修 士・学 位 論 文
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指導教授 天野師
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目次
第一章 はじめに、.......
第二章 雇止めの法規制.............................
第一節 はじめに...................................
第一項 はじめに.....
第二項 解雇権濫用規制.............、......
第二節 雇止めの法規制の概要とその限界.......
第三節 雇止めの法規制の振り分けの判断基準.....
第一項 問題の所在.............................
第二項 実質無期型の振り分け............
第三項 期待権保護型の振り分け.、......、........
第四項 当然終了型の振り分け..
第五項 三者の比較.....、.................
第四節 解雇権濫用規制の類推適用の場面.........
第一項 問題の所在...........................
第二項 期待権保護型における整理解雇.........
第三項 実質無期型の整理解雇...................
第四項 実質無期型、期待権保護型の普通解雇...
第五項 小指.....................................
第五節 小指......
第三章 高年齢者雇用安定法..........................
第一節 高年齢者雇用安定法........................
第二節 再雇用拒否の事案..........................
第一項 問題の所在..............................
第二項 津田電気計器事件最高裁判決............
第三節 高年法下の雇止め...........................
第一項 エブプロダクト事件の概要...........
第二項 高年法型.........................,..
第三項 本判決に対する評価......................
第四節 小括....................................,....
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第四章 新法下における、高年齢者雇用安定法下の雇止め.....46
第一節 はじめに........................、............ 46
第二節 改正労働契約法........ 46 第一項 改正労働契約法成立までの経緯................. 46
第二項 改正労働契約法の構造..............,............ 49
第三項 改正労働契約法の問題点と分析.. 51
第三節 高年齢者雇用安定法.................................54
第四節 高年齢者雇用安定法下の雇止めについて.... 58 第一項 労働契約法19条1号と2号の該当性... 58 第二項 19条の客観的合理的理由と社会通念上の相当性...61
第五節 小指............................. 65
おわりに........... 68
《参考文献》... 72
第一章 はじめに
従来、定年までの長期雇用を予定とした我が国の雇用システムの 下では、解雇は厳しく制限されてきた1。その結果として、会社と 無期の労働契約を締結することとなる正社員は、安定した雇用を保 障されてきた。
その一方で、企業は、解雇が厳しく制限される正社員とは別に非 正規社員を雇い、景気の変動に応じて雇用調整の対象としてきた。
また、バブル崩壊後は、人件費削減のため、雇用調整が容易な非正 規社員をより多く雇用するようになった。
非正規社員が企業と締結するこの有期労働契約は、いかなる理由 であっても契約を締結することができ、期問の満了とともに契約は 当然に終了するものである。しかし、企業はその契約を反復更新す ることによって有期雇用労働者を長期間雇用することが可能となる。
だが、反復更新を繰り返した有期労働契約の更新拒絶、すなわち雇 止めに対し、なんら制限を加えないとすると、我が国が正社員に対 して解雇権濫用規制で手厚く保護していることと比較すると、解雇 規制の潜脱になりかねず、有期雇用労働者の地位のみならず、正社 員の地位も不安定にするものである2。そこで、裁判所は、この有 期労働契約の更新拒絶について、雇止めの法理により、制限を加え てきた。近年では、全労働人口における非正規社員の割合が増加す
1定年制を年齢による不合理な差別とする国もあるが、我が国の雇 用慣行である終身雇用・年功賃金制度下においては、労使双方に合 理性を有するものとして認められている。アール・エフ・ラジオ事 件・東京地判平成12年7月13日・労判790号15頁。
2労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関 する法律26条2項は、労働者派遣契約に対し、派遣期間の上限を設 けている。同法(ならびに我が国の労働関連法規)は、派遣労働者
(非正規雇用)の保護は必要としつつも、派遣労働者(非正規雇用)
の拡大によって、正規雇用の保護が相対的に低下することについて は、消極的な姿勢をとっている(いわゆる「常用代替の防止」)
(菅野和夫『労働法〈第9版〉』 (弘文堂・2010年)217頁)。
1
るとともに3、専門的な・基幹的な業務に従事する非正規社員が増 えるなど、保護の重要性が更に高まってきたことから、雇止めの判 例法理が、2012年8月に立法化されるに至っている。
次に、我が国は少子高齢化社会に突入し、厚生年金の支給開始年 齢が65歳に引き上げられた。そのため、定年後の雇用と支給開始年 齢の接続が重要な課題となる。2004年に改正された高年齢者雇用安 定法は、この課題に対し、定年制の引き上げ、継続雇用制度の導入、
定年制の撤廃のいずれかの措置を講じる義務を事業主に課した。こ の改正を受けて、現在、高年齢者雇用確保措置を導入した企業のう ち、継続雇用制度を導入している企業が8割を超えており、もっと も一般的な雇用確保措置と言える。この継続雇用制度下では、定年 を迎えた労働者が、企業と有期の労働契約を新たに締結することと なる。この有期の労働契約の締結及び更新の場面で、上記で述べた ような雇止めの問題も生じる。そこで本稿は、今後増加するであろ う、継続雇用制度下の高年齢者の雇止めについて焦点を当てて検討
する。
まず、第二章では有期雇用労働者の雇止めについて裁判例を分析 する。従来の雇止めの裁判例を再度分析することは、2012年に改正 された労働契約法を検討する上でも非常に有意義なことである。第 三章では、改正前の高年齢者雇用安定法下で争われた再雇用拒否の 事案と雇止めの事案を分析し、改正後の高年齢者雇用安定法下の雇 止めへの示唆を得る。最後に第四章では、改正労働契約法及び改正 高年齢者雇用安定法の問題点を見いだし、従来の裁判例との位置づ けを探りながら、新法をどのように理解するのか、そしてどのよう に雇止めを分類するかについて、今後の展望と私見を述べたい。
3 http:〃www.mh1wgojp/seisakunitsuite/bunya/koyou」oud−ou/part_haken/d−ate/ind−ex.
