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エデュテインメントスタイル指導方法についての一考察

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(1)

エデュテインメントスタイル指導方法についての一考察

土屋 広次郎

Kojiro Tsuchiya

はじめに

私は大学教員になる以前は、中学校、高等学校の女子校、男子校で非常勤講師を10年間、

他にミュージカルスクール、合唱、カルチャースクール等にて指導しながら、バリトン歌 手として、オペラや演奏会に出演していた。中・高の指導では、初めは多くの失敗を経験 した苦渋の日々であったが、ある時、舞台パフォーマンスと授業は同じでは?と考える様 になり、効率的で効果的な指導方法の可能性について模索を始めるようになった。オペラ の芝居や、トークコンサートの様に筆者の声を試行錯誤しながら変化させるなど、「楽しめ る授業」をすることにより、以前よりは指導効果が現れるようになった。

現在も音楽の興味や声に自信が無い学生への指導方法を研究し続けているため、合唱やレ ッスンの初回授業では、歌うことについて必ず「歌が好きな人〜」と問いかけている。大 半が手を挙げた後に「では、歌が得意な人〜」と、また問いかける。すると、得意な人に対 して殆ど手が挙がらないというのが、毎回の結果である。そして、T:何故得意と思わない のか?」「A:自信が無いから」「T:自信が無いって誰が決めたのか?」「A:」という会話 になるのも毎回のパターンである。自信を持つことは歌を学ぶ上で重要な思考である為、

授業やレッスンでは先ず、この「自信」をつけることから始めるようにしている。

根性や指導者の叱責から這い上がり、自信に溢れた演奏家になれる人材は僅かであり、

才能がないとされた(自覚した)演奏家は次々に振り落とされる「頂芽優勢」が音楽界の 図式である。では「優勢」としてアピールが出来なかった多くの若き音楽家や音楽初習者 は、「才能がない」で片づけられて一流演奏家の夢を終えてしまっていいのか?生まれ持っ ての精神的強さが無ければ、もう伸び代は皆無なのか?歌や楽器を習得するためには、身 体や心にストレスを感じてしまい、上手く学べない人や、身体的才能があっても自信が無 く諦めてしまう人などのケースを多く見てきた。演奏研究だけでなく、自ら進んで学び、

自分の可能性を信じ、社会へと繋がる人材育成ができる指導方法を著者は研究しているこ とから、本稿では高校、大学の授業導入部にて、指導者と受講者がエンターテイナーとな

(2)

って歌唱表現を楽しみながら学ぶ「エデュテインメント1スタイル」と名付けた授業の可能 性について多角的視点から考察する。

1.中学高等学校の授業

文部科学省が提示している高校芸術授業それぞれの目標基底は、芸術の幅広い活動を通し て各科目における見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の芸術や芸術文化と豊かに関わ る資質・能力を次のとおり育成することを目指すとし、

(1) 芸術に関する各科目の特質について理解するとともに,意図に基づ いて表現するための技能を身に付けるようにする。

(2) 創造的な表現を工夫したり,芸術のよさや美しさを深く味わったり することができるようにする。

(3) 生涯にわたり芸術を愛好する心情を育むとともに,感性を高め,心 豊かな生活や社会を創造していく態度を養い,豊かな情操を培う

ということを明示している(文部科学省 2009)。これに沿って芸術科目の音楽、美術、書 道教員は授業を遂行しているが、近年では英語等の授業増加により高校3年間芸術科目を 履修する生徒は減少傾向の学校が見受けられ、本学に入学してきた学生にも、これまでの 音楽授業学習内容について聞いてみると、驚くほどの差がある。そして「芸術」に対して 多くの教師は興味が湧く指導工夫に努めるが、成績評価の段階評定配分比率に合致せざる を得ないことから、結果として難解さ、表現力未習得は、音楽嫌いや音楽に自信がない生 徒を生産する音楽室となってしまうことが多い。『2018 年問題とこれからの音楽教育(久 保田慶一著)』の中で「教科としての音楽で児童・生徒の評価はできないとなると、音楽は 学校教育、少なくとも義務教育からは排除されてしまう」という意見もあるように、高度 で困難な授業内容は避けられないのが現実である(久保田 2017: 79

少々古いデータだが、国立教育政策研究所が全国公私立学校小学 6 年〜中学 3 年生約

3,000人を対象に平成2010月〜平成212月に調査した「特定の課題に関する調査」

結果を参考にあげると、「音楽の学習は好きですか」の質問に 79.5%、「音楽の学習は大切

1 エデュテインメント(Edutainment)エンターテインメント+エデュケーションの造語。

と思いますか」に対しては71.3%肯定的な回答であり、「音楽の学習は普段の生活に役立つ と思いますか」には54.7%「音楽の学習は,将来の生活や社会に出て役立つと思いますか」

に対して肯定的な回答をした生徒は49.3 %という数字から、好きで大切とは思っているが、

社会との接点や学習効果を具体的に理解していない生徒もいるという結果が見え、10年経 過した現在でもあまり変化していない印象がある(国立教育政策研究所教育課程研究セン ター 2009

学校、教員の中には素晴らしい功績を遂げて地域音楽文化活動に貢献されているケース もあるが、音楽の授業は「授業の息抜きであり、社会に繋がる為にはアーチストか音楽関 係の仕事に就く」という認識がやはり強い。音楽の授業は、生き生きとした歌唱や演奏が 出来るだけでは無く、社会で活用出来る自己表現力、コミュニケーション力が身に付き、

音楽を感じ、楽しむことで「自然と」心と体も鍛えることが出来る科目である。文科省も 以下のように述べていることから、不安定な社会に対して、自らで考える力とコミュニケ ーション力習得の為に、教育機関においての音楽科目は最重要科目と言える。この裏付け については後程述べる。

