招待論文
広域展開型アドホックネットワークの構想・技術と展望
間瀬
憲一
†a)A Concept, Technologies, and a Perspective on Mobile Ad Hoc Networks for
Wide-Area Deployment
Kenichi MASE
†a)あらまし 広域展開型アドホックネットワークの概念と広域展開条件について述べる.応用例として,固定 ノードネットワーキングと気球ノードネットワーキングを取り上げ,ネットワーク構築と運用事例を考察する. 自動車ノードネットワーキングに関して,地理情報に基づくルーティングプロトコルの高度化手法を考察する. 無人航空機ネットワーキングに関して,広域被災地を電気自動車と連携して上空から調査する3 次元モバイル サベイランス構想を示す.広域展開型アドホックネットワーク分野の展望として,固定ノードを利用した自動車 ノードのルーティング高度化構想,飛行船を用いた複数回転翼型無人航空機の活動範囲広域化構想を述べる. キーワード アドホックネットワーク,電気自動車,気球,無人航空機,飛行船
1.
ま え が き
インターネットがARPANET(Advanced Research Projects Agency Network)を起源とすることはよく 知られている.モバイルアドホックネットワーク( Mo-bile ad hoc network: MANET)に関連する萌芽的研 究もほぼ同時期に軍事研究としてスタートしている. 1970年代以降,米国を中心に多くのMANET関連 の軍事研究プロジェクトが推進されてきた.DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency)によ る1972年開始のPRNET (Packet radio network), 1983年開始のSURAN (Survivable radio network) などが知られている.しかし,当時の技術ではパケッ ト無線装置などが大きく高価で,大きな電力を必要と し,商用利用できるものではなかった. 近年,LSI技術の進展によりコンピュータ機器や無 線通信機器の小型軽量化,経済化が実現し,移動通信 や無線LANの技術が急速に進展した.これによって, MANETの商用利用も視野に入ってきており,多くの 研究プロジェクト,テストベッドの構築,関連ビジネ †新潟大学教育研究院,新潟市
Niigata University, 8050 Ikarashi 2-no-cho, Nishi-ku, Niigata-shi, 950–2181 Japan
a) E-mail: [email protected] DOI:10.14923/transcomj.2016SHI0002
スも内外で推進されてきている.
本論文では,広域展開型アドホックネットワーク (Wide-area ad hoc network: WANET)の概念,構 成条件を示し,筆者の研究経験をベースに,WANET を実現するシナリオ,ノード配置,技術課題について 実現例を踏まえて考察する.
2.
アドホックネットワーク
2. 1 概 念 MANETはルータ,ホスト,無線通信等の機能と移 動性を有するノードから構成される.ノードは互いに 対等の関係にあり,自律分散的に振る舞う.MANET は単独運用される場合と,インターネットなどの固 定網へのゲートウェイをもつ場合がある.ノードの位 置,送信電力・干渉レベル,送受信方向などに依存し てノード間に無線リンクが設定され,ノード間に無線 ベースの接続関係(ネットワークトポロジー)が構成 される.直接の接続関係(リンク)をもたないノード 間では他のノードを中継するマルチホップにより通信 を行う. MANETの主な特徴を以下にまとめる[1]. 1)動的なトポロジー:ノードは移動自由であり,ネッ トワークトポロジーがランダムに,突然変化する場合 もある. 2)通信容量の制限:有線に比べて無線リンクの最大伝送速度(レート)は小さく,多元アクセス,フェー ジング,ノイズ,干渉などにより,スループットは最 大伝送速度より大きく低減する. 3)エネルギー制限:ノードの一部あるいは全てがエ ネルギーをバッテリに依存している. アドホックネットワークの規模については,特に限 定はなく,ノード数についても10以下の小規模なも のから数十,数百の大規模なものまでが想定される. 