イランの「エネルギー・経済モデル」の開発と政策
評価
著者
木船 久雄
雑誌名
名古屋学院大学論集 社会科学篇
巻
30
号
3
ページ
203-221
発行年
1994-01-31
URL
http://doi.org/10.15012/00000785
Copyright (c) 1994 木船久雄名古屋学院大学論集 社会科学篇 第30巻 第3号 (1994.1) 203
イランの「エネルギー・経済モデル」の開発 と
政策評価
*木
船
久
雄
目 次 1まじめに 1. イランの経済 とエネル ギー 2.「工不ル ギー・経済 モデル」の開発3.シ
ミュレー シ ョン4.政
策的 イ ンプ リケー シ ョン おわ りには じめ に
イ ラ ン・ イス ラム共和 国 (以下 イ ラ ン と略 す)は
世 界有数 の石油輸 出国 と して,
また拡大 す るイス ラム教 の宗主国 と してエネル ギーや政 治の国際舞 台 においては看過 で きない国で あ る。 イス ラム革命 か ら14年
,イ ラ ン・イ ラク戦 争終 結 か ら5年
を経 過 した現在, イ ラ ン国 内で は経済 問題 が政 治的 に も重要 な鍵 とな ってい る。現在 の ところ, 市場 を重視 した穏健派 が経済 運営 の主導権 を握 ってい るが,近
年 の高 い イ ン フ レ率 と外貨 不足,原
油収 入の低 下 な ど経済 不振 を理 由 に先 々予断 を許 さな*
筆者 は国際協 力事業団 (JICA)「イランイスラム共和国エネル ギー計画調査」に参画 した。本稿 はその際の知見 を もとに執筆 しているが,ここに述べ られている見解や あ り うべ く誤謬 は筆者 に帰せ られ る ものであ り,JICAではない。こうした調査の機会 を得 た こ と,そ して本稿 の公表 に快諾 して くれたJICAに対 して感謝す る次第である。 また,本文中で年度 を示す際 に西暦 を用いてい るが,オリジナルデータではイスラム暦 (西暦621年が元年)である。 さらに,原
典がペル シャ語 に よる ものは英 文に翻訳 して 参考文献 に記載 している。い。 これ まで
,原
油 の輸 出 に よって外貨 を稼 ぎ,そ
れが経済 成長の牽 引車 と な って来 たが,低
迷 す る原油価格 や増勢す る国 内需要の ため に輸 出余力 は失 われ,状
況 は変 わ りつつ あ る。 本稿 で は,こ
う した イ ラ ンの現 況 を投影 したエ ネル ギー とマ クロ経済 の相 互依 存作 用 を組 み込 んだモデル 開発 とその シ ミュ レー シ ョンを紹介す る。 そ して,こ
れ を用 いて,今
後 のエ ネル ギー政 策 へ の イ ンプ リケー シ ョンを探 る こ とを 目的 と してい る。1.イ
ラ ンの経済 とエネル ギー
1.1
経 済状況 過去 約20年
間 を通 じて,イ
ラ ン経済 は大 きな変動 を見 た。 この背景 には, 二 度の石油危機,1979年
の イス ラム革命,さ らに1981年
か ら6年
半 にわ た る イ ラ ン・ イ ラク戦 争 な どが あ る。産 油国で あ るイラ ンに とって石油危機 は経 済 ブ ーム にな りえた はずで あ るが,革
命 とい う混乱 に よ り国 内経済 は必ず し もその恩恵 を受 けたわ けで はなか った。 また,そ
れ に続 く長期 に渡 る戦 争 も この国の経済 発展 を損 な って きたの は否 め ない。 実質 国内総生産 は1976年
を ピー クに して,そ の後 の革命 に伴 う政 治的 な混 乱 に よって国内投 資や原油生産 が低迷 し,1981年
まで大 きなマ イナス成長 を 辿 った(図1参
照)。 そ して,80年
代 半 ば まで は イ ラ ン・イ ラ ク戦 争の さ中で あ った ものの,原
油 生産 の回復 か ら経済 は反転 した。 しか し,1986年
の原油 価格 の大 幅下落 か ら再 び石油収 入が著 しく減 少 し,経
済 は また して もマ イナ ス成長 とな った。 その後の数年 はプ ラスの成長 をみ るが,近
年 は,外
貨 の不 足 と為替 レー トの市場運 動化 か ら国 内物価 の高騰 を招 き,実
質経 済 成 長率 は マ イナ ス を示 して い る。イランの経済規模 を概観すれば次の ようになる。1990年 の名 目
GDPは
366兆 リアル
,これを同年の公定為替 レー トに近い
215リアル
/ドル という値
で除すれば 1700億 ドルになる。日本の同年のそれは 2兆
9千
万 ドルであった
か ら, 日本の約
6%に
相当する。これを人口5,640万 人で除 して
,一
人当た
イランの「エネルギー・経済モデル」の開発 と政策評価 205 1976==100 1970 1990 (資料) り
GDPを
求 め る と,そ
れ は3千
万 ドル とい うこ とにな る(同年 の 日本 の それ は2万 3千
ドル)。 この水準 は,明
らか に途上 国の それで はな く中進 国の それ で あ る1)。 ただ し,上
記で用いた為替 レー トは市場 を反映 していない。市場 に委ね変 動相場制 となった1993年
の交換 レー トは約1600リ アル/ドルである。これを 用いれば一人当た りGDPは
5百
ドル程度 にな り,途
上国の範疇 に入って し まう。 イランの経済成長は石油輸 出に依存 している。総輸 出金額 に占め る石油輸 出の割合は90%に