1-1 学習指導要領「生きる」

新学習指導要領について政府広報オンラインのホームページには「生きる力」という言葉 を使い、以下のような文言が掲載されている。

グローバル化や人工知能・AIなどの技術革新が急速に進み、予測困難なこれ からの時代(中略)子供達がそのような「生きる力」を育むために、学習指 導要領が約 10 年ぶりに改訂され、2020 年度より小学校から順に実施されま す(中学校高等学校は順次実施されていく)(政府広報オンライン 2019

この文に対して、音楽の授業は自己表現力を学び「生きる力を」育成する教科であり、

歌唱表現力の向上を目指すことは AI による予測困難な社会に対してコミュニケーション スキルアップに繋がる。更に改訂理由としては、以下の文章が続いている。

近年、グローバル化や、スマートフォンの普及、ビックデータや人工知能の 活用などによる技術革新が進んでいます。10年では考えられなかったような

(3)

って歌唱表現を楽しみながら学ぶ「エデュテインメント1スタイル」と名付けた授業の可能 性について多角的視点から考察する。

1.中学高等学校の授業

文部科学省が提示している高校芸術授業それぞれの目標基底は、芸術の幅広い活動を通し て各科目における見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の芸術や芸術文化と豊かに関わ る資質・能力を次のとおり育成することを目指すとし、

(1) 芸術に関する各科目の特質について理解するとともに,意図に基づ いて表現するための技能を身に付けるようにする。

(2) 創造的な表現を工夫したり,芸術のよさや美しさを深く味わったり することができるようにする。

(3) 生涯にわたり芸術を愛好する心情を育むとともに,感性を高め,心 豊かな生活や社会を創造していく態度を養い,豊かな情操を培う

ということを明示している(文部科学省 2009)。これに沿って芸術科目の音楽、美術、書 道教員は授業を遂行しているが、近年では英語等の授業増加により高校3年間芸術科目を 履修する生徒は減少傾向の学校が見受けられ、本学に入学してきた学生にも、これまでの 音楽授業学習内容について聞いてみると、驚くほどの差がある。そして「芸術」に対して 多くの教師は興味が湧く指導工夫に努めるが、成績評価の段階評定配分比率に合致せざる を得ないことから、結果として難解さ、表現力未習得は、音楽嫌いや音楽に自信がない生 徒を生産する音楽室となってしまうことが多い。『2018 年問題とこれからの音楽教育(久 保田慶一著)』の中で「教科としての音楽で児童・生徒の評価はできないとなると、音楽は 学校教育、少なくとも義務教育からは排除されてしまう」という意見もあるように、高度 で困難な授業内容は避けられないのが現実である(久保田 2017: 79

少々古いデータだが、国立教育政策研究所が全国公私立学校小学 6 年〜中学 3 年生約

3,000人を対象に平成2010月〜平成212月に調査した「特定の課題に関する調査」

結果を参考にあげると、「音楽の学習は好きですか」の質問に 79.5%、「音楽の学習は大切

1 エデュテインメント(Edutainment)エンターテインメント+エデュケーションの造語。

と思いますか」に対しては71.3%肯定的な回答であり、「音楽の学習は普段の生活に役立つ と思いますか」には54.7%「音楽の学習は,将来の生活や社会に出て役立つと思いますか」

に対して肯定的な回答をした生徒は49.3 %という数字から、好きで大切とは思っているが、

社会との接点や学習効果を具体的に理解していない生徒もいるという結果が見え、10年経 過した現在でもあまり変化していない印象がある(国立教育政策研究所教育課程研究セン ター 2009

学校、教員の中には素晴らしい功績を遂げて地域音楽文化活動に貢献されているケース もあるが、音楽の授業は「授業の息抜きであり、社会に繋がる為にはアーチストか音楽関 係の仕事に就く」という認識がやはり強い。音楽の授業は、生き生きとした歌唱や演奏が 出来るだけでは無く、社会で活用出来る自己表現力、コミュニケーション力が身に付き、

音楽を感じ、楽しむことで「自然と」心と体も鍛えることが出来る科目である。文科省も 以下のように述べていることから、不安定な社会に対して、自らで考える力とコミュニケ ーション力習得の為に、教育機関においての音楽科目は最重要科目と言える。この裏付け については後程述べる。

1-1 学習指導要領「生きる」

新学習指導要領について政府広報オンラインのホームページには「生きる力」という言葉 を使い、以下のような文言が掲載されている。

グローバル化や人工知能・AIなどの技術革新が急速に進み、予測困難なこれ からの時代(中略)子供達がそのような「生きる力」を育むために、学習指 導要領が約 10 年ぶりに改訂され、2020 年度より小学校から順に実施されま す(中学校高等学校は順次実施されていく)(政府広報オンライン 2019

この文に対して、音楽の授業は自己表現力を学び「生きる力を」育成する教科であり、

歌唱表現力の向上を目指すことは AI による予測困難な社会に対してコミュニケーション スキルアップに繋がる。更に改訂理由としては、以下の文章が続いている。

近年、グローバル化や、スマートフォンの普及、ビックデータや人工知能の 活用などによる技術革新が進んでいます。10年では考えられなかったような

(4)

激しい変化が起きており、今後も、社会の変化はさらに進むでしょう(中略)

このように社会の変化が激しく、未来の予測が困難な時代の中で、子供たち には、変化を前向きに受け止め、社会や人生を、人間ならではの感性を働か せてより豊かなものにしていくことが期待されています。(政府広報オンライ 2019

そして平成2930年度新学習指導要領では既に「何を学ぶか」だけでなく、「どのように 学ぶか」「何が出来るようになるか」を掲げ子供たちの生きる力を育む力を身につけ、自分 の道を切りひらくことを指針とし、新学習指導要領のタイトルには「生きる力 学びの、

その先へ」と銘打っている(文部科学省 2020)。そして「改訂に込められた思い」という 欄には以下のように記載されている。

学校で学んだことが、子供たちの「生きる力」となって、明日に、そしてそ の先の人生につながってほしい。これからの社会が、どんなに変化して予測 困難な時代になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して 行動し、それぞれに思い描く幸せを実現して欲しい。そして、明るい未来を、

