第5章 原油価格の波及メカニズム
1. は じ め に 昭和48年10月にOPECによる石油を手段とした経済行動により,原油価格は 一挙に4倍近く上昇した(第1次石油ショック)。これにともなって,国内的 にインフレが加速し,49年から50年にかけて国内景気は極度に落ち込んだ。 その後,昭和53年末から54年にかけて第2次石油ショックが発生した。この ときは,原油価格は段階的に引き上げられ,最終的にはバーレル当り34ドル になった。第1次石油ショックの場合は,予想すら出来ず突然起った事態で, 石油の禁輸という初めての経験であり,又,石油価格の上昇幅も極めて大き かったことから,国内経済,特に,物価に与えた影響はかなりのものであっ た。これに対し,第2次石油ショックの場合は最初の経験から省エネルギー 意識も広がり,代替投資も行われ,かつ経済も順調だったことから景気後退 は比較的少なくてすんだといわれている。石油価格上昇に伴う輸入物価の上 昇を通じていろいろな影響が現われてきた。生産コストを表わす卸売物価の 上昇,一般消費者物価の上昇,賃金の上昇,生産の低下等の現象がどのよう に互いに関連し合っているのか,又,それらがどのように他の要因へ波及し ていったのかを分析しようとするのが本論の目的である。 分析方法としては,最近,経済の分野でもいくつかの応用が見られる多変 量時系列モデルを用いることにする。モデルを推定した後,それから得られ る結果について,いくつかのデータ分析を行う。 その結果として得られたいくつかの結論は次の通りである。 (1) 石油ショックの後での各変数の変動に対する調整は,それ以前に比べ ると大巾に早く,又,敏感になった。ただし,そのパターン自体は大きく 変化はしていない。 (2) 石油ショック前に比べて,それ以後においては価格調整メカニズムが 有効になり,景気循環の振幅が小幅におさえられている。 (3) 石油ショック以前では,経済はコスト要因である卸売物価によって主に影響を受けていたが,石油ショック後では,期待を反映していると考え られる消費者物価が重要な意味をもつようになった。 (4) モデルの予測誤差の分解により,第1次石油ショックは,エネルギー価 格の大幅な変動が原因であったが,第2次石油ショックは国内的な原因が 主なものであることが確かめられた。 2. データとモデル 我々のモデルで用いたデータは,円ベースの石油・石炭・天然ガスの輸入 物価指数(
PEN
),総合卸売物価指数(総平均)(WPI
),消費者物価指数 (総合)(CPI
),名目賃金指数(全産業)(WAGE
),そして鉱工業生産指 数(IIP
)である。データは昭和40年の1月から昭和57年の12月までの18年間 の月次系列ですべて対前年同月比成長率の形で表わしたものを使用した。 上記のような経済統計では,このような対前年同月比成長率の形で利用さ れる場合が多い。これは1つにはある変数の対前年同月比をとることによっ て,もし,長期的な成長率がほぼ一定であるとすると,季節変動とトレンド を,近似的ではあるけれども同時に除去できる比較的簡単な方法であるため であろう。 又,本分析で変換された系列を用いたのは,それをプロットした図からも あきらかなように,データを変換した方が,より定常性を満たしていると考 えられるためである。 ところで,成長率が近似的に一定とみなされる場合,トレンドを除去する には,もし原系列に季節調整がされていれば,対前月比を計算して用いるこ とも可能である。しかしながら,因果関係について分析する場合には, Feige and Pearce(1979)の指摘にも見られるように季節調整法によって原 系列に両方向のフィルターがかかってしまうので好ましくない。すなわち, 原系列にもしはっきりした因果関係があったとしても,季節調整をすること によって失われてしまうことになるので今回は用いていない。これらの5つの系列について,その動きをプロットしたものが第1図の図 1・1から図1・5である。原油価格の高騰は輸入価格の上昇−卸売物価の上昇
第1図:使用データのプロット(対前年同月比変化率) 図1.1 輸入エネルギー価格指数
図1.3 総合消費者物価指数
図1.5 鉱工業生産指数 −消費者物価の上昇というルートで進んでいく。第1次石油ショックと第2次 石油ショックにおけるこれらの物価上昇の程度を比べると,エネルギー輸入 価格は第1次では230%近く高騰し,第2次では145%位であった。これは卸売物 価ではそれぞれ37%と25%であり,消費者物価では25%と8.8%であった。この ように石油インフレからルートが遠くなるにしたがって,物価上昇は第2次 の方が小さくなっている。これは名目賃金の動きについても同様である。こ れは,第1次に比べて,物価の上昇が部分的なものにとどまっているためと 考えられている。このようにデータからみても第1次石油ショック時と第2次 石油ショック時を比べて,第2次の方が物価上昇率はかなり低かったのであ る。このために第2次のときは生産にもそれ程大きな影響はあらわれていな い。第1次の物価上昇の1つの原因とされる貨幣ストックの大幅な伸びの後, その動きは低下傾向にある。 以下の分析では,次のモデルを中心に行う。 モデルA……エネルギー輸入価格が各価格変数と生産にどのような影響を 与えたかを見るために,エネルギー輸入価格,総合卸売物価,消費者物価,
名目賃金,鉱工業生産の5つの変数からなるモデルによって分析する。この モデルは,特に石油ショック後の経済構造の変化を観察するために,第1次 石油ショック前の40年1月∼48年9月までの部分とその後の48年1月∼57年12 月までの部分にわけて推定を行い,両者の違いを探る。 それらのモデルをそれぞれA−1とA−2とする。 3. 多変量時系列モデル 3.1 モデルの定式化 今回の分析で用いたモデルは,最近,シムズ等の経済学者によって開発さ れた線型確率定差方程式体系として表わされるモデルで,VAR(Vector Autoregression)と略称されている多変量自己回帰モデルである。
n
個の変 量からなるアウトプット(z
)
を線型の動学システムとしてモデル化するもの で,z
には,今,エネルギー輸入物価,卸売物価,消費者物価,賃金,鉱工 業生産が含まれる。各変数は,自分自身のラグ付の値と他の変数の各々ラグ 付の値,プラス確率的な攪乱項の一次関数として考える。そして,基本的な 仮定としては平均ゼロの共分散定常,すなわち,すべてのラグにおいて,平 均と自己共分散は,時間を通じて一定であるとする。このz
は,あるゆるい 正則条件のもとで,次のp
次の自己回帰モデルによって近似できる。(ここ で,自己回帰モデルの次数をp
としたが,このp
が無限大なら近似誤差はゼ ロになる。) (3.1)z
