地方政府形態と地方選挙制度 : 比較地方選挙制度 論序説 (政治行政学科創立二十周年記念号)
著者名(日) 江藤 俊昭
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 68
ページ 57‑100
発行年 2011‑11‑10
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000531/
論
地
説方 政 府 形 態 と 地 方 選 挙 制 度
││ 比較 地方 選挙 制度 論序 説│
│
江 藤 俊 昭
目 次 はじ めに 一 地方 選挙 制度 を構 想す る前 提︱
︱問 題の 所在
︱︱ 二 比較 地方 選挙 制度 論の 視点 三 諸外 国の 地方 選挙 制度 四 非政 党選 挙制 度の 状況 と課 題︱
︱多 様な 地方 選挙 制度 を有 する アメ リカ の事 例︱
︱ むす びに かえ て
― 57 ―
はじ めに 住民
自治 を進 める 上で 議会 改革 は重 要で ある こと は認 知さ れて いる
︒新 しい 議会 改革 の方 向を 筆者 は︑ 地方 分権 によ って 開花 する 地方 自治 原則 や市 民参 加の 充実 を踏 まえ て協 働型 議会 とし て提 唱し てき た︒ この 協働 型議 会は
︑ 住民 に開 かれ 住民 参加 を促 進し
︑議 会の 存在 意義 であ る議 員間 討議 を充 実さ せつ つ︑ 監視
・立 法機 能を 発揮 する
︒ その こと によ って 長期 的全 体的 な地 域ビ ジョ ンの 構想 者の 役割 を担 うも ので ある
︵江 藤 二〇
〇四
︶︒ 議会 改革 は︑ それ を担 う議 員が 行わ なけ れば なら ない
︒議 員の 意識 改革 も必 要で ある
︒し かし
︑そ れ以 上に 重要 なこ とは
︑協 働型 議会 を担 える 議員 を選 出で きる シス テム であ る︒ 議会 とい う場 での コト の決 め方 が問 われ てい る と同 時に
︑そ れを 担う ヒト
︵議 員︶ の決 め方 も考 える 必要 があ る︒ 日本 の市 町村 議会 議員 選挙 制度 は︑ 大選 挙区 単 記非 移譲 式で ある
︒候 補者 も有 権者 も全 体的 視点 で考 え投 票を 促進 する 制度 とは なっ てい ない
︒候 補者 は︑ 全体 か ら票 を得 ると いう より も特 定の 地区 や分 野・ 団体 から 票を 得よ うと 個別 化し た層 に特 化し た得 票を めざ す︒ 有権 者 は一 人一 票で ある ため に︑ もっ とも
︵あ るい はそ れが 優勢 であ る場 合に は第 二位
︑第 三位
︶支 持す る候 補者 に投 票 する にす ぎず
︑全 体の 議員 構成 をイ メー ジす るこ とは 困難 であ る︒ 都道 府県 議会 議員 選挙 は︑ 選挙 区選 挙を 採用 し てい るた めに
︑市 町村 議会 議員 選挙 と同 様の 問題 とと もに
︑後 述す るよ うな 小選 挙区 制の 問題 をも 内包 して いる
︒ こう した ヒト の決 め方 は︑ 議員 の性 別︑ 年齢