広域展開型アドホックネットワーク(Wide-Area Ad hoc Network: WANET)では,ノードが地理的に広 大なエリアに分布することを想定する.ノードが携帯 端末,ウェアラブル端末など,バッテリを電源とし, エネルギー制限がある場合には,MANETノードの 分布範囲も必然的にローカルなものになろう.そこで, 上記3のエネルギー制限を取り払い,エネルギー無制 限を第一の条件とする.更に,広域展開に有用なオプ ション的な条件を加えて以下にまとめる. 1)ノードのエネルギー無制限 2)多数ノードの参加 3)移動範囲の広域性 4)通信距離の延長 5)潤沢な帯域 6)多数のマルチホップ 7)転送ノードにおける蓄積転送 8)ノードの協調移動 9)転送専用ノードの導入 2. 2 ルーティングプロトコル パケットを送信元ノードから宛先ノードまで中継 ノードを経由して送るためのプロトコルをルーティン グプロトコルという.宛先ノードが一つの場合をユニ キャスト,複数の場合をマルチキャスト,全てのノー ドの場合をブロードキャストと言う.アドホックネッ トワークにおけるユニキャスト型ルーティングプロト コルは,トポロジー利用型と地理情報利用型に大別さ れる[2]. トポロジー利用型では,送信元ノードから宛先ノー ドにパケット転送が可能な中継ノードの系列(パス) を検出・選択する.ノードが高速移動し,ノード分布 が不均一に変動するような動的な環境では,一定時間 以上保持されるような安定パスが存在するとは限らず, パケット配送性能が低下する懸念がある. 地理情報利用型では,各ノードがGPSなどにより 自身の位置情報を把握していることを前提とし,送信 元ノードと各中継ノードにおいて,宛先ノードによ り近い次ホップノードを検出・選択する.このような 転送方法を貪欲前進法(Greedy forwarding)と呼ぶ. ローカルな位置情報(自身と隣接ノードの位置情報)を 利用するため安定パスが存在しない場合でも,パケッ トを宛先へ向けて,1ホップずつ転送させることが可 能であり,WANETにおいて適用範囲が広いと考えら れる.
3.
固定ノードのネットワーキング
3. 1 概 念 ノードを固定的に配置したアドホックネットワーク の構成が考えられる.広域展開条件1:エネルギー無 制限を実現するため,商用電源,またはソーラーパネ ルなどの再生可能エネルギーの利用による給電を前提 とする.ノードが移動しないので,条件4:通信距離の 延長を実現するため指向性アンテナを用いることが可 能である.更に,各リンクにおいてスループットが最 大となる最適な伝送レートを固定的に設定できる可能 性もある.条件9:転送専用ノードの利用も移動ノー ドの場合に比べて容易である. 固定ノードのアドホックネットワークが,通信バッ クボーンを構成する形態がある.各ノードは端末を収 容する.このようなネットワーク構成は無線メッシュ ネットワークと呼ばれる.中継機能をネットワーク層 で実現する方法とリンク層で実現する方法が考えら れる.後者の場合,各ノードはブリッジ機能と無線 LANアクセスポイント機能を有し,端末は無線LAN ステーションの形態となる. 3. 2 キャンパスネットワーク (1) ネットワーク構築 アドホックネットワークの通信実験を目的として, 2004年に新潟大学五十嵐キャンパスにノード数50の 無線メッシュネットワークを構築した[3].ノード配置 設計と工事の簡略化のため,オムニアンテナの利用を基 本とした.おおむね1000(m)× 600(m)の範囲のキャ ンパス全域にノードを配置し,孤立ノードが生じない ように,ノードの配置場所を検討した.IEEE 802.11b を用いた通信実験結果を地上高と無線伝送距離の理論 式に当てはめ,ノード配置設計に用いた.キャンパス 内に5∼6階建ての建物が密に立ち並び見通しが路上 の直線範囲などに限られるため,地上高2 m程度の ノード設置のみでは孤立ノードが生ずる.各建物屋上 間で通信試験を行い,無線リンクの状態を確認した. この結果に基づき,任意のノード間に複数の経路を確図 1 キャンパスネットワーク
Fig. 1 Node deployment in the campus network.
