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サロベツ湿原におけるエゾシカの湿原利用状況と植生への影響

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Academic year: 2021

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北海道大学 大学院農学院 修士論文発表会,2019年28

サロベツ湿原におけるエゾシカの湿原利用状況と植生への影響

環境資源学専攻 生物生態・体系学講座 植物生態・体系学 渡辺 智美

1. はじめに

近年,ニホンジカの生息数増加により,自然植生への影響が問題となっている。草食動物である ニホンジカは,森林やその周辺の草地を生息地としており,森林植生に及ぼす影響は大きい。また,

ニホンジカの分布域は個体数の増加にともない拡大しており,本来の生息地ではなかった湿原や高 山帯などでもその影響が顕在化している。湿原へのニホンジカの影響として,植物の採食,シカ道 やヌタ場の形成による植生の攪乱が挙げられるが,湿原植生への影響を明らかにした研究例は少な い。北海道北部の上サロベツ湿原では,2003 年頃からニホンジカの亜種であるエゾシカの侵入が 確認され,さらにその程度が増大しているとされる。そこで,本研究では,当湿原内にシカ柵を設 置し,エゾシカの影響を排除した場合と排除しない場合の植生変化を比較し,エゾシカが湿原植生 にどのような影響を与えているのかを把握することを目的とした。

2. 方法

上サロベツ湿原において,空中写真の判読からシカ道が多数分布する

3

地域と先行研究で食害が 見られた

1

地域の計

4

地域を調査地域とした。各地域に縦横高さ

2m

の立方体状のシカ柵を

4

基ず つ,

2m×2m

の対照区を

4

つずつ設置した。さらに,エゾシカの湿原利用状況を把握するため,調 査地域に各

1

台自動撮影カメラを設置した。湿原植生への影響を明らかにするため,

2017

年,

2018

年の

2

年間,

5

月から

9

月まで毎月

1

回,シカ柵と対照区において植生調査を,対照区において食 痕調査を行った。植生調査の結果について地域ごとにコドラートの植物の被度のデータでクラスタ ー分析を行い,シカ柵と対照区の植生に差が生じているか調べた。また,対照区で食害があった植 物について被度の季節変化をシカ柵内と比較し,採食による影響が出ているか調べた。

3.結果と考察

自動撮影カメラによるエゾシカの撮影枚数から,上サロベツ湿原では,シカ道が多く見られた落 合沼周辺や円山周辺は夏の生息地として利用され,下エべコロベツ川付近は季節移動の経路として 利用されていた。一方で,先行研究で食害が見られた旧原生花園跡地はほぼ利用されていなかった。

このように上サロベツ湿原内では,場所によってエゾシカの利用頻度・利用内容が異なることが明 らかになった。

植生調査で出現した維管束植物は

58

分類群で,食痕が見られたのは

14

分類群だった。ホロムイ スゲ,ヌマガヤ,ゼンテイカ,タチギボウシは食痕のあった株数が多く,被食率も大きく,エゾシ カによる嗜好性が高い湿原植物と考えられた。クラスター分析結果からは,シカ柵と対照区の植生 の差異を検出できず,エゾシカの影響が植物群落のレベルでは顕在化していないことが明らかにな った。一方,被食率が高い植物について,シカ柵内と対照区で被度の季節変化を検討したところ,

ゼンテイカとタチギボウシは,シカ柵内で被度が増加していたにもかかわらず,対照区で被度が減 少し,エゾシカの採食による影響が現れていた。他の植物ではシカ柵内外でこのような違いはなか った。

以上から,現在,上サロベツ湿原では湿原植生へのエゾシカの影響は軽度であるが,長期間エゾ

シカの影響が継続すれば被害が顕在化する可能性が高く,何らかの対策が必要と考えられた。

参照

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