グローバル化時代におけるスウェーデンの地域産業 政策―Peer Hull Kristensen and Kari Lilja
(eds.), Nordic Capitalisms and Globalizationお よび槌田洋『グローバル時代のスウェーデン福祉国 家と地域』を読む―
著者 阿部 望
雑誌名 明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies
巻 45
ページ 103‑126
発行年 2014‑03‑31
その他のタイトル Globalization and the Swedish Regional Industrial Policy
URL http://hdl.handle.net/10723/1924
【書評論文】
グローバル化時代におけるスウェーデンの地域産業政策
――Peer Hull Kristensen and Kari Lilja (eds.), Nordic Capitalisms and Globalization および槌田洋『グローバル時代のスウェーデン福祉国家と地域』を読む――
阿 部 望
0. はじめに
本稿の目的は,上記の2冊の研究書,Peer Hull Kristensen and Kari Lilja (eds.),
Nordic Capitalisms and Globalization: New Forms of Economic Organization and Welfare Institutions
, Oxford University Press, 2011(以下ではKristensen et. al.(2011)と略記)および槌田洋『グローバル時代のスウェーデン福 祉国家と地域』,法律文化社,2013 年(以下では 槌田洋(2013)と略記)の詳細な書評を行うこと である。
Kristensen et. al.(2011)は,その表題が示すよ うに,グローバル化時代の中で生き延び,成長し つつある北欧資本主義システムの分析を行ってい る。その際の重要な視座として,新しいグローバ ル化時代に適応した経済組織のシステムと福祉国 家制度を取り上げている。それに対し,槌田洋
(2013)は,スウェーデン経済を対象として取り 上げ,現代のグローバル化経済の中で成長を続け るために地方政府に求められる地域産業政策や都 市・地域経営についての基本的な政策について論 じている(1)。
それでは現時点でこれら2冊の研究書を取り上 げる意味はなんであろうか。初めにこの点を明ら かにしておきたい。
現在,世界経済を取り巻く環境は激しく変動し ていることはよく知られている。その背景にある ものは,経済のICT化とそれと連動したグローバ ル化,等である。このような動きは世界規模では
1990年代半ば以降発生してきていると考えられる。
この変化は非常に大規模なものであり,それゆえ 全ての国が経済システムや政策においてそのアプ ローチを大幅に変更することを迫られていると いっていいであろう。このような大きな挑戦に直 面して,いくつかの国々は多大な混乱に陥ってい る一方(日本もその中に含まれるであろう),他の 国々は相対的に無難にこれらの課題に立ち向かっ ているように見える。このことをヨーロッパを例 にとり,基礎的な経済データを用いて,確認して おこう。(表1)を参照されたい。
この表は,ヨーロッパ経済EU-15を対象とした 4つのモデル,北欧モデル(デンマーク,オラン ダ,フィンランド,スウェーデン),アングロサク ソン・モデル(アイルランド,イギリス),大陸欧 州モデル(ベルギー,ドイツ,フランス,ルクセ ンブルグ,オーストリア),地中海欧州モデル(ギ リシャ,スペイン,イタリア,ポルトガル)ごと に,各指標について,その平均値を示している(2)。 また,時期としては,世界経済の激動期の始まっ た1990年代半ば以降を対象としており,表中の数 字は,各時期の年次データの平均値を示している。
さて,ここでは経済の中期的な安定的経済発展 の能力に着目しているため,基礎的な10のデータ のみを扱っている。詳細な分析に立ち入ることは できないので,重要な点のみを指摘する。まず,
北欧モデルと他のモデルとの比較をしよう。1996 年以降については,北欧モデルは,特に,政府の 財政収支と債務残高そして就業率の面で,他のモ デルよりも明白に優れたパフォーマンスを示して
(表1) 4つの欧州モデルの経済パフォーマンス比較(1996年-2010年)
(各時期の年平均値)
北欧モデル アングロ サクソン・
モデル
大陸欧州 モデル
地中海 欧州 モデル
アメリカ 日本 スウェーデン
1)GDP成長率(%)
1996-2000年 3.6 3.2 6.5 2.6 3.4 4.1 1.0
2001-2005年 2.0 3.1 4.0 1.4 2.3 2.4 1.3
2006-2010年 1.0 1.4 0.1 1.2 0.5 1.0 0.2
2)一人当たりGDP(EU27=100)
1996-2000年 122.0 121.6 117.0 121.2 91.5 157.7 119.8
2001-2005年 123.7 123.2 130.5 119.4 95.2 156.4 112.8
2006-2009年* 123.2 122.5 126.9 116.1 95.0 149.3 109.5
3)経常収支(対GDP比)
1999-2000年 3.9 4.1 -1.1 0.3 -4.6 -3.7 2.6
2001-2005年 5.2 6.0 -1.6 1.9 -5.3 -4.8 3.1
2006-2010年** 5.3 7.9 -3.0 2.2 -8.4 -4.6 3.7
4)政府財政収支(対GDP比)
1996-2000年 1.1 0.5 0.9 -2.0 -3.2
2001-2005年 1.0 0.4 -0.8 -2.2 -3.3
2006-2010年 0.7 1.5 -8.3 -2.7 -5.8
5)政府債務残高(対GDP比)
1996-2000年 60.7 66.1 51.3 76.0 85.1
2001-2005年 48.0 51.9 35.4 72.5 77.9
2006-2010年 43.1 41.3 54.8 74.7 87.6
6)消費者物価上昇率(%)
1996-2000年 1.6 1.1 2.4 1.3 2.9
2001-2005年 2.0 1.7 2.5 1.9 3.1
2006-2010年 1.9 2.1 1.9 1.8 2.4
7)労働生産性(一人当たり)
(EU27=100)
1996-2000年 108.8 109.8 114.3 120.0 97.6 137.2 96.1
2001-2005年 110.5 110.8 122.9 120.1 97.2 141.8 98.4
2006-2009年 110.2 112.3 121.0 116.8 97.1 139.3 97.1
8)労働生産性(1労働時間当たり)
(対前年比-%)
1999-2000年 2.2 2.7 3.9 2.5 na 2.8
2001-2005年 2.0 2.9 2.5 1.1 1.2 2.5
2006-2009年 -0.1 -0.3 0.5 0.8 na 1.4
9)就業率(%)
1996-2000年 73.5 75.9 69.7 67.0 61.3 76.5 74.7
2001-2005年 75.9 78.1 73.0 68.7 65.2 75.0 73.5
2006-2010年 77.3 79.1 72.4 71.2 66.6 73.4 74.9
10)失業率(%)
1996-2000年 7.3 8.0 7.1 8.0 10.5 4.6 4.1
2001-2005年 6.1 6.7 4.7 7.6 8.8 5.4 5.0