保するため,地上高20 m以上の建物屋上に37ノード を設置した.また,モバイル端末を用いた実験を行え るよう道路沿いの建物側壁に3ノード,街路灯に10 ノードを配置した.街路灯ノードの地上高を1.5 mと した.街路灯設置ノードの電源としてソーラーパネル を利用した.冬期など日照確保が困難な状況も想定し, 発電容量,バッテリ容量などのシステム設計を行った. 2008年に,約2キロメートル離れた農場を含むよう に拡張され,ノード数も90を超えた.図1にノード 配置を示す.青番号で示す当初のノードは小型Linux サーバ,2枚のIEEE 802.11bカード,2本のアンテナ, 赤番号で示す拡張後のノードはマザーボード(CPU, 1 GBメモリ,8 GB CF,32 GB SSD),2枚のIEEE 802.11b/gモジュール,1枚のIEEE 802.11b/g/nモ ジュール,5本のアンテナなどから構成される. (2) 運用事例と考察 当時IETFで標準化プロセスにあったプロアクティ ブ型ルーティングプロトコル(OLSRv2)のプログラ ム開発・実装を行い動作させた.制御メッセージ周期を 長くすることにより,パケット配送率を維持しつつ制 御オーバヘッドの削減が可能であることを示した[4]. 固定ノードであってもリンク品質の揺らぎにより,不 適切な経路選択が生じスループットが低下する場合が ある.そこで,リンク品質の低い不要なリンクをソフ ト的に切ること(リンクフィルタリング)により,ス ループット向上が期待できる.各リンクのレートごと のパケット送信成功率を求め,一定のしきい値を指標 としてリンクフィルタリングすることで,1フロー送 信実験において,高いスループットが得られることを 確認した.実験結果に基づき,リンクフィルタリング 図 2 山古志ねっと概要 Fig. 2 Yamakoshi-net overview.
パラメータの設定指針を確立した[5]. 3. 3 山古志ねっと (1) ネットワーク構築 中山間地にブロードバンド・サービスを経済的に提 供し,災害に強いネットワークの構築・運用管理技術を 実証的に研究することを目的とし,併せて復興支援に 寄与するため,2006年,中越地震で壊滅的被害を受け た旧山古志村に,山古志支所を起点とし竹沢・虫亀の 2地区をカバーする2階層の無線メッシュネットワー クを構築した[6].モニター宅にインターネット接続な どのサービスを提供し,約5年間の運用を行った.構 築したネットワークの全体構成を図2に示す.山古志 支所と各地区間は1∼2 km程離れているため,5 GHz 帯の高速無線アクセスシステムを用いて接続した.竹 沢地区に9個,虫亀地区に13個のノードを電柱上に 設置した.ノードは小型Linuxサーバ,2枚のIEEE 802.11bカード,無線LANアクセスポイント,3本 のアンテナなどから構成される.モニター宅には無線 LANアクセスポイントを設置し,モニターが使用す るパソコンと有線接続するとともに,無線LANクラ イアント(managed mode)として,最寄りのノード のアクセスポイントへ収容する. 本ネットワークはオール無線であることからFTTH などに比べて建設・運用コストの低減が可能で,中山 間地などの条件不利地域のブロードバンド化,デジタ ルデバイド解消の有力手段として期待される. (2) 運用事例と考察 温度センサ起動の空冷ファンにより,夏季の過熱に よる機器障害を防止した.冬季にはアンテナの渦巻き 状の部分に付着した積雪が氷結し通信障害が発生した
が,直線状のアンテナに取り換えることにより,再発 を防止できた.山古志ねっとの基本性能を評価するた めに,2ノード間無線リンクのスループット,パケット 配信率,受信信号強度(RSSI)の定期的測定を実施し た.測定を起動する制御コマンドの送信を一斉に行う と,無線接続が不安定なノードが制御コマンドを受信 できず,正常に測定を開始できない事例があった.そ こで,各ノードが自律的に指定時刻に測定を開始する よう変更した.これにより,一日2回の測定を継続し て正確に行えるようになった.測定結果から,スルー プットやパケット配信率が長期間安定しているリンク と,不安定なリンクがあることが確認できた.原因と して,リンクごとにアンテナの高低差・向き,距離, 地形,道路,立木などの周囲状況が様々であり,天候, 工事車両の通行などの電波伝搬・反射・干渉特性への 影響も異なることによるものと考えられる.また,2 ノード間でリンクのパケット配信率が低い場合でも, 他ノードを経由するパケット配信率の高いリンクを使 用し,マルチホップで迂回経路を確保できることを確 認した.人為的なミスや予期せぬ原因によりノードが 停止または遠隔制御不可となった場合に現地に出かけ, ノードを再起動させることは困難である.そのため, 一週間に2度,各ノードの自動再起動を行った.こ の再起動間隔の選択に当たって,3.2に述べたキャン パスネットワークの運用経験から,運用上大きな支障 が起こらないこと,間隔が短すぎると,ノード故障の 有無を把握できなくなることを考慮した.