t=
φ
1z
t−1+
φ
2z
t−2+
……+
φ
pz
t−p+
ε
t そして,Cov(ε
t,
ε
t−j)=⎩
⎨
⎧
=
Σ
≠
0
0
0
j
for
j
for
Cov(ε
t,
z
t−j)=
0
j
=>
1
攪乱項ε
tに系列相関がなく,又,ε
tは過去のz
tと無相関だから,n
×n
のパ ラメータ行列(φ
1,
……,φ
P)は,端の方の項の影響を無視すれば,通常の 多変量回帰モデルの形で表わすことができる。 (3.1)式は,ラグオペレータ(B
)を使って,次のようにコンパクトに書く ことができる。(3.2)
=
=
−
−
2−
2 1)
(
,
)
(
B
z
tε
tφ
B
I
φ
B
φ
B
φ
……−
φ
PB
P ここでB
lz
t=
z
t−l,
次にこのφ
(B
)
の逆数を(3.2)の両辺に掛けると,次の 移動平均型(MA
)が得られる。 (3.3) j t j j t t tB
B
z
∞ − = −=
=
Σ
=
φ
ε
ϕ
ε
ϕ
ε
0 1)
(
)
(
1)
(
)
(
B
=
φ
B
−ϕ
ここで各ϕ
は,n
×
n
行列であり,ϕ
0=
I
である。又ϕ
は簡単な計算によ りφ
から求めることができる。Woldの分解定理に従って,任意の定常な確率 過程は確定項(Deterministic component)と移動平均の形で書かれる非確 定項の和として表わされる。したがって,すべての定常な確率過程は移動平 均の項が反転可能(Invertible)なら無限の次数の自己回帰で表わすことが でき,そして,有限の次数の自己回帰でかなりうまく近似できることになる。 過去のz
の値の線型関数で今期のz
t予測するとき,予測誤差を最小にする ような予測値は i t i iz
− ∞Σ
φ
であり,その時の予測誤差はε
tである。したがって (3.3)式は過去の予測誤差の移動平均としてz
tが表わされることを示してい る。 一般に,自己回帰モデル(3.1)のラグの長さは無限であるが,実際はある 数p
に決められる。多変量時系列モデルにおいて1つの難点は,この定式化 にあるといえる。推定すべきパラメータの数が,モデル内の変数の数の2乗 だけ必要であり,さらに,ラグが増えると,その項とともにパラメータの数 も2倍になる。適当な大きさのモデルであっても利用できる観測値の数に比 べて,モデルはかなりパラメータ過剰になってしまう。特に,この点を回避 するためのいくつかの方法が提案されている。その1つは,Sargent and Sims(1977)によって提案されたIndexモデルであり,これは多数の変数間 の動学的な動きを僅かな少数のIndexによって表わそうとするものである。 他の1つはLitterman(1979)によるもので経験的に得られる情報等を用いて Bayesian推定を行うもので,我々も後でこの方法の利用を試みる。多変量自己回帰モデルの次数を決定する方法はいくつかある。1つは赤池 ( 1974 ) に よ る A I C 最 小 規 準 の 応 用 で あ る 。 こ こ で はTiao and Box (1981)の提案した方法によってモデル化を行った。 3.2 多変:量自己回帰モデル 5つの変数についてのモデル・ビルディングするために,第1段階として各 変数から計算される標本自己相関関数を使って,モデルの特徴を探ることに する。
z
t−lとz
tの自己相関係数ρ
lは,z
tが過去の変数z
t−lとどの程度線型的 な変動関係をもっているかを示す尺度であるから,ρ
lのl
=1,2,3,…… に対する動きをみると,z
tが過去の変数z
t−1,
z
t−2,
z
t−3とどのように関係して いるかがわかる。この関係をグラフにしたものが標本コレログラムであり, モデルAに使われた各変数についてプロットしたものが第2図である。これら の各変数の標本自己相関関数の形を見る限りその減少の仕方からみて,その データはいずれも定常的であるように見える。又,そのコレログラムからみ てモデルは低次のAR
モデルとしての特徴を示していることがわかる。次に, 各変数間の時差相関関係を表わす標本クロス相関関数を推定し,それらを各 組についてプロットしたものが第3図である。いずれの関係 第2図:モデルAの各変数の標本自己相関関数 図2.1 輸入エネルギー価格指数図2.2 総合卸売物価指数
図2.4 名目賃金指数
図3:モデルAの各変数間標本クロス相関関数 図3.1
PEN
(輸入エネルギー価格指数)−
WPI
(卸売物価指数)
においても,比較的同時点相関が高い。エネルギー輸入価格(
PEN
)と卸 売物価の関係(WPI
)(図3.1)は約2ヵ月の差の関係がある。(WPI と
t−2PEN
tが最大)。これは第1図のグラフを重ね合すことでもわかるように卸売物価は 石油ショックの始まる数ヵ月前から,為替レートの自由化や,貨幣ストック の増加等の要因のため上昇していることを表わしている。
PEN
とCPI
はほ ぼ同時点の相関があるが,PEN
とWAGE
は約2ヵ月WAGE
が遅く,PEN
は約9ヵ月遅れのIIP
と負の相関を示している。WPI
は2∼3ヵ月遅れの差でCPI
と相関し,IIP
とは約1年遅れて負の相関をしている。CPI
とIIP
は約9 ヵ月遅れの負の相関をしめしている。しかしWAGE
とIIP
の間にはあまり強 い相関はない。このような2変数ずつの組で表わす標本クロス相関関数は非常に有益な時 系列関数の情報をもたらしてくれるが,変数の数が多くなるとグラフの数が 多くなり,また,3変数以上の関係を同時に理解するにも不便である。そこ で,Tiao and Box(1981)に従って,5変数からなるクロス相関行列の構造を 第1表のように記号を使って要約してみることにしよう。 この表は,もし,ある系列がホワイトノイズなら,大きな標本数
T
の場合 にl
次の標本クロス相関行列ρ
ˆ
ij(
l
)
は平均0で分散がT
−1 の正規分布をすると いう考え方から作られるものである。標本クロス相関行列ρ
ˆ
ij(
l
)
は次のよう にして求められる。 (3.4){
(
)
2(
)
2}
12)
)(
(
)
(
ˆ
j jt i it j jt i it ijz
z
z
z
z
z
z
z
−
Σ
−
Σ
−
−
Σ
=
+ll
ρ
ここでz
iはz
tのi
番目の変数の標本平均である。この統計量は1変量の場合 と同じように低次のベクトルMA
モデルに対して有効である。今,数値で表 わす代りに行列の値が2
T
−12より大きい場合は+の記号で表わし,− T
2
−12 より小さい場合は−の記号で表わす。そして− T
2
−12と2
T
