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グルテン構成タンパク質組成がパンの咀嚼 嚥下特性に与える影響日本調理科学会誌 Vol. 47,No. 6,305~311(2014) 報文 グルテン構成タンパク質組成がパンの咀嚼 嚥下特性に与える影響 Effect of Gluten Protein Composition on the Masti

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* 静岡県立大学 (University of Shizuoka) § 連絡先 静岡県立大学食品栄養科学部 〒 422-8526 静岡県静岡市駿河区谷田 52-1 TEL 054(264)5823 FAX 054(264)5823 E-mail:[email protected]

グルテン構成タンパク質組成がパンの咀嚼・嚥下特性に与える影響

Effect of Gluten Protein Composition on the Mastication and Swallowing Properties of Bread

杉 浦 文 香* 伊 藤 聖 子* 新 井 映 子*

§

Fumika Sugiura Seiko Ito Eiko Arai

The gluten protein composition of wheat flour has a large influence on the quality as well as texture of the bread produced. In this study, we examined the effect of gluten protein composition on bread bolus texture during con-sumption. We substituted part or all of the commercially available wheat standard gluten (SG) for acid soluble glu-ten (ASG). We then prepared five types of reconstituted wheat flour with different gluglu-ten protein compositions, and made bread from each of these flours. Breads made using flours with high and low ASG substitution ratios did not differ with respect to hardness, but showed differences in cohesiveness. As the ASG content increased, simulated bread bolus hardness and adhesiveness decreased, as did the yield stress of the bread powder dispersion liquid. Based on a sensory evaluation, bread made with flour containing 100% ASG was softer and formed more coherent bread boluses than did the control bread (SG 100%). These results indicated that the gluten protein composition of wheat flour effects bread bolus texture during consumption.

キ ー ワ ー ド:パ ン bread;グ ル テ ン 構 成 タ ン パ ク 質 gluten protein compositions;咀 嚼 mastication;嚥 下 

swallowing;食塊 bolus 1. 緒  言  食物の誤嚥による気道閉塞が原因の死亡事故は年々増加 傾向にあり,平成 24 年度には 5,000 件を超え,その約 9 割 が 65 歳以上の高齢者で発生している1)。向井ら2)の調査に よると,死亡事故は米飯,パンおよび粥など主食となる穀 類摂取時に最も多いことが報告されている。  米を原料とする米飯や粥については,これまでに嚥下に 対する物性評価やその改善法が報告され3,4),得られた知見 が病院や高齢者介護施設等で利用されている。一方,小麦 粉を原料とするパンについては,小城ら5)や吉川6)の報告 があるものの研究例は少ない。しかし,在宅の一般高齢者 が高頻度にパンを摂取しているとの調査報告7)もあり,今 後は学校給食におけるパン食や欧米型の食生活に慣れ親し んだ世代が高齢期を迎えることから,安全に摂取できるパ ンの需要は増加するものと考えられる。  小麦粉を用いた食品では,ビスケットやクッキーの咀 嚼・嚥下特性の改変に,タンパク質含有量8-10)やグルテン 構成タンパク質のグリアジンとグルテニンの比率11)に着目 した研究がある。パンについても,タンパク質組成は生地 物性に大きく関わるため,製パン性に与える影響について 多くの研究がなされ,グルテニン比率が高い品種を用いる とパンの比容積が増大してクラムはやわらかくなることが 報告12)されている。しかし,グルテン構成タンパク質組成 がパンの咀嚼や嚥下に及ぼす影響については,ほとんど検 討がなされていない。  そこで,本研究では,高齢者が安全に摂取できるパンの 製法に関する基礎的知見を得るために,市販の小麦タンパ ク質と小麦澱粉で調製した再構成小麦粉を用いて製パンし, グルテン構成タンパク質組成がパンの咀嚼や嚥下に与える 影響について明らかにすることを目的とした。 2. 実験方法 (1) 材料  一般的な小麦タンパク質として,製パンなどに広く用い られるグリコ栄養食品(株)製の「A-グル G」を,標準グル テン(Standard gluten:SG)として使用した。グルテンの タンパク質組成を改変するための小麦タンパク質には,有 機酸水溶液で抽出された酸可溶性画分のグルテン(Acid soluble gluten:ASG)として,アサマ化成(株)製の「グリ ア A」を使用した。小麦澱粉は,グリコ栄養食品(株)製の 「銀鱗」を使用した。その他の製パン材料は,大日本明治製 糖(株)製の上白糖,雪印乳業(株)製の脱脂粉乳「北海道ス キムミルク」とバター「雪印無塩バター」,(財)塩事業セ ンターの食塩,日清フーズ(株)製のドライイースト「スー パーカメリア(顆粒)」および浄水器で浄化した静岡市水道 水を使用した。模擬唾液の調製には,(株)ミュウセレク ションの「キサンタンガム(00111I)」を使用した。 (2) 再構成小麦粉の調製  グルテン構成タンパク質組成が異なる小麦粉を得るため に,小麦澱粉(238 g)にタンパク質含有量が 15%となる