2006-2010年 5.9 7.2 7.3 7.4 9.7 6.8 4.4
(出所)EU Economic Data Pocketbook, 4-2012 and EC Economic Data Pocketbook, 4-2005およびEurostatのデータ
* 日本は,2006-2007年; ** アメリカと日本は,2006-2009年
(表2) Regional Innovation Scoreboard - Sweden – 2012
2007 2009 2011
Sweden LEADER (Ranking) LEADER (Ranking) LEADER (Ranking)
SE11 Stockholm Leader-high 1 Leader-high 1 Leader-high 1
SE12 Ostra Mellansverige Leader-high 1 Leader-high 1 Leader-high 1
SE21 Smaland med oarna Follower-low 6 Follower-medium 5 Follower-medium 5
SE22 Sydsverige Leader-high 1 Leader-high 1 Leader-high 1
SE23 Vastsverige Leader-high 1 Leader-medium 2 Leader-medium 2
SE31 Norra Mellansverige Moderate-high 7 Moderate-high 7 Moderate-high 7
SE32 Mellersta Norrland Follower-low 6 Follower-low 6 Follower-low 6
SE33 Ovre Norrland Follower-high 4 Leader-low 3 Leader-low 3
(注)ランキングは,Leader, Follower, Moderate, Modestの順。また各カテゴリー内で,high, medium, low の3つの サブランキングが付されている。結局,全体でみると,12のランキングが存在することになる(順に,1~12)。
(出所)Regional Innovation Scoreboard 2012
いる。他方,1労働時間当たりの労働生産性上昇 率については,他のモデルと比べて劣っている。
また,この15年間の変化をみると,2006-2010年 の時期にDGPの成長率は低下したが,これは他の モデルでも同様であり,特に北欧モデルのみが成 長力を鈍化させたことにならない。逆に,雇用に 関しては,就業率と失業率の両面で過去15年間事 態が好転してきていることがわかる。以上を総合 的に判定すれば,少なくともヨーロッパにおいて は,北欧モデルは,経済環境が激変し始めた過去 15年間において,かなりすぐれた経済パフォーマ ンスを示してきているといえるであろう(3)。 また本稿では,スウェーデンを取り上げ,その 地域競争力について考察を加えるが,その根拠を 与えるのが,最近のEU の調査・研究である(4)。 最近のRegional competitiveness Indexあるいはそれ と非常に高い相関関係をもつ Regional Innovation
Indexの推計によれば,スウェーデンの地域(ここ
ではNUTS2を取り上げる)の競争力が平均的にみ
てかなり高いことが示されている(5)。ここではそ の一例として,スウェーデンのRegional Innovation
Scoreboardに注目してみる。(表2)を参照された
い。
この表からわかるとおり,スウェーデンの8地 域のうち7地域までが,全体の12ランクのうち,
第6ランクまでに入ること,そして3地域は第1 ランクに属することが認められる。
この点を考慮すると,北欧経済モデルそしてそ の一例としてのスウェーデン経済モデルを対象と して取り上げることは大きな意味を有すると考え られる。これが,本書で上記の2冊の研究書を取 り扱う理由である。
さて,本稿の構成は以下の通りである。第1章 では,Kristensen et. al.(2011)の内容を詳細に紹 介する。ただし,問題点をより限定するため,い くつかの章は分析から除外する(この点について は,後述)。第2章では,槌田洋(2013)の内容を 紹介する。そして第3章では,両書の内容の比較 分析と統合化を試みたうえで,今後の検討課題を 整理する。
1. Kristensen et. al.(2011)の内容
1.0 本書の構成と問題意識
本書の目次は以下の通りである。
Preface (Peer Hull Kristensen and Kari Lilja) 1. The Co-evolution of Experimentalist Business
Systems and Enabling Welfare States: Nordic Countries in Transition (Peer Hull Kristensen) 2. Finland: Innovating the Global Positioning of
Flagship (Kari Lilja, Juha Laurila and Raimo Lovio) 3. Denmark: Tailoring Flexicurity for Changing Roles
in Global Games (Peer Hull Kristensen, Maja Lotz and Robson Rocha)
4. Norway: Raw Material Refinement and Innovative Companies in Global Dynamics (Eli Moen) 5. Sweden: From Large Corporations towards a
Knowledge-Intensive Economy (Christer Peterson) 6. Developing Comprehensive, Enabling Welfare States
for Offensive Experimentalist Business Practices (Peer Hull Kristensen)
この目次からわかるように,本書では第1章と 第6章で北欧諸国の経済システム全体に係る共通 の特性について検討しており,その中間の4つの 章で,北欧各国の経済システムの個別の特性につ いて検討している。本稿では,主として北欧諸国 に共通する経済システムの特性に注目して議論を 展開する。すなわち第1章と第6章とを統合する 形で,その要点を記述する(このような統合は,2 つの章の担当者が同一人物(Peer Hull Kristensen)
であることから,許されるであろう)。そして各国 の事例を,問題点を鮮明にするために,スウェー デンのケースについてのみ検討する(第5章)。
さて既に言及しておいたように,1990年代半ば 以降,全世界において経済を取り巻く環境が激し く変動しつつある。このことはすでに多くの論者 が指摘しているところであるが,本書の編者たち
(Peer Hull Kristensen and Kari Lilja)の理解では,
現代の経済(ニューエコノミー)は,①グローバ ル化(Global),②ネットワーク化(Networked),
そして③プロジェクト中心(Projective),の 3 つ のキーワードにより構成されていることになる。
さてこのようなニューエコノミーの中で,人々は 何を目指して生活するのか。これは非常に重要で あると同時に漠然とした質問でもある。しかしな がらこの質問及びそれに対する回答が明らかにな らないと,本書のような経済システムや政策を研 究課題とする著作の場合には,その内容を評価す ることはできなくなる。残念ながら本書では,こ の点について明示的に示されているとはいえない
