1. はじめに
環境部は、環境試験室(音試験・熱試験)、耐火防火 試験室(防耐火構造試験・防火材料試験)および耐風試 験室(風洞試験・動風圧試験)の3試験室からなる。環 境部の前身は部制となった1996年以降、建築物理部で あったが2013年4月に改名した。 環境部の業務は、建築に関する構造・材料分野以外の 音、熱、火、風、水などに対する安全・快適性の試験を 実施している。環境部の業務開始は、表-1に示すように 耐火防火試験室の1967年を始めに順次試験室を拡張し、 またその試験内容も拡充させてきた。特にこの10年間 は計画的に設備の更新を実施するとともに、社会のニー ズに対応した新規試験の開拓を積極的に展開してきた。 環境部の3試験室はそれぞれに特徴があるが、いずれ も建築確認評定センターや製品認証センターとの業務連 携が強く、試験のみならず性能評価や認証業務にも深く 係わっている。また、自主研究、各種学会での委員会活 動や論文発表も積極的に行ない、社会への情報の収集や 発信にも力を注いでいる。 以下に、この10年間の各試験室の推移と今後の展望 について紹介する。 (環境部長 小南和也)2. 環境試験室
2. 1 受託業務の推移
環境試験室では、音環境及び熱環境に関する性能試験 を中心とした受託業務を行っている。過去10年間の収 益の推移を図-2.1に示す。環境試験室全体の収益はこの 10年間で±20%程度の範囲で変動しながら推移してき た。2008年度の収益のピークは主に床衝撃音試験の受 託増に伴うものであり、翌2009年度の落ち込みはリー マンショックの影響が遅れて到来し、試験受託が減少し た結果である。俯瞰すると、前半では音試験が占める比 率が高く、後半には熱試験の比率が高い傾向であった。 なお、2004年度から空気中の化学物質濃度及び石綿 濃度の測定業務を行っていたが、受託の減少などの理由 から2012年度以降は業務を取り止めている。2. 2 音試験
収益の推移を図-2.2に示す。音響試験では、以前より 直貼り防音フローリング・乾式二重床など床仕上げ材の 床衝撃音レベル低減量試験が多い。このため、床構造の 評価なども含めた床衝撃音関係の試験(写真-2.1)が音 響試験全体の半分強を占めており、当試験部門の特色で 試 験 室 部 門 業務開始年 環 境 試 験 室 音試験 1972 年 熱試験 1971 年 耐 風 試 験 室 風洞試験 1977 年 動風圧試験 1975 年 耐火防火試験室 防耐火構造試験 1967 年 防火材料試験 表-1 環境部各試験室の業務開始一覧 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 収 益 比 率 (2013 年 度 比 ) 年度(西暦) 空気 熱 音 図-2.1 環境試験室全体の収益の推移もある。 この10年間の主な出来事として、床衝撃音試験につ いては、まず、2007年に床衝撃音レベル低減量の実験 室測定法のJIS A 1440が改正されたことが挙げられる。 乾式二重床などの試験は図-2.3に示すように、不整形の 残響室を用いて居室中央部の一般断面のみを再現する旧 来の方法から、矩形2層の床衝撃音実験棟を用いて壁際 納まりまで再現する方法に、試験条件が変更された。ま た、遮音等級の表記方法も、問題点が指摘されていた以 前の「推定L等級」を廃止し、新たな表示体系「ΔL等級」 (表-2.1参照)による表記へと切り替えられた。新等級 の制定に当たっては、当法人の中に検討委員会を設置し、 その成果を2008年に「床材の床衝撃音低減性能の等級 表記指針」として公表した。その後、新等級の普及のた めの業務説明会を継続的に開催した。全6都市で延べ17 回開催した説明会には、各方面より延べ1148名の参加 者があり、新しい等級表記の円滑な導入を後押し、業界 全体でスムーズな移行が出来た。こうした影響で、 2008年度にかけて乾式二重床など床衝撃音低減性能試 験が大幅に増加した。 