ともに作っていきたい。(文部科学省2017

1-2 改訂ポイント

幼稚園教育要領、小・中学校、高等学校学習指導要領の改訂ポイントでは以下のように 記載されている。

知・徳・体にわたる「生きる力」を子供たちに育むため、「何のために学ぶの か」と言う学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の 改善を引き出していけるよう、すべての教科等を、①知識及び技能、②思考 力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の三つの柱で再整理

資質・能力の育成に当たっては、生徒が「音楽的な見方・考え方」を働かせて学習活動に 取り組めるようにすることを示したとあり、各教科のカテゴリー内に留まらない学習を促 している。

2.学ぶとは

世界的オペラ歌手の素養を持っていても、自信が無ければ才能が開花することはない。

だが、「自分の能力を信じていれば習得が可能であり、自分の能力は既に限界だと考えてい れば習得成果が上がりにくい」と提示している心理学者ジャン・ピアジェ(Jean Piaget, 1896- 1980)の認知学習理論(CLT: Cognitive Learning Theory)や、アルバート・バンデューラー

Albert Bandura, 1925-)の「自己効力感(期待に対して、自信を認知していること)」で明

示しているように、自らが自信を持って取り組めば、才能は花を開き始める。だが「成績 のため」等の外発的動機づけ(extrinsic motivation)が思考にある時は、「自発的動機づけ」

の 内 発 的 動 機 づ け (intrinsic motivation) が 低 減 し て し ま う ア ン ダ ー マ イ ニ ン グ 効 果

undermining2を生じさせ、技術上達を妨げることになりやすい。つまり報酬志向ではな

く、自ら進んで学ぶことが最も重要である。脳は10歳でほぼ完成し20歳台で成長を止め るが、脳の配線は年齢に関係なく成長し、新しい配線を作り出していることから、脳の可 塑性は自ら成長を妨げない限り、刺激を与え続ければ筋肉同様に、年齢に関係無く鍛える ことが可能であるということを、教員も生徒も認識しておくことが重要である。

2-1 何のために音楽を学ぶのか

前に述べた「音楽の授業で学んだことは社会に役に立つと思うか?」のアンケート結果 では半数は役に立つと述べてはいるが、演奏家を目指す以外に具体的に何に役立つか、何 のために学んでいるのかイメージをせずに学習している可能性があることから、抽象的な 目標ではなく、具体的なゴールを明示する必要がある。

内閣府は平成15年に「若者に夢と目標を抱かせ、意欲を高める」として「人間力」、厚 生労働省は平成16年に「就職基礎能力」として「コミュニケーション能力」「職業人意識」

「ビジネスマナー」「基礎学力」「資格取得」を提唱、経済産業省では平成18年に「社会人 基礎力」として「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力から、

基礎学力と専門知識との相互作用によって人間性、基本的な生活習慣を、会得することを 提唱している。前出した文科省の「生きる力」に繋がることから、自分を信じ、指導者は 信じさせ、柔軟な思考力を身に着けつつ、これらの力をつけることが明確な目標と考える。

2 報酬無しでやっていた行為に対し、報酬を与えることによってモチベーションが低下する現象。

(5)

激しい変化が起きており、今後も、社会の変化はさらに進むでしょう(中略)

このように社会の変化が激しく、未来の予測が困難な時代の中で、子供たち には、変化を前向きに受け止め、社会や人生を、人間ならではの感性を働か せてより豊かなものにしていくことが期待されています。(政府広報オンライ 2019

そして平成2930年度新学習指導要領では既に「何を学ぶか」だけでなく、「どのように 学ぶか」「何が出来るようになるか」を掲げ子供たちの生きる力を育む力を身につけ、自分 の道を切りひらくことを指針とし、新学習指導要領のタイトルには「生きる力 学びの、

その先へ」と銘打っている(文部科学省 2020)。そして「改訂に込められた思い」という 欄には以下のように記載されている。

学校で学んだことが、子供たちの「生きる力」となって、明日に、そしてそ の先の人生につながってほしい。これからの社会が、どんなに変化して予測 困難な時代になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して 行動し、それぞれに思い描く幸せを実現して欲しい。そして、明るい未来を、

ともに作っていきたい。(文部科学省2017

1-2 改訂ポイント

幼稚園教育要領、小・中学校、高等学校学習指導要領の改訂ポイントでは以下のように 記載されている。

知・徳・体にわたる「生きる力」を子供たちに育むため、「何のために学ぶの か」と言う学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の 改善を引き出していけるよう、すべての教科等を、①知識及び技能、②思考 力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の三つの柱で再整理

資質・能力の育成に当たっては、生徒が「音楽的な見方・考え方」を働かせて学習活動に 取り組めるようにすることを示したとあり、各教科のカテゴリー内に留まらない学習を促 している。

2.学ぶとは

世界的オペラ歌手の素養を持っていても、自信が無ければ才能が開花することはない。

だが、「自分の能力を信じていれば習得が可能であり、自分の能力は既に限界だと考えてい れば習得成果が上がりにくい」と提示している心理学者ジャン・ピアジェ(Jean Piaget, 1896- 1980)の認知学習理論(CLT: Cognitive Learning Theory)や、アルバート・バンデューラー

Albert Bandura, 1925-)の「自己効力感(期待に対して、自信を認知していること)」で明

示しているように、自らが自信を持って取り組めば、才能は花を開き始める。だが「成績 のため」等の外発的動機づけ(extrinsic motivation)が思考にある時は、「自発的動機づけ」

