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教科目標から教育内容決定における フレームワークについて
一理科の場合一
よ
理科教育研究室 1笥 野
壷・
雄
§1.目標から内容決定までの過程におけるフレームワークの位置
教育目標から教科目標へ,そこから教育内容の構成へという過程をふんでいくには,そ の内容決定のめやすとして,また基準として,何らかの枠組を必要とする。この枠組のこ とを,ここではフレームワーク(Frame work)とよんでおく。フレームワークという語 はネットワーク(Net work)という語とも通ずる。例えばわれわれのもっている知識が死 んだ知識でなく,生きて働らく知識である場合には,おのずとそこに秩序が存在している
ものであるが,そのような有機的関連のしっかりした概念間の関係を概念網という語で表 現することがある。この場合の概念のネットは同時にわれわれの知謙体系のフレームワー クともよび得るわけである。ところで筆者がここで問題にするフレームワークは,理科な ら理科という教科で何を教え何を養うかという場合に,その内容を構成する枠組をさすの であるが,これを図式的にいえば二次元の平面に縦横の二つの軸を作り,その座標によっ て教育内容,教材の位置ずけを行なっていく,そのような網目構造となるのである。
今縦横二つの軸といったが,理科の場合について考えたとき,ある程度割切って軸をと れば,大体二つにまとめることができると考えられる。
その理科の場合のフレームワークの中味をのべる前に,ここで他教科においてみられる 似たような問題にちょっとふれてみたい。社会科は,理科とは同じ内容教科とよばれる間 柄にあり,また教育内容の広領域にわたる点でも共通である。自然事象と社会事象ではも ちろん本質的に異なる面をもってはいるものの,共通性も存在している。そこで一一つの例 をあげると,広島大学教育学部にある日本社会科教育研究会では「社会科における総合的 思考の構造」という共同研究の過程において,「アメリカのウィスコンシン(Wisconsin)
州の社会科カリキュラム委員会作製の社会科のためのフレームワークなるものに遭遇し」,
これをこの研究会の研究テーマに即してとらえることにし,フレームワークを「社会科的 思考力形成のわく組」と規定した。今「総合的思考のフレームワーク・試案」をみてみる
.と,ここでは,「思考」に焦点を合わせているせいか,フレームワークはかなり細分化し
24 教育研究所紀要第一号
ているようであり,「歴史」分野で五つ,「政治」で六つ,「経済」で八つ,「社会」で 五つ,「地理」で五つ,決定している。この内,「歴史」の分野における五つのフレーム
ワークをあげてみると,つぎのようになる。
〔歴史〕
1.歴史は現在と過去との対話である。過去は時間の序列に残された事実の軌跡としての みの意味をもつもので純なく,われわれが生存する現代にかかわることによって,はじ めて,意味をもつものである。
2.歴史のうちに生起する政治,経済,社会,文化の諸事象は,個々別々に独立して存在 するものではなく,必ずその時代の構造性の中に他の事象と相互に関連しあって多面的 な因果関係をもっているものである。
3.歴史はすべて連続性と非連続性の二面をふくめた変化発展の所産である。およそ歴史 的なるものは,その諸矛盾を克服しつつ過去,現在,未来にわたって発展していくもの である。しかしながら歴史事象は一回性と個性を具有するもので,相互につなぎがたい 断絶とみえる面もあるが,それとも,深い内的関連性をもつ場合が少くない。
4.歴史上の諸文明は民族的特性を基盤とし,独自の価値と体系とをもって形成され,ま た相互の文化的交流を通していっそう発展してきた。それぞれの文明は,その独自の発 展とそこにみられる類型性の相違にもかかわらず,その基底には共通の人間性が存在し,
全体として人類文化の発展に大きく寄与している。
5.歴史には,人間の自由な意志では,どうすることもできない面がある。しかしながら,
このような歴史的必然性にもかかわらず歴史の動向を決定するものは,自由な意志をも つ主体約な人間である。人間は歴史によってつくられたものであると同時に歴史をつく るものである。
