財務と会計 : 清水宗一博士の所説に関連して
その他のタイトル Finance and Accounting in Relation to Dr.
Shimizu Soichi's Doctrine
著者 木内 佳市
雑誌名 關西大學商學論集
巻 34
号 2
ページ 151‑168
発行年 1989‑06‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00020523
関西大学商学論集第叫巻第2号 (198領甜月) (151)1
財 務 と 会 計
一 清 水 宗 一 博 士 の 所 説 に 関 連 し て ―
木 内 佳 市
1. 財務と会計との関係
財務と会計との関係については,一般に両者が相互に密接不可分の関係に あることから,混同して説明されることが多い。しかし,会計は,財務のた めの手段であっても,財務そのものではない。
すなわちこの場合,会計と財務との間に,相互補完の関係があることは事 実であるが,会計を技術と解するかぎり,その存在は同一の水準にたつもの ではなく,会計は財務を目的とする場合における手段であるにすぎない。
たとえば企業における財務活動は,単なる記録と分析とを取り扱うもので はなく,貨幣の獲得とその有利な運用を任務とする積極的活動であると理解 されているのに対して,会計は通常,そのような財務活動の結果の記録と計 算または分析による解釈をその任務とするものであると考えられている。し たがってこの場合,さらに有効な財務活動を具休的に把握するためには,会 計がその手段として大いに利用される必要があるということになる。
ところで,いままでの説明によると,財務と会計との関係は,目的と手段 との相互関係であると考えられている。しかし両者は,これを企業の統一的 な資本循環過程に即してみる場合,まず相互に異なる対立関係として理解さ れる。このことは,企業における経営活動の過程を,
貨幣の支出→原価財の購買→原価財の消費(費用の発生) →収益財の生産
(収益の発生) →収益財の販売→貨幣の収入
として理解する場合,そこに次のような 3種の異なる対立関係が存在するこ
2(152) 第 34 巻 第 2 号 とからも容易に説明できるところである。
①貨幣の支出と貨幣の収入との関係…•••財務領域
③原価財の購買と収益財の販売との対立関係•…••他の経営活動領域
⑧費用の発生と収益の発生との対立関係•…••会計領域
この財務と会計との関係は,これを単に相互に異なる対立関係として理解 するだけでは不十分である。この対立関係が生ずる経営活動の過程は,前述 したように時間的順序にしたがって遂行されるが,このことから貨幣の収入 と支出との対立関係を意味する財務活動は,それに時間的要素を導入して,
硯在形態としての貨幣の出納およぴ保管に限定されず,現在現金と未来硯金 との収支の対立,したがって,またその適合関係の処理を任務とするもので あるといわれる。すなわちそれは次のような二重の意味で考えられる必要が ある。
①将来の支出に対して現在の貨幣を準備する(外部資金の調達をふくむ)と いう意味で,収支の適合閲係の維持がなされる。
③すでに支出した貨幣と,その将来の回収という意味で,両者の適合関係 の維持が考えられる。
このような意味での貨幣の支出と収入,または回収との対立関係における 金額的,ならびに時間的適合の維持が実は企業における財務活動の本質をな し,その結果として財務は現在とともに未来にも志向していることになる。
ところが,これに対して会計は,一定期間における企業の購買,生産およ び販売という統一的な資本循喋過程を通じて発生する費用と収益との価値的 対立関係の確定を任務とするもので,とくにその貨幣的測定を課題としてい る。また同時にそれは,費用および収益の未実現部分を明らかにすることを 要し, その意味で, 会計は過去計算(実現された費用および収益の過去計算)で あると同時に, それはまた現在計算(未実現部分の費用および収益の残高)でも ある。
かくて,財務と会計は,いずれも企業の統一的な資本循環過程に即して把 握された 2種の対立関係であるが,前者は未来に志向し,後者は過去に志向
し,硯在を通じて相互に交渉する密接分離の関係にあると理解される。
すなわちまず財務と会計とは,過去と現在において結合され,会計の過去 およぴ現在計算を通じて,現在形態における貨幣の支出と収入との相互関係 およびその増減関係を明らかにすることから,会計は財務にとって不可欠の 手段(計算)となる。