の 内 発 的 動 機 づ け (intrinsic motivation) が 低 減 し て し ま う ア ン ダ ー マ イ ニ ン グ 効 果

undermining2を生じさせ、技術上達を妨げることになりやすい。つまり報酬志向ではな

く、自ら進んで学ぶことが最も重要である。脳は10歳でほぼ完成し20歳台で成長を止め るが、脳の配線は年齢に関係なく成長し、新しい配線を作り出していることから、脳の可 塑性は自ら成長を妨げない限り、刺激を与え続ければ筋肉同様に、年齢に関係無く鍛える ことが可能であるということを、教員も生徒も認識しておくことが重要である。

2-1 何のために音楽を学ぶのか

前に述べた「音楽の授業で学んだことは社会に役に立つと思うか?」のアンケート結果 では半数は役に立つと述べてはいるが、演奏家を目指す以外に具体的に何に役立つか、何 のために学んでいるのかイメージをせずに学習している可能性があることから、抽象的な 目標ではなく、具体的なゴールを明示する必要がある。

内閣府は平成15年に「若者に夢と目標を抱かせ、意欲を高める」として「人間力」、厚 生労働省は平成16年に「就職基礎能力」として「コミュニケーション能力」「職業人意識」

「ビジネスマナー」「基礎学力」「資格取得」を提唱、経済産業省では平成18年に「社会人 基礎力」として「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力から、

基礎学力と専門知識との相互作用によって人間性、基本的な生活習慣を、会得することを 提唱している。前出した文科省の「生きる力」に繋がることから、自分を信じ、指導者は 信じさせ、柔軟な思考力を身に着けつつ、これらの力をつけることが明確な目標と考える。

2 報酬無しでやっていた行為に対し、報酬を与えることによってモチベーションが低下する現象。

(6)

昨今、どの音楽大学も専門分野だけのカリキュラムではなく「リベラルアーツ」の視点 で他分野の中心に音楽を置く考えを掲げるようになったが、ハーバード大学やマサチュー セッツ工科大学などアメリカの多数の大学では、演奏を通じて思想、発想力、ディスカッ ションを学び、創造力やイノベーションなどのスキルを身に付けることが出来ることから、

音楽を通じて幅広い視点で社会へと繋がるツールとしての音楽という位置づけが日本の音 楽大学カリキュラムでも参考にされている(菅野 2015)。

楽器や歌唱技術を習得することは、脳内では脳梁が大きくなり、運動野、視覚野、空間 視覚野の灰白質も大きくなり、古い脳(原始的な脳)と言われる大脳辺縁系にも影響を与 え、記憶の海馬、ドーパミンやアドレナリンを放出する扁桃体の活性に繋がる様になる。

そして、共感や知識など社会性を保つ前頭連合野(新しい脳)は大脳辺縁系の調節や制御を 促すようになる。これらのことから、他の教科学習の意欲にも繋がるため音楽科教育は不 可欠であり、有益な授業であることを学生と教員が意識すべきであり、社会生活に大きな 影響を及ぼす科目であることは明白な事実であると言える。

2-2 歌いたい気持ち

ではなぜ人間は歌を歌いたくなり、歌うのか。歴史についての追求はここではしないが、

初期人類は獲物獲得の手段でリズムに合わせ集団で歌うなど、なぜ歌い始めたかは諸説あ る(ジョルダーニア2017。が、本能(原始)的な感覚、つまり大脳辺縁系が刺激される「情 動」が歌を歌わせる欲求となったことが原点と考える(森田 2017)。そしてよく耳にする

「言葉で伝えきれないことが歌となった」という考えは、愛情表現などを抑揚とリズムを 伴って身体で表現している時、脳全体も刺激され、前頭前野が活性化され、生理的欲求を 感じることから起因したと考える。

日本での合唱とカラオケ人口は多く、「歌好き」人口は世界でも有数であるはずが、前に 述べたように「歌は得意ですか?」に対して積極的意見が多くは返ってこない。そしてレ ッスン指導時に受講生からの主なコメントを下記に挙げるが、どれも情動から起こる歌唱 意欲を自らがブロックしていると考える。自己否定と羞恥心が歌唱意欲を下げ、表現に壁 を生じさせて、自らが歌を歌いたい気持ちを押し下げている。

・音痴なので(音痴と言われた)

・綺麗な声が出ないので(汚い声と言われた)

・どんな声が「正解」なのかわからない

・大きい声が出ないから

・地声しか出ないから 等々

「歌え」と押しつけられても、歌いたい曲を、歌いたい気持ちにならなければ歌唱によ る情動は起こりにくく、学習意欲は湧かない。教育機関ではメディアから知った「歌いた い曲」だけでは無く「歌いたくなる曲」を多く紹介し、ジャンルの視野を広げ、学習意欲 を促すことは当然重要である。

話は逸れるが、メディアから流れた曲に心踊らせ、自分でも歌いたい衝動に駆られた時 に思い出すコメントがある。2003年に放送されたNHK「人間講座」という番組に永六輔氏

(タレント・放送作家、作詞家1933-2016)が出演した際に「1つの歌が、多くの人へ伝わ る伝わり方に疑問を感じる。自然に人の心を打ち、打たれた人が自然に口ずさむものであ るべきだが、宣伝力があるメディアから、歌えと言われて歌っている気がする」と述べて いたことが印象的であった。

2-3 歌唱によって得られる効果

音楽の三大要素は「メロディ」「リズム」「ハーモニー」。そして歌の三大要素は「メロデ ィ」「リズム」「歌詞」であり、「メロディ」「リズム」は脳(心)と身体が活性することは既 知の事実であるが、「歌詞」に情感を込めて歌唱することにより、情景がイメージ(思い出)

され、痴呆症の抑止にも効果があることが分かっている。では脳内では何が起こっている のか。

脳内にある神経伝達物質のひとつのセロトニンは、不足すると脳機能低下だけでなく、

心のバランスも崩れる幸せホルモンとして知られ、活性化されるとストレスを受け流せる 体質となる。そしてセロトニン分泌増加に繋がるものとして、太陽の光を浴びること、リ ズム運動、(意識された)呼吸が有効であるが、歌唱もこれらの要素を含んでいることから、