(日本社会科教育研究会年報第XV集「社会科教育論叢」,広島大学教育 学部内・日本社会科教育研究会発行,1968年3月)
以上のようなフレームワークは,たしかに「思考」のそれであるが,これはおのずと,
上述のアメリカの場合と同様に,カリキュラム構成につながる重要な枠紐となるといえ
よう。
さて,理科について考えると,社会科と同様,物理的分野,化学,生物,地学のそれぞ
れの分野において,思考・技能を含んだフレームワークを作ることはできる。そして,こ
の種のフレームワークは後述のフレームワークの種類の一部に含まれてくる。しかし筆者
がさきに縦横二つの軸といったのは,いろいろなフレームワークはあり得るが,それらを
まとめて考えてみると,おおよそ二つに整理できるのではないかという考えに立っている
高野:教科目標から教育内容決定におけるフレームワークについて 25
わけである。この二つというのは,これまで行われてきた教科の目標についてのいろいろ な論議を大別すると,つぎの二つの流れにまとめられることに依存している。
A.実質陶冶主義……生徒にとって文化内容の獲得が中心目標になる。
B.形式陶冶主義……諸能力・態度の形成が中心で,文化内容はそのための材料・手段 である。
歴史的には古くは実質陶冶主義が圧倒的であったが,18世紀末から19世紀初め頃以後形 式陶冶主義が有力になり,「教育内容はそれ自身のために学ばれるべきではなく,むしろ 精神集中・注意力・思考力のような諸能力の形成のために学ばれるべきである。」 という 形で提出され,すぐれた個人的特質の形成がねらわれた。これに対する実質陶冶主義から の反論としては,「文化内容に没入することによって,必然的に注意・専心・勤勉.・持久 などの諸特質は養われるものである。」 という考え方が出てくる。
現在の理科の目標についてのいくつかの考え方を大ざっぱに断じてしまえば,例えば,
「自然科学の基礎を教えるのが理科である」とするのは実質陶冶主義にかなり近く,「科 学的な見方・考え方を養なうのが理科の中心である」とするのは形式陶冶主義に近い。も ちろん純粋に何れかの主義である主張はほとんどみられず,その中間に微妙なあやをもっ て存在しているといえようが,この二つの主張は現在においても伏線として論議の基本テ ーマとなっていると考えられる。以下もう少しくわしく吟味してみよう。
前述のように理科という教科の目標から教育内容を決定する,その方向に観点をおいて 考えてみると,何らかのフレームワークつまり,内容構成のための枠組が必要になる。こ
のフレームワークは大きく分けると,上述の実質陶冶面からと形式陶冶面からのそれにな る。この2種のフレームワークの内容をさらにいくつかに分類してみると,つぎのように
なる。
§2.フレームワーク1(実質陶冶面)
現在および過去における理科教育の内容についての構想の内,主として実質陶冶面から 考えられているものを,つぎにあげていく。
(1) 自然科学体系における主要な基礎的概念
物理学・化学・生物学・地学の各体系に基ずいて枠組をつくる。このフレームは,小学
校から中・高・大と上るにしたがって次第に重視される。しかし,小学校においても,ア
メリカの理科カリキュラムのCOPESの考え方やソビエトの課程などは,このフレームを
強く重視していると考えられる。ここでCOPESについてふれてみると,これは, Conce一一一
26 教育研究所紀要第一号
ptually Oriented Program in E!ementary Scienceの略である。科学における広く包括 的な概念,すなわち Great Ideas を中心にカリキュラム構成を行なうわけで,例えば,
(i)time, space, and motion; (2)pushes and pulls(forces);(3)matter and heat
等の教材構成をなす。このほか教材編成の観点として kinetic−molecular theory, stati−
