著者
才原 清一郎
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
国際観光学
報告番号
32663甲第411号
学位授与年月日
2017-03-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008963/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja【論文審査】 サービス組織にとどまらず一般に営利組織は、自らが提供するサービスや商品に対する 顧客満足を獲得するために、さまざまな活動を行っている。そして、この活動は、「顧客 は事前に期待を抱いており、消費した結果が事前期待を超えれば満足し、下回れば不満を 持つ。顧客は満足すると、その製品やサービスを再度利用したり、それを他者へ推奨した りする」という考え方に基づき実施されている。つまり、組織は、顧客の満足が再利用や 他者推奨をもたらし、売上を増加させることを前提にして顧客満足に取り組んでいる。 一方、観光地は、宿泊、飲食、物販などのサービス組織の集合体により形成されている ため、一般のサービス組織と同様に、その持続的な発展のために顧客満足を追求しなけれ ばならない。 確かに、小売店や飲食店、または理美容店や医院のような単一の組織体を、反復的、か つ特定のニーズをもって利用する場合、「顧客が実際に経験した結果が事前の期待を上回っ たとき満足する」という考え方は理解しやすい。 ところが、観光地のように複数のサービスが時系列的に提供され、かつ個々のサービス を利用する目的が必ずしも同一であるといえないようなとき、単一の組織体と同じ理論で 顧客満足を捉えることができるのであろうか。むしろ、観光地には、一般的なサービス組 織のそれと異なる観光地特有の顧客満足を規定する要因があるのではないか。 以上が本研究の問題意識である。そこで、本研究は、この問題意識に基づき、「観光地 氏 名( 本 籍 地 ) 才 原 清一郎(神奈川県) 学 位 の 種 類 博士(国際観光学) 報 告・ 学 位 記 番 号 甲第411号(甲観第3号) 学 位 記 授 与 の 日 付 平成29年3月25日 学 位 記 授 与 の 要 件 本学学位規程第3条第1項該当 学 位 論 文 題 目 観光地を対象とした顧客満足モデルの構築 論 文 審 査 委 員 主査 教授 博士(経営学) 飯 嶋 好 彦 副査 教授 博士(経済学) 和 田 尚 久 副査 教授 博士(商学) 堀 雅 通 副査 高崎経済大学教授 博士(商学) 佐々木 茂
を対象とした顧客満足モデル」を構築することを目的とする。ただし、このモデルは、顧 客満足を生み出す過程だけでなく、ロイヤルティ(再来訪意向や他者推奨意向)を含むも のと捉えている。 そのうえで本研究は、この目的を達成するためにまず、「顧客満足」を取り扱う内外の 先行研究をレビューし、本研究の参考となる知見を整理する。 次いで、日本の観光地の特性を踏まえたのち、米英などの先行研究から観光地の顧客満 足を規定すると思われる要因を抽出した。さらに、この先行研究から得た要因を、WEB 調査や観光地に来訪した人びとを対象に行ったアンケート調査から導きだされた規定要因 を対比させ、両者の異同を分析している。そして、この対比を踏まえて、本研究は、顧客 満足の規定要因をモデル化し提示している。 なお、本研究は、研究対象とする観光地を、「ある観光資源に付随した経営主体の異な る宿泊施設、飲食施設、物販施設が各1か所以上存在する場所であり、当該地域の人々が その場所を一つの観光地と認識し、何らかの一体的な取り組みがなされているところ」と 定義する。また、研究対象とした観光客は、国内旅行をする邦人に限定している。 そして、本研究の各章の概略をまとめると、以下になる。 第1章:顧客満足を取り扱う先行研究のレビュー 本章では、観光地を対象にした顧客満足研究が極めて少なく、観光全般に視点を広げ てもほぼ同じ状況であることを明らかにしている。また、それらの多くは、米英などの サービス・マーケティング研究が構築した「期待不一致モデル」を観光に応用したもの であることを指摘する。 