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日本産ネズミ類6種における頭骨構成骨の形態比較-香川大学学術情報リポジトリ

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香川生物(Kagawa Seibutsu)(22):1−10,1995・

日本産ネズミ類6種における頭骨構成骨の形態比較

松 田 さおり

〒760 高松苗幸町1−1 香川大学教育学部生物学研究室

ComparativeMorphologyofConstitutionalBonesoftheSkull

OfSix SmallRodentsinJapan

Saor・iMatsuda,戯oZog£cαgエαわor・αねrツ,穐c乙‘如0/励弘Cαとよ0′t, 属bgα∽α仇去uerSi己γ,7bゐαmαとS混760,ノ(砂α花 8頭,ハツカネズミ(Mmu)5頭,スミスネズ ミ(Es)13頭,ハタネズミ(Mmo)7頭である。 このうちアカネズミ 8頭,ヒメネズミ1頭,カ ヤネズミ2頭,ハツカネズミ6頭は,冷凍保存 されていたものを用いた。ヒメネズミ4頭,ス ミスネズミ13頭,ハタネズミ 2頭についてほ, ホルマリン中で保存されていたものを用いた。 また,カヤネズミ6頭,ハタネズミ5頭は頭骨 標本として保存されていたものを用いた。これ らの種別・採集地域・採集年月日・採集者ほ衰 1に示した。 (b)頭骨標本作成とアカネズミの年齢査定 描狂したネズミは,ディバイダーとものさし (最小目盛0..5mm)を用いて0..1mmまで読み

取り外部計測を行った。測定部位は,頭胴長

(H&BL),尾長(TL),後足長(HFL),耳長(EL) である。また,ホルマリンで固定されていたヒ メネズミ,スミスネズミの一・部,ハタネズミに・ ついては,全身標本を流水中に2日間放置して ホルマリンを抜きその後,頭骨を取り出し,約 2時間湯洗した後,ピンセットで付着した肉を 取り除き,ハブラシでブラッシソグし,ろ紙の 上で自然乾燥させた。その後,ミツトヨ製ノギ ス(最小目盛0..05mm)を用いて頭骨の各部分 の計測を最小目盛0..01mmで行った。計測部位 は,頭蓋基底長(CBL),切歯から第3白歯まで の長さ(トM3),第3白歯から後頭骨までの

は じ め に

頭骨ほ多くの骨から成り立っており,骨格の 中で最も重要で,複雑で,特殊化している。し かし,ネズミ類における頭骨の研究ははとんど なされておらず,現在研究されているものも, 頭骨の孔についての研究が主である(Berry& Searle,1964;Wahlert,1974;井上,未発表)。 また,種における頭骨の各部分の骨の形を特 定することに.より,頭骨が不完全な形で発見さ れた場合においてもその種を確定することがで きるといえる。しかし,今泉(1967),阿部・ 松田(1977)がフクロウのペリットについての 分析を,自附(1972)がテンの糞についての研 究を行っているが,それらのはとんどにおいて 被食者を細かく分婿できていない。 そこで,本研究は日本に分布するネズミのう ち,6唾:アカネズミ4po(プem㍑S叩eCZos弘S,カ ヤネズミ〟Zcr0〝lγSmZ花㍑£略ハツカネズミ〟弘S

m∽仇血g,スミスネズミ屠0£九e花OmγSSmi£ん££,

ハタネズミ凡才去cro乙比ざmO花£eと,eggZについて頭骨の 各部分の特徴を明確にし,種間の比較を行った。

材料と方法

(a)標本の採集場所 種問比較に用いた標本は,アカネズミ(As)8 頭,ヒメネズミ(Aa)5頭,カヤネズミ(Mmi)

(2)