が,一つの重要な手掛かりがある。それは編者た ちがその序文でふれている「北欧モデルのパラ ドックス」である。それは次のように語られる。
「高い税率,高い組合組織率,そして平等主義 的な所得分配にもかかわらず,北欧諸国は,政 府諸機関が経済において大きな役割を担いつ つ,競争力を高め,マクロ経済のバランスを確 保し,失業率を低下させ,女性,青少年,高齢 者の高い就業率をもたらすことが可能である ことを実証したのである。(p. vii)」
すなわち,上述の「競争力を高め,マクロ経済 のバランスを確保し,失業率を低下させ,女性,
青少年,高齢者の高い就業率をもたらすこと」の できる経済システムの構築が本書で前提とする経 済システムの基本目標であるとみなすことができ るであろう(6)。
このように考えると,1国ベースで見たとき,
どのようなシステムを有する経済が上記の基本目 標を達成しうるのかということが問われることと なる。この目標は実は多様な側面を包含しており,
これまでのところ現存するシステムでこの目標を 確実に達成してきていると判断される経済システ ムは存在していないといってもよいであろう。従 来,上記の基本目標を,特にその競争力の観点か ら達成しうると考えられてきた一つの有望なシス テムは,アングロサクソン型のネオ・リベラルな 経済システムであった。だが本書の編者たちは,
この目標を達成する可能性の大きい他のモデルと して,近年大きく変貌を遂げてきた「北欧諸国」
の経済システムが存在すると主張するのである。
以下本稿では,こうした観点から,その主張をか なり深く掘り下げて検討していくこととする。
1.1 現代の経済の特徴および北欧福祉国家の経済 システムとパフォーマンス
1.1.1 北欧福祉国家の経済システムとパフォーマ
ンス
本稿の冒頭で指摘したように,本書では現代の 経済(ニューエコノミー)を,①グローバル化
(Global),②ネットワーク化(Networked),そし
て③プロジェクト中心(Projective),の3つのキー ワードにより特徴づけられるものとみなしてい る。すなわちニューエコノミーにおいては,経済 的な成功のためには,有力な国際機関(世界銀行,
OECD,EU など)が主張するように,「ワシント
ン・コンセンサス基準」に沿った「ニューリベラ ルな体制に向けた改善」(7)が必要なのであるが,
この点で,北欧福祉国家はこの基準を満たしつつ,
驚くほど成功してきているというのが本書の主張 である。この主張は,事前の多数派の予測では,
現在進行中の規制緩和とグローバル化の趨勢下で は国際競争の結果,企業に対する社会的拠出金を 削減させるために社会的保護の基準を低下させる ことが強いられるので,社会民主主義福祉国家は 没落することになるというものであった点を考慮 すると,大変興味深いものとなる。この事象はす でに指摘しておいたように,「北欧モデルのパラ ドックス」と呼ばれている。それではなぜこうし た予測は外れてしまったのか。
この問いに対し,本書は,1995年代以降2008年 に至るまでに北欧福祉国家は大規模な危機を経験 し,その後システムの再構築を完遂したと考える。
その 再 構 築さ れた 新 シ ステ ムの キ ー ワー ドは ,
「実験指向型経済(Experimentalist Economies)」と
「実行力を持つ福祉国家(Enabling Welfare States)」
の2つである。ここで「実験指向型経済」とは,
現代の激しく変動している経済においては,どの ような分野や活動が成功をもたらすかの事前の予 測が著しく困難であり,多くの実験を可能にする ような条件が新たな将来の成功をもたらすために 不可欠であることを示している。これに対し,「実 行力を持つ福祉国家」とは,諸個人や企業が,国 家とともに,実験に伴うリスクをシェアしつつ,
絶えず変化しつつある経済環境に対しミクロダイ ナミックな適応を可能にする個別的なサービスを 提供している国家を指す。つまり,本書は現代の 北欧諸国は,上記の2つの基本特性により特徴づ けられており,その結果として国際競争力を維持 することに成功してきていると主張するのであ る。
こうした本書の見方に対し,もちろん反論はあ
りうる。たとえば本書も認めるように,1995年か ら2005年にかけての「北欧の奇跡」に対し,以下 のような議論も可能である。
a) 低失業率は労働時間の減少と共存するの で,そもそも奇跡は存在しない。
b) 1990年代初頭の危機からの回復期が重なっ
たに過ぎない。
c) 金融市場と財市場の自由化により,失業者 の登録手続きの厳格化および保証額の引き 下げさらには公的支出の管理の厳格化が導 入された結果である。その意味で,北欧諸 国の成功は,他の諸国以上の市場ルールの 順守に求められる(8)。
しかしながら本書ではこうした見解に与せず,
北欧諸国は,新規的な企業組織方法の実験的な展 開のための刺激的な分野さらにはグローバルな挑 戦に対して新しい方法で対処することを可能にす る目的で,従来の機関の新しい活用方法および新 しい機関の発明を行うことを目指しており,それ がこの間の「奇跡」をもたらした理由であると主 張する。ここで注意すべき点は,本書において北 欧諸国の経済パフォーマンスは,ワシントン・コ ンセンサスの基準(ベンチマーク)でみるとかな りな程度その基準を満たしていることが確認され る点である。しかしながら同時に,本書は,北欧 諸国が他の諸国とは極めて異なる手段を採用して きていることを強調している。以下では北欧諸国 の採用している「他の諸国とは極めて異なる手段」
について検討しよう。その前に,現代産業経済の 特徴と北欧のイノベーション・システムおよびビ ジネス・システムについて考察する。
1.1.2 北欧におけるイノベーションとビジネス・
システム
本書では,産業競争力と密接な関係を持つイノ ベーション・システムとして,2つのシステムを 区別する。一つは,1970年代まで優越した影響力 を有してきた「チャンドラー型イノベーション・
システム(ChIS)」であり,他方は1990年代以降 優越的になりつつある「ネットワーク型イノベー
ション・システム(NeIS)」である。前者は言うま でもなく,高名な経営史学者であるアルフレッ ド・チャンドラーの分析したイノベーション・シ ステムであるのに対し,後者は,専門分野を超え て人々を結集し,企業秘密を保つために人々を離 散させるのではなく,人々の間のコミュニケー ションを取らせるような同時進行型のイノベー ションを実施することを可能にするイノベーショ ン・システムである。このようなシステムをもた らしたのは,実はグローバリゼーションなのであ る。つまりグローバリゼーションの結果,高度に 実験指向型の主体の間にネットワークが形成され るようになってきたのである。このような現代の 時代背景を考えると,本書の主要課題は,「北欧諸 国はこれらの新しいダイナミズムに対し,携わる ことが可能か否か,またどの程度そしていかにし て携われるのか」の検討ということとなる(9)。 それでは北欧におけるイノベーション・システ ムの特徴は何か。まず本書は国家イノベーショ ン・システムに着目し,これについては,北欧諸 国に共通する国家イノベーション・システムは存 在しないと結論付ける。すなわち,北欧4か国に 関しては,それぞれが異なる国家レベルでのシス テムを発展させてきたのである。しかしながら,
企業の内部組織に着目すると,驚くべきほどの類 似性が観察されると本書は指摘する。北欧諸国(こ の分野ではオランダとオーストリアを含む)の企 業(あるいは各種組織)の内部組織において,そ の労働の管理の仕方と組織の仕方において,明確 な類似性が存在し,それは「学習する組織」とし て規定しうるものである。すなわち,「自律性と業 務の複雑さ,学習と問題解決といった諸変数,さ らには品質管理における個人的責任の尺度変数の 際立った重要性により特徴づけられる」組織なの である(10)。
