会計帳簿閲覧権と競業会社について (小山博也教授 河中二講教授立田清士教授退職記念号)
著者名(日) 江川 孝雄
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 38
ページ 17‑46
発行年 1997‑07‑25
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000781/
論 説
会計帳簿閲覧権と競業会社について
江 川 孝 雄
21 結 競序目 語競序業説
_業 会_
あ会 社は と社 のし次 がの 意が き意 義き に義 に 代 代
え え.
て て
序説︵はしがきに代えて︶
商法二九三条ノ六第一項は︑発行済株式の総数の一〇〇分の三以上に当たる株式を有する株主は︑会社に対し︑
会社の会計帳簿および書類の閲覧または謄写を請求する権利を有する旨規定する︵以下︑本稿ではこの権利を帳簿
呈A日間
説
会計帳簿閲覧権と競業会社について
江
l i
f ‑‑
孝 雄
目 次 一序説(はしがきに代えて) ニ 競 業 会 社 の 意 義
1 序
2
競業会社の意義
結語(あとがきに代えて)
序説(はしがきに代えて)
商法二九三条ノ六第一項は︑発行済株式の総数の一
OO
分の三以上に当たる株式を有する株主は︑会社に対し︑
17
会社の会計帳簿および書類の閲覧または謄写を請求する権利を有する旨規定する(以下︑本稿ではこの権利を帳簿
論 説 18
閲覧権という︶︒また︑商法二九三条ノ七は︑株主の帳簿閲覧権の濫用や︑競業者または競業者のために会社の内
情・秘密を知ろうとする者などによる濫用が︑会社の利益に重大な影響をおよぼすことから︑会社が帳簿閲覧の請
求を拒否できる場合を具体的・制限的に規定している︒
帳簿閲覧権は︑アメリカ法における帳簿・記録検査権︵目呂9江8空讐富9ωoo誘きα勾90巳ω︶の制度にな
らって︑昭和二五年の商法改正の際に導入されたもので︑個々の株主の地位の向上強化とその保護を図るために認
められたものであること周知の通りである︒昭和二五年の商法改正においては︑授権資本制度や取締役会制度など
の採用により︑それまで法律上最高かつ万能の機関であった株主総会の権限を︑商法および定款に定める事項のみ
に限ることとして縮小し︵昭二五年改商壬二〇条ノニ←現商二三〇条ノ一〇︶︑取締役会を制度化してそれに大巾
に権限を委譲してその権限を強化し︑会社の業務執行その他経営の細目に関しては︑もっぱら取締役会中心主義を
とったがために︑企業の所有者たる個々の株主自身の地位の強化とその保護を図ることがより重要となった︒それ
故︑株主に対しては︑取締役の責任追及のための代表訴訟提起権︵商二六七条以下︶︑取締役の違法行為の差止請
求権︵商二七二条︶︑取締役の解任請求権︵商二五七条三項︶などを認めて︑直接取締役の会社経営を監督し是正
しうることとして︑株主自身の利益を保護することとした︒
株主が右のような監督是正権を適切に行使するため︑たとえば︑株主代表訴訟によって取締役の責任を追及する
ためには︑株主は︑取締役の違法行為や取締役が会社に与えた損害を立証しなければならないが︑それを立証する
にあたっては︑会社の業務および財産の状況などについて︑詳細かつ正確な資料や情報を収集しなければならな
い︒ここに会社の資料や情報の収集手段が︑大変に大きな問題となってくるのである︒もちろん︑商法は株主に合
18
閲覧権という)︒また︑商法二九三条ノ七は︑株主の帳簿閲覧権の濫用や︑競業者または競業者のために会社の内
情・秘密を知ろうとする者などによる濫用が︑会社の利益に重大な影響をおよぼすことから︑会社が帳簿閲覧の請
説
求を拒否できる場合を具体的・制限的に規定している︒
三 ム 日間
帳 簿
閲 覧
権 は
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の制度にな アメリカ法における帳簿・記録検査権
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号 )
らって︑昭和二五年の商法改正の際に導入されたもので︑個々の株主の地位の向上強化とその保護を図るために認
められたものであること周知の通りである︒昭和二五年の商法改正においては︑授権資本制度や取締役会制度など
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それまで法律上最高かっ万能の機関であった株主総会の権限を︑商法および定款に定める事項のみ
に限ることとして縮小し ( 昭 二 五 年 改 商 二 三 O 条ノ二←現商二三 O
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︑取締役会を制度化してそれに大巾
に権限を委譲してその権限を強化し︑会社の業務執行その他経営の細目に関しては︑もっぱら取締役会中心主義を
とったがために︑企業の所有者たる個々の株主自身の地位の強化とその保護を図ることがより重要となった︒それ
故︑株主に対しては︑取締役の責任追及のための代表訴訟提起権(商二六七条以下)︑取締役の違法行為の差止請
求権(商二七二条)︑取締役の解任請求権(商二五七条三項)などを認めて︑直接取締役の会社経営を監督し是正
しうることとして︑株主自身の利益を保護することとした︒
株主が右のような監督是正権を適切に行使するため︑ たとえば︑株主代表訴訟によって取締役の責任を追及する
ためには︑株主は︑取締役の違法行為や取締役が会社に与えた損害を立証しなければならないが︑ それを立証する
にあたっては︑会社の業務および財産の状況などについて︑詳細かつ正確な資料や情報を収集しなければならな
い︒ここに会社の資料や情報の収集手段が︑大変に大きな問題となってくるのである︒もちろん︑商法は株主に合
19 会計帳簿閲覧権と競業会社について
理的な適正な権利行使に資する資料を提供するために︑会社に対し︑公示・開示についての種々の定めをおき︵例
えば︑商業登記制度匪商九条〜一五条︑取締役および監査役の総会における説明義務H商壬二七条ノ三︑取締役会
議事録および監査役会議事録の作製・備置H商二六〇条ノ四・商特一八条ノ三第二項︑総会議事録の作成・備置・
閲覧および謄写権H商二四四条︑定款・株主名簿などの備置・閲覧および謄写権商二六三条︑計算書類など・監