表1‖ 採 集 地 リ ス ト 種(和名) 採 集 地 採集日 個体数(性別) 採集著名 1994り1..8 3(♂1♀2) 松田さおり 1994一.2り20 5(♂3 ♀2) 松田さおり 1994…11… 4 1(の 畠山 佐織 1984い 3り28 2(♂1♀1) 真鍋 秀樹 1984..4一.1 1(♂) 〝 1984リ 4… 2 1(の 〝 香川県善通寺市生野町新田 香川県丸亀市中津町 香川県仲多度郡満濃町 愛姫県伊予三島市赤星山 〝 〝 香川県丸亀市中津町 福岡県久留米市長門石 岡山県倉敷市玉島里見川 岡山県総社橋常盤橋 ? 香川県木田郡牟礼町牟礼 アカネズミ ヒメネズミ 松田さおり 白石 哲 金子 之史 J/ ︶ ︶ l l ♀ ♀ ︶

明21︶

師相律は 2 3 2 1 1994一.2…20 1965…11い20 1970..10..15 1973..1..15 カヤネズミ 1983.12〃30 3(♂2 1不明) 真鍋 秀樹 不明 2(♂2) 渡辺 直 ハツカネズミ 真鍋 秀樹 〃 〝 〝 井上 裕章 イ′ J/ 金子 之史 J′ スミスネズミ 愛媛県伊予三島市赤星山 〝 〝 〝 香川県大川郡長尾町栗栖 香川県香川郡塩江町 〝 ︶ l OT ︶︶ ︶l︶︶明明︶ ♂♂♂♀不不♂ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ 1 2 1 1 2 5 1 1984.3.14 1984‖ 3.15 1984.4.1 1984.4.2 1989.1.13 1989..2.25 1989一.3‖ 8 1973い 1.17 1976..11.26 1976い11.26 1991.5.5 ∵I−・押 ︵ ︵ ︵ ︵ 2 1 2 2 岡山県岡山市原 岡山県真庭郡川上村延助 岡山県真庭郡川上村下徳山 J/ ハタネズミ 1♀1) 岩渕 暁 本多 宏之 成り立っている(加藤,1979)。これらの構成

骨のうち,蝶形骨basisphenoid,飾骨ethmoid,

前頭骨frontal,問頭頂骨interparietal,上顎骨 maxillary,鼻骨nasal,後頭骨occipital,頭頂骨

palietal,岩骨perioticcapsule,鼓骨tympanic

bulla,前上顎骨premaXillaryおよび鱗状骨

squamosalの以上12の骨について,オリン㌧ペス 製三眼鏡簡実体顕微鏡(Ⅹ−Tr)にアッべ氏式描 写装置(6い3倍)をつけてスケッチを行った。ス ケッチは,構成骨の背面,左側面,前方あるい は後方面を示した。 アカネズミの種内変異を扱うにあたり,疋田・ 村上(1980)にしたがってアカネズミの齢推定

長さ(M3−C),頬骨の基部から後頭骨までの長

さ(C−Z),鼓骨から後頭骨までの長さ(Tb−C),

切歯孔長(IFL),歯冠長(ML),歯隙部長(Dias),

第1臼歯幅(Ml−Ml),鼻骨長(NL),前頭骨長

(FrL),頭頂骨長(PaL),問頭頂骨長(IntL),外

後頭骨長(OcL),大後頭孔縦径(Oc.f..vd),大後

頭孔横径(Oc..f‖hd),吻幅(MuBr・),頬骨弓最大

幅(ZW),頭骨幅(MaBr)および白歯部における

頭骨高(SH)の20箇所である(一・部宮尾はか,1962)。

頭骨の計測を終えたものを再び2∼3時間湯

洗し,構成骨ごとに分け,これをろ紙の上で乾

燥させた。頭骨の構成骨の数は分類の仕方によ

って異なるが,側頭骨を細分すると21の骨から

(3)

を行い,8頭の年齢(生後紛1カ月,2カ月, 2∼3カ月,9カ月,13カ月,14カ月,24カ月) を推定した。ただし2∼3カ月のみ2頭,他ほす べて1頭である。 結 果