−12の間の数値に ついては・で表わすことによって,全体の概要をつかみやすくしたものであ る。第1表はρ
ˆ
ij(
l
)
の数値を,このようにしてプラス,マイナス,ドットの記 号で表わしたものである。このように表わすことの利点は,クロス相関行列 のパターンによってモデルの選択が容易になり,同時に次数を決めるときの第1表 モデルAのクロス相関表 LAGS 1 THROUGH 6 + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + ・ + + + + ・ + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − − ・ − ・ + − ・ − ・ + − ・ − ・ + − ・ − ・ + ・ ・ ・ + + ・ + ・ + + LAGS 7 THROUGH 12 + + + + − + + + + − + ・ + ・ − ・ ・ + ・ − ・ ・ + ・ − ・ ・ + ・ − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + ・ + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + − + ・ + + − + ・ + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + + + + − + ・ + + − ・ + ・ + + ・ + ・ + + ・ + ・ + + ・ + ・ + + + + ・ + + + + ・ + + LAGS 13 THROUGH 18 ・ ・ + ・ − ・ − ・ ・ − ・ − ・ ・ − ・ − ・ ・ − ・ − ・ ・ − − − ・ ・ − + ・ + + − + ・ + ・ − ・ ・ + ・ − ・ ・ + ・ − ・ ・ + ・ − ・ ・ + ・ − ・ ・ + + − ・ ・ + + − ・ ・ + ・ − ・ − + ・ − ・ − + ・ − ・ − + ・ − + ・ + + − + ・ + + − ・ ・ + + − ・ ・ + + − ・ ・ + + − ・ ・ + + − + + ・ + + + ・ ・ + ・ + ・ ・ + ・ + ・ ・ + ・ + ・ ・ + ・ + ・ ・ + ・ LAGS 19 THROUGH 24 − − ・ ・ − − − ・ ・ ・ − − ・ − ・ − − ・ − ・ − ・ ・ − ・ − ・ ・ − ・ ・ − ・ ・ − ・ − ・ ・ − ・ − ・ ・ − ・ − ・ − − − − ・ − − − − ・ − − ・ − ・ ・ − − − ・ ・ − − − ・ ・ − − − ・ ・ ・ − − ・ ・ ・ − − ・ ・ ・ ・ ・ + + − ・ ・ + + ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ − + ・ ・ − + ・ ・ − + ・
目安になることにある。 次に,1変量の場合の偏自己相関関数を一般化した偏クロス相関行列,〔式 の定義については付録を参照〕,
P
(
l
)
を,多変量自己回帰モデルの次数を決 めるのに用いる。P
(
l
)
の推定値P
(
l
)
は,l
=
1
,
2
,
……と自己回帰モデルを 次々に当てはめることによって得られる。ベクトルAR
( p
)
モデルの場合は, (3.5)z
t=
φ
1z
t−1+
φ
2z
t−2+
……+
φ
pz
t−p+
a
t と表わすことができる。したがって,今T
個の観測値があるとき,端の方の 影響を無視すると(3.5)式は多変量回帰モデルの形で表わすことができる。 そして最小2乗法によって,φ
ˆ
1,
φ
ˆ
2,
……を求めることができる。p
を標本偏クロス相関行列での最大のラグとすると,P
(
l
)
の推定値は( )
l
AR
モデルをl
=
1
,
2
,
……,p
について当てはめたとき (3.6)P
ˆ
(
l
)
=
φ
ˆ
l である。定常のAR
(
l
)
モデルでは,漸近的に推定値φ
ˆ
1,
φ
ˆ
2,
……,φ
ˆ
lはz
t−1,
……,z
t−Pを先決変数とみなす通常の多変量回帰モデルにおける場合と同様 の分布特性をもつ。したがってP
ˆ l
(
)
の各要素の標準誤差を計算し,推定値を その対応する標準誤差で割ると,標準化された係数を得ることができる。標 本偏クロス相関のパターンも,前と同様に,標準化係数が2より大きいとき は+,−2より小さいときは−,そして−2と2の間にあるときは・として記 号で要約することができる。 自己回帰モデルの次数を決めるために,AR
(
l
)
を当てはめたとき,φ
l=
0
の帰無仮説をφ
l≠
0
の対立仮説に対して検定する尤度比検定を用いることに する。いま, (3.7)=
−
−−
+ =Σ
1 1 1ˆ
(
)
(
t t T tz
z
S
φ
ll
……−
φ
ˆ
lz
t−l)
(
z
t−
φ
ˆ
1z
t−1−
……−
φ
ˆ
l tz
−l)
′
をAR
(
l
)
モ デ ル を 当 て は め た と き の 残 差 の 共 分 散 行 列 と す る 。 す る と∑
′
=
z
tz
tS )
(
0
として,l
=
1
,
2
,
……,p
に対する尤度比検定統計量は,次の 行列式の比に等しい。第2表 モデルAの偏クロス相関表と検定 ラグ 標準化偏自己回帰係数 有 意 度 残差 分散 χ2−検定 1 22.62 5.46 −0.69 −0.78 0.32 ++・・・ 113.00 2436.14 −6.12 45.56 −5.08 2.81 −0.21 −+−+・ 1.31 −5.04 7.88 26.78 4.23 −1.25 −+++・ 0.79 1.91 −2.33 4.20 13.97 4.09 ・−+++ 8.22 −1.95 0.55 −1.48 0.70 40.19 ・・・・+ 3.52 2 −2.62 −6.34 0.88 2.69 0.90 −−・+・ 68.90 213.49 −0.87 −9.71 2.20 0.84 −0.13 ・−+・・ 0.68 0.94 −3.69 1.28 1.62 −0.02 ・−・・・ 0.72 −0.44 0.54 1.34 3.49 0.56 ・・・+・ 7.64 1.90 −3.77 0.49 0.49 2.39 ・−・・+ 3.21 3 0.14 −2.39 −1.17 −2.76 3.35 ・−・−+ 60.70 60.90 −2.68 −0.03 2.90 −1.19 −1.91 −・+・・ 0.61 −1.88 −1.01 