(2)

ように小麦タンパク質(42 g)を混合し,再構成小麦粉 (280 g)を調製した。再構成小麦粉は,SG 42 g(100%) を混合したものをコントロールとし,SG の 25,50,75 お よび 100%を ASG で置換したものを含む計 5 種類を実験に 供した。 (3) 再構成小麦粉の成分比較 1) タンパク質の分画  各再構成小麦粉を Osborn の改良法13)を参考に,水溶性, 塩溶性,エタノール可溶性,希酸可溶性,残渣に分画した。 すなわち,再構成小麦粉(2 g)に蒸留水(20 mL)を加え, 1,000 rpm で振盪しながら室温で 2 時間抽出し,遠心分離 (10,000 rpm,4℃,30 分間)を行った。上清を採取した 後,残渣に蒸留水 10 mL を加えて 1 時間抽出し,同様に遠 心分離した。その後,洗浄のため残渣に蒸留水 10 mL を加 えて 30 分間振盪,遠心分離した。得られた 3 回の抽出上清 を合わせて水溶性画分とした。水抽出残渣を 0.5 M 塩化ナ トリウム水溶液,70%エタノール水溶液および 0.05 M 酢 酸水溶液を用い,上記と同様に順次抽出分画した。各抽出 画分のタンパク質量は,ウシγグロブリンを標準タンパク 質として Bradford 法14)にて定量した。 2) SDS 沈降試験  Axford ら15)の方法を改変した Takata ら16)の方法に従っ て行った。すなわち,各再構成小麦粉(5 g)に水(50 mL) を加えて混合後,SDS-乳酸溶液(50 mL)を加えてさらに 混合した。混合液を室温に 24 時間放置した後,再度撹拌 し,40 分間経過後の沈降体積(mL)を測定した。 (4) 製パン性試験 1) 生地物性の測定