1.アカネズミの年齢変異

年齢の違う8頭について今回扱った12の構成 骨のうち形の上でほすべての構成骨で変異がみ られなかった。しかし,大きさの上でほ蝶形骨 と鱗状骨に.は変異がみられた。 蝶形骨ほ,加齢するごとに体がやや長くなる。 しかし,その伸びは小さい。また,卵円孔ほ大 栗が広がる外側内方に位屈し,異状突起は大異 の基部から出ている。−・方,大男の輪郭の形状 ほ個体に.よって様々である。卵円孔以外の孔も いくつかの個体に.ほ存在するが,その位置ほ定 まったものではない(図1一上)。また,鱗状 骨の輪郭は頭頂骨との縫合面でほ頬骨突起の基 部の中央付近で急激に.入り込み,後聴胸突起ほ 長く下方へたれる。加齢するごとに上頂線ほ明 瞭になってくる。しかし,輪郭の形状,頬骨突 起の突出では変異ほない(図1−−下)。 −・方,以下の9の構成骨(上顎骨・飾骨・前 頭骨・岩骨および鼓骨・後頭骨・頭頂骨・前上 顎骨・鼻骨)についてほ年齢による差ほみられ ず,加齢するごとに.単に大きくなるのみであっ た。これらの構成骨の特徴ほ以下のとおりであ る。 上顎骨ほ,体の幅が臼歯の幅くらいしかなく, (a)の突起は上の縫合の凹凸が多くその基部の 位層ほ第1・第2白歯の間までである。また, 頬骨突起は白歯の校合面よりもさらに下まで伸 び,その長さは第3白歯よりも後方にまで伸び る。飾骨では,鉛直板が左右に6つずつ存在し, 外側板の幅が広一く(飾骨全体の長さの3分の1 以上),および鈎状突起が前方へ鳥のロはしの ように突き出している。前頭骨では,冠状縫合 のカーブに個体変異がある。冠状縫合面はなめ らかで,(b)の部分ほはっきりとした直線がみ られる。岩骨および鼓骨では,(c)の突起が細 長く後下方へ伸び,(d)の突起が二叉し,上支 8 ′へへ ■− ̄ ̄ 図1..アカネズミ蝶形骨背面図(上)および鱗 状骨側面図(下)い1:生後約1カ月, 2:生後約2カ月,3:生後約2∼3カ 月,4:生後約2∼3カ月,5:生後約 9カ月,6:生後約13カ月,7:生後 約14カ月,8:生後約24カ月=(上)A :大栗,B:卵円孔,C:体,D:異状 突起,E:耳巽,(下)A:頬骨突起, B:上頂線,C:後聴胸突起..線分の長 さは0い5mmを示す‖

(4)