1.00 −0.38 0.20 ・・・・・ 0.69 0.05 −0.26 2.19 0.36 −0.40 ・・+・・ 7.44 1.25 −1.07 0.87 0.96 −0.95 ・・・・・ 3.14 4 −5.76 4.50 1.85 −0.65 1.20 −+・・・ 48.50 109.29 −1.65 −0.50 0.04 0.97 −0.13 ・・・・・ 0.60 −0.54 2.73 0.12 0.45 −0.12 ・+・・・ 0.66 −3.85 −0.24 −0.42 2.17 −0.40 −・・+・ 6.65 −1.40 0.24 1.59 0.71 −5.60 ・・・・− 2.69 5 −0.39 −0.44 2.84 −0.51 0.99 ・・+・・ 46.30 49.06 −0.83 −2.10 1.75 1.24 0.22 ・−・・・ 0.57 −0.07 −0.44 2.74 0.45 −0.90 ・・+・・ 0.64 −0.77 −2.23 −0.33 4.16 −0.56 ・−・+・ 5.87 0.40 1.44 0.41 0.80 0.41 ・・・・・ 2.61 6 −1.27 1.61 −0.72 0.09 −0.46 ・・・・・ 45.60 58.91 −0.47 −0.88 1.51 −0.60 −0.01 ・・・・・ 0.56 −2.67 0.74 1.50 1.45 0.20 −・・・・ 0.61 −5.41 1.46 −0.13 1.88 0.05 −・・・・ 5.09 1.66 −2.88 −0.35 0.90 −1.74 ・−・・・ 2.44 (注)自由度25の
x
2値は5%:37.7,1%:44.3である。 (3.8)U
=
|
S
(
l
)
|
/
|
S
(
l
−
1
)
|
Bartlettの近似を用いることによって,次の統計量 (3.9)M
l
N
l
n
)
l
nU
2
1
(
)
(
=
−
−
−
・
は帰無仮説に対して,定数項がモデルに含まれていると仮定すると,N=T −p−1を実際の観測値の数として,漸近的に自由度n
2のx
2分布をする。 ここでn
は系列の数を表わす。このM
(
l
)
統計量と一緒に,次々と計算さ れるAR
モデルの残差共分散行列Σ
の対角要素は,次数が増えるにしたがって,どれ程当てはまりがよくなったかを調べるのに役立つ。 以上の標本偏クロス相関行列と
M
(
l
)
統計量,残差共分散行列Σ
の対角要 素をモデルAについて計算したものが第2表である。この情報を使ってどのよ うなモデルビルディングをするか,そして次数をいくつにするかを決める。 第2表を見た結果では,4次又は6次のAR
モデルを当てはめるのが適当と思わ れる。 3.3 多変量自己回帰モデルのデータ分析 以下で述べる分析手法はSimsをはじめLitterman,Fischer,Gordon等の 経済学者によって多く使用されている分析道具である。これらは,多変量自 己回帰モデルが推定された後,それから得られる情報を使って行うものであ り,その分析から有益な情報を与えてくれる。 (A) インパルス応答関数 多変量自己回帰モデルを推定した後,その1つの要素のイノベーションに 対するシステムの応答を導くことができる。このインパルス応答関数は (3.1)式のAR
モデルを(3.3)のMA
モデルになおしたものである。すなわち, パラメータ行列をϕ
0,
ϕ
1,
ϕ
2,
……とすると,ϕ
0=
I
として (3.10)z
t=
ϕ
0ε
t+
ϕ
1ε
t−1+
ϕ
2ε
t−2+
……=
ϕ
(
B
)
ε
t と表わされ,この時ε
tをz
の系列のイノベーションという。ϕ
lの第i,
j
要素 は,第j
番目の変数のl
期先の単位イノベーションに対する第i
番目の変数の 応答を表わす。p
次のAR
モデルで,z
1,
……z
Pがゼロであるとしたとき,,
0
,
0
)
0
(
=
〔
′
ε
……,1,0,……,0〕という形でイノベーションを与える。こ こで1は第j
列であり,その他はゼロである。この時 (3.11)z
t+l=
φ
(
B
)
z
P+l−1+
ε
l,
l
=
0
,
1
,
2
,
…… で計算されるのがl
次の第j
列のインパルス応答行列である。1というイノベ ーションは,たとえばε
iの標準偏差σ
iが非常に小さい場合には解釈が難かし い。そこで,モデルが線型であることから,通常はその大きさが標準偏差の イノベーションに対するインパルス応答関数を計算する。この場合は係数行 列はϕ
~
0,
ϕ
~
1,
ϕ
~
2,
……で, 0=
~
ϕ
diag(σ
i),そして,ϕ
~
i=
ϕ
~
iϕ
~
0である。(B) 分散の直交分解 分散分解(Variance Decomposition)も同じ(3.3)の
MA
型から導びか れる。予測誤差の分散を分解して,モデルの各要素のイノベーションに対し て,比例配分することを考える。もし,各変数の同時点イノベーションが直 交していれば(無相関ならば),この分散の分解は以下のように簡単に行え る。前と同様にi
番目の要素を1とするL
i=
(0,0,……,1,0,……,0)と いうn
×
1のベクトルを考えたとき,i
番目の変数のl
期先の予測は (3.12)E
tz
i(t+l)=
z
i(t+l)−
L
iε
(t+l)−
L
iϕ
1ε
(t+l−1) −……−
L
iϕ
l−1ε
(t+1) で求められる。したがって,第i
番目の変数のl
期先の予測の分散は (3.13){
2}
) ( ) (〕
〔
z
it+l−
E
tz
it+lE
であるから (3.14)〔
1 2 2〕
1 2 j k j kσ
ϕ
σ
Σ
−∑
=+
l となる。仮定よりすべての交叉積はゼロである。したがって,第i
変数のイ ノベーションによる第i
変数のl
期先の予測における分散の割合をパーセン トで表わせば,次のようになる。 (3.15)100
2 2 1 0 2 2 1 0×
∑
Σ
Σ
− = − = j k j k j k kσ
ϕ
σ
ϕ
l l 一般にはイノベーション間の共分散行列Σ
=
E
ε
tε
'
tは通常は相関があるので, 予測の分散を分解する前に何らかの正規化をする必要がある。そこで,Σ
を 対角化しながら,ε
tの同時点相関を経済学的に解釈するような方法をSimsが 提唱した。Σ
=
S ′
S
と分解する方法のうち,Choleski分解を利用することに よって,対角要素に1をもつ下三角行列S
を求める。ただし,このとき直交 化する変数の順序によって,異なる分解が得られるのでその吟味が必要にな る。次に, (3.16)U
t=
S
ε
t と変換することによって,変換されたU