stical view of the universe, conservation principles, gene theory of heredity 等;が とられている。もちろんこのフレームは,自然科学の進歩にともなって,その体系と基礎 的概念の変化を来たすことになる。
(2) 理科の対象である自然と人工物の牙類
これは,対象の分類によって内容選択をしていくフレーームであり,ふつうにはつぎのよ うになろう。
理科の対象
自 然
生物
o蟷
無生物
人工物 ^二物
物物質雑体
(5)学習者と自然の距離関係
いわゆる身の回りの自然から遠方の自然へと内容構成をしていき,学習の順序も同心円 的発展をなす。このフレームに近いものとしては,アメリカの「自然科」があり,また小 学校低学年理科ではこのような配列が行われやすい。
(4) 自然の綜合的把握
例えばドイツのユンゲ(F,Junge,1832〜1905)の「生活共同体」(Lebensgemeinschaft)
説がそれで,大自然の代表として,小規模ではあるが,まとまった一つの郷土の自然を教
育内容として構成するというように,自然の総合的把握によって構成される。ここでユン
ゲについてふれてみると,彼は小学校教師の経験から当時盛んであったリンネ流の系統
的,分類学的生物学を教える博物教授にあきたらず,教材としての自然に新らしい統一を
形成しようと努力した結果,「生活共同体」という概念に到達した。すなわち生物は孤立
的に共存するものではなく・相互依存の関係にあって・一つの関連体をなして生存するも
高野:教科国標から教育内容決定におけるフレーームワークについて 27
のである。したがって大きくみれば,地球上の生活体はお互いの関連のもとに1個の有機 的全体をなしているものであるという思想のもとに,その著「生活共同体としての村の 池」(Dorfteich als Leもensgemeinschaft)という教材のあり方を唱えた。それは郷土の 小生活共同体ではあるが,同時に大生活共同体の映像であり,一つの範例である。こうし て次第に生徒につぎの8種の「生物学的法則」(biologische Gesetze)を把握するように 指導するのである。
①保存適合性の法則・・…生物の住所・生活様式は生活構造と相関をもっている。例え ば魚は水中に住む。したがってヒレをもち,水中を泳ぐ。
② 有機的調和の法則……生活体の各部分が全体としての生活に役立つように,各生活 共同体を形成する。例えば植物が動物の生活に役立つように,地球上の全生活は有 機的に調和している。
③ 順応の法則……生活体はある程度場所の変化に順応する。動物の色が周囲の色を帯 びるように。
④分業(器官分化)の法則……器官が分化すればするほど生物全体の活動は益々完全 となる。
⑤発展の法則……各有機体は単純なものより,完全なものに発展する。
⑥ 形成の法則……現存の部分が新たに入りこむ部分に作用し,一定の形式をもった生 活体が発生する。ナシの花の胚子からナシの木のみ発生し,それは決してカシの木 とはならない。
⑦ 連関の法則……各器関は相互に依存し,また全体に依存する。
⑧節約の法則……自然は自分の目的を達するために最小の空間を利用する。葉は芽の 中に,羽はサナギの中にたたみこまれる。
以上の法則が果して法則とよべるかどうかは疑問はあるにしても,個々の精密科学め断 片的な成果を教えて消化不良を起している教育界に,一つの統一的な自然把握の仕方を示
したことは,独創的見解であったといえよう。またこの背景に,当時新興のダーウィン主 義を考えればその影響も無視できない。
(5)人類の自然利用の歴史の段階
ドイツのバイエル(0,W, Beyer)の開化史的段階説に基ずいた歴史的時代区分にした がって行なう追体験的学習の段階が,それである。バイエルは,その師チラ《Ziller)の開 化史的段階説,すなわち「教授の最高の目的は,子供に現代までの文化段階を理解させる
ことにある。」 という思想を理科にとりいれ,総合的理科教授の構想を立てた。そのため
28 教育研究所紀要第一・号
には,子どもをして原始時代以来今日に至るまでの各文化段階における人間の文化生活を 追体験(nacherleben)させつつ,現代の段階に及ぶことである。故に理科教授の内容は 人類の労働史であり,技術史であり,科学史でもあるということになる。