その他、床仕上げ材に関しては、直貼り防音フローリ ングの試験は減少したが、表面に化粧シートを貼った仕 様や無垢板を基材に使用した仕様の防音フローリングの 開発や、積層床材の開発などが活発に行われている。 また、2010年には「公共建築物等における木材の利用 の促進に関する法律」が制定・施行され、低層の公共建 築物については積極的に木造化が促進されることになっ た。このため、木造の共同住宅・学校・事務所などの床 の遮音性能向上を目指した開発が活発となった。当法人 でも、関連した性能検査や、木造床上に乾式二重床を適 用する工法の研究などを工業会ほかと共同で実施した。 音響透過損失試験では、以前よりドア・サッシ・外壁 材・防音壁などの性能試験を受託している。近年では船 舶居住区の騒音規制に関連し、船用の間仕切り壁や床 デッキなどの艤装品の遮音性能試験も増加している。 吸音率試験では、JIS製品に関わる品質管理の試験や、 軽量床衝撃音 に対する等級 重量床衝撃音 に対する等級 ΔLL-1~5 ΔLH-1~4 ※等級の数値が大きいほど高遮音性能を表す。 表-2.1 ΔL等級の表記方法 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 収益 比 率 ( 2 01 3 年 度比 ) 年度(西暦) その他 吸音率 透過損失 床衝撃音 図-2.2 音試験の収益の推移 写真-2.1 床衝撃音試験 試験用RC床 一般部支持脚 ネオプレンゴム (防振支持) 残響室RC躯体 油粘土 木枠
【残響室における試験方法】
試験用RC床 防振束(端部) 際根太 一般部 支持脚 構造壁 木板 幅木 幅木取付用【床衝撃音実験棟における試験方法】
図-2.3 床衝撃音低減性能試験方法の改正概要 (2007年のJIS A 1440改正による)リサイクル材料を活用した新しい吸音材料の開発、と いった試験が増えている。 そのほか、2011年3月に発生した東日本大震災の後に は、海外らからの輸入材料の性能確認の試験のほか、復 興住宅建設に伴う遮音性能試験や住宅性能表示制度の特 別評価認定制度に関わる試験なども増加した。 この10年間で新規に開始した試験項目としては、降 雨騒音試験、頭部衝撃試験、などがある。 屋根材などの降雨騒音試験は、2006年にISO 140-18 として試験規格が制定された。試験体の上部に降水用の 水槽を設置し、屋根材などの試験体に毎時40mm程度の 水滴を落下させ、試験体下側の受音室への音響放射レベ ルを測定するものである。これまでに、膜材料や金属屋 根などの試験を受託した。 また、床仕上げ材に対する転倒時の安全性の評価試験 として、JIS A 6519「体育館用鋼製床下地構成材」の 試験に準ずるヘッドモデルを作成し、床仕上げ材に対す る床衝撃音試験と同時に頭部衝撃試験も実施できるよう にした。 そ の 他、 床 衝 撃 音 に 関 し て は、 試 験 規 格(JIS A 1418-2およびJIS A 1440-2)に新たに導入されたボー ル衝撃源を導入し、主に乾式二重床の床衝撃音低減性能 試験、および木造床など軽構造の住宅での床衝撃音試験 に活用している。また、2003 ~ 2005年度にかけてイン パルスハンマーを購入し、床構造の衝撃インピーダンス を測定できるシステムを構築した。床構造の遮音性能評 価業務を受託するとともに、調査業務の成果の一部は学 会等にも発表を行った。
2. 3 熱試験