htm1
厚生労働省r非正規雇用(有期・パート・派遣労働)関連データ」。
2
第二章 雇止めの法規制
第一節 はじめに
第一項 はじめに
従来、我が国では有期労働契約について、2003年に改正された 労働基準法14条において、 「契約期間の上限は3年とする」規制と、
2008年制定された、労働契約法17条が「期間が満了するまでの間」
の解雇について(同条1項)、および短期問の労働契約の反復更新 について(同条2項)定めている以外には、なんら制限がなされて いなかった。それゆえ、有期雇用労働者の中には、長期間反復更新 されて雇用され続けている者も少なくない。そのような場合であっ ても、使用者側は期間の満了を理由に契約更新の拒絶(雇止め)を することができる4。しかし、このような雇止めを無制限に認める
と、有期雇用労働者の保護に欠けることになることから、判例法理 は、雇止めに対して労働契約法16条(解雇権濫用規制)の類推適用 という形で、雇止めに制限を加えている。すなわち、契約更新の拒 絶(雇止め)に際し、客観的合理的理由・社会通念上の相当性を求 めるのである。そして、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が ない場合は、もう一度その契約が締結されたとして5、従前の契約 が更新されることになる6。
4もっとも、民法628条もしくは労働契約法17条1項のいう「やむ を得ない事由」がある場合は、中途解約が可能である。ただし、こ の「やむを得ない事由」は、解雇権濫用規制の客観的合理的理由と 社会通念上の相当性よりも厳しく判断される(菅野・前掲注2・
194頁)。
5判例による一種の更新制度である(菅野・前掲注2・192頁)。
6この点、学説上、期間満了後の労働契約の締結を法的に強制でき るのかという理論的問題が存在する。この問題点に対して、学説上、
「特段の事情がない限り契約を更新する」旨の明示または黙示の合
意があったものと解する見解(安枝英言申「短期労働契約の更新と雇
止め法理」季刊労働法157号(1990年)93頁)や、前掲注5のよう
に、一種の法定更新制度であるとする見解が見られる。しかしこれ
らの見解に対しても、批判が出ており、理論的には、労働契約関係
3
この雇止めの法規制については、裁判例・学説の蓄積があるもの の、次の2点の問題点が指摘できよう。まず1点目として、解雇権 濫用規制の類推適用の対象となるのはいかなる場合かという問題で ある。そして、2点目として、仮に解雇権濫用規制の類推適用が行 われる場合の判断基準、ならびにその程度をどのように考えるべき かという問題がある。これらの点については、裁判例・学説におい ても、十分に議論がなされているとはいい難い。
そこで本章では、まず第二節において雇止めの法規制を確立した 2件の最高裁判決を紹介し、雇止めの概要、及びその問題点を整理 する。そして第三節において、解雇権濫用規制の類推適用の対象と なるのはいかなる場合かについて分析する。その後、第四節で、解 雇権濫用規制の類推適用が行われる場合の判断基準、ならびにその 程度をどのように考えるべきかについて分析する。
第二項 解雇権濫用規制
雇止めの法規制を考えるにあたっては、解雇権濫用規制について 整理しておく必要がある。以下、解雇権濫用規制の概要について説
明する。
解雇とは、 「使用者が労働契約を将来に向けて一方的に解約する こと」を言う7。民法627条1項は、期間の定めのない労働契約に 対して「解約自由の原則」を定めており、労働者には退職の自由が
ある一方で、使用者側にも解雇の自由を認めている。しかし、我が 国においては終身雇用制度のもと、転職や再雇用が困難であること から、解雇は労働者に大きな経済的不利益をもたらす。そこで、我 が国の裁判所は、解雇権を制限する法理として、解雇権濫用法理を 確立してきた8。現在では、労基法18条の2を経て、労働契約法16 土の信義則に基づく契約の補充的・修正的解釈と考えるべきである
という見解(水町勇一郎rパートタイム労働の法律政策』 (有斐 閣・1997年)11頁)もある。
7土田道夫r労働契約法』 (有斐閣・2008年)572頁。
8 日本食塩製造事件(最判昭和50年4月25日・民集29巻4号456
4
条として明文化されている。すなわちr解雇は客観的に合理的な理 由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権 利を濫用したものとして無効とする」のである9。
解雇権濫用規制のもと、解雇の有効性判断については、2段階の 審査が行われる。すなわち、 「客観的合理的理由」の審査と、 「社 会通念上の相当性」の審査である。まず、客観的合理的理由の審査 として、就業規則上の解雇事由該当性の判断が行われる。次に、社 会通念上の相当性は、労働者に解雇という処分を下すことの相当性 が吟味されるのであり、労働者の情状や他の労働者の処分歴との均 衡などの要素から判断される。これら2段階の審査を経て、解雇の 有効性が判断されるが、一般的に見て、使用者の解雇権に対する裁 判所の態度はかなり厳格であり、解雇の客観的合理的理由と社会通 念上の相当性を容易に認めないことが我が国の解雇権濫用規制の特
徴である。
この解雇には、解雇事由が労働者にある場合と、使用者側にある 場合に分かれ、前者を普通解雇、後者を整理解雇と言う。普通解雇
とは、労働者側に解雇事由がある場合の解雇であり、例えば病気、
能力不足、職務解怠、業務命令違反などがあげられる。これら「客 観的合理的理由」がある場合に、社会通念上の相当性が判断される。
具体的には、労働者の情状、使用者側の対応、他の労働者との処分 歴とのバランス、手続面などから判断されることとなる。
一方、使用者側の経営不振を理由に行われる解雇が整理解雇であ り、労働者に帰責事由がない以上、更に厳しく判断される。この整 理解雇を判断する際には、4要素を総合考慮してその有効性を判断 するという判例法理が確立している10。すなわち、①人員削減の必 頁)、高知放送事件(最二小判昭和52年1月31日・労判268号17
頁)。
9なお、判例法理として発展してきた「解雇権濫用法理」は、2003 年に立法化されて以降、 「解雇権濫用規制」となった。本稿では、
判旨を抜粋している部分以外は、 「解雇権濫用規制」と文言を統一
する。
10整理解雇の4要件を確立した判例として、東洋酸素事件・東京高
5
要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の相当性、④協 議説明義務という4要素を総合考慮して、整理解雇の有効性が判断
されるのであるH。この4要素から、労働契約法16条の客観的合理 的理由と社会通念上の相当性を判断するが、この4要素のうち、① の人員削減の必要性が労働契約法16条の「客観的合理的理由」に該 当し、②解雇回避努力義務、③被解雇者選定の相当性、④協議説明 義務が、 「社会通念上の相当性」に該当する12。
まず、①人員削減の必要性が求められる。すなわち、解雇を必要 とするまでの高度な経営上の必要性が求められる。もっとも、従来、
