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橡インターネット・オークション・WP草稿2.PDF

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インターネット・オークション・サイトの戦略に関する研究

野島美保(東京大学大学院経済学研究科)

國領二郎(慶應義塾大学経営管理研究科)

新宅純二郎(東京大学大学院経済学研究科)

竹田陽子(国際大学)

2000 年 3 月

要約 近年、一般消費者を巻き込んだ電子商取引の一つである、インターネット・オークション が多数設立されている。本稿の目的は、インターネット・オークション・サイトを戦略的 な視点から分類し、その成功要因を探ることである。米国 Yahoo!に登録されているサイト は 250 件以上にのぼるが、これを本稿の分析対象とし、統計的手法によって実証分析を試 みた。その結果、サイトは大きく2 分類され(コマース型とコミュニケーション型)、それ ぞれに適合する商品属性、取引当事者の属性やリスク削減制度が異なることがわかった。 さらに、コマース型とコミュニケーション型では成功要因が異なることが示唆された。

Two Strategies in Internet Auction Miho Nojima Jiro Kokuryo Junjiro Shintaku Yoko Takeda March 2000 Summary

Internet auctions are prevailing nowadays, but the strategy of internet auction has not been discussed sufficiently. According to the list of Yahoo! USA, there are over 250 auctions as of February 2000. We reviewed these internet auctions and attempted statistical analysis to investigate hypotheses about the strategy of internet auction. We found 2 types of internet auction; Commerce-type & Communication-type. Each type has different mechanisms for risk reduction concerning product quality and transaction execution, which depend on characteristics of product, sellers and buyers. We also found each type has own factors for success.

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1 はじめに 近年のインターネットの爆発的な拡大により、電子ネットワーク上において、一般消費者 を巻き込んだ商取引が発展をみせている。電子ネットワークの利用は、取引に伴う時間と 空間の制約とコストを削減する一方で、より広い取引空間を提供するために新たなリスク を生じさせている。では、増大するリスクを削減しつつ、情報技術の恩恵を享受できるよ うなインターネット・ビジネスのモデルにはいかなるものがあるのだろうか。なかでも、 インターネット・オークションは法人だけでなく一般消費者も売手・買手となることがで き、今までにない市場を作り出しており、インターネット・ビジネスの特徴がよくうつし だされていると考えられる。本研究では、米国インターネット・オークションの事例をと りあげ、統計的手法によってそれらの戦略を分類しその成功要因を探り、インターネット・ オークションの戦略に関する概念枠組みを構築することを目的とする。分析の結果、現在 のインターネット・オークションはコマース型とコミュニケーション型の2つに分類する ことができ、それぞれに適合する商品群や売手・買手の属性、制度が異なることがわかっ た。そして、この2 つの戦略によって成功要因が異なることが示唆された。 インターネット・オークションは、1995 年に米国 Onsale 社が開始したのを皮切りに多く の企業が参入し、米国では 250 件以上のサイトが存在していると言われる。その波は日本 にも押し寄せており、電子商取引の一つのカテゴリーをなすまでに成長している。インタ ーネット・オークションの戦略について分析することで、電子市場における取引構造に関 する議論を補完・発展させることができると思われる。 インターネット・オークションの分類に関する先行研究では、取引当事者の動機や価格 決定方法、取引ルールによって分類したものがあるが(Klein 1997,Reck1997,Heck1997 等)、成功要因や戦略といった視点による研究は少なく、この分野の実証的研究もまだ十分 ではない。そこで、本研究では、どのような制度や戦略がインターネット・オークション の性質と成果に影響を与えるのかを分析する。 2 概念的枠組みと仮説 ここでは、情報技術の特性、オークションへの消費者の参加動機、購買意思決定情報源と 商品記述可能性に関する先行研究を発展させ、戦略的な視点に立ったインターネット・オ ークションに関する概念枠組みを構築し、仮説を明示する。 2.1 情報技術の特性 情報技術は、情報伝達の時間とコストを大幅に引き下げ、情報処理や情報交換に関わるコ ストを削減する効果がある。電子市場の出現と発展は、情報技術のもつ取引コスト削減効 果によって説明されることが多い。(Malone,et al 1987、Clemons,et al 1993、竹田・國 領 1996)インターネット・ビジネスでは、受発注をインターネット上で行うため、取引コ ストを大幅に削減することができ、割安で商品を提供することが強みとなっている。

