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基礎理学療法領域におけるコア・パラダイム

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 697 ~ 698 頁(2015 基礎理学療法領域におけるコア・パラダイム 年). 697. 大会シンポジウム 2. 基礎理学療法領域におけるコア・パラダイム* 沖 田 実**. り,医学における治療体系のほとんどはピラミッドのような形. 緒 言. で構築されており,その基盤になっているものは培養実験や動. 理学療法士および作業療法士法の第 2 条において,「理学療. 物実験といった基礎研究に基づくエビデンスであり,最近は. 法とは,身体に障害のある者に対し,主としてその基本的動作. evidence-based medicine(EBM)の充実を図る目的で無作為. 能力の回復を図るため,治療体操その他の運動を行わせ,およ. 化比較対照試験(randomized controlled trial;RCT)による. び電気刺激,マッサージ,温熱その他の物理的手段を加えるこ. 臨床効果判定が求められている 5)。. とをいう」と定義されている。つまり,この定義からも明らか. 一方,理学療法も医学の一分野ではあるものの,その治療技. なように,基本的動作能力の回復を図ることが理学療法のコア. 術の多くは歴史的にみても経験則から発展してきたものであ. (核)といえ,めざすべき目的であることは疑う余地がない。. り,入口である基礎研究によるエビデンスに基づいて治療技術. では,基本的動作能力を獲得するためにはどのような要素が. を適用していく思考には欠けていたことは否めない。そして,. 不可欠となるのであろうか。たとえば,関節可動域(range of. その根底には ROM 制限をはじめとした各種の機能障害の病態. motion;以下,ROM)はそのひとつであり,先行研究では基. や発生メカニズムの解明が立ち後れていることが影響している. 本的動作の遂行に必要となる四肢の ROM について明らかにさ. と思われ,病態もわからないまま経験に頼って治療を施してき. れており. 1)2). ,そのデータは ROM 制限に対する治療目標とい. える。しかし,その治療は効果的に行われているといえるのだ ろうか。リハビリテーションの対象患者 144 名の四肢・体幹の 16 関節の ROM を調査された結果では,平均 11 関節(約 7 割). たという,ある意味恐ろしい現実的な課題がある。. 機能障害の病態解明を目的とした基礎研究-拘縮研究 の実例. に ROM 制限が認められており 3),終末期リハビリテーション. 周知のことではあるが,ROM 制限をはじめとした各種の機. を担う施設では重篤な ROM 制限を抱えたまま入所となる障害. 能障害の病態やその発生メカニズムを解明していくためには,. 高齢者が増加傾向にあるという. 4). 。つまり,このような臨床成. 実際の患者から採取した生体組織の検索が必須となる。幸い著. 績では理学療法のコアである基本的動作能力の回復には結びつ. 者自身は ROM 制限の主たる原因である拘縮を呈した患者の骨. かない可能性があり,その課題解決のためには基礎理学療法領. 格筋の検索経験があり,重篤な拘縮例の骨格筋組織においては. 域の研究の意義と役割は大きいのではないだろうか。. 壊死・消化した筋線維を置換するように過剰なコラーゲン増生. そこで,本稿では基礎理学療法領域の研究の実例を紹介しな. が生じ,顕著な線維化が発生するという事実を経験している 6)。. がら,そのパラダイムと今後のパラダイムシフトの重要性につ. しかし,現実には倫理上の問題や保険診療上の問題などがあ. いて述べることとする。. り,患者からの生体組織の採取は不可能に近い。つまり,この. 理学療法における治療体系構築の課題. 代替手段として実験動物モデルからの生体組織の採取があり, 研究室で進めている拘縮の病態解明に関する基礎研究において. 通常,医学における治療体系,たとえば,ある疾患や症状に. はラットの膝関節屈曲拘縮モデルや足関節尖足拘縮モデルを用. 対する薬物療法は,まず,薬剤の開発やその効果検証が数多く. いて,皮膚,骨格筋,関節包といった関節周囲軟部組織の網羅. の培養実験や動物実験といった基礎研究によって明らかにさ. 的解析を進めている。. れ,その中の一部,すなわち臨床応用の可能性が望める成果の. これまでのところ,皮膚,骨格筋,関節包においては共通し. みが臨床試験に供される。そして,臨床試験の結果が十分に検. てコラーゲンの増生に伴う線維化の発生が認められること,な. 討され,ほんの一部のものが実際の対象者に処方される。つま. らびにこの病態が拘縮の発生メカニズムに深く寄与することが. *. Core Paradigm for Basic Physical Therapy Science 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科運動障害リハビリテーション学 分野 (〒 852–8520 長崎県長崎市坂本 1–7–1) Minoru Okita, PT: Department of Locomotive Rehabilitation Science, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences キーワード:基礎理学療法,機能障害,パラダイムシフト. **. 明らかになっており(図 1),骨格筋に関しては線維化の発生・ 進行に関与する分子機構の解明も進んでいる. 7)8). 。. 基礎研究から考える理学療法のパラダイムシフト 前述の拘縮の病態解明を目的とした基礎研究の成果は,理学 療法の生物学的効果としてのエビデンス構築に貢献するのみな.

