◎論説
中 国 映 画 に お け る ﹁ 民 族 化 ﹂ の 一 面
新 中 国 成 立 後 の 少 数 民 族 映 画 の 推 移
藤 森 猛
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はじめに
一九九六・九七年の第二〇・二一回中国映画祭において
上映された映画﹁黒駿島﹄(邦題﹁草原の愛﹂)および﹁太
阻鳥﹄(邦題﹁火の鳥﹂)は共に少数民族をテーマとした映
画であり︑少数民族映画の新しい息吹を感じさせる中国映
画として注目を浴びた︒
本稿においては︑中国映画の﹁民族化﹂の中において︑
少数民族映画制作がどのように変化しているのかを︑主と
して映画史の立場を通して考察するものとする︒まず中国 における少数民族映画の捉え方について概説し︑次に新中
国成立以後の少数民族映画制作の具体的な状況を紹介する︒
さらに少数民族映画の制作および翻訳を支える映画制作所
の現状を検討し︑中国映画事業における少数民族映画制作
の方向性を模索する資料とするのを目的とする︒
中国における民族映画
H 中 国 ﹁ 民 族 映 画 ﹂ の 捉 え 方
佐 藤 忠 男 氏 は ﹁映 画 は 基 本 的 に は 自 国 の 文 化 を や や 美 化
..一 中 国 映 画 にお け る 「民 族 化 」の 一 面
バ して表現するものである﹂と述べている︒また映画には︑
ハリウッド映画のように世界中の人々を映画観衆の対象と
して制作がなされる場合と︑アジア映画のように主として
自国の人々を映画観衆の対象として制作がなされる場合が
あり︑四方田犬彦氏は後者の範疇を﹁ローカル映画﹂と呼
んでいる︒さて中国における映画は基本的には自国の人々
を映画観衆の対象として制作が行われ︑"電影民族化"(映
画の民族化)が促進されてきた︒中国における映画の﹁民
族化﹂とは︑民族の文化・芸術等における伝統を継承・発
揚し︑民族の生活や民族の精神を描写することにあるとい
ヨ われる︒
このように︑中国においては民族固有の文化が描かれた
映画こそが"民族電影"(民族映画)︑"民族題材電影"(民
族を題材とした映画)と呼ばれるが︑一般には︑これらの
﹁民族映画﹂が指すものは広義の民族映画と狭義の民族映画
ゆに分類される︒広義における民族映画とは︑民族全体(中
華民族)をその対象領域とする映画のことであり︑中国映
画は程度の差こそあれ︑中華民族のことが描写され︑その
意味において︑全ての中国国産映画は民族映画であると言
えよう︒また狭義における民族映画とは︑中国における漢
民族以外の少数民族を対象領域とする映画であり︑特定の
少数民族を題材とした映画は︑上記の"民族電影"︑"民族
題材電影"等と呼ばれる以外にも︑"少数民族電影"(少数 民族映画)︑"少数民族題材電影"(少数民族をテーマとした
映画)等の名称で呼ばれ︑中国映画ジャンルにおける主要
バ な一分野を形成している︒
なお本稿においては便宜的に広義の"民族電影"を﹁民
族映画﹂と呼び︑狭義の"民族電影"を﹁少数民族映画﹂
と呼んで区別し︑主として後者を分析の対象とする︒
⇔ 中 国 映 画 に お け る ﹁ 主 旋 律 ﹂ と ﹁民 族 化 ﹂
中国映画は一九〇五年に産声をあげたが︑新中国成立以
後の映画制作の礎が築かれたのは︑一九三三年に中国共産
党の"電影小組"が成立して左翼映画運動が開始されてか
ア らである︒その後︑抗日戦争中の一九四二年︑毛沢東によっ
て発表された﹁在延安文芝座淡会上的洪活﹄により︑文芸
における"二為"(二つの﹁ために﹂)の方向が定まり︑ま
た一九五六年には文芸における"双百"(二つの﹁百﹂)の