tが相関のないようにすることができる。 (3.17)
EU
tU
t′
=
E
〔
S
ε
tε
t′
S
′
〕
=
S
Σ
S
′
=
Ω
ここでΩ
は,その対角要素が残差の直交要素(U
t)の分散になるような対 角行列である。(3.12)を整理して,ε
tに代入すると (3.18) +−
+=
− ++
−1 + −1+
1 1 l l l l t t t t tE
z
IS
U
S
U
z
ϕ
…… 1 1 1 − − −+
ϕ
lS
U
t となる。したがってl
期先の予測の分散行列は (3.19)E
〔
(
z
t+l−
E
tz
t+l)(
z
t+l−
E
tz
t+l)
′
〕
=
−Ω
−′+
−1′Ω
−1′ 1′
+
1 1 1S
ϕ
S
S
ϕ
S
…… 1 1 1 1 − − − −Ω
′
+
ϕ
lS
S
ϕ
l=
Σ
+
ϕ
1Σ
ϕ
1′
+
……+
ϕ
l−1Σ
ϕ
′
l−1 となる。これは直交化する順序には依存しない。 ここで=
−1S
H
kϕ
k とすると,第i
変数のl
期先の予測の分散を,各々直交 している第j
変数のイノベーションの要素によって説明される割合をパーセ ントで表わすと次のようになる。 (3.20)100
2 1 0 2 1 0×
Ω
Ω
∑
Σ
Σ
− = − = j k jj k jj k kH
H
l l これを分散分解といい,表にはパーセントで表示してある。 4. 日本経済のモデル分析 4.1 5変数モデル 第2節で述べた5変数モデル(モデルA):エネルギー輸入物価(PEN
),卸売 物 価 (WPI
), 消 費 者 物 価 (CPI
), 名 目 賃 金 (WAGE
), 鉱 工 業 生 産 (IIP
)を昭和40年∼57年の月次データで,ラグを4期とって推定を行った。 よく知られているように,多変量自己回帰モデル(VAR
)は構造方程式では なく,一種の射影方程式ともいうべきものであるので,個々のパラメータの 推定値についての経済学的解釈は明確ではない。そこで,個々の変数につい て,各ラグをまとめたときの有意性を表わすF
検定の結果と適合度を表わす 決定係数(R
2 )について表にまとめておくことにする。実績値と1期前まで第3表 各方程式の有意性検定と適合度 従 属 変 数 変 数 F 値 有 意 水 準 PEN 257.46 0 WPI 21.35 0 CPI 1.78 0.135 WAGE 2.05 0.090 389 . 7 97996 . 2 = = S R PEN IIP 3.08 0.005 PEN 5.46 0.001 WPI 696.43 0 CPI 6.17 0.000 WAGE 3.57 0.008 8273 . 99141 . 2 = = S R WPI IIP 1.56 0.187 PEN 3.67 0.007 WPI 14.11 0 CPI 110.12 0 WAGE 2.78 0.028 8654 . 97259 . 2 = = S R CPI IIP 0.09 0.987 PEN 3.57 0.008 WPI 0.51 0.732 CPI 0.81 0.522 WAGE 34.22 0 701 . 2 82060 . 2 = = S R WAGE IIP 0.48 0.753 PEN 1.36 0.248 WPI 2.34 0.057 CPI 0.80 0.525 WAGE 0.72 0.579 653 . 1 96060 . 2 = = S R IIP IIP 179.33 0 (注)表中・有意水準の欄で0とあるのは数値が10−8以下のものである。 の情報に基づく1期先の予測値をプロットしたものが第4図の図4.1から図4.5 までで,それぞれ,
PEN
,
WPI
,
CPI
,
WAGE
,
IIP
の順で描かれている。予測のパフォーマンスを表わす統計量を用いてモデルを評価してみよう。 一般によく使われる統計量の定義は次の通りである。統計量は,
t
期におけ るl
期先の予測P
t(
t
+
l
)
と,t
期における実際の値A
(t
)
から作られる。T
lは第4図:モデルAの各変数の実績値と1期先予測値のプロット ──実績値 ……1期先予測値 図4.1 輸入エネルギー価格指数
図4.3 総合消費者物価指数
図4.5 鉱工業生産指数
k
期先の予測誤差が既知の時の予測期間の全体を表わす。L
lはT
l内の要素の 数である。l
期先予測の平均誤差l
l
l lL
t
A
t
P
t T t/
)
(
)
(
〕
〔
+
−
+
=
Σ
εl
期先予測の平均絶対誤差l
l
l lL
t
A
t
P
t T t/
|
)
(
)
(
|
〕
〔
+
−
+
=
Σ
εl
期先予測の平均2乗誤差の平方根{
(
)
(
)
2/
}
12 ll
l
lL
t
A
t
P
t T t〕
〔
+
−
+
=
Σ
εl
期先予測のTheilのU
統計量 2 1 2 2)
(
)
(
)
(
)
(
⎪
⎭
⎪
⎬
⎫
⎪
⎩
⎪
⎨
⎧
+
−
+
−
+
=
Σ
Σ
〕
〔
〕
〔
l
l
l
l lt
A
t
A
t
A
t
P
T t t T t ε ε これらの統計量は,他のモデルと予測のパフォーマンスを比較するときに 用いられる。もし,平均誤差が平均絶対誤差とその大きさが大体同じ位なら, モデルの予測が,平均誤差が正なら過少予測,負なら過大予測であることを 示している。RMS
誤差は少なくとも平均絶対誤差よりは大きい。それが等 しいのは,すべての誤差が全く等しい大きさの場合だけである。もしRMS
(Mean Error)(Mean Absolute Error)
誤差が平均絶対誤差の数倍も大きいときは注意すべきであろう。モデルを比 較するにはTheilの
U
統計量がRMS
誤差よりも優れている.TheilのU
統計 量は測定単位に依存しないので,その点においてはRMS
誤差より比較する 場合に便利である。第4表 モデルAの予測パフォーマンス統計量
統計量 予測期間
L