 ミキソグラフ(National Mfg. Co., 35 Gram Mixograph) を使用した。再構成小麦粉(30 g)に食塩(0.6 g)を混合 し,再構成小麦粉の乾物重量に対する加水量が 65%になる ように水を加えたものを試料とした。ミキソグラフ特性値 として,負荷が最大になるまでの時間(Peak time: PT), グラフピークの高さ(Peak height: PH)および測定終了時 の高さ(Curve tail height: CH)を求めた。なお,再構成 小麦粉の水分含有量は,電子水分計(島津製作所(株), MOC-120H)を使用し,120℃で測定した。 2) 食パンの調製と比容積の測定  再構成小麦粉(280 g),上白糖(16.8 g),無塩バター (14 g),脱脂粉乳(5.6 g),食塩(5.6 g),ドライイース ト(2.8 g)および水(182 g)を自動ホームベーカリー(三 洋電機(株),SPM-MP31)の型に入れ,「食パンメニュー」 で焼成した。焼成後は直ちにパンを型から取り出し,室温 で 2 時間放置して常温まで冷却し,比容積の測定に供した。  比容積は,植物種子置換法17)で測定したパンの体積を重 量で除して算出した。 3) クラムのテクスチャー測定  焼成・冷却後のパンをラップフィルムで包装し,ポリエ チレン製袋に封入して 20℃相対湿度 65%の恒温恒湿機(東 京理科機械(株),KCL-1000)内で 24 時間保存したものを測 定に供した。パンを縦に 2 等分し,電動スライサー(Ritter, Multi Schneider E16)で断面から 20 mm の厚さにスライ スした後,超音波カッター((株)山電,USC-3305)を使用 して 20×20×20 mm に成型したものを測定用試料とした。 1 回の焼成で 10~12 個の試料を得た。  測定にはクリープメーター((株)山電,RE2-33005s)を 使用した。測定条件はロードセル:20 N,プランジャー: ポリアセタール樹脂製の直径 30 mm 円筒型,圧縮速度:1 mm/s,歪率:50%,圧縮回数:2 回とした。得られたテク スチャープロファイル曲線から,試料のかたさ応力と凝集 性を求めた。 (5) 模擬食塊の物性試験 1) 模擬食塊の調製とテクスチャー測定  (4)-3)と同条件で 24 時間保存したパン(水分含有量 40.4±0.6%)のクラム(20 g)を,電動ミル((株)岩谷産 業,IFM-720G-W/Y)で 30 秒間粉砕した。これを目開き 1 および 0.5 mm の実験用ステンレス製篩に通し,0.5 mm 以上 1 mm 未満の粉砕物を得た。粉砕物(14 g)を乳鉢に 採取し,模擬食塊の水分含有量が 65%となるように模擬唾 液(10 g)を加え,乳棒で叩くように 20 回混合した。その 後,1回/秒の速度で右および左回りに 10 回ずつ撹拌したも のを模擬食塊とした。模擬唾液は,島田ら18)の方法を参考 に,0.05%キサンタンガム水溶液を用いた。なお,パンの 水分含有量は(4)-1)と同様の方法で測定した。  調製した模擬食塊は,直ちにステンレス製シャーレ(直 径 40 mm,高さ 15 mm)に 20 g 充填し,クリープメー ターを使用してかたさ応力,凝集性および付着性を測定し た。測定条件はロードセル:20 N,プランジャー:ポリア セタール樹脂製の直径 20 mm 円筒型,圧縮速度:1 mm/ s,歪率:66.7%,圧縮回数:2 回とした。 2) パン粉末分散液の調製と流動特性  (5)-1)で用いたパン粉砕物よりさらに粒径の小さいパン 粉末を試料とし,分散液の流動特性を検討した。パン粉砕 物を目開き 0.5 mm の篩に通し,0.5 mm 未満のパン粉末 を得た。これをビーカーに 0.5 g 採取して模擬唾液 1.5 g を加え,薬さじで 20 回撹拌後,1 分間放置したものをパン 粉末分散液とした。  パン粉末分散液の流動特性の測定には,回転式粘度計 (HAAKE,Viscotester 550)を使用した。測定条件はセン サー:直径 28 mm の平行円盤,ずり速度:0~200 1/s,測 定時間:120 秒,ステージ温度:37℃とした。得られた流 動曲線から Casson 式19)を用いて降伏応力と流動性指数を 求めた。 (6) パンの官能評価  コントロールと ASG100%置換の再構成小麦粉で調製し た 2 種類のパンを試料とし,静岡県立大学学生 40 名(平均