収益の推移を図-2.4に示す。受託試験の内容は、熱貫 流率、熱伝導率、熱抵抗など、建築部材や材料の断熱性 能を測定する「断熱試験」、透湿率などの湿気物性を測 定する「湿気試験」、(公社)空気調和・衛生工学会の SHASE規格による「グリース阻集器試験」、2006年よ り開始した新JISマーク表示制度による「JIS認証製品 試験」、「その他試験」に大別できる。断熱試験は全体の 約半分の受託量で推移してきた。 この10年間の主な出来事として、2005年に京都議定 書が発効して以来、地球温暖化抑制のためにオゾン層を 破壊するフロン類を含まない断熱材の開発が進んでき た。また、2006年のJIS改正(JIS A 9511発泡プラスチッ ク保温材)で発泡剤としてフロン類を用いないものが追 加された。これらを受けて熱部門でも2007年頃から断 熱材の熱物性試験が増加している。 2009年には省エネルギー基準が改正され、外壁や屋 根などを構成する材料がある一定の透湿抵抗をもってい れば通気層や防湿層を省略できるようになった。このた めに各材料の透湿性を確認する需要が高まり、透湿抵抗 をはじめとする湿気試験が増加した。 2010年にはグリース阻集器規格(SHASE S-217)が 改正され、製品の認定基準が変更された。これに伴い、 日本阻集器工業会の自主認定制度に係るグリース阻集器 性能試験を多数受託した。 また、(一社)日本建材・住宅設備産業協会による優良断 熱材認証制度が2013年に始まり、JIS製品以外の材料につ いても断熱性能が認証されるようになった。当法人は指定 試験機関として登録されている。現在までに数件の試験を 実施しており、今後も引き続きの受託が見込まれる。 断熱試験の約半分を占める熱伝導率試験のHFM法試 験 装 置( 写 真-2.2) を2003年 度 に 新 設 し た。JIS A 1412-2に基づく熱伝導率試験で、これまでに比べて測定 時間が大幅に短縮された。また2013年度には大型HFM 試験装置(写真-2.3)を新設し、厚さ150mmまでの試験 体で試験可能となった。これによって、今後、繊維系断 熱材などの試験受託にも対応できるようになった。 2008年には湿気試験増加に伴い、湿気物性試験用恒温 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 収益 比 率 ( 2 01 3 年 度 比 ) 年度(西暦) その他 JIS グリース 湿気 断熱 図-2.4 熱試験の収益の推移 写真-2.2 HFM法試験装置 写真-2.3 大型HFM法試験装置恒湿チャンバーを新設した。透湿性試験、平衡含水率試 験などの湿気物性値全般の測定を実施することができる。
2. 4 広報活動及び自主研究の取組み
環境試験室では、この10年間に積極的に試験関連の 広報活動を展開してきた。取り組んだ広報活動としては、 業務説明会の開催、学会等での研究成果発表、学術誌へ の投稿、各工業会との協力、などが挙げられる。この中 で特に業務説明会については、表-2.2に示すように様々 なテーマを取り上げ計34回の開催を行い、関係各方面 へ時宜を得た情報の提供に努めてきた(写真-2.4)。 また、自主研究・自主共同研究にも継続的に取り組み、 その成果は日本建築学会大会ほかに報告している。音関 係では、主に床衝撃音試験に関する複数の課題に取り組 み、実験室と現場との低減量の対応性、軽量衝撃源が測 定の再現性に与える影響、床仕上げ材への制振材の影響、 低音域測定での空間モードの影響、などの課題に対して 成果を挙げた。熱関係では、建材の湿気物性データベー スの作成、環境試験室研究棟の断熱改修の数値予測と実 測検証、窓面におけるカーテン使用による結露水量低減、 グリース阻集器におけるエアレーションの影響、といっ た課題を実施した。2. 5 今後の展望
環境試験室の過去10年間を振り返ると、それまでに 受託していた試験項目や製品の種類が緩やかに減少する 中で、社会や業界の動きや要請に応える形で新規の試験 などにも積極的に取り組み、業務量もほぼ維持してきた。 また、環境試験室が開設されて40年以上が経過し、 設備の老朽化への配慮も必要になってきた。騒音計・振 動計・音響較正器・FFT・恒温恒湿槽・サーモカメラな どをこの10年間で順次更新した。また、2Chマイクロホ ンシステムによる伝達関数測定装置(写真-2.5)を導入 し垂直入射吸音率測定を短時間化するなど、少ない職員 数でも対応可能な、業務効率の高い体制にむけた整備を 進めてきた。 今後も、現在実施している試験業務をより効率良く、 また高い品質で提供していくとともに、新規試験の開拓 や展開も継続的に行い、職員が一丸となって、社会から の要請にお応えできる試験機関を目指して行きたいと考 えている。 (環境試験室長 田中学)3. 耐火防火試験室
