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青年前期における教師・生徒間の社会的相互作用について

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(1)

青年前期における教師・生徒間の社会的相互作用について

夢         安 達 喜美子*・橋 詰 明 枝**

(1996年10月14日受理)

On Social−interactions between Teacher and Students in early Adolescence

Kimiko ADAcHI*and Akie HAsH【zuME**

(Received October 14,1996)

1.問題提起と研究目的

教育というものを,教育者と被教育者の間柄に起きる現象とし,「子どもの社会化」の側面からと らえたとき,教師は「意味ある重要な他者(準拠者)」であるといえる。これは古来から洋の東西を

問わずあるもので,たとえば,ソクラテスとプラトン,孔子と孟子の師弟関係のように,師の思想 や生き方そのものから影響を受け,時にそれは弟子その人の一生を決めたり,歴史を方向づけるも のだった。親子,兄弟,友人,配偶などの関係と同様に,教師(師)と生徒(弟子)の関係は相互

作用を及ぼす重要な人間関係の一つであり,教師は大きな人的環境であったわけである。

歴史的変化とともに,技術の伝授と習得のみを目的とした師弟関係も出てきたが,現代に至って はどうであろうか。古来のようなマンツーマン的関係ではなく,現代では教育活動自体大きくシス テム化し,学校という機関が社会化機能を委託されて教師と生徒の関係を支えている。一日の生活 の多くを学校で過ごす現代の子どもたちにとって,教師とのかかわりはこれまでと変わりなく重要

であるといえるだろう。

しかし現代の日本では,学校以外の社会化機関として重要と思われる家庭や地域の力が弱くなっ ており,子どもの社会化のエージェントとしての役割が学校に集中してきてしまっている。そのな かでの教師と生徒の関係も質的に変化していると考えられる。本来家庭でおこなうべき教育がおろ

そかにされ,勉強に駆り立てる言葉を子どもに対して多用していることによって家庭は学校化し,子 どもの社会化の準拠者として,親は形骸化してしまっている。(日本PTA協議会の学校生活アンケー

トによると,親の53.6%がいじめの原因はr家庭の教育力低下』であると答え,r学校・教師の教育

力低下』とした12.6%よりも大きく上回り学校より親の責任が大きいという認識が示された。/北 海道新聞1996年8月21日朝刊)。また,地域にも各家庭に欠落している教育力を支えるような結び

*茨城大学教育学部(〒310水戸市文京2−1−1:Faulty of Education.1baraki Univcrsity, Mito,310 Japan)

**釧路市立桂恋小学校(〒085釧路市桂恋172番地;Elementary School of Katsurakoi in Kushiro City 172

Katsurakoi Kushiro O85 Japan)

(2)

276      茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)

つきや教育の補完の力もなく,事実上子どもにとって人間的関係をもつ場は学校に限られているの が現状なのである。このような状況では,親が満たしてやるべき心理的なサポートが不足または欠 如しているため,誰かがその穴を埋めなければならないことになるが,これを学校の教師が引き受 けざるをえないという状況にあるのが現実である。つまり,教師の役割の拡張化が起きているとい

える。

現代の教師はよく「サラリーマン教師」などといわれて,そのかつての聖職としての教師像に比 べ,その役割の放棄を指摘されるが,実際は教科学習を通して知識や技術を与えることだけではな く,親が担うべき役割までも補完して担わなければならない重要且つ過重労働の立場にある。学校 自体が学力偏重などの社会化のアンバランスな傾向に陥っていたり,マス・メディアの強力な作用 が及んでいたり,歪みの多い複雑な現代社会のなかで様々な役割を負わされているのが教師なので

ある。

このように,教師の意味が変化し,多様なかかわりを求められてきている現代において,教師と 生徒はどのようにかかわりあっているのだろうか。特に生徒が精神的自立,自己確立をめざして模 索する青年前期に両者がどのような関係にあるとき,いかなる作用が起こっているのかを明らかに