また,異常 停止等の発生原因の割り出しやネットワークの監視を 行うために,SNMP(Simple Network Management Protocol)を用いて各端末のトラヒック,CPU使用 率,メモリ空き容量を常時監視するようにした.これ らにより,各種トラブルへの対応を行った. 各リンクにおいてスループットが最大となる最適 レートを事前測定・設定することにより,オートレー トよりスループットを大きく向上させることが期待 できる.使用した無線LANドライバではリンクごと にレートを固定設定することができなかったため,全 ノードで均一のレートを設定する方法(均一固定レー ト設定方式)とノードごとに適切な送信レートを設定 する方法(ノード単位固定レート設定方式)を比較し た[7].評価尺度として,各ノードとゲートウェイとな るノード間のスループットの平均値(平均スループッ ト),ゲートウェイへ接続可能なノードの割合(接続 率)を用いた.接続率100%を条件とした場合,ノー ド単位固定レート設定方式は均一固定レート設定方式 より約20%のスループットの向上が見られた. 3. 4 被災地におけるネットワーク構築 (1) ネットワーク構築 東日本大震災の発生に伴い,被災地でのアドホッ クネットワークの構築と研究開発中であったメッセー ジ通信サービス(Message Communication Service: MCS)の提供を試みた[8].通信設備の被災状況に関 する情報をもとに,東松島市にサービス提供を提案し, 市側の要望も踏まえ,宮戸地区の奥松島縄文村歴史資 料館でサービス提供を行うこととした.緊急時であり, 新たに使用機材を調達する時間的余裕はない.そこで, 新潟大学キャンパス内及び周辺の既存設備で利用され ていたものを撤去し,再利用した.2011年3月下旬 から現地調査,ネットワーク設計を行い,5月中旬に 1週間程度のネットワーク設置工事を実施し,5月末 のサービス提供開始となった. 鳴瀬総合支所(A地点)ではインターネット接続が 利用可能であったため,そこから直線距離で約7 km 離れた資料館(D地点)まで線状の無線メッシュネッ トワークを構築し,資料館内に設置したMCS端末か らのインターネット接続を可能とした(図3).A地と D地点を結ぶ中継ノード設置場所として,利用する無 線通信方式の通信距離と現地調査による見通し状況に 基づき,野蒜築港資料室(B地点)と大高森展望台(C 地点)を選定した.ノード設置場所を決定した後,現 地に使用予定の指向性平面アンテナ,無線LAN利用 の中継ノードをもち込み,リンク間の通信品質測定を 行った.最長直線距離4.4 kmのB,C地点間では通 信が確立されることは確認できたがスループットが極 図 3 東松島市のネットワークとサービス Fig. 3 Network configuration and its service in
めて低く,メッセージ通信サービス提供には不十分と 考えられたため,25 GHz帯小電力データ通信装置を 用いて再実験を行った.結果より,安定した高スルー プットが得られることが分かった.その他のリンクで は無線LANと指向性平面アンテナを用いて,4ノー ド3リンクのネットワークを構築した.エンドツーエ ンドで約5 Mbpsのスループットが出ており,サービ スの円滑な提供が可能であることを確認できた. B地点とC地点については停電等で商用電源の利 用が困難であったため,ソーラーパネルとバッテリを 利用した.25 GHz帯小電力データ通信装置の利用に 伴い1日当たりの稼働時間の制限が必要となり,夜間 (17:15∼8:45)は,電源タイマーによってノードを停 止する運用とした.アドホックネットワークを構成す る4ノードとMCS端末にフリーズなどの不具合が起 きた場合,現地に出かけ対応することは極力避けたい. そこで,可能な限りメンテナンスフリーとし,メンテ ナンスが必要な場合も遠隔で対応可能となるように, ノードの小型Linuxサーバ・MCS端末用パーソナル コンピュータの定期リブートと遠隔操作,リンク間通 信品質の常時監視を実施した. (2) 運用事例と考察 震災発生からサービス提供までに約2ヵ月半を要し た.その時点で既に携帯電話サービスが仮復旧してい たため,提供したサービスが避難者の通信ニーズに役 だったとは言い難い.資料館は避難物資の集配所とし て利用されていたが,避難所そのものではなく,端末 の配置が避難者の目につきやすい場所ではなかったこ と,サービス利用補助者を常駐させられなかったこと, 高齢者が多く,被害対応・生活確保に追われる避難者 に新サービスへの関心をもつ余裕もなかったことも利 用低調の原因として考えられる. 各自治体が大規模災害時の避難所位置と連携したア ドホックネットワークの構築計画(利用機器の調達, ノードの配置場所など)を策定し,防災計画の一環と して組み込むことができれば,災害発生後の資材調 達,現地調査,各種手続き・調整等が必要最小限とな り,サービス開通までの時間を大幅に短縮可能と考え られる.
