九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
レーザーアブレーション原子蛍光分光法における放
出原子の挙動解析
中村, 大輔
九州大学大学院システム情報科学府電子デバイス工学専攻 : 博士後期課程
肥後谷, 崇
九州大学大学院システム情報科学府電子デバイス工学専攻 : 修士課程 | 三洋電機株式会社
高尾, 隆之
九州大学大学院システム情報科学研究院電子デバイス工学部門
興, 雄司
九州大学大学院システム情報科学研究院電子デバイス工学部門
他
https://doi.org/10.15017/1516858
出版情報:九州大学大学院システム情報科学紀要. 11 (1), pp.63-67, 2006-03-24. 九州大学大学院シス
テム情報科学研究院
バージョン:published
権利関係:
九 州 大 学大 学 院 シス テ ム情 報 科 学紀 要 第11巻 第1号 平 成18年3月
Research Reports on Information Science and Electrical Engineering of Kyushu University
Vol.11, No.1, March 2006
レー ザ ー ア ブ レー シ ョ ン原 子 蛍 光 分 光 法 に お け る放 出 原 子 の 挙 動 解 析
中村 大輔*・ 肥後谷 崇**・ 高尾 隆之*柚 興
雄 司*梱 前 田 三男t
Numerical
Analysis
of Scattering
Atoms
for Laser
Ablation
Atomic
Fluorescence
Spectroscopy
Daisuke NAKAMURA, Takashi HIGOTANI, Takayuki TAKAO,
Yuji OKI and Mitsuo MAEDA
(Received December 9, 2005)
Abstract: Extremely trace element analysis of solid surface using UV laser ablation technique has been
developed and a simple numerical simulation of scattering atoms by laser ablation was performed.
Cal-culation model shows a very good agreement with experimental results in a vacuum condition by using
Maxwellian velocity distribution and forward peaked angular distribution. The atomic distribution in
buffer gas was also investigated. Experiment with two dimensional imaging LIF spectroscopy and
calu-culation using Monte Carlo simulation method were performed.
Keywords: Laser Ablation, Simulation, Atomic Distribution, UV Laser, Surface Analysis, Trace Element
1.は じ め に レ ー ザ ー ア ブ レー シ ョ ン は,基 板 等 へ の 精 密 穴 あ け 加 工 を は じめ レ ー ザ ー プ ロ セ ス(PLD)に よ る 薄 膜 作 製 や 微 粒 子 作 製 な ど,産 業 分 野 に 多 大 な 力 を 発 揮 し て い る 技 術 で あ る.ま た,近 年 で は 角 膜 を ア ブ レ ー トす る レー ザ ー 視 力 矯 正 と い っ た 医 療 分 野 へ の 応 用 も 広 が っ て い る.こ の レ ー ザ ー ア ブ レー シ ョ ン は,瞬 時 に 対 象 を 気 化 し,原 子 ・分 子 レ ベ ル に 解 離 す る こ と が で き る 特 徴 を も つ こ と か ら 計 測 ・分 析 の 分 野 に お い て も 非 常 に 大 き な 力 を 発 揮 す る.さ ら に,原 子 化 の た め の キ ャ ビ テ ィ を 必 要 と し な い こ とか ら背 景 光 の 低 い 非 常 に 高 感 度 な 分 析 技 術 と し て 期 待 さ れ る.