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製薬会社のマーケティング戦略研究の基本視座

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Academic year: 2021

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(1)

 はじめに

 製薬会社のマーケティング戦略研究は、他の産業のマーケティング戦略研究と幾分異なる。それは、

例えば医療用医薬品の薬価は公定価格であり、企業が独自に決定できず、医療費抑制のために薬価引 下げが継続しているという事実や、研究開発費の割合が高く、大型新薬開発には大きなリスクが伴う という実態によるものである。

 本稿で明確にすべきことは、マーケティング戦略研究で洞察を加えるべき基本視座を明確にし、若 干の考察を加味することである。尚、本稿では、後発品、後発医薬品、ジェネリック医薬品を同意義 で用いている。

 医薬品業界の特質について(薬価、研究開発及びプロモーション)

 製薬会社のマーケティング戦略研究の事実関係を明確にする際に、最初になすべきことは業界固有 の特質を把握することである。まず薬価制度についての理解を深めたい。

 薬価は、収載後原則2年に1回、実勢価格の調査により改訂されている。この改訂は引下げである。

年間販売額が当初予想の2倍以上に達し、150億円を超える場合は再算定の対象となり、最大25%

まで引下げられる。特許が切れて後発品が発売されると、6%引き下げられるルールが定められてい る。誤解をおそれずに表現すると、日本の薬価は、市場での競争価格ではなく、罰則的な引下げによ るものとなっている。

 こうしたルールにより、日本では薬価が継続的に引下げられており、欧米より安い医薬品が多くな っている。発売時点で同程度の価格だとしても、やがて格差が広がる仕組みになっている。

すでに外国で発売されている医薬品については、外国との価格差が大きい場合は調整する外国平均価 格調整ルールが存在し、類似した医薬品が3製品以上存在し、1番手の発売から3年以上経過してい る場合(新規性に乏しい新薬)は、より低い薬価が設定される。

 欧米では後発品が出るまで価格が下がることは稀であるが、日本では収載後10年間で20〜30%

引下げられ、外国との価格差が拡大しているのが実情である。

 欧米諸国の薬価制度を考察すると、米国では収載価格は各保険者との交渉で自由価格となり、収載 後の薬価変更は保険者との交渉で決定する。ドイツでは収載価格は自由価格で決まり、収載後の薬価 変更は自由、特許切れの製品のみ参照価格制度で決まるというルールになっている。 

 薬価引下げは、薬剤費抑制のために実施されているが、過去10年間薬剤費は増加していない。薬

製薬会社のマーケティング戦略研究の基本視座

保   田   宗   良

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剤比率は欧米並みに低下しており、薬剤比率は20.2%となっている。薬価に焦点を当てた医療費抑 制策は限界に近づきつつある1)

 平成14年度の薬価改定について、製薬協永山会長は以下の私的な見解を述べている。

「薬価制度改革は、薬価差の縮小という大目標に向かいながら、薬価改定の度にその時々の財政的 制約のもとで合意形成しやすいものをルール化してきた。現在の薬価制度はつぎはぎだらけのパッチ ワークキルトのような複雑な制度になっている。現行の制度では、創薬技術革新の中で新たな治療概 念に基づく数多くの新薬の誕生に対応していくことは難しいのではないかと思う。」2)

 医療用医薬品の薬価制度というのは、他分野の研究者から見ると非常に複雑な制度である。一般用 医薬品は医療保険の適応がないので、企業が自由に価格を決定できるが、医療用医薬品は強制的に引 下げられるものとなっている。大型新薬は多額の研究開発費を要しているので、薬価がいくらに決定 するかは重要な問題である。

 医薬品の研究開発費は突出している。日本製薬工業協会のホームページからその特質が部分的に判 断できる。

 2000年度の研究開発費の総売上高に対する比率は8.6%であり、通信・電子・電気計測器の分野 5.65%、自動車産業で4.09%、全産業の平均値は3.01%ということで、その比率は突出している。

