茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)113−125 113
大学教育における総合科目の実践と新しい評価の試み
〜教育科学「教育と人間」の評価視点をめぐって一
吉田 昭久・片上宗二・馬場 道夫
(1981月10月31日受理)
は じ め に
教員養成学部の授業科目においては, 「教員養成」の持つ特殊性と現行の学校教育制度の関連か ら,またその内容に即応して,教科・教材にかかわる専門領域が多岐にわたっている。そのため学 生達は,それぞれの専門領域間の総合や統合を,自ら図ることが極めて困難な状況り下で学習を余 儀無くされている。従って,学生達は,個々の専攻する専門領域に関する知識の集積は可能であっ ても,ともすると,「何のための,誰のための教育なのか」と言ったことや,「何を,何時,どの ように子ども達に提示すべきか」といった,いわば教育の基本的観点を主体的に押え,かつ位置づ けることの出来ないままに,学校教育現場へと巣立って行くことになりかねない。
このような状況の中で四年間を過さざるを得ない多くの学生達は,自らが教師として学校教育現 場に立つ時,文部省主導による指導要領体制下の学校教育の現実に埋没せざるを得なくなっている。
言ってみれば,それは,個々の教師が持たねばならぬ「教育の哲学」の不在の結果とも言える,現 在の教育界に生起している様々な現象の背後にある重要な課題 と視ることができる。
このような現象を押えて「教員養成」の問題を考える時,重要な視点として位置づけなければな らないものは,D 「人間」をいかに理解するか iD 「人間」はいかに形成されるか といった 問題であろう。しかもそれは,学校教育の現実と密接に関連づけられたところで,総合的,統合的 に捉える必要があるということであろう。
学校教育の現実を視る時,個別科学の専門領域が細分化された状況を反映して,各教科にわたる 子ども達の学習課題や内容もまた,専門分化されたもののモザイク的積み上げとなっている。言葉 の本質的な意味において,「教育」は,体系化のないモザイク的な知識の寄せ集めではその実を上 げ得ない。それは,現在の学校教育に現出されている状況が明示していることである。
そこで,「人間」と「教育」のつらなりの問題を,多側面にわたり体系的に学習課題として学生 に提示することにより,教育科学は何を志向するか の問題意識を持たせ得る授業が,「教員養成」
を目的に持つ大学の授業に準備される必要がある。
このような観点から「教育と人間」の授業は総合科目として位置づけられ,主として教育学部一・
二年次生を対象に,1977年度より開講されて来た。
本論文においては,1977年度より1981年度までの教育科学「教育と人間」の授業が,どのよ うな内容を持ち,どのような学生によって受講されたかを整理することを通して,その授業の構造 について点検するとともに, 「総合科目」という新しい授業形態における評価の視点とその方法に 関して,若干の問題提起を試みたい。
114 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特…集(1981)
1 教育科学「教育と人間」の授業構造 1.授業構造
前述した観点から, 「教育と人間」の授業構造では,D 「人間」とは何か, ii) 「人間」の 生長,iii) 「人間」の形成, vD 「人間」にとっての教育 の四視点に分節し,それぞれの視点を 構成する基本的,基礎的要件を二ないし三課題設定して,これを,表1−aに示すように,前学期授 業課題として配列している。次に,学校教育と「人間」とのつらなりの問題を考える視点として,
i)学校教育で形成されるもの,iD学校教育における教師の役割, ilD 「人間」の形成と教育 の三視点を設定し,それぞれに関して表1−bに示す三ないし四の授業課題を配分し,後学期の授 業を構成している。年度によっては,さらに幾つかの「教育と人間」に関するトピックスを挿入し
シンポジウムを設けている。
2.授業構造の変遷
教育科学「教育と人間」の授業は,1977年度より開講されたが,当初の教育学科と教育心理 学科の二学科によって準備された時点では,総合科目としての位置づけが明確ではなく,従って,