裁判所は、倒産必至というレベルまで人員削減の必要性を求めてき た。しかし、現在では、人員削減の必要性については、司法審査に なじみにくいという観点から、企業の経営判断を基本的に尊重し、
経営実態に立ち入って細かく審査することを控えている13。②の解 雇回避努力義務とは、4要素の中で中心に位置し、厳格に判断され
る。使用者は、新卒採用の停止、役員報酬のカット、残業削減、希 望退職者の募集、出向・配転などの真撃な対応が求められることに なる。③の被解雇者選定の相当性については、客観的基準により選 定がなされているかという観点から、判断される。ただし、人員削 減の必要性同様、裁判所が、被解雇者選定の基準の客観性を判断す 判昭和54年10月29日・労判330号71頁。
11近年、この整理解雇の4「要件」を4「要素」と解する裁判例が 増加している。例えば、ナショナル・ウエストミンスター銀行(第 3次仮処分)事件(東京地法平成12年1月21日・労判628号12頁)
においては、 「いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範晴に属 すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判 断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在
しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、
解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮 して行うほかないものである」と判断している。
12ただ、客観的合理的理由と社会通念上の相当性を明確に分けて判 断していない裁判例も未だに散見される。
13 池貝鉄工事件(横浜地判昭和62年10月15日・労判506号44頁)
においては、 「経営者の判断はそれが全く不合理、不当なものでな い限り尊重されるべきである」と解している。学説においても、同 様の説に立つ立場が有力である(土田・前掲注7・605頁)。
6
るのは困難が伴うことから、労使の自主的判断や、企業再建のため の要請、労働者の納得性という観点が重要視される。最後に、④協 議説明義務であるが、整理解雇は労働者に帰責事由がない解雇なの で、労働者や労働組合が納得いくよう、誠実な協議、説明が求めら
れる14。
第二節 雇止めの法規制の概要とその限界
雇止めの法規制15は、有期労働契約の更新拒絶について解雇権濫 用規制の類推適用という形で、一定の制限を加えている。現在、解 雇権濫用規制の類推適用がなされる雇止めはr実質無期型」 r期待 権保護型」の2類型に大別することが出来る16。この制限について 認めたものが、以下の2件の最高裁判決である。そこではじめに、
この2件の最高裁判決を紹介する。
まず、実質無期型を確立した最高裁判決として、東芝柳町工場事 件を紹介する17。本件は、Y杜の下で雇用期間を2か月の基幹臨時 工として雇い入れられたXらが、有期労働契約が5回ないし23回に わたって更新された後、雇止めがなされたことから、労働契約上の 地位の確認を求めた事案である。Yにおける臨時工は、採用基準、
給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる 取扱いをされ、本工労働組合に加入し得ず、労働協約の適用もない が、その従事する仕事の種類、内容の点において本工と差異はなか った。またY社内で過去に、基幹臨時工が2か月の期間満了によっ て雇止めされた事例はなく、自ら希望して退職するもののほか、そ 14労働契約法4条1項はr使用者は、労働者に提示する労働条件及
び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするもの とする」としている。
工5
ル止めについての文献をまとめたものとして、篠原信貴r有期労 働契約の雇止め」季労238号(2012年) 117頁。
16
D土田・前掲注7・670頁。
ユ7
月ナ柳町工場事件・最一小判昭和49年7月22日・民集28巻5号
927頁。
7
のほとんどが長期間にわたって継続雇用されていた。最高裁は「本 件各労働契約は、当事者双方ともいずれかから格別の意思表示がな ければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと 解するのが相当であり、したがって、期間の満了毎に当然更新を重 ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存 在していたものといわなければならず…(雇止めは)実質において 解雇の意思表示にあたる」とし、解雇権濫用規制の類推適用を認め た。その上で、本件雇止めには客観的合理的理由と社会通念上の相 当性がないとして、労働契約上の地位確認を認容した。この東芝柳 町工場事件によって、期問の定めが形骸化していて、 r当事者双方 ともいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき」
有期労働契約であれば、解雇権濫用規制の類推適用を認めるという
「雇止めの法規制」が誕生し、下級裁判例に浸透した。
その後、東芝柳町工場事件最高裁判決とは異なる手法で、解雇権 濫用規制を類推適用する裁判例が現れた。それが、期待権保護型を 確立した日立メディコ事件最高裁判決18である。本件は、Y社で期 間2ヵ月の労働契約を5回更新されてきたXが、不況に伴う業務上 の都合を理由に、契約の更新を拒絶(雇止め)され、これに対して Xが労働契約上の地位を求めた事案である。Y社において、臨時員 に対して、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従 事させる方針をとっており、Xも比較的簡易な作業に従事していた。
Y杜臨時員は、雇用の調整を図る目的で設けられたものであり、臨 時員の採用に当たっては簡易な方法で採用を決定していた。最高裁 は、本件雇止めは実質的に期間の定めのない労働契約ということは できないが、 「臨時員は…臨時的作業のために雇用されるものでは なく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり
…5回にわたり契約が更新されているものであるから、このような 労働者を期問満了によって雇い止めするに当たっては、解雇に関す
18
坥ァメデイコ事件・最一小判昭和61年12月4日・労判486号6頁。
8
る法理が類推され」るべきであると判断した。この日立メデイコ事 件最高裁判決によって、 「期待権保護型」という、東芝柳町工場事 件とは異なる類型が確立された。
現在では、下級裁判例もこれら2件の最高裁判決を踏襲し、雇止 めの法規制は、判例法理として確立している。東芝柳町工場事件の ように、 「当事者双方ともいずれかから格別の意思表示がなければ 当然更新されるべき労働契約を締結する意思であった」タイプは
「実質無期型」と呼ばれ、日立メディコ事件最高裁判決のように、