また他方において財務と会計とは,現在と未来において密接に関連し,会 計の硯在および未来計算を通じて,未来における貨幣の支出と収入との適合 関係を明らかにすることから,会計は計画的な財務活動にとって有力な手段
(用具)となるのである。後者の場合に用いられる未来計算としての会計が いわゆる管理会計と称されるものである。財務と会計との相互関係にとっ て,この管理会計がとくに重要な意味を持っていることは周知の事実である が,この場合それはあくまで財務のための手段ではあっても,財務そのもの と同一のものではないことに注意を払う必要がある。
財務は,それが未来を志向しているとしても,けっきょく貨幣の収入と支
(1)
出との関係として考えられるものであるからである。
2. 清水宗一博士の財務論
清水宗一博士には,つぎのようなすぐれた学術的研究書と訳書がある。
(1) 資 産 原 価 配 分 論 森 山 書 店 昭 和42年1月。 (2) 企 業 内 部 財 務 論 森 山 書 店 昭 和47年10月。
(3) 資産会計論ー資産の費用化に関する研究一森用書店 昭和55年6 月。
(4) 同書(第2版 ) 森 山 書 店 昭 和61年5月。
(5) ゼリエン,経営財務と財務計画 税務経理協会 昭和37年10月。 ほんらい,清水博士の基本的立場は「企業利益の計算と分配」という課題 の究明にあった。『資産原価配分論』およぴ『資産会計論』は, いずれも企
(1) 拙稿財務と会計,産業経理第38巻第3号, 2頁。
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業利益の計算のための,費用性資産(非貨幣的資産)の費用配分すなわち費用 化に関する研究にスボットライトを当てたのに対し,『企業内部財務論』は,
企業体への利益の配分ともいうべき利益の留保および収益の留保に関する研 究に照明を当てたものである。こうしたアプローチは企業利益の計算と分配 とが全く乖離した関係にあるのではなく,両者が密接な関連をもつと見る博 士にとっては当然のことである。このことは,利益の分配が政策的配慮に影 響されるとしても,内部財務の源泉が企業によって獲得された収益であり,
かつ,費用を計上する過程を通じて企業への収益の留保が行なわれること,
また利益の留保さえ行なわれる場合があることを思えば,おのずから明らか となるであろう。
(1)企業内部財務論
『企業内部財務論』は,「企業体」の見地から,すなわちその維持と発展と いう視点から内部財務の諸問題を解明しようとしたものである。
さて,本書は次のような七章から成る。
第一章 内部財務の内容 第二章 内部財務の動向 第 三 章 公 示 利 益 留 保 第 四 章 秘 密 利 益 留 保
第五章 内部財務としての減価償却 第六章減価償却財務の利用 第七章 内部財務の諸形態
まず,第一章では,本書の主題である内部財務とは何かについて,その意 義と体系が示されている。そこで博士は,内部金融を「外部からの資本調達 以外のいっさいの内部的な資本の形成および資本・資金の自由化」と規定 し,それに基づいて,つぎのような体系化を試みている。とくに自己金融を 利益留保による自己資本の形成として限定的にとらえている点が注目され る。
ー利益留保としての内部金融(自己金融)
内部金融ー 一減価償却
ー内部的他人金融(引当金)
ーその他の内部金融一
ー資産の貨幣転換 ー経営処理の改善
この章は序章であるが,本書の内容を樺成する諸問題が全般的に取り扱わ れ,その位置付けが示されている。
つぎに第二章は, ドイッにおける内部金融の変遷過程を考察している。そ れによると,内部金融は1930年代以降ドイツ企業財務の中で優勢にあった が,その内容には変化が見られた。すなわち, 30年代には統制経済のもとで 従来活況を呈した証券金融が後退し,利益留保による自己金融が高揚したの に対して,第 2次大戦後にはとくに税務上の金融助成に支援された減価償却 金融が優位を占めるに至った。博士はかかる推移をもたらした決定的要因を 経済統制や法制上の助成策に求めているが,これらがすべてであったかどう
(2)
かについては疑問が残るところである。しかし,当面する現実を解明し,ま た将来を展望するために,過去の動向を辿って,これを歴史的に考察した研 究態度には共感を覚えるところである。