 つまり、多額の研究開発費を捻出することが新薬開発の要となる。

 基礎研究の段階で発見された新規物質のなかで医薬品として認められるのは、製薬協の研究開発委 員会を構成する18社のデータによると1996〜2000年度に関しての数字は化合物質422,653件中 製造承認を取得できたのは35件に留まっており、成功率は約12,000分の1となっている。

 年月で見ると、基礎研究から製造承認を経てひとつの医薬品が誕生するまでには9〜17年とい う長い年月を必要とし、途中で断念したものの費用を含めると1品目あたりの医薬品の開発費用は 200億円〜300億円かかるとされている3)

 上記の内容は、医薬品の研究開発に関わるものであるが、多額の研究費を投入し、多くのリスクを 乗り越えないと医薬品の製造には至らないということである。それだけの資金的裏付けがなければ、

企業間競争には生き残れない。

 かつて臨床データの改ざんという不祥事が少なからずあり、企業行動憲章が定められた時期があっ たが、先行投資した多額の研究費を無駄にしたくないという企業側の言い訳及び、実験に立ち会った 社員が事実を伏せていれば改ざんは判明しないという悪しき状態がそうした不祥事の原因であった。

 従来、製薬会社には「学問的な意味でのマーケティング活動はあるのか」という疑問が提示されて いた。医療用医薬品の薬価は厚生省が決定権を持つので、他の業界の価格政策とは性格が異なり、プ ロモーションはプロパーといわれる医薬情報担当者が接待攻勢で医薬品を売り込んでいた時期が続い た。強い医薬品卸と組めば売上高がある程度確保されるということで、流通政策も明確な法則性があ った。製品計画は、大型新薬を開発することが基本であるが、薬価が高めにつくゾロ新という国内で しか通用しない新薬が多く、国際的に評価が高い大型新薬は限られていた。国内でしか通用しない、

ゾロ新は薬価が高いので薬価差益が期待でき、そうした利点をプロパーが接待を含めて宣伝するとい うのが80年前後の営業活動であったと考えられる。

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 しかしながら、医療費抑制による薬価引下げにより薬価差益は大幅に減少した。世界で2番目のシ ェアを占める日本市場に外資系企業が攻勢を強化し、国内企業は海外で通用する大型新薬の開発が急 務となり、研究開発費の確保が至上命題となっている。国内大手の合併が続いているのは、そうした 背景による。

 新薬候補の開発・販売権売買が活発になっている。海外バイオベンチャーからの新薬買収や海外大 手との販売ライセンス契約などの動きである。有力な新薬候補は取得価格が高騰しており、企業の体 力差による優勝劣敗はさらに加速する。

 武田薬品工業は、米国のバイオベンチャー2社から北米での新薬開発・販売権を取得した。武田薬 品工業を動かすのは、有力パイプライン不足に対する危機感である。これまで自社開発の戦略4製品 で高成長を期待していたが、2009年以降の北米での特許切れを控えて、導入品の比率を高めること が必須で、自社開発市場主義からの転換が求められている。

 ファイザーなど海外大手が新薬候補を奪い合っている。新薬の販売ライセンスは極端な売り手市場 で買収価格はここ数年で2〜3倍に跳ね上がっており、有力な新薬候補を取得するには資金力がも のをいう。

 外資大手は国内で日本企業を凌ぐ営業網があり、外資から国内に新薬を導入する機会は減少してい る。導入品は売上高に応じた成功報酬を開発元に支払う契約が常であるので、営業力が弱い企業はパ ートナーにはなりえない。

 他社製品の導入戦略も生き残りを左右する。ベンチャー企業に新薬の種を探し当てるか、再編で資 金力と営業力を強化し他社の大型薬の販売権を取得することが、経営戦略の決め手となっている4)

 2000年以降の医薬品業界の動向について

 昨今の製薬会社の動きは、国内大手の海外進出と合併、外資系の合併に伴う業界の再編、後発品へ の追い風が特徴である。

 2003年度の海外売上高は前年度との比較で見ると、三共(前年同期比伸び率32.2%)、武田薬品 工業(同12.7%)、エーザイ(同12.3%)等、2桁伸張した企業があった一方で、田辺製薬(同△