査報告書の備置・閲覧・交付・承認H商二八一条・二八二条・二八三条︑会社の業務・財産状況の検査H商二九四
条︶︑さらに商法はすべての株主に対して︑つぎのような閲覧請求権などを認めている︒すなわち︑株主は︑定
款・株主名簿・端株原簿および社債原簿の閲覧または謄写︵商二六三条二項・三項︶︑株主総会議事録︵商二四四
条四項︶・株主総会の委任状︵商壬二九条六項︶・議決権行使書面︵商特二一条ノ三第六項︶などの閲覧または謄
写︑監査報告書について閲覧請求または謄本もしくは抄本の交付︵商二八二条二項︶︑取締役会議事録︵商二六〇
条ノ四第四項︶や監査役会議事録︵商特一八条ノ三第二項による準用︶の閲覧または謄写︑を請求することができ
るものとしている︒なお︑右の取締役会議事録︵または監査役会議事録︶については︑すべての株主はその権利を
行使するために必要があるときは︑裁判所の許可をえて閲覧または謄写を請求することができるが︑閲覧または謄
写により会社やその親会社・子会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは︑裁判所は右の許可を与えることが
できない︵商二六〇条ノ四第五項︶︒しかしながら︑これらの議事録︵但し︑監査役会制度は平成五年に導入︶の パ レ 閲覧または謄写請求権は︑従来からあまり利用されてこなかったといわれる︒
以上のような商法が単独株主権として︑すべての株主に認めている閲覧および謄写請求権の対象たる書類など
は︑すべて商法が会社に作成・備置を義務づけているもので︑いわば公的なものであり︑株主に必要があれば閲覧 理的な適正な権利行使に資する資料を提供するために︑会社に対し︑公示・開示についての種々の定めをおき(例 えば︑商業登記制度日商九条 1 一五条︑取締役および監査役の総会における説明義務 U 商二三七条ノ三︑取締役会
議事録および監査役会議事録の作製・備置日商二六 O 条ノ四・商特一八条ノ三第二項︑総会議事録の作成・備置・
閲覧および謄写権リ商二四四条︑定款・株主名簿などの備置・閲覧および謄写権 H 商二六三条︑計算書類など・監
査報告書の備置・閲覧・交付・承認日商二八一条・二八二条・二八三条︑会社の業務・財産状況の検査 U 商二九四
条 ) ︑
さらに商法はすべての株主に対して︑ つぎのような閲覧請求権などを認めている︒すなわち︑株主は︑定
款・株主名簿・端株原簿および社債原簿の閲覧または謄写(商二六三条二項・三項)︑株主総会議事録(商二四四
条四項)・株主総会の委任状(商二三九条六項)・議決権行使書面(商特二一条ノ三第六項) などの閲覧または謄
写︑監査報告書について閲覧請求または謄本もしくは抄本の交付(商二八二条二項)︑取締役会議事録(商二六 O
条ノ四第四項)や監査役会議事録(商特一八条ノ三第二項による準用) の閲覧または謄写︑を請求することができ
るものとしている︒なお︑右の取締役会議事録(または監査役会議事録)
に つ
い て
は ︑
すべての株主はその権利を
行使するために必要があるときは︑裁判所の許可をえて閲覧または謄写を請求することができるが︑閲覧または謄
写により会社やその親会社・子会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは︑裁判所は右の許可を与えることが
( 商
二 六
O 条ノ四第五項)︒しかしながら︑これらの議事録(但し︑監査役会制度は平成五年に導入)
閲覧または謄写請求権は︑従来からあまり利用されてこなかったといわれる︒ できない
の
以上のような商法が単独株主権として︑すべての株主に認めている閲覧および謄写請求権の対象たる書類など
は︑すべて商法が会社に作成・備置を義務づけているもので︑ いわば公的なものであり︑株主に必要があれば閲覧
論 説 20
または謄写させることを前提とするものであるから︑原告株主が訴訟追行に必要な取締役の違法行為や︑会社の財
産の状況・損害などについて︑詳細かつ正確な情報は含まれていないほうが通常である︒そこで︑株主が監督是正
権を有効適切に行使するためには︑会社が保持する会社経理の状況の記録である会計帳簿や書類を︑株主が直接に レ 閲覧または謄写して︑情報を収集することが必要かつ不可欠なものとなってくるのである︒このためにこそ商法は パ レ ニ九三条ノ六をもって︑株主に帳簿閲覧権を認めたのであるといわれる︒
本来︑帳簿閲覧権は︑株主の権利を確保または行使するための前提︑もしくは手段として認められたものであ
り︑その確保の対象となる株主の権利には︑各種の単独株主権も含まれるが故に︑あるいは帳簿閲覧権の母法であ
パ レ
るアメリカ法においても︑各州の会社法によって若干の差はあるものの︑大体がこれを単独株主権とされているご
とくに︑わが商法でも単独株主権としてこれを株主に認めるべきであったところ︑わが国の特殊株主の暗躍などの
実情から︑あるいは不当な会社荒しや競争・競業のため会社の内情を知ろうとする者などによる権利の濫用を防止 パゑ するために︑これを少数株主権としたのであった︒すなわち︑帳簿閲覧権を導入した昭和二五年改正商法は︑株式
会社の発行済株式総数の一〇分の一以上に当たる株式を有する株主にのみ︑この帳簿閲覧権を認めることとしたの
である︒この持株保有要件︵発行済株式総数の一〇%︶については︑わが国固有の特殊株主や競業者による権利の でレ 濫用を顧慮したものであったとしても︑いかにも厳格に過ぎるとの批判が多数なされ︑現に昭和六一年に法務省民 パヱ 事局参事官室が公表した﹁商法・有限会社法改正試案﹂︵昭和六一年五月一五日︶では︑株主数五〇人以下の株式
会社および株式の譲渡制限をしている株式会社に限ってではあるが︑帳簿閲覧株主の持株比率を発行済株式総数の
一〇〇分の三以上に改めることを提案していた︵同改正試案四10a︶ところである︒
20
または謄写させることを前提とするものであるから︑原告株主が訴訟追行に必要な取締役の違法行為や︑会社の財
産の状況・損害などについて︑詳細かつ正確な情報は含まれていないほうが通常である︒そこで︑株主が監督是正
説
権を有効適切に行使するためには︑会社が保持する会社経理の状況の記録である会計帳簿や書類を︑株主が直接に
閲覧または謄写して︑情報を収集することが必要かつ不可欠なものとなってくるのである︒このためにこそ商法は
二九三条ノ六をもって︑株主に帳簿閲覧権を認めたのであるといわれる︒
三δ、
日間
本来︑帳簿閲覧権は︑株主の権利を確保または行使するための前提︑もしくは手段として認められたものであ