1977年度は前学期を教育心理学科 吉田力㍉後学期を教育学科 田代が分担して受け持つ方法を とっていた。1978年度は,教育学科の事情により教育心理学科教官のみによって授業を行なうとい う変則的なものとなり,「総合科目」の授業として実質的に機能するのは,表1−a,bに示すよ うに,1979年度からである。1979年度より教育学秘教育心理学科に加えて,社会科と体育科 の教官の参加を得て,ようやく「総合科目」としての体制を整えることが出来たのである。
皿 「教育と人間」の授業経過 1.各年度開設の授業経過
表1−a,bに示すように,授業内容は構成されているが,それぞれの授業担当教官からあら かじめ授業要旨が提出され,それによって各年度の授業の一貫化が図られることになる。これは,
講義要綱として一冊にまとめられ,授業オリエンテーシヨン時に受講学生に配布される。また,授 業課題に関連する参考文献,資料等は,各担当教官から必要に応じて授業時に提示される。
授業課題中,「討論」及びシンポジウムには,授業担当教官は原則的に全員出席し,学生との討 論に参加することが要請されており,従って,受講学生の側にも,全員出席が義務づけられること
になる。
2.受講生数の推移
1977年度より1981年度までの受講生数の推移を示したものが表2である。1977年度及び1978 年度は,「総合科目」としての位置づけが不鮮明であったこと,及び,授業履習上のオリエンテー
ションが不適切,不徹底であったことから,受講生が特定学科に所属する学生に偏ることになり,
その結果として受講生数は少なくなっている。1979年度から,「総合科目」として位置づけられ たことにより,受講生数の急激な増加を見ることになる。表2から,受講生は教育学部の各学科に 分散していることがわかり,他学部生も若干名ながら受講していることがわかる。また,特定の学 科の受講生が無いのは,学科受講指定の教養部開設授業との関連によるものであろう。
116 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
表1−b 授業構造の変遷 1978年度〜1981年度 後学期
1978年度 1979年度 1980年度 1981年度
授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官 授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官 授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官 授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官
学校教育と人間
後期授業オリエンテーション O期授業をまとめつつ.課題
起する 吉田昭久 世界における新しいw校教育の動向
後期授業オリエンテーション
@メリカ・イギリスの学校教育 フ動き
吉田昭久ミ上宗二
世界における新しい w校教育の動向
後期授業オリエンテーション Aメリカ・イギリスの学校教育 フ動き
吉田昭久ミ上宗二
世界における新しい w校教育の動向
後期授業オリエンテーション Aメリカ・イギリスの学校教育 フ動き
吉田昭久ミ上宗二
学校教育の中で形成 ウれるもの
授業,指導等を通して行われる,
u概念」の獲得について考える 馬場道夫 学校教育の中で形成ウれるもの 「概念」「認識」の形成 馬場道夫 学校教育の中で形成ウれるもの 「概念」 「認識」の形成 安達喜美子 学校教育の中で形成
ウれるもの 「概念」 「認識」の形成 安達喜美子
授業,指導,学校生活等を通し
〃 て行われる,「認識」の獲得について考える 安達喜美子 「動き」「運動」の認識と行動 野田洋平 〃 「動き」「運動」の認識と行動 野田洋平 〃 「動き」 「運動」の認識と行動 野田洋平
「学校教育」総体を通して行わ
〃 れる「知恵」(生きる)の獲得 安達喜美子 ノ 「人間の理念」の形成 津田 淳 〃 「人間の理念」の形成 津田 淳 〃 「人間の理念」の形成 津田 淳
