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新学術領域研究「時間生成学―時を生み出すこころの仕組み」

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Academic year: 2021

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.38.25 161 村上・天野: 新学術領域研究「時間生成学―時を生み出すこころの仕組み」

新学術領域研究

「時間生成学―時を生み出すこころの仕組み」

村 上 郁 也

a,

*・天 野   薫

b a東京大学,b情報通信研究機構・脳情報通信融合研究センター

Chronogenesis: How the mind generates time

Ikuya Murakami

a

and Kaoru Amano

b

aThe University of Tokyo,

bCenter for Information and Neural Networks (CiNet), National Institute of Information and Communications Technology

本稿で紹介する研究プロジェクトから先立つこと 5 年,まず 2013–2017年度の5カ年において,新学術領域 研究「こころの時間学―現在・過去・未来の起源を求め て―」という研究プロジェクトが実施され,ヒトにおい て特に発達した現在・過去・未来にわたる時間の意識が どこから生まれてくるのかという について,心理学, 生理学,薬理学,臨床神経学,言語学,哲学,比較認知 科学の共同研究によって取り組まれてきた。その後継プ ロジェクトの性格を帯びつつ,さらに,時間概念が生物 学的にどのように生成されるのかを明らかにする実証的 な取り組みとして,2018–2022年度の5カ年にわたる新 たな新学術領域研究「時間生成学―時を生み出すこころ の仕組み」が,2018年6月29日をもって動き出した。 これらふたつの領域ともに,領域代表は大阪大学の北 澤茂教授であり,計画研究班員の顔ぶれにも重複がある ものの,新プロジェクトである「時間生成学」では,先 行領域「こころの時間学」で (1) 大脳皮質内側面に「未 来–現在–過去」の時間地図を描き出すことに成功したこ と,(2) 実験動物研究で開発された「こころの時間」の 操作法を臨床応用につなげたこと,(3) エピソード様記 憶の系統発生と個体発生を明らかにしたことなどをふま えて,さらに一層の飛躍を図るための道具立てが用意さ れた。すなわち,時間概念とは生体システムが生み出す ものであるという考えのもと,そうであれば,人工的シ ステムを用いて時間概念的なものを生成する機械を作れ るかもしれない,という考えに至り,「人工神経回路」 を構築する試みが導入されたのである。 もちろん人工的システムは必ずしもただちに生体シス テムのモデルとはみなせない。一方で,「『時間を作る 脳』を作る」というスローガンの下で人工的システムを 視野の中心に据えながら共同プロジェクトを展開する営 み自体が,画期的なケミストリーを生み出し,時間概念 を生成する生体システムの可能な存在態様に関して問題 空間の絞り込みを提供してくれるという可能性が大いに ある。そうなれば,時間概念の生成を解明する道筋が一 気に拓け,複合領域としての学際的研究体制にさらなる 加速がつくであろう。 そのような道具立ての中核として【作る】班を置き, 自然言語を入力として,記述されたイベントの時間順序 を出力する人工神経回路を構築する。その一方で,生体 システムでの時間の生成のさまざまな側面については以 下述べるような分業体制がある。とりわけ特徴的なの は,各班の内部において,心理学,神経科学,工学と いった複数の学際的分野からの計画研究班員・公募研究 班員が配置され,個別研究レベルでまさに複合領域のメ リットを活かした研究活動が行える枠組みが作られてい ることである。【流れる】班では,「時の流れ」の意識が 生れる過程を扱う。先行領域で大脳皮質内側面に描き出 すことに成功した時間地図を踏まえて,ヒトとサルの神 経活動計測などを通して「未来–現在–過去」の時間認知 を支える神経基盤を解明する。【獲得する】班では,発 達や進化とともに「時を獲得する」過程を扱う。個体発 生,系統発生,究極要因のすべてをターゲットに置き, ヒトの縦断的研究と横断的研究,類人猿その他の動物で の比較認知科学実験,数理モデル構築を行っていく。 【失う】班では,病気等に伴って「時を失う」過程を扱 The Japanese Journal of Psychonomic Science

2019, Vol. 38, No. 1, 161–163

報  告

Copyright 2019. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author: Department of Psychology, The

University of Tokyo, 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan. E-mail: [email protected]