心身への効果は期待できる。つまり、複式呼吸を理想としたトレーニング、音階練習や楽 曲歌唱にてリズムを取り、上方へ意識された表情筋など分泌増加に繋がる点が多い。また、

歌唱時に涙を流すこともセロトニンが活性化される。

セロトニン神経が活性化すると、思考力が上がり、心は安定、ストレスに強く、姿勢や 表情もよくなる。前頭前野はストレスを感じ、解消するなど対応し、心の安定を保ち人間

(7)

昨今、どの音楽大学も専門分野だけのカリキュラムではなく「リベラルアーツ」の視点 で他分野の中心に音楽を置く考えを掲げるようになったが、ハーバード大学やマサチュー セッツ工科大学などアメリカの多数の大学では、演奏を通じて思想、発想力、ディスカッ ションを学び、創造力やイノベーションなどのスキルを身に付けることが出来ることから、

音楽を通じて幅広い視点で社会へと繋がるツールとしての音楽という位置づけが日本の音 楽大学カリキュラムでも参考にされている(菅野 2015)。

楽器や歌唱技術を習得することは、脳内では脳梁が大きくなり、運動野、視覚野、空間 視覚野の灰白質も大きくなり、古い脳(原始的な脳)と言われる大脳辺縁系にも影響を与 え、記憶の海馬、ドーパミンやアドレナリンを放出する扁桃体の活性に繋がる様になる。

そして、共感や知識など社会性を保つ前頭連合野(新しい脳)は大脳辺縁系の調節や制御を 促すようになる。これらのことから、他の教科学習の意欲にも繋がるため音楽科教育は不 可欠であり、有益な授業であることを学生と教員が意識すべきであり、社会生活に大きな 影響を及ぼす科目であることは明白な事実であると言える。

2-2 歌いたい気持ち

ではなぜ人間は歌を歌いたくなり、歌うのか。歴史についての追求はここではしないが、

初期人類は獲物獲得の手段でリズムに合わせ集団で歌うなど、なぜ歌い始めたかは諸説あ る(ジョルダーニア2017。が、本能(原始)的な感覚、つまり大脳辺縁系が刺激される「情 動」が歌を歌わせる欲求となったことが原点と考える(森田 2017)。そしてよく耳にする

「言葉で伝えきれないことが歌となった」という考えは、愛情表現などを抑揚とリズムを 伴って身体で表現している時、脳全体も刺激され、前頭前野が活性化され、生理的欲求を 感じることから起因したと考える。

日本での合唱とカラオケ人口は多く、「歌好き」人口は世界でも有数であるはずが、前に 述べたように「歌は得意ですか?」に対して積極的意見が多くは返ってこない。そしてレ ッスン指導時に受講生からの主なコメントを下記に挙げるが、どれも情動から起こる歌唱 意欲を自らがブロックしていると考える。自己否定と羞恥心が歌唱意欲を下げ、表現に壁 を生じさせて、自らが歌を歌いたい気持ちを押し下げている。

・音痴なので(音痴と言われた)

・綺麗な声が出ないので(汚い声と言われた)

・どんな声が「正解」なのかわからない

・大きい声が出ないから

・地声しか出ないから 等々

「歌え」と押しつけられても、歌いたい曲を、歌いたい気持ちにならなければ歌唱によ る情動は起こりにくく、学習意欲は湧かない。教育機関ではメディアから知った「歌いた い曲」だけでは無く「歌いたくなる曲」を多く紹介し、ジャンルの視野を広げ、学習意欲 を促すことは当然重要である。

話は逸れるが、メディアから流れた曲に心踊らせ、自分でも歌いたい衝動に駆られた時 に思い出すコメントがある。2003年に放送されたNHK「人間講座」という番組に永六輔氏

(タレント・放送作家、作詞家1933-2016)が出演した際に「1つの歌が、多くの人へ伝わ る伝わり方に疑問を感じる。自然に人の心を打ち、打たれた人が自然に口ずさむものであ るべきだが、宣伝力があるメディアから、歌えと言われて歌っている気がする」と述べて いたことが印象的であった。

2-3 歌唱によって得られる効果

音楽の三大要素は「メロディ」「リズム」「ハーモニー」。そして歌の三大要素は「メロデ ィ」「リズム」「歌詞」であり、「メロディ」「リズム」は脳(心)と身体が活性することは既 知の事実であるが、「歌詞」に情感を込めて歌唱することにより、情景がイメージ(思い出)

され、痴呆症の抑止にも効果があることが分かっている。では脳内では何が起こっている のか。

脳内にある神経伝達物質のひとつのセロトニンは、不足すると脳機能低下だけでなく、

心のバランスも崩れる幸せホルモンとして知られ、活性化されるとストレスを受け流せる 体質となる。そしてセロトニン分泌増加に繋がるものとして、太陽の光を浴びること、リ ズム運動、(意識された)呼吸が有効であるが、歌唱もこれらの要素を含んでいることから、

心身への効果は期待できる。つまり、複式呼吸を理想としたトレーニング、音階練習や楽 曲歌唱にてリズムを取り、上方へ意識された表情筋など分泌増加に繋がる点が多い。また、

歌唱時に涙を流すこともセロトニンが活性化される。

セロトニン神経が活性化すると、思考力が上がり、心は安定、ストレスに強く、姿勢や 表情もよくなる。前頭前野はストレスを感じ、解消するなど対応し、心の安定を保ち人間

(8)

らしさを形成する働きを持ち「共感脳」が活性化されるが、この部分の動きが鈍くなると、

他人と社会的コミュニケーションがとれなくなり、他人の表情から人の感情を読み取るこ とも欠落し、言葉に無いものから心情を汲み取る力も劣ってくる。つまりセロトニンは指 揮者のような働きをすることによって、ドーパミン神経は学習、ノルアドレナリン神経は 仕事を促せるように働きかけることができる。また、スポーツ選手が試合前に大声を出す

