は し が き
監査制度の運用とその成果が日本経済の基盤を揺るがすようなことにな り,社会からの大きな注目を受けている昨今である。残念なことにメディ アでは公認会計士監査,監査役監査,内部監査といういわゆる三様監査に 対しての不信の理由とされる種々の報道が多い。これらの内容には,監査 意見形成の独立性などメディアが監査をよく理解していないことから生ず る論調や記事もみられる。公認会計士監査の権威はどこに行ったのであろ うか。監査論を長年にわたり講義してきた身として,自らの非力を反省し ている。
しかし,嘆いていても現状を改善し,各自が信頼しあって過ごす社会の
1) IIA, The Institute of Internal Auditors.
333 商学論纂(中央大学)第59巻第3・4号(2018年3月)
監査等委員会と企業統治
──IIA 1)の「監査委員会規程モデル」の検討をめぐって──
檜 田 信 男
目 次 は し が き
Ⅰ わが国特有の三様監査について
Ⅱ 監査等委員による監査
Ⅲ IIA監査委員会規程モデルで示されている監査委員会
Ⅳ むすび──わが国の企業統治と内部統制について
構築には何の意味も持たない。そこで,これまでにもディスクロージャー を本質とするコーポレート・ガバナンスが論議されてきたけれども,現在 は「企業統治」と称されていることが多いのでこの語を本稿では使用し,
現状における諸問題のうちのひとつに向けて解を求めてゆきたい。とく に,長年月にわたって制度として存在してきた監査役に代替するかのよう に(任意ではあるが)制定された「監査等委員会」が納得される内容である のかを,一部面ではあるが検討してゆくことにしたい。
Ⅰ わが国特有の三様監査について
三様監査の問題は,財務諸表監査に関連してであったが,かつては会計 士監査と内部監査との「調整」(coordination)として監査論において検討 されてきたことが,今日では,会計士監査と監査役等による監査とについ てであるが「連携」と表現され説明されている2)。また,金融庁企業会計 審議会「監査基準」(最終改正平成26年2月18日)においては,監査人と監査 役等との連携について,「監査人は,監査の各段階において,監査役等と 協議する等適切な連携を図らなければならない。」(第三実施基準 一基本原 則 7)とし,また,内部監査に関し「監査人は,企業の内部監査の目的 及び手続が監査人の監査の目的に適合するかどうか,内部監査の方法及び 結果が信頼できるかどうかを評価した上で,内部監査の結果を利用できる と判断した場合には,財務諸表の項目に与える影響等を勘案して,その利 用の程度を決定しなければならない。」(第三実施基準 四他の監査人等の利
2) 「連携」は,「互いに連絡をとり協力して物事を行うこと」(松村明監修
「大辞泉」1995)とされている。会計士や監査役等との連携としているが,
財務諸表とその作成過程についての監査に関し会計士と監査役の監査目的が 共通しているのかどうか,「連携」の語義に照らし,「連携」の語」の使用に 疑問を抱いている。
用 3)と,監査役等との連携をつうじ,また内部監査結果の利用をつう じ,会計士・監査役・内部監査人との関係が述べられている3)。
他方,「三様監査」の語は,諸外国では私的な監査制度が外部監査と内 部監査とに分類され体系的に説明されていることからこのような語の使用 はない。これに対し,わが国では,監査役監査が外部監査にも内部監査に も含めることが困難ということから,会計士監査と内部監査,監査役監査 を包含して「三様監査」と称してきたが,これは内部監査と外部監査とを 監査制度としてどのように特徴づけるかの問題意識から生ずるものであっ た。
外部監査と内部監査との区分は,当初は,監査の人的主体が企業の内部 者であるかあるいは外部者であるかによるのであったが,監査行動は特定 の監査要点についてそれを確証するための証拠資料を入手すること(監査 技術を選択し適用すること)であると昭和30年代に入って説明され,これが 一般に受容されてくるようになってから,筆者自身つぎのような理解のも とに「三様監査」について整理するようにしてきた。
監査要点は監査目標(objective)を達成するために監査人として確かめ なければならないポイントであり,しかも監査目標は監査人に対する刺激 付けで,特定の監査行動によって達成されるべき社会的要請(監査目的,
purpose)を充足するために決定されると理解した。逆にいえば社会のニー
ズを意識した監査目的から監査目標が決定され,監査目標から監査要点が 導出される。監査行動はその監査要点を立証するために必要十分な証拠資
3) 本稿では,三様監査にまつわる三者の関係に触れるにあたって,連携の語 を用いているのは,監査基準での表現のみでなく,日本監査役協会会計委員 会「会計不正防止における監査役等監査の提言─三様監査における連携の在 り方を中心に─」(平成28年11月)などでも用いられ,この語の使用が(そ の正否はともかくとして)この分野では一般化されつつあるとみられたから である。
