大人の発達障害と
ADHD
• 従来、発達障害は自閉症と呼ばれていてADHD(注意欠
陥多動性障害)とともに学校現場では先生方が対応され
てきましたし、医療的には小児科の先生方がこれら小児
期の診察を担ってきました。
• 特に重症な方では早期にスクリーニングされて普通教育
の場を去ることで一般の目に触れにくくなってしまう。
• 軽度から中等度の発達障害の方が一般の小中学校のクラ
スに在籍されることになる。
• これら障害を有する者がクラスの6%前後に上るという
統計も出てきています。従来から統合失調症の出現頻度
が1%と長く言われていましたから6%は非常に多い印象
です。
これら発達障害が神経発達障害としてま
とめられてきた。
• 平成6年に改訂されたアメリカの精神疾患の診断マニュ
アルでは自閉性障害、アスペルガー障害、広汎性発達障
害、知的障害、ADHDがバラバラに配置されていました。
• これら知的障害、広汎性発達障害やADHD、学習障害な
どが神経発達障害としてひとまとまりにまとめられて、
いきなりこの診断マニュアルの改訂版の第1章として登
場してきたのが平成24年12月でした。
• 考えてみればこれらの生まれてからの発達の偏りあるい
は障害の理解が精神科の患者さんの理解の基本であるこ
とは至極当然のことのように思われます。
軽度から中等度の発達障害の問題
• 主に大人の精神障害を扱う精神科では15年位前までは積
極的に発達障害やADHDを扱うことはなかったし、一般
には診断の技術も広まっていなかった。
• しかし中学ころからひどいいじめを受けるなどして不登
校となるもの。
• 一旦高校に進学するものの中退者が非常に多い。
• 比較的大学では専門のカウンセラーが配置されるなど保
護的環境が用意されることが多く留年を重ねることはあ
るが卒業する。
• 実社会に出ていきなり破たんすることが多い。
自閉症スペクトラム障害
• もう一つこの改定で大事なことは自閉性障害やアスペル
ガー障害が自閉性スペクトラム障害としてまとめられた
ことです。このスペクトラムという意味は異常と正常を
連続体として捉えようということです。
• この異常と正常の連続体という考え方で合点がいく方は
多いのではないでしょうか。
• 自閉症スペクトラム障害にこれまでのアスペルガー障害
も含まれたわけですが、アスペルガー障害はどのような
症状を認めるのでしょうか。
アスペルガー障害
• 友人ができない。人とうまく付き合うことができない。
• 私は空気を読むという言葉はあまり好きではありません。
なぜなら空気を読みすぎてうつ病に至る人が日本人では
非常に多いからです。しかし如何にも非常識なことを
言ったりやったりして問題を起こす人もこの障害では多
いです。
• 独善的で共感性に乏しい。特定の領域への極めて強い没
頭。不器用さ。アスペルガー障害を初めて指摘したハン
スアスペルガーは「小さな教授たち」と呼びました。
自閉性スペクトラム障害の診断
• 私は平成12年に精神科クリニックを開院したのですが2
から3年すると発達障害を見て欲しいという要望が来る
ようになりました。平成14年は横浜市でも自閉症支援室
を設置して主に成人の発達障碍者の支援を専門に担う機
関として成長してきています。
• しばしば特異な事件起きるとその方がアスペルガー障害
であったというように報道されることがあると思います
が、やはりこの障害の方が「普通がわからない」あるい
はあまりにも「言葉通りに解釈してしまう」ということ
があって事件を起こしてしまうあるいは事件に巻き込ま
れてしまうということが少なくない。
自閉症スペクトラム障害の診断と治療1
• 私の経験でもある事件があって「やったのか」と警察官
に聞かれて本人は別のことが頭にあって「はい、やりま
した」と答えてしまって冤罪を晴らすのに何年もかかっ
たり、社会性がないことに付け込まれて殆ど詐欺同様の
手口で大きな財産を失う方もいます。そのような方が裁
判になっても相手方の誘導に簡単に乗ってしまって全然
正当性を主張できないことも非常に多いのです。事件を
起こす方がいると大きく報道されますがおそらく圧倒的
には世の中でこうした障害の方は人間関係でも就労問題
でもあるいは社会的手続きでもとんでもない不利を被っ
ているのだろうなと思います。
自閉症スペクトラム障害の診断と治療2
• これらの障害の方を適切に診断する。どれほどの重症度
にあるかよく患者さんから情報を得て判断する。問題点
を患者さんと共有する。もちろんご両親からも情報を十