l PEN WPI CPI WAGE IIP1 204 0.0000 0.0000 0.0000 −0.0000 −0.0000 2 203 0.0717 0.0113 0.0090 0.0096 0.0080 3 202 0.2334 0.0166 0.0136 0.0215 0.0164 4 201 0.3718 0.2257 0.0158 0.0433 0.0334 5 200 0.4519 0.2543 0.0215 0.0718 0.0440 平均誤差 M E 6 199 0.5667 0.3073 0.0212 0.0927 0.0566 1 204 4.7799 0.5409 0.6302 1.8840 1.1905 2 203 7.8474 1.0491 0.8800 2.1404 1.4496 3 202 10.6103 1.5232 1.0433 2.2383 1.7087 4 201 13.5396 1.9162 1.1166 2.2506 2.0994 5 200 15.8927 2.2907 1.1793 2.1965 2.2255 平均絶対誤差 M A E 6 199 17.6670 2.6875 1.2549 2.2241 2.4074 1 204 6.9795 0.7815 0.8174 2.5510 1.5609 2 203 10.8369 1.4696 1.1183 2.7941 1.9132 3 202 15.6020 2.1378 1.3695 2.9329 2.2392 4 201 19.6721 2.6797 1.4930 2.9545 2.6901 5 200 22.9094 3.1678 1.5973 2.9004 2.8805 平 均2 乗 誤 差 の平方根 R M S E 6 199 24.8491 3.6541 1.6565 3.0034 3.0879 1 204 0.5722 0.5414 0.7582 0.8157 0.7729 2 203 0.5120 0.5395 0.6645 0.7643 0.6828 3 202 0.5347 0.5472 0.6185 0.7080 0.6184 4 201 0.5334 0.5350 0.5619 0.6785 0.5102 5 200 0.5220 0.5230 0.5243 0.7000 0.5336 TheilのU 6 199 0.4941 0.5177 0.4824 0.6901 0.4985 第5表 モデルA−1の予測パフォーマンス統計量
PEN WPI CPI WAGE IIP RMS 誤差 3.369 1.471 1.233 1.909 1.885
6表 モデルA−2の予測パフォーマンス統計量
PEN WPI CPI WAGE IIP RMS 誤差 27.236 3.799 1.472 3.177 2.490 TheilのU 0.471 0.474 0.423 0.617 0.443 我々のモデルは,すべての変数はパーセント単位で表示されている。した がって,いくつかの統計量を使って他のモデルとの比較が可能である(第4 表参照)。結果を見ると
PEN
とWAGE
があまりパフォーマンスがよくない が,図4.1と図4.4を見るかぎり,それほどよくないとは言えない。 次に,この5変数モデルで石油ショックの影響をみるために,サンプルを2 つに分けてそれぞれモデルの推定を行った。昭和40年1月から昭和48年9月ま でを前半とし,昭和48年1月より昭和57年12月までを後半として,データか らみた石油ショックの影響を見ることにする。このモデルをそれぞれモデル A−1とA−2と呼ぶことにしよう。モデルA−1とA−2についての予測統計量は,RMS
誤差とTheilのU統計量について,1期先から10期先までの予測の平均の 数字として第5表と第6表にある。 4.2 インパルス応答関数 3.3節で述べた方法に従って,エネルギー輸入価格(PEN
)の予期せざる 変動が,その他の変数の変動にどんな動学的影響を与えたかを表わすインパ ルス応答関数をプロットしたものが図5.1.1である。これらの数値は分析し たデータが変化率で表わされているので,その変化率にどのような影響を与 えたかを表わしている。そこで,それらの数値を解釈しやすいように,レベ ルに対する変化率の形に直した数値をプロットしたものが図5.1.2である。 又第5図において,他の変数の動きに比べてPEN
の変動がかなり大きく,PEN
の他の変数に与える影響を中心に見るために,PEN
を除いた4変数の 動きだけをプロットした。以下の図で上段の図はモデルから直接計算された インパルス応答関数であり,下段の図はそれをレベルに対する変化率の形に 変換したものである。順に見ていこう。第5図 モデルAのインパルス応答関数 図5.1.1 輸入エネルギー価格が変化した場合
図5.2.1
WPI
が変化した場合図5.3.1
CPI
が変化した場合図5.4.1 名目賃金が変化した場合
図5.5.1
IIP
が変化した場合PEN
のイノベーションに1標準偏差のショックを与えたとき,WPI
には 0.3%,CPI
にはその約半分の0.15%の影響を与えている。これは過去のデー タを基にして予測した値よりも,それぞれ0.3%と0.15%高くなるということ である。WAGE
とIIP
への1期先への影響はほとんどない。WPI
とCPI
へ の影響がピークになるのは,WPI
が6ヵ月目で2.0%,CPI
が5ケ月目で0.6% とほぼ半年であり,その後減少し,WPI
では12ケ月目,CPI
では10ケ月目 よりマイナスの影響が出る,名目賃金への影響は少しおくれて約8ケ月目に 0.9%とピークになりその後減少する。IIP
への影響は直接にではなく,WPI
や賃金の上昇といったものを通して生産減少へと表われ,16∼17ケ月で− 4.8%と谷になり,その後ゆっくりと回復し,27ケ月後からはプラスの影響に なる。そしていずれの変数への影響も約4年で消えるが,それぞれ最後には,IIP
にはプラスの5%の影響を及ぼし,WPI
,CPI
,WAGE
にはマイナスの 8∼9%の影響を与える。 次に同じように1標準偏差のショックをWPI
に与えたときの反応をプロッ トしたものが図5.2である。卸売物価への影響がピークになるのは,約2年後 と長くその後ゆっくりと減少する。CPI
やWAGE
の影響もほぼ同じような パターンである。生産への影響は,当初プラスで約8ケ月でピーク(1.5%) となり,その後各物価の上昇のため1年後からマイナスの影響になる。そし て,いずれの変数も4年後にはその影響はなくなるが最終的に物価にはプラ ス,そして生産にはマイナスの影響を与える。 次にCPI
に対するショックを同様にプロットした図5.3の場合を見てみる。 1期目では,CPI
に0.7%のショックを与える他は他の変数にはほとんど影響 を与えない。WPI
は,その後ゆっくりと減少し約2年半でそのマイナスの影 響がピークになる。一方,CPI
は,当初はプラスの影響を与え6ケ月目に2% とピークになり,その後減少する。CPI
も名目賃金も最終的にはマイナスの 5∼6%の影響を与えるが,一方生産は,最初の2年近く減少し(ピークは13ケ 月目の−4%)その後は物価と逆に上昇し,最終的には,6%近くのプラスの影 響になる。 名目賃金へのショック(図5.4)は最初WAGE