料を入手する行為(監査証拠資料を入手する手段としての監査技術の選択・適用)
からなり,制度化される特定の監査行為は監査要点と監査技術とによって 異なってくる。したがって,あるひとつの監査制度に関しそれが何のため に何を達成しなくてはならないのか,またそのためにどのような監査技術 を選択し適用するようにしているかを把握することが重要ということにな る。
しかも,特定の監査において監査証拠資料を入手するにあたり,特定の 監査要点について監査人の理性に確信を得させる効力を有する資料である の か ど う か, 入 手 さ れ た 資 料 の 証 拠 と し て の 必 要 十 分(sufficient and
competent)性を評価することが避けられない。その評価ではいうまでもな
く監査要点に対応する証拠資料の証明力の強弱が注目される。その強弱 は,監査主体である監査人の評価能力によって左右されることになる。し たがって監査人の独立性(すなわち公正不偏な精神的態度や利害関係を有しな い客観性を保持しようとする監査人の資質)の水準が監査行動の体系を考える にあたって無視することが出来ない要件とされる(最近では監査の質Quality が問題視され,監査証拠資料を入手するにあたっての事項を監査報告書に監査重要 事項Key Audit Matter, Critical Audi Matterとして記載する流れがあるがこれも無視 出来ない)。
このようにして存在する監査事象が特定の監査と称されるためには,監 査主体たる人的要件と監査目的たる機能要件とが識別されなければならな いとされた。この視点からすれば,監査役監査の実施主体がかつて社内出 身の方が圧倒的に多いという現実があったにもかかわらず,監査の目的が 会社法の定めにより株主や債権者の保護とされていて,会社外部者の利益 を保護するためとされた。したがって,監査役監査は監査主体が内部で監 査の目的が外部とされ,監査主体内部・監査の目的が内部という内部監査 には当てはまらないこととされた。いうまでもなく,会計士監査のように
監査主体が外部で監査目的が外部とされる監査は外部監査とされたが,監 査役監査はこれに当てはまらない。このことから株式会社における私的
(監査主体が民間人であるという意味で)な監査制度としては外部監査・内部 監査・監査役監査が三様監査として把握されるようになった4)。もっとも,
監査主体が外部で監査目的が内部とされる監査(例えば,外部の経営有識者 が監査目的を内部とする監査を担う場合)も想定されるし現実に存在するけれ ども,三様監査としてはこれを外部監査とも内部監査ともしてきていな い。
このような三様監査の中で,これまで論じられてきた監査役監査に代替 するかのように今日注目を集めているのが監査等委員会による監査であ る5)。監査役制度はわが国特有の制度であることから株式会社のガバナン スを海外に説明するにあたって監査役の英語訳等多くの不便があり,この 不便を解消する一助として株式会社において制度化される契機となったと いう一面があることを無視することは出来ない。監査等委員会は監査機能 としては殆ど監査役に類似するのであるが,監査等委員会の構成員である 監査等委員は取締役でなければならず(会社法399条の2②),取締役会にお いて議決権を有し,指名委員会や報酬委員会の委員の兼務もあり得ること は,監査機能の発揮というよりはガバナンスへの影響との関連において注 目される。
4) 周知のように,現在の監査役においては社外監査役の定めがあり,監査主 体として外部の性格が非常に強くなっているけれども,例えば公認会計士の
「特別の利害関係」に関する定めのように,監査役について会社とは独立の 第三者である具体的な内容を定め,それを社外監査役の主体的要件とするま でにはなっていない。
5) 経営財務No. 3326の週間「適時開示」ニュースによれば,平成29年11月
27日までに監査等委員会設置会社に移行ないし移行を表明した会社は825社 とされている。
しかしながら,監査等委員が取締役であることから,取締役の職務の執 行の監査及び監査報告の作成(同399条の2③)にあたって独立性をいかに 確保するようにしているかが注目される。これについて会社法は,監査等 委員会設置会社の株主総会において取締役を選任するにあたり「監査等委 員である取締役とそれ以外の取締役とを区別してしなければならない。」