この点を少し詳しく見てみよう。学習する組織 と呼ばれるこれらの組織形態の特徴は,高度な労 働の自律性を,高い効率性,被雇用者自身のアイ ディアの探究,職場での学習,組織間の被雇用者 レベルでの直接的なネットワーキングとを結びつ ける点にある。本書は,これこそ,イノベーショ
ン力(Innovativeness)の点における北欧諸国のパ フォーマンスを説明するものであると指摘する。
さらに本書は,北欧諸国においては,学習する 組織の実験指向型発展により,企業及び公的機関 が大きな機動力(maneuverability)を発揮させるこ とができると考える。企業は,service-sophisticated- customers-strategy(sesocu-戦略)を追求するかも しれない(ここでsesocu-戦略とは,顧客としての 相手企業や公的機関が求める高い要求水準に対応 する形でイノベーションを達成しようとする戦略 のことである)。実際本書は,すべての北欧諸国に おいて,企業や組織は製品から一旦離れるが,そ の後この製品を顧客のすぐそばに移し,その重要 性を増加させ始めること,そしてその方法は,既 存の顧客にとってますます複雑化する問題を解決 することか,あるいは,ますます洗練され,要求 水準を高める顧客に対して接近すること,である と指摘する。
学習する組織におけるsesocu-戦略の追求は,ビ ジネス発展の新しいテンプレートにとってのダイ ナミックな補完物をなす。そこでは企業はグロー バルなプロセスの中に深く組み込まれ,そうなる ことで,世界は新しい機会と挑戦に満ち溢れてい ることが理解される。実際,これこそが,北欧諸 国において,ネットワーク型イノベーション・シ ステム(NeIS)が作用している方法なのである。
しかしながら,このような機会がうまく生かせる のは,被雇用者,所有者,企業,組織が未知の,
また不確実な領域にあえて入り込むときのみに限 られる。そこでは,いかにして機会や挑戦に適合 した能力を生み出しうるかにより,彼らは成功も し,また失敗もしうるのである。本書においては,
各種制度がリスクを企業や被雇用者とシェアし,
また機能不全になった時に保障しうる場合に,企 業や被雇用者はあえてこれらのリスクに富む行動 を起こすのであると主張する。この点については,
次節で詳細に検証する。
1.1.3 北欧諸国のイノベーション・システムにお ける国家福祉制度の役割
さて,現代のイノベーション・システムがネッ
トワーク型(NeIS)として特徴づけられるとし,
またその主体たる組織が「学習する組織」である としたときに,北欧諸国を特徴づける高度福祉国 家システムが北欧のイノベーションを促進する方 向で作用するのか,あるいはその妨げになるのか,
あるいは中立的に作用するのか,という問いが発 せられなければならない。これは本書にとって極 めて重要な問いである。
この問題を考えるに当たり,本書ではもう一つ 重要な概念を導入する。それは「プロジェクティ ブ都市(Projective city)」という概念であり,ネッ トワーク社会において高度にモーバイルな人々,
つまり一つのプロジェクトを完成させて次のプロ ジェクトに移動する人々を優遇するものである。
ただしここでいうモビリティーとは,究極的には,
物的あるいは精神的に,プロジェクトの間を移動 することのできる能力の問題であり,既存のルー ティン,忠誠心,生活習慣,または資産所有に結 び付いた問題ではないとされる。
さて,ネットワーク型イノベーション・システ ムにおいて,プロジェクト・ベースの活動の遂行 がイノベーションの継続の大きな前提条件となる とするならば,北欧の高度福祉システムはいかな る働きをするのであろうか。この問題を考えるに 際し,一つの典型的なプロジェクティブ都市での 生活パターンを要約してみよう。「夫と妻の両方が モーバイルな勤労生活を希望し,シフトする勤務 時間とプロジェクトに従事すると想定してみよう。
その場合,彼らは一時的に自己の家や子供,さら には通常の生活から離れ,あるいは追加的な教育 を受けたり,外国に行って新しいプラントを立ち 上げたりしなければならないかもしれない」(11)
といった事態が発生する。このことを可能にする 一つの条件は,そうしたケースにおいて家族生活 を補助してくれる人を雇うための資産や所得を保 有することであろう。この条件は,多くの国にとっ て,一部の階層にのみ許される特権であろう(12)。 では北欧諸国においてはどうであろうか。すなわ ち,北欧福祉国家は企業や被雇用者が,学習する 組織や NeIS の中のモーバイルな生活に大規模に 従事することを可能にするであろうか。
ここで,この問題を考察するに際して,2 つの 側面を区別する必要があるであろう。一つの問題 は,プロジェクティブ都市に住むモーバイルな 人々の通常の家族生活を可能にするための現金や 現物に基づく支援を社会が安定して提供できるか 否かというものである。そしてもう一つの問題は,
そうした人々が長期にわたりイノベーティブな活 動を遂行するスキルを身につけるモーティベイ ションが存在するか否かというものである。
第一の問題に対しては,北欧福祉国家は伝統的 に強みを持つ。それは高負担・高福祉(高率の税 金と高度な所得再分配)に基づく平等主義的な政 策が肯定的な回答を与えてくれる。しかし,ここ でも注意が必要である。ほとんどのヨーロッパの 大陸諸国をみると,そこでの授業料免除制度は,
80%の高卒者をもたらし,ニューエコノミーで生 き,職業を変更し,プロジェクトの割り当てをこ なす能力をつけさせることに恐らくは成功してい る。これに対し,北欧諸国は,高レベルの教育が,
洗練された社会サービス(育児,老人介護,障が い者支援など)とも共存している点に特徴が求め られる。その結果,家計の成人のメンバーがニュー エコノミーの予測不可能な勤労生活につくことを 可能にし,また年少者や高齢者も労働市場に参加 することを可能にしている。このような公的サー ビス,労働市場での就業率,教育水準,そして ニューエコノミーをマスターする能力は,正のサ イクルを生み出すものと思われる。そしてこれこ そ,北欧諸国が,諸機関の新しい使用方法を用い,
またそれを改革することにより,多かれ少なかれ 非意図的に実施してきていることなのである。
しかしながら第二の問題に対しては,高負担・
高福祉だけでは説明が困難である。つまり,高負 担・高給付のみでは,多数の人間が,長期にわた りイノベーティブな活動を遂行するスキルを身に つける努力を継続的に行うようになるとは思えな いからである。少なくとも,その保証はないといっ てよい。そこで,本書が準備する補足的な説明要 因は教育である。本書は次のように指摘する。「多 分,教育がプロジェクティブ都市へのアクセスを 保証するわけではないが,教育は個人に対し,よ
り柔軟になり,また自己の役割をより容易に再規 定できるようにする手段を得るための武器庫を個 人に提供することは全く明白なように見える。」(13)
そして北欧諸国は他の諸国とは区別されるいく つかの理由を持つとし,以下の3点を指摘する。
a) 市民にはるかに多くの平等な教育機会を提 供することにより,多数の国民に対し,リ スク,シフトそして変化に対処する教育を 提供する。
b) 市民とこれらのリスク(家族や勤労生活の リスク)をシェアすることにより,国家は 市民が,仕事を変えること,ライフ・ステー ジから別のそれに移ること,高所得から低 所得へ移行すること,などの点で,支援し,
その結果市民が,他の諸国と比べて,継続 的により経済的に活動的であり続けられ る。
