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神経リハビリテーションにおける物理療法と運動療法の新たな治療戦略

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Academic year: 2021

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 714 はじめに  昨今,リハビリテーション医学分野において,神経科学領域 の様々な成果を理論的背景とした『ニューロリハビリテーショ ン』という概念が構築され発展を遂げている。臨床的には,損 傷後の脳で進行していると推定される神経の再編過程を念頭に 置き,機能回復に有利なメカニズムを増強し,逆に不利となる メカニズムは抑制することでリハビリテーション効果の促進を 図るものである。さらに,基礎的な研究は日々新たな知見が現 れるとともに,ニューロリハビリテーションを補強する様々な 知見が多分野より集積されつつある。しかし,これらの基礎的 な研究知見が,理学療法場面における物理療法や運動療法の効 果に対して,どのように功を奏するのか,あるいはどのように 結びつくのかということに関する明確な根拠は未だ示されてい ない。運動療法は手段としての“運動”を介して,結果として の“運動”を改善させるものであり,まさに手段および結果そ れぞれの運動の質を吟味することが重要であると考える。日々 示される新しい知見には多くの重要な要因が存在するととも に,誤った知見が提示されることも少なくない。つまりその知 見の真偽を見極める力も我々理学療法士に課せられた課題であ る。神経科学の分野では障害された運動に対して新たな運動学 習を展開する中で,中枢神経系のダイナミックな可塑性が示さ れている。  新たな運動の学習過程において,皮質運動野がどのように興 奮性を変化させるのか,またどのような物理的刺激が運動学習 にとって重要なものなのかを,経頭蓋磁気刺激(taranscranial magnetic stimulation; 以下,TMS)による運動誘発電位を指 標とした電気生理学的知見に基づき解説する。この経頭蓋磁気 刺激による運動誘発電位の検証は,皮質脊髄路全般の興奮性を 見るもの,また皮質内に生じる抑制および促通性回路の動態, さらには反対側からの半球間抑制を検証する方法論など多岐に わたる神経生理学的な手技が構築されている。当論文において はこのような方法論の概説とその新しい使用方法において理学 療法とりわけ物理療法を中心とした方法論における有用性をあ わせて概説する。 経頭蓋磁気刺激とは  TMS は 1985 年に開発された比較的新しい医療用ツールで あり,診断,治療に用いられるものであるとともに大脳皮質運 動野を中心とした神経生理学的検査を行うものとして発展を遂 げている。TMS は頭皮上においたコイルから強力な磁場を瞬 時に発生させて,脳や神経を刺激するものである。刺激の結果 として錐体路細胞の軸索の近位端または軸索丘に生じる直接的 な興奮と,皮質介在ニューロン群などからの間接的な興奮とと もに錐体路内を下降する一連のインパルス群を生じるものであ る。下降したインパルスは脊髄のα 運動ニューロン群を興奮さ せ結果として筋が収縮することとなる(図 1)。TMS により皮 質内で興奮を示すのは皮質介在ニューロンが中心となるという ことが示されており,その理由からより皮質に関わる広範の神 経細胞群の興奮性を示す指標であるとされる。  また,rTMS に関しては一定周波数にて,ある時間刺激を与 えることにより,持続的な皮質運動野等の神経興奮性の変化を 生じるとされている1)。 1.刺激方法および利用目的  TMS はその刺激方法から単一刺激および二連発刺激と反復 磁気刺激(repetitive TMS; 以下,rTMS)の 2 つに大別される。 単一刺激は文字通り,単発の刺激によって生じる反応を検討す るもので,二連発は同一コイルから数ミリ秒から数十ミリ秒の 時間差によりパルスを与えるものである。この単一および二連 発刺激はおもに神経生理学的な検証を行う時に用いられるもの である。一方,rTMS は一定周波数の TMS を連続して与える もので,刺激期間を超えて活動性を変化させることができる。 そのため,neurological,psychiatric disorder の治療として用 いられる方法論である。 2.TMS の安全性2)3)  TMS に関わる安全性を考える場合,単発刺激と rTMS は別々 の基準によって論じられている。単発刺激と二連発刺激に関し ては現在のところ問題はなく,安全と考えられている。しか し,刺激間の間隔は 2 秒以上あけて刺激することが推奨されて いる。また,この刺激方法においては当該施設の倫理委員会の 理学療法学 第 40 巻第 8 号 714 ∼ 716 頁(2013 年)

神経リハビリテーションにおける物理療法と運動療法の新たな治療戦略

─経頭蓋磁気刺激療法と運動療法─

菅 原 憲 一

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専門領域研究部会 物理療法 特別セッション「シンポジウム」