(同329条②)とし,「監査等委員である取締役は,監査等委員会設置会社 若しくはその子会社の業務執行取締役若しくは支配人その他の使用人又は 当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは,その職務を行うべき社 員)若しくは執行役を兼ねることができない。」(同331条③)とするととも に,監査等委員会設置会社では「監査等委員である取締役は,三人以上 で,その過半数は,社外取締役でなければならない。」(同331条⑥)とす る。そして,監査等委員の任期を「選任後二年以内に終了する事業年度の うち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」(同332条①③)と し,この任期を定款又は株主総会の決議によってこれを短縮することはで きない(同332条④)とするなど,情実や勢力関係等から公正な監査の職務 の行使を阻害する独立性侵害への影響について一応の定めをしている。
Ⅱ 監査等委員による監査
監査等委員による監査制度はわが国のガバナンスを海外に説明するうえ で監査役よりは望ましいのではないかということで導入されたとしている ことはすでに述べた。筆者の体験でも1990年に訪米して日本の監査制度を 説明する機会が数か所であり6),確かに監査役をcompany auditor,あるい
はcorporate auditorと英訳して伝えようとするとそれぞれの国で既に存在
する制度に結びつけて捉えられ,このために,日本における商法上の監査
6) 拙稿,「米国における情報システム監査の動き」第4次訪米内部監査視察 団報告書,1991. 10,日本内部監査協会。
役の真意が伝わらない可能性があったようにみられた。
そこで,注目したいのは,従来三様監査と称されてきた会計士監査,監 査役および内部監査との関係が,監査等委員あるいは監査委員7)による監 査によってどのように変化し,株式会社の公正な運営のためにこれら三者 のどのような関連がより望ましいのか。極論すれば,監査役設置会社が株 式会社における制度として存在すべきであるかの検討をも念頭におきなが ら以下ですすめてゆくことにしたい。
これまで三様監査としてきたけれども,検討しようとする課題の中心を 監査役監査と内部監査とにおき,これらが監査等委員会による監査によっ てどのような影響を受けるのかをみようと考える。特に監査等委員による 監査が株式会社監査制度を強化することになるのかどうかを確かめようと する。
先に,監査役の英訳が海外の方,とくにUSAに本拠を置く会社の方や 関連する方々にその真意を正しく伝えていないきらいがあったことを述べ た。そこで,懸念されることは,今般制定された会社法における監査等委 員会の内容はUSAで一般的に理解されている監査委員会との間に乖離は ないのかどうかである。
USAでは監査委員会の内容をどのようにとらえているのか。本来なら ばUSAでの監査委員会の由来を明らかにし,ニューヨーク州会社法など によりその特徴を把握し,さらには実態調査の結果を通じて理解してゆく のが筋であるけれども,IIAが国際機関となっていることから,かつての
7) 指名委員会等設置会社では,指名委員会,監査委員会,報酬委員会を委員 3人以上とする取締役によって構成され,その過半数は社外取締役でなけれ ばならず,とくに監査委員は会社,子会社の執行役,業務執行取締役,会計 参与,若しくは支配人,その他の使用人を兼ねることはできないとされてい る(同400条)。
USA型の監査委員会とは同じとはいえないけれども,IIAが監査委員会規 程のモデルを発表しているので,その内容から監査委員会の特徴をとらえ てゆくことにしたい。
従来,USAでは特に金融機関についてはSECの行政指導もあり,監査 委員会が強く推進されてきた。そこでは監査委員会が会社の監査機関とし て設置され,内部監査部門に対して機能的指示をするなどの関係が重視さ れていた。
Ⅲ IIA監査委員会規程モデルで示されている監査委員会
ところが,近年になり,IIAは監査委員会規程のモデルを示し,これを さらに改訂している8)。そこで,以下では,IIAが監査委員会に関する規程 でそのモデルをどのように描いているかをみることにしたい。
「目的(purpose)
財務報告プロセス,内部統制のシステム,監査プロセス,法令および倫 理コードへの遵守をモニターする会社のプロセスに対し,取締役会がその 監視の責任を全うするために役立(assist)つこと。」
ここでは,監査委員会の意図していることを簡明に述べているが,これ をただちに監査等委員会に結びつけて理解することは出来ない。このIIA のモデルでは,どのように監査委員会を取締役と会社法の定めと結びつけ ているかが明らかにされていないからである。ここでは,わが国の会社法 に照らしてどのような点が明らかでないかを指摘するにとどめたい。
わが国の会社法では,前述のように,監査等委員である取締役とそれ以 外の取締役と区別して,株主総会の決議によって選任するものとされてい るから(第329条①②),監査等委員は株主からの委託により職務を執行す
8) IIA, Quality Ensuring Excellence, Model Audit Committee Charter, revised 05/2013.