︑職 業等 の社 会的 属性 の大 幅な 偏り の是 正に つい ての 議論 とも 重な る︒ 地方 議会 改革 論を 超え て抜 本的 な地 方選 挙制 度改 革論 を構 想す る時 期に きて いる とい えよ う︒
― 58 ―
なお
︑こ れは
︑最 近急 展開 して いる 日本 の地 方自 治・ 政治 研究 の前 提を 変更 する こと も念 頭に 置い てい る︒ これ らの 研究 は︑ さま ざま な政 策が 二元 代表 制と いう 地方 政府 形態 によ って 規定 され ると いう もの であ る︵ 曽我
・待 鳥 二〇
〇七
︑馬 渡 二〇 一〇
︑砂 原 二〇 一一
︶︒ その 代表 的研 究の 一つ では
︑﹁ 日本 の地 方政 府に おい て︑ 首長 と地 方議 会は 選挙 を通 じて 住民 から 委任 を受 ける が︑ 委任 の行 われ 方の 違い
︑す なわ ち首 長と 地方 議会 を選 出す る選 挙 制度 の違 いが 存在 する
︒こ のこ とに よっ て︑ 首長 と地 方議 会が それ ぞれ 自ら を選 出し た地 域住 民に 対し て説 明責 任 を果 たす ため に異 なる 選好 を持 ち︑ その 実現 を目 指し て政 治競 争が 行わ れる こと にな る﹂
︵砂 原 二〇 一一
:四 三︶
︒ 議会 と首 長は それ ぞれ 異な る﹁ 公益
﹂を 有し てい る︒ 首長 は﹁ 組織 され ない 利益
﹂で あり
︑地 方議 会は
﹁組 織さ れ た個 別利 益﹂ であ る︒ 両者 は︑ それ ぞれ 異な った
﹁選 挙制 度に 水路 づけ られ て異 なる タイ プの
﹃公 益﹄ を代 表し
︑ その 中で 政党 の党 派性 は︑ 首長 と地 方議 会と いう 二元 代表 制を つな ぐ役 割を 果た す﹂
︵砂 原 二〇 一一
:
( )
五五
︶︒ 地
域ビ ジョ ン構 想者 とし ての 協働 型議 会が 育っ てい る状 況を 考慮 すれ ば︑ 地方 議会 が単 なる 個別 利益 の追 求だ けか ど うか 異論 があ る︒ しか し︑ 地方 議会 議員 の選 挙制 度が そう した 方向 の水 路を 形成 して いる こと は事 実で ある
︒本 稿 では
︑地 方選 挙制 度を 変更 する こと によ って 地方 議会 の性 格を 変え るこ とも 意図 して
( )
いる
︒ 地方 選挙 制度 には
︑大 きく は相 互に 関連 する 二つ の位 相が 想定 でき る︒ 一つ は︑ 地方 選挙 制度 論︵ 狭義
︶で ある
︒ 多数 代表 制か 少数 代表 制か とい うい わば 代表 制論 の根 幹に かか わる 論点 を中 心に した もの であ る︒ 日本 の場 合︑ 都 道府 県議 会議 員選 挙の 選挙 区︵ 小選 挙区 制と 大選 挙区 制と の混 在︶ 単記 非移 譲式 選挙 制度 や︑ 市町 村議 会議 員選 挙 の大 選挙 区単 記非 移譲 式制 度を 想定 する とよ い︒ 世界 的に みて
︑大 選挙 区単 記非 移譲 式の 位置 も確 認で きる
︒も う 一つ は︑ 地方 選挙 運動 論と も呼 べる 位相 で
( )
ある
︒選 挙権
・被 選挙 権の 資格
︑立 候補 要件
︵供 託金 制度 の有 無な ど︶
︑
!
