飼 育 下 マ レ ー バ ク の 成 長 に 関 す る 生 理 学 的 お よ び 行 動 学 的 研 究
日 本 大 学 大 学 院 生 物 資 源 科 学 研 究 科 生 物 環 境 科 学 専 攻 博 士 後 期 課 程
金 澤 朋 子
2013
目 次
序 論
第
1章 国 内 飼 育 歴 お よ び 繁 殖 歴 の 調 査
1.1緒 論
1.2
材 料 と 方 法
1.3 結 果1.4 考 察
第
2章 体 重 変 化 を 指 標 と し た 成 長 過 程
2.1緒 論
2.2 材 料 と 方 法 2.3 結 果
2.4 考 察
第
3章 成 長 に 伴 う 体 表 模 様 変 化
3.1緒 論
3.2 材 料 と 方 法 3.3 結 果
3.4
考 察
第
4章 成 長 に 伴 う 行 動 発 達
4.1緒 論
4.2 材 料 と 方 法 4.3
結 果
・ ・ ・
1・ ・ ・
8・ ・ ・
9・ ・ ・
10・ ・ ・
13・ ・ ・
15・ ・ ・
16・ ・ ・
19・ ・ ・
25・ ・ ・
27・ ・ ・
30・ ・ ・
31・ ・ ・
34・ ・ ・
36・ ・ ・
37・ ・ ・
424.4 考 察
第
5章 成 長 に 伴 う 吸 乳 回 数 の 変 化
5.1緒 論
5.2 材 料 と 方 法 5.3
結 果
5.4
考 察
第
6章 乳 中 タ ン パ ク 質 (
TP) 値 変 化
6.1緒 論
6.2 材 料 と 方 法 6.3
結 果
6.4 考 察
第
7章 乳 中 プ ロ ゲ ス テ ロ ン (
P4) 値 変 化
7.1緒 論
7.2
材 料 と 方 法
7.3 結 果7.4 考 察
第
8章 総 括 謝 辞
引 用 文 献 業 績
・ ・ ・
46・ ・ ・
51・ ・ ・
52・ ・ ・
53・ ・ ・
57・ ・ ・
59・ ・ ・
61・ ・ ・
65・ ・ ・
67・ ・ ・
69・ ・ ・
70・ ・ ・
72・ ・ ・
76・ ・ ・
77・ ・ ・
80・ ・ ・
81・ ・ ・
93- 1 -
序 論
マ レ ー バ ク (
Tapirus indicus) は 、 我 が 国 で 一 般 的 に 「 夢 を 食 う 動物 」 と し て 知 ら れ て い る 。 日 本 に こ の 動 物 ( 貘 ) が 紹 介 さ れ た の は 古 く 、 お よ そ
900年 前 の 平 安 時 代 末 期 で あ る と 考 え ら れ て い る 。 当 時 は 、 宝 船 の 帆 に 「 貘 」 と い う 字 を 入 れ た 絵 を 飾 る こ と や 枕 に 貘 の 絵 を 描 く こ と が 悪 魔 除 け の お 守 り と し て 用 い ら れ た と い う 記 録 が 残 っ て い る ( 小 島 ,
1974)。「 貘 」 は 、 聞 き 伝 え で 日 本 に 伝 承 さ れ た 動物 で あ る た め 、 古 文 書 に 記 載 さ れ て い る 形 態 や 生 態 の 多 く は 、 想 像 の 域 を 出 て い な い が 、 一 部 の 寺 社 ( 例 : 長 野 県 の 善 光 寺 や 兵 庫 県 の 護 国 寺 な ど ) の 梁 に 施 さ れ た 貘 の 頭 部 は 、 鼻 の 先 端 が 突 き 出 し た 本 種 の 形 態 的 特 徴 を よ く 表 し て い る ( 図
1)。 こ の よ う に 古 く か ら 日 本 に そ の 存 在 が 伝 え ら れ て い る マ レ ー バ ク は 、 日 本 人 に と っ て 馴 染 み 深 い 動 物 で あ る と い え る 。
現 存 す る マ レ ー バ ク は 、 奇 蹄 目 バ ク 科 バ ク 属 に 属 す る 大 型 の 哺 乳 類 で あ り 、ミ ャ ン マ ー か ら イ ン ド ネ シ ア の ス マ ト ラ 島 に か け 分 布 し 、 熱 帯 雨 林 な ど の 密 林 や 水 辺 付 近 に 生 息 し て い る(
Momin Khan,1997 )
( 図
2,
3)。野 生 で の 生 息 数 は 、森 林 開 発 等 に 伴 う 生 息 地 の 狭 小 化 に 伴 い 個 体 数 を 減 少 さ せ て お り 、現 在 の 生 息 数 は