r雇用関係はある程度の継続が期待されていた」タイプは、 r期待 権保護型」と一般的に呼ばれている。また、事例によるが、無期同 一型、期待権保護型いずれにも該当せず、解雇権濫用規制の保護を 得ることが出来ないものについては、学説上、当然終了型と分類さ れている。しかしながら、この雇止めの法規制については、いくつ かの限界点及び問題点が指摘されている。
まず1点目に、解雇権濫用規制の類推適用の対象となるのはいか なる場合かが不明確である。すなわち、どのような場合に解雇権濫 用規制による保護が受けられるのか、また、解雇権濫用規制による 保護を受けられる中でも、実質無期型と期待権保護型がどのように 分類されるのかについては、十分に学説で検討がなされていない。
現在、判例及び学説においては、①職務内容・勤務実態の正社員と の同一性、近似性、②雇用管理区分の状況、③契約締結、更新の状 況、④更新手続の態様、厳格さ、⑤雇用継続を期待させる使用者側 の言動の認識、有無、⑥他の労働者の更新状況という要素を総合考 慮して、実質無期型、期待権保護型、もしくは当然終了型に分類し ている19。裁判所はこの判断基準を用い、事例ごとに柔軟に判断し てきた。しかし、この柔軟さゆえ、どの判断基準が重視されるのか、
どの判断基準を中心に考えるべきかが不明確であり、使用者側の子
19前掲注7・土田・669頁。また、厚生労働省「有期労働契約の反 復更新に関する研究調査会報告書」など参照。
9
見可能性を低くしてしまっている20。結果として、どのような場合 に実質無期型・期待権保護型に該当し、雇止めの保護が得られるの か、あるいはどのような場合に、当然終了型として雇止めが認めら れるのかが不明確となっている。また加えて、労働契約法の改正で、
雇止めの法理が明文化されたことから、この3者間の振り分け基準 のさらなる明確化・精緻化が重要になるのである。
2点目に、仮に解雇権濫用規制の類推適用が行われる場合の判断 基準、ならびにその程度 をどのように考えるべきかという問題点が ある。我が国においては、前述の通り、正社員は解雇権濫用規制に おいて手厚く保護されている。有期雇用労働者も雇止めにおいて、
解雇権濫用規制の類推適用という形で、有期雇用労働者を保護して いるが、どのように類推適用されるかについては必ずしも明らかで ない部分がある。
この点について、前掲日立メディコ事件最高裁判決は以下のよう に判断している。すなわち、臨時員は「比較的簡易な採用手続で締 結された…以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身 雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆ る本工(正社員)を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があ るべきである。したがって…希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇 止めが行われてもやむを得ないというべきである」の部分である。
本来、正社員に対する整理解雇においては厳しい解雇回避努力義務 として、希望退職者の募集などが求められるが、有期雇用労働者に 対する雇止めにおいては、希望退職者の募集をしなくてよいと判断
された。したがって、裁判所は有期雇用労働者に対しての解雇権濫 用規制の類推適用について、正社員の適用に比して緩やかに適用し ていることがわかる。
しかし、この日立メディコ事件最高裁判決の射程範囲は未だに明 確でない部分がある。すなわち、①本件は期待権保護型の事案であ 20奥田香子・山西克彦・中村和雄「有期労働契約の更新拒絶(雇止
め)」 ジュリスト1309号(2006年)55頁。
1O
るが、この判断基準は実質無期型にも該当するのか、②本件は整理 解雇型の事例であるが、普通解雇型の雇止めについても、本判決の 射程範囲に入るのだろうかという2点である。
したがって、それぞれの問題点について以下で検討する。具体的 には、第三節では、1点目の問題点について、下級裁判例を分析し、
第二項において実質無期型について明確化をはかる。続けて、第三 項において期待権保護型の判断基準の差異はいかなるものか、第四 項において当然終了型の差異はいかなるものかにっいて、分析し、
第五項において三者を比較し私見を述べる。次に、第四節では、2 点目の問題点について、下級裁判例を分析し、第二項で、日立メデ ィコ事件同様、期待権保護型の、整理解雇の事案は、同判決を踏襲 しているかを明確にする。第三項において、実質無期型の整理解雇 の事案についても、日立メディコ事件最高裁判決を踏襲しているの か分析し、第四項で、普通解雇型の雇止めの事案についても、本判 決の射程範囲に入るのだろうかという点を分析する。
第三節 雇止めの法規制の振り分けの判断基準
第一項 問題の所在
前述した1点目の問題点から下級裁判例を分析する。すなわち、
どのような判断基準で、実質無期型、期待権保護型に分類している のだろうか。これを分析するにあたっては、実質無期型のリーディ ングケースである東芝柳町工場事件最高裁判決と期待権保護型のリ ーディングケースである日立メディコ事件最高裁判決の文言に沿い ながら、どのような判断を行っているのかという観点から検討する。
東芝柳町工場事件最高裁判決は「当事者双方ともいずれかから格別
の意思表示がなければ当然更新されるべき」労働契約に対して、解
雇権濫用規制の類推適用を認めている。一方、日立メデイコ事件最
高裁判決は、 「期待利益」に対して解雇権濫用規制を類推適用する
ため、その射程範囲は異なってくる。この射程範囲の違いを、下級
11
裁判例から分析する。
第二項 実質無期型の振り分け
まず、実質無期型の注目すべき下級裁判例として、本田金属技術 事件21を紹介する。Xらは、Y社に嘱託従業員として採用され、平 成8年3月まで1年ごとに契約が更新された。結果として長い者で 通算21年6ヶ月、短い者でも16年4ヶ月Y杜で雇用された。昭和60 年頃までは、一枚の雇用契約書に年数のみを書いていき、何年も同 じ雇用契約書で労働契約が更新できるようになっており、更新手続 は緩かったと言える。業務内容は、正規従業員と同じ職務を行って おり、残業や土日出勤をすることもあった。平成10年にY社は雇止 めを行い、これに対しXらは労働契約上の地位を求めて争った。こ れに対して裁判所は「平成8年3月まで続いた1年間という雇用契 約期間の長さ、Xらが実際に継続して雇用された期間、契約書の体 裁、その他Yにおける雇用の実状に照らすならば、XらとYとの雇 用契約は、期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定め のない契約と実質的に異ならない状態で存続していたものといわな ければならず…解雇に関する法理が類推されるべきものである」と 判断した上で、Xらの労働契約上の地位を容認した。
本件においては、判旨の通り、①雇用契約期間の長さ、②契約書 の体裁、③他の労働者の雇用の状況から、実質無期型と判断してい る。なぜ、これらの要素を重視して実質無期型と認定したのだろう か。本判決においてはまず、①期間の長さが重視されている。実質 無期型においては、実質的に無期の労働契約と異ならない状況が求 められるから、期間の長さは基本的要素となる。すなわち、期間が 長期化すればするほど、両当事者の意思として、期間の定めが形骸 化することになり、当然に契約を更新する意思が推定しやすくなる。
