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カクレガニにみられる宿主特異性および生活史 : ヒラピンノの場合(シンポジウム報告 甲殻類の寄生・共生と生物多様性)

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45-50 (2013) Carcinological Society 01 Japan

力クレガニにみられる宿主特異性および生活史

ヒラピンノの場合

H o s t specificity a n d life history o f Pinnotherid crabs

渡部哲也

l Tetsuya W a t a n a b e . は じ め に カクレガニ科 Pinnotheridae は十脚自に属するカニ 類の 1 クループであり,カクレガニ亜科 Pinnotheri-naeお よ び マ メ ガ ニ 亜 科 Pinnothereliinae の2 亜 科 か ら構成され,14 属 33 種が報告されている ( Ahnyong et al., 2012; 小西, 2010; K o m ai & Konishi, 20 12; Naruse & Maenosono, 2012;渡部, 2012a). これらの 多くは他の無脊椎動物に寄生, もしくは偏利共生す ることが知られており,宿主は環形動物,軟体動 物,腕足動物,半索動物など多岐にわたる. こうし た特異な生態は,古くから人々の注目を集めており, 小西 (1996; 2010) による国内外における研究内容 の解説に詳しい. ここでは,カクレカーニ科の宿主特異性について紹 介するとともに,カクレガニ科の一種ヒラピンノ Arcotheres sp.の生活史を明らかにするために行った 飼育実験および野外調査の概要について紹介する. . 宿 主 と 宿 主 特 異 性 カクレカ♂ニの宿主については十分に研究が進んで いるとは言い難いが,多数の宿主種を利用するジェ ネラリストと,宿主特異性が強いスペシャリストが いることがわかっている. 1 西宮市民類館 千662-0934 兵庫県西宮市西宮浜4ー13-4

Nishinomiya Shell M useum, 4-13-4, Nishinomiyahama, Nishinomiya, Hyogo 662-0934, Japan

E-mai1: nabesonsI973@ y ahoo.co.jp

図1 . ? ガキに寄生するオオシロビン/ .

図2. アズマニシキに寄生するカギヅメピンノ. カクレガニ亜科では,オオシロビンノ Arcotheres sinensis (Shen, 1932) (図1) は,様々な種の二枚貝 を宿主とするジェネラリストであり,アサリ Ruditapes phil伊'Pinarum (A. A d a m s

&

Reeve, 1850),マガキ Crassostrea gigas (Thunberg, 1973)など数種の二枚貝 を 利 用 す る ほ か , 外 来 穫 で あ る ム ラ サ キ イ ガ イ Mytilus g alloprovincialis Lamarck, 1819やミドリイ力、

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1976 : Yamada et al. , 2009).

カギヅメピンノPinnotherω

pholadis D e Haan, 1835 (図2) も同様に様々な 二 枚貝を宿主とし , バカガ イM actra chinensis Philippi, 1846, アズマ ニシキ Chlamys farreri nipponensis (Jones & Preston, 1904)な

どのほか, オオシ ロ ビンノと同様に外来種である ム ラサキイガイも利用する( 酒井, 1976). また ,ウ

ミタケBarnea japonica (Yokoyama, 1920)にも付着す ることがあり,本種の種小名はウミタケのかつ ての 図3. カワラガイに寄生するカワラピンノの雌雄. 図4. ツツガキに寄生するデグチツツガキピンノ . 矢印の先に甲の前半部分がみえる . 右は軟 体部を剥がしたツツガキの殻の裏側で,二 枚貝の痕跡を残した部分があるのがわかる . 下の小さなパイプ状の器官が集まった 構造 物もツツガキの殻の一部. 4 6

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C a n田r2 2 (2013)

一方でカワラビンノ N epinnotheres cardu (Burger, 1895) (図 3) は,褐虫藻を外套膜に共生させる 二枚 貝であるカワラガイFragum unedo (Linnaeus, 1758) を宿主とし( 渡部, 2012a), デグチツツガキピンノ Viridotheres takedai, Ahyong, Komai & Watanabe, 2012 (図4) は筒状の特殊な殻をもっ 二枚貝であるツツ ガキN ipponoclava gigantea (Sowerby, 1888)のみを宿 主とすると考えられる ( Ahnyonget al., 2012). そし て,後述するヒラピンノ( 図5) も,付着性二枚貝 カリガネエガイBarbatia virescens obtusoides (Nyst, 1848)のみを宿主とすることが知られている (Take-da & Konishi, 1988; Watanabe & Henmi, 2008).

マメガニ亜科では,ギボシマメ力。ニ Pinnixa bala-noglossana Sakai, 1934 (図 6) は半索動物のミサキ ギボシムシ8alanoglossus misakiensis K u wano, 1902 の棲管に生息し ,他の宿主から得られた記録はない ( 酒井, 1976;坂井, 2002).