4.
気球ノードのネットワーキング
4. 1 概 念 柱上設置に比べてノード設置を大幅に簡易化,迅速 化し,併せてノード間見通しを確保し,積極的に条件 4:通信距離の延長を実現するため,対象地域におい て複数の気球をそれぞれロープにより地上支点に係留 し,上空に配置する.気球にはノードを吊り下げ,ア ドホックネットワークの通信バックボーンを構成する. 広域展開条件1:エネルギー無制限を実現するため,地 上電源からノードまで,電源コードを配線する,バッ テリ消耗時に気球を降ろして,バッテリを交換する, 気球表面をソーラーパネルで被覆するなどが考えられ る.気球が風を受けて揺らぐため,気球ノード間のリ ンク切断が頻繁に発生する.このため,広域展開条件 7:転送ノードにおける蓄積転送が有効になる.この 蓄積転送は転送不可時,ネットワーク層,あるいは上 位層においてパケットの蓄積を行うものである.指向 性アンテナの利用は,ノードの姿勢変動があるため, 困難である.地上にノードを配備し,気球ノード間の 通信を地上ノード経由で行う構成を採用すれば,地上 ノード側に指向性アンテナを用いることにより,通信 距離延長が可能である. 4. 2 スカイメッシュ (1) ネットワーク構築 大規模災害時,既存の通信サービスが復旧するまで のつなぎの通信サービスを迅速に提供するため,気 球ノードを用いた臨時通信ネットワーク(スカイメッ シュ)を世界に先駆けて開発した[9].ノードは低消 費電力のプロセッサとIEEE 802.11a/b/gモジュール 搭載のボード,気球ノード間通信用の無指向性アンテ ナ,対地通信用の平面アンテナ,USBカメラなどから なり,塩化チオニルリチウム電池4本により約8時 間稼働する.ノードの総重量は442 gである.地上高 50 m∼100 mに気球ノードを配置する.図4に概念図 図 4 スカイメッシュ構想 Fig. 4 Skymesh concept.を示す.地上の1か所にノードと衛星地上局を配備し, スカイメッシュとインターネットを接続することによ り,被災地のモバイル端末に対する通信・情報サービ スの提供,ノードに装備したカメラを用いた被災地の 状況把握などが可能になる.また,気球自体が目印と なるので,被災者はその近くへ移動して情報獲得や避 難経路の確認などに利用することができる.鉄塔利用 に比べればネットワーク構築コストは無視できるほど 小さい.3∼5日の連続稼動,ヘリウムガス補充により 更に長期間の利用も容易である.近年,気球ノード構 想の実用化が内外産業界で検討されている. (2) 運用事例と考察 2010年8月2日∼4日に五十嵐キャンパスにおい て,気球ノードと指向性アンテナ付き地上ノードを用 いた通信実験を行った[10].スループット測定の結果 から気球–地上ノード間の最大通信距離は約2.4 kmで あった.また,距離が1 km以内であれば,スループッ トが高く安定した通信ができた.地上ノードを経由さ せることにより気球–地上–気球ノード間の最大通信距 離は4.8 km程度になる.なお,2006年に新潟大学構 内で実施されたスカイメッシュ実験では,気球ノード 間通信距離は最大で400 mであった.気象条件が異な るため正確な比較はできないが,地上ノードを経由さ せることにより気球ノードを設置する間隔を大幅に延 長できると考えられる.