1,500か ら
2,000頭 と 推 定 さ れ て い る (
Tapir specialist group,
2008)。 ま た 、
IUCNの レ ッ ド リ ス ト で は 、 絶 滅 危 惧 種 (
EN) に 分 類 さ れ て い る (IUCN,
2013)
( 図
4)。 こ の よ う に 個 体 数 減 少 の 著 し い 種 で あ る こ と や 、 繁 殖 期 以
- 2 -
外 は 森 林 内 で 単 独 生 活 す る 生 態 を も つ こ と か ら 、 特 に 警 戒 心 が 強 く な る 周 産 期 の 母 体 や 、 カ モ フ ラ ー ジ ュ と し て の 「 ウ リ 坊 」 模 様 を も つ 時 期 に お け る 仔 の 行 動 や 生 理 に 関 す る 情 報 は 少 な い ( 図
2)。
国 内 外 の 動 物 園 は 、 本 種 を 絶 滅 か ら 救 う た め に 飼 育 下 繁 殖 の 研 究 を 進 め て い る 。 我 が 国 に お い て も 、 日 本 動 物 園 水 族 館 協 会 が 種 保 全 の 対 象 種 に 指 定 し 、種 保 存 を 目 的 と し て 本 種 の 飼 育 を 行 っ て い る( 日 本 動 物 園 水 族 館 協 会 ,
2013)。 し か し 、 一 腹 産 数 が 1頭 で あ り 、 性 成 熟 に
3か ら
5年 を 要 し (
Lee,1993)、 さ ら に 成 育 率 と 繁 殖 率 が 低 い た め 、 飼 育 下 で の 安 定 的 な 個 体 群 維 持 、 す な わ ち 種 保 存 の た め の 域 外 保 全 が 達 成 さ れ て い る と は 考 え 難 い 状 況 で あ る 。 飼 育 下 で の 観 察 か ら 本 種 の 発 情 周 期 は 約
30日 間 隔 で あ る こ と が 分 か っ て お り(
Read,
1986)、外 陰 部 の 様 子 や 発 情 様 行 動 の 増 加 か ら 発 情 時 期 の 確 認 が 可 能 で あ る ( 竹 箇 平 ,
2000)。 そ の た め 、 飼 育 下 で は 交 配 適 期 の 判 断 が 比 較 的 容 易 で あ る 。 そ の 利 点 を 生 か し 、 さ ら に 野 生 に お い て 繁 殖 期 以 外 は 単 独 生 活 を お く る 本 種 の 生 態 を 考 慮 し て (
Nowak,
1999)、 発 情期 間 中 に の み 雌 雄 を 同 居 さ せ て 繁 殖 が 試 み ら れ て い る 。 し か し 、 飼 育 下 個 体 群 を 安 定 的 に 維 持 す る に は 、出 生 し た 仔 が 無 事 に 性 成 熟 し 、 複 数 頭 の 仔 ( 次 世 代 ) を 残 さ な け れ ば な ら な い 。 繁 殖 に 適 し た 成 獣 に な る に は 、 身 体 的 の み な ら ず 心 理 的 に も 健 常 な 成 長 を 遂 げ る 必 要 が あ る 。
そ こ で 本 研 究 で は 、 本 希 少 種 の 長 期 飼 育 下 繁 殖 計 画 に 役 立 て る た
め 、 出 生 直 後 か ら
1年 間 に わ た り 成 長 に 伴 う 生 理 学 的 お よ び 行 動 学
- 3 -
的 な 変 化 を 母 仔 に つ い て 観 察 記 録 し 、 身 体 的 お よ び 心 理 的 に 健 常 な
成 長 過 程 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。
- 4 -
図
1長 野 県 善 光 寺 の 木 鼻
- 5 -
図
2 マ レ ー バ ク の 親 子 ( 横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー )- 6 -
図
3マ レ ー バ ク の 生 息 分 布 図 (
Tapir specialist group,
2008)
- 7 -
図
4 IUCNの レ ッ ド リ ス ト デ ー タ (
IUCN,2013)- 8 -
第 1 章 国 内 飼 育 歴 お よ び 繁 殖 歴 の調 査
1.1 緒 論
