海外留学 に関す る意思決定問題
船 津 秀 樹 堀 田 泰 司
1.は じ め に
世 界 に お け る 情 報 伝 達 手 段 と交 通 手 段 の 発 達 に よっ て,高 等 教 育 機 関 にお け る海 外 留 学 は,か つ て の よ う に,一 部 エ リー ト学 生 の た め だ け の もの で は な く な りつ つ あ る 。 ま た,地 域 経 済 統 合 の進 展 に伴 い,統 合 さ れ た 地 域 に お け る共 同体 意 識 の 醸 成 の た め に,政 策 的 に,学 生 の 移 動 を 活 発 化 させ よ う とす る試 み も顕 著 に な っ て きて い る1)。 日本 にお い て も,1980年 代 の 半 ば か ら 日本 の 高 等 教 育 機 関 で 学 ぶ 留 学 生 の 数 を10万 人 にす る 計 画 が 実 施 さ れ,2003年5月 に は, こ の 目標 を達 成 す る に い た っ た。 また,ニ ュ ー ジ ー ラ ン ドや オ ー ス トラ リ ア の よ うに,高 等 教 育 サ ー ビス を 国 の 比 較 優 位 財 と位 置 づ け て,サ ー ビ ス の 輸 出 を 政 策 的 に 図 る 国 も現 れ て きて い る 。 こ の よ う な現 実 の 国 際 経 済 社 会 に お け る重 要 性 に もか か わ らず,留 学 生 の 国 際 的 な移 動 につ い て は,こ れ まで ほ とん ど経 済 学 的 な分 析 が な さ れ て こ なか っ た 。 地 域 経 済 統 合 が 進 展 す る 中 で,留 学 生 の 移 動 パ ター ン と して 把 握 され る高 等 教 育 の 国 際 貿 易 は,ど の よ う な要 因 に よ っ
*こ の 論文 は,平 成15年 度科 学研 究 費補助 金(基 盤研 究C)を 得 て実施 され た 「地域 経 済統 合 の進展 と高等 教育 サ ー ビスの 国際貿 易 に 関す る研 究 」 に よる成 果の一 部 を ま とめ た もので あ る。 この論 文の初 稿 は,2004年4月9日 に開催 された小 樽 商科 大 学 土 曜研 究会 で報 告 され た。研 究会 参加 者 の コメ ン トに感謝 します。 特 に,大 森 義 明氏 に は,有 益 な コメ ン トい ただ いた こ とに感 謝 します 。数 多 くの指 摘 に もかか わ
らず 残存 す るか も しれ ない誤 りは著者 の責任 に帰す べ きものです 。
1)欧 州連 合 にお け るエ ラスム ス計 画,ア ジ ア太 平 洋地域 にお けるUMAP活 動 な ど。
〔89〕
て 変 化 して い る の で あ ろ うか 。 こ の 問 い に答 え る こ とは,日 本 あ るい は世 界 全 体 で の留 学 生 政 策 の 立 案 に あ た っ て も重 要 で あ ろ う。
以 上 の よ う な 問 題 意 識 に基 づ い て 行 な わ れ て い る共 同研 究 の うち,こ の 論 文 で は,ま ず,日 本 の 高 等 教 育 機 関 で 学 ん で い る 学 生 の留 学 に 関す る 意 思 決 定 問 題 を考 察 す る こ とを 目的 とす る。 日本 の 大 学 で 学 ぶ 学 生 が 在 学 中 あ るい は 大 学 卒 業 後,海 外 留 学 す る意 思 を も っ て い るか ど うか を2003年11月 か ら12月 に か け て 広 島 大 学 と小 樽 商 科 大 学 に お い て 実 施 した ア ン ケ ー ト調 査 の 結 果 を報 告 し, 若 干 の 計 量 経 済 学 的 な 分 析 を 行 な う 。
近 年,日 本 にお い て も,教 育 の 経 済 分 析 が 盛 ん に な っ て きて い る 。 伊 藤 ・西 村(2003)は,い わ ゆ る 「ゆ と り教 育 」 に よ る学 力 低 下 問 題 を意 識 して,教 育 改 革 に つ い て,経 済 分 析 を行 な っ て い る 。 永 谷(2003),荒 井(2002)も,経 済 学 の 手 法 を 用 い て,教 育 問 題 を分 析 して い る 。教 育 の経 済 分 析 で は,ベ ッカ ー
(1993)の 人 的 資 本 の 理 論 とス ペ ンス(1974)の シ グ ナ リ ン グ理 論 が よ く用 い られ て い る。 最 近,高 等 教 育 の 経 済 学 は,多 くの研 究 者 の 関 心 を呼 ん で お り, ベ ル フ ィー…ル ドと レ ビ ン(2003)は,こ の 分 野 の 主 要 な論 文 を ま とめ る と と も
に,研 究 動 向 を概 観 して い る。 彼 ら は,1997年 に は,ア メ リ カ合 衆 国 の 大 学 の 収 入 合 計 は,3300億 ドル で あ り,GDPの 約2.5%と な っ た と述 べ,こ れ だ け の 規 模 の ビ ジ ネ ス は経 済 分 析 の対 象 と な る と言 う。
こ れ まで,教 育 関 係 者 の 間 で議 論 さ れ て き た 「高 等 教 育 の 国 際 化 問 題 」 は, さ らに,精 緻 な経 済 分 析 に基 づ く広 範 な 政 策 論 議 を 必 要 と して い る と も言 え よ う。 留 学 の 意 思 決 定 に は,母 国 で 学 び続 け る の か,そ れ と も言 語 環 境 の 変 化 も 含 め た あ る一 定 の リス ク を覚 悟 して で も外 国 で 学 ぶ の か に 関 す る選 択 が 重 要 に な る。 教 育 経 済 学 の 基 本 理 論 に加 えて,期 待 効 用 最 大 化 仮 説 に 基 づ く不 確 実 性 下 の 意 思 決 定 理 論 の 考 え 方 も用 い な が ら,留 学 の 意 思 決 定 問題 を考 察 して い く
