香 川 大 学 経 済 論 叢 第69巻 第 2・3号 1996年 11月 211-236
日本銀行の金融調節について*
藤 井 宏 史
I は じ め に 日本における金融政策論研究の発展は,J
.
.
Tobin
による資産市場の一般均衡 分析を日本に適用した鈴木淑夫氏の一連の業績に負うところが大きい。しかし ながら,その後の金融政策論争を考えるとき,基本的にベースマネーを操作変 数にした彼の定式化が結果的に日本銀行の政策運営のやり方であると理解され たのは不幸なことであった。そうした取り扱いは,戦後一貫してコ、ールレート より低い水準に設定された公定歩合のもとで日銀信用の割当てが行われていた 事実を根拠にしていたが,これにコールレートが各種金利の中で最も変化が著 しい市場金利であるという事実が重なって,多くの経済学者に受け入れられた。 もちろん,たいていの経済学の教科書で解説される,ベースマネーを起点とし たマネーサプライの決定メカニズムと斉合的なこともそれに貢献した。 ところが,ベースマネーを操作変数にしたモデルの分析結果は,現実の金融 変数の動きや日銀側の政策効果の説明と矛盾する点が多く,1
9
7
0
年代以降の金 融政策論争はたいていの場合,それが議論の出発点であり中心でもあった。大 まかに言えば,論争はこつの方向でなされた。一つは,鈴木モデルを操作可能 *小論は,平成8年度香川大学経済学部経済学科プロジェクト費による研究の一部である。 (1) 鈴木氏の金融モデルは,日銀の政策運営方式を短期静学モデJレの枠組みに巧みに取り 入れたものとなっていたが,短期金利(コールレート)を操作変数にしたモデルではな い。鈴木 (1966) (1974)。堀内モデルについては,たとえば堀内 (1981)。 (2) 1970年代以降の主要な金融政策論争は,①石油ショック時の政策運営の是非,②公定 歩合政策と窓口指導の有効性,③ノTフ。ル崩壊前後の政策運営の是非をめぐって行われた。 ①については,小宮(1988),外山(1980),②については,呉(1975),堀内(1980),古川 (1985),寺西(1982),③については,翁(1993),岩田(1993),香西(1992)を参照。-212- 香川大学経済論叢 494 な形で単純化した堀内モデノレを基準にしつつ,日本銀行の唱える金融政策手段 の有効性が導出されるためにはそれを如何に修正すべきかが議論された。もう 一つは,堀内モデルの特徴であるベースマネーを操作変数にした金融政策運営 の正当性を前提に,日本銀行の政策運営の有効性に疑問を投げかける議論であ る。これに対して,日銀関係者からは自行の政策運営や政策観の正当性を示す ために理論実証の両面から精力的に研究成巣が発表されたが,その中で安田 (1981),神崎(1988),岩村(1991),翁(1991)(1993)らによる,短期金利の誘導 を目的とした
1
ヶ月単位の金融調節のメカニズムの研究が理論的に重要で ある。というのも,いずれの方向性においても,現実に行われている日本銀行 の金融調節の内容を正確に把握することが,論争のキーポイントになるからで ある。 しかしながら,依然として 1ヶ月単位で行われる日本銀行の金融調節を定 式化したモデルは見受けられないのが現状である。本稿の第一の目的は,こう した研究成果をもとにして,日本銀行が実施している1
ヶ月単位の金利誘導メ カニズムをできるだけ忠実に表した動学モデルを提示し,日本型金融政策運営 の動学的な性質を調べることである。このモデルの定式化は,短期金利誘導政 策と短期金利の著しい変動を整合的に理解する上でも重要である。 ところで,日本銀行が1
ヶ月の聞に短期金利を目標金利に誘導しているとす ると,それ超えた期間では,この目標金利の操作によって政策効果をめざす金 利操作型の金融政策運営を行っていることを意味する。周知のように,短期金 利操作型とベースマネー操作型の政策運営は二者択一であるから,日本銀行の 短期金利操作型の政策運営の妥当性を問うことは,とりも直さずべ}スマネー 操作型の政策運営の妥当性を問うことに他ならない。したがって,金融政策論 争の中で行われた日本銀行の金融政策運営をめぐる議論の焦点は,ベースマ (3 ) 以下で使う短期金利は,コールレートや手形レートを表している。 (4 ) ある政策が実行可能ということと,その政策が望ましいということは,明らかに質が 異なるが,問題によっては識別しにくい場合もある。例えば,その政策が実行可能でも 実行に伴う社会的費用が代替的な政策よりかかり,望ましくないということもありうる。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
495 日本銀行の金融調節について 213ー ネー操作型の政策運営が実行可能か否かということと,それが金利操作型の政 策運営と比べて望ましいか否かということのこ点であった。 欧米先進諸国の中央銀行がおおむね金利操作型の金融政策運営を採用してい るので,こうした論争は日本に限ったことではないが,なぜ中央銀行が金利操 作型の金融政策運営を選択するのかを明らかにする上でも,このニつの論点、は 重要である。そこで本稿の第二の目的は,この視点から金融政策論争のポイン トを整理することである。 一般に,実行可能性の問題を別にして最適な操作目標の選択基準を考える場 合,すぐに思いつくのは最終目標の不確実性の程度に求めるW..Pooleの基準 であろう。しかし,その方法では,ある政策を実施したことによって生じる不 確実性は無視されている。現実には何を操作目標にするかによって,意思決定 に関わる不確実性が異なる可能性があり,明らかに,金利操作型とベースマネー 操作型の政策運営とでは,短期金利の不確実性(リスク)の大きさが異なる。 そこで,本稿の第二の目的は,いずれの政策も実行可能であるとして,両政策 の優劣を考える場合,金利リスクが重要な役割を果たすことを示すことである。 以下では,
n
贋序は相前後するが,まず、次節で日本銀行の金融政策運営の概要 を示し,最近の金融政策論争の論点、を整理する。そしてIII節で,日本銀行の1ヶ 月単位の動学的な金融調節モデルを提示してその性質を明らかにする。最後のI
V
節では,金利リスクを考慮した単純な銀行行動のモデルを提示し,それを利 用して金利操作型とベースマネー操作型の政策運営が銀行行動への影響を介し て政策効果に知何なる相違をもたらすかを調べることにする。 II 金融調節とベースマネー 日本銀行の金融政策運営は,おおむね次のように要約できる。( 5) 米国の金融政策の運営方式については,例えばBernanke& B1inder (1992), Balke & Emery (1994)