アカ ホ シマメガ ニ Pinnixa haematosticta Sakai, 1934 (図 7) の場合,生息場所に関する情報はほと

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図5. カリヵーネエガイに寄生するヒラピンノ . 長 期間の寄生で宿主の鯨が変形している. 図6. ギボシマメガニ

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図7. スジホシムシモドキの棲管に棲むアカホシ マメガニ( 矢印) . カニの右側には白いスジ ホシムシヤドリガイ(二枚貝) がみえる.

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図 8. ラスパンマメガニ. んどなかったが, スジホシ ム シモドキ Siphonosoma cumanense (Keferstein, 1867)の棲管に寄居すること がわかった( 渡部. 2012b).

ラスパンマメガニ Pinnixa ruthbuni Sakai, 1934 C図 8) は,フサゴカイ類の棲管を利用 する. ゴカ イ類 が既におらず,空き家となった棲管にいることも多

く,また, 底質中から得られる場合も多い.

圃 ビ ラ ピ ン ノ に つ い て

カクレガニ亜科のヒラピンノ Arcotheres sp.は,当 初 Pinnotheres alcocki Rathbun, 1909として. Takeda & Konishi (1988)によって広島県向島から初めて報 告され, 和名は小西 (1996) によって与えられた. 紀伊半島から有明海まで西日本の比較的広い範囲に 分布し,宿主は付着性二枚貝であるカリガネエガイ で あ る こ と が わ か っ て い る CTakeda

&

Konishi, 1988;小西. 1996; Watanabe & Henmi, 2008).

カクレガニにみられる宿主特異性および生活史 ヒラピンノの分類学上の位置については好余曲折 があり . Campos (2001) はP alcocki をArcotheres 属に 移動させ,以降Arcotheres alcocki の学名で称される ようになった. のちに ,A hyong and N g (2007) は, A. alcockiのsyntype 標本と ,小西がヒラピ ンノと名 付けた Takeda and Konishi (1988) の記載画を比較し た結果,ヒラピンノは A. alcocki ではな く.Arcotheres 属の未記載種であろうと結論している.

. ヒ ラ ピ ン ノ の 生 活 史

採集によってわかったこと

Christensen & McDermott (1 958) はプランクトン幼 生期以降も様々な形態に変化するカクレガニの各形 態の名称を整理した. それによると , メガ ロパ幼生 から変態した第一稚ガニをI l lVaS1Ve stage とし,これ が宿主侵入後脱皮を行い,甲が柔らかく脚に活字泳毛 のない形態に変態したものを pre-hard stage とした . その後ある程度成長した後,再び歩脚に遊泳毛を具 え, 固 い 甲 を も っ 形 態 に 変 態 し た ものを. hard stageと呼ぶが,こ の形態が以前は第一稚ガ、ニ期で あると考えられ, 自rst stage と呼ばれていた. 雌は そ の後再び宿主内での生活に適応したステ ージに変態 し. second stage から fourth stage まで の段階を経た のち成熟し. fi丘h stageで生涯を終える. また,宿 主内における脱皮直後の個体の確認や,実験室内に おけるシャ ー レでの飼育によって,成長過程のう ち. InvaSlve stage から pre・hard stage. 雄の pre-hard stageから hard stage. 雌のhard stage から second stage への脱皮が確認されている CChristensen & McDer-m o悦,1958).

当初 ヒラ ピンノで報告され たステ ー ジは,雌の fifth stageおよび雄の hard stage のみであった CTakeda

&

Konishi, 1988). 著者が行った野外採集の結果か ら得られた結果に基づくと, ヒラピン ノのプランク トン幼生期以降の成長過程は雌雄ともに,まず In-vasive stage C図 9) となり宿主へと 侵入し ,その後 宿主内で成長する pre-hard stage C図 10) に変態した 後, 自由遊泳が可能な hard stage C図 11 ) を経て, この時期に- s _ 最初の宿主から離れると考えられ る. さらにその後再び宿主に侵入し,雌は寄生形態 Csecond-fifth stage) C図12) に変態し,宿主から出 C a n開r22 (2013)

I

4 7

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図9. ヒラピンノの第一稚ガニ期である. invasive

stage. 洋梨型の甲に大きな眼,競泳毛を具

えた歩脚が特徴.