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年齢 22.5±0.9 歳)をパネルに用いて,7 段階評点法で実 施した。評価項目は,口中で感じるかたさ,口中でのまと まりやすさ,べたつき,飲み込みやすさ,食後の水の要求 度とした。正の評価はやわらかい,まとまりやすい,べた つかない,飲み込みやすいおよび食後に水を要求しないで あり,負の評価はかたい,まとまりにくい,べたつく,飲 み込みにくいおよび食後に水を要求するである。  研究の趣旨からは,咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者を パネルに用いるのが望ましいが,本研究は基礎的データの 収集を目的としているため,窒息や誤嚥の危険性等を考慮 して,若年健常者を被験者とした。 (7) 統計解析  ミキソグラフを除く測定はいずれも 3 回以上実施し,結 果を平均値と標準偏差で示した。平均値の差の検定はス チューデントの t-テストによった。 3. 結果および考察 (1) 再構成小麦粉の成分比較  小麦澱粉と小麦タンパク質から調製した 5 種類の再構成 小麦粉の性質を比較するため,タンパク質の分画および製 パン性の指標に用いられる SDS 沈降試験を行った結果を Table 1 に示した。  各種溶媒によるタンパク質の分画では,SG に対する ASG の置換率が増加すると,エタノールおよび希酸可溶性画分 のタンパク質量が有意に増加した。これより,ASG の置換 によって,エタノールに可溶なグリアジンや希酸に可溶な グルテニン画分の比率が高い粉になると推察された。また, SDS 沈降試験では,ASG の増加に伴って沈降体積は有意に 減少した。SDS 沈降価は,SDS 不溶性グルテニン量と相関 がある20)ため,ASG の置換率が増すと,SDS 不溶性グル テニン比率の少ない粉になると推察された。  これらの結果より,調製した 5 種類の再構成小麦粉は, いずれもタンパク質組成が異なるグルテンを含有すること が確認できた。そこで次に,これらの再構成小麦粉を使用 して製パン試験を実施した。 (2) グルテン構成タンパク質組成が製パン性に与える影響  はじめに,生地物性を表すミキソグラフ特性値とパンの 膨化性を表す比容積の結果を Table 2 に示した。  ミキソグラフ特性値の PT,PH および CH は,いずれも ASG の置換率が増加すると,それぞれ減少する傾向を示し た。SDS 可溶性グリアジンおよびグルテニンの比率が高い グルテンは,強固な高次構造を形成することができないた め,生地は軟化する21)。前述のように,ASG の置換率が高 い再構成小麦粉では,SDS 不溶性グルテニン量が低下し, SDS 可溶性グリアジンおよびグルテニン量が相対的に増加 したため,ミキシング抵抗の小さい生地が形成されたと推 察された。  パンの比容積は 3.95 から 3.56 となり,ASG 置換率の増 加に伴って減少した。強力粉を使用した一般的な山形食パ ンの比容積は 4~4.5 程度22)であるが,本実験ではパンの 比容積はいずれも 4 を下回った。これは,小麦タンパク質 と小麦澱粉で調製した再構成小麦粉には,強力粉の成分で あるペントザンや内在性酵素が含まれないため,強力粉の 山形食パンより比容積が小さくなったものと推察された。 Table 1. Effect of ASG substitution ratio on the amount of extracted protein and SDS sedimentation value of reconstituted wheat flour ASG substitution

ratio(%)

Amount of extracted protein(g/100 g of reconstituted wheat flour) SDS sedimentation

value(mL)

Distilled water 0.5 M NaCl solution 70% ethanol solution 0.05 M acetic acid solution

  0 2.06±0.19 0.68±0.09 1.16±0.11a 0.56±0.02a 33.7±0.8a

 25 2.12±0.12 0.69±0.04 1.32±0.15ab 0.71±0.08b 24.8±0.4b

 50 2.02±0.17 0.68±0.11 1.59±0.09b 0.82±0.05bc 17.3±0.5c

 75 1.94±0.16 0.70±0.06 1.89±0.12c 0.87±0.04c 12.2±0.2d

100 1.84±0.17 0.61±0.13 2.11±0.23c 0.92±0.05c 7.80±0.5e

ASG substitution ratio means the rate of acid soluble gluten (ASG) for standard gluten (SG). Date are expressed as mean±SD (n=3). Significant differences (p<0.05) are indicated by different letters.