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また、データベースの情報の蓄積・探索機能を発展させて、情報技術(インターネット) が参加者間での情報交換や対話の場を提供する機能を提供し、それが電子市場の発展に貢 献している場合もある。(國領 1996・1999、根来・木村 1999)國領は、「コンピュータ・ ネットワーク上のコミュニティの上で、消費者たちが商品やサービスの情報を交換・共有 し合い、コミュニケーションをする」現象を、「顧客間インタラクション」とよび、これを 内部化して利益とするビジネス・モデルの必要性を主張している。インターネット上では、 BBS(電子掲示板)やチャットなどの「場」で顧客間インタラクションが発生し、顧客間で情 報の交換と共有がなされる。このような場をつくることによって、そのサイトが活性化さ れるのである。 このように、インターネット・ビジネス(電子市場)を説明する際には、取引コストの削 減と場の提供という2 つの概念が鍵となる。 2.2 消費者の参加動機 消費者のインターネット・オークションへの参加動機の一つは、迅速・低コストで商品 を購入することである。(Co-ordination Mechanism:Klein 1997)(Serious Shoppers: Gomez 1999)このタイプの消費者は、効率的な価格調整メカニズムの機能によって短期間 で商品を売買することを目的とする。そのため、効率的な取引を求めて、売手が法人であ ることを求める傾向がある。もう一つは、インターネットという広大な取引空間の中で、 収集品等の希少財を求める動機である。(Price Discovery Mechanism:Klein 1997) (Hobbyists ・Collectors:Gomez 1999)。希少財に関する情報交換(品質情報や価格情報 等)を行い、希少財の価格を決定するには、インターネット・オークションが適するからで ある。この場合、参加者とコミュニケーションが取れることが重視される。このように、 消費者の参加動機は大きく 2 つのタイプに分けることができる。 2.3 購買意思決定情報源と商品記述可能性 一般に、消費者の購買意思決定における情報源には、主観的な情報(近隣の店を探索)、 売手による情報(広告・パッケージ),消費者など売手以外による情報(非公式の対人的コミ ュニケーション:口コミ)がある。(Katz,E.& Lazarsfeld,P.F. 1955)そして、消費者 がどちらの情報源をより利用するかは、商品属性によって異なるといわれる。(Bell 1969・ 國領1997)1インターネット上では、主観的情報はサーチエンジン等の検索に、売手による 情報はバナー広告に、そして口コミの情報はBBS(電子掲示板)やチャットに代替される。 そこで、インターネット上の情報源の中でも、商品カテゴリーや購買動機によって、どれ が買手の意思決定に用いられるかが異なると考えられる。つまり、どの手段でいかなる買 手に情報を伝えるかが、インターネット・オークション・サイトの成功に影響すると考え 1 Bell(1969)によると、美容院・医療機関等のサービス業や家具は口コミの影響が強く、反対にスーパース トアについては個人の探索(主観的情報源)によることが多く、口コミの影響は弱い。

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られる。 では、インターネット・オークションにおいて、買手の購買意思決定はどのような商品属 性によって影響されるのだろうか。ここでは、商品記述可能性の高低に焦点をあてる。商 品記述可能性とは、商品の属性をテキストデータや画像データを用いて記述することが容 易であることを示す。(竹田 1998) 商品記述可能性が低い商品は、その購買と使用に関する 不確実性が高いため、買手はより多くの情報を求めるため、口コミ(顧客間インタラクショ ン)を利用することが多い。(國領 1997)特に、インターネット上では、実際に店舗で商品 を確認することができないため、商品の購買・使用に関する不確実性は高く、コンピュー タ画面にその仕様や品質を如何に示すかが問題となる。反対に、商品記述可能性が高い商 品では、インターネット上の商品カタログの情報だけで商品の属性をかなり示すことがで きる。そのため、買手は口コミによる情報収集をせずに、商品カタログといった売手(サイ ト)の発信する情報によって購買意思決定を行い、迅速に取引をすることができる。 つまり、インターネット・オークション・サイトには、商品に関する不確実性を低くする 方法として、商品記述可能性の高い商品に限定する方法と、口コミ(BBS 等)を利用する 方法があるといえる。 2.4 インターネット・オークション・サイトの分類 以上をまとめると、インターネット・オークションには 2 つの型があると考えられる。一 つは、情報技術の取引コスト削減機能を重視するサイトであり、ここには、迅速・低コス トで商品を購入したい消費者が集まる。そこでは、商品記述可能性が高い商品が売買され る。消費者は、商品カタログやバナー広告といった売手もしくはサイトによる情報によっ て、購買意思決定を行う。もう一つは、情報技術の場の提供機能が重視されるサイトであ る。ここには、希少財の情報交換と取引を求める消費者が集まるため、扱われる商品は商 品記述可能性の低い収集品等である。そして、BBS といった口コミが消費者の購買意思決 定の情報源となる。 ここで、取引当事者の属性も考慮したリスク削減制度(野島・竹田 1999)の理論を引用し、 インターネット・オークション・サイトの分類に関する概念的枠組みを構築したい。イン ターネット・オークションは、オークションという価格決定メカニズムを用い、さらに情 報技術を駆使することで、従来では取引が困難な領域においても取引成立を可能にする。 そのため、インターネット・オークションによる取引コスト削減の効果が大きいが、その 反面リスクも大きくなる。その中でも、インターネット・オークションにおいては、商品 の品質に関するリスクと取引履行に関するリスクが大きいと考えられる。2 商品の品質に関するリスクは、売買がインターネット上で行われるために増加するリスク であり、商品の記述可能性が低いほどこのリスクは低くなる。具体的には、中古品よりも 2 更に、セキュリティに関するリスクが存在すると考えられるが、サイトのビジネス・モデルを知る目的 から、技術的な要因であるこのリスクは捨象して考えることにする。