るのであって,監査等委員以外の取締役からの委託ではない。したがっ て,「取締役会がその監視の責任を全うするために役立つ」というよりは 取締役会から独立してその職務を執行しなければならない。監査役の職務 の執行と同じくする。組織体の目的の達成について監査等委員会の職務の 範囲内において役立つという関係にある。監査の対象については,「法令 および倫理コードへの遵守をモニターする会社のプロセス」についての解 釈によっていかようにもとられる可能性があるのでこれは後の項目に関連 してみてゆくことにしたい。
「権限
監査委員会は,責任範囲内にあるすべての事項に対し調査を実施し,実 施させる権限を有している。それは次のことを行う正当な権限を持つ。
・公認会計士事務所について組織体が委嘱する業務内容を定め,補正し,
監視する。
・財務報告に関し,経営者と監査人との間に存在するなんらかの意見の相 違の解決。
・監査業務および非監査業務すべての事前承認(pre-approve)。
・委員会に助言をし,あるいは調査に助力する独立のカウンセラー,会計 士,又はその他の者の保持。
・監査委員会の求め,またないし外部の当事者に協力するようにされてい る従業員のすべてから,委員会が求める情報を探索する。
・必要に応じ会社の役員・外部監査人あるいは外部のカウンセラーと会合 を持つ」
ここに記載されている内容は,公認会計士の監査に対する監査委員会の 評価のあり方や「監査業務及び非監査業務すべての事前承認」など明らか でないこともあり,前提とする監査の進め方や子会社への業務財産状況の 調査,会社外部の専門家の利用に関して同じくするとは考えられないが,
基本的には「監査等委員会による調査」の見出しが付されている会社法第 399条の3第1項および第2項に定められている内容と大差がない。
ただ,わが国特有の監査に対する考え方から生じている取締役の行為差 し止め(会社法第399条の6),監査等委員会設置会社と取締役との間におけ る会社の代表等(会社法第399条の7)の権限が監査等委員会にあるほか,
義務の反面として株主総会に対する報告義務からする権限も認められる。
「構成
監査委員会は少なくとも3人からなり,取締役会の6人のメンバーを超 えてはならない。取締役会または指名委員会は,委員会のメンバーおよび 委員長を指名する。
委員会の各メンバーは,独立にして財務に通暁していること。少なくと もメンバーのうち一人は,適用される法令の定義により「財務エキスパー ト」(“financial expert”)と称される者であること」
監査等委員の員数については「監査等委員会設置会社においては,監査 等委員である取締役3人以上で,その過半数は社外取締役でなければな い。」(会社法第331条⑥)とされ,しかも「取締役会設置会社においては,
取締役は3人以上でなければならない。」とされているのみで,取締役の 全員が監査等委員であることもこれらの条文からすれば否定されない。ま た,監査等委員となるものが財務に通暁すべきかどうか,その監査能力に ついてわが国の会社法ではその定めが見当たらない。このことは監査等委 員会の職務の執行を実効あらしめるために重要である。
「会議
委員会は少なくとも年に4回,また,情況からの必要に応じ追加の会議 を持つ。委員会の構成員は,すべて,各会議に,実際に出席するか,また は電話,あるいはヴィデオなどで出席するものとする。委員会は,マネジ メント,監査人あるいはその他の者に会議への出席を通知し,必要に応じ
適切な情報を提供する。委員会は,監査人(以下参照)およびexecutive
sessionsとの私的な会合を持つ。会議の要項が作成され,メンバーに前も
って適切な資料とともに提供される。議事録が作成される。」
記載されている内容は,出席の形式的なことを除き,わが国の会社法運 用のもとで行われてきているこれまでの委員会運営の慣行に照らして特別 に異常ということはないのではないか。委員会が監査人およびexecutive
sessionsと私的な会合を持つとしていることの意味している内容を正しく
想定し得ないけれども,おそらく監査等委員会もこのような方式で運営さ れてゆくのではないかと考えられる。
「責任
監査委員会は次の職務を執行する。