「シャウティング効果」はアドレナリンが出るため(音楽的にならないケースもあるが)

活性化には有効であり、たとえ怒鳴り声であっても歌唱による脳活性の効果は枚挙に遑が ない。ちなみに動物においても同様で、雄の小鳥は繁殖期の春になると愛の歌を作り、脳 が活性化し、雌も幸せな気分になることが近年分かっている。

このように歌唱による効果は、脳の活性化、コミュニケーションの他、心技体を磨くこ とであり、教育機関においての他の授業科目では学ぶことが出来ない項目が多い。つまり 歌唱による効果は以下が挙げられる。

・歌唱姿勢による起立姿勢

・表情などのノンバーバルコミュニケーションスキル

・脳内物質の分泌

・明確で多彩な話し方

・演奏スキルアップにPDCAを活用 等

3.教える

広辞苑によると「教育」とは、「教え育てること。望ましい知識・技術・規範などの学習 を促進する意図的な働きかけの諸活動。」とあり、英語「Education」の原意は諸説あるが「能 力を引き出す」という意味もあることから、教育とは「教えるだけではなく、気付かせ、

導く」ことが重要である。『音楽鑑賞教育』(季刊vol.21特集 音楽の授業づくり〜子供た ちは音楽の授業を楽しんでいますか)に掲載されている、中学高等学校教員が提案する授 業内容には、「気付き」「自主性」「感じる」を軸に、楽しみながら学ぶことで能力が引き出 され、学習意欲を促進できる授業例が多く見受けられた。近年の授業ではマニュアル化さ れていない、生徒と、生徒同士の意見が飛び交う新学習指導要領を意識した「教える」こ との原点に立ち返った多くの指導方法が見受けられた(『音楽鑑賞教育』2015

本稿では具体的指導方法を以下の法則や理論に沿った考え方に当て嵌めた「教え方」を

項目別に挙げてみる。何れもビジネスで取り入れられている近年では定番思考であり、「明 確な目標」「コミュニケーション」「ポジティブ」等の共通ワードから発する方法論は教育 の現場にても活用可能である。

3-1 コーチング

「コーチング」とはスポーツのトレーナー名称であったが、1990年代頃アメリカから広 まりビジネスに導入され、人材開発に用いられている。カテゴリーに明確な定義はないが、

クライアントの潜在能力を引き出し、目標に向かって最大限に発揮できるように育成する 方法を提案、サポートをする方法であり、コーチは目標達成のためのスキル、考え方につ いて焦点を絞り、自らの力で課題解決し達成できるように促し、メンタルな問題を扱った りせずに適切な質問を与える役目を持つ。そして、コーチングに当たって重要な点は、傾 聴、質問、ノンバーバル(非言語)な情報を把握するなど多数のポイントがありクライア ントの目標達成のサポートを目的としている(コーチ・エイ 2009

また、心の知能指数であるEQ3の視点からの提案もある。自分の感情をコントロールし、

他者の感情を把握して、人間関係を円滑にし、思考や行動に繋げる前向きな能力のことを 定義とするが、明確な EQ 値の判断方法基準は未だ定まっていない。また、巧みな話術や ただ明るいだけではなく、コーチすることを楽しみながら生き生きとした表情による信頼 関係によってプロセスが構築されて行く。そして社会的適応力指数アップを目指すことか ら、コーチも高い EQ 数値が求められ、感情的になることは不適格であり、温厚で冷静さ が必要となるとしている(上村・松下 2005

スポーツコーチングにて成功する指導者の特性は、「(競技の)知識」「動機づけ」「共感」

の三つであり、大部分の指導者は「命令スタイル」「従順スタイル」「協調スタイル」をと り、コミュニケーションスキルに欠けるコーチの例として、「信用できないコーチ」「否定 ばかりするコーチ」「判事のようなコーチ」「気まぐれコーチ」「おしゃべりなコーチ」「石 のようなコーチ」「教授コーチ」「御者コーチ」を挙げている(マートン 2013)。スポーツ は勝敗にだけこだわるのではなく、心身を育てている事を忘れてはならない、と述べてい ることから、一方的指導に陥らないように意見交換をし、意思疎通に留意すべきとある。

3 ELEmotional Intelligence)を心理学者Peter SaloveyJohn Mayerの発案により概念が研究されの

ちにIQに対してEQEmotional Quotient)へと発展するが定義はまだ曖昧である。

(9)

らしさを形成する働きを持ち「共感脳」が活性化されるが、この部分の動きが鈍くなると、

他人と社会的コミュニケーションがとれなくなり、他人の表情から人の感情を読み取るこ とも欠落し、言葉に無いものから心情を汲み取る力も劣ってくる。つまりセロトニンは指 揮者のような働きをすることによって、ドーパミン神経は学習、ノルアドレナリン神経は 仕事を促せるように働きかけることができる。また、スポーツ選手が試合前に大声を出す

「シャウティング効果」はアドレナリンが出るため(音楽的にならないケースもあるが)

活性化には有効であり、たとえ怒鳴り声であっても歌唱による脳活性の効果は枚挙に遑が ない。ちなみに動物においても同様で、雄の小鳥は繁殖期の春になると愛の歌を作り、脳 が活性化し、雌も幸せな気分になることが近年分かっている。

このように歌唱による効果は、脳の活性化、コミュニケーションの他、心技体を磨くこ とであり、教育機関においての他の授業科目では学ぶことが出来ない項目が多い。つまり 歌唱による効果は以下が挙げられる。

・歌唱姿勢による起立姿勢

・表情などのノンバーバルコミュニケーションスキル

・脳内物質の分泌

・明確で多彩な話し方

・演奏スキルアップにPDCAを活用 等

3.教える

広辞苑によると「教育」とは、「教え育てること。望ましい知識・技術・規範などの学習 を促進する意図的な働きかけの諸活動。」とあり、英語「Education」の原意は諸説あるが「能 力を引き出す」という意味もあることから、教育とは「教えるだけではなく、気付かせ、