り︑その確保の対象となる株主の権利には︑各種の単独株主権も含まれるが故に︑あるいは帳簿閲覧権の母法であ
るアメリカ(記においても︑各州の会社法によって若干の差はあるものの︑大体がこれを単独株主権とされているご
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わが商法でも単独株主権としてこれを株主に認めるべきであったところ︑ わが国の特殊株主の暗躍などの
実情から︑あるいは不当な会社荒しゃ競争・競業のため会社の内情を知ろうとする者などによる権利の濫用を防止
するために︑これを少数株主権としたのであっ説︒すなわち︑帳簿閲覧権を導入した昭和二五年改正商法は︑株式
会社の発行済株式総数の一 O 分の一以上に当たる株式を有する株主にのみ︑この帳簿閲覧権を認めることとしたの
わが国固有の特殊株主や競業者による権利の
いかにも厳格に過ぎるとの批判が多数なされ︑現に昭和六一年に法務省民
事局参事官室が公表した﹁商法・有限会社法改正試案﹂(昭和六一年五月二立(民)では︑株主数五 O 人以下の株式 である︒この持株保有要件(発行済株式総数の一
O %
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は ︑
濫用を顧慮したものであったとしても︑
会社および株式の譲渡制限をしている株式会社に限ってではあるが︑帳簿閲覧株主の持株比率を発行済株式総数の
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分の三以上に改めることを提案していた
( 同
改 正
試 案
四 m a
)
と こ
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あ る
︒
平成五年改正商法は︑株主の監督是正権の強化の一環として︑帳簿閲覧権を行使しうる株主の持株要件を︑会社
の発行済株式総数の一〇〇分の三以上に当たる株式を有する株主ということにして︑その持株保有要件を緩和した
︵商二九三条ノ六第一項︶︒このように帳簿閲覧権行使のための持株要件が︑発行済株式総数の一〇%から三%へ
と緩和されたことにより︑この権利行使の可能性が大きくなったことは確実であり︑持株保有要件の緩和により帳 パ レ 簿閲覧権を行使することができる株主の数は︑約一〇倍に増加すると見込まれ︑その濫用的行使が多くなるのでは
と危惧されたところである︒もっとも︑大規模・公開会社にあっては︑発行済株式総数の一〇〇分の三︵三%︶以
上の株式を有する株主は大株主であってその数も多くはなく︑公開会社についてみるに︑三%という保有要件を充
足する株主には︑保険会社︑銀行その他の金融機関が多く︑これらの金融機関は︑機関投資家として分散投資をし
ていることから︑複数の同業︵競業︶会社の株式を保有していることも稀ではない︒そうすると︑帳簿閲覧権行使
のための持株要件を充足するこれらの機関投資家あるいは個人の特殊大株主などは︑同業︵競業︶他社の株式を一
株でも保有しているという理由︵商二九三条の七第二号︶のみで︑帳簿閲覧権の行使を拒絶される可能性もあるこ
とから︑平成五年改正商法が帳簿閲覧権行使についての持株要件の緩和の意義を実のあるものにするためには︑競 レ 業会社の株主であることを拒否事由から削除すべきであったという主張がなされている︒
確かに︑帳簿閲覧権行使のための持株要件が緩和されたことにより︑それを安易に濫用的に行使されるときは︑
会社の蒙る不利益は大きく︑また株主共同の利益が害される危険性が大きくなるが︑それに対しては︑会社側は︑
商法二九三条ノ七に掲げる帳簿閲覧請求の拒否事由の適切な運用によって︑充分な対応が可能であるものと思われ
る︒しかし︑ここで商法二九三条ノ七第二号の﹁会社と競業を為す﹂という文言︑すなわち﹁競業会社﹂の概念が 平成五年改正商法は︑株主の監督是正権の強化の一環として︑帳簿閲覧権を行使しうる株主の持株要件を︑会社 の発行済株式総数の一OO分の三以上に当たる株式を有する株主ということにして︑ その持株保有要件を緩和した
(商二九三条ノ六第二唄)︒このように帳簿閲覧権行使のための持株要件が︑発行済株式総数の一O%から三%へ
と緩和されたことにより︑この権利行使の可能性が大きくなったことは確実であり︑持株保有要件の緩和により帳
簿閲覧権を行使することができる株︑王の数は︑約一O倍に増加すると見込まれ︑その濫用的行使が多くなるのでは
と危倶されたところである︒もっとも︑大規模・公開会社にあっては︑発行済株式総数の一OO分の三(三%)以
上の株式を有する株主は大株主であってその数も多くはなく︑公開会社についてみるに︑三%という保有要件を充
足する株主には︑保険会社︑銀行その他の金融機関が多く︑これらの金融機関は︑機関投資家として分散投資をし
ていることから︑複数の同業(競業)会社の株式を保有していることも稀ではない︒そうすると︑帳簿閲覧権行使
のための持株要件を充足するこれらの機関投資家あるいは個人の特殊大株主などは︑同業(競業)他社の株式を一
株でも保有しているという理由(商二九三条の七第二号) のみで︑帳簿関覧権の行使を拒絶される可能性もあるこ
とから︑平成五年改正商法が帳簿閲覧権行使についての持株要件の緩和の意義を実のあるものにするためには︑競
業会社の株主であることを拒否事由から削除すべきであったという主張がなされている︒
確かに︑帳簿閲覧権行使のための持株要件が緩和されたことにより︑それを安易に濫用的に行使されるときは︑
会社の蒙る不利益は大きく︑また株主共同の利益が害される危険性が大きくなるが︑それに対しては︑会社側は︑
商法二九三条ノ七に掲げる帳簿閲覧請求の拒否事由の適切な運用によって︑充分な対応が可能であるものと思われ
21
る︒しかし︑ここで商法二九三条ノ七第二号の﹁会社と競業を為す﹂という文言︑すなわち﹁競業会社﹂の概念が
論 説 22
問題となってくる︒﹁競業会社﹂の意を広く解するときは︑帳簿閲覧権はほとんど利用されない請求権となってし
まうおそれが生じてくる︒
ところで︑帳簿閲覧権について︑平成五年の商法改正においては︑権利行使のための持株保有要件が︑発行済株
式総数の一〇〇分の三以上に引き下げられたのみで︑それ以外については従前のままの規定であることから︑以前
と同様の解釈上の問題︑例えば︑閲覧請求に当たっての請求目的の具体的記載︑閲覧請求の対象の範囲︑あるいは