には2.5%になる。その後,ゆっくりと上昇するが,物価関係への影響は4∼5ケ月遅れて現われる。生産 への影響も5ケ月近くして現われ,その後,ゆっくりと減少を続け最終的に は−14%近くの影響を与えている。
IIP
へのショックの影響(図5.5)は最初1.5%近くあり,その後上昇し,15 ケ月日でピーク(12%)となり,最終的には5.5%近くの影響が残る。物価関 係には最初はほとんど影響を与えないが,9∼10ケ月目頃から徐々に増え, 最終的には4%から7%位のプラスの影響を与える。いずれの変数も約4年でそ の影響は消えるがその効果は総合的にプラスである。 次に石油ショックがあった昭和48年を境いに,経済構造が大巾に変化した といわれている。したがって,上記のデータ分析の結果もこの時期にそのパ ターンが大きく変わったのではないかという疑問が生ずる。すなわち,エネ ルギー価格の重要性が以前よりも大きくなったことや,原油価格の高騰によ るインフレが国内物価に反映し,物価の変動が以前より大きくなったことも その原因の1つである。そこで石油ショック以前(モデルA−1)と以後(モ デルA−2)によるインパルス応答関数を比べてみよう。結果は石油ショック 以前(モデルA−1)が第6図,以後(モデルA−2)が第7図であり,それぞれ, 前と同様にモデルから直接計算されたインパルス応答関数と,それをレベル に対する変化率の形に変換したものをグラフに表わしている。各プロット (P
,
C
,
W
,
Y
)は次のように区別されている。 P ……総合卸売物価指数 C ……総合消費者物価指数 W ……名目賃金指数 Y ……鉱工業生産指数 最初にエネルギー輸入価格(PEN
)のショックに対する影響を見てみよ う。モデルA−1とA−2とではその反応は大きく異なる。図6.1と図7.1を比べ てみると,A−1ではWPI
やCPI
には当初はほとんど影響を与えない。これ はエネルギー輸入価格が安価で,しかも安定した動きをしているため多少の 変動にも全く反応しない結果となっている。WAGE
は4ケ月目で0.7%,CPI第6図 モデルA−1のインパルス応答関数
図6.1.1 輸入エネルギー価格が変化した場合(石油ショック前)
第7図 モデルA−2のインパルス応答関数
図7.1.1 輸入エネルギー価格が変化した場合(石油ショック後)
図7.1.2 同上・変換後
図6.2.1
WPI
が変化した場合(石油ショック前)図7.2.1
WPI
が変化した場合(石油ショック後)図6.3.1
CPI
が変化した場合(石油ショック前)図7.3.1
CPI
が変化した場合(石油ショック後)図6.4.1 名目賃金が変化した場合(石油ショック前)
図7.4.1 名目賃金が変化した場合(石油ショック後)
図6.5.1
IIP
が変化した場合(石油ショック前)図7.5.1
IIP
が変化した場合(石油ショック後)は9ケ月目で1.4%とピークになり,その後減少する。生産は当初−0.1%下落 し,その後約2年近く下落を続け,22ケ月目は−11.3%と谷になりその後は物 価の下落とは逆に上昇する。4年後の総合的な効果は,生産はプラスになり, 物価関係はいずれもマイナスになった。これと対照的にモデルA−2では
WPI
に 強 い 影 響 を 与 え て い る 。 第 1 期 目 は ,WPI
が 0.45% ,CPI
が 0.24% ,WAGE
が0.19%,IIP
が0.1%といずれもプラスである。その後,WPI
はすぐ に反応し,9ケ月後に5.4%のピークとなり,20ケ月後にその影響は消える。WPI
に続いてCPI
は8ケ月後に1.7%でピークになり,WAGE
が10ケ月後に 2.6%でピークに達する。生産は最初の8ケ月位プラスとなり,その後16∼17 ケ月はマイナス,又,その後はプラスと振動している。これらは,エネルギ ー輸入価格の直接の影響ではなく,WPI
やCPI
,WAGE
といった物価の動 きに対する影響と考えられる。石油ショック以前では価格はほとんど反応せ ず,又生産もマイナスの動きをしているのは,PEN
のショックの影響とい うよりも,むしろAutonomousな景気循環を表わしていると考えられ,それ が石油ショック以後,価格の動きをみると,ショックに対する反応が早く, 又,鋭くなっており,そのために価格調整機構が機能することで生産の循環 が小さくなり,より安定的になっていることがうかがえる。これは次の図 6.2と図7.2のWPI
のショックに対する反応を比べてもよくわかる。ショック を与えてからピークに達するまでの期間はA−1では30ケ月であったのが,A −2では17ケ月と約半分位に短くなっている。そして生産の反応も大きく異 なっている。名目賃金のショックに対する反応(図6.4と図7.4)は印象的で ある。石油ショック以前ではほとんど反応がなく,WPI
やCPI
は下落しは じめるのに対し,ショック後はWAGE
は1期目で2.4%,2期目で3.7%,3期目 で4.5%と急上昇し,その後6∼7%で安定する。WPI
やCPI
も反応を示しWPI
は17ケ月後に7%でピークになる。そのために生産は大きく落ちこんでし まっている。このケースでの総効果は物価関係はプラス,生産はマイナスで あった。最後に生産に対するショック(図6.5と図7.5)も大きく異なってい る。第1期のショックの大きさは,両ケースともほぼ同じだが,その後のパ ターンを見ると,A−1に比べてA−2ではその反応が大きく,又,鋭くなっている。A−1ではピークは約24ケ月にあり,その後はほとんど同じレベルであ るが,A−2ではピーク9ケ月目にあり,その後は大きく振動する。そして価 格の動きは前者ではほとんはないが,後者では大きく動いている。 各変数のショックに対する反応のパターンをまとめてみると,石油ショッ ク以前はゆっくりとした動きで,特に価格に対する応答はにぶいものである。 一方,石油ショック後は反応が早く(調整速度が早く)なり,又反応自体も 敏感になっている。そして,これらは特に価格関係の変数の応答に顕著に見 られるのが特徴といえよう。したがって,石油ショック後は価格メカニズム が本来の機能をとりもどし,景気循環の調整機能をうまくはたしているとい うこともできよう。 4.3 分散分解
3.3で述べた分散の直交分解(Orthogonal Decomposition of Variance)と いうのは,
z
tの変動が主として,どの変数に起きたショックによって引起さ れたものであるかを論ずるのに適している。2変数間の関係だけでは明らか でない場合に,3変数以上に拡大してそれらの因果関係を探ることができる。 第7表には5変数モデル(A)による48ヵ月先の予測誤差の分散に対する5変数 それぞれの分散の寄与率をパーセントの数字で示したものである。たとえば, 第7表の第2行を左から読んでいくことによりWPI