第三章および第四章では利益留保の問題が取り扱われている。第三章で は,まず企業体の観点に立って,利益留保(自己金融)が主に積立金の形態で 行なわれたことおよびその本質が保証資本にあることが明らかにされてい る。次いで,積立金による利益留保の効用に論及し,拡張•更新その他の有 利な投資への資金源泉としての役立ちなどの効用が列挙されている。そこで は資本主の立場に立つ見解が批判の対象となっている。また,第四章では秘 密利益留保の問題が取り上げられ,その長短を論じたのち,その長所が短所 を補ってあまりがあり,一定の枠内での企業はこのような秘密積立金の効果 を図るべきであることを論証しようとした。
(2) 森川八洲男稿,書評・企業内部財務論,企業会計第17巻第7号, 103頁。
6(156) 第 34巻 第 2 号
第五章および第六章では第2次大戦後における企業財務の推進力としての 減価償却の問題が考察されている。まず,第五章では減価償却の財務的性格 を確認したのちに,減価償却によって自由化された資金の利用を検討してい る。そこではいく人かの学者の見解を姐上にのぽせ,利用についての理論的 な主張を経済と経営の現実に適用するさいの問題点を指摘するとともに,償 却方法と租税問題もあわせて検討されている。そこではもっばら減価償却の 金融効果を促進するために,逓減償却,さらには過大償却の効用が説明され ている。また第六章では減価償却による生産能力の拡大効果の問題が吟味さ れ,償却資金の即時再投資による期間生産能力の拡大効果の意味と限界とを 明らかにしたのち,さらに他人資本による設備投資から自由化する減価償却 資金の再投資における生産能力の拡大効果にも論及されている。
第七章は終章として,内部的他人金融としての引当金をはじめ,資産の貨 幣転換およぴ経営処理の改善など見逃しやすい内部財務の諸形態を考察の対 象としている。
(2)若干の吟味
①本書は全七章から構成されているが,全体を通じて言えることは,博士 の意識が,つねに,企業内部における資本の形成,資本ないし資金の自由化 と,利用もしくは運用とに定着しており,その上に立って,あくまでも企業 体の観点から「慎重の原則」を基調的トーンとしつつ,内部財務の構造を解 明しようと努めていることである。
③さらに,本書の全体を通じて, シュマーレンバッハ (E.Schmalenbach), ニックリッシュ (H.Nicklisch),カルフェラム (W.Kalvreram),メレロヴィッ ツ(K.Mellerowicz),ゼリエン (H.Sellien),ベックマン (L.Beckmann),ハル トマン (B.Hartmann), ティース (E.Thiess),ヘルレ (D.Harle),ベリンガー (B. Bellinger), フォルムバウム (H.Vormbaum), リヒィ (W.Lichy), などこ の方面の研究で知られるドイツ諸学者の所説が検討されている。その意味で は,本書は同時にドイツ財務論に関する学説研究書としての内容をもつ秀れ
た労作でもある。
⑧いうまでもなく,財務は会計と相互に交錯する領域である。本書は内部 財務の問題を取り扱ったものであるが,その基底には絶えず会計との関連を 意識しつつ,論を進めるという博士の姿勢がうかがわれる。とくにそれは両 者の接点をなす減価償却や引当金問題の論述において顕著に見られる。しか し,本書にも問題がないわけではない。森川八洲男教授は,書評のなかで積
(3)
立金に関連してつぎのように述べている。
「積立金による利益留保(自己金融)の本質がニックリッシュの見解になら い,保証資本と解されているが,こうした理解は果して積立金の現代的意義 を十分にとらえているといえるだろうか。この点について,実は,著者自身 も全体の論述の中ではむしろ積立金に内在する拡大投資の源泉としての性格 を強調しているように読み取れるのである。」
「さらに,本書では「企業休の観点」を強調するあまり,過大償却などに よる秘密積立金の設定が勧められている。確かに, 「一定の範囲内」という 限定付であり,かつまた秘密積立金の存在は株式相場に反映する結果,その 面で投資家の利益保護をはかることができると説かれるとしても,それが主 として損益計算における費用の過大計上というプロセスを通して行なわれる 以上,「適正な期間損益計算」を旨とする近代会計学の立場からそれを異議 なく是認しうるであろうか。この点に論議の余地が残されているといわざる をえない。」
このほかにも,本書が内部財務論をとくに企業体の見地から一貰して展開 しようと試みている点はよいが,資本主理論に基づく制度会計の規定との間 に,実務上の摩擦を生ずるおそれがあることも注意しなければならないとこ ろである。
④訳書『ゼリエン・経営財務と財務計画』 (Helmut Sellien "Finanzierung und Finanz‑planung" Wiesbaden, 1952)は,第1絹「経営財務論」では資本の 調達と運用についての理論的・政策論的研究が行われている。第2編「財務