彼は科学的観点からみた人類の歴史をつぎの5段階に分け,各段階に対応する学習活動 を構案した。
① 狩猟時代……山野旅行と歩き回り ② 遊牧時代……動物の飼育と訓育・
③ 農業時代……学校園における活動 ④ 手工業時代……学校工場における活動、
⑤、大工業(科学工業)時代……学校実験室における研究的実験
そして,学習形態は「教科書を手にする代りに道具や装概を手にする」学習.となり,そ の自発的作業の過程において科学的思考力を働らかせるというあくまで実践的な性格をも
った総合的理科教授の構想であった。
§3.フレームワークH(形式陶冶面…科学の方法)
この科学の方法をもとにしたフレームは,質的には似たいろいろなものがあるが,代表 的なものをいくつかあげてみよう。
(1) AAASのプロセススキル
アメリカ科学振興協会(AmericaR Association for the Advancemeht of Science)の 中に,1962年科学教育委員会が設けられ,幼稚園から大学までの一一一 erしたカリキュラム作 成を目標に活・動を開始した。このAAAS理科の特徴は Process ApProach とよばれると ころによく現われている。すなわち,科学者と心理学者の共同研究によって,「科学研究 に従事している科学者の行動は,きわめて複雑な知的活動(プロセス)であるが,単純な 活動に分析することができる。」という立場から,つぎのようなi4個のProcess Skillsを 抽出し,これを理科で指導することによって, 「科学における楽しさや興奮,知的なカを めざめさせる」ことをねらっている。
Primary grades Observing
Comm. unicating
Classifying
高野:教科目標から教育内容決定におけるフレームワークについて 29
Inferring Measuring Predicting
Recognizing space一一time relationships Recognizing number relationships intermediate grades
Formulating hypotheses Making operational definitions
Controlling and manipulating variables Experimenting
Interpreting data ・i ・
.Formulating.mQdels
この14種のProcess Skillsは,そのまま科学の方法の部分を構成しているので,これ らのスキルを学習過程の中で落さないよう,教育内容決定のフレームとして使うζとがで
、きる。現にAAASのかりキュラムは多分にそのような観点から作られている。・
(2う NEA.の目標
NEAのEducation,一 and.‡he Spirit of 5cienceにのべられてy・る目標は・?ぎρよう、1な 科学の方法の項目を示している。 ・一
①②③④⑤⑥⑦ 科学知識を知り,理解することに対してあこがれをもつ。
すべてのことに対して疑問をもつ。
実験観察結果とその意味を探究する。
実証することを要求する。
論理に対する関心。
前提に対6する:考慮。
結果に対する考慮。
(5) M:STAのドウインゲスキル
アメリカのMichigan Science Teachers Associationで決定したDoing Skillsは,
つぎのようなものである。
①環境に起る事象を観察し,正確に報告することができる(話し,書き,描ぐことに
よって)。
30 教育研究所紀要第一号
②事象の共通点と相違点をつかむことができる(データーを蒐集し,表を作り,共通 点・相違点を抽出し,試験することを含む)。
③ 情報をより分けて,重要な事実・データを正しく評価でぎる。
④ 結論や解答を下すのに情報が十分か否かを吟味してから決定することができる。
⑤問題に対する解答を作るために,さらに必要な情報はいかなる種類のものかを決定 することができる。
⑥ 必要な情報を得るのに最も効率のよい方法を決断することができる。
⑦ 問題の解答を得る最善の方法は実験に頼ることであるとの確信のもとに,実験をど のように運んだらよいか計画できる。