こ と とす る。
海 外留 学 に関す る意思 決定 問題 91
2.留 学 の 意 思 決 定 モ デ ル
高 等 教 育 サ ー ビス を 受 け る こ とは,自 分 の 将 来 へ の投 資 で あ る と考 え る 教 育 の 人 的 資 本 理 論 に従 え ば,日 本 の 大 学 に既 に在 籍 して い る学 生 が,留 学 す るか ど うか は,留 学 す る こ と に よ っ て 自 己 の生 涯 所 得 が増 加 す る か ど う か の 予 想 に か か っ て い る。 留 学 す る こ と で,自 分 の 能力 が 高 ま り,よ り多 くの 生 涯 所 得 が 得 られ る と思 え ば,留 学 す る し,留 学 して も生 涯 所 得 は 高 ま らな い と考 え れ ば 留 学 し ない は ず で あ る。 但 し,外 国 で 学 ぶ こ と に は ざ ま ざ まな リス ク が伴 う の で,学 生 が 危 険 回 避 的 で あ れ ば,国 内 で 働 くこ と を 考 え,あ え て 留 学 しな い は ず で あ る 。 した が って,こ の 論 文 で は,学 生 は,予 想 将 来 所 得 か ら得 られ る期 待 効 用 を最 大 に す る よ う に行 動 して い る と仮 定 しよ う。 す る と学 生 の 意 思 決 定 問 題 は,以 下 の よ う な式 で 表 す こ とが で き る。
(1)D=1ifEu(Y1)>Yo D=Ootherwise
但 し,Dは 留 学 に 関 す る学 生 の 意 思 決 定 を 表 し,1の と き留 学 し,0の と き留 学 しな い 。Euは 期 待 効 用,Y1は 留 学 した 場 合 の リス ク を 伴 う生 涯 所 得,Yo は 留 学 し ない 場 合 の 生 涯 所 得 を表 す 。
こ の単 純 な意 思 決 定 モ デ ル か ら導 か れ る仮 説 は,二 つ あ る。 第 一 の 仮 説 は, 留 学 せ ず に 日本 で 働 い て得 る こ との で きる生 涯 所 得 が 大 きい と考 え て い る 学 生 は,留 学 し な い とい う意 思 決 定 を す る,で あ り,第 二 の 仮 説 は,留 学 に伴 う リ ス ク を 回避 し た い と考 え る 学 生 は,留 学 しな い と い う意 思 決 定 を す る,と い う もの で あ る。 第 一 の 仮 説 は,機 会 費 用 の 概 念 を用 い て も説 明 で き る。 留 学 す る こ と の機 会 費 用 は,留 学 し ない 場 合 との 生 涯 所 得 の差 で あ り,留 学 せ ず に 日本 国 内 で 働 い て 高 い所 得 を得 る こ とが で き る と考 え て い る 学 生 ほ ど留 学 しな い は ず で あ る 。
逆 に言 え ば,予 想 生 涯 所 得 を小 さ く考 え て い る学 生 ほ ど留 学 す る可 能 性 が 高 くな る は ず で あ る 。 は た して,そ うな の で あ ろ うか ア ンケ ー ト調 査 の 結 果 を分
析 し て み よ う 。
3.ア ン ケ ー ト調 査 の 概 要
2003年11月 下 旬 か ら12月 上 旬 に か け て,小 樽 商 科 大 学 と広 島 大 学 に お い て, 学 部 学 生 を対 象 に して 面 接 方 式 に よ り,以 下 の ア ン ケ ー ト調 査 を実 施 した。 調 査 は,そ れ ぞ れ の 大 学 に お い て 無 作 為 に抽 出 した 学 生 か ら の 回 答 が そ れ ぞ れ100
に な る ま で行 な わ れ た 。
質 問1高 校 時 代 を含 め て,あ な た は,こ れ ま で に 海 外 留 学 した経 験 が あ り ま す か 。
1.あ る2.な い
質 問1‑1‑1あ る と答 え た 方,ど の よ う な海 外 留 学 で した か 。
1.高 校 時 代 の 交 換 留 学2.高 校 時 代 の 語 学 研 修 留 学3.高 校 卒 業 後,大 学 入 学 前 の 留 学4.大 学 入 学 後 の 交 換 留 学5.大 学 入 学 後 の 語 学 研 修 留 学
質 問1‑1‑2あ る と 答 え た 方,期 間 は ど れ く ら い で し た か 。 1.1年 以 上2.3ケ 月 以 上1年 未 満3.1カ 月 以 上3カ 月 未 満4.1 カ 月 未 満
質 問1‑2‑1な い と答 え た 方,海 外 留 学 し な か っ た理 由 を お 答 え 下 さ い 。 (複 数 回 答 可)
1.海 外 留 学 に興 味 が な い か ら2.経 済 的 な理 由3.海 外 で 生 活 す る の は 不 安 だ か ら4.大 学 在 学 中 に留 学 し よ う と思 っ た か ら5.大 学 卒 業 後,留 学 し よ う と考 え て い た か ら6.そ の他
海 外留 学 に関す る意 思決 定問 題
質 問2あ な た は,本 学 在 学 中 に,海 外 留学 しよ う と思 い ま す か 。
1.思 う2.思 わ な い
93
質 問2‑1‑1思 う と答 えた 方,ど の よ う な海 外 留 学 を し よ う と思 い ます か 。 1.本 学 の 派 遣 留 学 制 度 利 用 した留 学2.本 学 が 企 画 す る語 学 研 修 留 学3.