(3) 森川八洲男,前掲稿, 104頁。
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計画論」では財務計画に関する理論的研究のほかに,財務計画の設定に関す る具体的な処理法の解説に重点がおかれている。 「長期財務計画」の章では 企業設立のさいの財務計画およぴ10年間の財務計画,ならぴに年度財務計画 を実際の事例をもって説明し, 「短期財務計画」についても長くて 3ヶ月の 期間の事例と様式とをつけて詳しく説明している。
著者はフランクフルト,ケルンおよぴテュービンゲン大学における学理的 研究とアルペン電気会社における最高経営参画者としての豊富な実務研究と
を持っており,この書は西独学界で高い評価をうけていたという。
本書によれば,ゼリエンは経営財務を適正な資本の調達と運用のための財 務統制活動であるとし,その前提として財務計画を取り上げている。この場 合は,資本の調達と運用に関する過程論的接近として,経営財務が認識され
ている。
したがって,ゼリエンの学説に影響をうけた清水博士の財務論は,尉務職 能を過程論的に研究したものであった。もっともこの場合ゼリエンは,経営 財務と経営計画を総括的に解説することを目的としている。「正しい決定が できるのは,財務を理解し,かつ財務計画に熟達している人だけである。」
著書の冒頭にある彼の言葉からすれば,「財務計画論」にもかなり重点がお かれていたと思われるが,清水博士の研究はそこまで及ぶことなく終ってい る。これはその基本的立場が「企業利益の計算と分配」の究明にあったこと によるものと思われる。すなわち内部財務の研究にとどまっていたのであ る。
3. 清水宗一博士の会計論
企業利益は,収益が費用を上廻る余剰である。ある会計期間に帰属させう る収益の測定の問題は意見の不一致が少ないのであるが,原価の期間配分,
費用の期間配分は,意見の対立も多く,会計理論上の基本的な課題である。
清水宗一博士の会計論は,財務会計の分野に限ってではあるが,この課題
財務と会計(木内)
を解明することに重点を置いている。
博士の会計論を代表する著書,すなわち, 『資産原価配分論』と『資産会 計論』は,ともにアメリカ会計学における原価配分ないしは資産の費用化に 関する研究を克明に分析,整理したうえで,いわゆる動的会計理論の実質的 解明を意図した研究書である。
(1) 資産原価配分論
まず,『資産原価配分論』の構成を示すと,つぎの四部からなる。
第 一 部 資 産 原 価 配 分 の 基 礎 第 二 部 棚 卸 資 産 原 価 の 配 分 第 三 部 設 備 資 産 原 価 の 配 分 第四部価格変動と資産原価配分
本書の特徴の1つは,資産原価配分の問題を会計公準論から説明しようと した点にある。
第2の特徴は,メイ (G.O.May)とペイトン (W.A. Paton)学説の文献史的 研究の書であるという点である。それぞれの文章の背後にも綿密な文献的考 証の裏付けがある。しかも,個々の学説を発展史的に跡づけ,内在的に吟味
している手法は手堅い。
第3の特徴は,メイとペイトン学説の比較研究を通じ,類似点および相造 点を明確な形で摘出している点にある。
ところで,さきに述べた財務と会計の交錯する領域にある減価償却の問題 について,本書はどのように論述しているか。その内容はつぎのとおりであ る。すなわち,博士は第三部設備資産原価の配分において,まず減価償却制 度の成立の過程を史的に考察したのち,メイの減価償却論について,つぎの
ように述べている。
目的を異にすれば種々の財務諸表がもともと必要であり,異なる作成目的 のために同一の会計手続が一様に適切であるはずがないという事実認識に基 づいて,減価償却の各目的に応じて適当な配分方法を選択適用するという理
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論は確かに卓見であるとしながらも,実践可能性・単一性との関連について 疑問視するとともに,保守主義の考え方からは定率法その他の逓減費用法の 有用性をもっと認めるべきであると批判している。
他方ペイトンの減価償却論については,つぎのように述べている。
減価償却会計の本質と減価償却の財務的機能とが区別されていることには 賛意を表するが,配分される客体が設備資産の原価であるとは限らず,設備 資産の価値であることが示唆されていることを指摘して,その配分理論の不
