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近赤外・紫外光が植物の生育に与える影響(II) 利用統計を見る

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近赤外・紫外光が植物の生育に与える影響(II)

著者

岡井 善四郎

雑誌名

技術報告集

10 (2004年度)

ページ

57-62

発行年

2005-04-09

URL

http://hdl.handle.net/10098/7447

(2)

近赤外・紫外光が植物の生育に与える影響(

1

I

)

第三技術室システム制御技術班

岡井善四郎

1.はじめに 最近、一部の植物工場では、価格の低下が進んでいる赤色 LED のみを栽培用光源として用い、 葉菜類(主にレタス類)の栽培が始められている。しかし、その栄養成分について、露地栽培と比 較した確かなデータは公表されてなく、植物工場における栄養成分の増加に関する研究も、これか らの研究課題のひとつである。 昨年度は、光合成の最終段階である C02 固定反応と、光がどのように利用されているかについて 調べた。実験としては基本光に赤色 LED (644nm) 、青色 LED (465nm) を、比較光源として紫 外 LED (402nm) 、赤、青セロファン紙、各 2 枚をフィノレタとして用い、白熱電球と組み合わせた 簡易的方法で近赤外光(中心波長 730nm) を照射して、生育への影響を栄養価(ビタミン C の定 量測定)と植物体(形態形成)、乾物重量の 3 点から調べた。 今年度は研修前半、生育の影響にかかわっている主な光受容体、フィトクロム(赤い光の受容体)、 クリプトクロム・フォトトロビン(青い光の受容体)、 uv- 光受容体(紫外線の受容体)の働きを調 べた。実験は、基本光源にプラスして、紫外光として新たに昨年 (402nm) より波長の短い,ブラ ックライト(中心波長 352nm) 、近赤外光 (LED 735nm) を別々に、また同時に照射して生育への 影響を調べた。そして主にフィトクロムの働きが一つの要因として考えられている、ビタミン C の 増加についても調べた。しかし、近赤外光によるビタミン C の増加について、その詳しいメカニズ ムは、まだよく分からなかった。また廃棄冷蔵庫を利用して、 C02 濃度、温湿度を制御可能な植物 育成装置を製作し、 C02 濃度と生育の関係を調べ、本研修に使用した小松菜の最適栽培条件を見出 すことを目的とした。平成 16 年度奨励研究報告(廃棄冷蔵庫を利用した完全制御型植物育成装置と植物栽培の 研究)参照。 2. 光受容体について 光合成を営む植物は、動物のように自由に動くことができず、固着生活を余儀なくされており、 光は重要な「資源」であるとともに、「情報源」でもある。植物が経験する光環境の変化には、光の 波長、強度、方向の変化、日周変化、日長変化などがある。これらの変化を植物は複数の光受容体 (フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピン、 UV-A、 UV-B 、 UV-C 光受容体)を活用する ことで巧みに処理していることが、色々な実験から証明されてきた 1), 2)。

(3)

57-の発芽に関する実 その後の研究から発芽以外 2-1 フィトクロムの概要 フィトクロムの発見のきっかけとなったのは、 験、 R (赤色光)、 FR(近赤外光)の光可逆性が見出されたことによる。 にもさまざまな生理反応に関与していることが分かつてきている 1 )。以下にフィトクロムの主な反 レタス種子(青チリメンジャ) 応につい・て述べる。 ① R のセンサーとして働いている。分子量約 12 万の水溶性蛋白質で開環テトラピロール構造を もち、フィトクロモピリンと呼ばれる色素分子がタンパク質と結合したものである。不活性型 Pr と活性型 Pfr の型があり、 Pr が (R) を吸収して P仕に変化し、様々な生理化学反応を引き起こす。 ②日なたと木陰を検知できる。 R と FR の比率により、 P仕の量が変化し、 P仕が少なくなると、 木陰、 FR を避ける生長反応が起こる。 ③光の色を見分けることができる。図 1 2) のように、他の波長の光も少なからず吸収できる。た とえば、太陽光の下におくと、 Pr と Pfr の相互変化反応は平衡状態に達し、 P仕の量は与えられた 光の波長によって決まり、波長に応じて 800 700 600 波長(nm) 500 400 300

制::

菜 0

.