c) 男女ともに,ルーティンに縛られない,空 間に縛られない,そして専門性に基づく生 活を送ることを可能にする社会サービスを 提供することにより,家族が実験指向型で プロジェクティブな経済に入ることが可能 となり,かくして他の諸国よりも,学習する 組織をもっと大規模に可能なものにする(14)。
おそらく,人々にスキルアップのモーティベイ ションを与えるのは,適度なリスクの存在であろ う。このことは,家族と国家によるリスクシェア リングの重要性を指示している。そしてその方法 として,以下の2点を強調する。
a) 問題が生じたとき,たとえば一時的失業時 などに,所得がゼロとなるときの保障とし てキャッシュ・ベネフィットを移転するこ とにより,市民が職探しに集中できるよう にすること。
b) サービスを提供することにより,国家はイ ンフラを整備し,家族が新しい形態の労働 組織から生じるおびただしいプレッシャー の下でも生活できるようにしたり,また困 難に直面した時には,個人が再び自立でき るように支援すること。
一般に,これまでの議論では,福祉国家は,市 場にさらされることを減少させ,市場から受取る 企業活動に伴う報酬を減少させることで,企業と 市民をリスク回避型にし,それによって長期的に は成長を鈍化させるものとされてきた。しかしな がら,最近の研究では,それとは逆の議論にとっ ての理論的な基盤を見出してきた。つまり,再分 配はリスク引き受けを刺激することで実質的な利 益をもたらし,また福祉国家は,所得を保障する ことで,リスク引き受けを引き起こすというもの である。本書の見解では,これらのリスク引き受 けの特徴は,福祉国家の伝統的な中核的特性にそ れほど帰せられるものではなく,リスクシェアリ ングの制度を実際にリスク引き受けを実現するよ うにしてきた,そして企業,市民,地域の機能不 全主体に保障を与えてきた副次的な制度やその改 革に帰せられるのである。ただし重要なことは,
各北欧諸国においてそうしたシステムを見出すこ とができるが,それは各国ごとに異なり,それゆ え新しい機会の開拓と探求のダイナミズムも各国 ごとに異なっている点である。
1.1.4 積極的な労働市場政策とフレキシブルな労
働市場
問題点をこのように整理してきてみると,労働 市場の在り方も非常に重要な意味を持っているこ とが理解されるであろう。本書によれば,北欧諸 国に共通する労働市場の特徴として,
a) 労働市場の柔軟性(解雇の容易さ)
(Anglo-Saxon型に次ぐ)
b) 転職率の高さ
c) 高い職業訓練コースへの参加率
をあげている。このうち第1と第2の要因を説明 す る の が 「 フ レ キ シ ブ ル な 労 働 市 場 (Flexible
labour market)」であり,第3の要因を説明するの
が「積極的な労働市場政策(Active labour-market policy)」である。そして,これらの特性を持つ北 欧諸国に共通の労働市場を推進している概念とし て,「移行型労働市場(Transitional labour markets)」
論をあげることができる。この理論は,人々は生 涯を通じて多数の移行を経験する(教育から就業,
家族生活から就業,就業から失業,就業から退職)
という点を重視するものである。この観点から,
北欧福祉モデルの特徴を別な角度からも見ること ができる。それは所得の個人間再分配と比して個 人内再分配のウェイトが大きいことである。つま り本質的には,当該モデルは,個人が自己の高所 得の時期の納税額を,自己の困難な時期(失業,
教育,退職)の支払いに充てる方法だとみなしう るのである。
1.1.5 北欧諸国のイノベーションを可能にするガ
バナンス・システム
これまで北欧諸国では継続的なイノベーション を可能にするさまざまなサブ・システムが存在す ることを見てきた。最後にその一部としてのガバ ナンスの特性について整理する。
まず初めは,地方分権化である。本書では,北 欧経済が他の経済と比してグローバルな機会をう まく活用することができるようになっていると指 摘し,その大きな理由として,国家,地域,市町 村間の分業を通して,また労働組合と経営者団体 の全国組織と地方組織の間の分業を通して,大き な責任を地方レベルに移譲する傾向の存在をあげ ている。そしてとりわけ,より大規模な福祉スキー ムの支出と行政を,課税権を持つ地方レベルへと 幅広く分権化した点の重要性を指摘している。そ の上で,こうした傾向が,国家,社会的パートナー,
市町村の間の相互作用の新しいパターンを生み出 しているとし,以下の3点を指摘する。
a) 以上の新たな相互作用こそ,北欧諸国が名 目賃金の上昇を適度なレベルにとどめ,そ れを実質賃金の着実な上昇と連動させつ つ,失業率を大きく減少させることができ ている大きな理由である。
b) 市町村に対しては,国家は,福祉サービス の実施と行政を委譲し,無料の社会サービ スに対する無制限の需要があるにもかかわ らず,支出水準と公的な財政赤字を制限す るよう予算の交渉とコントロールを行って きている。
c) 地方レベルでの福祉国家の実施の増大にと
もない,コーポラティズムはますます国家 から地方や地域へと移動し,その活動範囲 を広げ,また地方の固有のニーズに影響を 及ぼす各連合体を巻き込むようになりつつ ある(15)。
北欧諸国の実験指向型でイノベーティブな活動 は,フィンランドのケースを除き,政府の意図的 な政策や戦略の効果であるとはいうことができな い。むしろそれは,異なる,主としてネオリベラ ルな指向性をもたらそうとした,だが同時に企業 や機関の地方支店や地方組織により再加工され,
きわめて多様な開発プロジェクトを担うようにさ れた意図せざる政策の効果である。そして本書で は,地方のイニシャティブ,多種多様なコーポラ ティズムのチャンネル,豊かで多様な制度的環境 こそが,国際比較の観点から北欧諸国を際立たせ ているのであって,決して,勝者を引き上げ,新 しいテクノロジ―・プラットフォームを選択し,
あるいはクラスターを作り出すための国家の意図 的な政策がそれを可能にしたわけではないことを 強調している。
この点は,従来の研究(つまりは,国家経済シ ステムの重視)とは異なり,「地方のイニシャティ ブ,多種多様なコーポラティズムのチャンネル,
豊かで多様な制度的環境」を含む地域経済システ ムの内容こそが,国際比較の観点から重要である ことを主張しているものであり,非常に示唆に富 む指摘であるといえよう。
1.1.6 本書の議論の枠組~北欧資本主義モデル~
それでは,本書の北欧資本主義モデルに関する 部分(第1章と第6章)についてその議論の枠組 を整理してみよう。(表3)を参照されたい。
まず本書では,1990年代半ば以降の現在の世界 経済の特徴を,①グローバル化,②ネットワーク 化,③プロジェクト中心,として捉えている。そ うした中で生き残り,発展を続けるためには中長 期的に国際競争力を維持することが重要である が,その源泉として,国家が,①実験指向型経済 であること,そして②実行力を持つ福祉国家であ
(表3) 北欧資本主義モデル~議論のフレームワーク~
A.現代世界の特徴
1 グローバル化 2 ネットワーク化 3 プロジェクト中心 B.北欧における国際競争力の源泉
1 実験指向型経済 2 実行力を持つ福祉国家 C.北欧資本主義モデルの構成要素
1 2 3 4
イノベーション・システム ガバナンス 政策 労働市場 国家レベル ・北欧共通のシステムは
不在
・国家,地域,市町村 間の分業を通しての 地方分権化
・労働組合と経営者団 体の全国組織と地方 組織の間の分業を通 しての地方分権化
・社会福祉政策(*)
・教育政策・制度
・金融・財政政策
<移行型労働市場>
① 労働市場の柔軟性
