コロナ禍は、未来に何をもたらすのか?
What Does Corona's Evil Bring to the Future?
神奈川県立保健福祉大学 学長 中村 丁次
Teiji Nakamura, President of Kanagawa University of Human Services
大学の価値は、教育、研究を発展させることにあるが、その内容は社会の変化と深く かわっている。第二次世界大戦以後、大学は社会との距離を置いた。科学者が戦争に加 担した反省があり、教員は世間から「何を考え、何をするのかわからない人」つまり、
世間離れした変わり者として見られた。その後の高度経済成長期には、科学技術の必要 性により大学と社会との関係は急速に増大した。最新技術を駆使したメイドインジャパ ンが、世界を圧巻した。あまりにも急激な変化であったために、その歯車の一部になる ことに学生は反発し「産学共同反対」と叫んだ。世界中の学生が授業を放棄し、大学は 混乱し、社会への扉を閉じた。
しかし、高度経済成長後、大学は秩序を取り戻し、最先端科学技術の発展、国際競争 力の増大、グローバル化の名のもとに、社会と密接な関係をもち、両者は密接な関係を もつようになってきている。多くの大学の教員が目的にした「真実の探求」は、いつの 間にか「社会への貢献」へと変わり、社会改革のエビデンスづくりが科学の目的だとも 言われるようになった。神奈川県立保健福祉大学は「人々の健康や福祉のため」となる。
このことは価値ある方向性であるが、気を付けなければならないことは、社会の役に立 たないことは価値がないと判断することである。真実の探求、未知なることの解明は人 間の本質であり、これこそ大学の普遍的価値であると思っている。このような基礎研究 を無視すれば、いかなる実践研究も砂上の楼閣になるからだ。
さて、今回、COVID-19 の感染予防のために大学はキャンパスを閉鎖した。理由は 以前と異なるが、当時、在学していた者には懐かしい風景である。大学紛争は、東大医 学部のインターン制度や学費値上げが当初の原因であったが、キャンパスに入れない若 者は根源的問いかけをするようになった。「原子力研究はトイレの無い家を作るような ものだ」と、農業を始めた物理学者。「ゲノム研究は、人工人間を創造する」と、小料 理屋を始めた生化学者、「公害の研究の方が重要だ」と栄養学教室から出ていった者。
一年以上の研究、教育の中止は、大学人の人生や研究テーマを大きく変えた。
さて、今回のコロナ禍は、大学人にどのような変化をもたらすのか。人間にとって価 値ある変化であることを願うばかりである。