21.1%)、協和発酵(同△6.4%)、第一製薬(同△5.6%)等、各社まちまちの結果であったが、全 社売上高に海外売上高比率は全般的に上昇している5)

 製薬会社の海外事業は拡大を目指している。国内市場の成長鈍化や外資系企業のプレゼンス拡大な どの市場を考慮すると、国内市場だけに依存することは限界があると考えられる。

 海外市場を獲得する方法は、3段階が考えられる。

① 海外メーカーと製品導出の契約を結ぶ方法である。

② 合弁会社を設立し、販売にも一部関わる方法。

③ 単独で製造から販売まで手がける方法。

 ③の方法は成功すれば、最大の利益をあげられるが、リスクも大きいといえる。いずれにせよ製薬 会社の国際展開は、バルク輸出のみでは語れなくなっており6)、どのように国際マーケティングを展 開するかが、基本戦略となっている。

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 医薬品業界の再編は続いている。ノバルティスとロシュが合併を模索するなど、研究開発費の巨額 化を背景に規模を追及する流れは止まらない。そんななかでシェーリングは巨大化を追求する総合大 手とは異なり、経口避妊薬などホルモン関連医薬、腫瘍、血栓、中枢神経向けの専門治療薬、造影剤 などの3分野が売上高の約3分の1ずつを占め、3領域に特化して新薬開発で先行し、専門科医に売 り込むという戦略を取っている。

 社長のフベルトゥス・エーレン氏は、総合大手は巨資を投じて規模の効果を追求するしかないが、

当社は3つの専門領域に集中投資し、3分野に絞り業容拡大を進め、この戦略に合致しなければ、利 益が出ている事業部門も売却すると述べている7)

 研究開発費を獲得し、海外進出を進めるためには、合併による規模の拡大というのが路線となりつ つあるが、シェーリングのような得意分野に力を注ぎ、エキスパートプロを目指すという企業もある。

 海外進出と規模の追求が、2000年代の動向であると考えられるが、規模の追求については、国内 では静観の構えがあった。2003年までは、以下の日薬連藤山会長のようなとらえ方が主流であった。

「規模は海外と比較して格差があるが、製薬企業は必ずしも大きければいいというものではない。」

という意見が中心であり、国内では欧米企業の動きに反応して規模の拡大を急ぐ動きは見られず、大 手製薬企業各社は、独立性を担保しながら事業強化を進める考えであった8)

 規模の追求を目指すということは大量のMRを採用するということで、実際、外資系の一部はそ うした採用を進めているが、はたしてそうしたMRがずっと必要とされるかという問題と、人件費 による利益の圧縮の問題があった。

 しかしながら、世界に通用する大型新薬を創成するためには研究開発費の捻出が不可欠である。

 三共と第一製薬2005年10月に持ち株会社方式で経営統合することになった。売上規模は 9,000億円となり、アステラス製薬を抜き、武田薬品工業に肉薄する。欧米のメガファーマに比べる と規模は半分程度であるが、国内3強時代が到来する。

 三共と第一製薬が統合すれば、主力医薬品分野が高脂血症剤や血圧降下剤などの循環器系の三共と、

感染症に強い第一製薬は、補完効果が高い。

 世界で第2位の製薬市場といわれる日本は、薬価抑制政策で市場は6兆円規模で伸び悩んでいる。

日本勢は欧米の新薬攻勢にさらされており、日本勢が勝ち残るには上位陣の順列組み合わせしかない と指摘する関係者がいる。

 相次ぐ医薬品再編の背景には2006年の商法改正がある。株式交換を使っての買収がしやすくなる ことで、規模が大きくなっても株価が伸びなければアステラスや三共・第一連合もファイザーなどか ら見て格好の買いごろ企業になる恐れがある9)

 大日本製薬と住友製薬の2005年10月1日の合併も、注目に値する。両社はお互いの課題、危機 感で共通点が多く、研究開発力で大きな相乗効果が期待できるのが決め手であり、ゼロベースでやれ るような挑発的な企業文化が形成できるかが課題となっている。