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新品のほうが商品の記述可能性は高く、収集品よりもコンピュータや家電のほうが商品の 記述可能性は高いと考えられる。新品のコンピュータや家電は、メーカーと品番、スペッ クが判れば商品属性が特定され、品質情報はテキストデータ(インターネット上の商品カ タログ)のみでも表すことができる。 取引履行に関するリスクとは、商品の配送・代金決済等が確実に行われるかというリス クである。店舗での売買では契約と物品の移動(配送)と代金決済が同じ場所・時間に行 われるため、このリスクは非常に少ない。しかし、通信販売やインターネット上の売買で は、見知らぬ会社(無店舗)や個人間で売買されることが多く、取引履行に関するリスクが大 きくなる。取引履行に関するリスクを担保するためには、商品配送や代金決済というロジ スティック機能を高めることが必要である。具体的には、法人が売手になるモデルでは (BtoC)、特定の法人が配送・代金決済機能を持ち取引履行リスクは低い。一方、不特定多 数の一般消費者も配送・決済の機能を担うモデル(CtoC)では、取引履行リスクは高くな る。34 この議論を前述の分類に加えると、取引コスト削減機能に着目したサイトでは、迅速な取 引が求められることから、ロジスティック機能を法人が担うことが適合的と考えられる。 反対に、場の提供機能を重視するサイトでは、売手を法人だけでなく多数の個人に広げ、 多くの参加者による顧客間インタラクションが行われることが適合的である。前述の Gomez(1999)でも、迅速な取引を好む消費者は法人の売手を好む傾向があることを挙げて いる。反対に、希少財の取引を求める消費者は、コミュニケーション等によって品質情報 が得られることを求める傾向があると指摘している。 これらをまとめると表1のように分類される。以上の議論で明らかになった 2 つの型を、 コマース型・コミュニケーション型と名づけることにする。2 つの型では、異なるロジック と異なる制度(リスク削減制度)をもつと仮定する。 コマース型とは、従来の店舗販売よりも低い取引コストで、迅速に売買を行うことをねら いとしたオークション・サイトである。コマース型のサイトには、迅速で低コストな取引 を求める買手が集まり、配送や決済を行うロジスティク機能が重視される。いわば、イン ターネット・ショッピングの延長にあるモデルといえる。コマース型に適合的な商品群は、 インターネット上のカタログに載せやすい商品記述可能性の高い商品である。商品カタロ グで商品の属性を良く知ることができることは、迅速・低コストで決った商品を購入した い買手の動機とも適合する。 3 ここでのBtoC モデルは、ロジスティック機能を法人が担うことを指し、(法的な)売手が個人である場 合も含めている。また、売手が個人の場合に、ロジスティック機能を提供する配送会社やEscrow 会社を 利用するケースについては、これらのサービス提供会社の利用は買手の希望によって逐次なされており、 サイトの運営ルールとして一貫して法人がロジスティク機能を担うものではないため、除外する。 4 法律上は原則としてサイトには責任はなく、売買上のトラブルの責任は売手と買手が負う。しかし、オ ークション参加者の不安を解消しスムースな商取引を促進することが必要と考える。

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表1 インターネット・オークション・サイトの 2 分類 先行研究のまとめ 情報技術の 機能 取引コスト削減 (Malone et al1987 他) (受発注コスト・店舗コストの削減) 情報の蓄積・場の提供 (國領 1996) (BBS 等) 売手の属性 限定された法人が多い。(BtoC) 又は、ロジスティク機能を法人が担う。 法人だけでなく、不特定多数の一般消費者も売 手になる。(CtoC) 買手の動機 経済的要因 (迅速・低コストで取引)

Co-ordination Mechanism (Klein1997) Serious Shoppers (Gomez1999)

経済的要因+主観的・社会的要因 (希少財等の取引自体の楽しさ)

Price Discovery (Klein1997) Hobbyist・Collectors

Bargain Hunters (Gomez1999)

買手の購買 意思決定 情報源 売手・サイトが提供する情報 (商品カタログ、広告等) (Katz&Lazarsfeld 1955) 消費者が提供する情報 (口コミ) (國領 1996) サイトに 求 め ら れ る ニーズ ロジスティク能力(小売機能)重視 法人売手を好む傾向 (Gomez1999) 売手・買手が多く、にぎわっていること 参加者間のコミュニケーションにより、希少財 でも品質情報が得られる 品質を意識する傾向 (Gomez1999) 適合する 商品群 商品記述可能性の高いもの (情報技術に乗りやすい商品特性) →新品・定番品・コンピュータ等 商品記述可能性の低いもの (口コミに乗りやすい商品特性) →中古品・希少財・アンティーク等 分類 コマース型 コミュニケーション型 戦略 店舗販売からインターネット販売へ市場拡大 取引迅速化 インターネット特有の対話の場に、ビジネス チャンスを求める リスク削減 諸制度 メーカー保証のある商品を扱う 商品の評価制度 法人が配送を行う 法人が決済を行う 売手へ商品に関する質問制度 売手の評価制度 買手の評価制度 BBS・チャット 具体的なリスク削減制度を考えると、コンピュータ等のメーカー保証があり商品記述可能 性の高い商品を扱うことは、商品に関するリスクを削減する。また、中古品等比較的商品 記述可能性の低い商品を扱う場合には、サイト自ら商品評価を行い、商品記述可能性を高 める方法も考えられる。どちらの場合も、売手もしくはサイトが積極的に商品記述可能性 を高め、買手に購買意思決定の情報を与える点が特徴である。取引履行に関するリスクに ついては、限定された法人が配送・決済を行い、そのことを買手にアピールすることでサ イトの信頼を得ることができる。 コミュニケーション型とは、インターネット上でオークション参加者同志の対話の場を設 けることで、インターネット上に市場を創設することをねらいとしたオークション・サイ トである。ここには、経済的な要因だけではなく、取引や対話に参加することを動機にし た買手が集まる。そこで、サイトに求められるのは、売手と買手が多くにぎわっており、 希少な財の取引もできることである。コミュニケーション型では、一般消費者も売手とな り、いわばフリーマーケットをインターネット上で実現している。コミュニケーション型