にっいて考える 討論;学校教育の中
ナの重要な要素とは
スか
出されたリポートをもとに自 ネと学校教育との関係性をふま ヲ,「学校教育」の意義と意味 ノっいて考える
吉田昭久,他 〃 「生きる」知恵の獲得 片上宗二 〃 「生きる」知恵の獲得 片上宗二 〃 「生きる」知恵の獲得 片上宗二
学校教育の中での ウ師の役割
副題;化学者教育そしてさりげ ネい人間教育,概念,認識形成 フ問題について具体的人物をと 閧?ーつつ考える
木村俊夫 学校教育の理念とサ実 ュ題者;馬場・野田・津田・シンポジウム
ミ上 吉田昭久 学校教育の理念とサ実 高校教育の現状と展望 菊池龍三郎 学校教育の理念とサ実 高校教育の現状と展望 菊池龍三郎 副題;僻地における学校教育と
〃 社会教育,生きる知恵の形成の
竭閧 フ的人物を中心に考え 木村俊夫 学校教育の中でのウ師の役割 授業と教師 馬場道夫 〃 評価と学業不振 馬場道夫 〃 評価と学業不振 馬場道夫
てみる
〃
副題;権力者からみた教師 ミ会的役割との関連をふまえ考
ヲる 木村俊夫 〃 子どもの生活と教師 片上宗二 学校教育の中でのウ師の役割 授業と教師 吉田昭久 学校教育の中でのウ師の役割 教師とその「人間らしさ」 片上宗二
提出されたリポートをもとに,
討論;学校教育の中 ナの教師とは
自分にとって「教師」とは何で
?チたかをおさえつつ,学校教 吉田昭久,他 〃 教師とその「人間らしさ」 片上宗二 zノ 子どもの生活と教師 片上宗二 〃 子どもの生活と教師 吉田昭久
育について考える・
形成されるものとしての「人間」 一
人間の形成と「教育」 と,その「はたらき」としての
u教育」について総括的に検討 馬場道夫 冬季休業 〃 教師とその「人間らしさ」 片上宗二 〃 授業と教師 吉田昭久
する
冬季休業 討論;学校教育の中
ナの教師とは
提出されたリポートをもとに,
ゥ分にとって「教師」とは何か 考える
吉田昭久ミ上宗二 冬期休業 冬季休業
休講or補講 「人間の形成」と
u教育」 現代社会と子どもの教育 岡山 超 討論;学校教育の中ナの教師とは
提出されたリポートをもとに,
ゥ分にとって「教師」とは何か 考える
吉田昭久ミ上宗二
討論;学校教育の中 ナの教師とは
提出されたリポートをもとに,
ゥ分にとって「学校教育」とは,
u教師」とは何かを考える
吉田昭久ミ上宗二
人間形成と「教育」;
Gアメリカ合「州」
曹ノおける最近の動
「人間形成のための教育」の志
?ォのあらわれについて考えて
ンる 吉田昭久 〃 世界の学校教育の動き 吉田昭久 u教育」「人間の形成」と 家庭と教育 中原弘之 u教育」「人間の形成」と 家庭と教育 中原弘之
人間の形成と「教育」;
Cギリスにおける最近 フ動向
「人間形成と教育」を,学校教 轣C地域活動を通して具現しよ
、とする試みについて考えてみ 吉田昭久 〃 日本の学校教育の現実 吉田昭久 〃 社会と教育 岡山 超 〃 学校と教育 佐藤晋一
人間の形成と「教育」;
坙{の現実
現にわたくしたちのまわりにあ 驕C「教育」観,学校教育の現
タについて考えてみる 吉田昭久亀 現代社会と教育のロ題 ュ題者;岡山・中原・吉田・シンポジウム 片上宗二 〃 学校と教育 吉田昭久 〃 社会と教育 岡山 超
後学期試験
「論;「人間と教育 フつらなりとは」
提出されたリポートをもとに,
u人間と教育のつらなり」を考 ヲてみる
全 教 官
後学期試験
「論;「教育と人間」
フ授業を受けて
提出されたリポートをもとに,
u教育と人間」について考える 吉田昭久
ミ上宗二
現代社会と教育の ロ題
・シンポジウム
ュ題者;岡山・中原・菊池 片上宗二
後学期試験 ロ題;「教育と人間」
フ授業を受けて
全期総括テスト
、、
vノ
後学期試験
「論;「教育と人間」
フ授業を受けて
提出されたリポートをもとに,
u教育と人間」について考える魯 吉田昭久 ミ上宗二
●
吉田・片上他:大学教育における総合科目の実践と新しい評価の試み 115 表1−a 授業構造の変遷 1978年度〜1981年度 前学期
1978年度 1979年度 1980年度 1981年度