本 学 を休 学 して の 留 学4.民 間 団体 の 企 画 す る語 学 研 修 留 学5.そ の他
質 問2‑1‑2 1.1年 間2.
月 未 満
思 う と答 え た 方,ど の く らい の 期 間 留 学 し よ う と思 い ます か 。 3ヶ 月以 上1年 未 満3.1ヵ 月 以 上3ヶ 月 未 満4.1ヵ
質 問2‑2‑1思 わ な い と答 え た 方,在 学 中 に 海 外 留 学 し な い理 由 をお 答 え 下 さ い。(複 数 回 答 可)
1.海 外 留 学 に興 味 が な い か ら2.経 済 的 な 理 由3.海 外 で 生 活 す る の は 不 安 だ か ら4.大 学 卒 業 後,留 学 し よ う と考 え て い た か ら5.そ の 他
質 問2‑2‑2経 済 的 な 理 由 で 海 外 留 学 しな い と答 え た 方,ど の て い どの 奨 学 金 が あ れ ば,留 学 し ます か 。
1.授 業 の 一 部 免 除2.授 業 料 の全 学 免 除3,授 業 料 の 全 学 免 除 と生 活 費 4.奨 学 金 が あ っ て も留 学 しな い
質 問3あ な た は,大 学 卒 業 後,海 外 留 学 しよ う と思 い ま す か 。
1.思 う2.思 わ な い
質 問3‑1‑1思 う と答 え た 方,ど の よ うな 海 外 留 学 を しよ う と思 い ま す か 。 1.修 士 な どの 学 位 の 取 得 を 目的 とす る 個 人 で の 正 規 留 学2.学 位 の取 得 を 目的 と しな い 語 学 研 修 留 学3.会 社 等,所 属 す る 組 織 か らの 派 遣 留 学(語 学 研 修 ・学 位 取 得 を含 む)4.そ の 他
質 問3‑1‑2思 う と答 え た 方,ど の く ら い の 期 間 留 学 し よ う と 思 い ま す か 。
1.5年 以 上2.2年 以 上5年 未 満3.1年 以 上2年 未 満4.3ヶ 月 以
上1年 未 満5.1ヵ 月 以 上3ヵ 月 未 満6.1ヵ 月 未 満
質 問3‑1‑3思 う と 答 え た 方,ど の 国 に 留 学 し た い で す か 。
1.ア メ リ カ 合 衆 国2.カ ナ ダ3.英 国4.フ ラ ン ス5.ド イ ツ
6.オ ー ス ト ラ リ ア7.韓 国8.中 国9.そ の 他
質 問3‑2‑1思 わ な い と答 え た方,海 外 留 学 し な い理 由 をお 答 え 下 さ い 。 1.海 外 留 学 に 興 味 が な い か ら2.経 済 的 な理 由3.海 外 で 生 活 す る の は 不 安 だ か ら4.外 国 語 を学 ぶ の が 苦 手 だ か ら5.日 本 に た くさ ん 大 学 が あ る か ら6.大 学 在 学 中 に留 学 す る の で7.そ の 他
質 問3‑2‑2経 済 的 な理 由 で 海 外 留 学 し な い と答 え た 方,ど の て い どの奨 学 金(返 済 の 必 要 の な い)が あ れ ば,留 学 し ます か 。 1.授 業 料 の 一 部 免 除2.授 業 料 の 全 額 免 除3.授 業 料 の 全 額 免 除 と生 活 費4.奨 学 金 が あ っ て も留 学 し ない
質 問4大 学 卒 業 後,40年 間 働 く と し て,あ な た の 平 均 年 収 は ど の く ら い に な る と 予 想 し て い ま す か 。
1.300万 円 未 満2.300万 円 以 上500万 円 未 満3.500万 円 以 上700万 円 未 満4.700万 円 以 上900万 円 未 満5.900万 円 以 上1100万 円 未 満6.1100 万 円 以 上
質 問50.001の 確 率 で100万 円 が も ら え る 宝 く じ が あ る と し ま す 。 宝 く じの 価 格 が い く らの 時 に,あ な た は 購 入 を あ き ら め ま す か 。
1.1円 〜99円2.100円 〜299円3.300円 〜499円 4.500円 〜799円5.800円 〜999円6.1000円
海外 留学 に関す る意思 決定 問題 95 7.1001円 〜1199円8.1200円 〜4999円
9。5000円 〜9999円10.1万 円 以 上
質 問6あ な た は,1000万 円 の 価 値 の あ る 家 を 所 有 し て い る と し ま す 。0.001 の 確 率 で 火 災 の た め に 家 が 焼 失 す る リ ス ク が あ る と し ま す 。1年 間 の 火 災 保 険 料 を い く ら 支 払 う つ も り が あ り ま す か 。
1.1万 円 未 満2.1万 円3.1万0001円 〜1万9999円
4.2万 円 〜3万 円5.3万 円 以 上
質 問4は,大 学 卒 業 後,自 分 の 将 来所 得 に対 して ど の程 度 自信 を持 っ て い る か を訊 い た もの で,1か ら6段 階 で評 価 し,数 字 が 大 き くな る ほ ど強 気 で あ る こ と を示 して い る。
質 問5と 質 問6は,リ ス ク に 対 す る態 度 を調 査 す る質 問 で あ る。 期 待 効 用 最 大 化 仮 説 に お い て は,ギ ャ ンブ ル の 期 待 値 と費 用 の 等 しい ギ ャ ン ブ ル を フ ェ ァ ギ ャ ン ブ ル と呼 び,フ ェ ア ギ ャ ンブ ル を拒 否 す る経 済 主 体 を危 険 回 避 者 と呼 ぶ 。 質 問5の ギ ャ ン ブ ル の 期 待 値 は1,000円 で あ る の で,1か ら5ま で を 回 答 した 学 生 は,危 険 回 避 者,6を 回答 し た学 生 は,危 険 中 立 者,7,8,9,10を 回 答 した 学 生 は,危 険愛 好 者 とい う こ とに な る。 同様 に して,質 問6で は,3,