達 し,GDPに
占め る割合 は1割
強である。1)こ
こでの為替 レー トは石油輸 出金額の ドル建て, リアル建てデータか ら求めた。統計 によっては,120リ アル/ドルの レー トを用いて一人当た りGDPが
8千 ドル としている もの もある。 250 200 ・50 100 50 1975 1980 1985 図l GDPと
エ ネル ギ ーcentral Bank Of lran. ``Annual Review''
JICA「イランのエネルギー・ バ ランス表」
1.2
エ ネル ギー供給 イ ラ ンは世 界 で も有 数のエネル ギー資源保有 国で あ る。1991年
末 の石 油 お よび天然 ガ スの資源保有 量 は,順
に929億
バ レル,600兆
立 方 フ ィー トで, 各 々世 界第3位
,第
2位
を誇 ってい る。 また,そ
の生産量 は石 油12億 53百
万バ レル ,天 然 ガス7810億
立 方 フ ィー トで,順 に同年 の世 界の供 給量の6%,
1%を
占め る2)。 一次 エネル ギーベ ースの総生産量 は原油換算1,635百
万バ レル (1990年, 以 下 同 じ),輸
出量 は同949百
万バ レル,輸
入量 は同46百
万バ レル で あ る。 エ ネル ギー輸 出の ほぼ 全量 が原油 と石油製品であるが,こ
れ に よって173億
ドル を海 外か ら調達 してい る。 この輸 出額 はGDPの
11%を
占め て い る3)。 一 方,国
内へ の エ ネル ギー供給 をみ る と,1990年
の一次 エ ネル ギー国 内需 要 は原油換算510百
万バ レル で あ り,日
本 の15%に
相 当す る。エ ネル ギー源 別構 成 は,石
油 が過 半の68%,天
然 ガ ス23%,水
力2%,石
炭 な どの個体燃 料 が1%で
あ る。 また,非
商業 用 エ ネル ギーが 全体 の1%弱
を 占め てい る。1.3
エネルギー需要 既 に述べ た ように,1990年
の一次エネル ギー国内需要は原油換算510百
万 バ レルである。一次エネルギーの約76%が
最終需要エネル ギー需要 に費や さ れ,残
りの24%は
電力や石油精製の転換部門での消費や ロス となる。 最終 エネル ギー需要 の電力化 率 は未 だ7.3%で
あ る ものの,一
次 エ ネル ギー国内需要 に占め る電力化率(電力への投入エネル ギー/一次エネルギー国 内需要)は
21.0%で
ある。 これは,効
率の悪 い電力供給が行われている為で ある。発電効率 は全国平均 で33%前
後,所
内分や送配電損失によるロス率 は20%近
い。 最終エネルギー需要の需要部門別内訳 は民生部門が全体の37%を
占め,次
いで産業26%,輸
送部門23%,農
業部門7%と
なる。イランの主要産業がエ2)BP(1992)
3)国
際協力事業団 (1993) 以下のエネル ギー需要等 に用い る数字 は,総
て これに依 っている。イランの「エネルギー・経済モデル」の開発 と政策評価 207 ネル ギー産業
,農
業 お よび商業 で あ るこ とを考慮 すれ ば,こ
う した構 成 は不 思議 で はない。70年
代,80年
代 を通 じたエ ネル ギー需要 の推 移 をみ る と,イ ス ラム革命 の 前後 で 多少 の停滞 が あ った ものの,一
貫 して大 きな伸 び を示 して きた。経済 活動 は大 きな振 幅 を示 し,未 だ に実質国民所得 は1976年
の ピー ク水準 を越 え て い ない。 ところが,国
内エ ネル ギー需要規模 は1990年
には1976年
の2倍
を越 え,近
年 もその増 勢 を辿 って い る (図2参
照)。 こ う した背景 には,
自動車 を中心 とした輸 送用燃料 の飛躍 的 な拡大,家
庭 や業務部門で見 られ るような電化率 の進 展 に伴 う電力需要 の増大,
さ らには 政 策 的 にエネル ギー価格水準 を低 位 に据 え置 いて きた こ とが あ る。1980年
か ら1990年
の 間で,消
費者物価 は4.7倍
(年率16.7%)の
値上 が りを示 して い 原油換算百万パ レル 600 500 400 300 200 ︲00 1970 1975 1980 1985 図2 -次
エネルギーの部門別需要 (注)図
中の数値 は,一
次 エネルギー需要 に占め る割合%
産業部門には,農
業 お よび非 エネルギーも加 えてい る。 (資料)JICA「
イランのエネルギー・ バ ランス表」 1990 目 転換 国 産業 国 民生 □ 輸送るの に対 して
,ガ
ソ リンは1.7倍
,電
力 は1.9倍
の値上 げに留 まってい る。 それ ゆ え,この 間 に両者 の実質価格 は,それ ぞれ年率-9.8%,-7.9%と
い う 値 下 げ をみ た こ とにな る。1980年
代 のGDPと
一 次 エ ネル ギー需要 の 弾性 値 は4.8で
あ り,エ
ネ ル ギーのGDP原
単位 は,年
率8.2%上
昇 して い る。近 年 の ように経済 が低 迷 し て い る中 にあって も,エ
ネル ギー需要 は着 々 と増 加 し続 けて い る。 この国内 エ ネル ギー需要 の増 加傾 向 は,将
来 の政 策 運営 の大 きな懸 案材 料 にな って い る。1.4
エ ネル ギー政策課題 これ まで経済 は石 油輸 出 とい う外需 に依 って牽 引 され て きた。しか し,現