3. 1 受託業務の推移
当試験室は、防耐火構造、防火材料に関する大臣認定 試験および性能試験を実施している。また、火災に遭っ た建物の火害調査も実施してきた。なお、本年5月より 火害調査業務は構造部耐震耐久性調査室に移管したが、 これまでの経緯からここで述べることにする。 当試験室は、1967年(昭和42年)12月の防耐火試験 棟の完成に伴って業務を開始し、1968年6月に当時の建 設省より耐火・防火性能試験機関としての指定を受けた。 年度 開催内容(タイトル概要) 回数 人数 2004 音環境の性能表示に関する試験および評価 2 135 2005 サッシの性能試験における測定の不確かさ 評価 1 28 2008 床材の床衝撃音低減性能の等級表記と試験 方法 5 351 2010 ~12 床材の床衝撃音低減性能の等級評価と遮音 性能確保の要点 12 797 2010 外壁・屋根の遮熱性能評価 3 95 グリース阻集器の構造及び諸問題について 3 191 金属屋根に要求される耐風圧・断熱・防耐 火試験 4 118 2012 オイル阻集器の構造と性能試験方法 2 101 2013 改正省エネルギー基準と数値シミュレーシ ョンの活用 1 39 SOLAS条約改正と船舶艤装品に関わる 遮音性能試験 1 43 表-2.2 環境試験室での業務説明会の取組み 写真-2.4 業務説明会の取組み 写真-2.5 垂直入射吸音率測定装置(2Ch法)2000年6月1日には改正建築基準法が施行され、当法人 は国土交通省より指定性能評価機関の指定を受けた。 2000年以前には耐火構造等および不燃材料等の大臣 認定は指定試験機関(当法人他)で試験を実施した後、 (財)日本建築センター(当時)に評定を依頼し、同セン ター内に設置された評定委員会で審議承認、その後に大 臣認定または指定がなされていた。この当時、試験方法 は告示等の法律で定められていた。建築基準法改正以降 は国土交通省により認可された指定性能評価機関(当法 人他)で試験を実施し、試験を実施した機関の評価委員 会での審議・承認、性能評価書の交付を受けて国土交通 省に申請することとなった。試験方法は、指定性能評価 機関が制定した「防耐火性能試験・評価業務方法書」に 定められている。打合せ→試験実施→性能評価→大臣申 請(代行)までワンストップで進められるよう当試験室 と建築確認評定センターが連携して業務にあたってい る。 2007 ~ 2008年には、偽装された試験体によって性能 評価試験を受験するという、いわゆる「耐火不正受験」 事件が発覚した。この事件は耐火試験に対する信頼性を 損ない、試験体製作管理の厳格化が求められることにな り、2009年度から当試験室において試験体製作管理業 務を開始した。また、この事件を契機に国土交通大臣認 定の運用が一層厳格化され、認定範囲にバリエーション を設ける場合の評価ルールが整備された。なお大臣認定 に用いる試験は指定性能評価機関による評価試験に限ら れることになった。さらに、一件の試験に対する認定で あっても構造名が異なる場合は別の認定とするように変 更された。加えて、2010年には防火設備に関する認定 において性能不足が発覚し、以後は個別の認定の取得が 必要とされたため、防火設備の認定試験の依頼が増加し た。 過去10年間の収益の推移を図-3.1に示す。2009年以降 は試験体製作管理業務の収益が計上されているが、それ を除いた防耐火構造、防火材料、火害調査のこの10年 間の収益は概ね安定している。防耐火構造の収益は、防 火設備の試験の増加に伴い近年増加傾向にある。防火材 料部門は安定した受託を続けているが、2008年度に受 託が増加した。