の予測誤差の分散が各変数 に生ずるショックの分散によって,どの程度影響されるかを100分比の形で 理解することができる。これによって,WPI
の変動の43%をWPI
自身が引き 起し,更に26%をCPI
が引き起しているのに対しCPI
の変動は,自身では 14%なのに対し,WPI
が38%を占めている。逆にCPI
については,その変動 の多くがWPI
であり,次はWAGE
である。このことからもCPI
はWPI
か ら影響を受けるが,その逆は小さいことがわかる。WAGE
はその半分近く が自分自身の変動で説明されるが,IIP
はすべての変数の影響を受けやすい。第7表 予測誤差の分散分解(48ケ月後) 表7.1 モデルA(40年1月∼57年12月)
PEN WPI CPI WAGE IIP PEN 33 33 17 10 7 WPI 16 43 26 11 4 CPI 17 38 14 23 7 WAGE 13 21 5 53 7 IIP 16 25 13 15 31 表7.2 モデルA−1(40年1月∼48年9月)
PEN WPI CPI WAGE IIP PEN 34 51 6 6 2 WPI 28 56 8 7 1 CPI 26 54 12 6 1 WAGE 21 29 9 38 3 IIP 32 48 8 5 6 表7.3 モデルA−2(48年1月∼57年12月)
PEN WPI CPI WAGE IIP PEN 30 27 31 7 4 WPI 10 28 52 6 3 CPI 8 27 47 9 10 WAGE 9 16 23 47 4 IIP 5 21 39 9 25 各数字はパーセントを表わす。 3.3でも述べたように,予測誤差の分解は直交化するときの変数の順序に 依存する。ここで計算したのは
PEN
−
WPI
−
CPI
−
WAGE
−
IIP
の順であ る。しかし,これらの変数の予測誤差の間の相関がない場合には,もちろん 変数の順序は関係ない。この場合については,PEN
とWPI
の間の相関が 0.36であった他はかなり低いので,この順序はあまり問題とならないであろ う。更に,この数字は何期先の予測かによって変化する。表に載せた48カ月 先にはほとんど変動はなく安定になる。いくつかの期を選んでそれらの動き第8表 分散分解の予測期間による変化(モデルA)
変 数 予測期間 PEN WPI CPI WAGE IIP
1 100 0 0 0 0 2 95 3 0 0 1 3 76 21 0 0 2 4 70 25 1 0 3 8 47 37 7 3 5 12 33 42 12 7 4 24 33 34 16 10 6 PEN 48 33 33 17 10 7 1 13 86 0 0 0 2 11 87 1 0 0 3 9 82 6 2 0 4 7 78 10 3 0 8 3 69 20 7 0 12 6 58 24 9 1 24 16 44 26 11 3 WPI 48 16 43 26 11 4 1 3 10 86 0 0 2 2 20 76 0 0 3 4 36 56 3 0 4 4 43 45 6 0 8 2 55 21 19 2 12 6 53 14 23 4 24 16 40 14 22 7 CPI 48 17 38 14 23 7 1 0 7 0 93 0 2 0 5 0 94 0 3 1 5 0 93 0 4 2 4 1 91 1 8 3 12 1 82 1 12 3 18 1 74 2 24 13 21 4 54 7 WAGE 48 13 21 5 53 7 1 0 0 0 0 99 2 0 1 0 0 98 3 1 3 0 0 94 4 1 3 3 0 92 8 4 2 9 2 82 12 9 4 9 5 71 24 11 26 10 14 37 IIP 48 16 25 13 15 31 各数字はパーセントを表わす。 を見てみよう。第8表にモデルAの場合についての数値がある。エネルギー輸 入価格において,最初の予測期間では,その変動の大部分が自分自身で説明 されているが,48ヵ月先での予測では
PEN
とWPI
の変動による割合は,同じ位になっている。このように1期先,2期先の予測誤差の分散は大きく変動 するけれども24ヵ月∼48ヵ月位ではその大きさはほぼ安定的である。いくつ かの変数については予測期間が長くなると,影響が急速になくなるものがあ る。前と同様石油ショックの前後での比較のためにモデルA−1とA−2につい ての分散分解の結果が,それぞれ表7.2と表7.3にある。気がつくのは各変数 の変動の要因がA−1では
WPI
であったものが,A−2ではCPI
に変っている ことである。WPI
,CPI
そしてIIP
の変動の大きな部分がWPI
からCPI
に なった点に注目すべきであろう。又,モデルAでのWPI
の変動がCPI
の変動 の主な要因であるという関係も石油ショック以後だけを見れば,むしろ逆の 関係が見うけられる。 この結果から言えるのは,石油ショック前までは,すべての変数はWPI
を 一種のコスト要因と見なすとそれが主になって説明されていたのが,石油シ ョックによる大巾な物価の変動によって,今度は,その主な説明要因がCPI
に変化したと考えることもできる。そして,このCPI
は,一種の期待を表わ す変数とも解釈できるかもしれない。 4.4 サンプル内での予測誤差の分解 次に,時系列データを趨勢的なベースとなる予測の部分と予測誤差の今期 と過去の値の累積効果の部分へと分解することを考える。この分解は(3.3) の移動平均モデルを次のように分解したものを用いる。 l l l l l l − + ∞ = − + − = +=
Σ
+
Σ
t j j j t j j tz
1ϕ
ε
ϕ
ε
0 ここで,最初の合計はt
+
1
からt
+
j
期の予測誤差によるz
t+jの部分,次の 合計はt
期に得られる情報に基づいて行われるz
t+jの予測である。今,ε
がn
変数からなるベクトルとすると,この分解はn
+
1
の部分に分かれる。 それはt
期での情報に基づいて行うz
t+jの予測の部分とε
のn
個の要素の 各々に対して,その要素の過去の時間経路にもとずく予測を表わす第一項の 部分である。図8.1はPEN
の実績値(直線)と上記のベースの予測の部分(点 線)のプロット及びPEN
の予測誤差を5つの要素に分解して,前式の第一項 を計算したものである。なお,起点は昭和48年の1月からとした。たとえば第8図 モデルAの各変数の予測誤差の要因別分解 図8.1.1 輸入エネルギー価格指数
図8.2.1 総合卸売物価指数
図8.3.1 総合消費者物価指数
図8.4.1 名目賃金指数
図8.5.1 鉱工業生産指数
図8.5.2 (要因別分解)
実績値 ……予測値