在 は国 内のエネル ギー需要が増大 す るこ とに よって,輸
出 に回す原油 の確 保 が制 限 され る。 原油の増産政策 を採 れ ば良 いのだが,そ
の ため には大 きな投 資 が 必要 にな り,必
要 な投 資 財 は海 外 か ら調 達せ ざ るを得 ない。 そ こで外 資 が必要 にな る もの の,国
際的 な原油 市場 の軟 化 や これ まで の 固 定為替 制 度4) に よる リアル高 か ら外貨不足 の状 況 にあ る。 原油輸 出 を維 持 す るため に,増
勢 す る国 内エ ネル ギー需要 の抑 制 が緊 急課 題 とな って い る。 そ こで,い
か に省 エネル ギー を進 め るかが検 討 され るべ き 政 策 とな る。 これ まで,低
価格 で据 え置 き して きたエ ネル ギー価格 の値 上 げ は真 っ先 に議題 に上 が る政策 手段 で あ る。例 えば,国
内の原油 処 理能 力の不 足 の ため に一部輸 入 で賄 って きた石 油 製 品 をみ る と,輸
入 の際 には当然 なが ら国際価格 で購 入す るが,そ
れ を国 内で販売 す る際 には国際価格 の4分
の一 とい う安価 な国 内価格 が適用 され る。 この差額 は政府 お よび国営 イラ ン石 油4)こ
れまで,為 替レー トは①イラン中央銀行の取引に適用される政府公式変動レー ト, ②競争輸入財を対象とする「競争レー ト」,③ 補助金的色彩がある生活基礎資材の輸入に 適用される「固定レー ト」,④
自由(ヤミ)市 場のレー トと4つ が存在 していた。1991年 の段階で1ドルとの換算レー トは①は約1400リ アル,② は600リ アル,③ は70リ アル, ④は1400リ アル以上であった。このような複数の為替レー トは 1993年 に廃止され① と ④が残った。両者はともに市場を反映 し,リアル安が続いている。EIU(1991,b),p.15
イランの「エネルギー 。経済モデル」の開発 と政策評価 209 会社 が補 助 して きた。 また
,イ
ラ ンの原油 生産 コス トはバ レル あた り5ドル と言 われ る。精 製 コ ス トを加味 しない ままで も,現
状 の石油 製 品販売価格 で は この原油 生産 コス トす ら賄 い され ない水準 にあ る。2.「
エネルギー・経済モデル」の開発
増大す る国内エネルギー需要 と輸 出余力の減少 とい う状況の中で,政
策の 中心課題 はいかに国内需要 を賄い,輸
出を確保す るかである。 それを検討す るツール として次の ようなエネル ギー・経済 モデル を構築 した。2.1
モ デ ル の コ ンセ プ トと体 系 モデル に要求 され る基本的な仕様 は,次
の二つ とした。それ らは,①
マク ロ経済 とエネル ギー需給の相互依存関係が シ ミュレー トで きること,②
主要 なエネルギー政策手段の影響評価が可能なこと,で
ある。 モデルのタイプ は,時
系列データを用いた計量経済型 シ ミュレーシ ョン・ モデルである。モデル全体 は①マ クロ経済,②
エネルギー需給,③
環境影響 とい う3つ
のセクターか ら構成 されている (図3参
照)。 マ クロ経済 セクターのモデルは,ケ
インズ型 を旨とし需要サイ ドを中心 に 構成 されている。 これは,国
内総支 出(GDE=GDP)の
実質 。名 目 。価格ブ ロックと雇用や生産ブ ロックか ら構成 され る。世界経済や政府支出 (政府投 資 を合む),為
替 レー ト,人
口な どが主たる外生変数 となる5)。 エネル ギー需給セクターのモデルは,エ
ネル ギー 。バ ランス表 を基 にマ ク ロ経済の変数 と絡 ませ て需要関数 を組み立てている。需要関数は,産
業 (10 産業)・ 民生 (家庭・業務)。 輸送・農業・非エネル ギー とい う5つ
の部門ご とに推計 されている。 また個 々のエネル ギー源への分割 は,次
の ような手順 を踏む。最初 に電力 と燃料 (非電力)と
に分 けて需要関数が組 まれ る。次 い5)途
上 国の経済 モデル については,今
川 (1980)を参照。【マクロ経済】 ①実質GDPコンポーネン ト ②デフレーター・価格指数 ③名 目GDPコンポーネン ト ・民間最終消費 ・民間投資 ・ 輸出 ・ 輸入 。産業別付加価値 ・ 就業者数 ・ 失業率 。
CP1/WPI
他 [エネルギー価格] (注) 内生変数 外生変数 図3
エネルギー 。経済 モデルの フ ロー で,燃
料の内訳 となる石油やガス といった分割 にはシェア関数 を用いて推計 す る。 これは燃料間の競合関係 を表現す るためである6)。 こうして推計 された値 を集計 して最終エネル ギー需要計が求 まり,転
換部 門での消費や転換 ロス等 を加味 した上 で一次エネル ギー国内需要が求め られ る。国内エネル ギー価格,原
油生産量,天
然ガス生産量 な どが主たる外生変 数である。 さらに,環
境影響セクターでは,エ
ネルギー消費量 に対応 した環境負荷が 【環境影響】 錫 O x ■ O N & 《経済政策》 ・ 政府支出 ・ 為替 レー ト 他 《世界経済》 。世界貿易 。原油価格 ・ 工業品輸出 価格指数 。人 口 。世帯数 《環境政策〉 例 えば炭素税 導入など 《エネルギー政策》 。国内エネルギー価格 。原油生産量 。電源構成 など 排 出原単位 [活動水準 。物価 など][エネルギー輸出量] ①最終エネルギー需給 。産業部門 。民生部門 。輸送部門 ・ 他 ② エネルギー転換部門 ・ 電気事業者 ・ 石油精製 ・ 他 ③一次エネルギー供給 。エネルギー輸入 。エネルギー輸出 。一次国内需要 【エネルギー6)途