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に適合的な商品群は、商品記述可能性が低い中古品や希少財である。これらの商品は口コ ミに乗りやすい商品特性を有しており(國領1997)、しかも一般消費者である売手が売る商 品の多くは中古品であるため、コミュニケーション型に適合的である。 コミュニケーション型では、中古品などを多く扱い、商品品質に関するリスクが高いため、 売手に商品について質問する制度を設けて対処する。取引履行に関するリスクについては、 売手と買手の評価制度をとりいれたりBBS を設けて、参加者同志のコミュニケーションを 促進させて対処している。例えば、米国の大手のeBay 社(www.ebay.com)では、参加者 の各取引に対する他の参加者からのフィードバックを公開し、取引不履行の経験のある者 に低い評価点をつけている。参加者は、この情報をもとに信頼できる取引相手を選ぶこと ができるのである。 このように、一見同じ様に観察されるサイトのなかでも、コマース型とコミュニケーショ ン型といった大きく異なるロジックをもつものが混在していると考えられる。 2.5 仮説 以上の概念的枠組みとコマース型・コミュニケーション型という 2 つの戦略が存在するこ とを実証するために、以下の仮説を検証する。 仮説1 インターネット・オークションは、リスク削減諸制度によって 2 つに分類すること ができる。(コマース型・コミュニケーション型) 仮説1−1 コマース型では、メーカー保証・商品評価制度を採用し、法人が配送と代金 決済機能を担う。 仮説1−2 コミュニケーション型では、売手への商品に関する質問制度を採用し、売手 評価制度・買手評価制度・コミュニケーション促進制度(BBS)を採用している。 仮説1−3 コマース型の商品群は、商品記述可能性の高い、新品・コンピュータ等・ス ポーツ用品である。 仮説1−4 コミュニケーション型の商品群は、商品記述可能性の低い、中古品・収集品 である。 さらに、インターネット・オークションの成功要因を探るため、成果変数を加味した分析 を行う。まず、本研究の概念的枠組みの中心となる、リスク削減制度(野島・竹田1999) が成功要因となっているかを検証する。 仮説2 リスク削減制度が多いほど、インターネット・オークションは成功する。 一方で、コマース型とコミュニケーション型では成果に結びつくリスク削減制度は異なる とも考えられる。そこで、仮説3を考える。 仮説3 コマース型とコミュニケーション型では、それぞれ適合的なリスク削減制度を有し ていると、成功につながる。 最後に、表1で挙げたリスク削減制度とは別の制度や要因で、成功に結びつくものがある かを発見する目的で、仮説4を考える。

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仮説4 コマース型とコミュニケーション型では、成功要因が異なる。 3 研究方法 本研究の目的は、米国のインターネット・オークション・サイトのデータ分析を行うこ とで、サイトの分類を行い、さらにサイトの成功要因を知ることである。データ分析は二 つに区分される。一つは、仮説1を検証するために各変数(諸制度・商品群など)の相関 マトリックスの分析と判別分析を行っている。もう一つは、仮説2・3・4を検証するた めに、各変数と成果変数との重回帰分析を行い、成功要因を明らかにしている。 3.1 サンプル 2000 年 2 月現在に米国の Yahoo!に登録されているインターネット・オークション(Online Auction)について、インターネット上の情報をもとに各変数を測定した。Yahoo!に登録さ れているインターネット・オークションは 279 件であったが、必要データを得ることがで きたのは、分類の分析については184 件、成功要因の分析については 169 件であった。分 析対象としたインターネット・オークションとは、①買手が一般消費者となる②インター ネット上に商品カタログが掲載され、インターネット上で入札できる③常時開設している、 という条件を満たすものである。5(表2) 表2 サンプルの概要 サイト件数 分析対象 184 対象外 リバース・オークション トラベル その他(アクセス不能等) 13 9 40 オークション・サイト以外 (オークション用ソフトウェア等) 33 合計 279 3.2 商品属性変数・売手属性変数・制度変数の測定(分析1) まず、商品群を、コンピュータ等(コンピュータ及び周辺機器・家電)・収集品・スポーツ 用品・宝石・その他に分けた。また、特定の商品群に集中して出品しているサイト(集中) と、総合的に出品しているサイト(総合)に分けている。この分類は商品カタログを閲覧し、 過半数が特定の商品群であるものを集中としている。また、新品を主に扱っている場合は、 新品とした。 売手属性については、ロジスティク機能を法人が担うか(法人ロジ/コマース型)、個人が 5 買手が購入希望リストを掲載し、売手が入札するリバース・オークションについては、商品カタログがイ ンターネット上に掲載されておらず、成果変数を測定することができないため、除外している。また、航 空券やホテルを扱うサイトも、商品カタログや取引に関する情報が入手できないため、除外している。