5.
自動車ノードのネットワーキング
5. 1 概 念 自動車にノードを取り付けたアドホックネットワー クの構成が考えられる.自動車バッテリの利用により, 広域展開条件1:エネルギー無制限は成立する.自動 車の普及により,都市部を始め,多くの地域で,条件 2:多数ノードの参加,条件3:移動範囲の広域性も成 立する.一方,交通状況は場所と時間帯により大きく 変動するため,閑散場所・時間帯では通信範囲内に他 の自動車が存在しない場合もあり,広域展開条件7: 転送ノードにおける蓄積転送が必須となる. 自動車ノードを利用するアドホックネットワークは VANET(Vehicular ad hoc network)と呼ばれ,多 くの研究が行われてきた[11].アプリケーションとし て,衝突事故の回避,危険な道路状態や渋滞状況の周 知,レストランや駐車場の案内,インターネットアク セス,自動車の維持管理など自動車利用に関するサー ビス提供の他,環境情報収集を目的とするセンサネッ トワーク構築など,自動車利用とは直接関係のない サービス提供も考えられる.後者は特に地理的に広範 囲の自動車の参加によりサービスの有用性が向上する と考えられ,WANETのアプリケーションとして注目 に値する. 5. 2 地理情報に基づくルーティングプロトコル VANETには広範囲の多数のノードが参加するこ と,ノードが高速移動すること,ノードの分布密度, 隣接関係が時間的に大きく変動することなどの特徴が あり,このような過酷な環境に対応できるルーティン グプロトコルが要求される.自動車搭載センサが獲得 したセンサ情報を各地域の環境情報集積拠点などに配 送するユニキャスト型のルーティングプロトコルとし て,2.2に述べた地理情報利用型が適している. 貪欲前進法では,自身より宛先に近いノードが存 在しない場合にパケット転送が失敗しデッドロックに 陥るローカルマクシマム問題があり,これに対応す るため,ペリメータ転送,街路選択再計算,蓄積転送 (Carry & forward)などの方法がある.許容できるパ ケット配送性能を達成するため,地理情報に基づく街 路感知に加え,トラヒック/パケット感知が必須と考 えられる.特に,トラヒック/パケットレベルの統計情 報に加え,リアルタイム情報を有効に活用する必要が ある.更に,交通トラヒックの空間的・時間的な変動 に対応するため,地理情報を用いたルーティングを支 援する固定ノードの利用が有用と考えられる[12].6.
無人航空機ノードのネットワーキング
6. 1 概 念 近年,無人航空機(Unmanned aircraft: UA)を用 いた様々なサービスの実現に関心が高まっている.UA には浮力を得るために固定翼または回転翼を用いるも のと,気球を用いるもの(飛行船)がある.回転翼に はヘリコプター型と複数回転翼型(Multirotor-wing UA: MRW-UA)がある.特に注目されているのは, 小型,滑走路不要,空中静止可能,低コスト,飛行制 御容易などの特徴を有するバッテリ駆動のMRW-UA である. MRW-UAに通信機器を搭載し,UAノードのアド ホックネットワークを構成することにより,アプリケー ションの拡大,高度化などが可能になると期待される. MRW-UAは一般にバッテリを動力源とするため,航 続距離・時間上の制約が大きい.一例として,運搬物 資なしの場合で,最大時速60 km,航続時間は15∼30分程度である.したがってMRW-UAノードのア ドホックネットワークにおいて,WANETの必須条 件であるエネルギー無制限を実現するにはMRW-UA バッテリへの給電ステーションが必要になる. 給電には次の二つの方法が考えられる. • バッテリ充電方式:MRW-UAにバッテリを搭 載したまま,非接触充電を行う. • バッテリ交換方式:MRW-UAの使用済バッテ リを取り外し,フル充電のバッテリを装着する. バッテリ充電方式では,ステーションに充電設備が 必要になる.ステーションの機械的構成は比較的単純 であるが,充電終了まで,一定の時間を要する.バッ テリ交換方式では,ステーションに予備バッテリと自 動交換装置が必要になる.また,使用済バッテリの再 充電を行うための充電設備が必要になる.ステーショ ンの機械的構成が複雑化するが,短時間のバッテリ交 換後,直ちに飛行を再開できる. 6. 2 3次元モバイルサベイランス 大規模災害の被災地などを効率的に調査するため, 上空からのモニタリングが有効と考えられる.電気自 動車(Electric vehicle: EV)とMRW-UAのペアを 被災地に多数配置して,モニタリングを行う3次元モ バイルサベイランス(3 Dimensional Mobile Surveil-lance: 3DMS)構想(図5)では,EVにMRW-UA の運搬,発着,EVバッテリからMRW-UAバッテリ への給電等の母船機能をもたせる[8].これにより上空 からの長時間のモニタリングが可能になる.EVの乗 員が運転者1名の場合,MRW-UAの手動操縦は困難 であり,原則自動操縦が必要である. 図 5 3次元モバイルサベイランス構想 Fig. 5 3-Dimensional mobile surveillance.