マ レ ー バ ク の 生 体 は 、
1819年 に 正 式 な 発 見 報 告 が さ れ (
Momin Khan,
1997)、 そ の 後 、
1840年 に は ロ ン ド ン 動 物 園 で 初 め て 飼 育 が
行 わ れ た ( 佐 々 木 と 佐 々 木 ,
1977)。 実 際 に 本 種 の 生 体 が 国 内 に 持 ち
込 ま れ た の は 、 近 年 の こ と で あ り 、
1903年 に 大 阪 天 王 寺 で 行 わ れ た
第
5回 内 国 勧 業 博 覧 会 に お い て 出 展 さ れ た の が 最 初 の 例 で は な い か
と 言 わ れ て い る( 高 島 ,1986 )。そ の 後 、1957 年 に 恩 賜 上 野 動 物 園 で
雄
1頭 の 国 内 飼 育 が 開 始 さ れ 、
1970年 に は 多 摩 動 物 公 園 に お い て 国
内 初 の 飼 育 下 繁 殖 に 成 功 し た ( 熊 沢 と 宗 近 ,
1971)。
2012年
12月 現
在 で は 、11 施 設 で
35頭 が 飼 育 さ れ て い る 。本 章 で は 、こ れ ま で の 国
内 飼 育 状 況 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し 、 飼 育 下 繁 殖 に お け る 問
題 点 を 提 起 し た 。
- 9 -
1.
2 材 料 と方 法
日 本 動 物 園 水 族 館 年 報 (
1958年 ~
2009年 )に 記 載 さ れ た 飼 育 記 録
お よ び マ レ ー バ ク を 過 去 か ら 現 在 ま で 飼 育 し て い た 経 歴 の あ る
24園
館 ( 閉 園 館 も 含 む ) か ら 得 た 飼 育 情 報 を 基 に 、 国 内 の 飼 育 頭 数 お よ
び 繁 殖 歴 を 調 査 し た 。 な お 、 日 本 動 物 園 水 族 館 年 報 に 記 載 さ れ た 情
報 つ い て は 、 東 京 動 物 園 協 会 の 許 可 を 得 て 、 当 資 料 室 所 蔵 の も の を
閲 覧 記 録 し た 。 飼 育 園 館 の 情 報 に つ い て は 、
2012年 バ ク 科 全 種 国 内
血 統 登 録 台 帳 ( 佐 藤 ,
2012) で 入 手 し た 。
- 10 -
1.
3 結 果
1970
年 に 多 摩 動 物 公 園 に お い て 、 国 内 初 の 飼 育 下 繁 殖 に 成 功 し て か ら
2009年 ま で に 、23 組 の 繁 殖 ペ ア が 形 成 さ れ て い た( 図
1-1)。そ の う ち 、国 内 繁 殖 個 体 の み の ペ ア は
5組 で あ り 、残 り の
18組 は 両 親 ま た は 片 親 が 創 始 個 体 ( 野 生 由 来 か 海 外 の 飼 育 施 設 で 生 ま れ 、 国 内 に 祖 先 が い な い 個 体 )で あ っ た 。ま た 、
1970年 か ら の 過 去
40年 間 に お い て 、
56頭 が 出 生 し て い た 。 仔 は 、 創 始 個 体 の み の ペ ア か ら
16頭 、創 始 個 体 と 国 内 繁 殖 個 体 の ペ ア か ら
27頭 、国 内 繁 殖 個 体 の み の ペ ア か ら
11頭 、 不 明 個 体 の ペ ア か ら
2頭 が 出 生 し て い た ( 図
1-2)。
し か し 、
6ヶ 月 齢 ま で 成 育 し た 完 全 保 育 頭 数 は
56頭 中
49頭(
87.5%)
で あ っ た こ と か ら 、出 産 ペ ー ス は
1年 に 約
1.2頭 で あ る こ と が 分 か っ
た 。 ま た 、 国 内 で 出 生 し 、 そ の 後 の 繁 殖 に 参 加 し た 仔 は
49頭 中
22頭 (
44.9%) で あ っ た 。- 11 -
図
1-1国 内 飼 育 下 マ レ ー バ ク の 家 系 図
各 個 体 に 関 す る 情 報 は 、雌 雄 記 号 の 横 に 国 内 血 統 登 録 番 号 、出 生 地 、
( 出 生 年 ) を 記 載 し て い る 。 ま た 、 点 線 は 繁 殖 ペ ア の 関 係 を 示 し 、