New Strategy for Physical Agents in Neurorehabilitation: Using Combinations Transcranial Magnetic Stimulation with Therapeutic Exercise

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神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科 (〒 238‒8522 神奈川県横須賀市平成町 1‒10‒1)

Kenichi Sugawara, PT, PhD: Kanagawa University of Human Services

キーワード:経頭蓋磁気刺激法,電気刺激,随意運動

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神経リハビリテーションにおける物理療法と運動療法 715 承認があれば絶対に医師がいることが条件にはなっていない。 一方,rTMS に関しては,臨床神経生理学会の通達で医師によ りオーダーされ医師が行うこととなっている。考慮される問題 としては,てんかんの誘発などが考えられている。その他,ク リック音による難聴の誘発,ペースメーカー装着者への悪影響 などが示されている。単発,二連発刺激は安全性が確認されて いるものの,リスクを十分考慮し,細心の注意を払って行うべ きである。rTMS に関しては現状でセラピストが独自の判断で 行われることはあり得ないことになっている。 rTMS による中枢神経(運動野)に及ぼす効果  rTMS の効果はそのエネルギーを供与した部位つまり大脳皮 質を中心とした部位に可塑的変化を生じるものであることが示 されている4)。その根幹に生じている変化の詳細は未だあき らかになっていない部分も多い。しかし,現在のところ long-term potentiation(LTP),および long-long-term depression(LTD) といった変化が生じていることが推察されている。  rTMS の効果はその刺激周波数や刺激強度,磁気パルスの型, 適応時間,刺激の全数などの要因により様々に効果は異なり, それぞれの効果の根拠となる生理作用も異なることが示されて いる。特に,1 Hz による効果は適応後ほとんどが抑制効果を 生じる。5 ∼ 25 Hz の高頻度の周波数では興奮性は増大を示す。 このように,周波数の変化によって与える効果は明確に異なる ことが示されている。ここでは,そのメカニズムの詳細は省略 する(Hoogendam らの review 参照1))。 rTMS の効果を修飾する随意運動の効果  経頭蓋磁気刺激自体が中枢神経系に及ぼす効果とともに,当 シンポジウムのもうひとつの主題である随意運動の効果につい て述べる。特に,物理療法の可能性を述べるうえでは,随意運 動を行うことで中枢神経系に適切な変調を生じることが可能な のかということは詳細に調べる必要性がある。ここでは,前述 した rTMS による効果に対して,随意運動を付加することで, その効果が変調するという報告を中心に概観する。Gentner ら5)(2008 年)は随意運動を行わずに 20 秒間の rTMS(theta burst stimulation) を 行 う と 終 了 後 の 運 動 誘 発 電 位( 以 下, MEP)を増大させる。しかし,この rTMS を行う前に5分間 の随意運動を行うと MEP は反対に抑制を示した。また,Iezzi ら6)(2008 年)は刺激前に fi nger movement を行うことによ り直後の効果を反転させる。また,刺激中の第 1 背側骨間筋(以 下,FDI)の筋収縮は rTMS の効果を消失させる。さらに,刺 激後の FDI の筋収縮は rTMS の方法論の相違によってその効 果を反転させることを示している7)。このように,一定の随意 運動を付加することにより,確実に中枢の興奮性を操作できる 可能性が示唆されている。 末梢感覚入力と随意運動発現が中枢神経に及ぼす影響  受動的トレーニングに対して能動的トレーニングである随意 運動を行うことの効果は中枢神経に与える影響も大きいことは 自明の事実である。Lotze ら8)は他動的に手関節が可動する機 器によって掌背屈を行わせた状態と随意的に可動させた場合と を比較した結果,自らの意思の下で動かそうとする随意的な指 令があってはじめて運動に関与する脳部位の再組織化が生じる ことを示唆している。また,末梢神経に対する電気刺激は刺激 筋とその拮抗筋を支配する皮質運動野に対して,その感覚入力 によって様々な影響を与えることが知られている。特に電気刺 図 1 TMS から筋収縮までの過程 コイルから生じる渦電流により皮質内の介在ニューロン群が刺激され,その結果として錘体路細胞 が興奮し錘体路を下降する volley を生じる.脊髄にて運動ニューロンにシナプス末梢神経を通じ て筋収縮が生じる.この時の収縮を筋電図で捉えた波形が運動誘発電位(MEP)である.MEP は 皮質運動野内の細胞の興奮性の上昇している場合,同一の TMS 強度であっても振幅増大を示す. また,逆に興奮性の低下または抑制性入力の増大が生じている場合は MEP は減少する.