親会社の株主による子会社の会計帳簿の閲覧請求権などの問題については︑明文の規定がないため解釈上問題の残
るところである︒
本稿では︑商法二九三条ノ七の帳簿閲覧請求の拒否事由︑特に同条第二号の﹁競業﹂﹁競業会社﹂について︑学
説︑判例をあげて考察することとする︒
二 競業会社の意義
1
序︵帳簿閲覧請求の拒否事由︶
いかなる権利であろうとも︑その濫用は許されない︵民一条三項︶︒一般に権利の濫用とは︑権利の行使が第三
者に加害する意思・目的をもって行われる場合や︑公序良俗に違反する場合︑権利行使の側において正当な利益が ハリレ 存在しない場合︑相手方が権利者の利益に比肩しえない著しい損害を被る場合などであるとされている︒
22
問題となってくる︒﹁競業会社﹂の意を広く解するときは︑帳簿閲覧権はほとんど利用されない請求権となってし
まうおそれが生じてくる︒
説
ところで︑帳簿閲覧権について︑平成五年の商法改正においては︑権利行使のための持株保有要件が︑発行済株
論
式 総
数 の
一
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分の三以上に引き下げられたのみで︑ それ以外については従前のままの規定であることから︑以前
と同様の解釈上の問題︑例えば︑閲覧請求に当たっての請求目的の具体的記載︑閲覧請求の対象の範囲︑あるいは
親会社の株主による子会社の会計帳簿の閲覧請求権などの問題については︑明文の規定がないため解釈上問題の残
る と
こ ろ
で あ
る ︒
本稿では︑商法二九三条ノ七の帳簿閲覧請求の拒否事由︑特に同条第二号の﹁競業﹂﹁競業会社﹂について︑学
説︑判例をあげて考察することとする︒
競業会社の意義
序(帳簿閲覧請求の拒否事由)
いかなる権利であろうとも︑その濫用は許されない
者に加害する意思・目的をもって行われる場合や︑公序良俗に違反する場合︑権利行使の側において正当な利益が
存在しない場合︑相手方が権利者の利益に比肩しえない著しい損害を被る場合などであるとされている︒
( 民
一 条
三 項
) ︒
一般に権利の濫用とは︑権利の行使が第
23 会計帳簿閲覧権と競業会社について
帳簿閲覧権が︑いわゆる特殊の大株主や競業者あるいは会社荒しなどによって︑濫用的に行使されるときは︑帳
簿などは会社の経理・秘密に関する重要な事項を含んでいるため︑会社におよぼす影響は甚大であり︑会社にとっ
ては大きな問題となってくる︒一般に︑株主が帳簿閲覧権の行使によって︑株主共同の利益または会社の利益を侵
害したり︑あるいは株主たる資格とは関係ない純個人的利益のためにその権利を行使することなどは︑いずれも権
利の濫用として認められないものである︒しかし︑具体的にはいかなる場合が権利の濫用となるかは明確でない︒
株主の帳簿閲覧権を制約する拒絶事由はできるだけ明確でなければならない︒そこで商法は明文をもって拒絶事由
を明確にした︵商二九三条ノ七第一号〜第四号︶︒
商法二九三条ノ七は︑会社が株主の権利の濫用を防止するため︑会社が帳簿閲覧請求を拒否できる場合を明確に
すると同時に︑他方において会社がみだりに権利濫用に籍口して︑正当な株主の権利行使を妨げることのないよう れレ に︑帳簿閲覧請求を拒否できる法定事由を具体的︑制限的に規定したものであるとされている︒そこで︑同条に掲
げる拒絶事由を証明できれば︑会社は株主の帳簿閲覧請求を拒否できるのである︒
商法二九三条ノ七は︑会社が株主の帳簿閲覧請求を拒否できる事由を︑具体的かつ制限的に列挙している︒すな
わち︑取締役︵すなわち会社︑以下会社という︶は︑①株主が株主の権利の確保もしくは行使に関し調査をするた
めでなく請求をしたとき︑または会社の業務の運営もしくは株主共同の利益を害するため請求をしたとき︵同条第
一号︶︑②株主が会社と競業をなす者であるとき︑競業をなす会社の社員・株主もしくは取締役であるとき︑また
は株主が会社と競業をなす者のためにその会社の株式を有する者なるとき︵同条第二号︶︑③株主が書類の閲覧・
謄写により知得した事実を利益をえて他に通報するために請求したとき︑または請求の日の前二年内にその会社も 帳簿閲覧権が いわゆる特殊の大株主や競業者あるいは会社荒しなどによって︑濫用的に行使されるときは︑帳
簿などは会社の経理・秘密に関する重要な事項を含んでいるため︑会社におよぽす影響は甚大であり︑会社にとっ
ては大きな問題となってくる︒ 一般に︑株主が帳簿閲覧権の行使によって︑株主共同の利益または会社の利益を侵
害したり︑あるいは株主たる資格とは関係ない純個人的利益のためにその権利を行使することなどは︑ いずれも権
利の濫用として認められないものである︒しかし︑具体的にはいかなる場合が権利の濫用となるかは明確でない︒
株主の帳簿閲覧権を制約する拒絶事由はできるだけ明確でなければならない︒そこで商法は明文をもって拒絶事由
を明確にした (商二九三条ノ七第一号 i
第 四
号 )
︒
商法二九三条ノ七は︑会社が株主の権利の濫用を防止するため︑会社が帳簿閲覧請求を拒否できる場合を明確に
すると同時に︑他方において会社がみだりに権利濫用に籍口して︑正当な株主の権利行使を妨げることのないよう
に︑帳簿閲覧請求を拒否できる法定事由を具体的︑制限的に規定したものであるとされている︒そこで︑同条に掲
げる拒絶事由を証明できれば︑会社は株主の帳簿閲覧請求を拒否できるのである︒
商法二九三条ノ七は︑会社が株主の帳簿閲覧請求を拒否できる事由を︑具体的かつ制限的に列挙している︒すな
わち︑取締役(すなわち会社︑以下会社という) は︑①株主が株主の権利の確保もしくは行使に関し調査をするた
または会社の業務の運営もしくは株主共同の利益を害するため請求をしたとき
( 同
条 第
めでなく請求をしたとき︑
一号)︑②株主が会社と競業をなす者であるとき︑競業をなす会社の社員・株主もしくは取締役であるとき︑また
は株主が会社と競業をなす者のためにその会社の株式を有する者なるとき (同条第二号)︑③株主が書類の閲覧・
謄写により知得した事実を利益をえて他に通報するために請求したとき︑または請求の日の前二年内にその会社も
説 24 論
しくは他の会社の書類の閲覧・謄写により知得した事実を利益をえて他に通報したことのある者であるとき︵同条
第三号︶︑および④株主が不適当な時に閲覧・謄写を請求したとき︵同条第四号︶は︑会社はそれを立証して︑帳