次に、本判決は、②本件契約書の体裁を理由に挙げている。本件に
21
{田金属技術事件・福島地会津若松支決平成10年7月2日・労判 748号110頁。
12
おいては、一枚の契約書で、何度も更新ができるような体裁になっ ていた。このように、更新の手続が緩やかな場合も、実質無期型に 認定される重要な要素となる。すなわち、更新手続が緩やかである
と、両当事者の契約を更新する意思が推定されやすくなるのである。
他方、更新手続が厳格な場合、当然に契約を更新するというような 両当事者の意思を推定することはできない。契約更新の手続が、社 内でどのようになっているかは、他の下級裁判例でも重視されてい る。また本判決では、これらの事情に加えて、③他の労働者の更新 状況などを考慮している。他の労働者が更新されている場合は、使 用者側の、当然に契約を更新する意思が推定されるのである。
実質無期型においては、東芝柳町工場事件において、 「両当事者 の当然に契約を更新する意思」がある場合には、実質無期型に認定 されるとされた。その両当事者の意思を推定するためには、 「期間 の形骸化」が重要になると思われる。すなわち、①期間の長さ、② 契約更新の長さ、③その他の労働者の更新状況から、 「期間の形骸 化」を判断しており、そこから「実質無期型」と認定しているので はないだろうか。この点、他の裁判例も、 「期間の形骸化」という 観点から、判断を行っている。
実質無期型の他の事案として、25年ほどY社で勤務していたXの 労働契約上の地位が争われた、岩倉自動車教習所事件22がある。本 事案は、労働時間は8時間とフルタイムで勤務しており、就業規則
も正社員と同様のものが適用されていた。この事例に対して、裁判 所は「Yからの給料で生計を立て、定年まで勤務するつもりであっ たこと、毎年の契約更新は、…契約書の作成は、四月ないしはそれ 以降にずれ込むことが多かったこと、パート指導員の中には一○年 以上勤務している者が少なくないこと、正社員の指導員とパート指 導員の教習業務の内容は同一で…あることなどに照らすと、本件労 働契約は、実質的に期間の定めのない契約と同視すべきものになっ
22
竭q自動車教習所事件・京都地判平成9年7月16日・労判731号
30頁。
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ていると解するのが相当であり」解雇権濫用規制を類推適用するこ とが相当であるとした23。
本判決においては、①長期間働いていて、Y社の賃金で生活して いたこと、②更新手続が曖昧な年があったこと、③正社員と同じ就 業規則が適用されているという点が重視され、実質無期型と認定さ れた。本事案においても、本田金属技術事件と同様に、長期間働い ていること及び更新手続の厳格性が重視されており、 「期間の形骸 化」という観点が重視されている。すなわち、①について、期間の 長さが長期化すればするほど、もともと両者が期間を設定した意義 が薄くなっていき、 「期間が形骸化」することになるのである。ま た、更新手続また、裁判所は、正社員と同様の就業規則が適用され ている点も理由にしている。使用者が、非正社員に対して、正社員 同様の就業規則を適用させることは、正社員同様の扱いをしている ことになり、実質無期型として認定しやすい要素となる。
また、少し特徴的な事案として、葉山国際カンツリー倶楽部事件 24を紹介する。本事案は、Y杜で働くXは、平成元年以降は期問の 定めなく雇用されていたが、平成6年から1年間の期間を定めて雇 用されることになった。そして1回更新した後、平成8年に雇止め がなされた事案である。使用者側は、有期労働契約になったからと 言って、有期雇用労働者の地位が不安定になるものではないとし、
更新を拒否するような理由がなければ、契約を更新するものとして いた。この事案に対して裁判所は、①もともと無期の労働者である
こと、②使用者側は有期雇用に契約を変更しても、更新を拒否する 理由がなければ契約を更新するつもりであったこと、③100名の有 期雇用労働者のうち、契約を更新されなかったのはXの他に2名し
23
゙似の事案として、国鉄大阪工事局事件・大阪地判平成1年11月 13日・労経連551号12頁。同控訴審判決・大阪高判平成3年1月11
日・労判600号53頁。更新手続が緩いこと、2ヶ月更新が11年続い ていること、正社員との職務との同一性から、実質無期型と認定し
ている。
24葉山国際カンツリー倶楽部事件・横浜地法平成9年6月27日・労 判721号30頁。
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かいないことを理由に、実質無期型であると判断した。
本事案は、通常の有期労働契約と異なり、元々期間の定めのない 労働契約を締結していた労働者であるという点で、特徴的である。
本来、有期労働契約はあくまで有期労働契約であるが、いかに期間 の意義が形骸化して、無期の労働契約に近づいたかという点が重視 される。しかし、本件のような場合は、元々無期の契約であったと いう点が重視され、実質無期型になりやすいということができるだ ろう。また、②で使用者側の意思として、特に理由がなければ更新 するつもりであったことを使用者側自身が認めており、それが大き な要素にもなっている25。
ここまで、実質無期型についての解雇権濫用規制類推適用の振り 分けの場面を分析してきた。東芝柳町工場事件の実質無期型におい ては、 「両当事者の当然に契約を更新する意思」が必要になるが、
下級裁判例の分析によって以下の特徴があることがわかる。すなわ ち、東芝柳町工場事件の言うように、実質無期型に認定する際は
「両当事者の当然に契約を更新する意思」が必要になる。換言する と、使用者側と労働者側、双方における契約更新の意思が必要にな る。そして、この両当事者の意思を推定するにあたっては、 「期間 の形骸化」という観点が重視されている。下級裁判例は、この「期 間の形骸化」を判断するために、具体的に以下のような基準を重視 して判断している。すなわち、①期間の長さ、②更新手続の状況、
③その他使用者側の態様(他の労働者の更新状況や、使用者の言動 など)が重視されているのである。具体的には、①の点については、
期間が長期化すれば長期化するほど、期間が形骸化することになり、
結果として、両当事者の契約を当然に更新する意思が推定されるの
25
ウ々無期の労働契約を結んでいた他の事例として、情報技術開発 事件・大阪地法平成8年1月29日・労経連1591号24頁。元々正社員 であったXが、育児休業取得後、生活とのバランスを考えて一旦退 職し、すぐに有期労働契約を結んだ事案である。本事案では、①も
ともと正社員であること、②業務内容が専門的であり、雇用の調整 弁としての意味合いは低いことから、実質無期型と認定された。