そ こ で 著 者 ら は,理 想 条 件 で は 単 一 原 子 の 検 知 さ え 可 能 で あ る レ ー ザ ー 誘 起 蛍 光(Laser-induced 且uorescence;LIF)法 と レ ー ザ ー ア ブ レ ー シ ョ ン 技 術 を 組 み 合 わ せ た レ ー ザ ー ア ブ レ ー シ ョ ン 原 子 蛍 光(laser ablationatomic且uorescence;LAAF)分 光 法 を 開 発 し, 微 量 元 素 検 知 の 研 究 を 行 な っ て き た.こ れ ま で にLAAF 分 光 法 に よ る 純 水 中 の 不 純 物 ナ ト リ ウ ム 検 知 に お い て 0。05ppt(絶 対 質 量0.6fg)と い う 高 感 度 検 知 能 力 を 実 証 し た1).ま た,レ ー ザ ー フ ル エ ンス を し き い 値 近 傍 に 制 御 す る こ とで 多 く の 物 質 を 数 ナ ノ メ ー トル ず つ,均 一 の 速 度 で ア ブ レ ー シ ョ ンで き る こ と も 示 した2)β).現 在 は 本 法 を 固 体 表 面 分 析 に 適 用 し,高 分 子 膜 に 浸 透 す る 微 量 含 有 平成17年12月9日 受 付 *電 子 デ バ イ ス工 学専 攻 博士 後期 課 程 **電 子 デバ イ ス工 学専 攻 修士 課 程(現 在,三 洋電 機株 式 会社) ***電 子 デバ イ ス工 学部 門 t 久 留 米 工業 高等 専 門学 校 元 素 の 深 さ 方 向 分 布 の 分 析 に お い て25.2fg(S/N=3)の 検 知 感 度 と3.6nmの 深 さ 方 向 分 解 能 を 達 成 し た4). 本 法 に お い て,ア ブ レー シ ョ ン に よ り放 出 さ れ る 原 子 の 挙 動 は 原 子 化 源 と し て の 性 能 の 算 定 や 高 感 度 化 へ の 検 討 を す る 上 で 非 常 に 重 要 な フ ァ ク タ ー で あ る.さ ら に, し き い 値 付 近 で の 低 フ ル エ ン ス ア ブ レー シ ョ ン(本 論 文 で は ソ フ ト ア ブ レ ー シ ョ ン と 呼 ぶ)と い う 条 件 下 で は, PLDの よ う な 高 フ ル エ ン ス で の ア ブ レー シ ョ ン と は ア ブ レー シ ョ ン さ れ た 試 料 の 振 る 舞 い が 異 な っ て い る た め,そ の 挙 動 を 解 析 す る た め の 計 算 モ デ ル に つ い て も,PLDな ど に対 す る モ デ ル5)と 異 な る も の を構 築 す る 必 要 が あ る. 本 論 文 で は 単 純 な モ デ ル を 用 い た ソ フ トア ブ レ ー シ ョ ン に お け る 放 出 原 子 の 挙 動 解 析 に 関 し て 報 告 す る.ま ず, 雰 囲 気 を 真 空 と し た 条 件(<1mTorr)に お け る 放 出 原 子 分 布 を シ ミ ュ レー トで き る こ と を 示 し た.ま た,緩 衝 ガ ス が 存 在 す る と き の 放 出 原 子 の 挙 動 に 関 し て 画 像 レ ー ザ ー 分 光 計 測 に よ り原 子 分 布 の 調 査 を 行 な っ た.さ ら に, モ ン テ カ ル ロ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ り ガ ス 中 の 放 出 原 子 の 挙 動 解 析 を 試 み た.な お,本 法 に お け る 元 素 分 析 に お い て は,ア ブ レ ー シ ョ ン ス ポ ッ ト サ イ ズ が1辺 0.3∼1。5mmの 四 角 形 で,試 料 表 面 か ら5∼10mmの 原 子 を 観 測 す る も の で あ る た め,解 析 に 関 し て も表 面 近 傍 の 領 域 の 原 子 分 布 に つ い て 行 な っ た. 2.真 空 条 件 下(<1mTorr)で の ソ フ ト ア ブ レ ー シ ョ ン ア ブ レー シ ョ ン に よ り放 出 さ れ る 粒 子 の 速 度 分 布 と 角 度 分 布 は,し ば し ば マ ク ス ウ ェ ル 速 度 分 布,お よ びcosP 則 に よ っ て そ れ ぞ れ 表 さ れ る6),7).そ こ で,ソ フ トア ブ
Fig. 1 Simplified atomic distribution model of LAAF spectroscopy
レー シ ョン で も こ の仮 定 を用 いて 真 空 中 で ガ ス と の衝 突
によ る減 速 ・拡 散 を無 視 で きる と仮 定 して,Fig.1に
示 す
座 標 系 を 用 い てモ デ リ ング を行 な っ た.ア
ブ レー シ ョン
ス ポ ッ トか ら放 出 さ れ る原 子 の密 度 分 布 は,次 式 で 与 え
られ る.