,
Robert (1995),
Romer (1996)参照。(6) ベースマネー・コントロールの可能性とは,ベースマネー量を一定期間の聞に目標値 に誘導できるか否かという意味である。
-214ー 香川大学経済論叢 496 日本銀行は,従来から公定歩合を基本的な政策シグナルとしている。しかし, より短期的な政策シグナノレとして,コーノレレートに代表される銀行間短期金利 の目標水準を定め,マネーサプライや銀行貸出といった中間目標を達成すべく
1
ヶ月単位で短期金利を誘導する方式を採用している。これが一般に言われる 金融調節である。 そして,この金融調節は,財政収支等の季節変動による一時 的なベースマネー需要の変動をならすべく信用の供与・吸収を行う受動的調節 と,政策意図をもって短期金利を能動的に誘導する積極的調節のごつの側面を 持っているが,重要なのが後者である。 この積極的調節の前提となるのが次に説明するわが国独特の準備預金制度で ある。わが国の準備預金制度は,ある月の平均預金残高を基準に計算される所 要準備額を当該月の16日から翌月の15日の1ヶ月間の平残で積むことを課して いる。この制度は厳密には,後積みと同時積みの混合方式だが,所要準備の確 定に対して準備の積みが後にずれ込むという点で基本的には後積み方式と理解 される。そうすると,確定済みの所要準備額をもとに,民間銀行は積み最終日 までの短期金利の推移を予想しつつ,例えば金利の上昇を予想すれば積みの進 捗を早めるという具合に,効率的な準備の積み行動が可能になる。日本銀行は, こうした準備預金制度と金利予想に基づく民間銀行の積み行動を前提にしなが ら準備供給のテンポの調整を通じて民間銀行の金利予想に影響を与え,市場 短期金利を最終日の目標金利に誘導する方式を採用している。そして。積み期 間を超える範閤では,この目標金利を操作変数にして中間目標や最終目標を達 成する短期金利操作方式を行っている。要するに,日本銀行の金融政策は,一ヶ 月単位の金融調整を前提にした短期金利操作型の金融政策ということができ る。 バブル崩壊後の翁・岩田論争は,それ以前の金融政策論争の集大成と位置づ けることができるが,この論争においても,日本型金融政策の短期金利操作方 (7) 積み初日(16日)に公表される各銀行の予想必要準備額と当該月末の確定額との聞の 予想誤差は大きくはない。翁(1993)p46参照。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
497 日本銀行の金融調節について 215-式としての側面が議論の中心を占め,短期金利操作方式と代替的なベースマ ネー操作方式の是非をめぐって展開された。 まず日銀関係者は,ベースマネー需要を構成する公衆の現金需要,銀行の準 備預金需要ともに短期金利に対して非弾力的であることを理由に,ベースマ ネー・コントロールは困難と主張する。すなわち,公衆の現金需要は預金の完 全党換を前提とする限り,需要に応じて供給をせざるをえないし,民間銀行は 後積み方式のもとで確定した所要準備額を積み最終日には知何なる金利であろ うと充足せざるをえない。こうしてベースマネー需要が金利非弾力的なら,積 み期間を通じたベースマネーの需給不均衡は短期金利によって調整することが できないので現行のように目標短期金利で需要に応じたベースマネー供給をせ ざるをえない。仮にベースマネー供給を需要と独立にコントロールすれば,短 期金利は急激な乱高下し,経済全体の決済が集中する準備預金の機能不全をも たらして信用秩序を危うくするというわけである。 こうした金利操作方式不可避論に対して,岩田(1993)は次のように批判する。 彼は,教科書的な貨幣乗数公式を前提にして,金融政策の操作目標を短期金利 にすると,マネーサプライのアンカー (anchor)たるベースマネーを結果的に変 動させ,中間目標ひいては最終目標自体の達成を困難にするばかりか,場合に よっては経済を不安定化させるので,操作目標としてはベースマネーが望まし いとする。そしてベースマネー・コントロール不可能論に対しては,ベースマ ネーのコントロールは不可能といいながら,実際にはベースマネーのコント ローノレで金利誘導を行っていると批判し,以下のようにすれば可能であると主 張する。すなわち,現行の制度下では,短期に準備需要の弾力性が極めて小さ いとしても,中期・長期では,預金・貸付の金利弾力性が大きくなるので,準 備需要の弾力性も大きくなる。それゆえ,短期では,短期金利の乱高下を避け るためにベースマネー供給量は少ししか変化できないが,より長期になれば ベースマネー供給量を変化させる自由度が高まり,ベースマネーのコントロー ルが一層容易になるというのである。 また,短期の準備需要の金利弾力性が小さいのは,後積み型の準備預金制度
498 を前提にした積み調整によるところが大きし銀行が超過準備を保有するイン センティブが生じるように,現行の準備預金制度と積みの調整方式を変更すれ ー ; i l i I J i l i t i -香川大学経済論議 216 ベースマネー操作方式が可能となると主 ば,準備需要が金利弾力的になって, 張している。 結局,現行の後積み型の準備預金制度を前提にした積み調整方式を前提にす る限り,短期の準備需要の金利弾力性は小さいかもしれないが,政策の視野を 長く取れば,準備需要は金利弾力的になりうるし,現行の後積み型の準備預金 制度を変更してベースマネー操作方式に転換すれば,短期の準備需要も金利弾 自ずと実施可能になるというわけである。 力的になるので, こうして見ると,両者の聞の基本的な相違点は準備需要の短期金利弾力性と それぞれ政策運営方式の実行 短期金利の変動に対する評価である。これらが, 可能性と最適性を判断する際の基準となっている。 まず,準備需要の短期金利弾力性については, 日銀関係者が短期的には準備 需要の弾力性が小さいと考えているのに対し,批判論者はそれが現行の後積み 型の準備預金制度を前提にした金融調節のせいであり,政策の運営方法をベー スマネー操作型に転換すれば,準備需要の弾力性は大きくなると考えている。 次に,短期金利の変動については,日銀関係者が短期金利変動の社会的費用 の方が短期金利安定化のそれより高いと考えているのに対し,批判論者はその 逆の評価を下していると思われる。 (8 ) 岩田 (1993)は,積み期間中であっても,期中の短期金利に貸出と証券投資が多少反応 して変化するはずだから,準備需要は完全に金利非弾力的ではないと述べている。 (9 ) これに対する翁の反論は次のようなものである。確かに政策の時間的な視野の長さで 準備需要の弾力性が異なるが,短期でコントロールできないものは政策手段としては役 立たない。