簿閲覧請求を拒絶することができるものとしている︒商法二九三条ノ七の拒否事由は制限的列挙であり︑ここに列
挙された事由以外に拒否できる理由はなく︑またこれを拡張して解することは許されないから︑株主が所定の手続
により帳簿閲覧を請求した場合︑会社はその請求が右の拒否事由に該当すると認むべき相当の理由がある場合を除
いて︑これを拒否することはできない︒また︑拒否事由に該当すると認むべき相当の理由があることは︑会社が立 ︵12︶ 証しなければならないと解されている︒なお︑不当拒絶をした取締役には過料の制裁が科せられる︵商四九八条一
項三号︶︒
帳簿閲覧の請求を拒否できる事由として︑商法二九三条ノ七は︑右の四つの事由を列挙しているが︑同条第一号
︵13︶
は﹁株主の権利﹂の行使に関する一般的原理を︑特に帳簿閲覧権について宣明したものと解され︑第二号以下は︑ ねロ 第一号の一般的原理の具体的・細目的な適用を規定したものにすぎないと解されている︒
2 競業会社の意義
ω学説とその検討
商法二九三条ノ七第二号は︑﹁株主ガ会社ト競業ヲ為ス者ナルトキ︑会社ト競業ヲ為ス会社ノ社員︑株主若ハ取
締役ナルトキ又ハ会社ト競業ヲ為ス者ノ為其ノ会社ノ株式ヲ有スル者ナルトキ﹂は︑会社は︑株主の帳簿閲覧の請
求を拒絶することができる旨を規定している︒すなわち︑①株主が競業者である場合 ②株主が競業会社の社員︑
24
しくは他の会社の書類の閲覧・謄写により知得した事実を利益をえて他に通報したことのある者であるとき(同条
第 三
号 )
︑
および④株主が不適当な時に閲覧・謄写を請求したとき
( 同
条 第
四 号
)
は︑会社はそれを立証して︑帳
説
簿閲覧請求を拒絶することができるものとしている︒商法二九三条ノ七の拒否事由は制限的列挙であり︑ここに列
論
挙された事由以外に拒否できる理由はなく︑またこれを拡張して解することは許されないから︑株主が所定の手続
により帳簿閲覧を請求した場合︑会社はその請求が右の拒否事由に該当すると認むべき相当の理由がある場合を除
いて︑これを拒否することはできない︒また︑拒否事由に‑該当すると認むべき相当の理由があることは︑会社が立
証しなければならないと解されている︒なお︑不当拒絶をした取締役には過料の制裁が科せられる
( 商
四 九
八 条
一
項 さ
一 号
) ︒
帳簿閲覧の請求を拒否できる事由として︑商法二九三条ノ七は︑右の四つの事由を列挙しているが︑同条第一号
は﹁株主の権脈﹂の行使に関する一般的原理を︑特に帳簿閲覧権について宣明したものと解され︑第二号以下は︑
第一号の一般的原理の具体的・細目的な適用を規定したものにすぎないと解されている︒
2
競業会社の意義 ω 学説とその検討
商法二九三条ノ七第二号は︑﹁株主ガ会社ト競業ヲ為ス者ナルトキ︑会社ト競業ヲ為ス会社ノ社員︑株主若ハ取
締役ナルトキ又ハ会社ト競業ヲ為ス者ノ為其ノ会社ノ株式ヲ有スル者ナルトキ﹂は︑会社は︑株主の帳簿閲覧の請
求を拒絶することができる旨を規定している︒すなわち︑①株主が競業者である場合
② 株
主 が
競 業
会 社
の 社
昌 一
︑
25 会計帳簿閲覧権と競業会社について
株主もしくは取締役である場合③株主が会社の競業者のために会社の株式を有している場合︑は︑会社は株主の
帳簿閲覧請求を拒否できるのである︒株主が帳簿閲覧権を行使して︑会社の会計帳簿などを閲覧・謄写することに
よって︑会社の営業上の秘密を探り︑これを自己の競業に利用し︑または他の競業者に知らせることを許せば︑会
社の利益が害されることが甚大であるために︑第二号はこのような危険を未然に防止するためにおかれたもので
︵15︶ある︒
ここに︑右の﹁競業﹂概念をどのように解すべきかについては︑学説上も必ずしも明確ではなく︑取締役のいわ ︵16︶ ゆる﹁競業避止義務﹂における﹁競業﹂概念とパラレルに解しているようである︒取締役の競業避止義務を規定す
る商法二六四条一項は︑取締役が自己または第三者のために︑﹁会社ノ営業ノ部類二属スル取引ヲ為スニハ﹂取締
役会の承認を受けることを要するとして︑直接﹁競業﹂という文言は用いていないが︑ここでの競業について︑通
説は︑会社が事業活動上行う可能性のあるすべての取引ではなく︑会社が実際に行っている事業と市場において競
合し︑会社と取締役または第三者との間で利益の衝突をきたすおそれのある取引と解し︑また︑会社の営業の部類
に属する取引であっても︑会社と実質的に競争関係に立たない取引は制限されず︑さらに︑現実に行っている事業 パロレ に限るわけではなく︑会社が一時的に休止している事業や開業準備に着手している事業も含まれると解している︒
これに対して︑﹁競業﹂という文言を直接用いている商法二九三条ノ七第二項についても︑競業の概念を取締役
の競業避止義務の場合の﹁競業﹂と同様に解するのが妥当であらうが︑出来る限り厳格にしかも客観的に解すべき
である︒なお︑本号は︑株主が会社と競業をなす者のために︑その会社の株式を有する者なるときと定めている
が︑これは競業者の計算において株式を有する者のごときで︑競業者の藁人形として株主となっている者である 株主もしくは取締役である場合 ③株主が会社の競業者のために会社の株式を有している場合︑は︑会社は株主の
帳簿閲覧請求を拒否できるのである︒株主が帳簿閲覧権を行使して︑会社の会計帳簿などを閲覧・謄写することに
よって︑会社の営業上の秘密を採り︑これを自己の競業に利用し︑ または他の競業者に知らせることを許せば︑会
社の利益が害されることが甚大であるために︑第二号はこのような危険を未然に防止するためにおかれたもので
あ る
ここに︑右の﹁競業﹂概念をどのように解すべきかについては︑学説上も必ずしも明確ではなく︑取締役のいわ ︒
ゆる﹁競業避止義務﹂における﹁競業﹂概念とパラレルに解しているようである︒取締役の競業避止義務を規定す
る商法二六四条一項は︑取締役が自己または第三者のために︑﹁会社ノ営業ノ部類ニ属スル取引ヲ為スニハ﹂取締
役会の承認を受けることを要するとして︑直接﹁競業﹂という文言は用いていないが︑ここでの競業について︑通
説は︑会社が事業活動上行う可能性のあるすべての取引ではなく︑会社が実際に行っている事業と市場において競
合し︑会社と取締役または第三者との間で利益の衝突をきたすおそれのある取引と解し︑ また︑会社の営業の部類
に属する取引であっても︑会社と実質的に競争関係に立たない取引は制限されず︑ さらに︑現実に行っている事業