実 線 は 親 子 関 係 を 示 し て い る 。
- 12 -
図
1-2 1970年 か ら
2009年 間 の 国 内 出 生 仔 数
0 10 20 30 40 50 60
0 1 2 3 4 5
積算出生仔数(頭 )
出生仔数(頭)
(年)
国内繁殖個体のみのペア 創始個体と国内繁殖個体のペア 創始個体のみのペア
積算出生仔数
- 13 -
1.4 考 察
飼 育 下 繁 殖 に よ り 希 少 動 物 種 が 生 存 の 危 機 か ら 脱 し た 例 は い く つ か あ る 。モ ウ コ ノ ウ マ(
Equus ferus przewalski)は 、1957 年 を 最 後 に 野 生 か ら そ の 姿 を 消 し た が 、 長 期 飼 育 下 繁 殖 計 画 が 功 を 奏 し 、
1993年 現 在 で
1,253頭 に ま で 回 復 し た (
Volf et al.,
1991)。 ア ラ ビ ア オ リ ッ ク ス(
Oryx leucoryx)は 、狩 猟 圧 な ど で そ の 数 が 激 減 し た た め 、世 界 中 の 動 物 園 が 協 働 で 飼 育 下 繁 殖 に 取 り 組 み 、
1991年 現 在 で
641頭 が 飼 育 さ れ る ま で に 至 っ て い る (
Olney,1992)。 ま た 、
1971年 に 野 生 で の 絶 滅 が 確 認 さ れ た ニ ホ ン コ ウ ノ ト リ (
Ciconia boyciana) に おい て も 、
1981年 に 初 め て 東 京 都 多 摩 動 物 公 園 が 飼 育 下 繁 殖 に 成 功 し 、 そ の 翌 年 に は 豊 岡 市 コ ウ ノ ト リ 保 護 増 殖 セ ン タ ー で も 繁 殖 に 成 功 し た こ と に よ り 、
2010年 現 在 で は
13施 設 で
183羽 の 飼 育 が 行 わ れ て い る ( 増 井 ,
1996; コ ウ ノ ト リ 野 生 復 帰 推 進 計 画 策 定 委 員 会 ,
2012)。
こ れ ら の 種 は 継 続 的 に 飼 育 下 個 体 群 が 維 持 さ れ 、 そ の 後 、 野 生 復 帰 を 達 成 で き た 好 例 で あ る 。 絶 滅 が 危 惧 さ れ て い る マ レ ー バ ク に お い て も 、 繁 殖 を 順 調 に 進 め て 飼 育 下 個 体 群 を 維 持 し 、 将 来 的 に は 野 生 復 帰 が 行 え る よ う 飼 育 管 理 技 術 を 高 め る 必 要 が あ る 。
本 調 査 で は 、 毎 年 の よ う に 仔 が 誕 生 し 、 年 々 マ レ ー バ ク の 国 内 飼
育 数 は 増 加 し て い た こ と が 分 か っ た 。 し か し 、 そ の 繁 殖 は 創 始 個 体
に 頼 る と こ ろ が 大 き か っ た 。
1970年 か ら の 過 去
40年 間 で 成 立 し た ペ
ア の 内
78.3%(
18/23組 ) は 、 創 始 個 体 の み か 片 親 が 創 始 個 体 の ペ ア
で あ っ た 。さ ら に 、全 出 生 仔 の 内
76.8%が 創 始 個 体 の み か 片 親 が 創 始
- 14 -
個 体 の ペ ア か ら 誕 生 し て い た 。 ま た 、 次 世 代 の 繁 殖 に 参 加 し た 国 内
の 出 生 仔 は
44.9%(
22/49頭 ) と 半 分 以 下 で あ っ た 。 本 種 の 飼 育 下 個
体 に お い て 、 発 情 し て も 交 尾 を し な い 、 交 尾 を し て も 繁 殖 し な い 個
体 な ど 問 題 個 体 の 存 在 が 報 告 (
Kusuda et al.,2007;
2008) さ れ て いる こ と か ら も 、今 後 、野 生 か ら 新 た な 創 始 個 体 を 導 入 し た と し て も 、
ペ ア リ ン グ 可 能 な 国 内 繁 殖 個 体 が 存 在 し な い と い う 問 題 が 生 じ る か
も し れ な い 。 域 外 保 全 を 長 期 に わ た り 継 続 さ せ る た め に は 、 単 に 繁