また,現行の後積み方式を変更して同時積み方式にしても,日々積みの最終 日になるため,いずれにせよ準備需要は金利非弾力的である。 (10) 現金需要の金利非弾力性を共通理解とすれば,ベースマネー需要の短期金利弾力性は 準備需要の短期金利弾力性に等しい。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-217-日本銀行の金融調節について 499 日本銀行の「積みの調整モデル」 前節で示したように,この間の金融政策論争の中心は短期金利操作方式の是 その前提である金融調節自体の有効性が問題にされることは稀 である。数少ない例としては,堀内 (1981)があげられよう。それによれば, 日銀が積み最終日に目標短期金利を達成すべく所要準備に等しい準備供給をし て積みの帳尻合'わせをするのであれば,民間銀行があえて積みの調整に労力を 割くはずがないというのである。それに対して,従来日銀関係者の多くは,積 み最終日の積み不足に対する脅しゃべナルティーがあるから積み調整が有効で あるかのような説明を行ってきた。 しかし,いずれの見解も, を見失っている。 そうした積み最終日のペナルティーがあるなしに 関わらず,民間銀行には積み調整のゲームに参加するインセンティブがある点 というのも現行の準備預金制度は,基本的には後積みの制度 だから同時積みの制度に比較して民間銀行の準備の積み立て行動に自由度があ り,効率的な準備の積み行動が行えるからである。 積み期間二日のモデルでこの点を明らかにしたのが,翁(1993) こで,積み調整の動学モデルを提示する前に,翁(1993)では明示されていな い銀行の積み期間中の貸借対照表を陽表化して民間銀行の最適な積みの調整行 動を示し,あわせて金融調整のメカニズムを説明しておこう。 効率的な積み調整について,次のような単純な例を考える。 100%準備率制の もとで積み立て期聞を 2日とし,少なくとも平均で初期預金残高を維持すべく 総資産の一部を積み立て,残りを短期貸付に回すものとする。初期預金残高を
A
,第 t期の積み立てと短期貸付の残高を Xt,Ytとし,その他資産負債は無視 そ である。 T A -非であったが, する。そして,一日目の短期金利と二日目の予想短期金利をそれぞれ,t
,t
e とおくと,銀行にとっての問題は,3
日目の総資産を最大にするように最適な 堀内(1981)p85参照。 鈴木・黒田・白川(1988)脚 注12参照。 (11) (12)-218 香川大学経済論叢 500 積みパターンを決めることになるから,以下のような簡単な線形計画問題とし て定式化できる。
XI+YI
=A
X2+Y2
=X
I
+(1 +
i
)
Y
I
X
3
=
X2+
(
1
十z
e
)
Y
2
→max S..t.. Xi 主主OX
I
+
X
2
=2A
(1)(2)(4)式を (3)式に代入すれば,以下のようになるoX
3
=
A
+
(
i
U
十i
e
)
-z
e
)
(
A
-X
I
)
(1) (2) (3) (4) (5) よって ,i
e=ze/(l+ze)
とおげば, (5)式を最大にする積みパターン(
X
I
,X
2
)
は 以下のようになる。i
e
の場合は (4)式を満たす任意の(
X
I
,X
2
)
に対して ,X
3
=Ao
i> i
e
の場合は(
X
I
,X
2
)
=
(
0
,2A)
のとき最大で,X
3
=
A
+(1
十i
)
(i-f
e
)
Ao
i
<
[
e
の場合は(
X
I
,X
2
)
=(2A
,0)のとき最大で,x3=A
一(1十z
e
)
(
i
-t
e
)
A
。 このように,現行の準備預金制度では仮に法定準備率が100%であったとし ても,積み期間中の金利予想にもとづく効率的な積み調整によって,収益を得 ることができる。民間銀行にこのようなメリットがある限り,当局が積み不足 に対してペナルティーを課すことを条件に最終的に帳尻あわせをするにして も,このゲームに参加する意義は十分にある。しかし,市場参加者全体にメリッ トがあるからといって,個々の銀行がこのゲームのル}ルを破らないという保 証はない。この積み調整のゲームを成立させるには,(4)式で示される,平残で 準備を積むというノレールを個々の銀行に遵守させる何らかの工夫が必要であ り,日銀関係者の言う積み最終日の種々の脅しの役割はまさにその点にある。 翁(19
9
3
)
によれば,日本銀行の金利誘導は,こうした民間銀行の積み調整行 (13) 金利水準が十分小さければ,[
e
:
=
i
e
/
(l+
i
e
)
,;>:;i
e
が成立するから ,[
e
は2日目の予想、 市場金利とみなせる。なお,こうした積み調整に費用がかからない場合は,一般的に最 も低い金利が予想されるときに集中して積み立て,最も高い金利が予想される時期に貸 付を集中するのが収益最大化の方法となる。 (14) 民間銀行の側には,次節で述べるような,積みの調整プロセスの中で将来の金融環境 に大きな影響を与える政策スタンスの情報が入手できるというメリットもある。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
501 日本銀行の金融調節について -219-動を前提にして行われる。すなわち,日本銀行は
1
日目の準備の供給テンポを 調節することによって,間接的に積み最終日2
日目の誘導金利水準を市場参加 者に知らせる。すると1
日目と2
日目の間で金利裁定が作用して1
日目の 市 場 金 利 が 誘 導 金 利 に 鞘 寄 せ さ れ る 。 高 め 誘 導 の シ グ ナ ル が あ っ た 場 合({e>
i)は,積み調整の前倒し(Xl= 2A)により資金需給が逼迫して市場金利 が誘導金利に等しくなるまで上昇する(逆は逆)02
日目は,日銀が目標金利で 積みの過不足を吸収すべく準備供給を行うので,市場金利は目標金利に等しく なる。 しかし,現実の積み調整は,これまでの積み期間が2
日で,積み最終日の誘 導金利が確実に予想されている場合と違い,積み期聞は1