し,現代の教育におけるより望ましい教師・生徒関係を探るするために本研究をおこなった。

2.調査方法

(1)質問紙調査法:大学生を対象として,自己の小学校高学年時代または中学校時代を思い起こし

てもらって,反応してもらうという遡及法による質問紙調査をおこなった。質問項目は調査対象と

なる学生への心理的影響を考慮し,プラス面の影響にしぼって設定し,作成した。

・最も強く影響を受けた先生についての質問

小学校高学年または中学校で出会った先生のなかで最も強く影響を受けたと思っている先生

一人について,そのときの回答者の学年,先生の年齢・性別・立場を尋ねた。

・教師の類型化と関係の構造についての質問

教師と生徒の関係について,ベイトソンの相互作用パターン軸,準拠者の機能軸,岸田(1967)

の教師認知に関する研究などを参考にしながら,具体的質問項目は表1に示すように,教師の生 徒に関わる場として生活,学習,課外の3つの指導場面を考え,それらの場面での関わりを支配,

受容という2つの教師姿勢の基本枠を設けた。提示した質問項目としては6つの型に2項目ずつ

12項目設定した(表2)。その中から最も当てはまると思われるものを選ぶように教示された。

表1教師の指導場面と関わり方の類型

生  活 学  習 課  外

支   配 管理・規制 成績重視 厳格監督

受   容 援助・適応指導 態度重視 温厚顧問

(3)

表2指導姿勢の測定項目

1.集団生活の秩序や校則を重視した。

2.個人的な話や悩み事の相談などに親身に応じた。

3.生徒の言葉づかいや態度に厳しかった。

4.生徒の自主的活動を尊重し,必要に応じて助言した。

5,試験の結果や点数を重視した。

6.学習への意欲的な取り組みを重視した。

7.授業を中心に多量の知識の習得を目指した。

8.試験の結果よりも,学習の過程における努力を評価した。

9.課外活動で部内の規律や技術の向上を重視した。

10.生徒とともに課外活動を楽しんだ。

ll.課外活動で好成績をおさめることに熱心だった。

12.課外活動以外でも生徒の面倒を見,公私共に支援した。

・教師との関係がもたらした影響についての質問

多くの社会化のモデル研究に用いられている,影響の方向を参考にして対自・対外の2つに 分け,それぞれに社会化の選択学習内容を4つずつ割り当てて計8つの枠組みを設けた(表3)。

対自的方向には人生観価値観,理想,関心を考え,対外的方向には対人技術,問題解決,性 役割,態度を考えて,それぞれに2項目ずつ計16項目(表4)を設定した。その中からあて

はまるものを選ぶように教示された。

表3社会化の選択学習内容

対    自   的 対   外    的

人生観 価値観

理想

関 心 対人技術 問題解決 性役割 態 度

(4)

表4社会化の選択学習内容の項目

L その先生の充実した生き方を見て,自分もそのように生きたいと思った。

2.人の話に耳を傾けることができるようになった。

3.外的基準に頼らずに善悪の判断が出来るようになった。

4。わからないこと,納得のいかないことは,聞いたり調べたりするようにな

った。

5.自分の将来の進路や仕事を決めるきっかけになった。

6.その先生の男性(女性)としてのふるまいを見習いたいと思った。

7.それまでの自分の興味や関心がさらに深まり,新しい分野にも関心をもつ

ようになった。

8.自分のよいところに気づき,自信を持てるようになった。

9.人のために努力することを大切にするようになった。

10.仲間と助け合っていく姿勢が身についた。

lL相手を思いやる気持ちを大切にするようになった。

12.困難な事態にあったときの対処の仕方が分かるようになった。

13.自分のもつ理想や信念の基盤ができた。

14.その先生の結婚や家庭についての考え方が参考になった。

15.人類や自然など多様な対象に目が向き,視野が広くなった。

16.意欲的,積極的に物事に取り組むようになった。

17.その他(       )