 帝國臓器製薬とグレラン製薬も、2005年10月1日に合併する。両社は、合併により営業力と研究 開発力の相乗効果を図り、収益構造の改善を図る考えであり、研究開発は産婦人科、循環器科、がん 領域などを絞り込む方向となっている。重点領域を早期に絞り込み、スペシャリティファーマとして

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生き残りを図る10)

 ジェネリック医薬品ヘの追い風があった。2002年上半期決算では後発品メーカーの好決算が続い た。診療報酬上のインセンティブに加え、2002年6月には国公立病院での後発品使用促進通達が出 され、後発品の需要が立ちあがりはじめた11)

 医薬品産業は、欧米先進国では国際競争力の強化に取り組んでおり、日本においても21世紀のリ ーディング産業として期待されている。

 基本視座の検討に必要なキーポイント (1)MRの任務の再確認

 製薬会社のマーケティングにおける重要な課題は患者満足をいかに高めるかということにある。ど んなに良い医薬品が開発されても、効能・効果が期待される状況で処方されなければ意味をなさず、

場合によっては副作用により処方がマイナスになることもある。

 MRは認定試験に合格することが、必要条件となっている。合格しなくても活動が可能であるが、

認定者しか訪問を受け付けない医療機関があるため、無資格では都合が悪い。この試験は、合格率が 85%程度ということを考慮すると最低限度の知識を備えているか否かを判断するものと考えられる。

 日本製薬工業協会は、「MR活動における製薬企業とMRのあり方」に関する提言を97年9月に発 表しているが12)、MRの任務の中核は医薬品情報の正確な伝達であり、常に安全性を配慮するとい うことである。

 しかしながら、正確な伝達には自社に不利益な情報も含まれ、そうしたことには触れたくないのが 実態である。

 MRの活動環境は利益・売上げを中心とした思考から顧客サービス中心へのマーケティングへと変 化していく。現場では、患者の意識変化によって医師はテーラーメイド医療へと踏み込んでいる。

 高い評価を受けているMRは心理戦に強く、問題解決力、思考能力に優れた能力要件を有している。

医師のEメールアドレスにアクセスしたパーソナルコミュニケーションによって、究極のMR活動 を展開している13)

 アストラゼネカと塩野義製薬は、2005年4月27日、高脂血症治療薬クレストールの販売後の安全 性調査で、国内で初めて最新の国際ガイドラインに沿った調査を行うと発表した。5月13日から両 社が選定する約1,000の医療機関に納入し調査を開始する。

 両社が、本格的な監視計画に基づく安全性調査に踏み切ることは、国内の医薬品営業が量から質へ の転換点に立っていることを示す。MRの医療機関への訪問回数を単純に増やす営業戦略には限界が ある。医薬品に関するデータの質を高めなければ、大型製品に育てることは難しい。これまでは有力 新薬の発売・営業は医師相手に強力なPR活動を展開し、いかにライバル薬からシェアを奪うかに主 眼が置かれていた。

 ゾロ新が登場する時代と異なり、新薬を大切に育てるためには、データに基づいた製品全体のライ フサイクルマネジメント戦略が重要性を増している14)

 MRの求められているものは、訪問回数を単純に増やすことではなく、医薬品に関する質の高いデ

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ータを蓄積し迅速に提供することである。

 日本LCAMR活動の現状と課題の抽出を目的に、診療所医師(内科)に対してインターネット 調査を実施しているが、本来の薬物治療のパートナーとなるMRが少ないという実態が伺える。薬 剤処方に影響を与えるMRに求められるものは「依頼事項への迅速な対応」や「ネガティブ情報の 伝達」であり、効能効果・安全性などの情報に対して的確に説明できることが求められている。自社 薬剤に対して「いい情報と悪い情報」を的確、適切に伝達できることが現場から強く求められている