ヶ月と長く,誘導金 利は不確実である。そのため,市場参加者は積み最終日の誘導金利を予想する 以前にそれまでの市場金利の予想をしなければならない。ところが,積み期聞 を 30日とする現実の積み調整のモデルは,翁 (1993)においても提示されておら ず,そのワーキングも叙述的な説明に終始している。 唯一の例外は,神崎 (1988)である。これは,それまで日本銀行の金融調節の 説明で重要な役割を果たすとされてきた「積みの進捗率」や「積みの進捗度合 い」を定式化し,それを銀行の準備需要関数に導入して,積み期間中の準備需 要と短期金利の動きを明らかにしようとした初めての論文である。しかし,こ の論文では,肝心の日本銀行の金利誘導行動が定式化されていないので体系が 完結していなしユ。そのため積み最終日までの変数の動きや積み最終日の性質が 明らかにされていない。 そこで筆者は,拙稿(1995)で,神崎論文で欠けていた日本銀行の政策態度を 導入した完結したモデルを提示し,それを利用して積み最終日までの変数の動 きや積み最終日の性質を明らかにしようと試みた。しかし,そのモデノレでは, 民間銀行の準備需要に,平均で準備を積むという制約を課していなかった。ま た,モデ1レの定式化が連続形式になっていたので,モデルの均衡を示す積み最 終日までに無限の時間経過が必要であるかの印象を与えた。そこで,以下では こうした欠陥をなくした離散型の積み調整モデルを提示してそのワーキングを502 調べ,日本型の金融調節の動学的な性質を検討する。 以下で提示する積み調整のモデノレの前提は,拙稿(1
9
9
5
)
で提示したものを踏 i ! p i l i -l i i i i -香川大学経済論叢 -220ー 襲し,以下のようなものであるとする。 金融調節に関わる日本銀行と民間銀行の貸借対照表は次のようなものとす る。 (1) H:べ}スマネー, A:日銀信用 F"短期資金需要,D::預 金R:
準備,L:
貸出 民間銀行における貸出と預金の残高は,積み調整期間を通じて所与である 日本銀行:
:
H
三A
民間銀行::F+D=R+L
(
2
)
ものとする。D = D,
L=L
これらを前提にして,民間銀行の積みの調整行動については,次のように考 える。前述の積み期間が二日の場合のように,全ての市場参加者が将来金利に 関して同一の確実な予想、を持っていれば,積みの調整は最も金利が低い時期に 集中する。しかし,実際には,市場参加者の予想、は多様で不確実なため,現在 と将来の金利差にもとづく積みの調整は緩慢になされる。そこで民間銀行の積 みの調整行動は,前期までの積みの累計額から計算される積み残しの平均額を 基準に,今日の短期金利が将来上昇(下落)すると予想されれば,多めに(少 なめに)積むと考える。積み日数をT (=30
日),法定準備率をh
とおけば, 積み期間を通じた必要準備累計額はT
k
l
5
となるから,積み初日から数えて t 日目の残り積み不足の平均残高仇は, ヂ ‘ ER
一 。
↓
p h ] 1 ご t : ?一
万
一
D
二 中心一 F J 一 一 一 t β U 1 ::;;:t
三二 T (6) と表せる。次に,それをもとにした t日目の準備需要Rt
を次のように表すこと (15) 微分方程式で考える場合には,単位期聞が無限小であるとすれば,ある程度合理化は 可能である。 (16) 岩 村 (1988)は,市場参加者の金利予想が多様な場合と不確実な場合について,準備需 要が現在と将来の金利差に依存することを証明している。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
503 日本銀行の金融調節について -221-にするO Rf = j
{
i
t-it)+ 8t j>
0
(7) ただし],れ,i
f
はそれぞれ準備需要の金利差反応係数,t
日目の短期金利と 予想短期金利である。 民間銀行の短期金利の予想、形成については,次式のような適応的な予想、形成 を仮定する。 it+l=
it+s(
i
t-it)0<β<
1
(
8
)
一般に,短期金利の水準は市場での資金繰りの状態を示すから, (7) (8)式は, 民間銀行が,例えば将来の予想より現在の資金繰りがきつい場合には(
i
t>
it), 積み行動を遅らせ(Rfく仇)準備需要を減らすと同時に,将来の資金繰り予想 を更に悪化させる方向に修正する(
i
f
+1>仔)ことを意味している。 次に,受動的調節と積極的調節というこつの側面を持つ日本銀行の金融調節 については次のように考える。日本銀行は調節期間中の外生的な公衆の現金需 要に対しては受動的にベースマネーを供給し,その残差としての準備供給分R
を積極的調節に使うと考える。すなわち,積極的調節手段として目標短期金利 水準戸を定め,日々の短期金利がそれから需離すれば,そのま危離を縮小させる ように準備供給を調節すると想定する。それゆえ,日本銀行による準備供給の 調節は次式のように表せる。 Rt+l=
Rt[
1
+α
(it -i*)]α>
0 (9) 最後に,短期金利の決定式を示す。積み期間中に,短期資金市場を除く他の 市場が均衡していると仮定すると,ワルラス法則により準備需給が短期資金需 給と表裏の関係になる。それゆえ,短期金利の決定式は次式で表せる。 Rt = Rf (10) 以上で,決定されるべき変数は(Rt,Rf,8t,i,i'
f
)
の5
個に対し,方程式は(
6
)
一 (17) 従来,公定歩合は目標短期金利より低い水準に設定されていた。これは,それによっ て,民間銀行を日銀貸出の借入限度額まで追い込み,金融調節手段として日銀貸出の機 動性を確保するためであった。最近の状況については脚注(33)参照。-222- 香川大学経済論叢 504 (10)の
5
個あるから,モデルは完結している。そして,体系を変形すれば,以 下のような変数(Rt,8t,i1)に関する 3階の差分方程式になる。 T.'kD -"'2..fRrO
三三 t 三三 T-1 t+l =T-t
Zf+l = ii+(β/
j
)(8t-Rt) 0く β < 1 Rt+l=
Rt[l+
α
(if-i*十(8t-Rt)/j)]α>0
) ) )3
6
ダ t1''t 、 , f、
以下では,日本銀行が金融調節の目標とする,積み最終日 (t=
T
)
に準備の 積みが完了し,市場金利が目標金利に誘導されている状態を均衡と定義する。 準備の積みが完了しているということは,積み最終日に残り積み不足平残を ちょうど積んでいることを意味するから ,R1 810よって, (8')式より予想金 利も目標金利に等しくなっている。それゆえ,均衡、では, ZT=
if=
i* (11) (12
)
R
1=
θy が成立する。 このモデルの動きを代数的に解くのは困難なので,数値シミュレーションで 調べることにする。そのときの基準パラメータと初期値は,表Iに示されたよ うなものである。 表1 基準パラメータ T=3ゆ,k = 0.1, i5= 100, i* = 0.05 j = 100,α = 0.,8.β=0.5 初期値 Ro= Bo= 100 i o= it= i*= 0..05 基準パラメータを仮定したときに,目標金利を5%
から8%
に引き上げた場 合について(i*=
0
.