(4)
透明性を価格変動にもとめている。
つぎに,博士は価格変動と資産原価配分の問題を取り上げ,原価主義を修 正し補充することや時価主義を採用することの意味を論究している。博士に よれば,歴史的原価を一般物価指数でもって修正するという方法であれば,
原価の配分や期間利益の計算に貨幣価値の変動を反映させるだけであって,
原価主義に立つ原価配分自体は拒否されることになり得ないとし,その意味 において修正論的減価償却論や統一ドル会計報告論は支持できるとする。ま たペイトンが示している妥協法についても,取得原価に基づく減価償却を存 続させつつ時価償却を取り入れるわけであるから,原価主義を離脱して時価 主義に転換することに対する非難を免がれることができるとして,贅意を表 している。結論的に,時価主義に基づく価格変動会計の制度化に疑問をもっ
(5)
ていたと思われるのである。
(2)資産会計論
つぎに,『資産会計論』はつぎのように,四部から成り立っている。
第一部 費用性資産の費用化の基礎 第 二 部 棚 卸 資 産 の 費 用 化
第 三 部 設 備 資 産 の 費 用 化
(4) 嵩村剛雄稿,労作案内・資産原価配分論。企業会計第19巻第9号, 131頁。 (5) 山桝忠恕稿,消水宗一著「資産原価配分論」関西大学商学論集第13巻第3号,
97頁。
第四部 資産的費用項目の費用化
本書は,歴史と理論と実践性とを念頭においた論述である。
博士は,第一部でペイトンなどの会計公準論や基礎概念論を比較検討しな がら,会計の基礎的前提の構造をつぎのように考えている。
I 勘定記録の二重性
実 体 会 計 期 間 貨 幣 的 測 定 資 本 的 会 社 継 続 企 業 貨 幣 制 度
つぎに,用役学説にしたがって資産概念を次のように規定している。
「資産とは,特定の企業実体の取引の結果として,企業実体が保有する将 来の用役港在性の具体的表現である。」
この規定は時価による評価理論と結びつけやすいが,第一次的には配分の 過程が存在していて,第二次的に修正や評価替のような調整が存在すると考 えることによって,用役学説が配分理論とも和合する可能性を認めている。
第二部および第三部はともに棚卸・設備資産の費用化に関して,前記の配分
(6)
と調整の関係を論じている。
ところで,第三部に属する第十一章では減価償却の財務機能に関する論述
(7)
がある。減価償却には,資本維持,減価償却資金形成の問題がある。これも 配分と調整の関係に似て,資本維持,減価償却資金の形成の過程は,設備資 産の用役港在性の消滅分を費消した原価として把握し,用役浩在性の未消滅 分を未費消原価として把握する第一次的な過程の結果として招来される第二
(8)
次的過程であるとして論述している。減価償却を通じて設備資産に投下され た資本の維持が可能になることは,減価償却の財務的機能によるものであ る。すなわち減価償却は,設備資産原価の収益による回収の過程を通じて,
当該設備資産に投下された資本を流動化するから,利用可能な減価償却を利 益留保の意味の自己金融と考えるのは,減価償却が正常の割当額以上であっ
(6) 青柳文司稿書評•清水宗一著「資産会計論」会計第116巻第 3 号, 154頁。
(7) 本書第2版ではこの第十一章は削除されている。
(8) 青柳文司前掲稿,書評, 155頁。
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て実際は利益であるときである。減価償却資金は,(1)更新,(2)新設備取得,
すなわち生産能力の拡大,(3)有価証券投資,(4)社債の償還,(5)短期信用の返 済,(6)在庫品への投資,(7)特別基金の設定などに利用されるが,その在り方 は企業のおかれている経済的環境のいかんによって異なると論じている。
つぎに減価償却の調整に関しては,調整の範囲を減価償却に限定する部分 的調整と財務諸表の全項目にわたる包括的調整とを論じ,さらに,修正原価 や時価による調整を勘定組織に織り込む方法と補助財務表または二欄式財務 諸表に表示する方法とを検討している。そして結論として,現在において適 切と思われる調整は,原価配分を基本とし,これを勘定組織の中で行い,そ の結果を通常の財務諸表によって公表し,勘定組織のそとでは包括的調整を 行い,その結果を補助財務表において示すことである。その際調整の内容は 一般物価水準の上昇に対する調整と個別価格の変動に対する調整とを含むこ
(9)
とになる。
(3)若干の吟味
『資産原価配分論』については,山桝忠恕博士によるつぎのような書評が
尋?