が下支よりも長い。また,(e)の穴(fenestra flocculi:BerTy&Searle,1964)ほ岩骨のか−ブ の後側面の付近に位.置し,やや下方にある。後 頭骨でほ,頸静脈突起と基底部のなす角ほ鈍角 (730∼850 全個体平均78.20)であり,耳部結部 が大きくその先端部ほ大後頭孔の下から3分の 1くらいの位置まで伸びている。頭頂骨では, 間頭頂骨との縫合面ほなめらかであるが,後頭 骨との縫合面ほ少し前後に出入りがあり,これ らの構成骨との縫合面の区別はほっきりしてお り,その間の部分は少し突き出す。ま■た,鱗状 骨との縫合面には明瞭な切痕がある。前上顎骨 でほ,鼻突起が長く後方に伸び(体の長さより ほやや短い),体の切歯が骨内に挿入され始め る位置の上部は前へ突き出す。また,口蓋突起 の縫合に.は凹凸が多く,鼻突起の基部付近まで 伸びる。鼻骨では,鼻先が下方へやや垂れ,(f) の部分が大きく後方へ突き出し,2∼3本筋が 入る。問頭頂骨には個体変異が多い。加齢した ものほど縫合面の凹凸が多く,頭頂骨との縫合 面の中心部が二叉していることがみられた。 2.種間比較 6種のネズミについての構成骨の変異ほ,蝶 形骨・上顎骨・飾骨の構成骨で大きく,反対に., 鼻骨・前上顎骨ではかなり小さい。また,前頭 骨・岩骨・鼓骨・鱗状骨・後頭骨・頭頂骨・間 頭頂骨では,変異ほあるがその差ほ小さく,種 によっては相違がはとんど見られないこともあ る。 まず,種間変異の大きい骨のうち蝶形骨(図 2一上)についてみると,スミスネズミとハタネ ズミは背面からみた時に体が長く,卵円孔を含 めて左右に3つずつ孔がある。この2種問の違 いは,ハタネズミでは大巽が上に長く,異状突 起がみられないが,スミスネズミでは体から小 さな異状突起が左右に出ている。また,背面か らみ/て,アカネズミ・ヒメネズミ・カヤネズミ・ ハツカネズミでは,体が短く,卵円孔が左右に 1対しかみられない。ヒメネズミでほ異状突起 の基部に孔が存在する。また,カヤネズミは, 耳巽から異状突起への移行部の曲線がゆるやか で丸みをおびている。全体的輪郭の形状ではア 図2… 蝶形骨背面図し出および上顎骨側面図(■刊. As:アカネズミ,Aa:ヒメネズミ, Mmi:カヤネズミ,Mmu:ハツカネズ ミ,Es:スミスネズミ,Mmo:ハタネ ズミ,(月A:大栗,B:卵円孔,C:体, D:異状突起,E:耳巽.(一下A:頬骨突 起,B:体.線分の長さは0.5mmを示す. カネズミとハツカネズミほよく似ているが,ハ ツカネズミほ,矢印の部分にはっきりとした突 出をもつ。 上顎骨(図2一下)について,スミスネズミ とハタネズミでほ,体の幅が広い。スミスネズ ミでは頬骨突起が(a)の突起の基部より長く伸 びるが,ハタネズミではそれが(a)の突起の基 部までしか伸びない。また,アカネズミ,ヒメ ネズミ,カヤネズミ,ハツカネズミでは体の幅 が狭い。アカネズミ,カヤネズミ,/、ツカネズ ミでは頬骨突起が長く,白歯の校合面よりも下 まで伸びるが,ヒメネズミでは頬骨突起はやや

(5)

筋骨(図3一上)ほ,スミスネズミとハタネ ズミについては前頭骨と飾骨が融合したように なっているため取り出すことが不可能であった○ 他の4種についてほ,アカネズミでは鈎状突起

が大きく前方に突出し,先端ほ鳥のロはしのよ

うにとがり気味であり,ヒメネズミでは・その突

短く,白歯と体の間ぐらいまでしか伸びない0

頬骨突起の長い3種のうち,アカネズミほ(a)

の突起の基部が第1・第2白歯の問までなのに 対し,ヒメネズミ,ハツカネズミでは第2白歯

上まで,カヤネズミほ第2・第3日歯の間に位

置する。 、.小.・仙叫、.、.、、㍉、斗叫叫仙︷光 、

Mmj Mrm

図3.筋骨側面図(上一左),後方図(上一中央),背面図(上−・右)および前頭骨背面図

(下).As:アカネズミ,Aa:ヒメネズミ,Mmi:カヤネズミ・Mmu:ハツカネズミ・

Es:スミスネズミ,Mmo:ハタネズミ.(上−・左)A:鈎状突起,B:鉛直板,C‥外

側板.(下)A:冠状縫合.線分の長さは0い5mmを示すh

(6)

起ほ大きいが先が丸みを帯び,カヤネズミでは

突起は小さく先が丸く,ハツカネズミでは突起

は小さくつまんだような形をしている。また,

後方から見たときに.,カヤネズミほ飾板の下に

鉛直板は見えない。これは横に鉛直板が広がら

ないことを示している。

次に.,種間の差が少ない構成骨のうち前頭骨

(図3−下)については,スミスネズミとハタ

ネズミほ前述のように左右の前頭骨が融合し,

前頭骨の前方では縫合線が消えてしまう。この

2種の違いほ,ハタネズミでは矢印の部分がほ っきりと外側へ出るがスミスネズミではほっき りしない。他の4種について,アカネズミでは, (c)の部分に.はっきりとした直線が入る。また, 鼻突起が側方からみて,アカネズミとカヤネズ ミでは下方へ向くが,ヒメネズミとハツカネズ ミではほぼまっすぐである。 岩骨および鼓骨(図4−左)については,ス ミスネズミとハクネズミでは岩骨の長さが鼓骨