.
0
5
→0
0
8
)
,所要準備からの準備余剰額と短期金利の推移を 示したのが図 lである。明らかに積み最終日には目標金利が実現し,かっ銀行 の積み調整も完了しているので,金利誘導が成功している。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
505 R 104 102 100 98 96 日本銀行の金融調節について -223-図1 2 012 011 2 01 009 008 007
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1
と対応しているのが分かる。それゆえ, このモデルは実際の積み調整のメカニズムのエッセンスを表している。 (18) 図2は,積み期間中の後半に調整が生じているのは,積み後半になって,日本銀行の 利上げ観測が強まったからだと言われている(日本経済新関1996年5月15日付け入-224- 香川大学経済論叢 506 図2 区 -w a 伴 内 3 司 4 qdqdqd
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0 ヨ d。
一
2
2
3
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1
4
(出所) 1996年5月15日付『日本経済新聞J23面 こうした金利の高め誘導時の際のプロセスは,ほぽ次のように進行する。日 本銀行は目標金利を引き上げると同時に,(
9
)
式により準備供給を抑制する。す ると, (7) (10)式より,資金不足が発生して短期金利が上昇するため積みの調整 が遅れる。市場参加者は,積みの遅れを取り戻すためと,将来の資金繰り悪化 を予想して早めに積み調整を行おうとし始めるので準備需要は増加する。しか し,図1
のようにもし初期の金利上昇が不十分な場合は当局が更なる準備供給 の抑制を図るので,短期金利は更に上昇する。こうして,短期金利が目標水準 を超えるほど上昇し,市場参加者に金利先高観が醸成されたのをみて,当局は 準備の積み遅れを回復させるべく,準備供給を増加させてゆくことになる。 その後の過程は,市場参加者の予想短期金利と当局の準備の調整速度次第で (19) 積みの進捗状況を表す t日自の「積みの進捗率」や「積みの進捗度合」は次のように 表せる。神崎(1988)参照。 積みの進捗率=,"J:fRr/TkI5 積みの進捗度合=("J:,fRr/TkJ5)一(tjT)OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
507 日本銀行の金融調節について -225-多様なケースがあり,場合によっては,最終日に均衡が達成されない可能性が ある。目標金利への誘導は,それを実現するための準備需要の調整が速いばか りでなく,短期金利に対する民間銀行の積み調整や予想金利の調整の大きさに 依存しており,一般に,準備需要の金利差反応度が小さいほど,予想、金利の調 整が緩慢なほど,金利誘導が成功する可能性が高まる。図3は,基準値より予 想金利の調整速度が大きいケースを示している
(β=
07)。明らかに最終日の金 利が目標金利8%
より少し高めになっているので,金利誘導に失敗している。 また,積み期間中も金利の変動が激しくなっている。 R 104 102 100 98 96 図 3 2 1ハ
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T)の準備需要は,(7)式で示される積み期間中 (1ζ t ζ T-l)の準備需要と異なり,226 香川大学経済論叢 508 R~= θT (12') となって, 。 曲 完全に金利非弾力的になる。 さらに日本銀行の準備供給は,準備需 給が一致するように,すなわち
(
1
0
)
式が成立するように決定される。 そして, 裁定取引により最終日の市場金利は目標金利に必ず等しくなるように決定され るので,最終日には必ず均衡が達成されることになる。 それゆえ, こうした積 み最終日の考慮をしていないにもかかわらず,図1
のように均衡に到達する可 能性があるのは,積み最終日までに市場参加者に当局の目標金利が浸透し,積 みの調整が完了していたからである。 しかし, そうした欠陥があるにせよ,積み最終日にいたるまでの間,市場参 加者の金利予想、によっては積み最終日前日までに日本銀行の思惑通りに金利誘 導ができない状態が生じうることを示している。そして,積み最終日における 準備需要の金利非弾力性を理由とした準備供給の受動性は,金利誘導が成功す るための必要条件ではなく,十分条件であることが分かる。I
V
短期金利平準化と金利リスク 日本銀行の金融調節は,短期金利を日々の市場の需給に委ねているので短期 金利を固定化しているわけではないが, 目標金利の周りに短期金利を平準化し 日本に限らず他の先進諸国の多くも,広い意味で ているとみて差し支えない。 短期金利の誘導による金利の平準化を行っているのは周知のことである。 こうした短期金利の平準化が行われるのは,短期金利を完全に市場の需給に 委ねて金利の乱高下が起きれば信用秩序ひいてはマクロ経済に悪影響を及ぽす ということであれ信用秩序維持がその最大の理由とされているが, それ以外 に短期金利の平準化の目的はないのであろうか? (20) 実際には,準備需要の金利反応度 J:がそれまで一定で積み最終日にゼロになるという のではなし例えば次式のような形で積み最終日がせまるほど低下していくと思われる。 というのも,将来と現在の金利差にもとづく積み調整の自由度は,一般に積み日数が残 り少なくなれば次第に制約されるからである。 (21) j ,=j
(
T
-
t
)
/
(
T
-
l
)
翁(1993)p.55参照。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-227-一般に,金利操作方式と対比されるベースマネー操作方式の最大の特徴は,
ω