礁 酬
η
告
戸1㎡θ
… 「蒲(¥tl)/説(1)
B一 睾(謝2
ゆθ=arg(デ ーR),
こ こで,Nは1シ
ョッ トで 放 出 す る対 象原 子 の総 数,Sは
ア ブ レー シ 滋ンス ポ ッ ト面積,θ は放 出 角,窺 は対 象原 子
質 量,kは
ボ ル ツ マ ン定 数,Tは
擬 似 温 度 パ ラメ ー タ ー,
Bは 規 格 化 定 数,η は原 子 化 効 率,pは 水 平方 向 の拡 が り
を 決 定 す る パ ラ メ ー タ ー で あ る.ア ブ レー シ ョン レー
ザ ー の フ ル エ ン スが 高 い場 合 は,ア ブ レー トされ た試 料
は プ ラ ズ マ 化 し,発 光 を伴 った プル ー ム を 形 成 して プ
ル ー ム 内 で複 雑 な 反 応 が 起 こる が,本 研 究 で 利 用 した ソ
フ トア ブ レー シ ョ ンに よ る 剥離 で は プル ー ム 発 光 は観 測
さ れ な か った.し た が って,イ オ ン化 した対 象原 子 が電
子 との 再 結 合 に よ って 中 性 原 子 とな る プ ロセ ス は,ソ フ
トア ブ レー シ ョンで は 相 対 的 に 小 さ い と い え る.同 様 に
拡 散 ・飛行 して い る 測 定 対 象 の 中 性 原 子 は 密 度 が 低 く,
マ トリク ス を構 成 す る他 原 子 と再結 合す る過 程 もそ の頻
度 は 低 い と考 え られ る.よ って,シ ミュ レー シ ョ ンで は
これ らに よ る原 子 の飛 行 プ ロ フ ァイル へ の影 響 を無視 し
て いる.同 時 に,こ れ らの 再 結 合 が 密度 κ に与 え る微 小
な影 響 は,原 子化 効 率ηに含 まれ る もの とした.
次 に,対 象元 素 をNaと して 複 数 の ス ポ ッ トサ イ ズ8に
対 し,こ のモ デ ル に よ る数 値 計算 を行 な い,p,Tを
用 い
Fig. 2 (a)Experimental time of flight (TOF) profiles of
the LAAF spectroscopy under the vacuum
dition as circles and fitted TOF profiles from the
calculations as lines and (b)the temperature T
that is the fitting parameter as a function of the
ablation fluence in the experiment.
て 比 較 実 験 と の フ ィッ テ ィ ン グ を行 な っ た.こ こで,実 験 は ガ ス 圧1mTorr以 下 の 雰 囲 気 中 と し,マ ト リ ク ス に は ア ク リル ポ リ マ ー を 用 い てN駄D2線 に よ る2準 位 系 で 微 量 含 有Na測 定 を 行 な っ た.ア ブ レ ー シNン に はArFエ キ シ マ ー レー ザ ー(LambdaPhysikCOMPexlle)を,N&検 出 用 プ ロ ー ブ レ ー ザ ー に はAr+レ ー ザ ー 励 起 のcw色 素 レ ー ザ ー(SpectraPhysics,Model-375)を 用 い,プ ロ ー ブ レ ー ザ ー の ビ ー ム 径 は1.5mmと し た. Fig.2(a)は,フ ル エ ン ス を15.9,21.4,31.OmJ/cm2 と 変 化 し た 際 の 規 格 化 し たLAAF信 号 のTimeofFlight (TOF)の 実 験 波 形 と,計 算 に よ る プ ロ フ ァイ ル を 比 較 し た 結 果 を 示 し て い る 。 こ こで,プ ロ ー ブ レー ザ ー の ビ ー ム 位 置 は 試 料 表 面 か ら5mmの 高 さ に 設 定 し た 。 計 算 モ デ ル に お い てp=・13,Tを2400,4000,7000Kと 仮 定 す る こ と で 実 験 結 果 と 計 算 結 果 は 非 常 に 良 い 一 致 を 示 し て い る こ と が 分 か る.こ れ に よ り,フ ル エ ン ス は 対 象 原 子 の 放 射 角 度 分 布 に 影 響 せ ず,初 速 の 規 模 に の み 影 響 す る こ と が 分 か る.Fig.2(b)に フ ル エ ン ス とパ ラ メ ー タ ーTの 関 係 を 示 す.図 よ り,ア ブ レ ー シ ョ ン フ ル エ ン ス と初 速 に 関 連 す る擬 似 温 度 パ ラ メ ー タ ーTは 一 次 関 数 の 相 関 を 示 し て
Fig. 3 (a)X-direction atomic density distribution
tained experimentally (circle) and theoretically
(line). The ablation spot size is 0.65 mm, and
parameters p = 15 and T = 8000K were assumed
in the calculation. (b) The relation of parameter
p and ablation spot size.