に限るわけではなく︑会社が一時的に休止している事業や開業準備に着手している事業も含まれると解している︒
これに対して︑﹁競業﹂という文言を直接用いている商法二九三条ノ七第二項についても︑競業の概念を取締役
の競業避止義務の場合の﹁競業﹂と同様に解するのが妥当であらうが︑出来る限り厳格にしかも客観的に解すべき
である︒なお︑本号は︑株主が会社と競業をなす者のために︑ その会社の株式を有する者なるときと定めている
25
が︑これは競業者の計算において株式を有する者のごときで︑競業者の藁人形として株主となっている者である
論 説 26
が︑親会社が競業者であり︑その子会社が当該会社の株式を有する場合︑子会社が親会社の完全な支配に服してい ︵18︶ るかぎり︑これに該当するものと解されている︒さらに競業会社の株主であることは︑株主名簿の記載という形式
的資格を標準とすべきか︑実際上の株式保有を標準すべきかが問題であるが︑株式を取得して株主となっていると リレ いう実際を重視し︑後者を標準と解すべきであるとされる︒
つぎに︑商法二九三条ノ七第二号は︑株主が会社企業の営業上の機密を探って︑それをみずからの競業に利用
し︑または他の競業者に利用させることは︑株主の帳簿閲覧権の濫用となるから︑会社は帳簿閲覧の請求を拒絶で
きるとするのであるが︑帳簿閲覧の請求をなした株主が︑本号に定める者であるという客観的事実があれば︑会社
は帳簿閲覧の請求を拒絶できるのか︑それに加えてさらに︑当該株主が閲覧によってえた機密を競業に利用し︑も
しくは競業者に利用させようという具体的意図︑すなわち主観的要件をも要するのかが問題となるが︑学説はつぎ ハレ のように分かれている︒
①主観的要件不要説
株主が本号に該当する者であるという︑その客観的事実のみをもって足り︑株主の帳簿閲覧請求の具体的意図を
問わない︑すなわち主観的要件は不要とするのが通説である︒その理由としては︑文理上もこのように解すべく︑ ハれレ また主観的要件の挙証は困難なことも考慮すべきであること︑株主が本号に該当する者である限り︑利用されるお
︵22︶ ︵23︶
それのあること︑前号のほかにとくに本号がおかれている主たる意味はこの点にあること︑などがあげられる︒
②主観的要件必要説
権利の不当な行使を許さないというのが本条の趣旨であるから︑帳簿閲覧権の母法であるアメリカ法におけると
26
が︑親会社が競業者であり︑その子会社が当該会社の株式を有する場合︑子会社が親会社の完全な支配に服してい
るかぎり︑これに該当するものと解されている︒さらに競業会社の株主であることは︑株主名簿の記載という形式
説
的資格を標準とすべきか︑実際上の株式保有を標準すべきかが問題であるが︑株式を取得して株主となっていると
いう実際を重視し︑後者を標準と解すべきであるとされる︒
さA 日間
つぎに︑商法二九三条ノ七第二号は︑株主が会社企業の営業上の機密を探って︑ それをみずからの競業に利用
し︑または他の競業者に利用させることは︑株主の帳簿閲覧権の濫用となるから︑会社は帳簿閲覧の請求を拒絶で
きるとするのであるが︑帳簿閲覧の請求をなした株主が︑本号に定める者であるという客観的事実があれば︑会社
は帳簿閲覧の請求を拒絶できるのか︑ それに加えてさらに︑当該株主が閲覧によってえた機密を競業に利用し︑も
しくは競業者に利用させようという具体的意図︑すなわち主観的要件をも要するのかが問題となるが︑学説はつぎ
のように分かれている︒
①主観的要件不要説
株主が本号に該当する者であるという︑ その客観的事実のみをもって足り︑株主の帳簿閲覧請求の具体的意図を
問 わ
な い
︑
すなわち主観的要件は不要とするのが通説である︒その理由としては︑文理上もこのように解すべく︑
また主観的要件の挙証は困難なことも考慮すべきであること︑株主が本号に該当する者である限り︑利用されるお
それのあること︑前号のほかにとくに本号がおかれている主たる意味はこの点にあること︑などがあげられる︒
②主観的要件必要説
権利の不当な行使を許さないというのが本条の趣旨であるから︑帳簿閲覧権の母法であるアメリカ法におけると
27 会計帳簿閲覧権と競業会社について
︵24︶ 同じく︑競業に利用の意図があることを要するものと解する説である︒
③主観的意図推定説
会社側は︑競業関係という客観的事実の存在を立証すれば足りるが︑競業の主観的意図はあくまで推定にとどめ
て︑競業者たる株主またはそのロボットたる株主の側で︑主観的意図の存在しないことを立証すれば帳簿閲覧権を
︵25︶
行使できるものとする︒その理由として︑競業関係にあるという特殊の地位からして︑主観的意図の存在が推定さ
︵26︶ ︑ ︑ ・ ・ ︑ ・ ︑ ︑ ︑
れて然るべきであること︑商法二九三条ノ七の文言では︑各号の事由に該当すると認むべき相当の理由がある場合 リロ について︑閲覧・謄写請求を拒否できるとしていること︑本号で会社が拒否しうる事由としてあげられている者の
範囲は広く︑業務執行に関係しない社員はもとより︑いわゆる所有と経営の分離がいわれる株式会社の株主を含
み︑かつ︑この場合︑競業会社の株式所有の多少を問わないから︑これらの者すべてについて客観的事実のみをも ︵28V って権利濫用に該当するとは考えられないこと︑などがあげられる︒
商法二九三条ノ七第二号の拒否事由の存否について争いがあるときは︑その立証責任は会社側にあるものと解さ
れる︒会社側は︑帳簿閲覧を請求してきた株主について︑単に﹁競業﹂関係という客観的事実のみを立証すること
で︑閲覧請求を拒絶することができるとする︑通説が妥当であると解する︒
主観的要件必要説と主観的意図推定説によれば︑商法二九三条ノ七第二号を解するにあたっては︑帳簿閲覧を請
求してきた株主が︑競業者あるいは競業者のために株式を有する株主であるかという客観的事実に加えて︑さら
に︑帳簿の閲覧・謄写によってえた会社の機密を競業に利用し︑または競業者に利用させようとする株主の主観的
意図をも考慮しなければならない︒仮に右の株主の主観的意図の存否についての立証責任を会社側に負わせるとき 同じく︑競業に利用の意図があることを要するものと解する説である︒
③主観的意図推定説
会社側は︑競業関係という客観的事実の存在を立証すれば足りるが︑競業の主観的意図はあくまで推定にとどめ
て︑競業者たる株主またはそのロボットたる株主の側で︑主観的意図の存在しないことを立証すれば帳簿閲覧権を