(2) 698. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 図 1 皮膚,骨格筋,関節包における拘縮発生時の共通病態 写真の上段は正常ラット,下段は拘縮モデルラットで,左列は膝関節屈曲拘縮モデル から採取した膝窩周辺の皮膚,中列は足関節尖足拘縮モデルから採取したヒラメ筋, 右列は膝関節屈曲拘縮モデルから採取した後方関節包の組織像である.皮膚において は,正常ラットに認められる皮下組織の脂肪細胞が萎縮・消失し,その間隙を埋める ようにコラーゲンの増生が認められる.骨格筋においては,筋周膜(矢頭),筋内膜(矢 印)いずれも正常ラットより肥厚しており,コラーゲンの増生が認められる.関節包 においては,正常ラットに認められる滑膜の脂肪細胞が萎縮・消失し,その間隙を埋 めるようにコラーゲンの増生が認められる.. らず,これまで介入が困難であった状況下における新たな治療. の病態論を学べる機会を e-learning を用いて提供していこうと. 戦略の開発にもつながる可能性があり,動物実験としてはその. 計画している。. 検証も進めている. 7). 。加えて,拘縮の発生メカニズムに関与す. つまり,基礎研究の実践を通して培った様々な知識・情報や. る分子機構の解明は,近い将来,生物学的製剤の開発につなげ. 研究成果として積み上げてきた知見など,これらの知的財産を. られる可能性も秘めており,このような研究成果の蓄積は機能. 理学療法の卒前・卒後教育にフィードバックし,旧態依然の教. 障害に対する理学療法の治療戦略をパラダイムシフトさせてい. 育内容をパラダイムシフトすることが,臨床理学療法の発展の. くうえでは不可欠と思われる。. ためにも必要といえよう。. 一方,理学療法のパラダイムシフトを考えていくうえでもう ひとつ重要になるのが卒前・卒後教育の改革であろう。この点 の実例としては現在,世界規模で進められている痛み対策戦略 でも明らかになっており,アメリカ議会の「痛みの 10 年宣言」 のエポックや平成 22 年に厚生労働省が発表した「今後の慢性 の痛み対策についての提言」においても医療者への痛み教育の 必要性・重要性が示されている。 つまり,痛みも含めて理学療法の治療対象である機能障害の 病態や発生メカニズムを教育するカリキュラムが必須になって きていることは間違いなく,(公社)日本理学療法士協会の教 育ガイドライン 1 版においても,基礎理学療法学の科目におけ るモデル・コア・カリキュラムの中に機能障害の病態論の教育 内容が組みこまれている。実際,著者が勤務する大学では痛み や ROM 制限,筋力低下といったすべての疾患に認められる機 能障害の病態論を教育するカリキュラムを学部教育や大学院教 育で展開しており,現在本学が採択されている文部科学省補助 金「課題解決型高度医療人材養成プログラム」においても,臨 床指導者のリカレント教育プログラムの一部に機能障害の最新. 文 献 1) Murray MP, Kory RC, et al.: Comparison of free and fast speed walking patterns of normal men. Am J Phys Med. 1966; 45: 8–23. 2) Andriacchi TP, Andersson GB, et al.: A study of lower-limb mechanics during stair-climbing. J Bone Joint Surg Am. 1980; 62: 749–757. 3) 小泉幸毅,小川 彰,他:拘縮の実態,拘縮の予防と治療(第 2 版). 奈良 勲,浜村明徳(編),医学書院,東京,2008,pp. 1–17. 4) 宿野真嗣:青梅慶友病院における拘縮対策の取り組み,エンド・ オブ・ライフケアとしての拘縮対策─美しい姿で最後を迎えて いただくために.福田卓民,沖田 実(編),三輪書店,東京, 2014,pp. 137–155. 5) 沖田 実:基礎研究,理学療法研究法(第 3 版).内山 靖,島田 裕之(編),医学書院,東京,2013,pp. 60–70. 6) 片岡英樹,沖田 実,他:骨格筋の変化に由来した拘縮,関節可 動域制限(第 2 版)─病態の理解と治療の考え方.沖田 実(編), 三輪書店,東京,2013,pp. 93–134. 7) 沖田 実:関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略.理 学療法学.2014; 41: 523–530. 8) Honda Y, Sakamoto J, et al.: Upregulation of IL-1β /TGF- β 1 and hypoxia relate to molecular mechanisms underlying immobilization-induced muscle contracture. Muscle Nerve. 2015; 52: 419–427..

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