これは「耐火不正受験」を受けて、認定 の取り直しを迫られた案件が多かったためである。火害 調査部門は、2010年に(社)日本建築学会から「建物の 火害診断および補修・補強方法 指針(案)・同解説」 が刊行され、調査・診断方法や火害を受けた部材の補 修・補強方法などが提案されたことから、徐々に受託は 増加している。 現在の業務状況は、防耐火構造については、木質材料 や有機系断熱材が使用された構造の試験が増加してい る。また、防火設備の性能評価試験に占める割合は防耐 火構造試験の半分強と多くなっている。防火材料では発 熱性試験による不燃材料の評価試験が大半を占めてい る。ここ最近では薬剤処理木材や壁紙を中心に模型箱試 験の依頼も多くなっている。
3. 2 防耐火構造試験
主要構造部(柱・梁・床・屋根・壁・階段)の耐火性 能を確認する試験を行っており、国土交通大臣の認定(耐 火構造等)に係る試験が主要な業務である。具体的には、 耐火試験炉に実大部材を設置して加熱し、要求される時 間まで、構造耐力上支障のある損傷および火災の拡大に つながる温度上昇や損傷が生じないことを確認すること である(詳細については当法人制定の「防耐火性能試験・ 評価業務方法書」および「わかりやすい試験シリーズ」(い ずれも当法人HPよりダウンロード可)を参照頂きたい)。 上記の部材に対応する加熱炉(柱炉(写真-3.1)・床 梁炉・壁炉(大型炉・中型炉):各1基)を保有しており、 図-3.1 耐火防火試験室の収益の推移 写真-3.1 柱炉 写真-3.2 散水装置付き台車この10年間で付随する設備を含めて増強してきた。例 えば、脱炉(試験後に加熱炉から試験体を外す作業)時 に作業者が火熱にさらされる危険を回避するために、試 験体に可燃材料が多く用いられている壁試験(大型炉使 用)に散水装置付き台車(写真-3.2)を導入した。 また、耐火棟内に発生する煙の処理を効率化するため に、壁炉の集煙フード拡大および棟内換気装置をリ ニューアルし、試験立会者および試験員が煙に暴露され る環境を改善した。炉内流入空気量測定器・サーモカメ ラを導入し、試験条件・状況の「見える化」にも取り組 んでいる。 近年は、防火設備や木造耐火構造、有機系断熱材(ウ レタン等)を用いた壁の試験依頼が増えている。これら は、協会認定の取り消しや公共建築物等における木材の 利用の促進に関する法律の制定、省エネ基準の義務化に よるところが大きく、防耐火試験のトレンドは社会的情 勢と密接に関係している。 国土交通大臣の認定に係る試験についても同様である が、耐火試験の多くは部材単体の試験であり、単純支持 条件下で載荷される。しかし、実際の構造物には柱−梁 等の部材間の接合部や継手などの接合部が存在する。建 築部材の接合部は耐火性能上重要な部分であるが、接合 部に応力が存在する状態での耐火試験は技術的に難し く、また危険であるため、実験による評価は実施されて いない。そのため、この接合部の耐火性能評価に関する 技術的問題について自主共同研究として2008年に取り 組み、その後も鋼骨組の載荷加熱実験やRC柱梁接合部 の載荷加熱実験を大学と共同で行い、その成果を(一社) 日本建築学会等の論文で公開している。
3. 3 防火材料試験
壁や天井等に用いられる内装材料および屋根葺き材の 防火性能を確認する試験を行っており、国土交通大臣の 認定に係わる試験が主要な業務である。内装材料の防火 性能試験は、防耐火構造の試験とは異なり、材料レベル で燃え方を調べている。代表的な試験方法は発熱性試験 (写真-3.3)で、材料の燃え方を発熱速度として測定す ることができる。当法人では2000年の改正建築基準法 施行時に1号機を導入し、試験予約から実施までの待ち 時間を短縮するため、2005年に2号機を導入した。同じ く発熱速度を測定する試験として模型箱試験(写真 -3.4)がある。この試験の特徴は、材料単体の燃え方で はなく、居室を縮小した空間を再現した試験体がどのよ うに燃えるのかを調べることにある。