行使できるものとする︒その理由として︑競業関係にあるという特殊の地位からして︑主観的意図の存在が推定さ
れて然るべきであること︑商法二九三条ノ七の文言では︑各号の事由に該当すると認むべき相当の理由がある場合
について︑閲覧・謄写請求を拒否できるとしていること︑本号で会社が拒否しうる事由としてあげられている者の
範囲は広く︑業務執行に関係しない社員はもとより︑
いわゆる所有と経営の分離がいわれる株式会社の株主を含
み︑かっ︑この場合︑競業会社の株式所有の多少を問わないから︑これらの者すべてについて客観的事実のみをも
って権利濫用に該当するとは考えられないこと︑などがあげられる︒
商法二九三条ノ七第二号の拒否事由の存否について争いがあるときは︑ その立証責任は会社側にあるものと解さ
れる︒会社側は︑帳簿閲覧を請求してきた株主について︑単に﹁競業﹂関係という客観的事実のみを立証すること
で︑閲覧請求を拒絶することができるとする︑通説が妥当であると解する︒
主観的要件必要説と主観的意図推定説によれば︑商法二九三条ノ七第二号を解するにあたっては︑帳簿閲覧を請
求してきた株主が︑競業者あるいは競業者のために株式を有する株主であるかという客観的事実に加えて︑
さ ら
に︑帳簿の閲覧・謄写によってえた会社の機密を競業に利用し︑ または競業者に利用させようとする株主の主観的
意図をも考慮しなければならない︒仮に右の株主の主観的意図の存否についての立証責任を会社側に負わせるとき
論 説 28
は︑その立証は困難を極め︑いかなる方法でさらにどの程度まで具体的に証明しなければならないのか︑全くその
知るところをえない︒その立証困難な挙証責任を会社に負わせるときは︑つまるところ立証不可能となり︑株主の
閲覧権の濫用を防止することを目的とする本条本号の存在意義を失わせることとなる︒また︑主観的意図推定説に
よれば︑会社側が株主の﹁競業﹂関係という客観的事実を立証すれば︑株主の主観的意図が推定され︑つぎには株
主の側に立証責任がうつり︑株主の側で主観的意図の不存在を立証できれば︑会社は帳簿閲覧の請求を拒否するこ
とができないとするのであるが︑実際にいかにして推定を覆すことができるのか︑甚だ疑問であり︑また立証の方
法とどの程度まで証明すればよいのか不明である︒この場合に︑立証責任が会社の側から株主の側にうつるという
単純なものでもないであろう︒
確かに︑株主の権利の濫用などではなく︑株主の正当な権利の行使に他ならないものを︑ただただ株主が﹁競
業﹂関係にあるという一事のみで︑拒否できるとするときは︑むしろ株主の権利行使の不当な制限ともなろう︒通
説の主観的要件不要説によるときは︑競業︵同業︶他社の株式を一株でも有しているときは︑帳簿閲覧権を行使で
きないこととなり︑前述のごとく︑立法論としては︑競業者さらには競業会社の株主であることを︑拒否事由から
削除すべきであったとの主張もなされているが︑立法論はともかくとして︑本条本号は第一号の特則として︑形式
に着目して規制されたもの︑あるいは︑本号は競業者に対する会社の機密の漏洩の客観的危険性を重視した規定で
あるものと解されることから︑本号の解釈としては︑客観的事由のみをもって︑拒否事由を判断する通説が妥当で
あり︑かく解することが法的安定の見地からも妥当であると解される︒もっとも︑通説によるときは︑株主にとっ
ては不利益をもたらされるともいえようが︑かかる株主の不利益は︑具体的に発生している危険ではなく︑抽象的
28
は︑その立証は困難を極め︑ いかなる方法でさらにどの程度まで具体的に証明しなければならないのか︑全くその
知るところをえない︒その立証困難な挙証責任を会社に負わせるときは︑ つまるところ立証不可能となり︑株主の
説
閲覧権の濫用を防止することを目的とする本条本号の存在意義を失わせることとなる︒また︑主観的意図推定説に
論
よれば︑会社側が株主の﹁競業﹂関係という客観的事実を立証すれば︑株主の主観的意図が推定され︑ つぎには株
主の側に立証責任がうつり︑株主の側で主観的意図の不存在を立証できれば︑会社は帳簿閲覧の請求を拒否するこ
とができないとするのであるが︑実際にいかにして推定を覆すことができるのか︑甚だ疑問であり︑ また立証の方
法とどの程度まで証明すればよいのか不明である︒この場合に︑立証責任が会社の側から株主の側にうつるという
単純なものでもないであろう︒
確かに︑株主の権利の濫用などではなく︑株主の正当な権利の行使に他ならないものを︑ ただただ株主が﹁競
業﹂関係にあるという一事のみで︑拒否できるとするときは︑ むしろ株主の権利行使の不当な制限ともなろう︒通
説の主観的要件不要説によるときは︑競業(同業)他社の株式を一株でも有しているときは︑帳簿閲覧権を行使で
きないこととなり︑前述のごとく︑立法論としては︑競業者さらには競業会社の株主であることを︑拒否事由から
削除すべきであったとの主張もなされているが︑立法論はともかくとして︑本条本号は第一号の特則として︑形式
に着目して規制されたもの︑あるいは︑本号は競業者に対する会社の機密の漏洩の客観的危険性を重視した規定で
あるものと解されることから︑本号の解釈としては︑客観的事由のみをもって︑拒否事由を判断する通説が妥当で
あ り
︑
かく解することが法的安定の見地からも妥当であると解される︒もっとも︑通説によるときは︑株主にとっ
ては不利益をもたらされるともいえようが︑ かかる株主の不利益は︑具体的に発生している危険ではなく︑抽象的
な危険を未然に防止しようという競業規制の特殊性から本来的に生じてくる不利益であって︑権利の行使の不当な
制限と解されるべきものではなかろう︒むしろ︑このような競業規制の特殊性を考慮すれば︑第二号の﹁競業ヲ為 ︵29︶ ス﹂との意を厳格に捉えるべきではある︒
なお︑数人の株主が団結して少数株主権の要件を充足して帳簿閲覧権を行使する場合に︑そのなかに一人でも商
法二九三条ノ七第二号の拒否事由に該当する株主がいるときは︑会社は帳簿閲覧の請求を拒否することができ︑ま
た︑たとえ︑その一人の持株数を除外しても︑なお少数株主権の要件を充足しているとしても︑かかる株主が請求 ︵30︶ 者のなかに加わっている限り︑やはり会社はその請求を拒否することができる︒
29 会計帳簿閲覧権と競業会社について
②判例とその検討 パぬロ ①東京地裁平成六年三月四日民事第八部決定は︑﹁会社と競業を為す会社﹂の意義について︑現に競業を行っ