導く」ことが重要である。『音楽鑑賞教育』(季刊vol.21特集 音楽の授業づくり〜子供た ちは音楽の授業を楽しんでいますか)に掲載されている、中学高等学校教員が提案する授 業内容には、「気付き」「自主性」「感じる」を軸に、楽しみながら学ぶことで能力が引き出 され、学習意欲を促進できる授業例が多く見受けられた。近年の授業ではマニュアル化さ れていない、生徒と、生徒同士の意見が飛び交う新学習指導要領を意識した「教える」こ との原点に立ち返った多くの指導方法が見受けられた(『音楽鑑賞教育』2015

本稿では具体的指導方法を以下の法則や理論に沿った考え方に当て嵌めた「教え方」を

項目別に挙げてみる。何れもビジネスで取り入れられている近年では定番思考であり、「明 確な目標」「コミュニケーション」「ポジティブ」等の共通ワードから発する方法論は教育 の現場にても活用可能である。

3-1 コーチング

「コーチング」とはスポーツのトレーナー名称であったが、1990年代頃アメリカから広 まりビジネスに導入され、人材開発に用いられている。カテゴリーに明確な定義はないが、

クライアントの潜在能力を引き出し、目標に向かって最大限に発揮できるように育成する 方法を提案、サポートをする方法であり、コーチは目標達成のためのスキル、考え方につ いて焦点を絞り、自らの力で課題解決し達成できるように促し、メンタルな問題を扱った りせずに適切な質問を与える役目を持つ。そして、コーチングに当たって重要な点は、傾 聴、質問、ノンバーバル(非言語)な情報を把握するなど多数のポイントがありクライア ントの目標達成のサポートを目的としている(コーチ・エイ 2009

また、心の知能指数であるEQ3の視点からの提案もある。自分の感情をコントロールし、

他者の感情を把握して、人間関係を円滑にし、思考や行動に繋げる前向きな能力のことを 定義とするが、明確な EQ 値の判断方法基準は未だ定まっていない。また、巧みな話術や ただ明るいだけではなく、コーチすることを楽しみながら生き生きとした表情による信頼 関係によってプロセスが構築されて行く。そして社会的適応力指数アップを目指すことか ら、コーチも高い EQ 数値が求められ、感情的になることは不適格であり、温厚で冷静さ が必要となるとしている(上村・松下 2005

スポーツコーチングにて成功する指導者の特性は、「(競技の)知識」「動機づけ」「共感」

の三つであり、大部分の指導者は「命令スタイル」「従順スタイル」「協調スタイル」をと り、コミュニケーションスキルに欠けるコーチの例として、「信用できないコーチ」「否定 ばかりするコーチ」「判事のようなコーチ」「気まぐれコーチ」「おしゃべりなコーチ」「石 のようなコーチ」「教授コーチ」「御者コーチ」を挙げている(マートン 2013)。スポーツ は勝敗にだけこだわるのではなく、心身を育てている事を忘れてはならない、と述べてい ることから、一方的指導に陥らないように意見交換をし、意思疎通に留意すべきとある。

3 ELEmotional Intelligence)を心理学者Peter SaloveyJohn Mayerの発案により概念が研究されの

ちにIQに対してEQEmotional Quotient)へと発展するが定義はまだ曖昧である。

(10)

3-2 ドラッカーの理論

人材マネジメントの父としてビジネスパーソンから敬愛されている、ピーターF.ドラッ

カー(Peter Ferdinand Drucker, 1909-2005)の理論も学習指導方法に流用してみる。企業の目

的は利益だけではなく顧客創造、マーケティングとイノベーションと社会的責任、自らの 強みや価値観を知る等々、学習の目的と方法についてのヒントがある(久恒 2010)。また、

ドラッカーもコミュニケーションに重点を置き、内部資源を活性化させることにより利益 を生じさせることができると提唱し、「コミュニケーションに必要なのは感情の共有である」

とも述べ「情報の受信者が主役」と唱えている。そして指導者は生徒(レッスン受講者)

とのコミュニケーションにより「強み」を確実に抽出し、的確な使命を与え、自信を持た せ、社会のニーズに対応した人材を育成するという理論が提示できる。

3-3 アドラー心理学

アルフレッド・アドラー(Alfred Adler, 1870-1937)のアドラー心理学もビジネスで活用 され、「目的」「自己肯定」「コミュニケーション」の点で上記の考え方と共通していること から、指導方法に当て嵌めてみる。

中心になる定義「勇気づけ」の効果は、自己受容があり、自分を肯定的に見ているため失 敗を認め、感情のコントロール、自立心があり、自分と他者との違いを認めることが出来 る考え方になるということ。例えば、自分の実力以上の楽曲にチャレンジすることは「勇 気」ではなく「無謀」であり、自己の実力を見据えた行動をとるよう指導者は留意する。

「勇気づけ」は褒めることではなく、賞賛を求めさせないで、ありのままの姿を勇気づけ させることとしている。

【例】

「前回のレッスンでは不完全な発声で上手く出来なかった受講生が、今回のレッスンでは 充実した発声を捉えることができた時。」

指導者からのコメント例は、

・「高音がしっかり出て凄い!よくやった!これで学年トップだね」←褒める

「前回はなかなか出来ず落ち込んでいたけど、改善ポイントに気づいたアイデアが 良かったよ!これならプロとして仕事ができるようになるね」←勇気づけ

上記のように、指導者のコメントによっては「勇気づけ」となる。この「勇気づけ」の効 果は長続きすることから、受講生の自立を促すことが可能となる。また、勇気をくじく指 導者の特徴として「威圧的」は明白だが、「マイナス思考」「傾聴しない」などもあるため 指導時には細心の注意が必要である。また、目的達成が困難な時には、原因は過去の行動 等にあると探したりはせず、これからの可能性に注目することに重点を置く。この思考は コーチングとドラッカーも同様である。そして「リフレーミング(reframing)」の考え方も ある。例えば、「楽曲演奏の仕上がりが7割しか出来ていない」ということに落ち込むので はなく、「7割も出来る様になったから、あとの3割もこのまま練習を続ければ大丈夫」と いう考え方に持って行き、この思考の方が目標到達は早いとしている。また、共同体感覚 で地域社会や聴衆がハッピーになるよう、学生グループを作って貢献することもアドラー 心理学の視点から重要な価値観としている。但し、承認欲求からでは無く自らの為の行動 としてである。