〇財務諸表
・複雑ないし異常な取引や高度な判断領域,最近の職業団体および法令 からなる重要な会計および報告の諸問題をレビューし,それらの財務 諸表への影響を理解する。
・直面したすべての困難を含め,監査の結果をマネジメントおよび外部 監査人とレビューする。
・年次財務諸表をレビューし,それが委員会のメンバーに通じている情 報と一致し,適切な会計原則を反映しているか。
・情報の正確性および完全性を考え,発表する以前に,年次報告書およ び関連の法定提出書類の他のセクションをレビューする。
・一般に認められた監査基準により委員会にコミュニケートすることと されているすべての事項を,マネジメントおよび外部監査人とレビュ ーする。
・マネジメントがどのように中間財務情報を作成しているかを把握し,
内部監査人と外部監査人の関与の内容および程度を理解する。
・中間財務報告書を,行政機関に提出する以前にマネジメントや外部監 査人とレビューし,報告書が完全であり,委員会のメンバーに提出さ れている情報と一致しているかどうかを考える。
〇インターナル・コントロール
・セキュリティーやコントロールに関する情報技術を含め,会社のイン ターナル・コントロール・システムの有効性を考える。
・財務報告に係るインターナル・コントロールについての内部監査人お よび外部監査人によるレビュー範囲を理解し,重要な発見事項や勧告 事項に関する報告書をマネジメントの反応とあわせ入手する。
〇内部監査
・内部監査規程を承認する。
・内部監査部門長の任命や辞任ついての決定を承認する。正当な理由の ない妨げや制約がないことを確保し,内部監査部門長の任用・交代・
免職についてレビューし,同意する。
・監査基本計画とその計画への主要なすべての変更を承認する。その計 画に関連する内部監査部門の実績をレビューする。
・内部監査部門長と内部監査予算,資源計画,諸活動,内部監査機能の 組織構造をレビューする。
・少なくとも1年に一度,内部監査部門長の業績をレビューし,年次報 酬や給与の調整に同意する。
・IIAの内部監査の定義,倫理コード,内部監査の専門職的実施の国際 基準への遵守を含め,内部監査機能の有効性をレビューする。
・定期的に,委員会または内部監査が私的に討議すべきであると信ずる どのような事項も,内部監査部門長と個別に会合を持つべきである。
〇外部監査
・外部監査人の監査範囲および方法の案を,内部監査との調整を含め,
レビューする。
・外部監査人の監査実施内容をレビューし,監査人の任用ないし解任の 最終承認を行う。
・外部監査人の独立性について,非監査サービスを含め,監査人から監 査人と会社との間の関係に関する文書を入手し,また監査人との関係 を討議することにより,レビューし,確かめる。
・委員会ないし外部監査人が個人的に討議すべきと信じられるどのよう な事項についても,例外なく外部監査人と個別に面談する。
〇コンプライアンス
・法令への遵守を監視するシステムの有効性およびマネジメントの調査 結果をレビューし,規律的行為を含め,法令違反のすべての事情をフ ォローアップする。
・行政機関による全検査での摘出事項,および監査人のすべての所見
(observations)をレビューする。
・倫理コードの会社の役員へのコミュニケーションのプロセス,および それへの遵守を監視するプロセスをレビューする
・マネジメントおよび会社の法律顧問からコンプライアンスに関する更 新情報を入手する。
〇報告責任
・委員会の活動,指摘事項,関連の勧告について取締役会に定期的に報 告する。
・内部監査人・外部監査人・取締役会との間のコミュニケーションの開 放的な経路を設ける
・株主に対し年次に報告する。これには委員会の構成,責任,責任がど のように達成されたか,その他ルールによって求められている非監査 サービスの承認を含む他の情報すべてを記載する。
・委員会の責任に関連して会社が発行するその他の報告書すべてをレビ ューする。
〇その他
・取締役会の求めによりこの規定に関連する他の諸活動を行う。
・必要に応じ協会や海外の特別調査。
・変更提案に対する取締役会の承認,法令により求められている適切な 開示が確保されるように,委員会規程の妥当性を年次にレビューし,
評価する。