分得て障害を共有するということが大事です。
• 就労を得ている方ではしばしば勤務先の依頼で診察を行
うこともあります。精密な心理テストを施行しながらま
た本人の診察を十分に行っていきます。当院では心理士
の協力を得て集団療法行っているのですがこれも当初は
診断の目的があります。
自閉症スペクトラム障害の診断と治療3
• 自閉症スペクトラム障害は共感性の乏しさ、情緒面の発
達不全、想像性の乏しさ、柔軟性の欠如、ワンパターン
化などの傾向があり、患者さんに話を聞いていると「人
がものに見えていた。普通がわからない」などと話しま
す。
• 診断の上、家族や周囲にこれらの障害を理解してもらう
だけで患者さんご本人は随分明るくなります。
• それまでやはり社会に溶け込めずイジメの対象となって
随分な苦労があり、人や社会が怖い不安だと、強い不安
症やうつ症状が合併している人も3割程度いるといわれ
ています。本人自身は大きく傷ついており自信を失って
いる人が大方です。
自閉症スペクトラム障害の診断と治療4
• 自閉症スペクトラム障害と診断される男性の数は女性の
4倍とも言われています。もともと会話能力が女性の方
が勝れているのか原因はわかりません。しかし確実に女
性の方でも受診されているのですね。そして生きづらさ
はやはり深刻で結婚、出産、育児でも苦労しておりまた
社会参加しようにもうまくいかないことが非常に多い。
そもそもこれら障害で受診される方のご両親も同様の傾
向があるためかすでに離婚していることが多いのですが、
今度は相談される本人も離婚に至っているケースが多く
こうして負の連鎖が形成されていくのかと行く先を案じ
たりもします。今後女性の自閉症スペクトラム障害の問
題は大きくなっていく可能性を感じますね。
自閉症スペクトラム障害者の社会復帰1
• これらの方も診察やカウンセリング、先に述べた集団療
法に参加して同じ障害の方が多く安心できる環境でロー
ルプレイを行うなどして様々な対人場面や社会場面での
言動や行動の練習をしていくと人によって速度は異なり
ますがやはり確実に症状は改善していくのですね。
• また運動療法や音楽療法も関心の幅が狭い本人でもそこ
に関心を持ってくれれば引きこもりを脱して仲間を作り
始めるわけです。
• こうした治療をしながら社会参加を模索していくわけで
すが、最近では障碍者雇用が国の強い後押しでかなり積
極的に進められています。最大2年間の障碍者就労訓練
の場も広く設けられておりうちの患者さんでもほとんど
の方がこれらの就労支援体制に参加して就職していくの
ですね。
自閉症スペクトラム障害者の社会復帰2
• またこれらの障害をきちんと診断していくことで基礎年
金等をきちんと納めている方では障碍者年金の申請も可
能となりますから障碍者就労で若干お給金が少なくとも
これらを足して十分自立していく方も多いわけです。
• 親御さんにもぜひこうした最近の事情を知ってもらいた
いですね。
注意欠陥多動性障害
ADHD 1
• 最後になりますがこれまで自閉症とは別個に扱われてい
たADHDが今回の改定から神経発達症に含まれました。
最近では治療薬も出てきたことから医療の現場で積極的
に治療されるようになっています。
• 気が逸れる、忍耐できない、衝動的、落ち着かない、事
故多発、ミス、忘れ物、遅刻、先送りなどから成人後も
やはり社会的場面では信頼が得られず、相当に苦労しま
す。そのため不安症やうつを合併しだして引きこもる傾
向を見せ始めます。良い理解者などに出会うとよいので
すがそれでもミスを取り繕うとして嘘をついたりまた信
用を失っていくことも多いのです。
注意欠陥多動性障害
ADHD 2
• これらの人にはミスの場面を解析して事前の準備や習慣
を変えるなどしてミス防ぐ工夫をする認知行動療法も効
果的です。
• 最近の薬物療法は前頭葉の機能向上を目指したもの使わ
れ、特に就労状況にある人には喫緊の必要性もあって積
極的に使用されています。
まとめ
• 本日は発達障害の診断と治療および社会参加。ADHDの
治療などについてお話しさせていただきました。
• 精神疾患はなんでもそうですが医療場面だけで解決する
ものではなく就労支援、福祉サポート、経済支援など多
様な支援があって初めて最後の目標である社会復帰に達
するわけです。
• 特に発達障害では障碍者就労後にきちんと仕事をしても
らえると企業側の評判もよく、多くの就労機会もありま
すから是非医療機関や行政に相談していってもらいたい
と思います。
• 本日はありがとうございました。