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担うか(個人ロジ/コミュニケーション型)によって分類している。ロジスティク機能を法人 が担う場合には、法人売手から買手に商品を直送する場合と、サイト(法人)が配送・決済機 能を売手の代わりに担う場合がある。法人ロジについては細分し、法人が売手でありかつ ロジスティク機能を法人が担う場合は法人仕入(法人ロジの内数)とし、サイトが個人売 手から商品を仕入れる場合は、委託販売(法人ロジの内数)としている。 制度変数については、メーカー保証、商品評価、売り手への質問(売手の連絡先公開)、 配送(を法人が担う)、決済(を法人が担う)売手評価、買手評価、BBS(BBS もしくはチ ャット有り)を測定した。配送・決済は売手属性の法人ロジの変数とほぼ同値である。6 これらの変数は、すべてダミー変数(0‐1 形式)である。 3.3 成果変数の測定(分析2) 成果変数として 2 変数を採用した。一つは、商品カタログに掲載されている商品数である。 これは、売手がどれだけ集まっているかという指標になる。データ分析の際には、商品数 の対数を用いている。もう一つは、ビッドのある商品数である。商品カタログには各商品 についてビッド(入札)の有無が掲載されている。一つでもビッドのある商品は売買される可 能性が極めて高い。そこで、この変数は、買手がどれだけ集まっているかを示し、売買取 引数の代理変数となる。データ分析の際には、5 段階(0∼10,10∼25,25∼50,50∼100, 100∼)の尺度を用いている。7この 2 つの成果変数は、相関関係が高いため、回帰分析の 中では代替的に使用している。 さらに、リスク削減諸制度以外の制度についてもその有無を調べ、成果変数に与える影響 を調べた。メーリングリスト有・先発(1997 年以前に開設)8・小売兼業・その他兼業・リ スト料有の変数(0−1 形式のダミー変数)である。小売兼業とは、インターネット・ショ ッピング・サイトと兼業している場合であり、その他兼業とは、ポータル・サイト(サーチ・ エンジン)などのインターネット・ビジネスと兼業している場合である。また、商品群の 多さをバラエティ変数とした。コミュニケーション型については、売手(一般消費者含む) がインターネット上で商品を掲載する際にリスト料をサイトに支払う場合がある。そこで、 売買取引完了時に支払う取引料とは別に、リスト料も課しているサイトは、リスト料有と した。 4 分類に関する分析結果(分析1) ここでは、商品属性とリスク削減制度との相関関係を調べ、インターネット・オークショ 6 個人ロジでも代金回収をサイトが行う場合があるため、100%同値ではない。 7 各サイトを閲覧したところ、ビッド有り商品数が10 以下であるところは、オークション・サイトとして ほとんど機能していない状態であった。一方、100 以上のところは、商品カタログ数も多く、かなり取引 があり成功していると観察された。そこで、3 段階尺度(0∼10、10∼100、100∼)を用いてデータ分析 も行ったが、5 段階尺度と結果は変わらないため、5 段階尺度のデータのみを掲載する。 8 1996 年以前に開設された企業が非常に少なく、回帰分析に適さないため 1997 年以前を先発企業とした。

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ン・サイトを統計的手法によって分類し、サイトの特徴を明らかにする。まず、商品属性 については、新品か否か(新品/中古品)、特定の商品群に集中しているか否か(総合/集 中)という変数の他に、商品記述可能性の高い商品群に集中しているか否か、という変数 を測定する。新品変数と商品群変数を標準化した上で主成分分析を行うと、各主成分に対 応する固有値は、1.737、1.219、1.111 となる。そこで、第一主成分についてみてみると、 以下のような重み係数が求められるため、これは高い商品記述可能性を示す変数であると 解釈される。そこで、この変数を以降の分析で使用する。 商品記述可能性指数=0.825 新品 + 0.788 コンピュータ + 0.175 宝石 + 0.017 スポ ーツ− 0.04 その他 − 0.632 収集品 表4は、各変数間の相関マトリックスである。表4から、1%有意の相関関係について、 相関係数の符号についてまとめると、大きく2 つの型に分類できる。(表3)それらを、コ マース型とコミュニケーション型に分類し、さらに、コマース型については法人仕入型と 委託販売型に細分した。 表3 分類と各変数間の相関係数(1%有意) コマース型 コミュニケーション型 変数 法人仕入型 委託販売型 1新品 ○ × 2総合 × ○ 3商品記述可能性 ○ × 4法人ロジ ○ ○ × 5委託販売 6メーカー保証 ○ × 7商品評価 × ○ 8売り手質問 × × ○ 9配送 ○ ○ × 10決済 ○ ○ × 11売手評価 × × ○ 12買手評価 × ○ 13BBS × ○ ○:相関係数プラス ×:相関係数マイナス コマース型・法人仕入型では、新品で商品記述可能性の高い商品(コンピュータ等)に商 品群を特定している。さらに、商品にはメーカー保証を行って商品リスクを削減している。 また、ロジスティク機能は法人が担うことから、当然に配送と代金決済は法人が行うが、 反対に、売手評価や買手評価、BBS といった制度は用いない。 コマース型・委託販売型は、委託販売の形をとり商品評価制度があるのが特徴である。多 くの場合、個人から中古品を仕入れ、サイトが商品評価を行う。 コミュニケーション型では、中古品で商品記述可能性の低い商品(収集品)を扱うか、もし くは特定の商品群ではなく総合的な品揃えを行う。商品リスクについては、売手への質問 制度を設けている。ロジスティク機能は個人が担うため、取引リスクが高いが、売手評価・ 買手評価・BBS による参加者間のコミュニケーションの促進によって対処している。