・この規定に定められている責任のすべてが達成されていることを年ご とに確かめる。
・委員会および個人構成員の業績を定期的に評価する。」 (2013.5改訂)
監査委員会が遂行することになる責任は,財務諸表,内部統制,内部監 査,外部監査,コンプライアンス,報告責任,そしてその他の責任とあっ て,これらの項目からすると会計監査人の責任に関する対象分野が連想さ れる。
なぜなら,「財務諸表」の項で触れている内容は,外部に開示される情 報(中間財務諸表を含む)の信頼性(正確性,完全性と表現しているが)がマネ ジメント,外部監査人によってどのように制度的に保証され,結果が得ら れているかの確認にかかわる。
つぎに「インターナル・コントロール」は,最初の項でセキュリティー やコントロールに関する情報技術とされてインターナル・コントロール・
システムの有効性を考慮されているものの,COSOモデルでの定義におい ても知られるようにインターナル・コントロールの目標が非常に広範であ ることから,どのような内容を意味しているかが明らかでない。おそらく つぎの項で,財務報告に係るインターナル・コントロールに触れているの
で,財務データに焦点を合わせたインターナル・コントロールに関連して の内部監査人および外部監査人のレビュー範囲を指しているのであろう。
つぎに,「内部監査」について,監査委員会と内部監査との関係が実線
(監督的指示)で示されるのかあるいは点線(機能的指示)で示される関係な のかを明らかにすることが重要である。ここで示されているところでは,
①内部部門長の任命や辞任についての決定を承認する。……内部監査部 門長の任用・交代・免職についてレビューし,同意する。また②内部監 査部門長の業績をレビューし,年次報酬や給与の調整に同意するとある。
この①②の人事と給与の面からすると,監督的指示で示される実線の関 係にないことが知られる。内部監査部門長の上司として社長とかあるいは 最高経営責任者(CFO)が存在し,監査委員会はこれを側面から評価して いるように想定していると考えられる。また,③監査計画の承認に関連 し て で あ る が, 監 査 計 画 を こ こ で は 原 文 でaudit planと さ れ,audit
programとされていない。筆者はaudit planを監査戦略に重点を置くおお
まかな計画(監査基本計画)のように理解し,audit programは監査手続や アプローチに重点を置く実施計画のような内容ととらえている。監査基本 計画の設定とその変更への監査委員会の関与とみれば,監査委員会は内部 監査の全容の把握はしているがその仔細については内部監査の執行組織に 委ねているように解している。これは上記の①②での説明と結びつく。
したがって,監査委員会は内部監査部門に直接的な監督的指示を与えるも のではないと理解している。
「外部監査」に監査委員会がどのような責任を有するとすべきか。ここ では「監査人の任用ないし解除の最終承認を行う。」とされているが,監 査等委員会においても「株主総会に提出する会計監査人の選任および解任 並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定」(会社法第
399条の2③第2号)とあり,会計監査人の選任等について類似の責任を担
っている。このためにこの監査委員会モデルは外部監査人の監査範囲およ び方法の案をレビューすることとされていて,「監査範囲および方法の案」
をレビューするにあたって「内部監査との調整を含め」としていることは 注目される。外部監査が公認会計士による監査である限り,例えば,USA では,SECの行政指導のもと,PCAOBが定める基準やルールを遵守し,
公認会計士協会による公正妥当な職業的慣行を尊重しながら専門的職業人 としての正当な注意を払って監査を実施しなければならない。監査委員会 としてもこれを十分に尊重してレビューすることが求められる。「内部監 査との調整」といいながらも監査契約に反することを公認会計士に期待す ることは出来ない。わが国の場合もこれと同じように金融商品取引法に基 づく監査として,関係法令および公認会計士協会委員会報告書での定めに 従うことが求められている。