ている会社のみならず︑近い将来競業を行う蓋然性の高い会社も含まれるとし︑さらに︑その蓋然性を1経営者の
意図のみを基準とすることなく1客観的に判断してよい︑とした︒
まず︑帳簿閲覧権を行使するには︑閲覧の理由を書面でもって述べなければならないので︵商二九三条ノ六第二
項︶︑帳簿閲覧の請求の理由の具体性や︑その対象となる帳簿などの特定の必要性が問題となる︒帳簿閲覧の理由
は︑抽象的な記載では足りず︑閲覧の具体的な目的を掲げなければならないものとされ︑あるいは帳簿などの特定
を厳格に要求されるときは︑株主にとっては帳簿閲覧権の濫用的行使どころか︑利用しにくい権利となる︒また︑
株主には会社内部の記帳方法や会計処理の状況を知ることは困難なことであり︑法定の帳簿以外にどのような会計 な危険を未然に防止しようという競業規制の特殊性から本来的に生じてくる不利益であって︑権利の行使の不当な 制限と解されるべきものではなかろう︒むしろ︑このような競業規制の特殊性を考慮すれば︑第二号の﹁競業ヲ為 ス﹂との意を厳格に捉えるべきではある︒
なお︑数人の株主が団結して少数株主権の要件を充足して帳簿閲覧権を行使する場合に︑ そのなかに一人でも商
法二九三条ノ七第二号の拒否事由に該当する株主がいるときは︑会社は帳簿閲覧の請求を拒否することができ︑
歩4 m
た ︑
た と
え ︑
その一人の持株数を除外しても︑なお少数株主権の要件を充足しているとしても︑
やはり会社はその請求を拒否することができる︒ かかる株主が請求
者のなかに加わっている限り︑
ω 判例とその検討
東京地裁平成六年三月四日民事第八部決定は︑﹁会社と競業を為す会社﹂の意義について︑現に競業を行っ
ている会社のみならず︑近い将来競業を行う蓋然性の高い会社も含まれるとし︑さらに︑その蓋然性をー経営者の
①
意図のみを基準とすることなく客観的に判断してよい︑
と し
た ︒
まず︑帳簿閲覧権を行使するには︑閲覧の理由を書面でもって述べなければならないので (商二九三条ノ六第
項)︑帳簿閲覧の請求の理由の具体性や︑ その対象となる帳簿などの特定の必要性が問題となる︒帳簿閲覧の理由
は︑抽象的な記載では足りず︑閲覧の具体的な目的を掲げなければならないものとされ︑あるいは帳簿などの特定
を厳格に要求されるときは︑株主にとっては帳簿閲覧権の濫用的行使どころか︑利用しにくい権利となる︒また︑
29
株主には会社内部の記帳方法や会計処理の状況を知ることは困難なことであり︑法定の帳簿以外にどのような会計
説 30 論
の帳簿・書類などが存在するかも不明なことが多く︑さらにそれらが閲覧請求の理由とどのように関係してくるの
かも知ることができないのが通常であるから︑理由の具体性や帳簿などの特定を厳格に要求するときは︑この権利
の実効性が妨げられるおそれがある︑という問題がある︒
つぎに︑会社が︑株主の帳簿の閲覧請求を拒否できる場合︵商二九三条ノ七第二号︶の解釈︑特に﹁競業﹂の概
念が問題となってくる︒ここでは︑帳簿閲覧権についての一般的な判例を見︑つぎの②において帳簿閲覧の拒否事
由の﹁競業﹂について争われた先例である︑前述の東京地裁平成六年三月四日決定について考察する︒
︹東京高裁昭和三五年五月二日決定・下民集二巻五号九六五頁︑ジュリストニ七二号九八頁︺・株主の帳簿閲
覧を求める仮処分の申請についての必要性の存否が問題となった事案で︑仮処分の必要性の疎明は未だないものと
いわざるを得ないとして閲覧・謄写請求権を被保全権利とする仮処分の必要性を基礎づけるに足りない︑として棄
却︒ ︹仙台高判昭和四九年二月一八旦局民集二七巻一号三四頁︺・株主が商法二九三条ノ六に基づき会計の帳簿お
よび書類の閲覧・謄写を求める場合には︑閲覧の目的およびその対象となる会計の帳簿および書類を具体的に特定
しなければならないとされた︒ ︹東京地判昭和五五年九月三〇日判例時報九九二号一〇三頁︺・株主の計算書類閲
覧と謄抄本交付請求は︑一〇年間を経過した書類には及ばないとされた判決︒
︹東京地裁平成元年六月二二日判例タイムズ七〇〇号一五五頁︑判例時報二二一五号三頁︑金融・商事判例八二
五号一三頁︺1小糸製作所帳簿閲覧請求事件−申請却下・帳簿閲覧の対象となる﹁帳簿など﹂の解釈について︑い
わゆる限定説の立場に立ち︑﹁﹃会計の帳簿﹄とは︑一定時期における営業上の財産及びその価額︑並びに取引その
他の営業上の財産に影響を及ぼすべき事項を記載する帳簿︑すなわち︑総勘定元帳︑日記帳︑仕訳帳︑補助簿等を
30
の帳簿・書類などが存在するかも不明なことが多く︑ さらにそれらが閲覧請求の理由とどのように関係してくるの
かも知ることができないのが通常であるから︑理由の具体性や帳簿などの特定を厳格に要求するときは︑この権利
説
の実効性が妨げられるおそれがある︑ という問題がある︒
三A、 再開
つぎに︑会社が︑株主の帳簿の閲覧請求を拒否できる場合(商二九三条ノ七第二号) の解釈︑特に﹁競業﹂の概
念が問題となってくる︒ここでは︑帳簿閲覧権についての一般的な判例を見︑ つぎの②において帳簿閲覧の拒否事
由の﹁競業﹂について争われた先例である︑前述の東京地裁平成六年三月四日決定について考察する︒
(東京高裁昭和三五年五月二日決定・下民集一一巻五号九六五頁︑ジュリスト二七二号九八頁︺・株主の帳簿閲
覧を求める仮処分の申請についての必要性の存否が問題となった事案で︑仮処分の必要性の疎明は未だないものと
いわざるを得ないとして閲覧・謄写請求権を被保全権利とする仮処分の必要性を基礎づけるに足りない︑ として棄
去 日
︹仙台高判昭和四九年二月一八日高民集二七巻一号三四頁︺・株主が商法二九三条ノ六に基づき会計の帳簿お
よび書類の閲覧・謄写を求める場合には︑閲覧の目的およびその対象となる会計の帳簿および書類を具体的に特定
しなければならないとされた︒ ︹東京地判昭和五五年九月三 O 日判例時報九九二号一 O 三頁︺・株主の計算書類閲
覧と謄抄本交付請求は︑ 一 0 年間を経過した書類には及ばないとされた判決︒
︹東京地裁平成元年六月二二日判例タイムズ七
OO
号一五五頁︑判例時報二三五号三頁︑金融・商事判例八二
五 号
二 ニ
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ー小糸製作所帳簿閲覧請求事件申請却下・帳簿閲覧の対象となる﹁帳簿など﹂の解釈について︑
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