15)。 

上述されていることは、医療機関がMRに求めているものであるが、換言すれば、製薬会社は、こ の回答を満たすMRを組織のなかで育成しなければならない。現在、EBMということが提唱されて いるが、医師はそうした客観的データに敏感になっている。

 MRの教育研修の実施期間、内容については企業ごとに異なる。新人の同行教育や現場配属の時期 も異なりがある。「Monthly ミクス」の2003年のアンケート調査によると、製品教育の平均は147 時間で、同行教育の開始時期は7月、新卒MRの配属月は10月とする企業が多い16)

 製薬会社のマーケティング戦略は、MRが質の高い医薬品情報を伝達し、医療機関の信頼を勝ち得 ることが基本となる。MRは自社のデータベースにネット接続して医師に論文やデータを提供する。

医師から持ってくるように依頼された論文や資料がプレゼンで最も重要になる。顧客である医師が、

自分の知識で対応しきれない患者の治療方法に悩んでいる場合、治療実績を示す論文を持参できれば 有力になる17)

(2)ジェネリックファーマの動向

 保険本人の医療費自己負担が2割から3割になったり、患者の負担は増加することになった。医療 費抑制という視点で考えると、新薬の特許の切れた後のジェネリック医薬品を活用するということが 有効な方策となり、ジェネリック医薬品メーカーは、これを機に積極的にマーケティングを進める好 機を迎えた。

 WHOなどはジェネリック医薬品の経済性、公益性に着目して使用促進を促しており、もとの新薬 より改良や工夫が重ねられていることもある。国立病院では医薬品購入費の節減に努めており、日常 的な疾患にはジェネリック医薬品で対応している事例がある18)

 2002年4月に診療報酬改定により、ジェネリック医薬品の院外処方や調剤に対して経済的インセ ンティブが与えられた19)。今後は、医療費抑制の潮流によりジェネリック医薬品が普及することが 予測される。

 ジェネリック医薬品は、成分は新薬と同じであるが、理想的な硬さ、溶けぐあい、飲みやすい錠剤 やカプセル等の改良をしており、患者満足の視点に立てば、安い薬価と改良した製品ということで、

期待されるものであるが医療機関がそうしたことを熟知しているとは限らないので、こうしたプロモ ーションが必要な段階である。

 アメリカの調剤薬局では患者の負担を考えて後発品を進めることが少なくない。薬剤師は医療用医 薬品の一般名を見れば、先発品とジェネリック医薬品の名前がすぐに認識できるので、患者にどちら

(7)

かを選択させることもある。

 2004年4月に、ジェネリック大手2社がテレビCMに乗り出して注目を集めた。東和薬品は黒柳 徹子氏を起用しCMを1年間放送した。東和薬品の広告宣伝費は従来の2倍に及ぶ。医療消費者に ジェネリック薬を啓蒙するのが狙いで、医師にジェネリック薬の処方を依頼するところまで導くのが 目標である。

 もっともこうしたことが可能なのは数社であり、医薬工業協議会に加盟している約40社の大半は

売上高が100億円に満たない規模であり、未加盟の小規模メーカーも多く、全国の医療機関をカバ

ーする力はなく、安定供給力にも不安がある20)。 

 後発品は薬価が低いので売上高が低くなる。数をこなすことが基本になる。

 2003年3月、厚生労働省国立病院部の研究班が後発品に関するアンケート調査を行っている。そ の中に「どうして採用しないのか」という設問があるが、

・ 情報供給体制が不十分

・ データが不十分

・ 安定供給体制に問題がある という回答がなされている21)

 実際、調剤薬局からは、「後発医薬品は入手しにくい」という苦情が出ていた。後発医薬品の流通 ルートは広域卸経由と販社経由の2系統がある。広域卸は全国に流通網を持つが、販社は企業規模が 小さく、特定企業の後発医薬品を特定地域のみで供給している場合が多い。そのため、販社経由の後 発医薬品は特定地域以外では入手しにくい。こうした状況について、日本薬剤師会幹部からは「薬価 収載されているにも拘わらず、特定の地域でしか供給できないのは問題」という疑問視の声があった。