§4,理科における実質陶冶と形式陶冶の関係
以上のようなフレームワーク1およびllについて,これまでどのような考え方の傾向が あったかと振返ってみると,ごく古くは,実質陶冶主義それも百科全書主義といった方が ふさわしい知識重視が行われたが,19世紀以降は形式陶冶主義が有力になった。わが国に おいても現場の実状は必ずしもそうではないにしても大体先進的な理科教育主張は,明治 以来,科学の方法を重視してきたわけである。これは今日でも,主流をなしている考えの 根本にひそんでいるといえよう。しかし,現在はこれに対する反論としての自然科学の基 礎知識を教えるという形での実質陶冶を重視する立場も存在し,両者の関係については,
+分解決されていない。
ここで少し単純化した表現をすれば,純粋な実質陶冶主義においては,不消化の知識の 集積を結果する可能性をはらんでおり,また純粋な形式陶冶主義においては,知識を単な る精神的栄養と考えて,科学の体系を無視する誤まりをおかしやすいということである。
このような両者のそれぞれの欠陥を是正するためには,何とか両者を結合させなければな らないのではないか。ところで,現代の自然科学における知識の性格を考えてみると,昔 に比べて著しく有機性・体系性を増しているのが特徴である。知識と知識の問の独立性は 薄れ,密接な関係が存在し,さらに大きな知識体系の一部を構成するようになってきてい る。記述科学の性格が大巾に薄れている。このような性格をもった知識は,昔,百科全書 主義的な実質陶冶重視がなされた時代における知識とは質を異にする。「したがって,現代 においては知識を教えるといっても必ずしも断片的な内容とはならない。一方において,
科学の方法は,現代においては単に形式的。精神的なものではなくなってきている。科学
の方法は主要な科学の基礎概念・基本概念によって構成される概念網と結びつき,それを
新らしい未知の場合に有効に適用し,修正しながら進んでいく過程の中に現われる。この
高辱:教科目標から教育内容決定におけるフレームワーークについて 31
ような結合は断片的な知識の場合には成り立たないが,現代科学における概念的知識はそ れ自身が構造的であり,科学の方法と密接に結合し得る性格をもっているので可能である。
したがって現代においては科学の内容と方法は,その一方のみを特に重点ずけて強調する ことは不自然である。内容と方法は固い結合をなしていくべきで真の科学の知識は真の科 学の方法によって学ばれるべきで,その逆もまた真である。このように,これからは,科 学知識は学習の目標でもあり,手段でもあるという弾力的な考え方に立って,内容と方法 の単なる対立を来すことなく,積極的に結合させ,新しい実質陶冶,新しい形式陶冶の考 えに立って目標意識をもつべきである。
§5.今後の社会からの教育内容への要求
ここでもう一つ考えておかなければならないことは,現代および将来の社会からの要求 である。20世紀後半は,工業先進国を先頭にして世界的規模で,技術革新の急速な発展 が進行してゆく時代である。原子エネルギーとオートメーシ。ン化による巨大な生産体制 がしかれようとしている。蒸気力と紡績機械を主軸として18世紀末に起った第1次産業 革命にまさるとも劣らぬ社会的意味をもった第2次産業革命が進行しつつある。ところで このような技術革新の時代は,また科学の時代であるといえる。科学の進歩が技術革新を 成り立たせ,また技術革新の進展が科学の躍進を促進していく。技術革新と科学とは互い に原因となり結果となりあって,進歩していく。こうみてくると,未来社会は科学知識・
技術が中心的な資源となる社会である。そして,生産場面ばかりでなく消費場面において も高度の知識・技能が高い役割を果すことになり,いわゆる高度情報時代となる。したが って国民の一人一人に高い科学的な学力を形成することは,時代の要請であり,国民の幸 福にも欠かせないものになる。
ところでこの高い科学的な学力とは,その内容はどんなものを含むのか,この問題を例 えば生産従事者の場合についていえば,大体つぎのようになる。つまりこれからの生産従 事者は,オートメーション化された機械を制御し,指示する立場に立つのであり,制御者 に必要な能力は,何かある一つの機械についての特殊知識や熟練であるよりはむしろ ① 科学的教養
