療法人などの非営利法人を除いた 1,188,474 社 のなかで、創業または、設立から100 年以上(1908 年以前に創業または設立)の企業 19,518

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社を老舗企業と定義している。 【参考文献】

『日経情報ストラテジー』(2003)日経 BP 社,1 月号 野口吉昭(2002)『企業遺伝子』PHP 研究所

リクルートワークス研究所(2005)「企業組織の DNA」『Works』Vol.72

Dawkins, R.(1964),The River Out of Eden, Harper Collins Publishers, Inc., New York(垂 水雄二訳(1995)『遺伝子の川』草思社)

Schein,E.H.(1999),The Corporate Culture Survival Guide, Jassey-Bass Inc. Baskin,K(1998),Corporate DNA Learning From Life, Butterworth Heinemann 帝国データバンク史料館・産業調査部編『百年続く企業の条件』朝日新聞出版,2009 住原則也,三井泉,渡邊祐介編(2008)『経営理念 -継承と伝播の経営人類学的研究』PHP 研 究所 吉村孝司(1995)『企業イノベーション・マネジメント』中央経済社 吉村孝司(2003)「遺伝子的戦略経営分析‐企業遺伝子に関する研究‐」『埼玉学園大学紀要経 営学篇』第3 号,埼玉学園大学 吉村孝司(2006)「企業変革における先天的および後天的要因に関する考察」『会計論叢』第 1 号,明治大学大学院 会計専門職研究科 吉村孝司(2007)「ニューロマネジメント(Neuromanagement)研究試論」『会計論叢』第 2 号,明治大学大学院会計専門職研究科 吉村孝司(2008)「製品開発過程におけるイノベーション・プロセスに関する考察 -企業遺伝 子的視点からみた イノベーション・マネジメント-」『会計論叢』第 3 号,明治大学大 学院会計専門職研究科 吉村孝司(2010)「器官としての企業における革新性遺伝に関する考察」『経営論集』第57 巻 第 1・2 号,明治大学経営学部 吉村孝司(2012)「ニューロマネジメントに関する研究 -企業遺伝子に関する調査にみる遺伝 子型経営の実態-」『会計論叢』第7 号,明治大学専門職大学院会計専門職研究科 受付日:2011 年 12 月 20 日 受理日:2012 年 2 月 8 日

参照

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