 更に、調剤薬局では、小包装単位での頻回配送を求めているが、後発医薬品企業は、そうした要求 に十分応えていなかった22)

 小規模メーカーはこうした要望に対応できないと、淘汰される。

 ジェネリック医薬品各社の戦略は多様化している。2005年の改正薬事法により委受託製造に力を 入れる「委受託兼業型」と「本業一本型」に大別できる。

 経営形態では、専業老舗型と先発医薬品メーカーが一事業として実施する「先発進出型」がある。

先発進出型のなかには、将来、事業の中心がジェネリック医薬品に移る可能性がある。

 2004年にはジェネリック医薬品メーカー同士の業務提携や合併が出現した。今後は、不足分を補 う業務提携や合併が一層進むだろう23)

 日医工では、MPS「医業経営コンサルタント」を21名認定しており、「MPSアドバイザー」を全 国営業所に29名配置している。こうしたメンバーによる日医工MPSチームが説明会や情報提供を 積極的に実施し、ジェネリック医薬品の普及を図っている。

 彼らの活動方針は

・ 医師会、薬剤師会、医療機関、流通機関等に、ジェネリック医薬品情報を提供し、説明会を実施 する。

・ ジェネリック推進活動を通しての、医療コスト軽減による医療経営支援。

(8)

医師会、薬剤師会、医療機関、流通機関等に、医療行政情報や医業経営情報の提供。

が柱である24)

 日医工のこのようなスタイルのマーケティング活動は、大変興味深い。

(3)改正薬事法について

 従来から、製薬会社のマーケティング活動は薬事法に規定されていたが、2005年4月の改正薬事 法によって新たな対応が必要となった。今回の改正では、これまでの承認、許可体系が大幅に見直さ れた。

「自ら保有する製造所において製造すると共に、製品を市場に出荷する」行為により構成される従 来の製造業から、「製品を市場へ出荷する」行為を「製造販売行為」として分離し、新たに製造販売 業とする業許可制度になった。

 改正薬事法では、製造販売業者に対し、製造販売後の安全体制の一層の充実・強化、市場に対する 責任の明確化を求めた25)

 今回の薬事法改正により、工場の分社化など組織改革を進める動きがある。自社で製造所を保有せ ずに医薬品の承認を得ることが可能になり、事業効率化の一環として製造部門の分社化に踏み切る動 きが目立つ。

 医薬品製造の全面委受託を可能とする製造販売承認の導入を、ビジネスチャンスと捉える企業も多 い。受託企業側は高品質、低コストの受託サービスをいかに提供していくかが鍵を握る26) 後発品や製造受託を手掛ける東洋ファルマーは、受託事業に参入が続けば採算が悪化することを考 慮し杏林製薬の子会社になる決断をした。杏林は同社を支援して競争力を回復し、新たな収益源に育 てる。

 製造受託は生産コストや品質管理など工場の総合力が試され、製造部門の優勝劣敗は強い工場への 生産集約という形で、医薬再編の新たな波を生み出すかもしれない27)

 おわりに

 本稿では、製薬会社のマーケティング戦略研究に必要な基本視座を浮き彫りにした。他の産業と異 なり医療制度の縛りがあるため、マーケティングは制約される部分がある。医療制度が国ごとに異な るために、国際比較も単純にはできない。例えば、ジェネリック医薬品が欧米で進んでいるのは代替 調剤が認められていることにもよる。

 業界の動向としては、ファルマシアを買収したファイザーのように規模の拡大を追求する外資の動 向、強い分野を補強して生き残りを図る小野薬品工業のようなスペシャリティファーマの動向、研究 開発力を前面に出して、合併も視野に入れて海外進出を目指すアステラスのような国内メガファーマ の動向、追い風に乗じてジェネリック医薬品の売り込みで勝負する、東和薬品、沢井製薬のようなジ ェネリックファーマの動向にまとめられよう。セルフメディケーションの波に乗るOTCファーマの 動向も軽視するわけにはいかない。

 どの分野の企業においてもMRの教育が柱となる。臨床データを正確に伝達し、場合によっては

(9)