(フレキシブルな 労働市場)(*)
② 高い転職率(積極 的 な 労 働 市 場 政 策)(*)
③ 高い職業訓練コー スへの参加率(積 極的な労働市場政 策)(*)
地方レベル ・プロジェクティブ都市 の重要性(*)
企業・組織 レベル
・北欧に共通のシステム の存在
・学習する組織
・企業の機動性の重要性
・sesocu-戦略の意義
(*)社会福祉制度との関連大
(筆者作成)
ることを求めている。以上が,現代の北欧資本主 義モデルを取り巻く環境であるが,この北欧資本 主義モデルの構成要素として,本書では基本的に は 4 つの要素を取り上げている。イノベーショ ン・システム,ガバナンス,政策,そして労働市 場である。
まずイノベーション・システムについては,3 つの行政レベル(国家,地方,企業・組織)を区 別し,国家レベルでは北欧共通のイノベーショ ン・システムは存在しないこと,地方レベルでは
「プロジェクティブ都市」としての機能が非常に 重要であること,そして企業・組織レベルでは,
北欧に共通するシステムが存在するとした上で,
「学習する組織」の特徴がみられること,企業の 機動性がきわめて重要であること,そして企業の sesocu-戦略(顧客としての相手企業や公的機関が 求める高い要求水準に対応する形でイノベーショ ンを達成しようとする戦略)が重要な意味を持つ ことを指摘する。
次のガバナンスに関しては,国家,地域,市町 村間の分業を通しての地方分権化と労働組合と経 営者団体の全国組織と地方組織間の分業を通して の地方分権化の2つのトレンドを強調する。
第3の要素は政策であるが,ここでは特に社会 福祉政策,教育政策(制度を含む),そして金融・
財政政策の効果について取り上げている。
そして最後は労働市場であるが,そこでは移行 型労働市場の有効性が指摘される。その構成要素 としては,①労働市場の柔軟性,②高い転職率,
③高い職業訓練コースへの参加率,が想定されて いる。そしてこれら3要素のうち,①と②は「フ レキシブルな労働市場」と関連し,③は,「積極的 な労働市場政策」と関連していると指摘される。
以上の内容を理解するに際して,一つ重要な論 点が残されている。それは,以上の4つの要素が 首尾よく機能するためには,「北欧福祉国家」の持 つ社会保障制度の存在が不可欠であるという点で ある。とりわけこのことは,政策分野の社会福祉 政策の直接的な対象となるのみならず,地方レベ ルのイノベーション・システムを特徴づけるプロ ジェクティブ都市,さらにはフレキシブルな労働 市場の良好な機能の基本的前提となっているので ある。
1.2 スウェーデンの地域経済システム 1.2.1 地域経済システムの特徴
それではスウェーデンにおいて,いかなる「地 方のイニシャティブ,多種多様なコーポラティズ ムのチャンネル,豊かで多様な制度的環境」を含 む地域経済システムが,地域の国際競争力を向上 させているのであろうか。本書の第5章を要約す ることで,この点を明らかにしてみよう。
まず本章では,1990年代半ば以降スウェーデン 経済は復活を遂げたことを指摘する。その要因と して,大きく分けて2つを取り上げている。①ス ウェーデン政府の政策と②地方のイノベーショ ン・システムを構築する政策の多様なツールであ る。
まず政府の政策であるが,そのうちの財政・金 融政策としては,以下の項目があげられている。
i) 大幅な税制改革の実施(法人税の57%から 30%への引き下げ,個人所得税の限界税率
の90%から50%への引き下げ)
ii) 多数の市場の規制緩和
iii) 予算策定プロセスの改革
iv) 固定相場制の廃止とフロート制の導入 v) 中央銀行のガバナンスの変更によるその責
任者の政治家から独立的専門家への転換 vi) 高インフレ国から低インフレ国への転換(16)
それ以外に,政府の教育政策,とりわけ大学制 度改革について取り上げている。すなわち 1970 年代以降,社民党政府は大学制度の分権化を行い,
その後の20年間に約30の大学を設立した。その 結果ほぼすべてのカウンティーにおいて大学が設 置され,こうした新たな学術研究センターが若者 の雇用を吸収する重要な手段となった。このこと,
つまりイノベーション分野での分権化と大規模な 改革はNBS(National Business System)にとって 大きな意味を持った。新設の大学は,各地域の産 業特性や文化特性にフィットした特徴を発展させ ることにより,また当該地域での戦略的展開にお いて自然な形のリンクを作ることにより,地域で の有用な役割を果たした。一言でいえば,大学は 地方でのイノベーション・システムの一構成要素 となったのである。スウェーデンの大学は,教育・
研究の他に,第3の役割,つまり周囲の主体との 協力を実施している。(さらに多くの大学は,イノ ベーションを実施する大学(innovative university)
としての第4の役割を果たしている(17)。)
以上が中央政府の貢献であるが,それと同時に,
スウェーデンの地方(カウンティー)のイノベー ション・システム(これはおおむね2000年までに 整備された)の貢献についても言及している。そ のいくつかの要素は,以下の通りである。まず全 体の成長戦略や国際競争に打ち勝つための戦略は 国家レベルで作成されるが,地方や地域の主体は,
その実現のためのファンディングを求めて競争す ることを求められている。かくして地方の公的部 門は技術的・商業的なリスクを負うことになる。
次に,各地方(カウンティー)には,アイディア を利益の出るビジネスに転換し,また部分的に資 金を提供するような公共機関が存在する。また各 カウンティーは,雇用と職業訓練を支援する特別 な資金ツールを持つ。その結果,スウェーデンで は,実用向きのサービスの提供や当初の資金援助 の提供の面ではかなり良い結果が得られていると される(18)。
最後にもう一つ,スウェーデンにおけるビジネ スの競争力を高めるための基本要素として,ス ウェーデン・モデルにリンクした福祉国家論やス テイク・ホールダーの間の妥協という特別なメン タリティーの存在を指摘している。
1.2.2 エルンシェルツビクのケース
スウェーデンの地方のイノベーション・システ ムの特徴に関するこのような一般的な指摘の後 で,スウェーデンの北部のエルンシェルツビク
(Ornskoldsvik)という町をとありあげ,この町が 1995年以降とりわけ目覚ましい経済発展を遂げる ようになってきたことを指摘し,その理由として,
以下の要素を強調する(19)。
まず第一に,1995年以前からこの町に見られた
「正の遺産」として,エルンシェルツビクは従来 から林業の町であったが,そこでは起業家精神や それにともなう創造的な雰囲気がこの地方の社会 的な構造の中に内部化され,そのことが当地が多 数のファミリー・ビジネスの受け皿となり,ス ウェーデンでもっとも団体・組合の密度の濃い自 治体となっていたことが指摘される。この点は,
1970 年以降のこの町の衰退期においても維持さ れてきた特質である。
次に,1995年以降のこの町の発展をもたらした 要因であるが,それは以下のように具体的に要約 される。
① 一人の影響力のある政治家は,当地方が,
林業と機械産業以外の第三の産業としての 新しい産業を,そしてできれば女性に仕事 を提供する民間企業を必要としていること を理解した。彼は,ビジョンのアウトライ ン作成を建設局に依頼した。その結果が アーク複合施設であり,それはサービスセ クターの企業,大学のキャンパス,都市中 心部とを結びつけるスカイウォークの場所 を提供した。1991年以降,その後の拡張を 経て,このブロックは自治体の会議の場所 提供をはじめ,IT,サービスセンター,図 書館,博物館,2 つの大学の地域キャンパ スを招聘した。さらには,まもなくスカン