21

生理反応が起こる。 ④月の光のような微弱な光にも反応 する。いくつかの種類(分子種)がある ことが分かつている。そのうち光に敏感 な分子種がわずかな光を検知して、発芽 を促す。 ⑤日の長さを計り、花芽、種子をつけ、 季節を見極めている。 ⑥光の強さ、光に当たっている時間を lまカミることがで、きる。 長時間にわたって植物を光の下に置いた場合、 Pr 型および Pfr 型フィトクロム の吸収スベクトル 図 1 光が強くなればなるほど、照射時聞が長くなれ ばなるほど、大きな生理反応を引き起こすこと これは、特殊な性質を持つフィトクロム分子種が、光の強度と照射時間を計測す がしばしばある。 ることができるためである。

フィトクロムの分子種には、シロイズナズナが持つ phyA、 phyB 、 phyC、 phyD 、 phyE の 5 種、 トマトの phyA、 phyB1 、 phB2 、 phyE、 phyF の 5 種がある。これらのフイトクロム分子種が存在

そして、役割分担をして様々な光形態形成反応を制御している。 している。 2・2 クリプトクロムの概要 最初の植物青色光受容体として、 1993 年に発見された。その後、動物、原核生物にも存在が認識 され、 DNA 光修復酵素とともにクリプトクロムファミリーを形成し、クリプトクロム 1 およびク リプトクロム 2 が存在している。もう少し詳しい内容に触れると、アラビドプシスの光非感受性変 異株で下目玉軸が光照射下でも長く伸長する変異、 (hypocoty1

e

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(下脹軸伸長) 4 が知られ ている。そして、 hy4 遺伝子が決定(コード)するタンパク質のアミノ酸配列が決められた。その 。。 「ひ

(4)

名をクリプトクロムといい、 hy4 遺伝子はクリプトクロム 1 (CRY1) と名付けられた。さらにク リプトクロム 1 に相向性が高いクリプトクロム 2 遺伝子が同定された。主な働きとしては、茎の生 長を抑える。生物時計の時刻あわせにも関係している 2)。 2 ・ 3 フォトトロビン (phyt) の概要 光屈性の受容体として発見された新しいタイプの青色光受容体である。葉緑体定位運動や気孔の 開口においても、 phyt が光受容体として働いていることが明らかにされている。さらに部分的では あるが、結晶構造解析も行われてきており、現在急速に研究が進んでいる光受容体である 3)。 2 ・ 4UV- 光受容体の概要 太陽光に含まれる紫外線は三つの波長域に分けることができる。波長 320""'400nm 域の紫外線を

UV-A、 290""' 320nm の波長域を UV-B 、 190""'290nm 域を UV-C という。太陽光の場合、全エネル ギーの 6% が紫外線で、その 92% が UV-A、約 8% が UV-B で、 UV-C は現在ではほとんど届いてい ない。このような紫外線を植物は UV-A、 UV-B 光受容体で感じとっている。特に紫色をしたナス等 に含まれている、アントシアニン(花紫素)のようなフラボノイド系色素は、紫外線によって誘導 され促進することが、培養細胞や植物体の研究によって明らかにされている。そして植物体自身を 守る目的も果たしている 4)。

3. 実験装置・方法

昨年度と同じ栽培装置を使用して、以下に示すような方法で栽培実験を行った。光源としては基 本光①、②に比較光源として③、④を追加した。 1500 140r...- ー』………山…一……一 m … …-120 100 也!:! 80 調印 1250 5∞・

喜四

600 650 波長nm 800 850 200 250 300 350 400 450 波長 (nm) 250 h 。 図 2 近赤外 LED スベクトル 図 3 ブラックライトスベクトル ①赤色 LED に東芝製 (TLRH190P

:

644nm

,

15 , 000mcd) 、 9 ケ 50 列計 450 個をプリント基板 に取り付けたものを真上に配置。(以後光源パネルと称す)。 ②青色 LED に豊田合成製 (EIL-51 ・ 3B

:

465nm

,

1800mcd) 、 5 ケ 36 列計 180 個の光源パネ ル 2 個を栽培植物の左右に配置。 ③近赤外光に 730nm 前後の波長が必要なため、新たに近赤外 LED エピス電子 (L735-0AU: n 汐 「D

(5)

735nm

,

10

,

000mmcd)

5 ケ 80 列計 400 個を使用。 CCD 分光器 (801arLaser: 8150) で測定した。 スベクトルを図 2 に示す。また赤色 (R) と近赤外光 (FR) の光量を R/FRく 1 の条件に設定した。 ④紫外光にブラックライト(中心波長 352nm) そのスペクトノレを図 3 に示す。 実験方法としては、栽培装置に①の (PPFD) を 50μmol/m2 • s 、②を 5μmol/m2 • s に設定し、 ③、④を比較光源として照射した。これら比較光源パネルの光量は近赤外光をほぼ 70μmol/m2 s に設定した。紫外光は既存の光量計では正確な測定はできなかった。 4. 実験結果・考察 草丈については、近赤外光照射した場合は、茎の徒長が進み、図 4(a、 b) に示すように、紫外光の場合 と比較して伸びた。 (R!FR<l) の条件で照射したため、フィトクロムの光平衡状態が Pr に傾き、茎の伸長を促 進させたためで、あろう。しかし、昨年のステムレタスほど顕著な効果で、はなかった。栽培植物によって多少の 違いがあることが分かつた。紫外光を照射した場合は、伸長が抑制され短くなった。赤色では中間の体型と なった。近赤外十紫外光照射では近赤外光による伸長促進が、紫外光により抑制され、図 4(c) のように葉の 厚みも加わり、がっちとした体型を示した。 ビタミン C は、近赤外光の照射がいちばん多く、赤色より 2""'""'3 割増加した。これはフィトクロムが光を受け、 ある種のホルモンが誘導され、ビタミン C の増加が促進されたためだと思われる。紫外光を追加すると、ピタミ 図 4(a) 近赤外光照射 図 4(c) 近赤外光+紫外光照射 図 4