上空からのモニタリングにより広範囲の災害地を見 渡すことが可能になる.道路のない場所,障害物によ りEVがアクセス困難な場所へも上空から接近し,写 真撮影,生存者発見等を行うことが可能である.EV とMRW-UAはアドホックネットワークを構成してお り,各EV,MRW-UAが収集した情報の共有,情報 収集基地局への転送等を行う.地上EV間が見通し無 し等により直接通信できない場合,上空のMRW-UA をリレーノードとして利用する.3DMSにおけるネッ トワーク設計指針が検討されている[13].
7.
展
望
7. 1 自動車ノードネットワーキングの高信頼化 自動車ノードと同等の通信機能を有する固定ノード の利用により,VANETベースのセンサネットワーク の信頼性,有用性向上が期待される.固定ノードは交 差点や道路沿いに配置される.固定ノードの役割は以 下のとおりである. 1)センサ情報を運ぶ自動車ノードがセンサ情報の最 適配送街路と異なる方向に向かう際,その街路方向に 移動する他の自動車ノードを検出できない場合,固定 ノードにセンサ情報を預ける. 2)固定ノードはトラヒック・パケットレベルのモニ タリングを同一地点で連続的・周期的に実行できる. これによりモニタリング効率と精度,有用性の向上が 期待できる. 3)最新のモニタリング情報を利用して街路選択計 算を周期的に行い,自動車ノードに提供する.自動車 ノードは街路選択計算の負荷と時間を節約できる. 4)パケットの配送経路上で,下流固定ノードは上流 固定ノード宛てに配送したパケットの複製を保管して おき,上流固定ノードがパケットを受信すると確認応 答を下流固定ノード宛てに送る.一定時間内に確認応 答を受信しない場合には,パケット再送を行う.これ によりパケット配送の信頼性向上が期待できる. 固定ノード設置の費用対効果が最大となるように固 定ノード配置を決定するための方法が必要である.ま た,固定ノードを用いてリアルタイムのトラヒック・ パケットレベルのモニタリングとモニタリング情報の 共有を低オーバヘッドで実現するためのプロトコルが 必要である.本手法はUAノードのネットワーキング においても有効と考えられる. 7. 2 無人航空機の広域移動能力実現 6.2にEVとMRW-UAを組み合わせて利用する構想を示した.EVの代わりに飛行船を利用する形態も考 えられる.飛行船は大型化やエンジン搭載も可能で飛 行範囲の拡大が容易である.本システムをハイブリッ ド無人航空機システム(Hybrid unmanned aircraft system: H-UAS)と呼ぶ.H-UASでは,飛行船は MRW-UAを業務目的地まで運搬する.MRW-UAは 目的地で飛行船から切り離されて業務を遂行し,完了 後,飛行船に帰還する.この間,飛行船は空中で待機 し,MRW-UAの飛行制御,帰還したMRW-UAの回 収を行う.飛行船ノード間では見通しが確保される. 気球に比べて姿勢安定化が容易であり,指向性アンテ ナ利用による長距離リンクの確立も可能である.この ため飛行船ノードからなるアドホックネットワークは MRW-UAに対して通信バックボーンを提供できる. 業務として被災地等の調査,物資運送等が考えられる.