Table 2. Effect of ASG substitution ratio on characteristics of breadmaking ASG substitution

ratio(%)

Parameter of mixograph Specific loaf

volume(cm3/g) PT(min) PH(%) CH(%)   0 5.76 58.9 39.4 3.95±0.05a  25 4.78 54.6 37.5 3.70±0.08b  50 4.62 45.6 33.0 3.58±0.12c  75 4.18 44.5 32.4 3.58±0.09c 100 3.61 44.2 30.6 3.56±0.08c

ASG substitution ratio means the rate of acid soluble gluten (ASG) for standard gluten (SG). PT, PH and CH mean the peak time, peak height and curve tail height, respectively. Date of specific loaf volume are expressed as mean±SD (n=3). Significant differences (p< 0.05) are indicated by different letters.

(4)

 比容積は SDS 沈降体積と高い相関性を示し16),本実験で も,Table 1 に示した SDS 沈降体積とパンの比容積との間 に,有意な正の相関(r=0.934,p<0.05)が認められた。 これらのことから,ASG で置換すると,エタノールおよび 希酸可溶性画分の増加や SDS 不溶性グルテニンが減少する ことで,製パン性が低下したと推察された。  次に,焼成 1 日後のクラムのテクスチャー特性値として かたさと凝集性を測定した結果を Table 3 に示した。ASG の置換率が増加しても,クラムのかたさに有意な変化は認 められなかった。一方,パンの弾力を表す凝集性の値は, ASG 置換率が増加するに伴ってわずかな減少傾向が認めら れた。これらの結果より,本実験の範囲内では,エタノー ルおよび希酸可溶性タンパク質の比率が高い粉を使用する と,クラムはやわらかさを保持しつつ,弾力はやや低下す ることが明らかとなった。 (3) 模擬食塊の物性  パンは口腔内で咀嚼されて唾液と混合されると粘着性が 増し,窒息の原因になりやすい。そのため,パンクラムの テクスチャー測定のみでは,口腔内におけるパンの物性を 把握できない。そこで,パンの粉砕物に模擬唾液を添加し て調製した模擬食塊を試料として,口腔内における食塊物 性をシュミレーションした。  小城ら23)によると,高齢者を対象に嚥下直前の食パンの 食塊の水分含有量を測定したところ,男性(平均年齢 73.4 歳)は 56.3±11.6%,女性(平均年齢 74.3 歳)は 58.3± 4.3%であった。これらは自由咀嚼で測定されており,被験 者には義歯装着者も含まれることから,十分に粉砕・吸水 されていない大きなパン片を含んだ測定値と推察された。 そこで本実験では,最も水分含有量が高かった被験者の測 定値(男性 67.9%,女性 62.6%)を参考にして,模擬食塊 の水分含有量を 65%とした。  はじめに,模擬食塊のかたさ,凝集性および付着性を測 定した結果を Fig. 1 に示した。模擬食塊のかたさは,ASG 置換率が増加するに伴って有意に減少した。また,測定値 のばらつきは大きかったものの,付着性も ASG 置換率の 増加に伴って減少した。なお,ASG 置換率による凝集性の Table 3. Effect of ASG substitution ratio on the texture

parameter of bread ASG substitution ratio(%) Hardness (×103 N/m2 Cohesiveness   0 4.58±1.05 0.70±0.04a  25 4.77±0.96 0.68±0.05a  50 5.03±1.18 0.66±0.05b  75 4.60±1.28 0.66±0.05b 100 4.82±1.45 0.65±0.06b

ASG substitution ratio means the rate of acid soluble gluten (ASG) for standard gluten (SG). Date are expressed as mean±

SD (n=50). Significant differences (p<0.05) are indicated by dif-ferent letters.

Fig. 1. Texture properties of simulated bread bolus

ASG substitution ratio means the rate of acid soluble gluten(ASG)for standard gluten(SG). Date are expressed as mean±SD(n=36). Significant differences(p<0.05)are indicated by different letters. 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 0 25 50 75 100 Hardness ( × 10 4N/m 2)

ASG substitution ratio (%)

a b c e d 0 1 2 3 4 5 0 25 50 75 100 Adhesiveness ( × 10 3J/ m 3)

ASG substitutionratio (%)

b bc c a c 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 0 25 50 75 100 Cohesiveness

(5)