上国向け工不ル ギーモデル を比較 した ものにIIASA(1991)が
あ る。イランの「エネルギー・経済モデル」の開発 と政策評価 211 計算 され る。具体的 には
SOx,NOx,C02の
排 出量 を算定 している。この計算 は,エ
ネルギー源別の消費量 に汚染物質の排出原単位 を乗ず ることによって 求め られ る。 マクロ経済 モデル とエネル ギー需給モデル との相互依存作用は,①
エネル ギー輸 出 と②国内エネルギー価格 を通 じてなされ る。つ まり,エ
ネル ギー輸 出量 はその生産量 と国内需要の差 として計算 され,こ
れに国際エネル ギー価 格 を乗 じた ものがエネルギー輸 出額 としてマ クロ経済 モデルのGDPに
反映 され る。 また,国
内エネルギー価格 は国内物価変動の一要素 として考慮 され る。それゆえ,エ
ネルギー価格の引 き上 げは国内エネルギー需要の抑制 を通 じて石油輸 出余力の増大 をもた らす ものの,一
方,国
内物価の上昇 を引 き起 こ し実質購買力の低下 を も招来す る。 計算 は国内エネルギー需給やマ クロの経済諸変数が最終的に収束す るまで 行われ,そ
れがモデル全体の均衡解 となる。2.2
データ ① マクロ経済 マクロ経済モデル構築のためのデータは,基本的 にはイラン中央銀行(Cen―tral Bank of lran)が
発行 している『年次報告』 を用いている7)。 しか し ,途上国や中進国スタデ ィの共通の問題点ではあるが
,デ
ータの一貫性や統計 書 に計上 されているデータ範囲のバ ラツキ といった問題か ら,幾
つかの過去 推計 も同時 に行った。データ収集 には計画予算庁(PBO:Plan and Budget
Organization)所
轄の計画 。開発調査研究所 (IRPD:Institute fOr Reseachin Planning and Deve10pment)ス
タッフの協力を得た。② エネル ギー また
,エ
ネルギー・データは国際協 力事業団(JICA)の
「イラン・イスラ ム共和国エネル ギー計画調査」によって作成 されたJICA版
「エネル ギー・バ ランス表」 を用いている8)。 これは次の理由か らである。7)CBI(1991)
8)国
際協 力事業団 (1993)イ ラ ンに もエ ネル ギー省
(MOE:Ministry of Energy)発
行 の エネル ギー 。 バ ラ ンス表 に関 した統計書 は存在 す る9)。 しか し ,その表 には次 の ような問題 点 が存在 して い るため,本
モデル のデー タベ ース として は採 用 していない。 問題 点 の第一 は,表
その ものが か な り簡 易 な ため に需要 の推 計 を行 うには 適 して い ない こ とで あ る。例 えば,産
業 部 門 は全 ての製 造業 をひ とま とめ に して計上 して い る し,民
生 部 門 も家庭 用 と業務 用 との区分 が され ていない。 第二 の 問題 は,エ
ネル ギー源 別 に投 入や 消 費 の行 方 を追 って行 くと,数
字 の 辻棲 が合 わず,マ
トリックスの整 合性 に問題 が生 じて くるこ とで あ る。 さ ら に第二 のそれ は,マ
ク ロ経済 モデル との接 合 に必要 な原油 の輸 出や石油製 品 輸 入量 が 明記 され て いない こ とで あ る。 そ こで,こ う した問題 点 を解決 す るため にJICA版
の エ ネル ギー・バ ラ ンス 表 が作 成 されて い る。 この表 は,前
述 の エ ネル ギー省版 エ ネル ギー・ バ ラ ン ス表 を土 台 と し,国
営 イ ラ ン石 油会 社 の年次報 告 やIRPDが
推 計 した家庭 用 エ ネル ギー消費 デー タ,モ
ハ マ ド博士の産業別 エ ネル ギー消費の推計 デー タ な どを加味 した上 で,エ
ネル ギー・バ ラ ンスが再構 成 され て い る。JICA版
の 表 で は,国
内生産 や輸 出 。輸 入 。国 内需要 とい った一次 エ ネル ギーの値 か ら 詳細 な最 終 エ ネル ギー需要 に至 る まで,国
際規格 に準 じた形 で整 合 的 なエ ネ ル ギー・バ ラ ンスが読 め るようにな ってい る。 ③ 環境 影響NOx,SOx,C02に
関 す る排 出量 デー タは公表 され て いな い。それ ゆ え,過
去 実績 を も合 め て筆者推計 とな った。SOx,NOxに
関す るエ ネル ギー源 別排 出 原 単位 は科 学技 術 庁 の 『ア ジアのエ ネル ギー利 用 と地 球 環境 』 を参 考 に し,C02の
それ に関 して は,エ ドモ ン ド=ラ
イ リー・モデル で採 用 され て い る値 を 用 いて い る10)。2.3
テス ト 以上のデータを用いて前述のモデルが構築 された。モデルの規模 は,内
生 9) 10E(1991) 10)科学技術庁 (1992)イランの「エネルギー 。経済モデル」の開発と政策評価
213
変数127,外
生 変数54,推
計 式 や 定義 式 の数 が127本
とい うコンパ ク トな も の で あ る。モデルの適合度 を過去10年
間の最 終 テス トで測 る と,平