8.
む す び
広域展開型アドホックネットワークの概念と条件に ついて述べた.応用例として,固定ノードネットワー キングと気球ノードネットワーキングを取り上げ,ネッ トワーク構築と運用事例を考察した.自動車ノード ネットワーキングに関して,地理情報に基づくルー ティングプロトコルの高度化手法を考察した.無人航 空機ネットワーキングに関して,広域被災地を電気自 動車と連携して上空から調査する3次元モバイルサベ イランス構想を示した.最後に,自動車ノードネット ワーキングのルーティング高度化と飛行船を活用した 複数回転翼型無人航空機の広域利用に関する展望を述 べた. 謝辞 本研究は科学研究費補助金基盤研究(A)「ミ ニ電気自動車を用いたアドホックネットワークとその 利用に関する研究」に基づくものである.当時の研究 室メンバ,大和田泰伯氏,高橋義彦氏,岡田啓氏には 多大のご支援を頂いた.ここに感謝の意を表する. 文 献[1] S. Corson and J. Macker, “Mobile ad hoc networking (MANET): Routing protocol performance issues and evaluation considerations,” IETF RFC 2501, 1999. [2] 間瀬憲一,“車々間通信とアドホックネットワーク,”信学
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[5] 高橋義彦,兼子陽市郎,間瀬憲一,“無線メッシュネット ワークにおける高スループット経路選択に関する実験的検 証,”信学論(B),vol.J90-B, no.3, pp.311–314, March 2007. [6] 間瀬憲一,岡田 啓,大和田泰伯,“中山間被災地復興へ向 けた無線ブロードバンド提供の実戦的取組み—山古志ねっ と共同実験プロジェクトの概要,”信学誌,vol.91, no.10, pp.857–861, Oct. 2008. [7] 岡田 啓,北原弘隆,間瀬憲一,“無線メッシュネットワー クにおけるノード単位送信レート選択手法,”信学論(B), vol.J94-B, no.12, pp.1556–1565, Dec. 2011.
[8] 間瀬憲一,斎藤卓也,高 靖,“電気自動車を利用する大 規模災害時の通信確保及び被災地モニタリング,”信学論 (B),vol.J96-B, no.6, pp.562–571, June 2013. [9] 間瀬憲一,“大規模災害時の通信確保を支援するアドホック
ネットワーク,”信学誌,vol.89, no.9, pp.796–800, Sept. 2006.
[10] 岡 宏典,岡田 啓,間瀬憲一,“気球と地上ノードを用 いた緊急時のアドホックネットワーク構築システム,”信 学論(B),vol.J94-B, no.7, pp.822–832, July 2011. [11] H. Hartenstein and K.P. Laberteaux, “A tutorial
sur-vey on vehicular ad hoc networks,” IEEE Commun. Mag., vol.46, no.6, pp.164–171, 2008.
[12] K. Mase, “A survey of geographic routing protocols for vehicular ad hoc networks as a sensing platform,” IEICE Trans. Commun., vol.E99-B, no.9, pp.1938– 1948, Sept. 2016.
[13] K. Mase, “Wide area surveillance using electric vehi-cles and limited-flying-time helicopters,” Sensors & Transducers Journal, vol.185, no.2, pp.84–92, 2015. (平成 28 年 12 月 1 日受付,29 年 2 月 12 日再受付, 6月 7 日早期公開) 間瀬 憲一 (名誉員:フェロー) 昭 45 早大・理工・電気通信卒.昭 47 同 大大学院修士課程了.同年電電公社武蔵野 電気通信研究所入所.平 6,NTT 通信網 研究所・通信品質研究部長.平 11 新潟大 学工学部情報工学科教授.平 25 新潟大学 名誉教授,工博.平 5 年度本会論文賞,平 25年度本会業績賞,平 27 年度本会功績賞,2004 年 IEEE Fellow,2010 年 IEEE CQR Chairman’s Award 受賞.著書 「無線 LAN とユビキタスネットワーク」(共著),「アドホック・