方針が定まり︑文芸における二大基本テーゼが中国映画の
制作・配給・放映体制の枠組みを構築してきたといえる︒
特に"二為"の方向すなわち﹁人民のために奉仕する︑社
会主義のために奉仕する﹂という基本方向は︑中国映画制
い 作において︑作品の"思想性"・"芸術性"・"観賞性"に一
定の制約を課すものとなっている︒これは新中国成立以後︑
映画というメディアが大衆の主要な娯楽手段であるととも
に︑政府の主要な教育手段や宣伝であったことに由来する︒
こうした中で︑映画制作においては︑いわゆる映画の"主
旋律"が常に主張され︑愛国主義や社会主義の旗印の下に
おける現代化建設や社会生活の改革︑革命の歴史などをテー
マにする映画ジャンルが生まれ︑﹁戦争もの映画﹂・﹁革命歴
史もの映画﹂・﹁少数民族映画﹂などはその代表的なものと
ム なった︒
中国映画の﹁民族化﹂とは社会主義体制下における中華
民族発展の過程や中華民族精神の発揚を描いた映画(広義
の﹁民族映画﹂)を制作することにあったといえよう︒
二中国少数民族映画の制作
H少数民族映画の範囲
一九五三年︑中国において﹁民族識別工作﹂が開始され
た当時︑登録された少数民族は四百余りであったが︑一九
ムぬ 七九年に現在の五十五の少数民族が正式に確定した︒中国
における﹁少数民族映画﹂とは︑五十六の法定民族から漢
族を除いた五十五の少数民族をテーマにした映画を指す︒
ムめ また例えば︑映画﹃成吉思汗﹄(チンギス・ハン)のよう
に︑モンゴル族を描写した映画であっても︑モンゴル族が
統治した時代を描いた映画であれば︑この種の映画は﹁少
数民族映画﹂の範疇に入れず︑﹁歴史映画﹂としてカウント レ される場合がある︒同様に映画﹃鴉片哉争﹄(アヘン戦争)
のように︑満州族が統治した時代を描いた映画であっても︑
この種の映画は﹁少数民族映画﹂には含まれず︑﹁歴史映
画﹂に分類される︒清末の満州族を描いた多くの映画は︑
一般に﹁カンフー映画﹂や﹁歴史映画﹂・﹁革命歴史もの映
ハお 画﹂等に分類され︑﹁少数民族映画﹂とみなされることは少
ない︒
⇔少数民族映画制作のはじまり
表1は新中国成立以後の主な少数民族映画の一覧である︒
表中の映画﹃内蒙古人民的腔利﹄(一九五〇年)は︑少数民
族をテーマにした最初の少数民族映画とされる︒この映画
はモンゴル族の人々が共産党の指導の下に︑国民党の陰謀
を打ち破り︑民主政権を打ち立てるというストーリーであ
る︒しかし︑登場人物のあるモンゴル族の描き方が極端に
反動的であるとの国の指摘を受け︑当時の周恩来首相によっ
て︑﹁美干少数民族題材屯影創作的重要耕活﹂が発表され︑
ヘレ 映画はタイトル名の変更も含めて修正を加えられた︒こう
して︑少数民族映画制作の開始は︑当時の少数民族政策の
影響を直接的に受けることから始まったことにみられるよ
うに︑以後五〇〜六〇年代の少数民族映画に関しては︑ス
トーリー的に類型化された作品が制作されることとなった︒
中 国 映 画 に お け る 「民 族 化 」の 一 面
IOI
表1新 中 国 成 立 以 後 の 主 な 中 国 少 数 民 族 映 画(1950〜60年 代)
映 画 タイ トル 制作年 映画制作所 登場主要少数民族 監督
内蒙人民的腔利 草原上的人伯 草原展曲 郭ホ多斯夙暴 袷森与加米拉 天山的紅花 回民支臥 録洲凱歌 泳上的来客 金銀溝 猛河的黎明 金沙江畔 衣奴 神秘的旅伴 迭吉和地的父来 迫暴蜂火 芦笙恋歌 五朶金花 阿侍珊 山向於哨耳帯来 刻三姐 劫境沙 摩雅俸
1950 1953 1959 1962 1955 1964 1959 1959 1963 1953 1955 1963 1963 1955 1961 1957 1957 1959 1964 1954 1960 1960 1960