自社製品の弱点をも周知するMRを医療機関は強く望んでいる。訪問回数ではなく、EBMに必要な 情報の提供が求められている。

 例えば、ジェネリック医薬品を使う場合、同一薬効成分でも味が異なることがあり、また内容が同 じでも薬が変わるのをいやがる患者もいる28)。医師がうまく説明できれば良いが、そうした際の説 明の補助となる資料をMRが持参すれば、状況は改善する。

 武田薬品工業は大型新薬を米国で売り、海外市場比率を2005年3月に42.6%まで高めた。海外 市場は特許が切れれば後発医薬品が登場して一気にシェアが奪われる厳しい競争社会である。ファイ ザーやグラクソ・スミスクラインなど海外大手は自社製品が途切れた場合、大型のM&Aに打って出 る。

 大型新薬創出に自信をにじます武田薬品工業は、研究体制の強化と新薬候補の充実に向けた将来へ の投資を優先する戦略を採った。同社がどのように踊り場を抜け出すかは、大規模な合併連衡で後を 追う国内他社にも重い課題を突き付ける29)

 外資の経営方針は、M&Aによる大型新薬の獲得であり、それに応じたマーケティング戦略の立案 となる。

 本稿では、ジェネリック医薬品に紙幅を割いたが、これは現在の医療情勢の流れを見ると、いずれ シェアが高まることが考えられ、マーケティング戦略研究に不可欠な分野となりうるからである。米 国のように特許が切れれば後発品が台頭する市場のほうが、厳しい競争により業界全体のレベルアッ プが図られ、医療消費者にとっては好都合かもしれない。

 セルフメディケーションへの対処も考えなければならない。簡単な疾病は一般用医薬品で対応する という流れがある。

 塩野義製薬は、塩野元三氏が社長に就任した1999年当時、主力の抗生物質以外の収益源は育っ ていなかった。海外の販売網作りで出遅れたこともあり、連結売上高は3,000億円台、営業利益も 200億円台で伸び悩んでいた。塩野氏は植物薬や動物薬、卸など採算の悪い5つの多角化事業を事実 上売却し、2ヶ所の工場、米国の研究子会社を売却した。アストラゼネカに開発・販売権を供与して 欧米で売上げが伸びているクレストールなどの特許料を重点領域の研究・開発に投じ、2005年以降 の本格的な自社品の販売につなげる。

 塩野義の研究開発費は、武田薬品工業の2004年度の見込み1,500億円には遠く及ばないが、身の 丈に合った投資を続けることで将来の自社単独品の開発・販売に結び付けていくと費用の多寡は問題 にしていない。

 塩野社長からは、可能な限り独自経営を続けたいという姿勢がにじみ出る。再編が進む業界の中で どこまで独自路線が貫かれるか。塩野義が選んだ戦略は中堅製薬会社が生き残るための一つの挑戦で あり30)、今後のマーケティング戦略の進め方が生き残りを確定する。

家庭常備薬の老舗メーカーでも再編・連携の動きがある。背景には主要なユーザー層の高齢化でブ ランド力が弱まっていることや、大手ドラッグストアチェーンの取引条件に対応できずに販売機会を 減じているという事情がある。

 大衆薬は企業規模より個別ブランドの力で優劣が決まる。それは年商50−60規模の会社でも浸透

(10)

したブランドがあれば利益を出せるということから、長らく業界の共通認識だった。そのため大手で なくても独立路線を歩んでこれた。

 しかしながら、主要な購買層の高齢化が進む一方で若い消費者へのブランド浸透策で後手に回った り、大手ドラッグチェーンが購買力を武器に製品供給や納入価格で厳しい条件を提示するようになり、

ついていけないメーカーが陳列スペースの確保が困難になり、その結果、さらにブランド力を落とす という悪循環に陥っている。大手から見ると、常備薬メーカーはまだ魅力的な提携相手であり、メガ ファーマだけではなく家庭薬メーカーを巡る駆け引きも活発化しそうである31)