4,5を 回答 し た学 生 は,危 険 回 避 者,2を 回答 した 学 生 は,危 険 中 立 者,1 を 回 答 した学 生 は,危 険 愛 好 者 と い う こ と に な る 。 意 思 決 定 主 体 が 直 面 す る リ ス クの 状 況 に 応 じて リス ク に対 す る態 度 は 変 化 す るの で,こ こで は,あ え て二 つ の 異 な る状 況 を設 定 して,回 答 者 が危 険 回 避 者 で あ る か ど うか を 質 問 す る こ
と と した 。
4.ア ン ケ ー ト調 査 の 結 果
そ れ ぞ れ の 大 学 にお け る 調 査 結 果 は 以 下 の とお りで あ っ た 。
表1総 括 表
広 島 大 学 小樽商科大学
(1)海 外 留学 経験 が あ る学生 数 15 6
(2)在 学 中 に 留 学 し よ う と思 う学 生 数 29 14
(3)卒 業 後,海 外 留 学 した い と思 う学 生 数 41 38
(4)大 学 卒業 後 の平均 年収 予想
300万 円 未 満 12 2
300円 以 上500万 円 未 満 33 15
500万 円 以 上700万 円 未 満 27 32
700万 円 以 上900万 円 未 満 13 24
900万 円 以 上1100万 円 未 満 10 11
1100万 円 以 上 5 16
(5)リ ス ク に対 す る 態 度(危 険 回 避 度)1
1円 〜99円 14 9
100円 〜299円 9 17
300円 〜499円 17 23
500円 〜799円 13 19
800円 〜999円 3 5
1000円 15 17
1001円 〜1199円 3 4
1200円 〜4999円 14 4
5000円 〜9999円 6 2
1万 円 以上 6 0
(6)リ ス ク に 対 す る 態 度(危 険 回 避 度)H
1万 円未 満 8 13
1万 円 25 31
1万1円 〜1万9999円 24 19
2万 円 〜2万9999円 30 21
3万 円以 上 13 16
海 外留 学 に関す る意 思決 定 問題 表2留 学経験 の形 態 と期 間
97
広 島 大 学 小樽商科大学
高校時代の交換留学 2 2
高校時代の語学研修留学 4 0
高校卒 業後,大 学入 学 前 の留学 0 0
大 学入 学後 の 交換留 学 0 0
大学入学後の語学研修留学 8 3
その他 1 1
1年 以 上 1 1
・3ヶ 月 以 上1年 未 満 0 1
1ヶ 月 以 上3ヶ 月 未 満 3 1
1ケ 月 未 満 11 3
表3留 学 しな か った理由
広 島 大 学 小樽商科大学
海 外留 学 に興 味が ない か ら 18 35
経 済 的 な理 由 35 45
海 外 で生活 す るの は不 安 だか ら 28 24
大 学在 学 中 に留 学 しよ うと思 ったか ら 8 6
大 学卒 業後,留 学 しよ うと考 えて いた か ら 1 3
その他 18 12
表4在 学 中 の留 学希望 形 態 と期間
広 島 大 学 小樽商科大学
大 学 の派遣 留 学制 度 19 5
大 学 が企 画す る語 学研 修留 学 2 2
大 学 を休 学 して の留学 2 2
民 間団体 の企 画す る語 学研 修 留学 2 1
そ の他 1 0
1年 間 12 4
3ヶ 月 以 上1年 未 満 8 3
1ヵ 月 以 上3ヶ 月 未 満 4 3
1ケ 月 未 満 4 0
表5在 学 中 に留学 しない理 由
広 島 大 学 小樽商科大学
海 外留 学 に興味 が ない か ら 20 21
経 済的 な理 由 35 38
海外 で 生活 す るの は不安 だ か ら 24 24
大 学卒 業後,留 学 しよ うと考 えて いた か ら 3 3
その他 19 21
表6卒 業後 の 留学形 態 と期 間
広 島 大 学 小樽商科大学
修士などの学位 の取得 を目的 とす る個人での正規留学 5 2
学位 の取 得 を 目的 としない語 学研 修 留学 16 5
会社 等,所 属 す る組 織 か らの派 遣留 学 20 30
そ の他 7 1
5年 以 上 2 0
2年 以 上5年 未 満 11 8
1年 以上2年 未満 15 22
3ヶ 月 以上1年 未満 9 6
1ヶ 月 以 上3ヶ 月 未 満 0 2
1ケ 月 未 満 2 0
未定 2 0
海外 留学 に関す る意 思決 定問 題 表7卒 業 後留 学 した い国
99
広 島 大 学 小樽商科大学
アメ リカ合衆 国 21 19
カ ナ ダ 3 7
英 国 9 8
フ ラ ン ス 6 0
ドイ ツ 5 1
オ ー ス トラ リ ア 5 3
韓 国 1 2
中国 1 0
その他 5 1
表8卒 業後 海外 留 学 しな い理 由
広 島 大 学 小樽商科大学
海 外留 学 に興 味が ない か ら 11 27
経 済 的な理 由 14 17
海 外 で生活 す るの は不 安 だか ら 11 13
外 国語 を学 ぶ のが苦 手 だか ら 2 6
日本 にた くさん大学 が あ るか ら 2 1
大 学在学 中に留 学す るので 6 1
そ の他 18 13
表9ど の程 度奨 学金 が あれ ば留学 す る か
広 島 大 学 小樽商科大学
授業 料 の一 部免 除 2 1
授 業料 の全 額免 除 4 5
授業 料 の全 額免 除 と生活 費 7 8
奨学 金 があ っ て も留 学 しない 3 4
5.調 査 結 果 の分 析