小サンプルを用い る発熱性試験等では、材料の目地部や材料表面の凹凸形 状が防火性能に及ぼす影響を調べることに限界がある が、模型箱試験ではこれらを含めた防火性能を評価する ことができる。性能評価機関の中では唯一当法人でのみ 試験可能で、試験精度を向上させるために集煙フードの 拡張やガス分析装置の更新を行ってきた。特に集煙フー ドの拡張により、家具や電化製品等の可燃物の発熱量を 測定することも可能となった。 これまで、不燃材料と言えば無機質材料を主とするも のが多かった。しかし、木材の活用促進や暖か味のある 材料を使いたいとの要求等から、近年薬剤を注入して防 火性能を付与した木材(薬剤処理木材)の防火性能を確 認する試験が増加している。ただし、薬剤処理木材は、 製品初期の防火性能を保持するために薬剤の流出をいか に食い止めるか等の課題もある。 屋根葺き材の飛び火試験(写真-3.5)では、太陽電池 や膜材料を葺き材に用いたものを始め、環境に配慮した 屋根として、金属製折板屋根の上に日射を遮るシートを 張った屋根等の試験を行った。また、最近ではトップラ イトの試験が可能となった。 また、自主研究・自主共同研究として、2004年度よ り建築空間における初期火災の拡大性状に関する研究に 取り組んでおり、区画内の燃焼性状や可燃物間の燃え移 りなどに関する知見を得た。2009年度からは京都大学 写真-3.3 発熱性試験 写真-3.4 模型箱試験 写真-3.5 飛び火試験装置と共に「初期火災における内装材の延焼拡大予測モデル の実用化に関する研究」と題した自主共同研究を進めて おり、小規模実験で得られた材料の燃焼に関する特性値 (着火性・発熱性・火炎伝播性)を用いて、火災初期の 内装材料の燃え拡がりを予測する手法の実用化に取り組 んでいる。得られた成果は、当法人の機関誌GBRCや日 本建築学会大会などで報告している。
3. 4 火害調査
建物が火災に遭うと、その建物をどのように補修また は補強を行えばよいのか、または再利用可能か判断が難 しい場合がある。火害調査・診断は、火災後の建物を調 査し、補修・補強範囲を示すこと、または再利用可能か を判断することを目的として業務を行っている。業務開 始は古く、1972年の千日デパートビルの火災による調 査に始まっている。東日本大震災においては、津波後の 火災が多数発生したが、このような火害調査・診断も可 能な限り技術的に携わった。 最近の火害調査・診断の依頼主は様々で、官公庁、設 計事務所、大手ゼネコン、マンション管理組合、火災保 険会社、法律事務所など幅広い分野からご相談をいただ いている。これらに応えるため、第三者としての立場か らニーズに合わせた調査・診断を展開している。 また、的確に火害調査・診断を実施するため、自主研 究に取り組んでいる。鉄骨造においては、接合部に利用 される高力ボルトのロックウェル硬さを測定し、鉄骨部 材の受熱温度の推定に利用する方法や、鉄筋コンクリー ト造においては、火害を受けたコンクリート部材の劣化 範囲や劣化深さを、非破壊・微破壊試験を利用して評価 する方法などに着手している。さらに、(一社)日本建築 学会「火害診断・補修小委員会」における「建物の火害 診断および補修・補強方法 指針・同解説」出版に向け た活動にも協力している。3. 5 今後の展望
防耐火構造試験、防火材料試験、火害調査それぞれの 業務状況、試験設備、研究の状況などを述べた。耐火防 火試験室の基幹業務である国土交通大臣認定取得のため の防耐火構造試験、防火材料試験を今後も受託していき たいと考えている。さらに「公共建築物等における木材 の利用の促進に関する法律(平成22年法律第36号)」に 伴い木造による耐火構造認定取得や、省エネ基準改正に 伴う高断熱仕様の壁等の認定取得希望が増加すると見込 まれる。これらの試験にも十分対応できるよう、設備面、 人員面を充実させたいと考えている。また、模型箱試験 も増加が見込まれるため、設備充実を図りたい。 耐火試験実施時には試験体からの発炎や発煙があり、 適切な作業環境の確保に課題が残されている。耐火試験 棟は現在吹田市藤白台の本部にあるが、今後の周辺環境 の変化も予想されるため、工業系用途地域の土地を取得 し、来年度の一部稼働を目指して、設備の移転・増強を 計画的に進めている。施設面の整備や作業環境改善につ いては、移転を機会にして煙処理能力の向上や、換気装 置の充実などを図っていく予定である。 (耐火防火試験室長 田坂茂樹)4. 耐風試験室