短期金利の変動幅が確実に大きくなることである。これによる短期金利の不確 実性の相違は,銀行行動ひい、ては政策の波及効果に違いをもたらす可能性が高 というのも,満期変換機能をもっ銀行は常に短期金利変動による金利リス そのリスクの大きさが銀行行動全体に大きな影響を与えると考 し〉。 クにさらされ, えられるからである。 以下では金利操作方式とべ}スマネー操作方式を短期金利の平準化 そこで, ↓i l l i t -t i t f i l l -I l } i l i t -r i i p i -日本銀行の金融調節について 509 それがもっ金利リスク削減効果 の程度が異なる短期金利平準化政策とみなし, に控目して,両運営方式の優劣を考えてみることにしよう。 まずはじめに,金利リスクを重視した銀行行動のモデルを定式化するに当 たって,次のような仮定をおく。 預貸市場はいずれも完全競争的で,銀行は預貸金利を所与とみなすもの 預金はあらかじめ公衆の需要により定められ計画時の銀行にとっては既 知とみなされる外生的預金と,自ら供給をコントロールできる譲渡性預金 邸)(
C
D
)
からなるものとし,貸出に伴う派生的預金は無視する。 とする。 (1) (2) 短期金利やCD
金利は計画期間中変動するので,費用として換算される 短期金利とCD
金利は,計画期間中の予想平均金利とする。 銀行が直面する貸倒れリスクや流動性リスクはないものとする。すなわ ち,貸出による収益と費用ならびに預金獲得額は経験上確実に予想できる (3)(
4
)
ものとする。 同時積み型の準備預金制度下で,預金には一律の法定準備率が課されるω
ものとする。(
5
)
(22) 米国連銀がベースマネー目標政策を採用した1980年前後のフェデラノレファンド・レー トの著しい変動を見れば明らかであろう。 (23) Romer&
Romer(1990)。
(24) 現在,米国では,譲渡性預金には法定準備率は課されていないが,日本では定期性預 金と同率の準備率が課されている。510 香川大学経済論議. -228-銀行は過剰準備を保有しないものとする。 上記仮定のうち, (1) (5)は単純化のための仮定であるが,それ以外について は少し説明の必要があろう。まず仮定 (3)により,銀行は金利リスクに直面する ことになる。そして仮定(4)は,金利リスクを重視するためにおいた仮定である。 仮定
(
2
)
は,近年,銀行の能動的な資金調達手段としてCD
が果たしている役割 を考慮に入れるための仮定である。仮定 (6)は,流動性リスクが存在しないとい う仮定 (4)と,経済安定時で短期資金市場が十分発達した状態であれば許容、でき ω る仮定である。 これらの諸仮定を前提に,以下モデルを提示する。はじめに,銀行の目的関 数について説明しよう。銀行の資産運用態度が,絶対的危険回避度一定の効用 関数で表されるものと仮定し, αを絶対的危険回避度, j f t i l l -ドl I l -l i l -l s i l i l i -l i r i -i i i (6) Wを来期の期待純資産 とすると,U
(
W)
=
-exp(-aW)
(13) と表すことができる。銀行の来期の純資産は,銀行の予算制約式をL+CL==
肌+
(
l
-
k
)
(
.
o
+CD)
(14) と仮定して,次のようにおく。W =
協も+
rL+ iCL-r
iJCD-C(L
,
C
D
)
変数の記号は,肌:今期の純資産,r 貸出金利,i
短期金利, riJ:CD
金利,L:
貸出,C
L
:
:
短期資産(負値の場合は短期負債),C
D
:
:
譲渡性預金,.
0
:
外 生的預金, k:法定準備率,C(・
)
..貸出とCD
発行にともなう費用である。 貸出とCD
発行にともなう費用は,貸出とCD
発行が増加するにつれ逓増す ω ると仮定し,以下のようなこ次の費用関数を想定する。C(L
,C
D
)
=
=
(bV+cCD
2)
/
2
(15) (16) (25) 流動性リスクの重要性は主に短期金融市場の成熟度に依存し,それが成熟すれば銀行 にとっての流動性リスクの重要性は低下し,銀行は過剰準備を保有する必要性がなくな る。池尾(1985)p..61参照。 (26) 外部性預金は,定義上,銀行がコントロールできる預金ではないので,費用関数には 入れていなしミ。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
511 日本銀行の金融調節について -229ー 仮定
(
3
)
より,短期金利i
とCD
金利r
jJはいずれも計画期間中の「平均的な」金 利を表しており不確実性をもっ。 そこで, まず,銀行によって予想される短期 金利の分布が期待値乙分散σ
?
の正規分布に従うと仮定する。 そして,CD
金 利r
D
は,短期金利との間で連動性が著しいので,次のような一次式の形で予想、 されるものとする。r
i
l
=
d+ei
d>
0
,1
>
e
>
0
(
1
7
)
その結果,銀行によって予想されるCD
金利の分布は,期待値.d+ei
,分散e
2
0
r
!zl) の正規分布となる。すると,来期の純資産 W も正規分布となって,期待値と分 散はそれぞれ以下のようになる。 期待値:w=
協も+rL+iCL-rDCD-C(L
,CD)
分散σ
:
ら=
σ
r(CL-eCD)2
ω
簡単な計算により,銀行の期待効用は以下のように書ける。 E[ U( W)] =-exp
[
一
α
(w-(α
/
2
)
σ
ら)] (18)(
1
9
)
(
2
0
)
関数-exp
(
-
a
x
)
はx
の単調増加関数だから,予算制約式 (14)の制約下で 期待効用を最大化する問題は,同じく予算制約式 (14)の制約下でw-(
α
/
2
)
σ
ら=協も十rL+"
i
CL-rDCD-C(L,
CD)
一(α/
2
)or(CL-eCD)
2
(21) を最大化する問題に等しい。それゆえ, この最適化問題はラグランジュ関数 を1
>
= sも+rL
十"
i
CL-rDCD-C(L
,CD)
一α/2)or(CL-eCD)
(
2
十A
[
A
o
十(1-
k)CD-CL-L
]
(
2
2
)
とおき,これをL
,CL
,CD
について最大にすればよい。なお ,Aはラグランジュ (27) 短期金利とCD金利の閑の相関係数は1で,完全相関となる。仮定e<
1より,分散は CD金利の方が小さい。いずれも,現状のコールレートとCD金利の推移から見て,妥当 であろう。 (28) この導出については,例えば深尾 (1983)の補論 I参照。-230- 香川大学経済論叢 512 乗数,
Ao
は銀行が利用可能な外生的な資金賦存額を示し ,Ao==
肌+(1-k)
I5 である。 (22)式の最大化の一階の条件を求めると以下のようになる。 rpL=
r-bL-)"
=
0
φ
CL =Z
-a
a'f(CL-eCD)-)..