ア ン ケ ー ト調 査 の結 果 を み る と,小 樽 商 科 大 学 で は 広 島大 学 と比 較 す る と留 学 した こ との あ る学 生,在 学 中 に留 学 した い と考 え て い る学 生 が 少 な い こ とが わ か る。 ま た,将 来 所 得 の 予 想 に つ い て は,小 樽 商 科 大 学 の学 生 の方 が 強 気 の 予 想 を し て い る こ とが わ か る 。 留 学 しな か っ た理 由 で は,小 樽 商 科 大 学 の 学 生 は,海 外 留 学 そ の もの に 興 味 が な い,あ る い は,経 済 的 な理 由 を あ げ る 学 生 の 数 が 多 い 。 在 学 中 の 留 学 形 態 の希 望 につ い て も,交 換 留 学 制 度 を利 用 す る と答 え た学 生 は広 島 大 学 で19名,小 樽 商 科 大 学 で5名 とな っ て お り,小 樽 商 科 大 学 の学 生 は,在 学 中 の 交 換留 学 に も そ れ ほ ど興 味 を示 して い な い よ う に思 わ れ る 。 在 学 中 に留 学 しな い 理 由 の 分 布 は,両 大 学 と も ほ ぼ 同 じで,経 済 的 な 理 由 を あ げ た学 生 が 最 も多 い 。卒 業 後 の留 学 形 態 に 関 して は,小 樽 商 科 大 学 の 学 生 で は, 会 社 等 か ら の 派 遣 留 学 を希 望 す る 学 生 が 多 く,期 間 に つ い て も1年 か ら2年 を 希 望 す る学 生 が 多 い 。 留 学 先 は,ア メ リ カ合 衆 国 ・英 国 な どの 英 語 圏 を 希 望 す る学 生 が 両 大 学 と も多 い 。 卒 業 後 も留 学 し ない と答 え た 学 生 の 中 で は,海 外 留 学 そ の もの に興 味 が な い とい う学 生 の 割 合 が 多 く,経 済 的 な理 由 を あ げ た 学 生 の 中 に も,奨 学 金 が あ っ て も留 学 し な い と答 え た学 生 が 若 干 名 存 在 す る 。
次 に,表1の 総 括 的 な デ ー タ を 用 い て,留 学 した か,し て い な い か とい う離 散 的 な 意 思 決 定 に,将 来所 得 に対 す る強 気 度 と危 険 回 避 度 が 影 響 して い るか ど うか を分 析 して み よ う。 この よ うな 二 値 的 反 応 モ デ ル の 推 計 に 通 常 用 い られ る プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル とロ ジ ッ ト ・モ デ ル を用 い て推 計 してみ る2)。
(2)P(SA=IIEI,RV,OD)=G(βo+β1EI+β2RV+β30D)
但 し,SAは 学 生 が 留 学 を した か ど うか の 意 思 決 定 で,留 学 した場 合 に は,1, 留 学 して い な い 場 合 に は,0の 値 を と る 。Pは,学 生 が 留 学 経 験 を 有 す る確
2)ロ ジ ッ ト ・ モ デ ル と プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル に よ る 推 計 に つ い て は,Wooldridge (2003)17章 を 参 照 の こ と 。
海外 留 学 に関す る意 思決 定問 題101
率 を 表 す 。EIは,将 来 所 得 に対 す る 強 気 度 を表 す 。RVは,危 険 回避 度 を表 す 。 ODは 広 島 大 学 の 学 生 で あ れ ば0,小 樽 商 科 大 学 の 学 生 で あ れ ば1と な る ダ
ミー 変 数 。Gに は ロ ジ ッ ト推 計 の 場 合 に は 通 常 の ロ ジ ッ ト関 数,プ ロ ビ ッ ト 推 計 の場 合 に は プ ロ ビ ッ ト関 数 を用 い る。 表10で は,質 問5に よ る 危 険 回避 度 をRVに 用 い て 推 計 した 結 果 を 示 す 。 表11で は,質 問6に よ っ て得 られ た 回 答 か ら危 険 回 避 的 な 学 生 を1,そ の 他 の 学 生 を0と し た場 合 の 推 計 結 果 を示 す 。
表10‑1推 計 結 果1(過 去 の 留学 経験:危 険回 避度1)
独 立 変 数 ロ ジ ッ ト ・モ デ ル プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル
期待所得 一 〇.3194 一 〇
.1456
(‑1.548) (‑1.429)
危険 回避 度1 一 〇.2136 一 〇
.1134
(‑2.224) (‑2.250)
小 樽 商大 ダ ミー 一 〇.5518 一 〇
.3008
(‑1.004) (‑1.079)
定数項 一 〇.6997 一 〇
.3008
(‑1.106) (‑1.079)
PercentCorrectlyPredicted 0,895 0,895
Log‑LikelihoodValue 一63 .3374 一61 .8545
R2 0.0515 0.0596
表10‑‑2独 立 変数 の変 化 が留学 す る確 率 に与 える影響
独 立 変 数 ロ ジ ッ ト ・モ デ ル プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル
期 待所 得 危 険 回避 度1 小 樽 商大 ダ ミー 定数項
一 〇.028
‑0 ,019
‑0 ,049
‑0 ,062
一 〇.024
‑0 ,019
‑0 ,051
‑0 ,Q90
表11‑1推 計 結果 皿(過 去 の 留学経 験:危 険回避 度 皿)
独 立 変 数 ロ ジ ッ ト ・モ デ ル プ ロ ビ ツ ト ・モ デ ル
期待所得 一 〇.1965 一 〇.0909
(‑1.073) (‑0.9655)
危 険回避 者 ダ ミー 一 〇.5571 一 〇
.2960
(‑1.169) (‑1.179)
小 樽 商大 ダ ミー 一 〇.9370 一 〇
.4804
(‑1.762) (‑1.773)