均 誤差 はGDPで
み て5%,一
次 エ ネル ギー需要 で4%,C02排
出量 で4%と
な って い る (図4参
照)。 モデル のパ フ ォーマ ンス はおおむね良好 と言 え よう。GDP
一次エネルギー 10億リアル 16000 12000 10000 8000 6000 4000 1970 1975 1980 1985 1990 1970 1975 1980 1985 1990 最終 エネルギー需要 C02排出量 百万t―C 250 200 150 100 50 70 60 50 40 30 20 10 1970 1975 1980 1985 1990 1970 1975 1980 1985 1990 図4
モデルの最終 テス ト3.シ
ミュ レー シ ョン
3.1
ケ ー スの設定 エ ネル ギー政策 を検 討す るため に,上
記 の モデル を用 いて い くつ かの将 来 シ ミュ レー シ ョンを行 った。設定 され たケースは,次
の3つ
で あ る。 実績 テス ト 実 績 テ ス ト 実績 テス ト第一 の ケ ース は 「基準 ケース」 で あ る。 これ は他 のケース結果 との相 違 を 知 るためのベ ー ス とな る。前提 とす る外生 は「明 日の世 界 は昨 日までの それ とほぼ 同 じ」 とい う
,い
わ ゆ る「 ビジネス・ アズ 。ユー ジュアル」の ケース で,過
去 の トレン ドを重視 した もの とな って い る。 エネル ギー政策上 の重要 な前提 は,原油生産量 は現状 より若千増 えて1995年
に400万
バ レル/日,2000 年 に450万
バ レル/日 (1993年 現在 は約380万
バ レル/日)と
した。450万
バ レルの水準 は,現
行政府が 目標 としている量である。 また,国
内エネル ギー 価格 は年率5%程
度の上昇 を仮定 している。 第二のケースは「原油増産ケース」で,原
油生産量 を基準ケース よりも増 量す るとい う前提 に立つ。具体的 には,1995年
お よび2000年
の原油生産量 を 「基準ケース」 よりそれぞれ50万
バ レル ほど引 き上 げ,順
に450万
バ レル,500万
バ レル/日 としている。国内エネルギー価格の水準 は「基準ケース」と 同 じである。 第二のケースは「値上 げケース」として,国
内エネルギー価格 を年率17.5%
ほど上昇 させ る。この値上 げ率 に従 えば,10年
後 には現状のほぼ5倍
とい う 値上 げ幅 となるが,こ
れは非現実的な政策ではない。 タイ ミングこそ明確 に は していないが,イ ランの政府 内部で も国内エネル ギー価格 を5倍
∼10倍
に 値上 げす る政策が検討 されているとい う観測がある。また,近
年の年率20%
強の高いイ ンフ レ下にあっては,こ
の程度の国内エネルギー価格の上昇で も 実質値下げにな ることも想定 され る。 この他 に もシ ミュレーシ ョンの前提 となる外生変数が存在す る。その主要 な ものは表1に
不 している。イランの「エネルギー・経済モデル」の開発と政策評価 表
1
ケース設定の主要前提諸元 215 項 目 単位 実績 1990年 前提:2000年 基準ケース 原油増産ケース 値上げケース 世 界 世界貿易 原油価格 loηuss $/bbl 2,934 20 1 3,943(3.0) 25.0( 0.2) 同左 同左 同左 同左 経 済 政 策 実質政府支出 為替レー ト 資本ス トック 付加価値構成%
10 9Rial R/$ 10 9Rial 1,337 215 17.953 1,337(0.0) 2,000(25.0) 19,831( 1.0) 1990と同 じ 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 同左 エ ネ ル ギ ー 政 策 原油生産量 天然ガス生産 ガソリン価格 灯油価格 電気料金 ガス料金 電力普及率 MB/dMBOE
Ria1/1 Ria1/1 Ria1/kWh Ria1/m3%
3.3 401.6 50.0 15.0 5.3 8.0 77.0 4.5(3.3) 753.9( 6 5) 81.4(5.0) 24.4(5.0) 8.6(5.0) 13.0(5.0) 88.5( 1.4) 50(4.4) 同左 同左 同左 同左 同左 同左 4.5(33) 同左 250.8(17.5) 75.2(17.5) 26.6(17.5) 40.1(17.5) 同左 他 人口 世帯数 103 103 56,401 10,641 75,798( 3.0) 14,301( 3.0) 同左 同左 同左 同左 注1)エネルギー価格は総て市場価格2)MBOEは
MilliOn Barre1 0il Equibarent(原油換算百万パレル)の 略。MB/dは百万バレル/日。3)為替レー トは1990年代に入り市場への運動を進めており,1993年 にはほぼ完全に自由化されるに 至った。同年央の値は1600Ria1/Sであり,前提にはこれを織 り込んでいる。 4)付加価値構成は製造業内の各産業付加価値を求めるための前提となる。
5)( )内
は1990年からの年平均増減率%
3.2
シ ミュ レー シ ョン結果 こ う した前提 の もとに各ケース をシ ミュ レー シ ョンす る と次 の ような結果 が得 られ た (表2,お
よび図5参
照)。 まず,「 基準 ケース」を見 てみ よう。2000年