授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官 授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官 授業課題 授 業 内 容 概 略 担当教官 授業課題 授 業 内 容概 略 担当教官
「教育」と「人間」
フっらなり 授業オリエンテーション 吉田昭久 教官と受講学生の顔合せ
ゥ己紹介 全教官出席 教官と受講学生の顔合せ
ゥ己紹介 全教官出席 教官と受講学生顔合せ
ゥ己紹介 全教官出席
「人間」とは何か,
l間と動物
人間と動物を比較しながら考える カ理・生物学的視点をふまえ考 ヲる
馬場道夫 フっらなり「教育」と「人間」 授業オリエンテーション 吉田昭久 フつらなり「教育」と「人間」 授業オリエンテーション 吉田昭久 ミ上宗二
「教育」と「人間」
フつらなり 授業オリエンテーション 吉田昭久 ミ上宗二
休講or補講 休講・自宅学習 休講・自宅学習 休講・自宅学習
〃 社会的現象との関連で考える 吉田昭久 「人間」とは何か 動物と人間 馬場道夫 「人間」とは何か 動物と人間 馬場道夫 「人間」とは何か 動物と人間 馬場道夫
社会と人間
〃 人間関係の問題,個と集団の関係
吉田昭久 〃 人間と動物との相違 津田 淳 〃 人間と動物の相違 津田 淳 〃 人間と動物の相違 津田 淳
個と集団 の視点をふまえ考える 討論;「人間」とは
@ 何か
提出されたリポートをもとに,
T括的に「人間」の問題を 吉田昭久,他 〃 人間の理念 津田 淳 〃 人間の理念 津田 淳 zノ 人間の理念 津田 淳
考える
「人間の成長」,
^動機能の獲得
理・生物学的視点をふまえな ェら,人間の「動く」ということ
考えてみる
吉田昭久 〃 ュ題者・馬場・津田・片上。シンポジウム 吉田昭久 〃 ュ題者;馬場。津田・片上・シンポジウム 吉田昭久 「人間」の形成 社会と「人間」の形成 岡山 超
〃
六脳生理学的機序をおさえなが 言語の獲得 ら,人間にとっての「言語」を
lえる
安達喜美子 「人間」の形成 社会と「人間」の形成 岡山 超 「人間」の形成 社会と「人間」の形成 岡山 超 〃 学校と「人間」の形成 馬場道夫
大脳生理学的機序をふまえなが 、
〃
贒ョ・情緒の分化 ら,情動・情緒の発現と開発を lえる
中原弘之 〃 学校と「人間」の形成 馬場道夫 〃 学校と「人間」の形成 馬場道夫 〃 家庭と「人間」の形成 中原弘之
討論;「人間の成長」
@ とは何か
提出されたリポートをものに,
ゥ己の生育史をふまえながら u成長」ということを考えてみる
吉田昭久,他 〃 家庭と「人間」の形成 中原弘之 〃 家庭と「人間」の形成 中原弘之 フ形成の基礎過程)「人間」の生長(人間 運動機能の生長 野田洋平
「人間の形成」 親子関係の視点から考える 中原弘之 i人間形成の基礎過程)「人間」の生長 運動機能の生長 野田洋平 フ形成の基礎過程)「人間」の生長(人間 運動機能の生長 野田洋平 〃 意欲・感情の育成 中原弘之
ノ 学校教育の綿点から考える 馬場道夫 〃 意欲・感情の育成 中原弘之 〃 意欲・感情の育成 中原弘之 〃 認識の形成 安達喜美子
〃 社会状況との関連から考える 岡山 超 〃 認識の形成 片上宗二 〃 認識の形成 安達喜美子 スか「人間」の形成とは ュ題者;馬場・津田・佐藤・シンポジウム 吉田昭久
ミ上宗二
討論;「人間はいか ノ形成されるか」
提出されたリポートをもとに,
ゥ己をふりかえりつつ, 吉田昭久,他 夏季休業 夏季休業 夏季休業
考えてみる
夏季休業
討論;人間はいかに
̀成されるか サの基礎過程を踏えて
提出されたリポートをもとに,
u自己」をふりかえりつつ課題 ノついて考える
吉田昭久 ミ上宗二
討論;人間はいかに
̀成されるか一
サの基礎過程を踏えて
提出されたリポートをもとに,
u自己」をふりかえりつつ課題 ノついて考える
吉田昭久 ミ上宗二
討論;人間はいかに
̀成されるか一
サの基礎過程を踏えて
提出されたリポートをもとに,
u自己」の成長過程をふりかえ 閧ツつ課題について考える
吉田昭久
ミ上宗二
一
人間にとっての