定数項 一 〇.8344 一 〇.5925
(‑1.319) (‑1,755)
PercentCorrectlyPredicted 0,895 0,895
Log‑hkelihoodvalue 一63 .6920 一63 .7709
R2 0.0397 0.0386
表11‑2独 立変 数 の変化 が 留学 す る確 率 に与 え る影響
独 立 変 数 ロ ジ ッ ト ・モ デ ル プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル
期待 所得
危 険回避 者 ダ ミー 小樽 商大 ダ ミー 定数 項
一 〇.018
‑0 ,051
‑0 ,085
‑0 ,076
一 〇.016
‑0 ,051
‑0 ,083
‑0 ,103
但 し,係 数 推 定値 の 下 の括 弧 内 は,t値 を表 す 。推 計 は,TSP/GiveWin4.5バ ー ジ ョ ン を用 い て,行 な っ た 。
推 計 結 果 か らは,実 際 に こ れ まで に留 学 した か ど うか とい うデ ー タ を 被 説 明 変 数 に し た場 合 に は,理 論 が 予 想 す る よ う に,将 来所 得 へ の 強気 度 と危 険 回 避 度 が 大 きい ほ ど,留 学 をす る確 率 を下 げ る こ とが わ か る。 将 来 所 得 へ の 強 気 度 が 強 く な る毎 に,留 学 す る確 率 を 約2%前 後 下 げ る効 果 が あ る こ とが わ か る。
小 樽 商 科 大 学 の 学 生 は,広 島大 学 の 学 生 と比 較 す る と将 来 所 得 に 対 す る 強 気 度
海外 留学 に 関す る意思 決定 問題
表12‑1推 計 結果 皿(在 学 中 の留学 希望:危 険 回避度1)
ヱ03
独 立 変 数 ロ ジ ッ ト ・モ デ ル プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル
留学経験 1,352 0.8144
(2.629) (2.616)
卒業 後 の留 学希 望 0.5161 0.2862
(1.381) (1.338)
期待所得 一 〇.4102 一 〇.2357
(‑2.537) (‑2.617)
危険 回避 度 一 〇.0135 一 〇.0012
(‑0.1745) (‑0.027)
小 樽 商大 ダ ミー 一 〇.4832 一 〇.2699
(‑1.194) (‑1.175)
定数項 一 〇.4832 一 〇.1666
(‑0.4024) (‑0.5424)
PercentCorrectlyPredicted 0,805 0,800
Log4ikelihoodValue 一91 .87 一91 .76
R2 0.1227 0.1229
表12‑2独 立変 数 の変化 が 大学在 学 中 に留学 を希 望 す る確 率 に与 え る影 響
ロ ジ ッ ト ・モ デ ル プ ロ ビ ッ ト ・モ デ ル
留学経験 0.1986 0.2084
卒業後 の留 学 希望 0.0758 0.0733
期待所得 一 〇.0603 一 〇.0603
危険回避度 一 〇.0020 一 〇.0003
小 樽商 大 ダ ミー 一 〇.0710 一 〇.0691
定数項 一 〇.0315 一 〇.0426
が 高 い 学 生 が 多 い た め,留 学 を しな い とい う選 択 を続 け て い る学 生 の 割 合 が 多 い もの と考 え られ る。 ま た,危 険 回避 度 が 強 くな る と留 学 す る 確 率 を2%弱 下 げ る こ と もわ か る。 留 学 に伴 う様 々 な リス ク要 因 は,学 生 に留 学 を思 い と ど ま らせ る結 果 と な っ て い る。 広 島 大 学 が 総 合 大 学 で あ るの に対 して,小 樽 商 科 大 学 は 商 学 部 の み の 単 科 大 学 で あ り,大 学 院 に 博 士 課 程 が 存 在 せ ず,学 部 卒 業 後, 民 間 企 業 に 就 職 す る 学 生 が 大 部 分 で あ る 。 推 計 結 果 を見 る 限 り,こ の よ う な大 学 の 性 格 が,学 生 の留 学 す る確 率 を下 げ て い る可 能性 も否 定 で き な い。
次 に,大 学 在 学 中 に留 学 す る か ど うか の 意 思 決 定 に 関 して,(2)式 の 説 明 変 数 に,過 去 の留 学 経 験 の 有 無,卒 業 後 に留 学 を希 望 す る か ど う か の2変 数 を加 え て,同 様 の 推 計 を して み よ う。 な お,危 険 回 避 度 に は,質 問5に よ る 回答 を用 い る もの とす る 。
学 生 が 大 学 在 学 中 に 留 学 を希 望 す る確 率 に も っ と も大 き な 影 響 を与 え る の は,こ れ まで に留 学 した経 験 が あ る か ど う か で あ る。留 学 経 験 が あ る場 合 に は, 在 学 中 に 留 学 希 望 す る確 率 を約20%増 加 させ る 。 こ れ に 対 し て卒 業 後 の 留 学 希 望 を持 つ 学 生 は,7%強,在 学 中 に留 学 希 望 す る確 率 を 高 め る。 期 待 所 得 の 強 気 度 が 増 す ご と に約6%在 学 中 に留 学 希 望 す る確 率 を下 げ る の に対 して,危 険 回 避 度 は確 率 に ほ とん ど影 響 を与 え な い 。 実 際 に在 学 中 に留 学 した か ど うか に つ い て 同様 の 推 計 を した 場 合 に は,危 険 回避 度 は 影 響 す る と もの と思 わ れ る が, 大 学 在 学 中 の 留 学 希 望 に は,危 険 回避 度 の 違 い は 影 響 しな い の は興 味 深 い 結 果 で あ る。