4. 1 受託業務の推移
耐風試験室は、1992年4月に当時の大型構造試験部門 から風洞試験が、音熱動風圧試験部門から動風圧試験が 独立して併合し試験室として組織されたもので、現在は 環境部に属している。 過去10年間の収益の推移を図-4.1に示す。風洞試験で は依頼試験の大半が高層建築物を対象としている。特に 高層マンションを中心とする民間事業の開発が行なわれ ていたことにより2008年度までは比較的高い収益を維 持してきた。2009年度には、リーマンショックの影響 を受けて大型開発物件が減少し受託試験も減少したが、 その影響は短期的で2010年度以降は回復している。動 風圧試験では、依頼試験の半数が外装材の耐風圧性能試 験が占めておりリーマンショックの余波を受けずに安定 した受託を維持している。4. 2 風洞試験
風洞装置は、図-4.2に示すように測定部の断面が幅 1.8m×高さ1.4m、実験模型を設置するためのターン テーブルの直径が1.6mであり、建築物用の風洞装置と してはやや小さめであるが、稼働率は非常に高く、関西 圏を中心に多くの物件の風洞実験を行ってきた。風洞実 験の状況を写真-4.1および写真-4.2に示す。 図-4.1 耐風試験室の収益の推移かつて超高層建築物は、鉄骨造のオフィスビルが主流 であったが、高強度コンクリートの開発に伴い、2000 年以降は、高さ100mを超えるRC造の超高層マンション が急増しており、現在では大阪市内だけでも100棟を超 える超高層建築物が建設されている。これに伴い、ビル 風問題はより一般的になり、ビル風検討用の風環境試験 の需要は堅調に推移してきた。 2007年(平成19年)の建築基準法の改正に伴い、外装材 の耐風設計に対する意識が高まり、外装材用風荷重を求 めるための風圧試験の需要も増加している。また、近年 では、高層免震建築物の増加に伴い、免震装置の仕様を 決定するための層風力の作成や、風揺れによる居住性能 を検討する物件が増加し、全測定点を同時に測定する多 点同時風圧実験が一般的に行われるようになった。重量 が大きく風揺れに鈍感なRC造の超高層建築物が増加する 一方で、軽量で風揺れに敏感なS造の超高層建築物が減 少し、空力不安定性の確認のための空力振動実験は減少 傾向にある。 一方で、2011年の東日本大震災以後、メガソーラー をはじめとする太陽電池への関心が高まり、太陽電池パ ネルの風荷重関連の風洞実験も増加した。 また、最近では関東方面からの開発物件が増加してお り、東京オリンピックが開催される2020年までは堅調 に推移するものと考えられる。
4. 3 動風圧試験
動風圧試験の過去10年間では、サッシ・ドア等の規 格・定型試験は少なく、ほぼ横ばいの状態で推移してい る。アルミサッシは皆無に近い状況で、木製サッシや樹 脂製サッシのメーカーから新規製品の開発時に性能を確 認する目的で依頼を受けている。また、2007年度まで は2000年度と2005年度の建築基準法の改正に伴い防火 設備の遮煙性能試験および危害防止措置試験の受託が あったが2008年以降は減少している。 この10年間では、外壁材および屋根材の耐風圧試験 が依頼試験の50%以上を占めている。これは2007年(平 成19年)6月の建築基準法の改正によって、これまで建 築確認に要求されていなかった外装材の構造計算書も建 築確認図書に添付する義務が明記されたことにより、外 装材の耐力確認を目的として実施されている。