= 0 (23) 仇D= -rD 一 cCD+ αeσ~(CL-eCD)+(l-k))" = 0。
^
=
Ao
+(
1-k)CD-CL-L
=
0 (23)式を貸出額,短期資金運用額, CD供給額について解けば,それぞれ以下の ようになる。L=i
α
o'2
oHc)y-cz
-aó'o~d+ αισ~Aoム
(24)CL=iαeó',σ~-c)r+(b(l-k) δ +c)
Z
一(b(l-k)+aeoDd+ b(c-ae
o'σ
DAo
ム
ω =
ゆ か
+b
δ7
一(TMGbsdAo
ただし, δ==l-k-e
(25) (26) (27)ム==
a( bó'2+ c ) σ~+bc>0
(
2
8
)
ω である。なお,以下では,δ>0
すなわちe
<
l-k
を仮定する。これは, CD 金利と短期金利が連動しているとはいえ,短期資金市場が逼迫して短期金利が 上昇している場合,銀行はCD供給を増大させて対応する可能性が強いからで ある。 この仮定をもとに,貸出金利r
,短期金利乙利用可能資金額Ao
に対する反 応係数の符号と,短期金利の分散d
が大きい場合の係数の絶対値の大小を示し たのが次表である。 (29) (28)式より,最大化の十分条件は満たされている。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
日本銀行の金融調節について -231-CDA CD, CD
,
負 l l i -T b l l i l i -B 正 正 表2C
L
A
CL,CL
,
L
A
L; L,
ワ 正 つ 正 負 正 513 符号 大 表 2で,CL
rとCL
Aの符号が確定しないのは以下の理由による。一般に,銀 行は,貸出金利が上昇すると貸出の代替資産である短期資産を減少させるが, 危険回避度が強いほど,短期金利の変動が大きいほど,貸出金利上昇による貸 伽) 出増加分を賄うために金利リスクのより小さいCD
発行を選好する。それゆえ, 後の効果が大きいと通常の代替効果を逆転させる可能性がある。 じ理由から,銀行は利用可能資金が増大した場合,通常は短期資産運用を増加 させようとするが,危険回避度が強いほど,短期金利の変動が大きいほど,そ の資金をCD
償還にあてるばかりか短期資産を減らして来期の純資産の変動を 少なくしようとする。その結果,後の効果が大きいと通常の短期十資産への資産 またそれと同 大 つ つ 大 。?大 効果を圧倒する可能性がある。 さて,通常,操作目標が何であれ金融政策は,まず短期資金市場の金利に影 響を与え,短期資産と貸出の代替効果を通じて政策効果をねらっている。その ため,政策の有効性を考える場合,短期資産や貸出の金利反応度の大きさが重 そこで,表をもとに貸出や短期資産・CD
発行の金利反応度につい 要となる。 て特徴的な点をまとめると以下のようになる。 (1)短期金利の分散d
が大きい場合,短期金利の変化に対して,銀行は貸 出・短期資産・CD
発行の反応をいずれも小さくすること。 (2)短期金利の分散d
が大きい場合,貸出金利の変化に対して,銀行は貸出 反応度を低下させる一方で,CD
発行の反応度を高めること。 いずれの結果も,先に述べた危険回避的な銀行行動に根差している。すなわ ち,例えば短期金利が下落した場合を考えると,通常は,貸出を増加させて来 仮定より ,e<l-kだから,あきらかに短期資産より CDの方が金利の分散は小さい。 (30)OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
514 期の純資産を増やそうとするが,その資金を金利リスクのある短期資金や
CD
発行で賄おうとするので純資産の分散も高まる。それゆえ,短期金利の分散が 大きいほど,貸出・短期資金・CD
の変化は小さくなる。貸出金利が上昇した場 合も,同様の論理で説明できる。ただ,CD
発行の反応度を高めるのは,調達資 金を相対的に金利リスクが低いCD
発行に比重を移すからである。 以上のような金利リスクに対する銀行行動の変化は,金融政策の運営方法に 次のような合意をもっている。すなわち,銀行の絶対的危険回避の態度が不変i
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-香川大学経済論叢 -232-の場合,金融調節で短期金利を平準化した政策を採用すれば,短期金利の分散 が小さくなるので,貸出と短期資産の代替性が高まり,平準化された短期金利 の変更に対して貸出がより強く反応することになる。反対に,短期金利を市場 の需給に委ねるベースマネー操作方式を採用した場合は,短期金利の分散が大 きくなるため,結果的に短期資金の需給が金利非弾力的になって一層短期金利 の変動が大きくなるばかりか,そうした変動に対する貸出の反応度が低下する また,銀行の資金調達においては,金利リスクの高い短期資金よ りCD
発行の重要性が高まる結果,政策効果をあげるにはCD
市場へのオペの ことになる。 こうした操作目標の異なる政策運営について数量的な意味で政策効果の優劣 しかし,少なくとも金利リス クの効果に関する限り,仮にベースマネー操作方式を採用したとしても,政策 効果を高めるためには短期金利をある程度安定化させた方が政策効果が高まる ことになる。また逆に日本銀行の採用している短期金利誘導型の政策運営方式 であっても,積み期間中の金利変動を極端に激しいままで放置するのは,望ま しくないことを意味する。 したがって,短期金利の平準化は,常識的ではあるが,銀行の短期金利変動 によるリスク負担を軽減することにより,民間銀行が安心して短期資金を貸出 に回せる環境を用意することを意味する。先進国の通貨当局があえて短期金利 必要性が増すことになる。 を論じるのは,あまり意味がないかもしれない。 それによって貸出と短期資金の代替性を高 めて金融政策の有効性を確保することができると期待しているからだと思われ の平準化を選好する理由の一つに,OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-233ー 日本銀行の金融調節について 515 る。 短期金利平準化の役割はそれだけにとどまらない。
B