の長さの4分の1しかない。この2種の区別ほ

スミスネズミでほ(C)の孔があるが,ハタネズ ミにはない。また,他の4種のうちアカネズミ では(d)の突起がこ叉になっており,ハツカネ ズミではとがっている。また,カヤネズミほ(d)

図4..岩骨および鼓骨側面図(左),鱗状骨側面図:(中央)および前上顎骨側面図(右)・

As:アカネズミ,Aa:ヒメネズミ,Mmi‥カヤネズミ,Mmu:ハツカネズミ,

Es:スミスネズミ,Mmo:ハタネズミ..(左)A:鼓骨胞,B:岩骨.(中央)A:頬

骨突起,B:上頂線,C:後聴胞突起.(右)A:体,B:鼻突起,C:口蓋突起・線

分の長さは0.5mmを示す.

(7)

少しくばむ程度である。また,スミスネズミは

後聴胞突起が他の部分と融合し,(g)の孔を形

成する。いっぼうハタネズミでは(g)の孔の後 方が離れている。他の4種に・ついては,アカネ ズミでは頬骨突起の基部のほぼ中央で入り込み, の突起が小さく,ヒメネズミでほこ叉が萌芽的 に見られる。 鱗状骨(図4一中央)については,スミスネ ズミとハタネズミでほ,矢印の部分が頬骨突起 の基部より後ろで入り込む。スミスネズミでは

′〆、/ ̄/ ̄、、■ ̄ノ、ヽ

「一 ノ ●:・こ、−、・・・・ヾ・二:ユニー●こ・ん

■「■■■■ −−−

−一事■一− ̄ ̄ 一− − ..Al −・■−+++

−一 一、■ −−■”ヽ_・一 −−−・−−」

.._∈£−−

■− ■■■■−■ _− ̄ ̄ _・∫Y=;− FJm・ −■ −・・ヽ■■ 巾−−−‘ヽ\ノ・{・−・・J−↑・→−−・

⊂=≡≡、、・ゝ 一・=;1 l

図5,後頭骨前方図(左),頭頂骨背面図(中央),問頭頂骨背面図(右上)および鼻骨側面

図(右下).As:アカネズミ,Aa:ヒメネズミ・Mmi:カヤネズミ・Mmu:ハツカネ ズミ

,Es:スミスネズミ,Mmo:/、タネズミ・(左)A:耳部結部・B:頸静脈突起・

c:基底部,D:大後頭孔.(中央)A:間頭頂骨との縫合面,B‥後頭骨との縫合面,C:

鱗状骨との縫合面,D:頭頂骨との縫合面,E:前頭骨との縫合面・線分の長さは0・5mm

を示す.

(8)