・影響の契機についての質問

先生から受けた影響の契機について,印象に強く残っているエピソードなどを自由に記述し てもらった。

(2)調査期日及び調査対象:1994年11月28日及び12月3日に茨城大学学生の男性99名女性122

名,計221名を対象に調査をおこなった。なお平均年齢は19.14歳であった。

3.結果と考察

(1)最も強く影響を受けた先生のその当時の年齢,性別,立場,回答者自身の学年は以下のようで

あった(表5)。

(5)

表5影響を受けた先生像

先生の特性 回答項目

実数

① 先生の年齢 20代 66 29.9%

30代 92

41.6%

40代 47

21.3%

50代 16 7.2%

② 先生の性別 男性 170

76.9%

女性 51

23.1%

③ 先生の立場

学級担任

160

72.4%

それ以外

61

27.6%

④ 回答者自身の 小学校5年 32 14.5%

その当時の学年 6年 38 17.2%

中学校1年 49

22.2%

2年 49

22.2%

3年 53

24.0%

表5に示すように,強く影響を受けた先生として多く挙げられたのは,年齢は30代(41.6%),男

性(76.9%)の学級担任(72.4%)であった。これは,現在の学校の内部構造から,小学校の児童

の場合はある程度妥当なところであろうが,中学校の場合は担任以外の教師との接触もかなりある と考えられるが,学級担任が多く選ばれているのは何故なのだろうか。心理的密着が起こっている のだろうか。学級担任の枠内でも,クラブや部活動の顧問とかけ持ちであって,その両面から影響 を受けている人や,それ以外の枠では課外活動の顧問,教科担任などが挙げられた。本来はこれら の結果について有意差の検定をすべきところであるが,出会った教師の年齢や性別等と子どもの年

齢の比較分析がまだ十分ではないので,ここでは単なる実数とパーセンテージのみで示しておく(相

互の関連については次回に報告したい。)。

(6)

280      茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)

子どもが先生から強く影響を受けたと感じた当時の自分の年齢については,とくに際立ったひら きはないが,小学校よりも中学校の方が影響を受けていると述べている人が多く(10%台から20%

台に),とくに中学校3年が各学年のなかで最も多くなっている。これは,中学校3年が進路選択の 重要な時期となっているために,この点に関しての影響が他の学年に比べて大きくなっているので

あろうと思われる。

② 教師の類型化と関係の基本的な構造について

前出の関係の基本枠に沿ってまとめたものを,以下全体について(表6),男女別について(表7),

学年別について(表8),それぞれ割合で示す。あてはまる項目についた○印を1点としてその得点

を集計したものである。

表6教師との関わりの型 (全体)       (%)

生  活 学  習 課  外

支  配 7.27 3.74

12.56

23.57

受  容

34.80 13.44 28.19

76.43

42.07

17.18

40.17 100.00

表7 教師との関わりの型 (男女別)       (%)

生  活 学  習 課  外

支  配

7.1 3.6

13.8

24.5

受  容 34.2 10.2 31.1

75.5

支  配

7.4 3.9

11.6

22.9

受  容 35.3 15.9 25.9 77.1

(7)

表8教師との関わりの型 (学年別)      (%)