 本稿は、基本視座を概観したので、ブランド研究の洞察には至らなかったが、各論研究まで進める 際には、メガファーマ、ジェネリックファーマ、家庭薬メーカーのブランド戦略は検討を要する項目 である。

1)http://www.pharma-jp.org/industry/pharma-industry.html 2005

年4月5日閲覧。 

2)http://www.jpma.or.jp/policy/020122.html 2005

年4月13日閲覧。

3)http://www.jpma.or.jp/02guide/jpma2002/data.html 2003

年8月

15日閲覧。

4)『日経産業新聞』2005

年2月7日。

5)『薬事ハンドブック2005』株式会社じほう、2005年、p.146。

6)『薬事ハンドブック2003』株式会社じほう、2003年、pp.124−125。

7)『日本経済新聞』2003

年7月21日。

8)『薬事ハンドブック2003』p.7。

9)『日経産業新聞』2005

年4月28日。

10)『薬事ハンドブック2005』pp.118−120。

11)『薬事ハンドブック2003』pp.312−313。

12)薬事新報社編集局編『MR

革命・真の薬物治療パートナーをめざして』薬業時報社、1998年、p.58。

13)『Monthly ミクス2005・4』エルゼビア・ジャパン、2005年4月、p.41。

14)『日経産業新聞』2005年4月 28日。

15)『Monthly ミクス2005・4』pp.44−45。

16)『Monthly ミクス2003・6』pp.6−7。MR

教育については、同書

pp.94−95

の表を参照されたい。

17)『日経産業新聞』2005年5月 10日。

18)『讀賣新聞』2003年5月 17日。

19)『薬事日報』2002年 11月 11日。

20)『朝日新聞』2004年4月 24日。

21)『日本薬業新聞』

 2003年7月

18日。

22)『薬事ハンドブック2003』pp.78−79。

23)『薬事ハンドブック2005』p.9。

24)http://www.nichiiko.co.jp/mps/mps1/mps1_m.html 2005年5月9日閲覧。

25)http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakuji/antai/kaiseiyakuji/gyotaihenka.html 2005年 5

月13 閲覧。

26)『薬事ハンドブック2005』p.125。

27)『日経産業新聞』2005年4月 20日。

(11)

28)上村直樹「薬局におけるジェネリック医薬品の現状」(『医薬品情報学 Vol.5 No.2』)日本医薬品情報学会、

2003

年、p.19。

29)『日経産業新聞』2005

年5月12日。

30)『日経産業新聞』2005

年4月26日。

31)『日経産業新聞』2005

年3月7日。同紙によると、

2003

年度〜龍角散 宇津救命丸などの家庭薬メーカーと組み共同物流開始

2003

年11月 森下仁丹 ロート製薬と資本・業務提携

2005

年3月 イチジク製薬 オカモトが

67%出資して子会社に

といった事例が紹介されている。

参考文献

医薬品マーケティング戦略

2004(下巻)、株式会社富士経済、2004

年。

井上良一『日本医薬品企業の構造改革』薬事日報社、2002年。

Marketing Planning for the Pharmaceutical Industry, John Lidstone,in association with Janice MacLennan, Gower, 1999.

Brand Medicine: The Role of Branding in the Pharmaceutical Industry, Tom Blackett, Rebecca Robins.ed., Palgrave, 2001.

本稿を作成するにあたり、

旭化成ファーマ株式会社医薬営業統括部 宍倉猛氏 協和発酵工業株式会社人事部 杉田哲也氏 田辺製薬株式会社総務人事部 林潤一氏 塩野義製薬株式会社総務人事部 林勝也氏

トーアエイヨー株式会社仙台支店業務課 成田広一氏 住友製薬株式会社総務人事室 徳久安男氏

万有製薬株式会社人材開発室 松本康之氏 ブリストル・マイヤーズ株式会社人事部 小澤渡氏 第一製薬株式会社人事部 鈴木洋司氏

富士製薬工業株式会社管理部 深谷健司氏

の各担当者から聞き取りを行った。深い謝辞を申し上げたい。

参照

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