殖 を 成 功 さ せ る だ け で な く 、 次 世 代 の 繁 殖 と 飼 育 下 個 体 群 の 維 持 に
つ な が る 仔 の 育 成 が 必 須 で あ る 。
- 15 -
第 2 章 体 重 変 化 を指 標 と し た 成 長 過 程
2.1 緒 論
体 重 は 、 最 も 容 易 に 計 測 可 能 な 身 体 的 成 長 の 指 標 で あ り (
Layne,
1968)、こ の 指 標 を 用 い る こ と に よ り 、仔 の 体 重 変 化 か ら 正 常 な 発 育 段 階 を 経 て い る か 否 か の 判 定 が 可 能 と な る 。 ま た 、 初 期 の 成 長 速 度 が そ の 後 の 繁 殖 成 功 率 と 関 連 が あ る と 報 告(
Monson et al.,2000)さ れ て お り 、 次 世 代 の 繁 殖 に つ な が る 仔 の 育 成 を 行 う た め に は 、 マ レ ー バ ク の 適 切 な 成 長 速 度 を 明 ら か に す る 必 要 性 が あ る 。 し か し 、 成 長 速 度 は 種 そ れ ぞ れ で 異 な っ て お り 、 マ レ ー バ ク が 属 す る 有 蹄 類 内 に お い て も 、 出 生 体 重 が
2倍 に な る 日 数 ( 倍 加 日 数 ) が 種 に よ っ て 異 な る( 例 え ば 、ウ マ は
60日 、ヤ ギ は
22日 、ブ タ は
14日 ) ( 片 岡 ,
1992)。一 方 、母 親 の 体 重 値 に 対 す る 一 腹 仔 の 総 体 重 値 の 割 合 に よ り 、 妊 娠 期 や 育 仔 期 に お け る 母 親 の 仔 へ の 投 資 量 が 評 価 可 能 と な っ て い る (
Gittleman and Oftedal,1987;Milne,
1987)。
こ の こ と か ら 、 本 種 の 詳 細 な 成 長 過 程 や 繁 殖 に 関 す る 生 態 情 報 を
得 る た め に は 、 出 生 時 体 重 を は じ め 、 成 長 に 伴 う 体 重 変 化 を 明 ら か
に す る 必 要 が あ る と 考 え た 。
- 16 -
2.2 材 料 と方 法
横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー ( 神 奈 川 県 横 浜 市 旭 区 川 井 宿 町 ) に お い て 繁 殖 研 究 の た め 飼 育 管 理 さ れ て い る マ レ ー バ ク の 仔
3個 体 を 供 試 し た ( 表
2-1, 図 2-1)。電 気 抵 抗 線 体 重 計 (
DI-160,( 株 ) 寺 岡 岩 手 製 作 所 ) を 使 用 し 、 出 生 後
1週 間 は 連 日 、 そ れ 以 降 は 週 に 約
1回 の 間 隔 で 体 重 測 定 を 行 っ た 。 測 定 は 母 親 と 隔 離 し て 行 い 、 リ ン ゴ な ど の 餌 を 使 い 秤 台 に 誘 導 し 測 定 し た 。
3
個 体 の 体 重 推 移 に 適 合 す る 成 長 曲 線 式 を 求 め た 。成 長 曲 線 式 か ら 推 定 値 を 求 め 、 生 後
1年 間 に お け る 全 日 齢 の 体 重 の 推 定 値 を 算 出 し た 。 体 重 の 計 測 間 隔 が 一 定 で な い た め 、 成 長 曲 線 の 式 か ら 求 め ら れ た 推 定 値 を 用 い て 、
2日 間 の 体 重 値 の 差 か ら
1日 の 増 体 重 (
Daily Gain: 以 下
DG) 値 を 算 出 し た 。
成 長 曲 線 式 は ロ ジ ス テ ィ ッ ク 式 お よ び ゴ ン ペ ル ツ 式 を 用 い て 作 成
し て 分 散 分 析 に よ り 有 意 性 を 判 定 し 、
DG値 は
Dunnettの 多 重 比 較 検
定 を 用 い て 解 析 し た 。
- 17 -
表
2-1仔 の 個 体 情 報
N o. 個体名 性別 生年月日 出生地