変化は認められなかった。これらのことから,ASG 置換率 が増加すると,粉砕されて唾液を吸収したパンは,やわら かく,付着性の低い食塊を形成することが明らかとなった。  次に,細かく砕かれたパン粉末が唾液を吸って膨潤・分 散した糊状物質の流動性が,口腔内における食塊物性に影 響を与えていると考えられた。そこで,模擬食塊に用いた パン粉砕物よりもさらに粒度を低下させたパン粉末に模擬 唾液を加えて分散液を調製し,ASG 置換率がパン粉末分散 液の流動性に与える影響を検討した。  ASG 置換率に関わらずパン粉末分散液の流動曲線は,い ずれもずり速度の増加に伴ってみかけ粘度が減少する塑性 流動を示した(図は省略)。得られた流動曲線から降伏応力 と流動性指数を求めたところ,Table 4 に示したように, ASG 置換率が増加するに伴って降伏応力は減少し,流動性 指数は増加した。これらのことから,ASG 置換率が増加す ると,パン粉末分散液は流動性が増して流れやすい状態に なることが明らかとなった。  以上の結果より,ASG 置換によってグルテン構成タンパ ク質組成を変化させると,模擬食塊の物性は変化すること が判明した。すなわち,エタノールおよび希酸可溶性タン パク質画分の比率が高い粉で製パンすると,模擬食塊はや わらかく,付着性が低く,流動しやすくなった。したがっ て,製パンに使用する小麦粉のグルテン構成タンパク質組 成を改変することは,パンの食塊物性をコントロールする ための手段のひとつになる可能性が示唆された。 (4) パンの官能評価  模擬食塊による実験結果から,ASG置換率の高いパンは, 一般的なタンパク質組成のコントロールパンよりも咀嚼に よって形成される食塊はやわらかく,歯に付きにくく,流 動しやすいと推察された。そこで,コントロールパンと ASG 置換の影響が最も顕著であった 100%置換パンを用い て官能評価を行った結果を Fig. 2 に示した。  口中で感じるかたさは,ASG 100%置換パン(置換パン) がコントロールパンよりも有意に高い正のスコアとなり, やわらかい食塊を形成することが確認できた。この評価は, 模擬食塊によるかたさの測定結果とも一致した。  口中でのまとまりやすさは,置換パンがコントロールパ ンよりも有意に高い正のスコアとなった。食後の水の要求 度は,両者とも負のスコアとなったが,有意差は認められ ないものの置換パンがコントロールパンよりも小さな値で あった。よって,置換パンは,コントロールパンよりも少 ない唾液量で食塊形成が可能であったと推察され,これが 口中でのまとまりやすさの評価に影響を与えたものと考え られた。  一方,食塊のべたつきは,置換パンがコントロールパン よりも有意に低い評価となり,模擬食塊による付着性の測 定結果と相反するものとなった。この要因には,食塊の流 動性の影響が推察された。すなわち,流動性が高い物質ほ ど広がりやすいため,口腔内では流動性の高い食塊は歯や 口腔粘膜に付着する面積が増大すると考えられる。前述し たパン粉末分散液の流動性指数は,置換パン(0.58±0.06) がコントロールパン(0.30±0.05)よりも有意に大きかっ たことから,置換パンでは食塊が流動して口腔器官に接触 する面積が大きくなり,被験者はその感覚をべたつくと評 価したと推察された。  テクスチャー測定で得られる付着性は,プランジャーが 接触した単位面積当たりの付着力として算出されるため, 物質の流動性の差異によって生じる接触面積を考慮した値 ではない。高橋ら24)は粥に関して,テクスチャー測定によ る付着性と口腔感覚としてのべたつきの不一致について言 及しており,本実験においても,試料の広がりがべたつき の評価に影響を与えたことが推察された。  飲み込みやすさについては,コントロールパンと置換パ ンのスコアはほぼ同じであり,有意差は認められなかった。  塩澤ら25,26)は,米飯食塊やモチ食塊について,嚥下誘発 の直接要因ではないものの,咀嚼の進行による食塊のかた Fig. 2. Sensory scores of the control bread(100% SG)and the

100% ASG bread.