ジナビア航空の予約センター,コンサル ティング会社,レストランもやってきた。
② 1980年代末に2人のかつてのエルンシェル ツビク市民が外国から戻ってきた。2 人は ともに国際経験が豊かであり,また国際的 なコネクションも持っていた。彼らは故郷 の再生に熱意を持ち,行動のための新しい プラットフォームの検討に着手した。地域 の商工会議所が設立され,上記2名のうち の年長者がその会頭に着任した。彼は,ウ メオ(Umea)大学とルレオ(Lulea)工科 大学の副総長を招き,「独立した個人のグ ループ」を招集してボスニア地方の将来に ついて議論をし,その重要性をスウェーデ ン国会に通報する方法についても議論し た。このグループは,いくつかのテーマに ついて,提案を行った。その一つは,ボス ニア湾沿いの鉄道の建設であった。
③ 1994年になると,有力な政治家たちは提案 を承認しただけでなく,プロジェクト全体 をエルンシェルツビクでスタートさせた。
このプロジェクトの主要な目的は,当地域 の労働市場を,北部スウェーデンの中心地 であるウメオ市(120㎞北部に位置する)
と鉄道で結合させることであった。ウメオ は教育,保健,金融,行政の中心地であり,
190㎞に及ぶ鉄道網の拡充は15億ユーロの 投資を必要とする予測されており,北部ス ウェーデンの基準ではとてつもなく大きな 額に及び,また近代においてはスウェーデ ンにおける最大規模の鉄道投資でもある。
④ アーク複合施設の設立ととりわけ新規鉄道 建設の決定は当地方の協力に向けての雰囲 気を変えた。たとえば,MoDo社とHagglund 社はウメオ(Umea)大学とルレオ(Lulea)
工科大学との間で,退職しつつある管理職 に代わるべく新世代の管理職を雇用するた めに高等学校レベルの技術職のための教育 をどのように組織化するかについての議論 を開始した。このイニシャティブを支援す るために,地方自治体は適切な教育を実施
(表4) エルンシェルツビクのネットワーク型イノベーション・システム
A. 有効に機能した要因
主体 機能
1 有力な政治家(1名) ・ ビジョンのアウトライン作成の建設局への依頼
・ アーク複合施設の建設(サービスセクターの企業,大学のキャンパ ス,都市中心部とを結びつけるスカイウォークの場所を提供した。
その後の拡張を経て,このブロックは,自治体の会議の場所提供を はじめ,IT,サービスセンター,図書館,博物館,2つの大学の地域 キャンパスを招聘した。さらには,まもなくスカンジナビア航空の 予約センター,コンサルティング会社,レストランもやってきた。)
2 かつてのエルンシェルツビク市民 の帰国(2人;国際経験が豊かであ り,また国際的なコネクションも 持っていた)
・ 地域の商工会議所が設立され,上記2名のうちの年長者がその会頭 に着任した。
・ ウメオ大学とルレオ工科大学の副総長を招き,「独立した個人のグ ループ」を招集してボスニア地方の将来について議論をし,ボスニ ア湾沿いの鉄道の建設を提案した。
3 有力な政治家(複数) ・ プロジェクト全体(当地域の労働市場を,北部スウェーデンの中心 地であるウメオ市(120㎞北部に位置する)と鉄道で結合させるプロ ジェクト)をエルンシェルツビクでスタートさせた。ウメオは教育,
保健,金融,行政の中心地であり,190 ㎞に及ぶ鉄道網の拡充は15 億ユーロのコストを予測されており,北部スウェーデンの基準では とてつもなく大きな額に及び,また近代においてはスウェーデンに おける最大規模のの鉄道投資でもある。
4 MoDo社・Hagglund社・ウメオ大学・
ルレオ工科大学・地方自治体
・ 新世代の管理職を雇用するために高等学校レベルの技術職のための 教育をどのように組織化するかについての議論を開始した。
・ 地方自治体は適切な教育を実施するために産業界・商業界と協力し て教育センターを設立した。
・ その結果,エルンシェルツビクは最終的にMid大学の第4のキャン パスになった。さらに,アーク複合施設において,共用事務スペー スは3つの民間利益団体と自治体の産業貿易課と高等教育課に割り 当てられることとなった。
5 地元出身で外部で活躍したビジネ ス・カップルの帰省
・ 疲弊した町の中心部を取得し,修復したうえで,卓越したモールに 作り替えた。
・ 40の全国的なビジネス・チェーンがこの町に店を開き,この自治体 は2001年と2008年の2回,スウェーデンにおける最良の都市セン ターの賞を獲得した。
6 有力企業の20名ほどの意思決定者 であり,また有力政治家並びに主要 な野党の政治家(自己の所属する組 織の代表としてではなく,個人とし て参加)(「情熱的精神集団」(Group of Fiery Spirits)
・ エコ・システムの成長と再生に向けた協力に関する議論を行う一連 のセミナーを立ち上げた。
・ 成果に責任を持つ多数のテーマについて手段のパッケージが組織さ れた。バイオフュエル,ディジタル印刷,雇用と企業家精神,など である。
B. 欠陥
1 ・ ベンチャー・キャピタルの不在と,関連するビジネス機会を早期の段階で感知することのできるファンド・
マネジャーの不在
2 ・ 起業家になるためのインセンティブが不十分な点(換言すると,スウェーデンの課税制度においては,企 業に雇用されている高額所得者が自ら企業を立ち上げることを奨励するようにはなっていない点)
(筆者作成)
するために産業界・商業界と協力して教育 センターを設立した。その結果,エルンシェ ルツビクは最終的にMid大学の第4のキャ ンパスになった。さらにアーク複合施設に おいて,共用事務スペースは3つの民間利 益団体と自治体の産業貿易課と高等教育課 に割り当てられることとなった。
⑤ またエルンシェルツビク出身で外部で活躍 したビジネス・カップルが1995年に帰省し た。彼らは疲弊した町の中心部を取得し,
修復したうえで,卓越したモールに作り替 えた。このカップルは商業上のリスクを 負ったが,彼らの投資は中心部の活性化に とって決定的であった。その結果,40の全 国的なビジネス・チェーンがこの町に店を 開き,この自治体は2001年と2008年の2 回,スウェーデンにおける最良の都市セン ターの賞を獲得した。
⑥ ここで重要なのは,この自治体で行った各 種のイニシャティブを実施する方法であ る。その中心を担ったのは有力企業の20名 ほどの意思決定者であり,また有力政治家 並びに主要な野党の政治家であった。彼ら がエコ・システムの成長と再生に向けた協 力に関する議論を行う一連のセミナーを立 ち上げた。彼らは彼らの属する組織の代表 としてではなく,個人として参加したのだ。
かれらは自らを「情熱的な精神の集団」と 呼んだ。彼らの結論は,当該地域の魅力を 高めるためには迅速な手段が必要だという ものであった。それを受けて,成果に責任 を持つ多数のテーマについて手段のパッ ケージが組織された。バイオフュエル,ディ ジタル印刷,雇用と企業家精神,などであ る(20)。
このような整理をした上で,筆者はエルンシェ ルツビクのケースにおいても観察される2つのス ウェーデンのイノベーション・システムに固有の 欠陥についても指摘する。
第一の欠陥は,ベンチャー・キャピタルの不在
と,関連するビジネス機会を早期の段階で感知す ることのできるファンド・マネジャーの不在であ る。そして第二の欠陥は,起業家になるためのイ ンセンティブが不十分な点である。換言すると,
スウェーデンの課税制度においては,企業に雇用 されている高額所得者が自ら企業を立ち上げるこ とを奨励するようにはなっていない点である。
以上の内容は,(表4)の中に要約されている。
参照されたい。
1.2.3 要約
以上で述べたスウェーデンのエルンシェルツビ ク市の地域経済システムと政策に関して,経済主 体と重要なプロジェクトの2つの観点から整理・