94 ラ ジ ャ 雄 2006 年 8 月 31 日 横 浜 市 立 繁 殖 センタ ー 97 ノ ジ ア マ 雄 2008 年 9 月 3 日 横 浜 市 立 繁 殖 センタ ー
98 ラ バ チ ョ 雄 2008 年 10 月 12 日 横 浜 市 立 繁 殖 センタ ー
※
No.: 国 内 血 統 登 録 番 号
- 18 -
図
2-1横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー で 出 生 し た マ レ ー バ ク ( 仔 )
- 19 -
2.3 結 果
出 生 時 体 重 値 は 、
No.94が
5.1kg、
No.97が
7.6kg、
No.98が
6.6kgで あ っ た 。母 親 の 体 重 値 に 対 す る 一 腹 仔 の 総 体 重 値 の 割 合 は 、
No.94が
0.020、No.97が
0.021、
No.98が
0.024で あ っ た 。 本 種 は 一 腹 産 仔 数 が
1頭 で あ り 、本 研 究 で 確 認 し た
3回 の 出 産 に お い て も 、
1頭 ず つ の 出 生 で あ っ た 。 そ の た め 母 親 の 体 重 値 に 対 す る 一 腹 仔 の 総 体 重 値 の 割 合 は 、 そ れ ぞ れ の 出 産 年 の 各 母 親 の 体 重 値 に 対 す る 出 生 時 体 重 値 の 割 合 で 算 出 し た 。 倍 加 日 数 は 、
No.94が
14日 、
No.97が
14日 、
No.98が
15日 で あ っ た 。
出 生 直 後 か ら の
1年 間 に 記 録 さ れ た
3個 体 の 体 重 測 定 値 か ら 得 ら れ た 成 長 曲 線 は 、ゴ ン ペ ル ツ 式 が も っ と も よ く 適 合 し た( 図
2-1,2-2)。y=Kb^a^x
た だ し
Kは 上 限 値 、
aは 係 数 、
bは 定 数 項 、
xは 日 齢 を 表 す 。 上 限 値 は 本 研 究 個 体 の 父 親 お よ び 母 親 の 平 均 値 と し 、
283.5を 用 い た 。
3
個 体 の 平 均 の 体 重 測 定 値 お よ び 各 個 体 の 体 重 測 定 値 か ら 算 出 し た ゴ ン ペ ル ツ 式 の 係 数 お よ び 定 数 項 は 次 の よ う に 求 め ら れ た ;
3
個 体 の 平 均 :
a=0.993、
b=0.055 No.94:
a=0.993、
b=0.044 No.97:
a=0.993、
b=0.057 No.98:
a=0.994、
b=0.058ま た 、 各 ゴ ン ペ ル ツ 式 の 決 定 係 数 は 、
3個 体 の 平 均 が
R2=
0.962(
P<0.001)、
No.94が
R2=
0.968(
P<0.001)、
No.97が
R2=
0.988- 20 -
(
P<0.001)、No.98が
R2=
0.974(
P<0.001) で あ っ た 。各 ゴ ン ペ ル ツ 式 か ら 算 出 し た 体 重 の 推 定 値 よ り 、
DG値 を 求 め た
( 図
2-3)。3個 体 の 平 均 の 体 重 推 定 値 か ら 求 め た
DG値 は 、他 の 日 齢 に 比 べ 、
135日 齢 か ら
179日 齢 の 間 が 有 意 に 高 く ( 表
2-1)、 さ ら に
155日 齢 か ら
156日 齢 の 間 で
DG値 が 最 高 値 と な っ た(
0.710kg/day)。
No.94
の 体 重 推 定 値 か ら 求 め た
DG値 は 、他 の 日 齢 に 比 べ
145日 齢 か ら
189日 齢 の 間 が 有 意 に 高 く ( 表
2-1)、 さ ら に
165日 齢 か ら
166日 齢 の 間 で 、
DG値 が 最 高 値 と な っ た (
0.712kg/day)。No.97の 体 重 推 定 値 か ら 求 め た
DG値 は 、 他 の 日 齢 に 比 べ
120日 齢 か ら
164日 齢 の 間 が 有 意 に 高 く ( 表
2-1)、 さ ら に
140日 齢 か ら
141日 齢 の 間 で 、
DG値 が 最 高 値 と な っ た (
0.772kg/day)。No.98の 体 重 推 定 値 か ら 求 め た