また,公認会計士による監査が実施される場合には,その状況に照らし 必要にして十分な証拠を財務諸表項目のリスク評価に基づいて入手してい るか,key audit matter,critical audit matterと言われる事項に欠ける可能 性がないかを確かめることが重要である。また,USAでは,PCAOBが,
最近検査にあたって注目している分野として,新しい透明度ルールへの準 拠,収益認識に対する新会計基準の作成,検査人がかつて識別したことの ある監査領域,最近の経済的展開によって影響される監査領域,重要な判 断を要する財務報告領域,海外の監査に対する他の監査人の業務,監査人 による情報技術の利用,監査法人の品質管理システムなどをあげてい る9)。監査等委員会としても(株)東芝の監査事例からも知られるようにガ バナンス強化の視点からこれらの諸点に配慮することが望まれる。
「コンプライアンス」については,法律違反事項すべての事情のフォロ
9) Ken Tysiac, “What PCAOB inspectors are looking for”, J. of A., August 31, 2017.
ーアップ,行政機関等による検査での摘出事項のレビューなどがあげられ ているが,監査委員会によるコンプライアンスへの対応として関心がもた れる。コンプライアンスに関する監査はこれまでの会計領域での監査では これを無視することはしなかったけれども,これのみを行うことは鑑定と して理解されてきた。その意味で監査としては経験が多いとは言えないの で監査等委員会の監査としても注目すべきであろう。
「報告責任」に関し,この監査委員会モデルでは,取締役会による監視 責任の達成に貢献するとしているので,まず第1に,取締役会への定期的 報告の責任があげられ,そして取締役会・外部監査人・内部監査人との間 のコミュニケーション経路の提供,株主への年次報告,会社発行の委員会 関連の報告のレビューなどがあげられている。
「その他の責任」としては,取締役会への貢献の視点から,このモデル で示されていること以外に取締役会が求める活動を実施するとしているこ とが注目されるにとどまる。
IIA監査委員会規程のモデルにより,わが国の監査等委員会がどのよう な相違ないし特色(三様監査の中でという特別の事情を背景にしているけれども)
を有するのかに注目しながら,監査委員会の権限,構成,会議,責任を検 討してきた。
Ⅳ むすび──わが国の企業統治と内部統制について
日本経済新聞(朝刊)は「東芝解体迷走の果て 上」で「国策会社 根 深い統治不全」(2017年10月1日)とのタイトルを付し,会社の基本的方策 をトップで決められない事実があることを報じ,また,日経ビジネスでは
「東芝で揺れる監査法人 顧客奪い合い,再編も」(2017. 10. 02, No. 1910)
のタイトルのもとで,2015年以降新日本監査法人から他の監査法人に変更 した企業名および監査法人名を掲載しているものの,どのような理由で新
監査法人を依頼したのかの記載はない。財務諸表の適正性に対する監査人 の公正不偏な判断と独立性の尊重が関係者の間でどのように理解されてい たのであろうか。
適正な財務諸表の開示のための企業統治は,「財務報告に係る内部統制」
が基礎となり,内部統制報告制度によって報告の信頼性が確保される基盤 を形成するような仕組みとなっているはずである。とりわけトップとの関 係においては,内部統制の「統制環境」が整備され有効に運用されていな ければならない。企業が作成し財務局に提出する内部統制報告書において も,取締役会の決定が不十分であることに起因して内部統制が不備である 旨を記載している報告書が少なくない10)。
今日国際的に広く支持され引用されているCOSOモデルでの内部統制 においてもコントロール環境を内部統制の一部を構成するように説明して いる11)。コントロール環境は「組織体のインテグリティや倫理的価値から なり,……」ともしているが,これが組織体の各階層についての期待を指 すのか,組織体全体の期待を指すのかは釈然としないものがある。けれど も,コントロールを手段(controls)と解するときには達成すべき目標の設 定行為自体を含めてインターナル・コントロールと解することは筆者にと って理解困難である。内部統制は取締役会によって決定された方針・目標