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である。②の点については、更新手続が緩いことは、使用者白身が 期間の定めを形骸化させていることになるのである26。③について は、その他の要素として、使用者側の意思を推定する手がかりとな
る27。
第三項 期待権保護型の振り分け
日立メディコ事件最高裁判決は、労働者の有する期待が、法的保護 に値する場合に、解雇権濫用規制を類推適用するとした。すなわち、
期待権保護型を認定するにあたっては、実質無期型のように「両当 事者の契約を更新する意思」は必要なく、労働者の期待利益が法的 保護に当たるか否かから判断される。したがって、実質無期型とは 重視される判断基準は異なってくるはずであるから、その観点も踏 まえて下級裁判例を分析する。また、期待権保護型に該当しない場 合、解雇権濫用規制が類推適用されず、いわゆる当然終了型となる。
解雇権濫用規制の類推適用を受けることができるのか、できないの かという観点は、実務上も裁判上も非常に重要な点であるので、実 質無期型との比較をしつつ、当然終了型との境界線という視点も踏 まえながら検討を加える。まず、期待権保護型のリーディングケー スである日立メディコ事件最高裁判決から分析する。本判決は、前 述の通り 「(本件雇止めは実質的に期間の定めのない労働契約とい
うことはできないが)柏工場の臨時員は…臨時的作業のために雇用 されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されて 26やや特殊な事案として、ダイフク事件(名古屋地判平成7年3月
24日・労経連1588号3頁)が挙げられる。本事案においては、配転、
残業義一務があり、その意味で正社員と同様の扱いをするような使用 者側の態様が見られる。このような場合にも、契約を更新する当然
の意思が推定されやすい。
27
X新年数が少ないにも関わらず、実質無期型と認定された他の事 例として、北海丸善運輸事件・大阪地法平成2年8月23日・労判
570号56頁。1年契約で5年間働いた労働者について、①使用者の 言動が長期雇用を灰めかすものであること、②正社員との勤務内容 の同一性があること、③機械的に一契約が更新されていたことから、
実質無期型と認定した。更新年数が短かったとしても、更新状況な どから使用者側の意思の推定ができれば実質無期型と認定される。
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いたものであり…5回にわたり契約が更新されているものであるか ら、このような労働者を期間満了によって雇い止めするに当たって は、解雇に関する法理が類推され」るべきである、と判断した。本 判決では、実質無期型に認定できないとしながらも、契約が更新さ れているという事実と、正社員と同様の業務を行っていたことから、
期待権保護型と認定した。本稿では、期待権保護型に認定されやす くなる積極的事実と消極的事実という観点から、期待権保護型の射 程範囲を定めていくことにする。
まず、期待権保護型に認定されやすくなる積極的事実とは、どの ようなものだろうか。ここでは、豊南学園事件28を紹介する。労働 者Xは、非常勤講師として3年、専任講師として2年、合計5年間 Y学園で勤務してきた。Y学園には他に、教諭職もあったが、専任 講師も教諭も採用方法に差異がなく、授業以外にもクラス担任、校 務、クラブ顧問なども業務としてこなしてきた。また、退職金につ いても教諭と同程度保障されていたが、手続の面では、更新の度に 意思の確認をしていたことから、厳格であったことが例える。Xは、
労働契約上の地位を求めて争ったが、裁判所は「専任講師の職務内 容及び労働条件は同一であること…専任講師制度の主たる目的はY 学園の教員の資質向上にあったこと…雇止めを行うのは教師として 重大な欠陥があるか身体の状況からみて勤務できない場合のみであ る」という趣旨からすると、Xは期待権保護型に当たるとした29。
すなわち、本判決では、①専任教員と勤務内容が同じであること、
②臨時的に設置されたものではなく、教員の資質向上に目的があっ たこと、③他に解雇事由が想定されていなかったことから、期待権 を認定したといえる。例えば、正光会宇和島病院事件30においても、
28豊南学園事件・、東京地判平成4年3月31日・労判605号27頁。
29他に講師系で期待権を認めた事案として、開智学園事件(浦和地 判平成12年3月17日・労経連1756号14頁)がある。本件も、専任教 諭との職務の同一性から、実質的には同様の職務を遂行していたと
して、期待権保護型に認定した。
30正光会宇和島病院事件・松山地裁宇和島文判平成13年12月18日・
労判839号68頁。
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①正社員との同一性近似性があること、②反復継続して更新する労 働者に対して、積極的に評価を行ってきたこと、③労働者側に期待 を持たせるような言動をしたことなどが重視されて、期待権保護型 に認定された。積極的事実については、以上の点が下級裁判例に共 通しており、これらの要素から労働者の期待利益を認めるのである
31
B期待権保護型においては、特に、①正社員との業務の同一性、
②その有期契約が、臨時的な内容であったか、恒常的な内容であっ たかがポイントとなる。
第四項 当然終了型の振り分け
ここまで分析してきた通り、期待権保護型に該当するためには、
①正社員との業務の同一性、②その有期契約が、臨時的な内容であ ったか、恒常的な内容であったかという観点を重視し、労働者の契 約更新に対する期待権が生じているか否かを判断することになるこ とが分かった。ところで、逆説的に考えると、労働者の期待権が生 じない場合は、期待権保護型に該当せず、雇止めの法規制が及ばな いと言えるのではないだろうか。そこで、本項では、雇止めの法規 制が及ばない類型である、当然終了型の裁判例を分析することによ って、いかなる場合に、労働者の期待権が否定されるのかというこ とについて分析を行う。当然終了型がいかなる事実に基づいて期待 権を否定しているのか(消極的事実)を分析することは、期待権保 護型が上記①ならびに②の点を重視していることを裏付ける上でも 有意義である。以下、検討を行う。
当然に契約が終了するとして、解雇権濫用規制の類推適用がなさ れなかった事案である亜細亜大学事件32を紹介する。これは、雇用 期間を1年間として、20回にわたり反復更新されてきた非常勤講師 31例えば、大阪運輸振興事件(大阪地判平成20年10月31日・労判
979号55頁)や、箕面自動車教習所事件(大阪地判平成16年12月17 日・労判890号73頁)においても、正社員との同一性近似性が重視
されている。
32亜細亜大学事件・東京地判昭和63年11月25日・労判533号63頁。
18
のXが労働者としての地位確認を求めた事案である。Y大学におい ては、非常勤講師は任された科目を担当するだけであった。このX の主張に対して、裁判所はr専任教員はその職務及び責任の面で全 般的な拘束を受け」るが、r非常勤講師は限られた職務を本来短期 問担当する地位にあり、大学からの全般的な拘束を受けないことを 前提にしている」とし、また、兼職をすることが可能であったこと も鑑みるとrその拘束の度合い等からしてY大学との結び付きの程 度は専任教員に比べると極めて薄いもので」あるとし、当然終了型