これ ま で の推 計 結 果 か ら,大 学 在 学 中 に 交 換 留 学 プ ロ グ ラ ム な どを利 用 して 学 生 が 海 外 留 学 を希 望 す る 可 能 性 は,(1)す で に 短 期 間 で も留 学 した 経 験 が あ る,(2)卒 業 後 留 学 す る希 望 が あ る,(3)将 来 所 得 に 対 して そ れ ほ ど強 気 で な い 場 合 に,高 くな る こ とが わ か る。 希 望 通 りに 実 際 に留 学 す る 意 思 決 定 を す る際
に は,危 険 回避 度 が 影 響 して くる と思 わ れ る。
広 島 大 学,小 樽 商 科 大 学 の 学 生 と も,在 学 中 に留 学 し な い理 由 と して,20%
程 度 の 学 生 が,留 学 そ の もの に興 味 が な い と回 答 して い る。 経 済 的 な理 由 をあ げ る学 生 が40%弱 あ り,海 外 生 活 の 不 安 を あ げ る学 生 も20%以 上 い る。 こ れ ら
海外 留 学 に関す る意 思決 定問 題 105 の 回答 は,日 本 の 大 学 に お い て,ど の 程 度 交 換 留 学 プ ロ グ ラ ム を 充 実 す べ きな
の か,最 適 な規 模 を考 え る際 に,我 々 に示 唆 を与 え て くれ る。 本 格 的 な少 子 高 齢 社 会 に突 入 した 日本 で は,日 本 の 大 学 に入 学 し た学 生 に と っ て は,1年 間 の 海 外 留 学 で あ っ た と して も生 涯 所 得 の 一 部 喪 失 と言 う観 点 か ら考 え る と留 学 の 機 会 費 用 は増 大 して い る と考 え られ る 。 学 生 の キ ャ リア ・プ ラ ン と整 合 的 な形 で 交 換 留 学 プ ロ グ ラ ム を デ ザ イ ン しな い と応 募 者 が 減 少 して い く とい う事 態 も 考 え られ る。 こ の こ と は,卒 業 後 の留 学 希 望 に対 す る 回 答 か ら も読 み 取 る こ と が 可 能 で あ る。 卒 業 後,会 社 等 か らの 派 遣 留 学 を希 望 す る 学 生 が,両 大 学 と も 20%以 上 い て,留 学 の 期 間 も1年 以 上2年 未 満 が 一 番 多 く な っ て い る 。 留 学 希 望 先 は,英 語 圏 の 国 が 多 く,北 米 ・英 国 で30%以 上 とな っ て い る。 これ は,こ れ まで,日 本 か らは,北 米 ・英 国 へ 留 学 生 を派 遣 し,ア ジ ア諸 国 か ら受 け入 れ る とい う留 学 生 の 移 動 パ ター ン と整 合 的 な内 容 と な っ て い る。
奨 学 金 の付 与 に よ る大 学 卒 業 後 の留 学 促 進 効 果 は,こ の ア ン ケ ー ト調 査 か ら は 限 定 的 な もの とな っ て い る 。 日本 と欧 米 の 間 に 大 き な所 得 格 差 が 存 在 した 時 代 とは 異 な り,日 本 国 内 で の 所 得 獲 得 機 会 の 多 様 化 と所 得 水 準 自体 の 向 上 に よ っ て,大 学 卒 業 後 の 留 学 は,学 生 の 意 識 の 中 で は,そ れ ほ ど魅 力 的 な もの に は 映 っ て い な い 可 能性 が あ る 。
6.留 学 生 政 策 に対 す る含 意
日本 で は,明 治 維 新 以 降,欧 米 の 諸 制 度 を取 り入 れ る キ ャ ッチ ア ップ 型 の 経 済 発 展 に よ っ て,所 得 水 準 を 向上 させ て きた 。日本 か ら欧 米 の 大 学 へ の留 学 は, キ ャ ッチ ア ッ プの 過 程 で 重 要 な役 割 を果 た して きた 。1980年 代 半 ば に,ほ ぼ欧 米 並 み の 所 得 水 準 を実 現 して か ら は,国 際 貢 献 の 一 環 と して,留 学 生 の 受 け入 れ に 日本 の大 学 は力 を 注 い で きた 。21世 紀 初 頭 に 日本 の 高 等 教 育 機 関へ の 留 学 生 の 受 け入 れ を10万 人 に す る とい う 目標 は,2003年 に は実 現 され た 。 今 後 は,
日本 の 大 学 に お け る 国 際 教 育 プ ロ グ ラ ム の 質 的 な 向 上 が 求 め られ て い る と こ ろ で あ る 。
大 学 教 育 の 国際 化 を図 る 上 で,単 位 の 互 換 を 目的 とす る 交 換 留 学 制 度 は,諸 外 国 の例 を見 て も,重 要 な役 割 を果 た す こ とが 知 ら れ て い る。 日本 の 国 立 大 学
に お い て も短 期 留 学 プ ロ グ ラム の 設 置 に よ っ て,英 語 で授 業 を行 な う こ とで 交 換 留 学 生 の 受 入 れ を促 進 して い るが,日 本 の 学 生 を派 遣 す る こ と の 教 育 効 果,
あ るい は,日 本 の学 生 を短 期 留 学 プ ロ グ ラ ムへ 参 加 させ る こ と の教 育 効 果 に つ い て は,十 分 な議 論 と検 討 が な さ れ て こ なか っ た 。 今 回 の ア ン ケ ー ト調 査 を見 る 限 り,日 本 の 大 学 に 在 学 して い る学 生 の ニ ー ズ に合 っ た 国 際 教 育 プ ロ グ ラ ム を 整 備 して い く余 地 は 十 分 あ る よ う に 思 わ れ る。