― 59 ―
選挙 運動 の規 制の 強弱
︑な どの 地方 選挙 を実 際に 行う 上で の論 点を 中心 に議 論す るも ので ある
︵佐 藤 二〇
〇三
︑ 市民 政調
・片 木 二〇
〇九
︶︒ 本稿 は︑ この うち 前者 の地 方選 挙制 度論
︵狭 義︶ を世 界比 較の 中で 議論 する こと にな る︒ その 際︑ 多数 代表 制か 少数 代表 制と いう 一般 にい われ てい る選 挙シ ステ ム︵ 本稿 では 地方 選挙 制度
︵狭 義︶
︶を 単独 で取 り出 すの では な く︑ 市民 社会 と政 治社 会そ れぞ れを 視野 に入 れて
︑政 党選 挙の
( )
有無
︑地 方政 府形 態の 相違 を念 頭に 置き つつ
︑そ れ
"
らと の連 動の 中で 考察 する こと にす る︒ これ は単 に︑ 地方 選挙 制度 によ って
︑地 方議 会の 政党
・会 派制
︵極 論す れ ば二 党制 か多 党制 か︶ が規 定さ れる とい う意 味だ けで はな く︑ 逆に 選挙 制度 が政 党制 を規 定し
︑あ るい は地 方政 府 形態 が地 方選 挙制 度を 規定 する とい った よう に︑ 三者 が相 互に 関連 して いる こと を強 調し たい ため であ る︒ 一
地方 選挙 制度 を構 想す る前 提︱
︱問 題の 所在
︱︱
協働 型議 会を 担う 議員 を動 機と 選挙 との 関係 自治 型社 会の 時代 に適 合的 な住 民自 治の 一手 法と して
︑筆 者は 協働 型議 会を 提案 して きた
︒議 員は
︑個 別利 害を 踏ま えつ つも
︑地 域ビ ジョ ン構 想者 とし て登 場す るこ とを 想定 して いる
︒そ の際
︑協 働型 議会 を担 う議 員の 行動 の 動機 を考 慮し なけ れば なら ない
︒地 方選 挙制 度は その 重要 な要 因の 一つ であ る︒ 議員 の行 動を 考慮 する 上で
︑選 挙 で当 選す ると いう 動機 は無 視で きな い︒ 地域 ビジ ョン 構想 者と して の議 会を 担う 議員 と︑ 選挙 を勝 利す る議 員の 動
― 60 ―
機と の関 連が 問わ れな けれ ばな らな い︒ ジェ ーム ズは
︑こ の関 連の 重要 性を 国政 レベ ルを 念頭 にお きつ つ指 摘し て いる
︒選 挙の 動機 は排 除で きな いの で︑ 重要 な動 機で あり つづ け︑ そし て結 果と して
︑選 挙制 度は 候補 者が 集団 間 を超 えた 討議 互酬 性︵ de li be ra ti ve re ci pr oc it y︶ を拡 大さ せる 動機 にお いて も異 なる こと を強 調
( )
する
︒自 らの 理念
#
を実 現す べき 行動 する こと があ るし
︑自 分の 地位 を向 上さ せる ため に行 動す る場 合も ある
︒﹁ しか し︑ 議員 は︑ 選 出さ れる こと 無く 政策 を制 定す るこ とが でき ず︑ また 候補 者は 投票 なく して 自ら の地 位の 支持 を測 定す るこ とが で きな いた めに
︑当 選や 得票 の望 みは
︑引 き続 き議 員や 候補 者の 行動 の背 後の 強い 動機 であ りつ づけ てい る﹂
︵
︶︒
Ja me s 2004 a: 154
選挙 制度 の改 革に あた って
︑安 定︵ 平和 的共 存︵ 既存 利益
︶の 破壊 かど うか
︶︑ 規模
/複 雑性
︵選 挙区 の規 模 大= 単純 性か 選挙 区の 規模 小= 複雑 性か
︶︑ 政治 文化
︵サ ブ文 化の 認知 の可 能性
︶︑ 政党
︵政 党に よる 代表 か個 人に よる 代表 か︶
︑民 衆の 受容
︵既 存の 政治 制度 への 忠誠
︶︑ を考 慮し なけ れば なら ない
︒ア メリ カ合 衆国 の選 挙制 度改 革を この 視点 から 構想 しよ うと した ジェ ーム ズは