までの実質GDP成
長率 は年平 均4.8%で
増 加 し,2000年
のGDPは
1990年
比1.6倍
の17兆
5千
億 リアル にな る と想定 され た。 しか し,
これ も90年
代 を前 半 。後 半 と分 けれ ば,高
い イ ンフ レ下 にあ る現在 か ら1995年
まで の成 長率が3.4%で ,後
半 の5年
間 は それ よ りも高 く6.2%と
見 込 まれ て い る。 この ケースの一次 エ ネル ギー供給量 は年率6.9%増
加 して,1990年
の5億
1千
万バ レル (原油換算)が
2000年
には9億
9500万
バ レル (同)と
な る。項 目 単位 実績 1990年 想定結果:2000年 基準ケース 原油増産ケース 値上げケース マ ク ロ 経 済 実質
GDP
′′民間消費 ′′設備投資 ′′輸出合計 (内石油) ′′輸入 GDPデフレータ CPI 10 9Rial 同上 同上 同上 同上 同上 1982=100 同上 10,930 7,564 1,379 2,553 2,098 1,274 335 320 17,468( 4 8) 13,477( 5 9) 1,538( 1.1) 3,620( 3.6) 2,865( 3.2) 1,857( 4.0) 5,883(33.2) 2,735(23.9) 17,932(5.1) 13,524( 6.0) 1,633( 1 7) 4,011(4.6) 3,256( 4.5) 1,946(4.3) 5,707(32 8) 2,708(23 8) 17,187( 4.6) 13,090( 5.6) 1,460( 0.6) 3,763( 4.0) 3,005( 3.7) 1,835(3.7) 6,541(34.6) 2,986(25.0) エ ネ ル ギ ー 一次エネ供給 (石油) (天然ガス) 最終エネ消費計 産業部門 民生部門 輸送部門 石油 電力 天然ガスMBOE
同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 510.4 348.6 119.4 386.3 151.5 144.3 90.5 257.1 28.5 67.9 995.3(6.9) 668.7( 6.7) 270.3( 8.5) 764.4( 7.1) 261.2( 5.6) 283.5( 7.0) 219.7(9.3) 521.4( 7.3) 64.4( 8.5) 136.7( 7.2) 1,009.1(71) 682 3( 6 9) 270.5( 8.5) 776.2( 7.2) 262.8( 5.7) 286.7( 7.1) 226.7( 9.6) 532.5( 7.6) 65.0( 8.6) 136.8( 7.3) 932.9(6.2) 628.6(6.1) 250.0( 7.7) 725.7( 6.5) 240.5( 4.7) 268.0( 6.4) 217.2(9.2) 513.0( 7.2) 56.3( 7.0) 116.4(5.5) 環 境 C02 SOxNOx
百万t―C 千t 同上 62.5 2,039 335 1 120.7(6.8) 4,125( 7.3) 694 4( 7.6) 1225(70) 4,214(78) 706.6( 7.7) 120.7(6.8) 4,125(7.3) 694 4( 7 6) 表2
シ ミュ レーシ ョン結果 注1)実質は1982年価格 2)C02等の環境排出量の実績値は筆者による推定。 3)イ ンフレ率が高いのは為替のリアルの影響で,すでに1990年初頭から高い状況にある。4)( )内
は1990年からの年平均増減率%
GDP弾
性値 は1.4で
ある。最終エネル ギご需要 を部門別 にみれば,産
業部門 は5.6%(1990-2000の
年平均増加率),民
生部門は7.0%(同 ),輸
送部門は9.3%(同 )で
,輸
送・民生の伸 びが大 きい。 また,エ
ネル ギー源別 にみれば, 電力8.5%(同 ),天
然ガス7.2%(同 ),石
油7.3%(同
)の
順 に高い増加率 である。 次 に「原油増産ケース」の実質GDP成
長率 は,「基準ケース」に比べて年 率0.3ポ
イ ン ト拡大 して,年
率5.1%と
なっている。2000年
のGDP水
準 は 「基準 ケース」の3%,金
額 に して5千
億 リアル程高い。原油の増産 は「石イランの「エネルギー 。経済モデル」の開発 と政策評価 217 10億 リアル(1982年価格) 20000 14000 12000 10000 8000 1990 1985
GDP
1995 最終 エネルギー需要 1995 一 次 エ ネルギ ー需 要 原油換算百万パレル 1985 1990 1995 炭素換算百万 トン C02排出量 原油換算百万バ レル 800 700 600 500 140 120 100 80 60 40 2000 1985 300 200 1990 1995 2000 図5
シ ミュ レーシ ョン結果 油輸 出の拡大→GDPの
拡大→国内石油需要の増大→石油輸 出余力の減少」 とい う過程があるために,増
産量がその ままGDPの
拡大量 となる訳 ではな い。本モデルでは,原
油増産の実質GDP拡
大 に対す る弾力性 は 0.27と 推計 された。 さらに,「値上 げケース」では,「基準ケース」 に対 して年率0.2ポ
イン ト ほ ど実質GDP成
長率 を押 し下 げ,2000年
までの成長率 は年率4.6%と
なっ ている。 これは「国内エネルギー価格の値上 げ→一般物価の上昇→実質購買 力の低下→GDPの