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 716 激の刺激強度や周波数,さらには刺激方法などによって中枢神 経系への効果が相違することも検討されている9)。刺激エネル ギーが強いことや刺激頻度が高ければ中枢神経系に強い影響が 生じるということはなく,それぞれの条件に適した特異的な刺 激があることが示されている。電気刺激による拮抗筋への抑制 効果を調べた我々の知見では,安静状態においては大脳皮質運 動野へは刺激筋もその拮抗筋も興奮性の影響がでていたにもか かわらず,刺激とともに刺激筋の随意収縮を行わせることによ りその拮抗筋の皮質運動野におけるその支配領域は抑制に転じ ることが示唆された10)。 末梢感覚入力と運動イメージおよび随意運動の相互作用  電気刺激による末梢感覚入力と運動イメージまたは随意運動 をそれぞれ相互に行った場合の相互作用が存在するならば,電 気刺激を有効に操作することで各種の運動調節に有用性がもた らされることになる。これについて電気刺激,運動イメージ, 随意運動をそれぞれ単独で行った際の効果と電気刺激と運動イ メージの併用効果,さらに電気刺激と随意運動の併用効果につ いての詳細な分析が行われている。Saito ら11)は母指と小指 の対立運動を課題として正中神経への末梢神経電気刺激による 感覚入力をイメージ中または随意運動中に与えた。その結果, 刺激強度に依存して運動イメージに伴う一次運動野の興奮性を 修飾する結果を捉えている。その結果から運動イメージによる 一次運動野の興奮性増大と末梢神経電気刺激による感覚入力の 加重効果が関与していることを示唆している。さらに,末梢神 経電気刺激による感覚入力量が一次運動野の興奮性に及ぼす影 響やその作用機序は運動イメージと随意運動とでは異なる結果 が示されている。  これらの結果は運動イメージと随意運動の相違が生じる要因 として,末梢神経電気刺激による感覚入力が随意運動に伴う末梢 からの体性感覚入力のミスマッチまたは随意運動とともに末梢 神経電気刺激による付加的な感覚入力が起こることで一次運動 野の興奮性に対して抑制効果が生じていることを推察している。 おわりに  現在,電気刺激による運動学習,運動制御への影響について 多くの基礎的知見が集積されている。これらの知見には基礎的 な内容も多い一方,直接臨床に応用できるものも多く存在して いる。特に電気刺激による効果は刺激方法がきわめて客観的な ことから効果の有無も自ずと客観的なものとなってくる。すな わち,様々な運動学習などを構成するための中枢神経系に有効 な刺激方法に関してはそれを駆使した臨床での適用を進める必 要性がある。また,TMS などを用い様々な運動療法によって 生じる中枢神経系への効果検証に関しても今後さらに発展する ことが考えられ,ますます基礎と臨床の融合が望まれる。   文  献

1) Hoogendam MJ, Ramakers G, et al.: Physiology of repetitive transcranial magnetic stimulation of the human brain. Brain stimulation. 2010; 3: 95‒118.

2) Rossi S, Hallett M, et al.: Safety, ehical considerations, and application guidelines for the use of transcranial magnetic stimulation in clinical practice and research. Clin neurophysiol. 2009; 120: 2008‒2039.

3) 松本英之,宇川義一,他:磁気刺激法の安全性に関するガイドラ イン.臨床神経生理学.2011; 39: 34‒45.

4) Hallett M: Transcranial magnetic stimulation and the human brain. Nature. 2000; 406(6792): 147‒150.

5) Gentner R, Wanken K, et al.: Depression of human corticospinal excitability induced by magnetic theta-burst stimulation: evidence of rapid polarity-reversing metaplasticity. Cereb Cortex. 2007; 18: 2046.

6) Iezzi E, Conte A, et al.: Phasic voluntary movements reverse the aftereffect of subsequent theta- burst stimulation in humans. J Neurophysiol. 2008; 100: 2070‒2076.

7) Huang Y-Z, Rothwell JC, et al.: Eff ect of physiological activity on an NMDA-dependent from of cortical plasticity in human. Cereb Cortex. 2008; 18: 563‒570.

8) Lotze M, Braun C, et al.: Motor learning elicited by voluntary drive. Brain. 2003; 126: 866‒872.

9) Chipchase LS, Schabrun SM, et al.: Peripheral electrical stimulation to induce cortical plasticity: A systematic review of stimulus parameters. Clinical Neurophysiol. 2011; 122(3): 456‒463. 10) Sugawara K, Tanabe S, et al.: Change of excitability in M1

induced by neuromuscular electrical stimulation diff ers between presence and absence of voluntary drive. Int J Rehabil Res. 2011; 34(2): 100‒109.

11) Saito K, Yamaguchi T, et al.: Combined eff ect of motor imagery and peripheral nerve electrical stimulation on the motor cortex. Exp Brain Res (in press).

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参照

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