図10. ヒラピン/ のpre hard stage. 甲は柔軟にな り膨らむ. 歩脚からは瀞泳毛が消失する . 図11. ヒラピン/ のhard stage ( 雌) 歩脚には再 び滋泳毛が具わり ,申は非常に固くなる . 鉛脚は大型化する . ることなく一生を終える . 雄 はhard stageから瀞泳 毛が少な い形態 (図 13) に変わり ,繁殖期以外を 宿主内で過 ごす と推測される( 渡部,投稿準備中) . 48

I

Can曲 r22 (2013) 図 13. 非繁殖期 にみ られる瀞泳毛がな いヒ ラピン ノの雄. 図14. 飼育装置. 循環ポンプと海水の掛け流しを 組み合わせた. 小 西 (1986) はカクレガ ニ類の飼育 に関し ,宿主 から取り 出 した状態ではプラン ク トン類の一部しか 摂餌せず,人工餌料などは全く受け付けなかったと 述べている . ヒラピンノも同様に,カリガネエガイ から取り出 した状態でも 比較的丈夫であっ た もの

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-図15. 群生するカリガネエガイ. 岩の隙聞にびっ しりと付着する . の,人工餌料の摂餌は確認されず,脱皮も行うこと はなかった. 上述の生活史の各段階が実際に行われ ているのか,できれば複数回の脱皮を追跡したかっ たため,宿主内で飼育し,成長を記録することにし た. 寄生状態のヒラピンノは宿主内で脱皮を行うた め,脱皮が行われていても即座に判別できないが, 脱皮殻はほぼ完全な形のまま宿主二枚貝から排出さ れることが予備実験中にわかった. このため,排出 された脱皮殻を収集する事によって成長過程の追跡 が出来ると考え, ヒラピンノが寄生しているカリガ、 ネエガイ l個体につきひとつの容器を用意し,個別 飼育による成長追跡の実験を行った( 図14). 宿主 の餌料として,アコヤガイ 養殖に用いる粉末飼料を 海水で溶いたものをl日2回程度与えた. . ヒ ラ ピ ン ノ の 成 長 過 程 室内飼育によってわかったこと ヒラピンノの脱皮殻はカリガネエガイから排出さ れた時点では完全な形であるが,元々軟弱なカクレ ガニの脱皮殻であるため分解が早く,回収のためl 日数回の見回りは欠かせなかった. 結果,雄では寄

生形態のpre-hard stageか らhard stageに変態するこ

とが確認され,雌では4 個 体 が 2 度の脱皮を行い, そのうちのl個体が,寄生形態のpre-hard stageか ら 瀦泳毛を具えたhard stageに変態し,再び寄生形態 のsecond stageに 変 態 を 重 ね る こ と が 脱 皮 追 跡 に よって確認された CWatanabe& H e n m i, 2008). これ により,寄生生活から自由生活へ,そして再び寄生 カクレガニにみられる宿主特異性および生活史 生活に戻るというヒラピンノの生活史が明らかに なった. 圃 ヒ ラ ピ ン ノ と カ リ 芳 本 孟tjイ ヒラピンノの宿主であるカリガネエガイは岩の斜 面や隙聞に密集して群生する付着性二枚貝であり, 局所的な個体密度は非常に高かった( 図15). 一方, ヒラピンノも個体密度の高いカリガネエガイに比較 的高率で寄生していたため同様に生息密度は高かっ た. 他種のカクレガニ類において,生息密度を扱っ た研究は現在までにない が, ヒラピン/ の個体密度 は10 c m X 5 c mという局所的な測定範囲であるが, 平均0.15個体Ic m2であ った. 仮にこれを1 m四方に 換算したとすると, 1500個体も生息していたこと になる. ヒラピンノは外環境や他個体とは隔離され た宿主内で単独生活するにもかかわらず,宿主が密 集した場所においてはその生息密度が非常に高いと 言 えよう. このことは,寄生生活者であるとラピン ノにとって配偶者獲得の面で有利であると考えら れ,宿主の選択を厳密に行ってまでもカリガネエガ イという群集性の宿主を選んだ理由のひとつではな いかと推測される.

薗 語 辞

研究の機会を与えていただいた,当時の指導教官 である熊本大学の逸見泰久教授,脱皮殻採取をお手 伝い頂いた長崎大学大学院水産 ・環境科学総合研究 科P Dの竹下文雄博士,文献について教示いただい た松久保晃作氏に深謝致します.

. 一文 献

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図 7. スジホシムシモドキの棲管に棲むアカホシ マメガニ( 矢印) . カニの右側には白いスジ ホシムシヤドリガイ(二枚貝) がみえる. 主ご二心 l ;:V4  冒し?明 図 8
図 9. ヒラピンノの第一稚ガニ期である. invasive  stage. 洋梨型の甲に大きな眼,競泳毛を具 えた歩脚が特徴. 図 10. ヒラピン/ の pre hard stage

参照

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