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162 基礎心理学研究 第38巻 第1号 う。そのため,ヒト臨床試験,機能的脳計測および動物 実験を実施し,生体システムにおける神経回路の刺激・ 阻害などに伴い時間認知機能が変容する様子を観察する ことで,時間処理やその情動的価値に迫る。【刻む】班 については後述する。 周知の通り,日本基礎心理学会においては,時間認知 はまさに研究スコープの中心に位置する研究テーマのひ とつである。例えば,『基礎心理学研究』第34巻1号で は特集号「時間認知の解明への学際的アプローチ」が組 まれ,8件の原著論文,研究ノート,評論が掲載され た。筆者らは本領域に参加する計画研究班員として,本 学会会員の興味を満たすような画期的な研究成果を生み 出すべく地道に努力しているところであるが,以降は字 数の許す範囲で,筆者らの専門領域である知覚的現在の 実験心理学,認知神経科学の観点から,本領域において 期待できる方向性を論じたい。 村上,天野が参画する【刻む】班においては,知覚や 行動に関連した時間情報の脳内機構を健常人の心理物理 実験,脳機能計測,神経変性疾患での解析およびサルを 用いた生理学実験によって調べている。特に,リズミッ クな神経活動が時間情報処理に果たす役割や,周期的な 刺激に対して知覚や行動が引き込まれるメカニズムを明 らかにする。また,経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋電 流刺激(tCS)を用いた介入を行うことで因果関係を調 べるとともに,疾患や老化に対する機能補綴法の開発を 目指している。 刺激の持続時間の知覚に関しては,α波などの脳内リ ズムを刺激の開始から終了までの間カウントすることで 刺激の持続時間を測定しているとのモデルがあり,ペー スメーカーモデルと呼ばれている(Gibbon, 1992; Treis-man, 1963)。呈示刺激を一定に保ったまま,介入手法に よって脳内リズムの周波数を上げ下げしたときに,持続 時間の知覚がどのように変化するのかを調べることで, ペースメーカーモデルの妥当性を直接的に検証すること ができると考えられる。 脳内リズムの操作には経頭蓋交流電気刺激(tACS) などの介入手法の使用が考えられるが,通常のtACSで は電気刺激によるアーティファクトが大きいため脳波 (EEG)や脳磁図(MEG)の同時計測が困難であり,電 流刺激によって脳活動が変化しているかどうかが担保で きなかった。天野らは,α波と同じ周波数で視覚的な揺 れが知覚されるジター錯視現象の神経基盤を調べる研究 において,強度変調電気刺激(高周波搬送波をα波帯域 で変調)を用いることでアーティファクトを軽減し,電 流刺激によってα波の周波数を操作できることを見いだ

している(Minami & Amano, 2017)。この方法を用いた 時間知覚の操作が一つの方向性である。

一定時間待ってからサッケードする課題を用いた,田 中らのサルを対象とした生理実験においては,基底核 (線条体)および小脳においてランプアップする活動が 見られ,その傾きが持続時間によって変化することが 報 告 さ れ て い る(Kunimatsu, Suzuki, Ohmae, & Tanaka, 2018)。線条体は時間生成の際には計測しようとする時 間長に応じた「構え」に関する信号を,小脳は試行ごと の運動タイミングの調整に関した信号があることが示唆 されている。一方,視覚刺激の持続時間(1秒以内)に 選択性を持った神経表現は縁上回(SMG)に存在する ことが,fMRI順応,デコーディング解析などを用いた 林らの研究で一貫して示されている(Hayashi et al., 2015; Hayashi, van der Zwaag, Bueti, & Kanai, 2018)。さらに持続 時間に対する選択性の皮質上での連続的な変化,すなわ ち持続時間のマップが補足運動野(SMA)に存在すると の報告もある(Protopapa et al., 2019)。持続時間の知覚 における線条体,小脳および SMG, SMAの機能の違い や,上述のペースメーカーモデルとの整合性は今後の重 要な検討課題であり,神経疾患における時間知覚,リズ ム知覚も大きな手がかりとなる(Matsuda et al., 2015; Tokushige et al., 2018)。 持続時間に加えて,複数の感覚入力間の時間差や同時 性の知覚も重要な時間知覚の一つである。視覚と聴覚な ど複数のモダリティからの入力が同時か否かの知覚は, モダリティ間での情報の統合を調べるうえで重要な手が かりである。その脳内メカニズムは,それぞれの感覚刺 激の時間情報(タイムマーカー)を抽出する機構と,タ イムマーカーをモダリティ間で比較する機構(比較器) から構成されると考えられる(Fujisaki & Nishida, 2010)。 天野らは,MEGを用いてタイムマーカーの神経基盤を 検討し,感覚刺激に対する反応の時間積分が閾値を超え た時点にタイムマーカーが付けられるというモデル(積 分モデル)が行動データを最もよく説明することを示し た(Amano, Qi, Terada, & Nishida, 2016)。単純反応時間, すなわち刺激の検出に要する時間も積分モデルによって 説明できるが(Amano et al., 2006),タイムマーカーの閾 値は単純反応のための閾値よりも低いことが示された。 この結果は,感覚応答の積分が単純反応の閾値を超え刺 激が意識に上るより前の段階で,タイムマーカーすなわ ち刺激のタイミングに関する情報が抽出されており,刺 激が意識に上ったあと,タイムマーカーの時点に って ポストディクティブにタイミングが知覚されている可能 性を示唆している。