u教育」 社会状況との関連から考える 岡山 超 「人間」にとっての
u教育」 社会状況と教育 岡山 超 「人間」にとってのu教育」 学校教育の意味と意義 馬場道夫 「人間」にとってのu学校教育」 学校教育の意味と意義 佐藤晋一
〃 家庭教育の視点から考える 中原弘之 〃 学校教育の意味と意義 馬場道夫 〃 近代公教育の理念と現実 菊池龍三郎 〃 近代公教育の理念と現実 菊池龍三郎
〃 学校教育の視点から考える. 馬場道夫
前学期試験
「論;「わたくしに ニっての教育とは何か」
提出されたリポートをもとに,
ゥ己の受けた「学校教育」を lえる
吉田昭久 ミ上宗二
前学期試験
「論;「私にとっての ウ育とは何か」
提出されたリポートをもとに,
ゥ己の受けた「学校教育」を考 ヲる
吉田昭久 ミ上宗二
前学期試験 ロ題;「私にとっての ウ育とは何か」
前学期総括テスト
前学期試験 提出されたリポートをもとに,
討論;「わたくしに 自己の受けた「学校教育」を 吉田昭久,他 とっての教育とは」 考えてみる
吉田・片上他:大学教育における総合科目の実践と新しい評価の試み 117
皿 授業評価の方法
1.提出リポートの評価
表1−a,bにも示されているが,各年度のリポート及び討論課題を整理すれば,表3のよう になる。リポート課題は,講義要綱中のあらかじめ指定した日に提示され,その提出にあたっては,
授業課題の「討論」の日に受講生各自によって提出することが義務づけられている。1981年度にお いては,前学期・後学期の両試験期間中に,時間内リポートを課している。各年度のリポート提出状 況を整理すれば表4のようになり,リポート未提出者は,男子学生の方が女子学生より多いことが 示されている。リポートの評価は,提出回数,及びその内容によってなされるが,評価の視点に関し ては後述する。
2. 「討論」への参加の評価
各年度の「討論」課題については表3に示したが,表1−a,bと照合すればわかるように,
「討論」課題は,授業課題との関連において設定されている。その際,各課題とも,受講生各自の 自己体験を,課題に即した具体的事実に照合しながら考察することが要求される。 「討論」への参 加は,受講生に義務づけられていることはすでに触れた。従って,「討論」への参加は,教育科学
「教育と人間」の総合的評価において重要な位置を占めていることになる。
3.総合評価
上述の提出リポートの評価,及び「討論」への参加の評価を総合して,受講各学生に対する評 価はなされるが,各年度別の評価の結果を整理すれば表5のようになる。
y 授業評価の視点 A 1.課題意識
1)大学教育における評価と講義のあり方
大学教育といっても,その内容は,形式的には教養課程の段階と専門課程の段階という風に分 けて考えなければならないし,それが講義形式によるものか,それとも演習ないしは実習形式によ るものかなどの区別をしておくことも必要である。また,それらの背景をなすそれぞれの学問の特 質をも考慮しておかなければならないであろう。つまり,大学教育における評価のあり方は,それ がどの段階の,どのような形式による,どのような学問についての教育なのか といった問題とセ ットの形で考えられなければ,生産的な形で問題は考えられない。これが,大学教育における評価 を考える際の第一のポイントである。
第二のポイントは.小学校から高校までの教育の場合と同様に,評価のあり方をそれ自体として
… ●
リり離して技術的に考えてはならない という点である。具体的に言えば,大学教育といえども,
評価のあり方を考えるということは,大学の授業の改善という方向性を持つものだということであ る。逆にいえば,大学における授業の改善の可能性を探るためにも評価の問題を考える というこ とになる。
以上,二つのポイントから,総合科目としての教育科学「教育と人間」の場合を中心に,大学教
118 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
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吉田・片上他:大学教育における総合科目の実践と新しい評価の試み 119