「本書は,資産原価配分に関する制度的・歴史的考察と学説的研究とがそ の主な内容をなしているわけであるが,それだけにまたそれらをふまえたう えでのこのテーマ自体に関する著者の総合的な考え方を打出した論文こそ を,ぜひとも期待したいものである。」
『資産会計論』は,この期待にこたえたものである。それは丹念な文献考 証による費用性資産に限定した資産会計論であるが,評価理論を統率する一 次・ニ次の二段構造の総合理論としての配分理論を主張している。この配分
(11)
理論については,青柳文司教授による批評がある。その要点はつぎのとおり
(9) 青柳文司前掲稿,書評, 155頁。 (10) 山桝忠恕前掲稿, 98頁。 (11) 青柳文司,前掲稿, 155頁。
である。
① 資産を用役港在性の具体的表現と規定するかぎり,表硯レペルの理論 である未償却原価説と対象レベルの理論である用役学説とを対等に比較する ことはレペルの混同を生じやすい。その懸念は,減価償却の伝統的理論と用 役理論との比較にも現われがちである。
③ 配分理論はリトルトンのように構造主義に立脚するのか,ペイトンや メイのように機能主義に立脚するのか,それとも構造と機能の両面を見据え た考え方であるのか。おそらくは歴史と現論と実践性の総合的配慮によるも のであろうが,その論拠は必ずしも明確に示されていない。
⑧ リトルトンは投下原価の配分を会計構造よりの必然的な帰結とみる。
ペイトンは生産経済的志向に立って経営管理に役立つ情報処理として時価評 価を支持する。メイは分配経済的志向に立って所得分配の公平化につながる 実質所得の算定基準として修正原価を支持した。リトルトンとメイは会計本 質観を異にし,ペイトンとメィは会計職能観と社会観を異にする。配分理論 の根底にある会計の本質観,職能観,目的観,さらには社会観,世界観はな
(12)
にか。理論のうちに,体系的に示すことが期待される。
なお,ほかに『資産原価配分論』の書評において,篇村剛雄教授は「原 価」と「価値」の貨幣計数的な結合関係,および「価値」の内容を原価配分
(13)
との関連において,さらに詳細に展開することを期待したが,『資産会計論』
では,それに対する答の一部が配分理論の第二次的過程である減価償却費の 調整として示されている。しかし取得原価の期間配分を基本的立場とするか ぎり,なお「価値」に関する説明は不十分であるといえよう。
4. 経 営 財 務 と 会 計 情 報 シ ス テ ム
(1)会計情報システム
財務と会計との相互関係は,未来を志向する計画的財務活動において,も (12) 青柳文司,前掲稿, 155頁。
(13) 嵩村剛雄,前掲書評, 131頁゜
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っとも密接になるが,そのような財務活動に有効に役立つ会計方法として管 理会計がとくに重要な意味を持つにいたった。ここに管理会計とは,経営者 または管理者の行う計画および管理に奉任する意図の下に行われる会計およ ぴその会計機能を含むものである。
管理会計は,いわゆる財務会計とは,①法規による規制,R評価原則(時 価主義か原価主義か), ⑧数字の性質, ④計算期間,数量計算および部門計 算において,その目的および性格にもとづく相遮点をもっているが,本来両 者は会計を情報システラとして統一的に考える立場からみると,共通の会計 制度の中に融合し結合するものである。
(14)
会計は情報システムの一つである。したがってそれは情報の一般理論を経 済問題に適用したものである。会計は計量的に表現された情報を意思決定の ために提供する総合的な情報システムの主要部分であるとともに,情報の効 果的な伝達に関連するものである。たとえば現行の会計プロセスが,複式薄 記の理論と測定方法とを,貨幣的に計量可能な経済活動に適用する情報シス テムであるとしても,それは単なる一手段であるにすぎない。今日において は,すでに電子計算機を用いて,単なる取引記録に限定されない会計情報の 測定・伝達を可能にする一方,多目的な複合報告書の作成を容易にする意味 での情報システムが理解されている。このような傾向は将来の企業会計のあ