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(1992)や翁 (1993)によれば,ベースマネー需要の撹乱を相殺して短期金利を目 標金利に平準化する政策はそれによって短期金利が示す政策スタンス情報を市 場参加者に伝えるためでもある。このことは,短期金利の動向が民間銀行の貸 f -を } 1 1 1 1 L i f t i l t t i l l -出計画に影響を与えるのは,単なる短期的なコスト効果ばかりではなく,平準 化された短期金利が保持する政策情報をもとにして,銀行が将来の金融環境を 予測する手段として利用していることを意味している。銀行にとって,短期金 利の推移を含む将来の金融環境全般をできるだけ正確に予測することは,銀行 行動に伴う全体のリスクを低下させる上で極めて重要なことである。それゆえ, 当局の目標金利が信頼に足るシグナルで、あるとすれば,貸出の短期金利反応度 を高める可能性が強い。 終 わ り に 日本銀行は, 1973年の第一次石油ショック時前後とパフツレ崩壊前後の 2度に わたって金融政策運営に失敗をしたと言われている。しかし,そのたびに失敗 の原因の一部が金融調節のあり方にあるのか否かが問われてきた。I
I
節でその論争で何が問われたかを整理した後,H
I
節で可能な限 り日本銀行の金融調節の特徴をもった「積み調整のモデ、ノレ」を提示して, V 小論では, それ を使って金融調節のメカニズムの分析を行った。その結果,日本銀行の金融政 策運営は1
ヶ月単位ではベースマネーを操作変数にして目標金利を達成する 金融調節として1
ヶ月を超える期間ではこの目標金利を操作変数にして中間 目標ひいては最終目標を達成する金利操作型の政策運営方式として捉える必要 があること,更にその金融調節においては,積み最終日に必ず目標が達成され るにしても,それまでの積み期間中に市場参加者の金利予想の不安定性のため 金利が乱高下しうることが分かつた。その意味で,金利を誘導しているにもか かわらず短期金利の変動が著しいというのが,日本型金融調節の独特な特徴と 言えよう。ただ,本稿のモデルで仮定した日銀と民間銀行の行動関数はいず、れOLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
516 も尤もらしいが,依然としてadhocであることに変わりはない。より正確な金 融調節プロセスの分析を行うには,動学的最適化行動を基礎にした定式化が必 要だと思われる。 最後の
I
V
節では,日本銀行の金利誘導方式の政策運営を広い意味で金利平準 化政策ととらえ,金利リスクに注目して短期金利平準化の意味を検討した。そ の結果,金利平準化は,銀行の金利リスクの負担軽減と政策情報のシグナル効 果により貸出の短期金利反応度を高めて政策の有効性を確保する効果をもっこ 香川大学経済論叢 234-i f i l i -j i l -f f I i i h とが明らかになった。 ところで,この分析結果から短期金利を完全に平準化すればよいかといえば, それはこつの意味で正しくない。一つは,短期金利の完全な平準化は,政策情 報のシグナル効果という点では完全だ、が,正しい政策判断を行うために必要な 金利の需給シグナルとしての役割を減殺してしまうからである。その意味で, 日本型金利誘導方式が,批判論者が主張するように果たしてこうした金利の需 給シグナルとしての役割を低下させ,当局に政策判断を誤らせる危険性が高い 日銀関係者が主張しているように,金利が果たすこのこつの シグナル効果を生かすように工夫されたものなのかについて更なる分析が必要 である。また,対立する政策運営方式であるベースマネー操作方式においても, 果たしてベースマネー量がどの程度政策シグナルとして役立つのかあわせて検 それとも, のか, 討する必要があろう。 より根本的 これまでの説明からも分かるように短期金利の平準化は,それによっ て銀行経営の安定性を保証することによって政策効果の有効性を図るという特 印) 徴を持っている。 しかし,金融政策の有効性を確保するために,銀行経営の安 ω) 定性を保証することが必ず必要なのかどうかは自明ではない。確かに, 短期金利を完全に平準化することが正しくないこつ目の理由は, である。 これま (31) 翁 (1993)p 54では,日本銀行は積みの調整テンポにより積み最終日の目標金利を誘導 して政策意図を民間銀行に知らせる一方で,積み最終日までの短期金利の推移から正し く市場の需給動向や市場参加者fの金利感の情報を収集していると主張している。 (32) 金利平準化は,従来から言われているように,金利リスクばかりでなく銀行の流動性OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
517 日本銀行の金融調節について -235ー で民間銀行は,民間部門における唯一の預金通貨供給者として国内の経済取引 の集中決済を担うとともに,金融政策の波及効果の伝播者としての役割を担っ ており,そのいずれもがマクロ経済の円滑な発展のために必須であるとの理由 O~ から,銀行経営の安定化が必要とされてきた。しかし,金融の自由化と証券化 の進行により,政策波及経路が多様化し,銀行の預金業務独占の是非が議論さ れている現在,従来のような銀行経営の安定性を前提にした政策のあり方が将 来においても必要でトあるかどうかは改めて問い直してみる必要があるように思 われる。 参 考 文 献
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inThe New Palgrave 'Money'ed Eatwe,1lJ .
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リスクをも低下させる効果を持つ。 (33) 金融調節手段として日銀貸出の機動性を確保するために,公定歩合を上回る水準に コーJレレートを誘導してきたことが,民間銀行(特に都市銀行)への補助金として機能 してきたことも,そのことを褒付けている。なお, 1996年1月,日本銀行は日銀貸出を 金融調節子段として使うことを止めて緊急時の融資手段としてのみ使い,金融調節手段 は専ら手形・債券オペで行うことにした。そのため,昨年後半からはコールレートは公 定歩合以下で推移しており,従来公定歩合が果たしてきた目標短期金利のアンカーとし ての役割は消失した。 (34) Cukierman (1991)は,連邦準備銀行FRBは,設立当初から物価安定とならび信用秩序 の要である銀行組織の経営安定性を重視し,銀行利潤の安定化のために短期金利の平準 化を必要としてきたと主張している。
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