海外 留 学 に興 味 が な い と答 え た 学 生 を 含 め て,留 学 しな い 学 生 に対 して,ど の よ う に国 際 教 育 を して い くか が 日本 の 大 学 に とっ て は重 要 で あ ろ う。 そ の 意 味 で は,交 換 留 学 生 の 受 け入 れ の た め に 設 置 さ れ た 短 期 留 学 プ ロ グ ラ ム に,日 本 の学 生 を参 加 させ,海 外 留 学 を し た の と同 様 の教 育 機 会 を提 供 す る こ とが, 大 切 で は ない だ ろ う か 。 留 学 生 の 受 け入 れ 数 を 目標 と した留 学 生 政 策 か ら,日 本 の大 学 にお い て,留 学 生 と 日本 の 学 生 が と もに学 ぶ 場 所 の 拡 充 と機 会 の 拡 大
を 図 っ て い くべ きで あ ろ う。
ま た,今 回 の ア ン ケ ー ト調 査 か ら は,派 遣 留 学 生 に 対 す る 奨 学 金 の付 与 の あ り方 に つ い て は工 夫 が 必 要 な こ とが わ か る 。 日本 の大 学 を卒 業 し た学 生 は,欧 米 の学 生 と比 較 して も十 分 な生 涯 所 得 を見 込 め る た め,自 分 の キ ャ リア ・プ ラ
ン と整 合 的 で な い 限 り,奨 学 金 を付 与 さ れ て も,留 学 し な い可 能 性 が 高 い 。 危 険 回避 的 な行 動 も考 慮 に 入 れ る と,所 属 す る 会 社 や 機 関 を通 じて 奨 学 金 を付 与 し た方 が,効 果 が 高 い 可 能 性 が あ る。 こ の 点 につ い て は,新 し くス タ ー ト した 長 期 派 遣 留 学 生 制 度 の 動 向 も踏 ま え なが ら,考 え て い く必 要 が あ る。
7.お わ り に
こ の論 文 で は,広 島大 学 と小 樽 商 科 大 学 に お い て 実 施 した 海 外 留 学 に 関 す る 意 思 決 定 につ い て の ア ンケ ー ト調 査 の 結 果 を 報 告 す る と と も に,調 査 結 果 を計 量 経 済 学 の 質 的 変 量 モ デ ル を用 い て 分析 した 。 これ ま で に留 学 を した か,し な
海外 留 学 に関す る意 思決 定 問題 107 い か とい う二 値 的 な 意 思 決 定 に対 し て,将 来 所 得 に対 す る強 気 度 や 危 険 回 避 度 が 影 響 を及 ぼ す こ とを確 認 した 。 在 学 中 あ るい は卒 業 後 留 学 を した い とい う学 生 に対 して,ど の よ うな 国 際 教 育 プ ロ グ ラ ム を提 供 す べ き な の か,ま た,奨 学 金 の付 与 が どの 程 度 留 学 を促 進 す るの か議 論 した 。 さ ら に,留 学 に興 味 が な い 学 生,在 学 中 で留 学 で きな い 学 生 に 対 して 適切 な 国際 教 育 プ ロ グ ラ ム を提 供 す る こ との 重 要 性 が 指 摘 され た 。
最 後 に,こ の 調 査 研 究 の 拡 張 に つ い て述 べ る。 今 回 は,最 初 の 調 査 で あ っ た た め に サ ン プ ル 数 が200と 小 さ い の で,同 様 の ア ンケ ー ト調 査 を広 島 大 学,小 樽 商 科 大 学 を含 め た10大 学 程 度 で 実 施 し,サ ン プ ル 数 を1000程 度 に増 や して, 推 計 を再 度 実 施 す る必 要 が あ る。 そ の 際 に は,回 答 者 の 性 別,専 攻,学 年 も説 明 変 数 に 加 え た上 で 推 計 を 試 み た い 。 ま た,学 生 を採 用 す る企 業 の 立 場 か ら学 生 が 大 学 在 学 中 に し た留 学 を どの よ う に評 価 して い る の か を知 る こ と も重 要 で あ る。 さ ら に,実 証 分 析 の 成 果 を 踏 ま え た 上 で,留 学 生 の 国際 間 移 動 に 関 す る 精 緻 な理 論 モ デ ル を構 築 し,奨 学 金 の 付 与 な どの 留 学 生 政 策 の効 果 に 関 して 定 性 的 な分 析 を行 な い た い と考 え る。
参 考 文 献
1.荒 井 一 博(2002)「 教 育 の 経 済 学 ・入 門 公 共 心 の 教 育 は な ぜ 必 要 か 」 勤 草 書 房 2.伊 藤 隆 敏 ・西 村 和 雄 編(2003)「 教 育 改 革 の 経 済 学 」 現 代 経 済 研 究22日 本 経 済
新 聞 社
3.永 谷 敬 三(2003)「 経 済 学 で 読 み 解 く教 育 問 題 」 東 洋 経 済 新 報 社 4.牧 厚 志(2001)「 応 用 計 量 経 済 学 入 門 」 日 本 評 論 社
5.GaryS.Becker(1993)HumanCapital,UniversityofChicagoPress:Chicago, U.S.A.
6.CliveR.BelfieldandHenryM.Levined.(2003)TheEcono〃zicsofHigher Education,TheInternationalLibraryofCriticalWritingsinEconomics165,Ed‑
wardElgar,Cheltenham,UK.
7.ArthurS.Goldberger(1998)IntroductoryEconometrics,HarvardUniversity Press,Cambridge.
8.MichaelSpence(1974)MarketSignaling,HarvardUniversityPress:Cambridge, Massachusetts.
9.JeffereyM.Wooldridge(2003)IntroductoryEcono〃zetrics'AModernAPProach, 2e,South‑Western,Mason,Ohio.