り方を示唆しているともいえよう。
(2)計算の会計と開示の会計
従来財務会計においては,「会計の目的は••…•利益の計算にある」という 規定を出発点として,特定の最終的金額を求め,これを確定することにその 役割をもった。しかし今日, 「企業会計の役割は開示にある」とする考え方 がきわめて重要な意義と適用性をもっている。このことは証券取引法に基づ く会計制度(連結財務諸表,中間財務諸表), 国際会計基準委員会の動向などに (14) A. A. A., A statemet of Basic Accounting Theory. V. Extension of
Accounting Theory. 1966, p. 67‑68.
明示されている。すなわち,そこでは計算の会計を脱して開示の会計へ志向 する動きが現われている。
会計は,ほんらい企業の目的に奉任するために存在する。すなわち,目的 適合性 (relevance)がその課題である。 まず会計報告の容体を確定して,そ の必要とする会計的情報の内容を明らかにし,その提供を可能にする企業会 計制度の発展を志向する原則の確立をはかる必要がある。
会計の目的は会計行為の対象となる経済活動の目的と合致しているのであ って,このことは会計がそれ自体目的ではなくて,企業に対する判断と行動 の決定に役立つ情報を提供する手段であることを意味するものである。した がって,会計を企業の目的に関する手段として理解するかぎり,報告の客体 と情報の内容とに相遣があっても,会計報告すなわち情報の提供という基本 的職能においては,貯務会計と管理会計を統一的に理解することができる。
「企業会計の役割は開示にある」とする考え方は,情報システムとしての 会計に通ずるものである。しかし,そうかといって会計情報の測定を伝達に 従属せしめ,または計算の会計を軽視することは許されない。会計ないし会 計制度(企業会計における一定の会計方法や会計形式が広く社会一般に認められる内 容にまで発展したものをいい,統一会計制度,国定のコンテンラーメン等のほかに期間 損益計算のように社会的に広く妥当なものとして認められるに至ったものをも称する)
は,歴史的・社会的背景の下に制度としての発展を遂げているが,そのさい 企業の財務活動に役立つことが重要な意味をもっていたことは確かである。
このことはたとえば会計上の減価償却に対して財務上の減価償却が問題とな
(15)
った経過にも現われている。
企業会計上固定資産の減価償却は,当該固定資産の原価を毎期継続的に減 額して,投下資本の回収をはかることであるといわれている。したがってこ の場合,減価償却は当該固定資産の原価,耐用年数および残存価額を測定す るとともに,固定資産の帳徳価額を減少し,それだけ損失または費用に振替 える会計手続であるということになる。この期間的費用配分説がとられたの
(15) 拙稿,財務と会計,産業経理第38巻第3号, 6頁。
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は,企業の経済活動によって生ずる費用を,各受益年度に配分し,収益と対 応させることが,正確な損益計算を行う場合もっとも重要な条件であると考 えられたからである。
これに対して,企業財務上減価償却の機能は,投下資本の維持と不確実性 および時間的要素を考慮した取替・近代化・拡張のための資金の準備にある といわれている。企業の維持ないし生産力の保全はもちろんその拡大発展を はかるために,企業資金の充実,技術導入の促進および設備更新の徹底とい う3つの経済的要請に応えて,実践的施策が企業会計上の理論に先行し,そ の結果としての理論と実践との間に差異を生ずることがある。減価償却の財 務的機能を重視することはその例である。
さきに,私は財務と会計との関係について,それが同一のものでないこと を論述した。財務と管理会計の密接な関係にもかかわらず,財務の立場と会 計の立場を分けて,さらには財務会計と管理会計の立場,損益計算の立場と 原価計算の立場それぞれについて計算の会計と開示の会計を研究することが 必要である。減価償却の問題もまたそのような立場からする再検討を迫られ