次に、本章では、観光に限定せず、「サービスを題材にした顧客満足」を取り扱う研 究をレビューし、それらの論旨を整理し、本研究の参考となる知見を抽出した。その知 見は、以下である。 ①観光地の顧客満足モデルとして期待不一致モデルは適さない 期待不一致モデルは、㋐顧客が複数のサービスを同時並行的に利用するのではなく単 一のサービスだけを消費し、㋑複数のサービス提供者と1人の顧客ではなく、1つのサー ビス提供者と1人の顧客との関係を考察しており、㋒1回の取引の結果を顧客が正しく 確認できるという状況を前提としている。 他方、観光地では、複数のサービス提供者により複数のサービスが供給されており、 顧客はそれらを同時、または順次消費している。また、観光地の顧客の事前期待は抽象 的であり、そこでの滞在時間は一般的に短いことから、経験の結果を客観的に把握する ことは難しいと考えられる。
②観光地での顧客満足とロイヤルティの関係性は必ずしも高くない 利用間隔の長いサービスや、通常の生活に楽しみを付加するようなサービスは、顧客 満足とロイヤルティの関連は低いとされている。これらは概ね、観光地が提供するサー ビスの特性に該当する。 ③観光地でのロイヤルティの醸成には感動体験が影響する 顧客満足は必ずしもロイヤルティを生み出さないが、顧客感動はロイヤルティに影響 を与える。さらに、本章は、1970年代後半ころから海外で提唱されているいくつかの観 光客満足モデルを仔細にレビューした結果、観光地の顧客満足モデル策定にあたり、以 下に示す重要な論点を提示している。 ㋐ 観光地での顧客満足、ロイヤルティは、来訪動機の影響を受ける。特に、プル動機 よりもプッシュ動機の影響が強い。 ㋑観光地での顧客満足、ロイヤルティは、観光客がその観光地に対して持つイメージ に影響を受ける。 ㋒一般的に再来訪意向と他者推奨はロイヤルティという同一のものとして扱われるが、 観光地ではこの2つは異なる概念のものとして考えるべきである。 ㋓観光地では、顧客満足は他者推奨には影響を与えるが、再来訪意向は他者推奨を媒 介した影響にとどまる。 ㋔観光地で提供されるサービスは多様かつ複雑であるため、観光地を対象とした顧客 満足モデルは、個々のサービスに着目したミクロモデルと観光地全体に着目したマ クロモデルの2種類を考慮する必要がある。 第2章:先行研究から導かれる観光地の顧客満足モデル 本章では、第1章での論点に基づき、以下に述べる観光地の顧客満足を表す2つのモ デル、つまりミクロモデルとマクロモデルを暫定的に考案している。尚、その暫定的モ デルは、第3章以降で行う諸調査により、その是非が考察されている。 ①観光地内の諸施設に対する満足度と観光地全体の満足度との関係に着目したミクロ モデル 観光施設が提供する種々のサービスに対する満足度(例えば宿泊施設であれば、 食事、接客、建物や客室の質、入浴設備の質、清掃状況等)が統合されて当該施設 の満足度となり、その満足度が終局的に観光地全体の満足度に影響を与えるという モデル。
②観光地全体の満足や再来訪意向、他者推奨に着目したマクロモデル 上記ミクロモデルが導き出す観光地全体の満足度と再来訪意向、他者推奨、観光 地イメージ、観光地来訪動機、感動体験との関係性を示すモデル。 第3章:本研究が想定する観光地の顧客満足モデルの検証その1:一般消費者の意見に 基づいて 本章では、㋐旅館・ホテル、飲食店やその他の観光施設のサービスに対する満足度と 観光地全体の満足度との関係、㋑サービスの失敗や感動体験が観光地全体の満足度に及 ぼす影響、㋒回答者が抱く観光地への満足度、再来訪意向、他者推奨に影響を及ぼす要 因を把握するために実施した Web 調査の結果を分析している。尚、この調査は、2015 年11月19日~25日まで実施し、データ数は約3,300件である。そして、この調査から、 以下がわかった。 ①旅館・ホテルや観光施設等が提供するサービスに対する満足度と観光地全体の満足 度との関係 調査回答者は、旅館、ホテルや観光施設などサービスに対する満足度と観光地全 体の満足度との関係を、「旅館・ホテル、観光施設等のサービスに対する満足度の 単純平均が観光地全体の満足度となる」、「旅館・ホテル、観光施設等のサービスに 対する満足度に、各サービスの重要度を考慮した加重平均が観光地全体の満足度と なる」などとさまざまに考えており、両者の関係について統一見解的な意見をもっ ていないことがわかった。 ②サービスの失敗や感動体験が観光地全体の満足に及ぼす影響 大半の回答者は、「あるサービスの失敗は、たとえそのサービスが重要なもので なくても、観光地全体の満足度を一定程度低下させる」と考えており、また「観光 地で得た感動体験は、当該観光地全体の満足度に強い肯定的な影響を及ぼす」と考 えていた。 ③観光地全体の満足度、再来訪意向、他者推奨を判断するとき重視している要素 宿泊施設の建物や客室のクオリティ、宿泊施設での食事、観光地が有する歴史や 文化、または自然等への知的好奇心が満たされたときなどでは、事前に想定のでき る経済的メリットは、顧客満足に影響する傾向が強い、一方、穴場の観光スポット を体験したときのように、思いがけない発見や驚きは、他者推奨や再来訪意向に肯 定的な影響を及ぼす傾向がある。
第4章:本研究が想定する観光地の顧客満足モデルの検証その2:南砺市を事例にして 本章では、富山県南砺市への来訪者を対象に実施した質問紙調査の概要とその結果を 分析している。この調査では、利用した宿泊施設、訪問した観光施設、飲食店などに対 する個別の満足度と、観光地全体としての満足度、同地への再来訪意向や他者推奨意向、 イメージなどを聴取した。 そして、本章では、これによって得られたデータから導出された顧客満足モデルと、 第2章で策定したモデルとを対比し、両者の異同を考察している。なお、調査期間は、 2015年4月~2016年3月であり、回答した調査票の総数は702件である。この調査により、 以下の結果が得られた。 ①宿泊施設、観光施設、飲食店などの満足度に影響を与える要因 宿泊施設に対する満足度は、非対面サービス(例えば客室や浴室の清掃やロビー 周りの整理整頓など)、食事、接客サービスなどの影響を強く受ける一方、施設の クオリティ(例えば高級感)や雰囲気から受ける影響は小さい。 これに対して、観光施設に対する満足度は、その観光地がもつ雰囲気の影響が大 きいものの、サービスの影響は小さい。また、飲食店に対する満足度は、味の影響 が大きく、価格が満足に与える影響は極めて小さい。さらに、土産物などの物販施 設では、接客サービスと品揃えの影響が大きく、飲食施設と同様、価格が満足に与 える影響は極めて小さい。 ②宿泊施設、観光施設、飲食店、物販施設などに対する個別の満足度と観光地全体の 満足度との関係 観光地全体の満足度に影響を与える要素として確認できたのは宿泊施設に対する 満足度のみであり、観光施設、飲食店、物販施設の影響力は、ほとんど認められな かった。 ③観光地全体の満足度、再来訪意向、他者推奨意向とイメージとの関係 顧客満足は、他者推奨や再来訪意向に直截的な影響を与えない。また、観光客が 観光地に対して持つ事前のイメージと観光地全体の満足により、事後のイメージが、 醸成される。そして、来訪動機や事後イメージは、再来訪意向に直接影響を及ぼす。 さらに、再来訪意向が他者推奨意向を生み出す要因となる。 第5章:本研究が提案する観光地の顧客満足モデルと同モデルが意味するもの 本章では、第2章で策定したモデルを下地にして、第3章および第4章で得られた調
査結果をもとに、それに修正を加えた下図1のミクロモデルと図2のマクロモデルを提 案している。 以上の考察から、本研究は、以下を明らかにしている。 ①期待不一致モデルの限界 期待不一致モデルは、顧客満足研究の基礎となる理論であり、さまざまなサービ スに応用されている。しかし、同モデルが成り立つためには、「顧客が単一のサー ビスを利用しているときだけであり、また当該サービスを利用する目的が明らかで、 かつ顧客がその結果を正しく認識できること」が必要であることが明らかになった。 ②観光地全体の顧客満足に影響を与える宿泊施設の満足度 今回調査した観光地(南砺市)における宿泊を伴う観光という制約はあるものの、 「観光地全体の顧客満足度は、ほぼ宿泊施設の顧客満足度により決定される」とい うことが明らかになった。 ③観光地の顧客満足とロイヤルティ(再来訪意向、他者推奨意向)のあいだに見られ る希薄な関係 先行研究では、顧客満足がロイヤルティに繋がることを前提に議論を展開するも のがある一方、顧客満足と再来訪意向とのあいだに直接的な因果関係がないと主張 する研究もある。そして、本研究は、そのうちの後者、つまり「再来訪意向と他者 図2 観光地の顧客満足を規定する要因マクロモデル 図1 観光地の顧客満足を規定する要因ミクロモデル 注: 上図2に示された〇数字は、次を意味する。①観光地イメージは観光客の持つ観光動機に影響を及ぼす。②③ 事後イメージは観光客が事前に持つイメージと観光地全体満足によって醸成される。④事後イメージは再来訪 意向に影響を与える。⑤観光地来訪動機は再来訪意向へ影響を与える。⑥再来訪意向は他者推奨を誘発させる。 ⑦他者推奨は観光客の事前イメージに影響を与える。
推奨のいずれも、顧客満足との直接的な相関関係は見い出せない」を支持する結果 になった。 ④観光地のイメージ、来訪動機が顧客満足やロイヤルティに与える影響度の強さ 観光後のイメージは、観光前のイメージと観光地全体の満足度により醸成され、 観光後のイメージは、再来訪意向と正の相関関係があることが明らかになった。ま た、来訪動機と再来訪意向の間には、負の相関が認められた。 【審査結果】 従前のサービス・マネジメント研究では、期待不一致モデルに基づき、顧客満足を考察 してきた。だが、この理論が成立するためには、①顧客が単一のサービスを利用している、 ②当該サービスを利用する目的が明らか、③顧客がその結果を正しく認識できるという前 提条件が必要であった。また、従前の研究は、満足した顧客は、当該サービスや組織を再 度利用したい、他者に推奨したいなどのロイヤリティを抱くことが多いと考えていた。 一方、観光地は、宿泊、飲食、物販などの複数のサービス組織により構成され、旅行者 は、これら組織の全て、または一部を利用している。しかし、従前のわが国の観光研究は、 旅行者が抱く観光地全体の満足度と、各組織に対する満足度との関係、換言すれば、各組 織を利用した際に得た満足度が観光地全体の満足度にどのような影響を与えるのかを明ら かにしてこなかった。 これに対して、本研究は、期待不一致モデルが観光地では応用しにくいこと論証すると 同時に、旅行者はある観光地に満足したとしても、その満足度が直截的にロイヤリティを 生起させるわけではなく、旅行後の観光地のイメージや、観光地を訪れたいと思う動機の 強弱などを媒介して生じていることを明確にした。 加えて、本研究は、観光地の満足を取り扱う米英などの既存研究や本研究が独自に行っ た諸調査を用いて、観光地全体の満足度と各サービス組織の満足度の関係をモデル化して いる。そのため、本研究は、国内に類似例が皆無であるとともに、先進的、かつ独創的な 研究業績と認めることができる。 さらに、本研究では、①旅行者が事前に感じていた期待や観光地に対するイメージ、② 観光地を旅したのちに得た同地の事後イメージ、③観光地を訪問する動機、④観光地を再 訪する意欲、⑤自分が訪れた観光地を他者に推奨する行為のあいだの関係をモデル化して おり、これについても高く評価できる。 また、本研究の成果は、ホテルや航空サービスのように、複数のサービスが逐次的に提 供されている場面においても応用できると思われ、汎用性が高い。そして、「観光地全体 の顧客満足度は、ほぼ宿泊施設の顧客満足度により決定される」など、本研究から導き出
された知見は、観光まちづくりを担う人びとや旅行業界にとって参考になると思慮する。 以上から、結論を導出する論文の論理構成、実施された諸調査の方法と分析、得られた 成果と考察のいずれも、国際地域学研究科(国際観光学専攻)の博士学位審査基準に照ら しても妥当な研究内容であると認めることができる。従って、所定の試験結果と論文評価 に基づき、本審査委員会は全員一致をもって才原清一郎氏の博士学位請求論文を本学博士 学位を授与するに相応しいものと判断する。 以上