生  活 学  習 課  外

支  配

8.8 4.4

1L8

25.0

小5

受  容 26.5 16.2

32.3 75.0

支  配 1L4

1.3

12.7

25.3

小6

受  容 29.1 16.5 29.1

74.7

支  配

6.0 6.0

16.2

28.2

中1

受  容 33.3 12.8 25.6

71.8

支  配

4.7 1.2

12.8 18.6

中2

受  容 40.7 14.0

26.7 81.4

支  配

6.7 4.8 8.7 20.2

中3

受  容 41.3

9.6 28.8 79.8

表6,

表7,表8に示したように,いずれもほとんど同じような傾向をもっており,生活場面にお

ける教師の受容型姿勢が最も多くなった(援助・適応指導型)。

性別でみると(表7),男女共に受容型が70%以上となっており,うち生活場面がいちばん多いが,

課外活動場面も25%をこえている。やや趣を異にするのは,男性では課外の場面が多いのであるが,

それに比して女性は学習場面の率が少し高くなっていることである。また生活場面も女性のほうが

男性よりも若干高くなる傾向にあるように思われる。

学年別では(表8),教師の受容型がやはり多く,その中でも年を追うごとに学習や課外といった

場面よりも生活場面での教師との関わりが大きくなってくることがわかる。これは,子ども自身が,

小学校から中学校へと新しい環境に入って今までとは違った厳しさを感じたり,思春期の不安定な 気持ちや自分の進路への不安が強くなったりすることから,自分の存在を認め,親身に関わってく れる先生の力が非常に大きいということを示しているのではないだろうか。またその一方,小学校

(8)

282      茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)

に比べて中学校になると教師の態度も厳しく変わってくるので,子どもだけの変化とは一概には言

えないところがある。この点についての詳細は次回に触れたい。

(3)教師から受けた影響について

社会化の選択学習内容の8つの観点において,教師から影響を受けた,あるいは今でも受け続けて いるものについては以下のような結果になった(表9,表11)。集計については,あてはまるものの

○印につき1点,その中でも大事な◎印には2点を配して計算した。

影響の方向性を「対自的」と「対外的」の2つに大きく分類したが,男女別,学年別,

自的方向性が対外的方向性よりも多くなっていて,対自的方向への影響はほぽ60%近くを占めてい

る。教師から受けた影響は,内面的なものが大きいようである。

男女別に影響側面をみていくと,「理想(信念・目標・進路)」がともに最も高くなっている。こ れは,「理想」という項で大きく括ったが,進路決定も含んでいるのでそれが強く反映されているも

のと思われる。

表9教師から受けた影響 (男女別,全体)      (%)

影響

対   自  的

対   外   的

対人 問題

人生観 価値観 理想 関心 性役割 態度

技術 解決 方向性

15.0 14.2 23.1 10.0 8.6 7.5 6.7 15.0

100.0

12.4 16.2 21.4 7.9 14.0 8.1 2.9 17.1

100.0

全 体 13.6 15.3 22.1 8.8 11.6 7.8 4.6 16.2

100.0

方向性 59.8 40.2

100.0

この性別と影響について分散分析をおこない,差を調べた結果を以下に示す。

(9)

表10−1男女別影響の集計表

人生観 価値観 理想 関心 対人

Z術

問題 性役割 態度

男 54 51 83 36 31 27 24 54

360

55 72 95 35 62 36 13 76

444

計 109 123 178 71 93 63 37 130 804

表10−2分散分析表

変動因      SS      df      MS      F

性         220       1     220   1.25

景多響       3455      7      494       2. 8 1 *

性×景多響         338         7        48     0. 27

w      2810       16      176

T      6823       31

*5%水準で有意

上記表10−2に示したように,影響の主効果はみられたが,性別における有意差や交互作用はみ られなかった。

これをさらに多重検定したのが表10−3である。5%水準で「理想」と「性役割」に有意差が認

められた。教師からの影響のうちで「理想」が大きいのに対し,「性役割行動」についての教師から の影響はかなり小さいものに留まるといえる。

わずかではあるが,「対人技術」と「性役割行動」において男女による違いがみられることに注意 したい。「対人技術」では約5%ほど女性のほうが多く,「性役割行動」では約4%男性のほうが多く

なっている。これは,影響を受けた教師の77%近くが男性の教師であったこととも関わっているで

あろうが,男女によって教師の受けとめ方が違うこと,教師は性役割行動のモデルにはなりにくく,

影響としては中性的にはたらくことなどが考えられよう。

(10)