と判断してXの請求を棄却した。この地裁の判断を、最高裁33も支 持している。本事案では、①正社員との業務内容の違い、②兼職が 可能であったことから解雇権濫用規制を類推適用していない。この 点は、期待権保護型と対比して考えることができる。すなわち、正 社員との同一性がある場合、積極的要素として期待利益が認められ ることになり、逆に正社員との同」性がない場合には、消極的要素 として当然に契約が終了する要素になるのである。また、兼職が可 能であることは、当該大学との結びつきが弱いことを示している。
同様の事案として、進学ゼミナール予備校事件34を紹介する。本 事案においてXは、週5から7コマの範囲でY予備校での授業を受 け持ち、約3年間雇用された後に雇止めされた労働者である。①雇 用の調整弁としての役割が強く、臨時的な側面が強いこと、②職務 内容が正社員と異なることを中心に、裁判所は、期待利益が法的保 護に当たらないとしている。
また、少し特殊な事案としてE一グラフィックコミュニケーション ズ事件35を紹介する。Y杜において、Xは、クリエイティブディレ クター(CD)として、期間は1年間、年俸800万円で、一年契約 33最二小判平成2年12月21日・最高裁判所裁判集民事161号459頁。
34進学ゼミナール予備校事件・東京地判昭和63年11月25日・労判 532号63頁。同上告審・最三小判平成3月6月18日・労判590号6
頁。
35E一グラフィックコミュニケーションズ事件・東京地判平成23月4 月28日・労判1040号58頁。
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を3回更新した。CDは、統括的で重要な職種であり、専門的業務 内容であったといえる。裁判所はこの事案において、「CDは資質
として自由な発想等に基づく創造性、専門性を持った人材が求めら れることからその職務は、本来常用であるというよりも、むしろ臨 時的な性格を有していると認められること」、雇用継続を期待するよ
うな言動はしていないこと、更新手続も3回に留まっていることか ら、解雇権濫用規制の類推適用を否定している36。本事案は、CD という専門的な業務に従事する有期雇用労働者の事案として特徴が ある。近年、専門的・基幹的業務に従事する有期雇用労働者が増加
していることから1 A今後もこのような事案が増加すると思われる。
そこで、本事案のようなケースを検討することも重要である。専門 的、基幹的業務に従事している場合は、正社員との業務内容の同」
性が強まりそうであるが、本件においては期待利益を否定している。
この事案のポイントは、「常用でなく臨時的な性質」であることを 重視している点である。その業務が臨時的であれば、まさしくその 契約に期間を定めた意義が非常に強くなるのであり、契約は当然に 終了しやすくなるのである。
ここまで分析してきた、当然終了型の事案については、以下の共 通点が見いだせる。すなわち、重視されている要素は、期待権保護 型と同様に、①正社員との業務の同一性、②その有期契約が、臨時 的な内容であったか、恒常的な内容であったかというから判断がな される。すなわち、①正社員との同」性近似性がない場合(亜細亜 大学事件、進学ゼミナール事件)、②そしてその雇用が臨時的な場合
(進学ゼミナール事件、E一グラフィックコミュニケーションズ事件)
は、消極的要素として機能し、期待権を否定するのである。
第五項 三者の比較
36ロイター・ジャパン事件(東京地判平成11月1月29日・労判790 号54頁)も、通訳という専門的な職種の事例である。本事案におい ては、元々試用目的で一年契約をしており、期間の目的が明確であ
る事例である。
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まず、実質無期型を認定するにあたっては、東芝柳町工場事件最 高裁判決が言うように、「両当事者の意思表示がなければ当然に契 約がされるべき労働契約」であることが必要になる。下級裁判例を 分析した結果、この両当事者の、当然に契約を更新する意思は、特 に、有期労働契約が「期間が形骸化」しているかどうかという観点 から判断される。そして、具体的に、以下の3点を重視してr期間 が形骸化」しているかの判断を行う。すなわち、①期問の長さ、② 更新手続の状況、③使用者側の態様(他の労働者の更新状況や、使 用者の言動など)が重視されているのである。①の期間の長さが長 期問に及ぶほど、有期労働契約の「期間が形骸化」するのである。
次に、②の更新手続を緩やかであると、使用者が自ら定めた期間設 定の意味が薄くなり、r期問が形骸化」するのである。また、③の 点であるが、使用者側の積極的な要素があると、使用者側の契約を 当然更新する意思を推定することができる。
次に、期待権保護型は、日立メディコ事件のいう「労働者の期待 利益」が、法的保護に当たるかどうかという観点から判断される。
この「期待利益」の判断は、使用者側の意思の推定を行う必要がな く、労働者側の期待利益がいかに法的保護に値するのかという点が 重視されている。この点、実質無期型と異なり、使用者側の意思を 認定する必要がないことから、その対象範囲は広いことになる。そ して、下級裁判例は、「期待利益」の認定に当たって、以下の要素 を重視している。すなわち、①正社員との業務の同一性・近似性、
②その有期契約が臨時的な内容であったかという点が重視される。
この判断基準は、解雇権濫用規制を類推適用するかしないかの境界 線を決する上で重要な要素になっており、①の正社員との業務の同 一異性近似性が認められ、②の有期契約の内容が恒常的であれば、
期待利益を認定する積極的要素となる。他方、これら2つの要素が ない場合、消極的要素として、期待利益を否定する方向に働き、当 然終了型となる。例えば、亜細亜大学事件のように①正社員との同 一性・近似性がない場合や、E一 グラフィックコミュニケーションズ
21
事件のように、②有期契約が臨時的な性質を有しているときにっい ては、消極的要素としてはたらき、期待利益が否定される。①正社 員との業務の同」性・近似性、②有期契約が臨時的性格であったか どうかは、表裏一体の関係にあり、積極的要素として期待利益を認 める方向に働くこともあれば、消極的要素として当然終了型と認定 する方向にも働くことになる。
第四節 解雇権濫用規制の類推適用の場面 第一項 問題の所在
次に、解雇権濫用規制の類推適用の場面で問題になる第二の問題 点について分析する。前述の通り、日立メディコ事件最高裁判決は、
正社員に先立って有期雇用労働者を雇止めすることを認めている。
しかし、①本事案は、期待権保護型で整理解雇型のものであるが、
その後の下級裁判例はこの枠組みを踏襲しているのだろうか、②期 待権保護型である本判決の判断基準は、実質無期型の整理解雇型の 事案においても適用されるのだろうか、③本事案は、整理解雇型で あるが、普通解雇型の雇止めについても、本判決の射程範囲に入る のだろうかという点について、なお問題が残る。したがって、これ らの点について下級裁判例を分析して、日立メディコ事件最高裁判 決の射程範囲を分析する。