要約してみよう。(表5)を参照されたい。これは 基本的には(表4)を書き換えたものである。
まず当市のケースにおいては,重要な経済主体 としては,政府・公的機関としてのエルンシェル ツビク市,大学としてのウメオ大学とルレオ工科 大学,企業の代表としてMoDo社とHagglund社,
そして当市のケースの経済主体として非常に重要 な役割を果たしているのは,本書の分析において は諸個人およびグループである。また本書の分析 では,当市の発展において重要な意味を持ったプ ロジェクトがいくつか取り上げられているが,そ の代表的なものとして,A. ビジョンのアウトライ ンの作成,B. アーク複合施設建設,C. 商工会議 所設立,D. 鉄道建設プロジェクト立ち上げ,E. 教 育センターの設立(大学キャンパス立ち上げを含 む),そしてF. 企業・起業支援,あげられている。
各プロジェクトにおいてどの主体が重要な役割を 果たしたのかを本稿の筆者が類推した結果が(表
5)に要約されている(21)。いずれにしても,これ
らの経済主体が相互に連携を取りつつ,当市の発 展に寄与してきたことが理解可能となる。
(表5) エルンシェルツビク市の地域経済と産業政策
A B C D E F
ビジョンの アウトライン
の作成
アーク複合 施設建設
商工会議所 設立
鉄道建設プ ロジェクト 立ち上げ
教育センター の設立(大学 キャンパス立 ち上げを含む)
企業・起業 支援
1 政府・公的機関
エルンシェルツビク市
2 大学
ウメオ(Umea)大学
ルレオ(Lulea)工科大学
3 企業
MoDo社
Hagglund社
4 個人・団体
政治家A(1名)
帰国地元市民(2名)
政治家B(複数)
「情熱的精神集団」
(注)表中の記号は,大きな役割を有していることを示す。
(筆者作成)
2. 槌田洋(2013)の内容
2.0 本書の構成と問題意識
本書の目次は以下の通りである。
第1章 スウェーデン福祉国家と地方政府改革 第2章 地域産業のグローバル化と産業政策 第3章 ネットワークとしての広域政府システム 第4章 イェテボリ市の都市政策と都市経営 第5章 地方政府と市民社会
既に冒頭で若干は紹介したが,本書の目的は,
1990 年代以降生じてきている統治形態の変化の 下で,「地方政府システムの改革の現状を検証する とともに,地方政府に求められる地域産業政策や 都市・地域経営,また市民参加などの基本的な政 策を論じる」ことである(22)。そして本書は,その 内容の面から大きくは2つの部分に分けることが できる。一つはスウェーデンにおける中央政府と 地方政府の関係を一般的に論じている部分(第1
章)であり,他方はウェストラ・イェーターラン ド・リージョン(その中核をなすのはイェテボリ 市である)を中心として具体的な地方政府の動態 を分析した部分(第2章~第5章)である。以下 では,この2つの部分に分けてその内容を概観す る。
2.1 スウェーデン福祉国家と地方政府改革 まず本書において,1990年代以降中央と地方の 政府間関係の再編が展開し,その結果地方レベル での経済的・政治的変化が顕著になったと指摘す る。そしてその理由として,①従来の大企業の輸 出競争力の強化と投資の拡大を通じて雇用確保す る戦略が機能しなくなったこと,②経済政策の焦 点が地域のレベルに移行したこと(地域の投資環 境を高めることが経済戦略の基本におかれた),そ して③EUとの関係が重要性を増してきたこと,
具体的には,EU 構造補助金の獲得にともなって 広域レベルでの統治単位や公私のパートナーシッ プの確立が要請されたこと,をあげている(23)。ま
たこれらの指摘と若干重複するが,上記の動向を 一層推進する力となったものとして,以下の3点 を指摘する。①中央政府の経済政策の焦点が,経 済グローバル化とEUの補助金政策などの影響の もと,地域もしくはリージョンのレベルに移行し たこと,②各コミューンでは,多くの企業が取引 関係をグローバルな規模に広げるという意味で の,地域産業のグローバル化と併行して,地域的 な企業間関係および産業構造の再編成が進んでい ること,③世界とつながることを求める各地域産 業にとっての交通インフラの重要性が,インフラ 整備の要求実現に向けた広域レベルでの政治的統 合が進む背景となっていること,である。そして,
このことはある意味で必然的に,広域エリアでの 経済的・社会的・政治的な利害調整と一体化のプ ロセスにおけるリージョンの重要性の増大をもた らすこととなったが,その背景としては,①ス ウェーデンの統治システムが,多極化に伴う解体 の方向ではなく,コミューンからリージョンそし て中央政府に至る多段階の政府によるネットワー ク型の統治システムに向かいつつあること,②経 済と福祉の統合的な発展を目指す上での政治的・
経済的な基本単位が,地方レベルに移行せざるを 得ないこと,があげられるとしている(24)。 以上を要するに,従来は福祉と教育の中心的な い担い手であった地方政府は,1990年代以降経済 のグローバル化等の影響を受けて,福祉と教育に 加えて,産業政策や雇用政策の面でも中核的な担 い手になってきているのである。
2.2 地域産業のグローバル化と産業政策~イェテ ボリ市を中心に~
本書の第2の部分は,リージョンやコミューン などの地域の産業システムと産業政策についての 分析であり,この部分が本書の大半を占めている
(第2章~第5章)。そこで扱われる地域は複数存 在するが,その大部分はスウェーデン南部に位置 するウェストラ・イェーターランド・リージョン
(地域)に属する地域である(ボロース,ティブ ロ,トロールヘッタン,ウェストラ・イェーター ランド・リージョン,イェテボリ市)。以下では,
最も詳細な分析がなされているイェテボリ市のみ を取り上げ,その地域経済と産業政策の特徴につ いて要約する。
イェテボリ市のケースに入る前に,この地域を 含めて,中央政府がいかなる役割を果たしている のかについての検討が必要である。中央政府の役 割は,各地域経済の特性に応じて異なっているが,
本書の筆者(槌田洋)は,その政策を次の3点に 要約する。①企業の経営環境の変化に対応した支 援的なサービスとともに,技術・製品開発を促す システムの整備(中央政府の政策が,技術の高度 化や製品開発に向けて大きな役割を果たしてい る),②ネットワーク形成への援助,③インフラ 整備などを通した立地環境そのものの改善,であ る(25)。
さて,イェテボリ市(人口約50万人)はスウェー デンで第2の都市であるが,イェテボリ港を中心 に,最初は造船業,その後は自動車産業などの大 企業を中心に栄えてきた都市である。もとより各 地域はそれぞれ特有の経済・産業や社会の基盤を 有しており,それが経済活動に大きな影響を及ぼ す。まず初めに,イェテボリ市でも1980年代後半 からの政治と行政システムの改革が実施された が,その背景として,次の3点が指摘されている。
①地域経済のグローバル化(これはイェテボリ市 においても例外ではない),②地域構造と地域問題 の特徴(特にイェテボリ市では,地域産業の構造 変化に伴い,市営住宅を中心とする地域に低所得 者と移民が集中し,セグリゲーションの拡大が問 題となりつつある),③市と市民運動を含む私的セ クターとの相互関係(1990年以降のコミューンの 財政難とサービス民営化を目指す中央政府の政 策,さらには協同組合事業の広がりの結果,市と 市民社会との相互関係の再構築が迫られた),であ る(26)。
次に,イェテボリ市の地域経済の特徴であるが,
次の3点が指摘される。①地域の歴史を通じて形 成された世界の市場を視野に置く経営感覚,②
「イェテボリ・スピリット」と称される,企業間 および労使間の協調的な企業文化,③1990年代後 半以降の外資系企業と従業員数の顕著な増加,④