Date are expressed as mean of scores(n=40). *, ** and *** indicate

p<0.05, p<0.01 and p<0.001, respectively. -3 -2 -1 0 1 2 3 Firmness Ease of cohesion Thickness Ease of swallowing Demand of water after consumption

**

***

*

■, Control bread; ○, 100% ASG bread Table 4. Effect of ASG substitution ratio on the yield stress

and flow behavior index of dispersion liquid of bread crumbs.

ASG substitution

ratio(%) Yield stress(Pa)

Flow behavior index   0 7.04±1.84a 0.30±0.05a  25 3.88±1.59b 0.44±0.10b  50 3.40±0.67b 0.48±0.05b  75 1.69±0.44c 0.54±0.02c 100 1.43±0.57c 0.58±0.06c

ASG substitution ratio means the rate of acid soluble gluten (ASG) for standard gluten (SG). Date are expressed as mean±

SD (n=10). Significant differences (p<0.05) are indicated by dif-ferent letters.

(6)

さの減少は,嚥下誘発の必要条件のひとつであると報告し ている。また,付着性に関しては,付着の程度が食品また は各個人の嚥下閾値まで減少したときに嚥下が誘発される と述べている。本実験において,置換パンはコントロール パンよりも口中で感じるかたさの値が有意に低いため,コ ントロールパンよりも少ない咀嚼で嚥下誘発が惹起される 食塊を形成したものと思われる。しかしながら,置換パン では口腔組織に対する食塊の接触面積が増大したことによ り,口中感覚としてはべたつきが増して,嚥下誘発の遅延 が生じた可能性が推察される。従って,口中で感じるかた さとべたつきの評価が相殺したことにより,コントロール パンと置換パンでは,総合的な飲み込みやすさの評価に差 が認められなかったものと考えられる。これらのことから, パンの嚥下をより容易にするための物性改変においては, 食塊のかたさを減少させるだけでなく,口腔組織への接触 面積の減少を含めた付着性の抑制が重要であると推察され た。ただし,本実験は若年健常者をパネルに用いたため, 咀嚼力や唾液分泌量に問題はなく,いずれのパンも容易に 嚥下できたと推察された。今後は,高齢者を対象とした官 能評価を行い,食塊のかたさやべたつきが嚥下に与える影 響を評価する必要があると思われた。  以上の結果から,ASG 置換パンは,咀嚼によって唾液と 混ざるとコントロールパンよりもやわらかく,まとまりや すい食塊となることが明らかとなった。すなわち,エタ ノールおよび希酸可溶性タンパク質の比率が高いグルテン を含有する小麦粉を使用すると,咀嚼・嚥下しやすいパン を調製できる可能性が官能的にも確認できた。 4. 要  約  咀嚼・嚥下の容易な食パンの調製に関する基礎的知見を 得ることを目的に,グルテン構成タンパク質組成の異なる 再構成小麦粉を用いて食パンを調製し,タンパク質組成が パンの咀嚼・嚥下に関わる物性に与える影響を検討した。  グルテン構成タンパク質組成の改変は,標準グルテン (SG)の一部または全部を,有機酸可溶性グルテン(ASG) で置換することによって行った。製パンには,小麦澱粉に タンパク質組成の異なるグルテン 15%を加えた 5 種類の再 構成小麦粉を使用した。  ASG による置換で,再構成小麦粉から溶出されるエタ ノールおよび希酸可溶性タンパク質量は増加した。パンの 比容積は,ASG 置換によって減少した。SDS 沈降体積およ びミキソグラフで得られるピーク時間は,ASG 置換で減少 し,生地の弱化が認められた。ASG 置換でパンのクラムの 凝集性は低下したが,かたさに変化は認められなかった。 模擬食塊のかたさと付着性は,ASG 置換によって低下した。 パン粉末分散液の流動特性は,ASG 置換で降伏応力が減少 し,流 動 性 が 増 加 し た。ク ラ ム の 官 能 評 価 に よ り, ASG100%置換パンは,唾液と混合されると SG100%のコ ントロールパンよりもまとまりやすく,やわらかい食塊を 形成すると評価された。  以上の結果より,小麦粉のタンパク質組成は製パン性の みならず,パンの食塊物性にも影響を与えることが判明し た。さらに,エタノールおよび希酸可溶性タンパク質の比 率が高い粉で製パンすると,食塊がやわらかく,まとまり やすくなることが明らかとなり,小麦粉のタンパク質組成 を改変することにより,咀嚼・嚥下しやすいパンを調製で きる可能性が示された。 文  献 1) 厚生労働省(2013/09/05),不慮の事故の種類別に見た年 齢別死亡数 2012(確定数)の概況,http://www.mhlw.go.jp/ toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei12/,(2014/07/18) 2) 向井美恵(2008),食品による窒息の現状把握と原因分析, 平成 19 年度厚生労働科学研究補助金総括研究報告,pp. 1-9 3) 塩澤光一,城所寛子,佐藤洋子,神山かおる,柳沢慧二 (2003),米飯咀嚼時の食塊物性と嚥下閾値との関係,日本咀 嚼学会雑誌,13,58-66 4) 高橋肇,宮岡洋三,新井映子,山田好秋(1999),嚥下困 難者用「粥」の評価,日本摂食・嚥下リハビリテーション学 会雑誌,3,36-46 5) 小城明子,石川朋宏,植松宏(2005),咀嚼・嚥下力低下 者に適したパンの検討―施設高齢者による主観評価―,日本 摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌,9,83-85 6) 吉川峰加(2012),超高齢化社会のニーズにこたえる易咀 嚼性パンの開発,日本咀嚼学会雑誌,22,8-10 7) 田中マキ子,人見英里,安藤真美(2006),高齢者におけ る機能性食パンへの意識,山口県立大学大学院論集,7, 95-100 8) 宅見央子(2008),口どけ感のあるビスケットの咀嚼中の 物性特性,日本咀嚼学会雑誌,18,112-121 9) 南利子,中村弘泰,福田真一,松田賢一,向井美惠,米谷 俊(2005),咀嚼・嚥下が容易な食品に関する研究―官能評 価,物性評価,生体計測による検討―,日本摂食・嚥下リハ ビリテーション学会雑誌,9,213-220 10) 南 利 子,白 石 浩 荘,米 谷 俊,石 川 健 太 郎,向 井 美 惠 (2005),咀嚼・嚥下が容易な食品に関する研究―高齢者調査 における検討―,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑 誌,9,221-227 11) 倉賀野妙子,木村宏樹,和田淑子(1991),クッキーの物 性に対するグリアジンとグルテニンの役割,日本家政学会 誌,42,45-52