押 し下げ」とい うマイナスの効果 をもた らすためである。 ただ し,他
方で「国内エネル ギー価格の上昇→国内エネル ギー消費の抑制→ 石油輸 出余力の増大→GDPの
押 し上 げ」 とい うプ ラスの効果 も働 いている 筈である。 ところが,エ
ネルギー需要の価格弾力性が所得弾力性 に比べて小さい こ とか ら
,値
上 げ に よる国 内エ ネル ギー需要 の抑制効果 は軽微 で あ る。 その ため に,輸
出余力の創 出 を期 待 して採 用 した値上 げは,結
果 的 に経済成 長 の低 下 を もた らす こ とにつ なが ってい る。 この 「値上 げケース」 の結果 を読 む には,次
の ような留意 も必要 で あ る。 エ ネル ギー需要 の長期 的 な価格弾力性 は,マ
ク ロ的 な推計 で は-0.8∼
-0.4
とい った値 が計測 され るが(表3参
照),モ
デル に組 み込 まれ た個 々の経済 主 体 に よる需要関数 はそれ とは異 な って い る。積 み上 げ られ た個 々の需要関数 にお いては,価
格 変数 に有意 なパ ラメー タが得 られ なか った推計式 もあ る。 また,値
上 げに よる収 入増加が もた らすで あろ う「政府収 入の増大→ 国内投 資へ の貫流 」 とい うル ー トもモデル 内では組 み込 まれ ていない。 こ う した留保条件 はあ る ものの,本
モデル に よれば国 内エ ネル ギー価格 が 表3
マ ク ロ推計 による需要の弾力性 区 分 エネル ギー 価格弾 力性 所得 弾力性 短 期 a 長期a/1-c
短期 b 長期b/1-c
石 油 電 力 ガ ス -0.088 (-1.51) -0.123 (-0.98) -0.450 (-2.60) -0.337 -0.932 -0.810 0.630 (3.09) 0.214 (1.56) 1.074 (2.36) 2.489 1.693 1.932 注1)推
計 は1979∼ 1990年のデータを以下の関数型 を用 いて行った。 エネル ギー需要(E)=Paホ Ybin(E)=d+a ln(ェ ネルギー価格/CPI)+b in(GDP)+c in(E(-1))
2)エ
ネル ギー価格 データは石油 は灯油価格,電 力は電力平均価格, ガスは産業用ガス価格 を用いた。3)( )内
はt値 もた らす実質GDP成
長率への弾力性 は-0.02程
度 ある。つ まり,国内エネル ギー価格上昇の成長率へのインパ ク トは極めて小 さい ものの,マ
イナス とし て示 された。 「値上 げケース」のインパ ク トをエネルギー源別に見 ると,天
然ガスが最イランの「エネルギー・経済モデル」の開発と政策評価
219
も敏感 で次 いで電力,石
油 とな って い る。石 油 需要 は所得 には敏感 で あ るが, 価格 に対 して は極 め て鈍 感 で あ る。 これ は,石
油 の最 終 エ ネル ギー需要 の半 分 近 くが輸 送用 で あ るこ と,
しか も大量輸 送手段 と しての鉄道 は未 発達 で ほ とん どが 自動車輸 送 に依存 してい る とい う背景 が あ る。4.政
策 的 イ ン プ リケ … シ ョン 上で き見て きたシ ミュレーシ ョンによって,エ
ネル ギー政策 に関す るい く つかの知見が得 られ る。それ らは以下である。4.1
エネルギー生産 原油輸 出にGDPの
1割
以上 を依存 しているイランにあって,原
油生産量 の増加が成長の鍵 を握 っている。原油生産の増加率が10%拡
大すれば,GDP
は約3%増
加す ることになる。継続的なエネル ギー輸 出を可能 にす る策 は, 単に原油増産 というものだけではない。 それ以外 に,国
内石油精製能力の拡 大 と国内エネルギー需要の天然ガス転換の推進 という政策が考 えられ る。 国内の石油精 製能力 を現状 レベルで据 え置 くこ とを前提 とすれば,「基準 ケース」の石油製品輸 入は1990年
の12万
バ レル/日が2000年
には80万
バ レ ル/日 に増大す る。これは,国
内での石油精製能力不足のために,原
油 は輸 出 しなが らも国内の石油製品需要 を賄 うために,海
外か ら国際価格で製品 を輸 入 している姿である。現状 で もそれは行われているが,国
際価格で購入 した 石油製品をその数分の一 とい う安い価格で国内に販売 し,そ
の差額 は政府が 補助 している状況である。財政負担 を考慮すればこれ を将来的に継続す るこ とは,困
難である。それゆえ,国
内精製能力 を増強 し,製
品輸入の抑制 を図 る必要がある。加えて,長
期的 には原油輸 出か ら付加価値の高い製品輸 出ヘ の転換 を図 る方向を模索すべ きであろう。 また,国
内の石油製品需要 を天然ガスに転換 してゆ くことも,石
油輸 出の 維持 につなが る。そのためには,国
内天然ガスの開発やパ イプ ライン増設計 画の着実な推進が肝要 となる。豊富な埋蔵量 を誇 る天然ガス資源の有効利用を考 える時期 になっている。
4.2
エネル ギー価格 経済 の好不況 に関 わ り無 く,近 年 国 内のエ ネル ギー需要 は急増傾 向 を示 し, 将 来的 に も経済 成長率以上 の増 加が見込 まれてい る。 この時,エ
ネル ギー価 格 の引 き上 げが政 策 の一 手段 と して検 討 され る。 しか し,シ