東 北 モ ン ゴル族
東北 モ ン ゴル族
長春 、内 蒙古 モ ン ゴル族 八 一
上海 西安 、 北 京 八 一 海燕 、 新彊 長春 上 海 長 春 天馬 八 一 長春 峨眉、長春 長春 長春 長春 海燕 上 海 長 春 八 一 海 燕
モ ン ゴル族 カザ フ族 カザ フ族 回族 ウ イ グル族 ウ イ グル族 チ ベ ッ ト族 チ ベ ッ ト族 チ ベ ッ ト族 チ ベ ッ ト族
イ族 イ族 チ ンポ ー族 ラ フ族 ペ ー 族 ペ ー 族 ミヤオ族 チ ワ ン族 タ イ族 タ イ族
幹学偉 徐輻 朱文順 赫光 呉 永 剛
崔 寛 、 陳懐 鎧 、劉 保 徳 薦 一夫 、李 俊 趙 明 、 陳尚 趙 心水 凌子風 魯靱、朱丹西 傅超武 李俊 林農、朱文順 王家乙 林農 干彦夫 王家乙 劉理 王為 一 蘇里 王預 、 衰 先 徐稻
出所:張 駿 祥 ・程季 華 主 編 「中 国電 影 大辞 典 」 上 海辞 書 出版 社 、1995年 、程 樹 安 主編r中 国 電 影 演員 辞 典」 中国 広 播 電 視 出 版社 、1993年 等 を参 照 して作 成 。
注:(1)表 中 の映 画 は台 湾 お よび香 港 に お けて 制作 され た映 画 を含 まな い。
(2)表 中 「登 場 主 要 少 数 民 族」 は映画 中に登 場 す る主 な 少 数民 族 名 を一 つ だ け に限 定 して 表記 した もの。
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国 一 九 五 〇 〜 六 〇 年 代 の 少 数 民 族 映 画
に 中国の少数民族映画といえば︑表1にみられる映画﹃五朶金花﹄のような少
数民族の灰々とした恋愛物語というイメージで語られる場合が多いが︑五〇〜
六〇年代の少数民族映画において︑このような内容の映画は例外中の例外であ
り︑ほとんどの少数民族映画が政治的色彩を帯びた映画であった︒五〇〜六〇
ヘド 年代の少数民族映画の内容は以下のように五分類されよう︒
①[解放もの]少数民族が少数民族地区を解放するストーリー︒表中の映画﹃内
蒙古人民的牲利﹄︑﹃芦笙恋歌﹄等がこれに該当し︑制作数が比較的多い︒中
ハれり国においては映画﹃衣奴﹄がその傑作といわれる︒
②[抗日もの]少数民族が抗日戦争を戦うストーリー︒映画﹁回民支臥﹄など
がこれに該当し︑後に制作された﹃夙奴東到将軍﹄(七九年)等の映画もこれ
ハ に該当するが︑制作数は多くない︒
③[相互理解もの]少数民族と漢民族が︑民族間や血縁関係の壁を乗り越えて︑
ムお 抗日戦争や解放の時期をともに戦い︑ともに生きていくストーリー︒映画﹃草
原農曲﹄等がこれに該当し︑映画﹃迭吉和勉的父来﹄がその傑作とされる︒
④[建設もの]少数民族が農業などの社会主義建設を進めていくストーリー︒映
画﹁草原上的人伯﹄︑﹁緑洲凱歌﹄などがこれに該当し︑制作数が最も多い︒
お 中でも映画﹃天山的紅花﹄がその傑作とされる︒
⑤[愛情もの]少数民族の伝統的な宗教︑神話︑伝説などをテーマとした恋愛
もの︒この種の映画は最も制作数が少なく︑六〇年代までにおいては歌劇の
映画﹃対>>≫,・r阿詩璃﹄および﹃五朶金花﹄の三作のみである︒
上記のうち︑少数民族の伝統的生活習慣などを描いた⑤の映画は︑ある意味
映画「五朶金花 」 (r中国電影大辞典」
上 海辞書出版社、1995年よ り) 中 国 映 画 に お け る 「民 族 化 」の 一 面
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