② 技術一般についての統一的な理解や操作力
③ 望ましい性格態度(集中力・正確さ・敏感性・調和性・可塑性・その他)
等である。そして,学力の性格としては,何より生きた学力であり,発展性のある学力す
なわち転移のきく学力でなければならない。この点について,広岡亮蔵氏はつぎのように
いっている。
32 教育研究所紀要第一一号
「①物ごとのこまごました細口ではなく,その本質的な意昧構造が,②実感として主体 的に把持されてエネルギーを帯び,③それが類似構造をもつ他の物ごとにぶつかったとき にプ転移が生じる。つまりいわば物ごとの本質的構造を,実感をもって主体的に把握した 知識であるときに,転移力をもつ。これは,情緒化された意味把握(Emotionalized Un−
derstanding)といってもよい。細目の非構造的な把握であったり,たんに頭の上だけの 把握であるときには,転移力は生じない。」
このような学力観に立った理科教育が今後ますます要求されてくるであろう。
§6.教育内容の構造化における観点
教育内容の構造化とは,教育内容の本質をとり出し,・組織化することによって,構造
(Structure)を与えることである。教育内容の「精選」が,主として量的な改善を意味 するのに対し,「構造化」は質的な改善を意味する。教育内容の「現代化」という言葉が 盛んに叫ばれている現在,「現代化」と「構造化」の関係を明らかにしておくことが必要 であるが,一般的には両者は必ずしも一致しないといえる。理科においては,大体におい て高校・中学の段階の下現代化」はおのずと「構造化」をもたらすのでかなりよく一致し ているが,小学校特に低学年においては,いたずらに現代化の観点をとることは児童の実 態に調和せず,「構造化」は本来の意味での「現代化」を意味しない。この場合において は,「構造化」は大体,「本質化」の意味をもっていると解してよいであろう。
さて,教育内容の構造化は,比喩的にいえば,根。幹・枝。葉などからなる樹木として 考えることができる。もちろん,理科という一つの教科には何本かの樹木を考えなければ ならないが,それぞれの樹木がそのような構成部分をもつ仕組みをなしている。そこで,
教育内容を構造化するには,二本かの樹木とその根・幹を明確にとり出して構成すること である。一見雑然とした枝葉の知識の堆積をかきわけて,根・幹をとり出していく仕事が 重要になる。ところで教育内容の構造化といっても観点によって,根・幹が異なってくる。
これは,児童生徒の年令によるもので,つぎにやや具体的にのべてみょう。
(1)主として学問的観点からの構造化
この代表的な例としてPSSC(Physical Science Study Committee)物理の場合をと りあげてみる。いうまでもなく,この課程は,理科教 育の分野というよりは教育全体にお ける現代化運動のさきがけとして,1956年以来アメリカにおいて推進されてきたもので ある。この課程においては,原子論的立場,特に粒子性と波動性の二重性の認識とエネル
ギー概念に指導性をもたせて,相当思い切った改革を行なった。
高野1:教科ドi標から教育内容決定におけるフレームワーークについて 33
そして物理学の本質を探るのに圓り道になるようなものは,惜し気なく捨てるという結 果になっている。たとえば静力学・熱現象・音・交流などはすべて捨てられている。また 従来の教科書に書かれている技術的部分(原理から1歩応用に立入った部分)は,年々進 歩するものでこれを学んだだけで橋をかけたり,」e・一州ーの修理をしたりするような実際 に役立つ知識にはならないという理由で,思い切って整理された。
このコース全体にみられる注意、すべき傾向は,教育内容における高度の系統性ど自然科 学的方法の重視が両立していることで,教育法の本質からいっても漸新なものを含んでい
るといえよう◎
前述したように高校段階においては,「現代化」と「構造化」はかなりよく一致する。
したがって,主として学問的立場からの構造化が自然に可能になる。高校のそれまでの