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(平成 26 年 7 月 22 日受付,平成 26 年 10 月 1 日受理) 和文抄録  小麦粉のグルテン形成に関わるタンパク質組成は,製パン性や焼成後のパンの食感に大きな影響を与える。本研究では, グルテン構成タンパク質組成が摂食時のパンの食塊物性に与える影響について検討した。製パンに広く用いられる小麦粉 から抽出されたグルテンを標準グルテン(SG)とし,SG の一部または全てを小麦タンパク質から調製された有機酸可溶 性グルテン(ASG)で置換したものと小麦澱粉を混合し,タンパク質組成の異なる 5 種類の再構成小麦粉を調製した。ASG 置換率が高い粉で製パンすると,パンのかたさ応力に変化は認められなかったが,凝集性は低下した。ASG の増加に伴い, 模擬食塊のかたさ応力と付着性は低下し,パン粉末分散液の降伏応力は減少した。官能評価では,ASG 100%置換のパン はコントロールパン(SG 100%)よりもやわらかく,まとまりやすい食塊を形成すると評価された。これらの結果より, 小麦粉のタンパク質組成は,パンの食塊物性に影響を与えることが判明した。

Table 2. Effect of ASG substitution ratio on characteristics of breadmaking ASG substitution
Fig. 1. Texture properties of simulated bread bolus

参照

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