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163 村上・天野: 新学術領域研究「時間生成学―時を生み出すこころの仕組み」 タイムマーカーが脳内でどのように実装され読み出さ れているのかに関しては,介入実験およびモデリングを 組み合わせた今後の検討が必要である。また,比較器の メカニズム,すなわちタイムマーカー間の時間差がどの ような仕組みに基づいて検出されているのかについても 検討が必要である。特に,時間差を検出するメカニズム が持続時間の検出と共通であるのか,時間差に関する脳 内マップが存在するのかは重要な検討課題である。 固視微動をはじめとする眼球運動や瞳孔径における 揺らぎと時間知覚の関係(Suzuki, Kunimatsu, & Tanaka, 2016)も重要な研究課題であり,時間知覚に関する心理 実験および脳機能計測において眼球運動を同時計測する ことで新規な知見が得られることが期待される。眼球運 動・頭部運動・身体運動にはそれぞれ独自の律動があ り,それらの重畳によって固有な周波数スペクトル形状 をもった網膜投影像というものが,あらゆる視覚情報処 理の出発点である (Aytekin, Victor, & Rucci, 2014)。また, 入力画像に対して網膜内部において行われる各種の前処 理にも,精緻な時間加算と時間差分の両側面があること が知られている。それらがどのように,時間を刻む脳の 仕組みに寄与しているのかも検討していきたい。

引用文献

Amano, K., Goda, N., Nishida, S., Ejima, Y., Takeda, T., & Ohtani, Y. (2006). Estimation of the timing of human visual perception from magnetoencephalography. Journal of Neu-roscience, 26, 3981–3991.

Amano, K., Qi, L., Terada, Y., & Nishida, S. (2016). Neural cor-relates of the time marker for the perception of event tim-ing. eNeuro, 3, 1–17.

Aytekin, M., Victor, J. D., & Rucci, M. (2014). The visual input to the retina during natural head-free fixation. Journal of Neuroscience, 34, 12701–12715.

Fujisaki, W., & Nishida, S. (2010). A common perceptual tem-poral limit of binding synchronous inputs across different sensory attributes and modalities. Proceedings Biological sci-ences/The Royal Society, 277, 2281–2290.

Gibbon, J. (1992). Ubiquity of scalar timing with a Poisson clock. Journal of Mathematical Psychology, 36, 283–293. Hayashi, M. J., Ditye, T., Harada, T., Hashiguchi, M., Sadato,

N., Carlson, S., ...Kanai, R. (2015). Time adaptation shows duration selectivity in the human parietal cortex. PLoS Biol-ogy, 13, e1002262.

Hayashi, M. J., van der Zwaag, W., Bueti, D., & Kanai, R. (2018). Representations of time in human frontoparietal cortex. Communications Biology, 1, 233.

Kunimatsu, J., Suzuki, T. W., Ohmae, S., & Tanaka, M. (2018). Different contributions of preparatory activity in the basal ganglia and cerebellum for self-timing. eLIFE, 7, e35676. Matsuda, S., Matsumoto, H., Furubayashi, T., Hanajima, R.,

Tsuji, S., Ugawa, Y., & Terao, Y. (2015). The 3-second rule in hereditary pure cerebellar ataxia: A synchronized tapping study. PLoS ONE, 10, e0118592.

Minami, S., & Amano, K. (2017). Illusory jitter perceived at the frequency of alpha oscillations. Current Biology, 27, 2344–2351.

Protopapa, F., Hayashi, M. J., Kulashekhar, S., van der Zwaag, W., Battistella, G., Murray, M. M., ...Bueti, D. (2019). Chro-notopic maps in human supplementary motor area. PLoS Biology, 17, e3000026.

Suzuki, T. W., Kunimatsu, J., & Tanaka, M. (2016). Correlation between pupil size and subjective passage of time in non-human primates. Journal of Neuroscience, 36, 11331–11337. Tokushige, S.-I., Terao, Y., Matsuda, S., Furubayashi, T., Sasaki,

T., Inomata-Terada, S., ...Ugawa, Y. (2018). Does the clock tick slower or faster in Parkinson’s disease?: Insights gained from the synchronized tapping task. Frontiers in Psychology, 9, 1178.

Treisman, M. (1963). Temporal discrimination and the indif-ference interval: Implications for a model of the “internal clock.” Psychological Monographs: General and Applied, 77, 1–31.

参照

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