ている。
(8)会計情報と財務管理の謁係
会計情報と財務管理の関係は,数式モデル(資金配分最適化モデル,利益計画 モデル,目標管理モデルなど),電子計算機プログラム(数理計画法.待ち合わせシ ミュレーション,多変量解析,情報検索など)およぴ電子計算機を用いた財務管理 システム(長期経営計画プログラム,資金配分最適化プログラムなど)によって理解 される。なお,ほかに新しい関連領域として企業財務と量的方法およぴ行動 科学との関係をとりあげる見解もある。たとえば,資産=資本の拘束期間と 信用条件の対応性をはずした財務計画モデル, M M理 論 な ど は そ の 例 で あ
る。
電子計算機の発達は,①フィードバック・システムによる予測,③最適化 のための計画およぴ⑧例外の目標による管理の3つの機能を実務上可能にし
た。その結果,予測・計画・管理の面における会計情報と財務管理の関係 は,情報および管理システムの展開と相侯って,密接に,または急激に新し い発展を遂げようとしている。その意味で,財務の計画・管理と会計制度と の開係は,その方法および内容において新しい転換期に当面しているという
(16)
ことができる。
(4)現在財務論
(17)
財務論には大別して,管理論的財務論と経済的財務論の二つがある。前者 は財務計画の目標として財務流動性の維持と資本収益性の向上を掲げている が.いずれも会計的価値概念に基づいている。後者は意思決定の基準ないし 計画設定の目標を経済学的な市場価値概念に求めている。 Money, Time, Riskを重要な要因としているが. そこにはディーンの資本予算論とかマー
コビッツのポートフォリオ・セレクションの理論のような規範的理論とモジ リアーニ・ミラーの企業評価理論のような実証的理論がある。一般に実証的 理論は財務を経済硯象として客観的にとらえ,財務についての経済法則を明 らかにしようとするものである。効率的市場理論,ポートフォリオ理論,資 本資産価格形成モデル (CAPM),オプション評価理論 (OPT),裁定評価理論 (APT).ェイジェンシー理論などが相次いで研究発表された。これら研究の 理論的精緻さと実証的・統計的技法の高度な進展度には驚くべきものがあ る。しかし資本市場メカニズムの解明に重点をおくあまり,個別企業の財務 活動と密接した理論になっていないこと,市場メカニズムを解明するための 諸仮定があまりにも抽象的・非硯実的なものが多いため,企業の行動理論が 説明できない点があることなどに問題がある。われわれは個別企業の視点か ら企業のもつ財務問題を解明することが財務論研究の本来の在り方であると
(18)
理解しているからである。
(16) 飯野利夫訳,アメリカ会計学会「基礎的会計理論」第5章会計理論の拡張,国 元書房, 91頁。
(17) 諸井勝之助稿,会計学と財務論,会計第130巻第5号, 91頁。
(18) 本稿は,全体を通じて,各書評を参照したが,各書評者に対しては感謝の意を 表します。
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あ と が き
清水宗一博士の所説は資産の費用化と内部財務の研究に限られ,遂に経営 封務と会計情報システムの研究までは及ばなかった。
しかし昭和29年の「減価償却制度の確立ーGeoge.0. Mayの所説を中心 として一」(関西大学経済論集4巻4号)に始まり, 昭和61年の「逓減償却法の 一考察」 (関西大学商学論集, 31巻3• 4 • 5号)に終る一貫した真摯な研究の 在り方には敬意を表する。とくに「減価償却」や「財務管理とリスクマネジ
メントの関係」などの研究には新たな計画もあった筈である。
今回博士の著書を読んで精緻な理論に充ちた学問的業績に接し,改めて高 い評価の言葉を捧げたいと思います。最後に生前の御交誼に感謝するととも に,安らかに御冥福をお祈りいたします。