284      茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)

表10−3多重検定表

性役割問題解決 関心 対人技術人生観 価値観  態度  理想

9.3     15.8     17.8     23_3     27.3     3〔L8     32.5    44.5

性役割   9.3 一        6.5      &5     14.O     l8.0     21.5     23_2    35.2*

問題解決  15.8

一        2.0      7.5     11.5     15.O     l6.7    28.7

関心   17.8

一        5.5      9.5     13,0     14.7    26.7

対人技術  23.3

一        4.0      7.5      9.2    21.2

人生観   27.3

一        3尋5      5.2    1乳2

価値観   3α8

一    1.7 13.7

態度   32.5

一  12.0

理想    44.5

*5%水準で有意

表ll教師から受けた影響 (学年別)       (%)

影響

対   自  的

対   外   的

学年

人生観 価値観 理想 関心 対人

Z術

問題

性役割 態度

小5 15.6 15.6 15.6 ll.0 ll.9 8.3 4.6 17.4

100.0

6 1ま3

15.9 23.2 6.6

132

6.6 1.3 19.9

100.0

中1

11.4 10.3 21.7 14.9 7.4 10.9 7.4 16.0

100.0

2

14.9 13.8 24.9 5.0 9.9 8.3 5.5 17.7

100.0

3 13.4 20.7 22.9 7.4 15.4 5.3 3.7 11.2

100.0

(11)

次に学年別に影響の側面をみていく。こちらにおいても学年と影響についての分散分析をし,そ れそれに有意な差がみられるのか確認をした。その集計表,分散分析表,多重検定表を表12−1,表

12−2,表12−3に示す。

表12−1学年別影響の集計表

人生観 価値観 理想 関心 対人 問題

性役割 態度 技術 解決

小5

17 17 17 12 13 9 5 19 109

6

20 24 35 10 20 10 2 30 151

中1 20 18 38 26 13 19 13 28 175

2

27 25 45 9 18 15 10 32 181

3

25 39 43 14

39

10 7 21 188

109 123 178 71 93 63 37 130

804

表12−2分散分析表

変動因      SS      df      MS      F

学年        258      4      65   1.81 影響       1382      7     197   5,47**

学年×影響      497      28      18   0.50 w      l429       40       36

T      3566       79

**1%水準で有意

(12)

286      茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)

ここでも影響の主効果(1%水準)のみで,学年についての有意差や交互作用はみられなかった。

これをさらに多重検定し,影響の項目の差のみられるところを特定していった。

表12−3 多重検定表

性役割問題解決 関心 対人技術人生観  価値観  態度  理想

9,3    15.8    17.8    23.3    27.3    3α8    32.5    44・5

性役割   3.7 一        2.6      34      5,6      7.2      &6      9.3   14.1**

問題解決  6,3 一        〇.8      3.0      4.6      6.0      6。7   11.5**

関心    7.1 一        2,2      3.8      5.2      5.9   10.7**

対人技術  9.3 一        1.6      3.0      3.7    8.5

人生観   10.9

一        1.4      2.1    6.9

価値観   12.3 一   α7 5,5

態度   130

一  4.8

理想    17.8

**1%水準で有意

以上のことから「理想」と「性役割⊥「理想」と「問題解決の方法」,「理想」と「興味・関心」の 間に有意差がみられた。

それらをふまえながら学年ごとの受けた影響の傾向を詳しくみてみると,どの学年であっても対 自的方向が60%程度を占めており,その中でも「理想」が約20%となっている。また中学校3年で

は対自的方向が他の学年に比べてわずかに多くなっている。中学校1年においては「関心」の項が高

く,全体をみても他の学年に比べて偏りが少ない。このことから,中学時代は自己確立の模索をし ながらしだいに自分の進むべき道を決めていくときであるだけに,学年が上がるにつれて教師の影