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120 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
育における評価のあり方を考えて行くことにしたい。
2)評価の視点からみた「教育と人間」の特徴
● ●
u教育と人間」は,言うまでもなく教養課程における,人間と教育に関する学問を背景とした 講義形式による総合的は授業である。その目的は,人間の生長・発達に関わる知識の切り売りにあ
るのではない。関連しつつも,専門性の異なる多くの教官により,学生に対して,教育についての 全体的展望とそれについての問題提起や揺さぶりが,様々な角度からなされることが目指されてい る。そのために,学生による討論が授業過程に組まれ,教官によるシンポジウムも立てられている。
従って,この授業を受講する学生に対する評価も,通常「一回限りの測定」という形でなされる,
大学教育に特有な評価の仕方はとりえなくなることは言うまでもない。では,どのような評価の仕 方がとられるか。それは,次の二点にまとめられる。それは,
i)自己(学生)の言葉による自己の被教育体験を踏まえた,複数回のリポート提出の持続性 ii)自己のリポートを踏まえての討論への参加の度合い である。
その具体的な評価の方法については後に触れることにするが,ここで触れておきたいのは,「教 育と人間」の評価の仕方が,大学教育における評価の問題の中心をなす D一回限りの測定によ
る評価 iiD教えたものの学生による再生の度合い測定による評価 をなんとかして避けたいとい う願いに支えられているということである。
2.評価の視点と評価の具体的方法
評価の一般的な視点は,第一に,学生や人間の生長や発達・学習に関わる課題について,教官 の講義やシンポジウムを参考にしつつも,どれだけ自己の体験を踏まえた,主体的な考察を深めて いるかという点に求められている。この点を計るために,表3に示すような自己の具体的体験に即
したリポート課題を課すのであるが,そのリポートは,表1−a,bに示すように,講義の流れに 添って一定の区切りごとに提出を求めることになる。その回数は,表4に示すように,1977年度の 二回を除いて四ないし五回である。
リポートを具体的に評価する方法としては,i)リポートが講義のまとめや,書物の引き写しで はなく,どめ程度学生自身の言葉で,被教育者としての彼らの体験を踏まえて書かれているか,
ii)その考察にどの程度の首尾一貫性があるか, iii)その考察に何らかの独自性があるか の三点 を考慮しつつ,VDリポートそのものが何回提出されているか をみるという方法である。
ところで,評価の第二の視点は,学生による討論への参加の度合い等を重視するという点である。
後に述べるように,学生数の増加によって,現在のところ,評価の方法として必ずしもうまく機能 しているとは言えないが,そのねらいは次の点にある。すなわち,教師による評価ばかりではなく,
学生による自己評価をも同時に試みさせることである。学生にリポート提出を課していることは上 に述べたが,このリポート提出は討論への参加とセットになっていることが,表1−a,bに示す ように, 「教育と人間」の特徴であり,講義開始時の授業オリエンテーションで,自らの書いたリ ポートをもとに討論に参加することを要請している。従って,学生にとって討論への参加とは,i)自 己のリポート内容の点検 の 他者のリポートとの関係における自己の考察の相対化 の過程を 経ることであり,それは,自己評価の過程を意味することになると言えよう。
吉田・片上他:大学教育における総合科目の実践と新しい評価の試み 121
表4. リポート提出状況
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122 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
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