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表4 変数の相関マトリックス 単相関 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 商 1新品 1.000 品 -属 2総合 -0.250 1.000 性 ** -3商品記述 0.826 -0.132 1.000 可能性 ** -売 4法人ロジ 0.478 -0.353 0.446 1.000 手 ** ** ** -属 5委託販売 -0.100 -0.114 -0.098 0.264 1.000 性 ** -6保証 0.706 -0.175 0.711 0.572 -0.081 1.000 商 ** * ** ** -品 7商-品評価 -0.185 -0.130 -0.159 0.335 0.541 -0.101 1.000 制 * * ** ** -度 8売り手質問 -0.464 0.281 -0.426 -0.696 -0.225 -0.573 -0.303 1.000 ** ** ** ** ** ** ** -9配送 0.454 -0.319 0.430 0.964 0.254 0.550 0.357 -0.692 1.000 取 ** ** ** ** ** ** ** ** -引 10決済 0.408 -0.254 0.403 0.898 0.237 0.509 0.327 -0.661 0.932 1.000 制 ** ** ** ** ** ** ** ** ** -度 11売手評価 -0.386 0.322 -0.332 -0.725 -0.166 -0.490 -0.240 0.733 -0.712 -0.736 1.000 ** ** ** ** * ** ** ** ** ** -12買手評価 -0.329 0.259 -0.291 -0.579 -0.128 -0.397 -0.172 0.600 -0.562 -0.576 0.828 1.000 ** ** ** ** ** * ** ** ** ** -13BBS -0.250 0.186 -0.296 -0.353 -0.045 -0.273 -0.051 0.308 -0.344 -0.354 0.397 0.405 1.000 ** * ** ** ** ** ** ** ** ** -* ; p < 0.05 , -*-* ; p < 0.01 , N= 184 ダミー変数 1 0 ダミー変数 1 0 1新品 1新品 0中古品 12買手評価 1有り 0無し 2総合 1総合 0特定商品群に集中 13BBS 1有り 0無し 6メーカー保証 1有り 0無し 4法人ロジ 1法人がロジスティク機能を担う 7商品評価 1有り 0無し (9・10とほぼ同値) 0個人がロジスティク機能を担う 8売手質問 1有り 0無し 5委託販売 1個人売手がサイトに委託販売 9配送 1法人 0個人 (4の内数) 0法人売手 10決済 1法人 0個人 11売手評価 1有り 0無し 3 商品記述可能性 主成分分析より算出 この分類を検証するために、リスク削減諸制度の変数を標準化した上で主成分分析を行う と、各主成分に対応する固有値は、4.516、1.125、0.822、0.621 となった。そこで、固有 値が 1 を超えている、第一主成分と第二主成分についてみることにする。第一主成分に対 応する固有ベクトルから、変数に対する重み係数を求める。 Index1=0.894 配送 + 0.888 代金回収 + 0.649 メーカー保証 + 0.334 商品評価 − 0.498 BBS − 0.791 買手評価 − 0.843 売手質問 −0.898 売手評価 Index1 は、コマース型とコミュニケーション型の分類を示していると考えられる。つまり、 Index1 の値が大きいほどコマース型の性質が強くなり、値が小さいほどコミュニケーショ

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ン型の性質が強くなる。 次に、第二主成分をみてみると、重み係数から、商品評価をするかもしくはメーカー保証 を行うか、という商品リスクの削減方法の違いを示している。つまり、コマース型の細分 類である、法人仕入型と委託販売型の分類を示している。 Index2 = 0.877 商品評価 + 0.281 BBS + 0.135 配送 + 0.123 代金回収 + 0.091 買 手評価 + 0.026 売手評価 − 0.029 売手質問 − 0.482 メーカー保証 このように主成分分析を行っても、表3に示す分類と整合的な結果が得られた。9さらに、 Index1の符号が正のものをコマース型、負のものをコミュニケーション型と分類し、コマ ース型とコミュニケーション型の分類に関する判別分析を行った。その結果、この分類方 法は統計的に有意であることがわかった。(表5) 以上の分析から、インターネット・オークション・サイトは大別すると 2 つの型に分類さ れ、それぞれ異なる商品群・制度を有していることがわかった。(仮説1)また、仮説1−1、 1−2、1−3 についても検証された。ただし、仮説 1−4(コミュニケーション型の商品群は、 商品記述可能性の低い中古品・収集品である)に該当する結果も観察されたものの、コミ ュニケーション型では様々な商品群を総合的に扱う場合も多いことが分かった。 表5 判別分析の結果 判別分析による判別 Index1 による判別 コマース型 コミュニケーション型 合計 +:コマース型 −:コミュニケーション型 66 0 1144 11470 合計 66 118 184 誤判別数:4 誤判別率:2.1% 5 成功要因に関する分析結果(分析2) 分析1の結果をうけて、インターネット・オークション・サイトの成功要因について分析 する。(表6)まず、仮説2「リスク削減制度が多いと、成功する」を検証したい。リスク 削減制度(メーカー保証・商品評価・売手へ質問・配送・決済・売手評価・買手評価・B BS)の数をカウントし、全制度数とする。全体(N=169)について回帰分析を行うと、全 制度数は成果変数(ビッド有商品数)に強い影響を与えていることがわかる。(モデル C1)ま た、コマース型(A3)、コミュニケーション型(B3)についても、有意な結果が得られた。 そこで、制度数が多いほどサイトのリスクが軽減され成功に結びつくと考えられ、仮説2 は支持される。 しかし、コマース型とコミュニケーション型では成果に結びつく制度は異なり、単に制度 数を多くするのではなく、適合する制度のみを選択したほうが成功するのではないだろう か。(仮説3)この問いに答えるため、それぞれの分類について制度適合度を測定した。リ 9 ここでは、リスク削減制度のみの主成分分析の結果を掲載した。他に、商品記述可能性指数等の変数を 入れて分析しても、結果は変わらなかった。