,F物理」では力学・熱・音・光・電磁気・原子などの各部分が,他の教科に比べればまだ よいとしても,十分な一貫性をもたずに,並列的に構成されていた。またそれぞれの部門 内部の教材もかなり網羅主義的な多様さをもっていた。このような並列的・網羅的内容を 脱却して,「物理」の構造化を実現するのに,PSSCにおいては,現代物理学とりわけ原 子物理学からの視角をとることにした。物質を構成する単位である原子そしてそれを構成 する素粒子は,一一一一一一面では粒子として行動するが,他面では波動どしても行動する。この粒 子性と波動性の結合を「物理」の中心概念としてすえつけ,これをもとにして,つぎの四
つの基本要素を決定したのである。
第1は,「時間・空間・運動・物質」という基礎概念である。まず時間・空間概念は最 も基礎的な概念である。それは一般に自然科学的認識は時間・空間において起る事象の記 述・説明を内容とすることを考えれば当然である。「物理」の立場からいえば,時間と空 間は物理現象を測定する二つの単位系である。そして時間と空間の結合が運動である。運 動をするものは物質であり,物質を構成する単位は原子である。原子と原子の結合により 分子ができ,気体状態の物質における分子の運動は粒子モデルによって説明できる。
第2は「光」である。ふつうの光の現象すなわち反射・屈折などは粒子モデルによって 説明できるが,藏折現象や干渉現象は,波動モデルによらなければならない。光は粒子で
もあり波動でもあるという結論に到達することができる。
第3は「力学」である。運動をその原因である力との関係において,しらべ,運動量の 研究からエネルギー一保存則を導き出す。そしてエネルギー保存則は運動・熱・電磁気の各
エネルギー相互の転換に関与する。
第4は「電気と原子構造」であり,前の力学的知識に立って電荷問の引力の定量的研究
から始め,磁石と電流にもとつく磁界と,.運動する電荷に及ぼす磁界によるカに発展す
34 教育研究所紀要第一・号
る。さらに電荷に最小単位の存在を認め,電子。陽子等の質量の問題をあつかい,原子構 造に至り,その模型をとりあげる。
以上のようにあくまで,根。幹に視点をおいて,思い切って枝。葉を切りとった構造化 を主として現代物理学の学問的立場から行なっているのである。
(2)児童の「わかり方」の観点からの構造化
これまでのべた「主として学問的観点からの構造化」と対照的なものに,昭和43年改 訂の小学校学習指導要領の立場がある。ここでは,教育内容を決定し,構造化するのに,
児童の「わかり方」をもとにして行なっている。換言すれば自然を見るその仕方を児童の 発達段階に応じて考え,軸としている。このような観点に立つと児童に最も自然なわかり 方は,まず動物・植物の生物と生物以外の物(「かさ」と重さをもったものとして認識)
とに区分することである。そしてこの両者は密接な関係をもつが,両者をつなげるものと して「水・空気・土・太陽」をもってくる。このような考え方から小学校理科の教育内容 をつぎの三つの領域に区分する。
A.生物とその環境 B.物質とエネルギー C.地球と宇宙
ここでこの三領域にそれぞれの基本的内容の縦の深まりと,3領域相互の一般的内容の 横の拡がりという構造が成立するのである。ただA。C両領域は明らかに対象からの区分 であるが,B領域は対象であるとともに,その背後にある本質も含まれているといえよう。
ここで「B,物質とエネルギーjの領域における場合について,少し補足してみよう。
この領域においては,自然の事物・現象を互いに関連づけて考察させることによって,
① 物質と性質の理解
②物質の変化に伴っておこる現象やはたらきの理解
をねらっているのである。そして東京教育大学付属小学校荻須正義氏らによればつぎのよ うな解釈が成り立つ。
「物の性質がわかるということと,物が変化するときに起こるということは,互いに表裏 の関係にあり,これを切りはなして考えることは,効果的なしかたではない。光とか熱な どは,物をはなれて考えることはできない。光源,熱源とよばれる具体物と,もう1つの 具体物たとえば,光源に対して,影を作る物,鏡のように光の方向をかえる物,レンズや 凹面鏡のように光を集める物,水・ガラス・空気のように,光を通す物などが必要である。