3-4マズローの法則

自分の夢を実現するための方法論は多々あるが、アメリカの心理学者アブラハム・マズ

ロー(Abraham Harold Maslow, 1908-1970)の「マズローの法則」は、近年では広く知られ、

多くの分野で活用されるようになった。この自己実現の欲求は5段階のピラミッド型であ り「自己実現理論」として欲求の5段解説を主張した。

1番下には食欲、睡眠、性欲の3大欲求「生理的欲求」があり、次に「安全の欲求」とし て経済的、身体的な安全の欲求。そして家族や会社など何らかの組織に所属する安心感の

「社会的求」。これらが実現すると、集団の中で高く評価され自分を認めてもらいたい欲求 の「承認の欲求」(アドラーは承認欲求を否定している)。そして「歌手になりたい」等、

理想に近づきたい欲求の「自己実現の欲求」へと繋がる。この5段階目の欲求には自発性、

創造性、問題解決などのスキルを伴う(マズローの晩年には「自己超越」も頂上に加えた これら低次の欲求が満たされるごとに、ひとつ上の欲求を欲することを提唱している)。

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3-2 ドラッカーの理論

人材マネジメントの父としてビジネスパーソンから敬愛されている、ピーターF.ドラッ

カー(Peter Ferdinand Drucker, 1909-2005)の理論も学習指導方法に流用してみる。企業の目

的は利益だけではなく顧客創造、マーケティングとイノベーションと社会的責任、自らの 強みや価値観を知る等々、学習の目的と方法についてのヒントがある(久恒 2010)。また、

ドラッカーもコミュニケーションに重点を置き、内部資源を活性化させることにより利益 を生じさせることができると提唱し、「コミュニケーションに必要なのは感情の共有である」

とも述べ「情報の受信者が主役」と唱えている。そして指導者は生徒(レッスン受講者)

とのコミュニケーションにより「強み」を確実に抽出し、的確な使命を与え、自信を持た せ、社会のニーズに対応した人材を育成するという理論が提示できる。

3-3 アドラー心理学

アルフレッド・アドラー(Alfred Adler, 1870-1937)のアドラー心理学もビジネスで活用 され、「目的」「自己肯定」「コミュニケーション」の点で上記の考え方と共通していること から、指導方法に当て嵌めてみる。

中心になる定義「勇気づけ」の効果は、自己受容があり、自分を肯定的に見ているため失 敗を認め、感情のコントロール、自立心があり、自分と他者との違いを認めることが出来 る考え方になるということ。例えば、自分の実力以上の楽曲にチャレンジすることは「勇 気」ではなく「無謀」であり、自己の実力を見据えた行動をとるよう指導者は留意する。

「勇気づけ」は褒めることではなく、賞賛を求めさせないで、ありのままの姿を勇気づけ させることとしている。

【例】

「前回のレッスンでは不完全な発声で上手く出来なかった受講生が、今回のレッスンでは 充実した発声を捉えることができた時。」

指導者からのコメント例は、

・「高音がしっかり出て凄い!よくやった!これで学年トップだね」←褒める

「前回はなかなか出来ず落ち込んでいたけど、改善ポイントに気づいたアイデアが 良かったよ!これならプロとして仕事ができるようになるね」←勇気づけ

上記のように、指導者のコメントによっては「勇気づけ」となる。この「勇気づけ」の効 果は長続きすることから、受講生の自立を促すことが可能となる。また、勇気をくじく指 導者の特徴として「威圧的」は明白だが、「マイナス思考」「傾聴しない」などもあるため 指導時には細心の注意が必要である。また、目的達成が困難な時には、原因は過去の行動 等にあると探したりはせず、これからの可能性に注目することに重点を置く。この思考は コーチングとドラッカーも同様である。そして「リフレーミング(reframing)」の考え方も ある。例えば、「楽曲演奏の仕上がりが7割しか出来ていない」ということに落ち込むので はなく、「7割も出来る様になったから、あとの3割もこのまま練習を続ければ大丈夫」と いう考え方に持って行き、この思考の方が目標到達は早いとしている。また、共同体感覚 で地域社会や聴衆がハッピーになるよう、学生グループを作って貢献することもアドラー 心理学の視点から重要な価値観としている。但し、承認欲求からでは無く自らの為の行動 としてである。

3-4マズローの法則

自分の夢を実現するための方法論は多々あるが、アメリカの心理学者アブラハム・マズ

ロー(Abraham Harold Maslow, 1908-1970)の「マズローの法則」は、近年では広く知られ、

多くの分野で活用されるようになった。この自己実現の欲求は5段階のピラミッド型であ り「自己実現理論」として欲求の5段解説を主張した。

1番下には食欲、睡眠、性欲の3大欲求「生理的欲求」があり、次に「安全の欲求」とし て経済的、身体的な安全の欲求。そして家族や会社など何らかの組織に所属する安心感の

「社会的求」。これらが実現すると、集団の中で高く評価され自分を認めてもらいたい欲求 の「承認の欲求」(アドラーは承認欲求を否定している)。そして「歌手になりたい」等、

理想に近づきたい欲求の「自己実現の欲求」へと繋がる。この5段階目の欲求には自発性、

創造性、問題解決などのスキルを伴う(マズローの晩年には「自己超越」も頂上に加えた これら低次の欲求が満たされるごとに、ひとつ上の欲求を欲することを提唱している)。

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