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スク削減制度の主成分分析(分析1)で得られた Index1の絶対値を制度適合度とする。判 別分析(分析1)より、コマース型では Index1がすべて正であり、コミュニケーション型で はすべて負となっている。そこで、その絶対値が大きいほど、その分類に適した制度をよ り多く採用し、不適合な制度をより少なく採用していることになる。 表6 成果に関する重回帰分析 *:p<0.1 **;p<0.05 ***;p<0.01 分類 コマース型 コミュニケーション 型 全体 独立変数 従属変数 ビッド有商品数 ビッド有商品数 商品数(対数) ビッド有 モデル A1 A2 A3 B1 B2 B3 B4 B5 C1 定数 1.340 ** 1.404 ** -0.259 -0.682 -0.660 -1.405 *** 0.869 *** 0.876 *** -0.648 * 制度適合度 -0.521 -0.836 ** 1.424 *** 1.394 *** 0.824 ** 0.801 ** 全制度数 0.336 ** 0.556 *** 0.418 *** 商品記述可能性 0.196 0.341 0.227 メーリングリスト有 0.882 ** 0.862 ** 0.760 * 0.902 *** 0.815 *** 0.725 ** 0.481 ** 0.445 ** 0.786 *** 0.960 先発(1997以前) 1.116 *** 1.077 ** 0.927 ** 0.617 0.455 0.442 *** バラエティ 0.203 * 0.223 * 0.209 * 0.185 *** 0.161 *** 0.140 ** 0.263 *** 0.257 *** 0.132 *** 小売兼業 0.431 0.256 0.330 0.406 0.206 0.348 その他兼業 2.321 1.857 0.468 0.599 0.808 ** 0.717 * 0.505 リスト料有 0.703 ** 0.870 ** 0.777 ** 0.349 0.445 ** サンプル数 61 61 61 108 108 108 108 108 169 修正済みR二乗 0.198 0.221 0.240 0.242 0.256 0.281 0.457 0.469 0.261 制度適合度を成果変数の説明変数として回帰分析した結果、コミュニケーション型では制 度適合度が成果変数にプラスの効果を与えていることがわかった。(B1,B2)しかし、コマ ース型では、統計的には有意とはいえないものの、制度適合度と成果変数とは負の相関関 係にあり、仮説3は支持されなかった。これは、コマース型のほとんどのサイトが配送・ 決済の制度を採用しており、適合する制度数についてはサイト間で大きな差異がないため と観察される。さらに、コマース型に適合する制度をもちながらも、コミュニケーション 型に適合する制度(売手評価等)を取り入れているサイトも成功していることになる。コマ ース型の中では、いわば折衷型でも成功する可能性があるのに対し、コミュニケーション 型ではあくまで適合する制度に絞ったほうが成功していると解釈される。 更に分析をすすめて、コマース型とコミュニケーション型では異なる成功要因があるのか、 考えていく。(仮説4)コマース型とコミュニケーション型に共通する成功要因は、メーリ

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ング・リストの開設である。メーリング・リストは、登録された参加者に定期的にオークシ ョンの広告をメールで知らせることから、固定客をつかむという効果があると考えられる。 また、メーリング・リストが有ることは、サイトが積極的にインターネット・オークション を行っているシグナルとして働くことも考えられる。サイトの中には、頻繁に更新をせず に「開店休業」の状態にあるところも散見され、そのようなサイトではメーリング・リスト はあまり採用されていないようである。 次に、インターネット・ビジネスの成功に大きな影響を与えるといわれる先発者の優位性 であるが、全体とコマース型では先発者優位性が確認された。ただし、コミュニケーショ ン型では、先発企業(1997 年以前に開設)の数がサンプル全体にくらべて少なかったため、 統計的に有意な結果はみられなかった。 コミュニケーション型に特有の成功要因は、バラエティ・その他兼業・リスト料有であっ た。コミュニケーション型では幅広い商品群を扱う総合サイトが存在することが、分析1 で示唆されたが、回帰分析においてもバラエティの多さが成功要因となっている。その他 兼業については、商品数に大きな影響を与えるものの、ビッド有商品数とは有意な関係が 認められなかった。ポータルサイト等の集客力の大きなビジネスと兼業している場合、よ り多くの売手が集まるため、商品数(売手の多さの指数)には効果的だが、ビッド有商品数 (取引の多さの指数)にはあまり影響しないようである。最後に、リスト料が有る場合に は、ビッド有商品数が多いことがわかった。通常、リスト料が無い場合には、無償で商品 を掲載できるため、商品数・ビッド有商品数共に増加すると考えられる。そのため、後発 サイトではリスト料を課さないところも多い。しかし結果としては、リスト料無償化は成 功には結びつかず、リスト料無償という戦術は効果的ではないと考えられる。10 6 インプリケーション 分類に関する分析の結果、仮説1は支持され、インターネット・オークション・サイトは コマース型とコミュニケーション型の 2 つに分類できることがわかった。この結果は、本 研究の概念枠組みを実証的に裏付けることになり、実証的研究が待たれていたインターネ ット・ビジネスに一つの分析枠組みをもたらすと考える。 表7 コマース型とコミュニケーション型の異同点 戦術 コマース型 コミュニケーション型 制度数増加 メーリング・リスト開設 ○ ○ ○ ○ 制度適合度を上げる 先発 バラエティ増加 その他兼業 リスト料無償 − ○ − − − ○ − ○ △ × 10 後発サイトのみで、リスト料と成果変数との関係を分析したところ、結果は変わらなかった。