(

b

)

紫外光照射 ン C は減少した。これは紫外光によって、ビタミン C の 生成を阻害する作用が働いたものと思われる。 乾物重量については、赤色照射が有効である。次 に近赤外+紫外光の組み合わせ、近赤外と続き、最 後は、紫外光照射の順となった。照射した紫外光は、 波長 320""'""'400nm の UY-A なので、更に短波長の UY-B 、 UY-C 照射では、この減少は更に顕著になっ てくるだろう。 以上の結果を図 5 、 6 、 7 に示す。

-

60 ー

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照射光の違いによるビタミン C 図 6 照射光の違いによる草丈 図 5 まとめ 小松菜については、近赤外光、紫外光による 生育の違いが形態形成(草丈)、ビタミン C 、乾 物重量の測定から確認できた。また、近赤外光 に紫外光を加えることによって、近赤外による 草丈の伸長を抑制し、赤色による照射だけの時 よりも葉の厚みも増し、がっちりとした体型と なり、栄養価の点でもすぐれていることが確認 できた。このことから R 、 FR の光量を制御し て植物の生育をコントローノレすることに加えて、 紫外光 (UV-A) による生育コントロールも可能

5.

(国臣)酬酬零封 であるといえる。 このように、近赤外 LED 、紫外 LED 光を追加することにより、栄養増加が確かなものとなれ ば、将来の植物工場にも応用可能で、露地栽培の野菜類よりも栄養価の点、無農薬といった植物 さらに近赤外、紫外 LED の価格低下が進めば、実用化へ一歩前進するも 照射光の違いによる乾物重量 図 7 工場の特徴が生かせ、 のと考える。 栄養成分のビタミン C については、日本食品成分表(食品成分値は科学技術庁資源調査会編「五 訂日本食品標準成分表」による)の含有量に近い数値しか得られなかった。その他の栄養成分の 増加のためには。養液の成分や近赤外光、紫外光の照射方法(照射時間、照射強度)について、 更なる栽培実験を行う必要がある。日本食品成分表から、ほうれん草や小松菜といった葉菜類の ビタミン C を例にとると、その含有量は、 2002 年には 1950 年と比較して、 60略低下している。由々 しきことで、ある。 第一の原因として、有機肥料施肥が減少し、代わりに化学肥料の多量施肥が多くなってきた。 そのため土がやせてくるといった、地力の低下を招いている。これはとりもなおさず、露地栽培 の悪化が進んでいる一つの証と捉えることができる。 また、地球温暖化や、オゾンホールにより、植物にとって有害な紫外線 UV-B 、 uv.c が増加し 1 i 氏 U

(7)

てくることが予想される。 21 世紀における安定 L た農作物の生産のためには、こうした有害な紫 外線の植物に対する生理的な影響を調べ、その対処方法について研究を進めていくことも、重要 な課題だと思う。これらの点も含めて、土壌にも光環境にも左右されることのない植物工場の研 究が必要と思われる。

6. 今後の予定

1.今年度できなかった、眼、精神的にも自然である白色 LED を使用して、これまでの栽培で使 用していた赤、青 LED との生育の違いを調べる。

2

.

LED を連続光照射より、効率の点ですぐれている間欠照射での栽培実験を行う。 3. 栄養成分の測定をビタミン C だけでなく、他の重要な栄養成分(ビタミン B 、 D 、 E) など も測定対象に入れ、最適栽培条件を見出す。 4. 植物体に有害な紫外線 UV-B、 uv-c を照射して、その影響を調べ、その対処方法を検討する。 7. 謝辞 この研修を行うにあたって深いご理解を賜り、快く実験室、分光器等の計測器を提供していただ いた、原子力・エネルギー安全工学専攻(量子エレクトロニクス研究室)の仁木秀明教授、金遺忠 助教授の両先生に深く感謝し、たします。 この研修で使用した、 C02 コントローラ、パソコン、近赤外 LED 、ブラックライトは、循環ポン プ等は、 16 年度奨励研究の費用から支出した。

8. 参考文献

1) http:llwww.rnath.kobe-u.ac.jp/HOME/rnhsaito/kouhou/siryo/scienc-sern2004shichi

i

.

o-srnall.pdf 2) 和田正三,徳富 哲,長谷あきら,長谷部光泰;植物の光センシング, (光情報の受容とシグナノレ伝達)秀潤社 (2001) 3) 松田仁志;植物の観察と実験を楽しむ 蓋韮星 (2004) 4) 吉谷雅樹;植物は何を見ているか 岩波書店 (2004) つ LM 戸。

参照

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