お り,dT/dFは400Kcm2/mJと な っ た.こ れ よ り,ソ フ トア ブ レ ー シ ョ ン で は フ ル エ ン ス の 増 大 に よ っ て 試 料 の ア ブ レ ー シ ョ ン 角 度 分 布 は 変 化 せ ず,速 度 は 線 形 的 に 増 大 す る と考 え られ る. 次 に,ス ポ ッ ト サ イ ズSを 変 化 さ せ た 場 合 に つ い て フ ィッ テ ィ ン グ を 行 な っ た.こ の 場 合 は プ ル ー ム の 水 平 方 向 の 拡 が り,す な わ ち,Na原 子 の 水 平 密 度 分 布 の 実 験 結 果 を パ ラ メ ー タ ーpを 用 い て フ ィ ッテ ィ ン グ す る こ と が で き た.Fig.3(a)に ス ポ ッ トサ イ ズ0.65mmで 試 料 表 面 か ら5mmの 位 置 に お け るNa原 子 密 度 の 水 平 分 布 の 測 定 結 果(。 シ ン ボ ル)と,フ ィッ テ ン グ し た 計 算 結 果(実 線) を 示 し て い る.こ こ で,実 線 は,T=8000K,p=15で あ っ た. Fig.3(b)は,ス ポ ッ トサ イ ズ と パ ラ メ ー タ ーpの 関 係 を 示 す.ス ポ ッ トサ イ ズ が 大 き く な る に つ れ て 水 平 方 向 の 拡 が り も 大 き く な り,pの 値 は 小 さ く な っ て い る. フ ィッ テ ィ ン グ に よ りpは ス ポ ッ トサ イ ズ の 平 方 根 に ほ ぼ 反 比 例 す る.高 フ ル エ ンス の ア ブ レー シ ョ ン に つ い て は, pは1∼7と 小 さ く,ス ポ ッ トサ イ ズ の 増 大 に 対 し てpが 増 大 す る と い う 報 告6)が 一 般 的 で あ り,我 々 の 結 果 は 逆 と
Fig. 4 Experimental TOF profiles when the distance from the sample surface was 5, 7 and 9 mm as
broken lines and fitted TOF profiles from the
culations as lines な っ た.こ れ に つ い て は,ア ブ レ ー トで 気 化 し た 試 料 構 成 粒 子 が 試 料 表 面 で 相 互 衝 突 した 結 果 と し てpが 減 少(水 平 方 向 へ の 拡 散 が 増 大)す る と仮 定 す る と う ま く 説 明 で き る.す な わ ち,高 フ ル エ ン ス で は 相 互 衝 突 が 十 分 に 起 こ る た めpは 一 般 に 小 さ く,ス ポ ッ トサ イ ズ 増 大 で は 点 放 出 か ら 面 放 出 へ の 変 化 が 支 配 的 と な る た めpは 増 大 す る. 一 方 で ソ フ トア ブ レ ー シ ョ ン で は ,相 互 衝 突 の影 響 が 少 な い た めpは 一 般 に 大 き く,ス ポ ッ トサ イ ズ の 増 大 に よ り 相 互 衝 突 の 機 会 が 増 え てpが 減 少 す る. な お,絶 対 密 度 を 議 論 す る 上 で は 原 子 化 効 率 に つ い て も 考 慮 す る 必 要 が あ る が,こ れ に つ い て は 参 考 文 献4)に て 詳 細 を 議 論 して い る.実 験 結 果 のLIF信 号 強 度 と の 比 較 に よ り ソ フ トア ブ レー シ ョ ン で は0.5∼9%の 原 子 化 効 率 で あ る と見 積 も る こ とが で き た. 前 述 の 二 例 に つ い て は,数 値 計 算 モ デ ル と実 験 結 果 は Fig.2,Fig.3の パ ラ メ ー タ ー 換 算 で よ く一 致 し た.最 後 に レ ー ザ ー ビー ム のz軸 位 置 を 変 え た と き のTOFプ ロ フ ァ イ ル に つ い て,検 証 し た 結 果 をFig.4に 示 す.こ こ で, 観 測 位 置 は 試 料 表 面 か ら5,7,9mmで あ る.実 験(点 線) は レ ー ザ ー フ ル エ ン ス22.1mJ/cm2と ス ポ ッ ト サ イ ズ 0.77mmに よ る も の で,計 算 結 果(実 線)は 実 験 条 件 よ り Fig.2(b),Fig.3(b)か ら 推 定 さ れ るT=5000K,p=16 を 用 い た 結 果 で あ る.両 者 は プ ロ フ ァイ ル ・絶 対 値 共 に 非 常 に 良 い 一 致 を 示 し て お り,こ の 結 果,Eq.(1)の よ う な 単 純 な モ デ ル で も,真 空 中 の ソ フ ト ア ブ レ ー シ ョ ン に よ る 対 象 原 子 の 空 間 分 布 を 精 度 良 く 記 述 す る こ と が で き る こ と が 分 か っ た.ま た,こ の 結 果 か ら,対 象 原 子Naの 再 結 合 に よ る 減 少 や,マ ト リ ク ス 構 成 原 子 と の 衝 突 に よ る 拡 散 な ど は ほ ぼ 無 視 で き る と考 え られ る.