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リスク削減制度が多いことが成功要因になること(仮説2)も、回帰分析によって実証さ れた。インターネット・オークション・サイトをデザインするにあたって、リスク削減制 度という観点が重要であること(野島・竹田1999)が実証された。 さらに、コマース型とコミュニケーション型との成功要因の違い(仮説3・4)も、回帰 分析の結果から解釈することができる。この違いについては、表7にまとめている。○は、 成功要因と考えられるものであり、×は成果と負の関係にあるものである。その他兼業は、 売手の増加(商品数の増加)のみに効果的であり、取引増加(入札の増加)には影響しな いため、△で示している。 6.1 コマース型の戦略 コマース型では、制度適合度や商品記述可能性指数と成果変数との間に統計的に有意な関 係がなかったことから、商品群や制度といったサイトのデザインよりも、他の要因が成功 に大きく影響していると解釈される。つまり、コマース型では法人から商品を仕入れて割 安で消費者に提供することが求められているため、割安で安定的に商品を仕入れることの できるチャネルを有していることが決定的な要因となる。また、サイトが配送や決済を行 う場合には、インターネット上にオークション・サイトを設けるだけではなく、配送セン ターを持ち、決済のための仕組みを持たねばならない。仕入れチャネルや配送センターが 必要であることは、後発者にとって大きな参入障壁となるため、先発者優位性が生じてい ると考えられる。 しかし、仕入れチャネルや配送センターを既に有している小売業者(インターネット販売 業者)にとっては参入障壁が低く、後発でも成功する可能性がある。例えば、本のインタ ーネット販売を行っている米国のAmazon 社(www.amazon.com)は、インターネット・ オークションに進出し、大きな成功を収めている。Amazon 社は、自社の有する本をオー クション販売するだけでなく、一般消費者がオークションに出品するコミュニケーション 型のオークションも開催している。 Amazon 社の例のように、コマース型の中には一般消費者のオークション出品サイト(コ ミュニケーション型)にも進出し、折衷型の形を取るところもある。コミュニケーション 型のオークションは開設が容易なため折衷が可能であるが、コマース型に絞るほうが良い のか折衷型が良いのかは、現時点ではサンプルが少ないため判断はできない。例えば、 Onsale 社は設立当初コマース型であったが、1998 年にはコミュニケーション型のサイトも 併設し、さらに翌年にはコミュニケーション型のサイトを閉鎖し、現在ではコマース型に 絞っている。このように、異なる性質をもつコマース型とコミュニケーション型を区別し てサイトの趣旨を明確にするか、もしくは相乗効果をねらって折衷型にするかは、サイト にとって大きな選択肢となるだろう。 6.2 コミュニケーション型の戦略

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コミュニケーション型では、制度適合度が大きな成功要因となっている。コマース型とは 異なり、仕入れチャネルや配送センターが不要であり、インターネット上でホームページ を立ち上げるだけで済むため、参入が容易である。そのため、リスク削減制度といったサ イトのデザイン如何で、サイトの成功が決まる可能性があると思われる。 しかし、サイトのデザインは模倣が容易であり、今後サイトのデザインは収斂されるとも 考えられる。いや、200 件以上のサイトがある米国では、既に収斂されつつあるのかもしれ ない。一方で、コミュニケーション型での勝敗の差はかなり大きい。例えば、eBay 社の商 品数は400 万点にのぼるが、商品数が 1000 点以下のサイトは 66%(71 件)を占める。で は、コミュニケーション型で成功するロジックはどのようなものだろうか。 成功は売手(商品数)の増加と、買手(入札数)の増加の双方に支えられている。売手が 大勢おり商品数が多く品揃えが豊富であると、買手が集まり入札数が増加する。その結果、 サイトでの取引や顧客間インタラクションが活発となり、ますます多くの売手と買手が集 まる。いわゆるデモンストレーション効果によって、活発に情報がやり取りされているサ イトでは、爆発的に取引量は増加していくのである。このような好循環を実現するために は、まずは、顧客間インタラクションが生じる核となるサイトの魅力や集客力が必要であ る。その上で、適合するリスク削減制度を採用し、コミュニケーションを促進させること で、成功への道筋ができると思われる。では、新たにこの好循環を作り出すには、どうし たらいいのだろうか。 サイトの閲覧と回帰分析の結果、以下のような戦略が想定される。第一に、ポータル・サ イト等との兼業である。回帰分析で商品数と有意な関係にあったことからも、ポータル・ サイト等の集客力の大きいビジネスとの兼業は効果的である。その上、オークションを開 催してBBS を通じて参加者間での対話の場を提供することで、ポータル・サイトへのアク セス数増加も見込める。ポータル・サイトの主な収入源は広告料であるので、オークショ ンの課金だけではなく、広告収入の増加もねらうことができるのである。 第二に、リスト料・取引料を期間限定で無償化することである。無償化は多くのサイトが 試みている。しかし、回帰分析の結果からも、これが成功に結びつくとはいえない。逆に、 無償化はそのサイトが後発であり売手が少ないことのシグナルとなり、かえって消費者の 足を遠のかせてしまう可能性がある。 第三に、カテゴリーを絞ったニッチ戦略である。ただし、商品群を限定して割安で新品商 品を供給するコマース型との競合が考えられる。そのため、商品群を中古品の収集品に限 定するサイトが実際に散見される。その他には、配送センター等への投資が必要ではある が、コマース型との折衷を図り、高いロジスティク機能をアピールする方法も考えられる。 このようにいくつかのシナリオが想定されるものの、インターネット・オークション・サ イトの進化は今後も続くと思われ、まだ未知数な点も残っている。

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6.3 今後の課題 本研究は、情報技術、オークションに対する参加者動機、買手購買意思決定、商品記述可 能性の理論を有機的に組み合わせ、インターネット・ビジネスに関する一つの分析枠組み を構築し、実証分析に一歩踏み出した。しかし、インターネット・オークションは現在発 展段階にある業界であり、今後も実証分析を重ねて、分析枠組みをより発展させる必要が ある。特に、本研究では明らかにされなかった、コマース型とコミュニケーション型との 折衷が成果にどのような影響をあたえているのかという点は、今後の課題である。また、 日本の事例についても考察し、日本におけるインターネット・ビジネスの戦略についても 考えていきたい。 参考文献

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竹田陽子・國領二郎(1996)「情報技術が企業間の取引関係に与える影響に関する試論」慶 応経営論集、第13 巻、第 2 号 竹田陽子(1998)「電子商取引のビジネスモデルに関する試論」、GLOCOM Review、vol.3, No.11,pp1−17. 根来龍之・木村誠(1999)『ネットビジネスの経営戦略:知識交換とバリューチェーン』日科 技連出版社 野島美保・竹田陽子(1999)「電子オークションのリスク削減メカニズムのタイプについて」、 ITME Discussion Paper No.21

参照

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