ミュ レー シ ョン結果 か らみれば価格効果 を過度 に期待 す るの は 誤 りで あ ろ う。必需 品的 な性 格 を持 つ エ ネル ギー需要 の価格 弾 力性 は小 さい。 エ ネル ギー価格 の引 き上 げは原油輸 出余力の増大 にはつ なが るが,そ
れ以上 に一般物価 の上 昇 を引 き上 げて実質所得の減 少 とい う効果 の方が大 きい。 そ れ ゆ え,エ
ネル ギー価格 の引 き上 げの 目的が単 に需要抑制 にあ る とした ら, 望 ま しい政策 とは言 えな いだ ろ う。 ただ し,エ
ネル ギー価格 の 引 き上 げ は次 の意味 で有効 な政 策 と して支持 で きよう。 それ は,価
格 を製造 原価 を反映 した水準 に まで引 き上 げ,そ
れ に費 や され て きた補 助金 を削減 す る。 これ はエネル ギー産業 の 自立 を意図す る も ので あ る。 また,エ
ネル ギー価格 の引 き上 げ は,エ
ネル ギーの節約 だ けで な く高率的 な消費機 器 の技術 開発 を誘 発す る効果 が あ るこ とは論 をまたない。 それ ゆ え,省
エ ネル ギー を 目的 とす る政策 と して は,
まずエ ネル ギーの適 正 な価格付 けを行 うこ と。 それ と同時 に,効
率 的 な消費機 器 の普 及推 進策 を 採 る必要 が あろ う。 先進 諸国 で行 われ て来 た よ うな機 器 の ラベ リングや 効 率 基 準 に関 す る設定,交
通体系 の見直 し,啓
蒙活 動 な どが その具 体策 とな る。おわ りに
これ まで,イ
ラ ンで は国 内 の エ ネル ギー政 策 は さ して重 要 視 され て来 な か った。 これ には,革
命や イ ラ ン・ イ ラク戦 争後 の経済 体 制 の立 て直 しに忙 しか った とい う理 由 もあろ うが,豊
富 なエ ネル ギー資源 を背景 に国 内の エ ネ ル ギー問題 は電力網 の整備 とい うイ ンフラ問題 で しかなか った。 ところが, 増大 す る国 内エ ネル ギー需要 か ら原油輸 出余 力が懸念 され,同
時 に世 界的 なイランの「エネルギー・経済モデル」の開発 と政策評価 221 原油価格 の低 迷 に よって
,原
油輸 出 を成 長 の牽 引車 にす るこ とは困難 な状 況 に遭遇 してい る。 そ こで,期
待 され るエ ネル ギー政 策 と して は原油輸 出量 の確 保 の方策 や 国 内エ ネル ギー需要 の抑 制策 とな って い る。 原油輸 出の確 保 の ため には,製
品 輸 入 を減 少 させ るため の精 製 装 置 の拡 充 や 天 然 ガ スヘ の燃 料 転 換 な どが あ る。 また,需
要抑 制 の ため には,コ
ス ト水準 までエネル ギー価格 を引 き上 げ るこ とは 当然 で はあ るが,価
格 弾 力性 が小 さい こ とか ら,そ
れ以上 に体系立 て た省 エ ネル ギー政策 の実行が望 まれ る。 こ う したイ ンプ リケー シ ョンは,今
回構 築 した「エネル ギー・経済 モデル」 の シ ミュ レー シ ョン結果 か ら得 られ た もので あ る。しか し,こ
のモデルが完 全 だ とは言 い切 れ ない。 デー タ制約 は存在 す るが,改
善 され るべ くモデル の 課題 は次 の ようにな る。 それ らは,供
給 サ イ ドを重視 したマ ク ロ経済 モデル の構 築,エ ネル ギー価格 の値上 げに よる増分収 入の貫流 ル ーチ ンの組 み込 み, で あ る。 参 考 文 献1)BP(British Petroleum CO.),`Statistical Revie、 70fヽVOrld Energy,'June 1992
2)CBI(Central Bank of lran),`Annual Review,'several years
3)EIU (The Econol■list lntelligence Unit),`Iran Country Profile 1991-1992,'ヽ 4ay 1991 (a)
4)一
,`Iran Country:RepOrt No.21991,'ヽ 4ay 1991 (b)5)IIASA (InternatiOnal lnstitute fOr Applied Systein Analysis), `Assesment of PersOnal COmputerヽ4odels for Energy Planning in Developing Countries,'()ct.1991
6) I()EI(Ministry of Energy),`Energy Balance of lran,'1991
7)ヽ40harrlmadi,A"`Creating a MOdel fOr Energy卜 4anagement in Cernent lndustry,' ゝ.4ineo, 1990
8)NIOC(NatiOnal lranian Oil Coinpany),`Annual RepOrt,'several Years
9)今
川健 『開発途上 経済 の モデル分析 』 中央 大学 出版 部 1980年10)科学技 術庁科 学技 術政 策研 究所編 『ア ジアの エ ネル ギー利 用 と地球 環境 』 大蔵 省 印刷 局 1992年
11)国際協 力事業 団 『イ ラ ンイス ラム共和 国の エ ネル ギー計 画調 査 プ ログ レス レポー ト II』 1993年9月