響もより内的に強くなっていくことがうかがえる。

(4)影響の契機について

先生から受けた影響の契機を調べた。自由記述によっているので内容を分類して頻度を表13に示

した。

印象に残る言葉として挙げられたものをいくつか引いてみる。「結果ばかりでなく,その過程こそ

が大切だ。」「世界は広い。 井の中の蛙 になるなよ。」「何でも思いっきり取り組め。」「他人がどう

言おうと,指を差されても自分の決めた道を歩いて行くのが大切だ。」「人生は演劇だ。そしてその

主人公はお前たち一人一人なんだ。」「やることをやれば自ずと道は開ける。」「自分が思っている以

上に(いじめられている)あの子は傷ついて思い込んでいるのよ。」「お前はチームに必要で,大切

(13)

な存在なんだ。」「人には誰にでも長所や短所があるのだから,その人の短所ばかり見るのではなく,

長所を発見しようと思うことが大切。」などであった。

表13影響の契機 (頻度3以上の20項目について)

影  響  の  契  機

頻度

1.印象に残る言葉を与えられた。

25

2.本気で怒られた。 16

3.その先生のような教師になりたいと思わされた。 11 4.役員や部のリーダーになって話を聞いてもらうようになった。 8 5.親身になって相談にのり,助言をしてくれた。 7

6.その先生の授業が楽しかった。 7

7.生徒にも一人の人間として対等に向き合ってくれた。 7 8.自分に合った高校や将来の職業をすすめてくれた。

6

9.生徒と一緒になって活動してくれた。

5

10.その先生の日頃の態度,物事への取り組みが積極的だった。

5

11.褒めることと叱ることのけじめがあった。

5

12.熱心だった。

4

13.陰の努力を評価してくれた。 4

14.先生の体験談を聞かせてくれた。

3

15。熱血漢でパワーがあった。 3

16.厳しかった。

3

17.合宿などで学校以外での先生の姿が見られた。

3

18.褒めてくれた。

3

19.勉強以外の課外活動などの努力も評価してくれた。 3 20.一人一人と日記をやりとりしてくれた。 3

頻度の高かったものとして,2つ目に「本気で怒られた」「真剣に叱ってくれた」ということが挙 げられた。また,教師になりたいと思うのが多いのは,調査対象が教育学部生がほとんどであった ことからこのような結果になったのであると思われる。授業についても楽しかったと契機に挙げら

れているのが7っあった。

中学生の時期を中心とした青年前期において,その教師と生徒の関係のあり方を探っていくねら いで,最も影響を受けた教師についての調査をおこなった。その結果,教師の生徒に対する姿勢が

受容的であり,学校での生活場面においての関係が一一番生徒に影響を与え得ること,その影響とい

(14)

288      茨城大学教育学部紀要(教育科学)46号(1997)

うのは,生徒の理想,信念,目標,進路に最も強く関わるということが傾向として見えてきた。総 括的にいうとそのようになるが,少し細かく見ていくことにする。また,教師と生徒の関係は,生 徒が教師をどうとらえているか,という生徒側の認知レベルでの教師像とそれに基づく関係である

のでそれをおさえた上で考察していく。

まず教師姿勢の類型である。支配型に比べて受容型が圧倒的に多い。約3倍で70%以上を占める。

やはり生徒が影響を受けたと感じて自分のなかでそれを大切に守っていくのは,単に権威によって ぐいぐいと生徒を引っ張っていく教師ではなく,対等な位置で生徒の話を聞き,適宜助言をしてい く教師との関わりなのであるといえる。また教師の指導場面として多く挙げられたのが生活場面と 課外場面である。学習場面というのは教える側の教師と教えられる側の生徒の本来基本的な関係が 築かれる場なのであるが,両者のかかわり合いが少ない,それほど重要な影響は受けていないとい