Fig. 5 Experimental setup of the 2D-LIF imaging troscopy
Fig. 6 Temporal changes in the distribution of ablated
Na atoms, where the fluence was 45 mJ/cm2, the
spot size was 0.5 mm and the gas pressure was
100 mTorr.
3.緩 衝 ガ ス 中 で の ソ フ ト ア ブ レ ー シ ョ ン 緩 衝 ガ ス が 存 在 す る 中 で 試 料 を ア ブ レ ー ト し た 場 合, 放 出 粒 子 は 緩 衝 ガ ス と 衝 突 を 起 こ し,真 空 条 件 下 と は 異 な る 分 布 を 示 す.こ の 挙 動 を 詳 細 に 観 測 す る た め に, Fig.5に 示 す 画 像 レ ー ザ ー 分 光 計 測 法8)を 適 用 した.こ の 手 法 で は プ ロ ー ブ レー ザ ー ビ ー ム を シ ー ト状 に 整 形 し て 照 射 す る こ と で,ソ フ トア ブ レー シ ョ ン で は 発 光 し て い な い プ ル ー ム を2次 元 的 に 観 測 す る こ と が 可 能 で あ る. LIF画 像 に 関 し て は,ゲ ー ト付 きICCDカ メ ラ(浜 松 ホ ト ニ ク ス,C8484-05G)で 時 間 分 解 撮 影 を 行 な っ た.Fig.6 にHeガ スioOmTorrの 条 件 に お け る 放 出 分 布 の 画 像 観 測 結 果 を 示 す,こ の 図 よ り真 空 条 件 下 と は 異 な る ドー ム 状 の プ ル ー ム が 試 料 表 面 に 生 成 さ れ て い る こ と が 分 か る. こ れ は,放 出 さ れ た 試 料 が 雰 囲 気 ガ ス を 押 し の け て 拡 散 す る た め,ガ ス 粒 子 と の 衝 突 に よ り減 速 さ れ て い る た め と 考 え ら れ る.こ の よ う な,ガ ス 中 に お け る 高 工 ネ ル ギ ー 粒 子 の 挙 動 に 関 し て は,確 率 論 的 手 法 で あ る モ ン テ カ ル ロ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て モ デ リ ン グ し た 報 告 が あ る9),10),11).本 研 究 で も 同 様 に モ ンテ カ ル ロ シ ミ ュ レー シHン を ベ ー ス に し た モ デ ル で ソ フ トア ブ レー シ ョ ン の 動 作 を解 析 し た.す な わ ち,緩 衝 ガ ス 中 で の 放 出 原 子 のFig. 7 Expansion profile of the ablation plume to
cal direction (z-axis)
挙 動 に 関 して,以 下 に示 す3つ の 過程 か ら構 成 さ れ る と仮
定 した.
1.マ ク スウ ェル 速度 分 布 を もっ た原 子 が試 料 表面 か ら
放 出 され る.(真 空 中モ デ ル よ り)
2.放 出 された 原子 が緩 衝 ガ ス分子 と衝突,減 速 す る.
3.速 度 を失 った原 子 は拡 散 によ り拡 が る.