︑こ れら 五つ の要 素を 考慮 して
︑国 政レ ベル の困 難さ とと もに
︑ 州・ 地方 レベ ルで の変 革の 可能 性を 強調 して いる
︒安 定は ほと んど 問題 にな らず
︑複 雑な 制度 は下 位レ ベル で容 易 に用 いら れや すく
︑政 治文 化と いう こと では すで に多 くの 変種 があ り受 容さ れて いる から であ る︒ 障害 は州 憲法 で ある が︑ それ でさ え︑ 司法 戦略 とと もに
︑レ ファ レン ダム を通 じた 選挙 改革 も想 定で きる
︵
Ja me s 2004 a:
︶︒ すで に︑ 州レ ベル の選 挙改 革の レフ ァレ ンダ ムに 四五
%の 賛同 を得 てい る︵ Ci nc in na ti an dS an
182 -184
Fr an ci sc o︶
︒な お︑ 新た な選 挙制 度は
︑政 党形 成に とっ ては 重要 であ るが
︑﹁ 他の 要因
︵執 行︱ 立法 構造
︶︹ 政府 形 態︱
︱引 用者 注︺ は︑ また 重要 でも ある
﹂︵
︶と いう 指摘 は本 稿の 問題 意識 と重 なっ てい る︒
Ja me s 2004 a: 181
― 61 ―
地方 選挙 制度 と地 方政 府形 態・ 政党 選挙 との 連結 の重 要性 地方 選挙 制度 を検 討す るに は︑ それ だけ を取 り出 して 議論 する こと は無 意味 とは いえ ない
︒多 数代 表制 や少 数代 表制 の詳 細な 類型 を取 り上 げて 解説 する こと は︑ 基礎 知識 とし ては 必要 であ る︒ とは いえ
︑住 民自 治を 推進 する 上 では
︑生 産的 では ない
︒こ れは
︑そ れに 紙幅 を割 くこ とが でき ない とい う消 極的 な意 味だ けで はな く︑ 地方 選挙 制 度は
︑そ れぞ れの 地方 政府 形態
︑政 党選 挙・ 非政 党選 挙︑ とい った 政治 制度 や政 治文 化と 密接 な関 係が ある
︒地 方 選挙 制度
︵狭 義︶ を検 討す る
( )
場合
︑こ れら の文 脈を 無視 する わけ には いか ない
︒と りあ えず
︑四 つの 論点 から
︑こ
$
の関 連の 重要 性に つい て指 摘し てお こう
︒
①地 方政 府形 態と 地方 選挙 制度
︒地 方政 府形 態は
︑地 方選 挙制 度を 規定 する こと の確 認で ある
︒地 方政 府形 態は
︑ 多様 なも のが 想定 でき る︒ 執政 制度 に着 目す れば
︑一 般的 には 議院 内閣 制と 大統 領制
︵二 元代 表制
︶が 想定 でき る
︵建 林・ 曽我
・待 鳥 二〇
〇八
:第 四章
︶︒ 地方 政府 形態 の場 合は
︑こ うし た両 極を 軸と した 多様 な形 態を 想定 す るだ けで はな く︑ そも そも 地方 議会
︵c ou nc il
︶自 体が 執行 機関 も兼 ねる 場合 もあ る︒ 地方 政府 形態 と地 方選 挙制 度と の関 係は 概括 すれ ば次 のよ うに いう こと がで きる
︒議 院内 閣制 は︑ 比例 代表 制と 連動 しや すい
︒ヨ ーロ ッパ 大陸 系で は一 般的 であ る︵ 多く の変 種が ある
︶︒ 議会 と執 政制 度と の強 力な 結び つき を 必要 とす る発 想で ある
︒比 例代 表制 とい えば
︑投 票に 比例 した 議席 配分 とい うイ メー ジが 強い が︑ 加重 選挙 もま れ では ない
︵得 票の 多数 派に 議席 配分 を加 重︶
︒議 院内 閣制 に類 似し たイ ギリ スの リー ダー 内閣 制型 は︑ イギ リス の 地方 政府 の伝 統か ら一 般に 小選 挙区 制を 採用 して いる
︒こ れも
︑厳 格な 政党 選挙 とな って いる
︒
― 62 ―