カヤネズミでは基部の後ろの部分とほぼ同じ位 置であり,ヒメネズミとハツカネズミでは前方 から3分の2付近で入り込む。 後頭骨(図5・一左)について,スミスネズミ とハタネズミでは頸静脈突起と基底部のなす角 が鈍角である。ハタネズミでほ耳部結部がスミ スネズミに比べ長い。また,ほかの4種ではこ のなす角が鋭角であり,アカネズミとカヤネズ ミでほ耳部結部が大後頭孔の中心より下方まで 伸びる。また,カヤネズミは耳部結部の先端は 鈎状になる。−・方,ヒメネズミとハツカネズミ でほ耳部結部が短く,特にヒメネズミでほその 先端が上へ向く。 頚頂骨(図5−ヰ央)については,ヒメネズ ミとカヤネズミでほ後頭骨と問頭頂骨との縫合 面の区別がほっきりしない。ヒメネズミでは鱗 状骨との縫合面が凹凸が多い。−・方,スミスネ ズミと′、タネズミでほ後頭骨との縫合面が突き 出している。/、タネズミでは鱗状骨との縫合面 の凹凸が多い。また,アカネズミの鱗状骨との 縫合面は特徴的で,彼のような形をしている。 ハツカネズミについては,間頭頂骨と後頭骨と の縫合面の問が突き出している。 問頭頂骨(図5一石上)について,アカネズ ミ,ヒメネズミ,ハツカネズミでは全体の幅が ほぼ同じくらいである。このうち,アカネズミ とハツカネズミは縫合面の凹凸が多く,アカネ ズミについては頭頂骨側の中央部分がこ叉する ことがある。また,カヤネズミでは中央部分が 後頭骨側と頭頂骨側の両方に突き出している。 −・方,スミスネズミとハクネズミは後頭骨側の 縫合面は直線に近く,特にスミスネズミでは二 等辺三角形に近い。 第3に,種間差がほとんどみられなかった骨 のうち,前上顎骨(囲4一石)については,ア カネズミとヒメネズミでほ昇突起が長く,それ がヒメネズミでは太く,アカネズミでは細い。 カヤネズミ,/、ツカネズミ,スミスネズミでは 体が切歯が骨内に挿入され始める位置の上部が 上へ突き出す。スミスネズミとハクネズミでは, 体は切歯の骨内に挿入され始める位置と同じと ころまでしか出ない。 鼻骨(図5・一右下)は,スミスネズミで噛り の突起が下へ大きく突き出している。また,鼻 先はアカネズミ,カヤネズミにおいてはやや下 向きで,ヒメネズミ,ハツカネズミ,ハタネズ ミにおいてははぼまっすぐであるのに対し,ス ミスネズミではやや上向きになっている。 考 察 種間の比較を行ううえで,棲内において年齢 的変化があるかどうかを調べておかなければ, 得られたデ、→クほ種間の変異であるとほ言えな い。そこでアカネズミについて年齢的変異をみ たところ,構成骨の形の上でほ年齢変異はみら れなかった。しかし,大きさの点で蝶形骨の体 の長さが長くなり(図1一上),鱗状骨の上頂 線が明瞭になった(図1一下)。また,間頭頂 骨においては個体による差が大きいため,年齢 による差かどうかは明らかではなかった。その 他の9の構成骨(上顎骨・飾骨・前頭骨・岩骨 および鼓骨・後頭骨・頭頂骨・前上顎骨・鼻骨) については大きさの点でも変異はみられず,・単 に全体が大きくなるのみであった。したがって これら9つの骨にほ年齢変異はないと考えられ る。以上のことから,間頭頂骨以外の11の構成 骨については,形のうえでの年齢変異ほないと 考えられるので,他の5種のネズミ(ヒメネズ ミ・カヤネズミ・ハツカネズミ・スミスネズミ・ ハタネズミ)についてこも同様であると仮定し, 形の上での種間比較を行うことにする。また, 間頭頂骨についてほ個体変異か種間変異かを特 定できないので種問比較を行.え.ない。 年齢変異が形のうえでみられなかった11の構 成骨のうち,蝶形骨・上顎骨・簡骨は種間の差 が大きかった。蝶形骨ほ,背面から正円孔が見 えるかどうか,異状突起の有無,およびその付 近の孔の有無,岩骨との接合面によって表2の ように種を検索・同定できる。また,上顎骨は, 体の太さ,頬骨突起の長さ,(a)の突起の基部の 位恩によって同様に表3のように種の検索・同 定ができる。一・方,飾骨は後方から見たときの 形により種の推定がおこなえる(図3−上)。 反対に鼻骨,前上顎骨は種間の差がかなり小

(9)

表2 蝶形骨検索表. スミスネズミ 異状突起がある 翼状突起がない 実状突起付近に 孔がある 巽状突起付近に 孔がない 背面から正門孔が・ ハタネズミ 孔の位置は 体と異状突起の間である→ ヒメネズミ 見えなし ハツカネズミ 体上である 耳巽から翼状突起 の移行部が丸みをおびる+− カヤネズミ 耳巽から巽状突起 の移行部が丸みをおびない アカネズミ 表3.. 上顎骨検索表. 頬骨突起は(a)の突起の基部 体の太さが スミスネズミ ーハタネズミ よりも後方まで伸びる 頬骨突起は(a)の突起の基部 とほぼ同じ位置まで+ 頬骨突起の先端は 臼歯の校合面より ヒメネズミ 上である 頬骨突起の長さは 第2,第3白歯の 頬骨突起の先端は 臼歯の嘆合面より 下である 間より前である /、ツカネズミ 二a)の突起の基部ほ 第1,第2白歯の 間までである−− 頬骨突起の長さほ 第2,第3日歯の 問より後ろである アカネズミ (a)の突起の基部ほ 第2,第3臼歯の 間までである+ カヤネズミ