10) 拙稿,内部統制の評価─PCAOB「統合検査報告書」の視点からの「内部 統制報告書」の検討─,商学論纂,第56巻第5・6合併号,2015. 3,中央大 学商学研究会。
11) 周知のように,COSOではコントロール環境がインターナル・コントロー
ルを構成するコンポーネントであるとし,「コントロール環境とは,組織体 を横断してインターナル・コントロール目標を達成する基礎を提供する一連 の基準,プロセス,および構造である。取締役会およびシーニア・マネジメ ントは,期待される実施の基準を含むインターナル・コントロールの重要さ に関するトップの姿勢を確立する。」としている(COSO, Internal Control- Integrated Framework, May 2013, p. 13)。
を達成するための手段とすることが組織体全体については理解しやすい
(組織全体としての方針や目標は,委譲の論理に基づき階層化され,各階層におい て組織体全体の方針や目標を達成すべく各部門での期待が明らかにされ,コントロ ール手段が詳細化されることになることは述べるまでもない)。
取締役会の運営,その結果としての決議はコントロールの目標の設定に かかわるものである。コントロールの目標や倫理水準を決定することにか かわる企業統治,すなわちガバナンスとそれらを達成する手段である内部 統制とは区分して説明することがよいと理解している。その点では,かつ てコントロール環境の概念が用いられ始めたころ,インターナル・コント ロール・システムとは区別し内部統制構造の概念をとったことがある。筆 者はそのようなコントロール環境とコントロールとを分ける概念的整理を した方がよいと考えている。内部監査基準12)では評価の対象をガバナン ス・プロセス,リスク・マネジメント,コントロールとしているが,それ はたんに内部監査の視点からのみでなく,外部監査や監査役監査の視点か らでも望ましい。
IIA監査委員会規程モデルでは,監査委員会の権限・責任が財務的事項 にその多くを向けていることが知られた。
これに対し監査等委員会に関する会社法での定めは,監査役の権限・責 任に類似して会計以外の業務を包含することによるのか,IIA監査委員会 のようにかならずしも財務的事項に重点を置いているとは言えない。それ ゆえ,監査等委員がどの程度の財務的事項に関する専門的能力を有すべき であるのか,監査等委員会としてもその委員に財務に関する特定の資格を 有する者が存在すべきこととはされていない。
IIAでの監査委員会についての理解が国際的に一般的になりつつあると
12) 一般社団法人日本内部監査協会「内部監査基準」,IIA, International Stan- dards for the Professional Practice of Internal Auditing.
すれば(IIAが国際的機関であるということで),わが国の監査委員会は,財 務的事項に対するリスクの識別と評価,それに基づく監査手続,というこ とは監査等委員会による財務的事項に対する確信が,国際的水準から著し く乖離することになるのではないかと憂慮される。
監査等委員会が財務的事項に対する確信を高めるためにはいかにすべき だろうか。IIA監査委員会規程のモデルに横並びするわけではないが,監 査等委員会の構成員中少なくとも1名は,IIAモデルでの「適用される法 令の定義により 財務エキスパート と称される者」に類似した,実務経 験を相当年数有する公認会計士であることを求めるのもひとつの方法では ないかと考えられる。わが国では監査法人の定年を過ぎた人々が相当数い て,監査法人の現役中に培われた経験や知識が国のために貢献するように 生かされることなく,たんに個々人の趣味に余生を過ごしているのを見た り聞いたりすることが多い。それが尊敬される生活の仕方かどうか,持て る知識や経験を現在の環境に適応するようにさらに研磨し,高い気品を保 持し,清廉潔白さをもって,わが国の経済基盤の確立に貢献していただく というのはいがかであろうか。それは公共の利益に奉仕するという公認会 計士法制定の趣旨を尊重することにもなる。