初 期 過 程 で は,真 空 モ デ ル と嗣様 に 各原 子 が マ ク ス ウ ヱ
ル 速度 分 布 を も って空 間 に放 出 され る と した.各 原 子 の
もつ 速 度,及 び 放 出角 度 は 確 率 的 に与 え て 飛 行 させ た,
衝 突過 程 で は,ガ ス 中 を 飛行 す る際 に 次 式 で 与 え られ る
平均 自 由行程 を飛 行 した後,衝 突 して エ ネル ギ ー を失 い,
進 行 方 向 が変 化 す る と した.こ の と き,衝 突 前後 にお い
て ガ ス 分子 の挙 動 は無 視 す る もの と した.ま た,各 粒 子
の 自 由行 程 ♂は
P(d)・exp(一 昊) の 確 率 分 布 に従 う 斑.こ こで,λ は ガ ス 中 に お け る 平 均 自 由 行 程 で あ り,次 式 に よ っ て 計 算 さ れ る.λ一毒 、
厚
こ こで,Eは
放 出粒 子 の運 動 工ネ ル ギー,Tは
緩衝 ガ ス の
温 度,kは
ボ ル ツ マ ン定 数,Pは
緩 衝 ガ ス の圧 力,σ は 衝
突 断 面 積 で あ る.ガ ス分 子 と複 数 回 の衝 突 を繰 り返 した
後,エ ネ ル ギ ー を失 った原 子 は拡 散 過 程 に移 行 す る と し
た.拡
散 過 程 に 関 し て は,乱
数 を 利 用 し た ラ ン ダ ム
ウ ォー ク によ り拡 散 の モデ リン グを行 な った.
Fig.6の 画像 結果 よ りNa中 性 原 子 のz分 布 を プ ロ ッ ト
した 結 果(点 線)と,モ
デ ル を 元 に計 算 した 名分 布(実
線 〉 を比 較 した結 果 をFig.7に 示 す.真
空 モデ ル に比 べ
て,本 モ デ ル は 比較 的 良好 な一 致 を示 した が,ア ブ レー
シ ョン初期,特
に沁 μs以前 で は完 全 な 一 致 を 示 さ なか っ
た.こ れ よ り,衝 突 を考 慮 した モ デ ル で は,放 出粒 子 が
緩 衝 ガ ス と衝 突 を 起 こ して減 速 して い る状 態 を ま だ十 分
に記 述 はで きな い もの の,減 速 後 の 拡 散 が支 配 的な 状 態
Fig. 8 FWHM of the plume expansion to vertical rection as a function of the delay time from the
ablation. に つ い て は よ く 記 述 で き る こ と が 分 か る.ア ブ レ ー シ ョ ン 初 期 に つ い て は 拡 散 粒 子 が 緩 衝 ガ ス の 壁 に 衝 突 す る 様 な 状 態 に な る た め,さ ら に 複 雑 な モ デ リ ン グ が 必 要 に な る こ と が 考 え ら れ る が,本 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 目 的 で あ る検 知 感 度 の 検 討 に つ い て は10μs以 降 のNa原 子 分 布 を よ く 記 述 で き れ ば 有 効 な 情 報 を 得 る こ と が で き る.な ぜ な らば,緩 衝 ガ ス 中 で のLAAF信 号 で は そ の 大 部 分 が10μs 以 降 に よ る も の で あ る か らで あ る.な お,こ の モ デ ル に よ る と,Na原 子 の 拡 散 ・再 結 合 に よ る 密 度 の 減 少 を い か に 抑 え る か が 重 要 と な る. 他 の 条 件 で の 拡 散 状 態 へ の 移 行 時 間 を 推 定 す る た め, Fig.7の 実 験 に よ る陣 由プ ロ フ ァイ ル の 半 値 幅 を ア ブ レ ー シ ョ ン後 の 経 過 時 間 に 対 して プ ロ ッ ト し た 結 果 をFig.8に 示 す.こ こで,圧 力 は100m,200m,500m,1,2Torrと 変 化 さ せ た.ま た,直 線 は 各 圧 力 に お い て 拡 散 方 程 式 か ら求 め られ る 結 果 と な っ て い る.こ の 結 果 か ら,約10μs 経 過 以 後 は ど の 条 件 で も,シ ン プ ル な 拡 散 過 程 に よ っ て 之 軸 方 向 に 拡 が っ て い る こ と が 確 認 で き る.同 時 に,水 平 方 向 の 拡 が り に 関 して も 同 様 の 結 果 が 得 られ た こ と か ら, 10μs以 降 で は 形 成 さ れ た プ ル ー ム の 振 る 舞 い は 前 述 の モ デ ル に よ る 拡 散 過 程 で 十 分 に 近 似 で き る こ と が 分 か っ た. こ の 結 果 か ら2つ の 重 要 な 知 見 を得 る こ とが で き る. ● 測 定 対 象 元 素 が 試 料 表 面 か ら 放 出 後 ど の よ う な 速 度 で 拡 散 す る か が,時 間 積 分 で 得 られ るLAAF信 号 強 度 を 左 右 す る 一 つ の 重 要 な パ ラ メ ー タ ー と な る.