第二項 期待権保護型における整理解雇
まず、期待権保護型における、リーディングケースとして、再度
日立メディコ事件最高裁判決を紹介する。判旨は解雇権濫用規制を
類推適用しつつも、「臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で
締結された短期的有期契約を前提とするものである以上…いわゆる
終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているい
わゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべき
である。したがって、…その余剰人員を他の事業部門へ配置転換す
22
る余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合 には…希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとして も、それをもって不当、不合理であるということはできず、希望退 職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないとい うべきである」と判断して、希望退職者の募集を行わずに、正社員 に先立って、有期雇用労働者を雇止めすることを認めた。希望退職 者の募集を行わなくてよいという、日立メディコ事件の判旨は、解 雇回避努力義務を正社員に対する整理解雇の場合よりも緩やかに設 定しているといえる。つまり、日立メデイコ事件最高裁判決は、解 雇権濫用規制の場面において、「社会通念上の相当性」を緩やかに 類推適用しているのである。
この日立メディコ事件最高裁判決の枠組みは下級裁判例に浸透し ていて、期待権保護型の解雇権濫用規制の類推適用を判断する際に は、判例法理として確立しているということができる。下級裁判例 を分析しても、日立メデイコ事件最高裁判決をほぼ踏襲しており37、
また、文言として日立メディコ事件最高裁判決を引用する最高裁判 決も存在する38。学説においても、日立メディコ事件最高裁判決が 確立していることにほぼ異論はない39。したがって、期待権保護型 における整理解雇型の事案について、日立メディコ事件最高裁判決 の立場が確立しているといえる。
第三項 実質無期型の整理解雇
37最近の裁判例でいうと、本田技研工業事件(東京地判平成24年 2月17日・労経連2140号3頁)、 連帯ユニオン関西地区生コン支部
(トクヤマエムテックほか)事件(大阪地判平成23年9月21日・労 働判例1039号52頁)、学校法人加茂暁星学園事件(東京高判平成24 年2月22日・労働判例1049号27頁)などが挙げられる。
38伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事事件・最二小法平成21年 3月27日・労働判例991号14頁。なお、派遣の事案であるが、本判 決を引用した最高裁判決として、パナソニックプラズマディスプレ イ(パスコ)事件・最二小判平成21年12月18日・労働判例993号5
頁。
39前掲注7・土田・668頁。
23
次に、日立メディコ事件最高裁判決の立場が、実質無期型の下級 裁判例にも踏襲されているかを分析する。実質無期型についてのリ ーディングケースである東芝柳町工場事件は、解雇権濫用規制類推 適用の場面で、正社員との差異についてなんら説明を加えていない。
そこで、実質無期型の整理解雇の事例において、解雇権濫用法理を どのように類推適用しているのかを下級裁判例から、分析していく。
まず、実質無期型の整理解雇の事例として、国鉄大阪工事局事件
40 紹介する。これは、2ヶ月という短期の労働契約を11年余りに わたって、反復更新してきたXに対して雇止めがなされ、これに対 してXが労働契約上の地位の確認を求めた事案である。裁判所は、
「臨時雇用員を一律に第一順位として解雇することも不合理とはい えないから、本件雇止めに先立ち職員の希望退職者を募集しなくて も解雇回避努力義務違反とはならない。また、本件雇止め当時、臨 時雇用員全員が余剰であり、…Xの配転可能性を探求し又は他の臨 時雇用員に対して希望退職者を募集しなかったことも、解雇回避努 力義反とはならない」として、Xの請求を棄却した。本判決は、実 質無期型の整理解雇の事案であるにも関わらず、期待権保護型と同 様に、正社員との合理的な差異を認め、解雇権濫用規制の場面にお いて、r社会通念上の相当性」を緩やかに類推適用しているのであ
る。
前記岩倉自動車教習所事件においても、「Y社は正社員の仕事を 安定的に確保しつつ、流動的な部分をパート指導員で消化して経営 の安定を図ることを経営方針とし、パート職員を含む全職員に対し て、パート職員は将来の保証はなく不安定な地位である旨幾度とな く説明し、職員はこれを了知していたのであ…るから、…いわゆる 終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約をしている正社員 を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があるというべきで ある」として、正社員との合理的な差異を認めている41。
40前掲注23
41
O掲一 揩Q6・ダイフク事件においても、 r従業員のうちいわゆるパ
24
これら判旨のように、なぜ裁判所は、実質無期型にも関わらず、
整理解雇の際には正社員よりも緩やかに判断してよいとした、日立 メディコ事件最高裁判決の枠組みを踏襲しているのだろうか、とい
う疑問が生じる。これについて明示する裁判例はないが、思うに、
いかに実質無期型といえども、元々雇用の調整弁で雇われた有期雇 用労働者であるから、整理解雇の際はその意味合いが強く影響して、
正社員よりも緩やかに判断されるのではないだろうか。また、実質 無期型であっても、残業義務、配転出向義務などは負わないことか ら、使用者側がなせる解雇回避努力義務の選択肢が元々少ないとい うことも挙げられる。学説には、整理解雇の際、実質無期型であれ ば正社員並に、雇用を保障すべきであるとの見解もあるが42、それ は後述する普通解雇の場合で考慮すべき事情であると思われる。し たがって、実質無期型であっても整理解雇の際には、日立メディコ 事件最高裁判決を踏襲して、「社会通念上の相当性」は緩やかに判 断されていることがわかる。
第四項 実質無期型、期待権保護型の普通解雇
最後に3つめの問題点として、期待権保護型においても、実質無 期型においても、普通解雇型の雇止めの事例については、日立メデ
ィコ事件最高裁判決の枠組みが踏襲されているのかについて分析す
る43。
はじめに、実質無期型で労働者に帰責事由がある普通解雇型の事
一トタイマーを雇い止めの対象として選択することも、パートタイ マーが、一般に正規の従業員と比較して企業に対する依存度が低…
いこと等からして不合理とは言えない」と判断している。
42