光源と,この物との関係において,現象やはたらきを通して,そこに光の性質を理解し,
高野:教科際標から教育内容決定におけるフレームワークについて 35
光の概念を育てることもできる。光は,この2つの物の関係として存在を認識することが できるものである。一一方光の存在や認識が可能になると同時に他方では,物の性質も明ら かにされる。また熱や光が物の性質を変化させる原因であることがしばしばある。
このように物質とその変化は,物質と物と,エネルギーの理解とを同時に可能にする。
「物質とエネルギー」という区分は,こうした考えのもとに構成されている。
(井口尚之他「改訂小学校学習指導要領の展開・理科編」明治図書 !968年)
(5) 基本的な「科学概念」と「科学の方法」の観点から
(Dと(2)の中間的な姿をとっているといえるのが,昭和44年改訂の中学校学習指導要 領における立場である。ここでは教育内容の構成を,上記の二つの観点から行なってい
る。第1および第2分野のそれぞれにおいて,自然対象の統一的理解をめざして「基本的な 科学概念」を骨にして筋を通すことを考え,そこに「科学の方法」を適用し,紐み入れて いくわけである。例えばとかく内容が多岐にわたるために統一性を欠きやすい生物il勺内容 は,エネルギーの観点から,物質交代始め全教材に一貫した統一をもたせている。また
「基本的な科学概念」で仲々理解困難なものは,始めは不十分な理解しか得られないのを 覚悟の上で比較的見い時期に学習させ,その後次第にその概念を適用し深化する教材を出
して確実な概念把握に至らせるように考えている。例えば,熱・仕事・エネルギーの関係 は原則として1年生で学習させ,次第に認識を深化させながら,3年のエネルギーのすが たの移り変りに至っている。つぎに各分野の教材構械を表示しよう。
第1分野の教材構成
大 項 田 中 項 =一
1
年・
2
年
(1)物質の特性
(2)気体の識別と物質の分離
(3)力とエネルギー一
物質の量,密度,融点と沸点,溶解性
}気体の識別勿質の艦
力,力のつりあい,圧力,仕事とエネルギー,熱
H」・ Z・
と工不ルギー
(4)光とレンズ
(5)物質の三態
(6)物質と原子
(7)電流
光のエネルギー,凸レンズ,光の分散
物質の粒子モデル,気体の圧力と粒子の運動,熱 と粒子の運動
化合物と元素,化学変化の量的関係,原子と分子
電流回路,電流と電圧との関係,電流と電子,電
気エネルギー一
36
3
こ6
教育研究所紀要第・一一号
(8>物質と電気
(9) 電演ごと磁界
(1① 運動とエネルギー
イオン,イオン反応,物質の構造 磁界,電磁誘導
運動の表わし方,等加速度直線運動,力と運動,
エネルギーのすがたの移り変わり
第2分野の教材梅成
大 項 目 中
項 目
1
年
ω 自然とその中の生物
(2)生物の種類と生活
(3) 地球を取り巻く宇宙
生物の生活環境としての地球,地表における変化 と生物の生活
植物のおもな種類とその生活,動物のおもな種類 とその生活,微生物とその生活,生物と細胞,生 物の分類と系統
地球・月および太陽の形状と距離,太陽と地球の
P鋤太縣と太縣外のflご宙汰離靴地剛.
2
年
(4)生活活動のエネルギーと光 合成
(6)動物の物質交代
⑥ 大気中の水の循還
(7)流水のはたらき
生活活動のエネルギー,光合成と物質交代,植物 体内の物質の移動
血液とその纒着,消化器のつくりとはたらき,呼 吸器と排出器のつくりとはたらき
地表における水の循還:と太陽放射のエネルギー,
水の蒸発と凝結,雲と降水,大気の動きと気圧,
天気と気象要素との関係
流水のはたらきと地表の変化,地層のつくりと堆 積岩
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(8)生物の反応
(9)生物と環境
(10)地かくの変化と地表の歴史 t ll
(11)自然界のつりあいとその保護i
刺激に対する反応,動物の運動と行動 生物の環境との関連,生物相互の関連
火山活動とマグマの性質,マグマの活動と火成岩 の特徴,火成岩と造岩鉱物,地震,地かくの変動
と還三表1のi埜史