外装材は 複数の部材で構成され、荷重を受けたときの変形が大き く、かつ想定荷重下での力の伝達が複雑であるため、強 度確認は実大試験による方法が採用されている。 近年は屋根に設置する太陽電池パネルの耐風圧試験、 看板・照明器具等の建築物の付帯設備の耐風圧試験、金 属屋根材の熱伸縮試験および飛来物耐衝撃性能試験の受 託も増加傾向にある。 外装材の飛来物耐衝撃性能試験は、竜巻や台風等の強 風時に発生する飛来物を想定した加撃体を外装材に衝突 させ、ダメージ(貫通、破壊)の程度を評価する試験で ある。外装材に衝撃を与え貫通口が生じた場合、この貫 通口に作用する風圧は室内圧を上昇させ、他の外装材や 図-4.2 風洞装置 写真-4.1 高層建築物の風洞実験の写真 写真-4.2 ソーラーパネルの風洞実験の写真構 造 体 の 損 傷 を 招 く こ と が あ る。 現 在 は、ASTM E1996-04およびE1886-04の耐衝撃試験方法を準用し て、外装材の飛来物耐衝撃性能を実施しているが、今後 国内においても飛来物耐衝撃性能試験方法が整備される と思われる。 外装材の耐風圧試験およびサッシ・ドアセットの性能 試験は、 最大加圧能力±9.8kPaの小型圧力室(W2.6m ×H2.9m、写真-4.3参照)および大型圧力室(W4.1m ×H7.1m)で実施し、層間変位試験およびカーテン ウォールの性能試験は、 層間変位試験装置(写真-4.4参 照)で対応している。飛来物耐衝撃性能試験は図-4.3に 示す試験装置を用いて対応しており、試験状況を写真 -4.5に示す。 これまでは、サッシ・ドア等の規格・定型試験や風圧 力に対する外装材の耐風圧試験を扱ってきた。しかし、 大スパンの水平屋根部材においては現状の圧力箱の最大 サイズが7m(3.5m×2スパン)までであり、これを超 えるスパンの屋根には対応できなかった。このような大 スパンの水平屋根部材に対応できるように、2013年度 に大型水平圧力箱(幅2m×長さ12m、写真-4.6参照) を導入し、大スパン屋根の耐風圧性能試験が実施できる ように試験設備を整備した。 外装材の性能試験では、直接圧力を載荷する方法や機 械的に加力する方法等を導入してきた。今後は、外装材 の性能試験や飛来物耐衝撃性能試験の重要性について情 報を発信する必要がある。
4. 4 委員会活動、自主研究の取組み
耐風試験室では、以前より日本建築学会の風荷重小委 員会のメンバーとして建築物荷重指針・同解説の改訂作 業に関わっており、2014年に新たに改定される同指針 にも協力している。また、(一社)日本風工学会が運営す る風災害調査委員会にも参加し、風による建築物被害の 現状把握と耐風設計の課題についての調査・検討を行な うことにより、建築物の耐風性能の向上を目的とした社 会貢献にも積極的に取り組んでいる。 また、自主研究として、建築物の耐風設計に用いられ る風圧係数や風力係数の提案、外装材の風による疲労損 傷に関する研究を行ない、設計者に有用な情報を提供し ている。近年では、太陽電池パネルの設計用風力係数に 関する研究を行ない、関連JISの改定に向けて取り組ん でいる。図-4.4は、勾配屋根をもつ建築物上に設置され る太陽電池パネルの風力係数についての研究成果であ り、現行のJIS C 8955「太陽電池アレイ用支持物設計 標準」の規定値より大きい設計用風力係数を設定する必 写真-4.3 小型圧力室 写真-4.4 層間変位試験装置 図-4.3 飛来物耐衝撃性能試験装置 写真-4.5 飛来物耐衝撃性能試験 写真-4.6 大型水平圧力箱要性が明らかになった。 試験方法の開発としては、金属製屋根葺材の熱伸縮耐 久性試験の方法を提案し、日本金属屋根協会発行の鋼板 製屋根構法標準(SSR2007)に反映されている。また、 近年ではASTM E 1996「ハリケーン中の飛来物によっ て衝撃を受ける屋外窓、カーテンウォール、ドア、およ び衝撃防御システムの性能の標準仕様書」に準じて飛来 物耐衝撃性能試験を実施し、国内の規準やガイドライン の作成に供するための実験を行なった。