の小さい鼻骨,前上顎骨ほ頭骨の前方に位置し

ていることが分かる。また,その他の6の構成

骨は頭骨の後方に位置している。ここで,清水

(1942・1948)によるネズミの相対成長によれば・

頭骨の前方部分の成長は著しく高く,次に後方

部分で,−膚成長が悪いのは頭骨の中央部分で

ある。また,津崎(1973)によれば,ヒトでは骨

化点がで割合めるのは頭骨の中心部分(例えば さく,種を同定することほ難しい。また,その 他の6の構成骨(前頚骨・岩骨・鼓骨・鱗状骨・ 後頭骨・頭頂骨)についてほ,種問の差はある が,その組み合わせによってほ差がかなり小さ いものもあり,確実には推定しかねる。 また,ここで扱った構成骨の頭骨中での位∵匠 をみてみると,種間差の大きい蝶形骨,上顎骨, 飾骨は頭骨の中心付近に位置しており,種間差

(10)

蝶形骨など)が早く,いくつかの部分から成る 構成骨もその完成ほ中心部分で早い。これらと 構成骨の種間変異と比べてみて,成長が早く停 止する構成骨ほど種間変異が大きく,反対7こ成 長が遅くまで続く構成骨はど,種間の変異が小 さいと言え.る。 一・方,前頭骨・岩骨および鼓骨・鱗状骨・後 頭骨・頭頂骨については,ネズミ科の4種(ア カネズミ・ヒメネズミ・カヤネズミ・ハツカネ ズミ)と/、タネズミ科の2種(スミスネズミ・ ハタネズミ)の間ではっきりとした相違がみら れる。また,金子(1969)によれば,骨盤の形 態においてもネズミ科とハタネズミ科の間に相 違があり,−・般的特徴と関連させるとハタネズ ミ科の方がネズミ科より,形態的に特殊化して いるとされている。これをふまえると,頭骨に おいてもはつきりとした科間の相違が生じてい ると言える。 今回扱った12の構成骨のうら,鼻骨と前上顎 骨においては種を特定できないが,前頭骨・岩 骨・鼓骨・鱗状骨・後頭骨・頭頂骨においては 科まで,蝶形骨・上頚骨・編骨においては種ま でを確実に.推定できるといえ.る。 摘 要 アカネズミ・ヒメネズミ・カヤネズミ・ハツ カネズミ・スミスネズミ・ハタネズミの6種の ネズミの構成骨の比較を行った。 (1.)アカネズミ内の年齢的変異は形の上ではな く,大きさの点で蝶形骨の体の長さと鱗状骨の 上頂線の明瞭さが増す点が変化する。 (2)6種のネズミにおいて,種間差が大きいも のは蝶形骨・上顎骨・筋骨であり,これらは頭 骨の中心部分に位置している。反対に,種間差 が小さいものは鼻骨・前上顎骨であり,これら は頭骨の前方部分に位層している。 (3)成長が早くに停止するものは,形態的に種 間差が大きく,反対に成長が遅くまで続くもの は,形態的に種間差が小さい。 (4)前頭骨・鼓骨および岩骨・鱗状骨・後頭骨・ 頭頂骨については,科内の変異ほ少ないが科間 にははっきりとした相違がある。 謝 辞 本研究を進めるにあたり終始ご指導いただい た金子之史教官をはじめ,生物学教室の諸先生 方に厚くお礼申し上げます。また,多くのご協 力をいただきました生物学研究室の皆様に感謝 いたします。

訃 用 文 献

阿部 学・松田まゆみ.1977.フクロウのペリ ット形成に関する実験.第24回日本生態学会 講演要旨集,広島:45.

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参照

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