うことになる。しかし短絡的に決めつけることはできなくて,生徒側が意識していなくても一日6時

間近くもある学校の授業であるから,何かしら刺激を受けてどこかで実を結ぶ下地を作っているこ とも考えられる。直接評価に関わってくる場面であるから難しいところであるが,逆にここを見直

して,より積極的に教師と生徒の関係を持っていくことも考えられよう。

教師の型と場面を組み合わせてみて気づくのは,生活場面で受容型が圧倒的なのに対し,課外場 面で支配型が比較的多いことである。生徒にとっては学校生活の堅苦しい枠組みから離れて,好き な活動をしながらコーチ役となった教師に怒鳴られたり一緒に笑ったり,ここでしか味わえない身

近な兄や姉のような教師との関係は,かなり印象の強いものなのであろう。

逆に生活場面では,勉強や友人などの悩みを抱えながら窮屈な学校生活を送るため,親身になっ て寄り添ってくれるような教師の存在が大きいのであろうと思われる。生徒自身不安定なときだけ に,権威的なものに反発しながらも,自分を受け入れてくれる,認めてくれるような拠り所として 教師を見ているといえるのではないだろうか。教師側もこの精神的な距離のとり方に配慮する必要

がある。

大学生によって過去を振り返って回答していく形をとったため,その当時の印象とはだいぶ違っ てきているかもしれない。だが時間を経てはっきりと分かることがあり,また根本は変わらないこ とから,中学時代にどんなことが必要かをここから考えることができると思われる。まさに教育は

このような長期的展望をもっているものなのである。

次に教師から受ける影響である。自己の内面に関わる影響(人生観価値観,理想,関心)と,表 面的側面に関わる影響(対人技術,問題解決,性役割,態度)とに分けると前者が約60%,後者が 約40%を占める。つまり教師は対自的方向にはたらきかける力が大きいのである。社会化の準拠者 のなかでもフォーマルな関係でありながら子どもの最も身近な人物の一人である教師の,特徴的な

ところであろう。それはとくに「理想」と「性役割」にあらわれていると思われる。「理想」には進

路や将来の職業選択も含めたことから,唯一20%をこえるものとなった。生徒側のある選択の危機 に際して,教師の人生示範的影響は非常に大きいと考えられる。ここでは直接進路指導を受けたこ とからか,それとも別のことからかは判別できないが,何か将来を見通して判断し,決定を下すと きに教師の影響の及ぶところが他に比べて大きいといえるであろう(もちろんこれは教師一人にお いてのことであって,進路選択には親や家庭,社会状況などの要因がからむので,他の要素も含め

ると教師の位置は相対的に低くなることは予想される。他の影響側面についても同様である。)。

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一方「性役割」については8つのうちで最も低い。性役割行動についての準拠者は親であると考え

られるので,教師の役割としては低いのであろう。

いずれにしても決定的なある一つの事柄の影響というよりも,日常の教師の姿を生徒は良く見て いて,そこから徐々に変化をしていくような影響を受けているのだと思われる。関係が信頼を基盤 として堅固に作られた上に,とても印象に残る一言が与えられたり,本気で叱られることがあった り,悩んで苦しいときにその思いを聞いてもらったりすると,そこでより大きな影響が生徒に与え られるのである。

生徒の受ける教師からのプラス面での影響は,生徒が教師に受け入れられて,対等に認められて

いると感じられる肯定的な関係でより深く強くなるといえる。

教師の役割が変化し,拡張化してきている現代において保たれている教師と生徒の関係,またそ

こにみえる問題点について,今後引き続きさらに詳しく追究・検討していきたい。

引 用 文献

安達喜美子・菊池龍三郎,1986.「青年における Significant Othersの意味」「地域における青少年教育のシス テム化に関する基礎的研究』(S60年度マツダ財団助成研究).

岸田元美.1967.「児童・生徒の教師認知に関する測定論的研究(1)一とくに教育的指導態度に対する認知

について一」r徳島大学学芸紀要』第15巻.

参照

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