DG値 は 、他 の 日 齢 に 比 べ
140日 齢 か ら
184日 齢 の 間 が 有 意 に 高 く( 表
2-1)、さ ら に 161日 齢 か ら
162日 齢 の 間 で 、
DG値 が 最 高 値 と な っ た
(
0.670kg/day)。
- 21 -
図
2-1 3個 体 の 平 均 の 体 重 測 定 値 と ゴ ン ペ ル ツ 式 に よ る 体 重 推 定 値
050 100 150 200 250
0 50 100 150 200 250 300 350 400
体重値(
kg)
日齢
3個体の体重測定値
推定値
- 22 -
図
2-2 各 個 体 の 体 重 測 定 値 と ゴ ン ペ ル ツ 式 に よ る 体 重 推 定 値 050 100 150 200 250
0 50 100 150 200 250 300 350 400
体重値(
kg)
日齢
No.94 No.97 No.98 No.94 No.97 No.98
推定値
測定値
- 23 -
図
2-3ゴ ン ペ ル ツ 式 よ り 算 出 し た
3個 体 の 平 均
DG値 お よ び 各 個 体 の
DG値
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
0 50 100 150 200 250 300 350 400
DG
値(
kg/day)
日齢
3個体の平均値 No.94
No.97 No.98
- 24 -
表
2-1日 齢 間 の 平 均
DG値 (
kg/day) の 比 較対象個体 日齢
<135
0.545135~179 0.707 ***
>179
0.550<145
0.526145~189 0.709 ***
>189
0.561<120
0.593120~164 0.769 ***
>164
0.560<140
0.518140~184 0.668 ***
>184
0.537***
:0.1%水準で有意差あり
DG値 3個体の平均値
No.94
No.97
No.98
- 25 -
2.4 考 察
体 重 は 、 生 体 の 成 長 速 度 を 表 す の に 最 も よ い 指 標 と さ れ て い る
(
Layne,1968)。 そ の た め 、 マ レ ー バ ク に お い て も 仔 の 成 長 過 程 を知 る 上 で は 仔 の よ り 詳 細 な 体 重 変 化 を 知 る 必 要 が あ る が 、 本 種 の よ う な 大 型 動 物 を 定 期 的 に 身 体 計 測 す る こ と は 難 し く 、 こ れ ま で 詳 細 な デ ー タ が な か っ た 。 し か し 本 研 究 に よ り 、 出 生 時 を 含 む 出 生 後
1年 間 の 詳 細 な 体 重 測 定 値 が 明 ら か と な っ た 。
母 親 の 体 重 値 に 対 す る 一 腹 仔 の 総 体 重 値 の 割 合 は 、 妊 娠 期 の 母 親 の 子 へ の 投 資 量 を 表 す 指 標 と し て 使 わ れ る( 川 道 ,
1995;仲 谷 ,
1995)。妊 娠 に よ る 体 重 の 増 加 は 、 非 捕 食 者 で あ る 有 蹄 類 に と っ て 、 捕 食 者 か ら の 逃 避 能 力 の 低 下 に 繋 が り 、大 き な リ ス ク を 負 う こ と に な る( 川 道 ,
1995)。 一 般 に 、 大 型 動 物 で あ る ほ ど 、 母 親 の 体 重 値 に 対 す る 出 生 時 体 重 値 の 割 合 は 減 少 す る 傾 向 に あ り 、 多 く の 哺 乳 類 で は お よ そ
0.05で あ る と 報 告 さ れ て い る( 仲 谷 ,
1995)。本 研 究 個 体 の 母 親 の 体 重 値 に 対 す る 出 生 時 体 重 値 の 割 合 の 平 均 値 は 、0.022 で あ っ た こ と か ら 、 マ レ ー バ ク の 出 生 仔 は 他 の 有 蹄 類 に 比 べ 母 親 に 対 す る サ イ ズ が 小 さ い こ と が 示 さ れ た 。 そ の た め 、 妊 娠 期 の 母 親 の リ ス ク は 低 く 抑 え ら れ る と 考 え ら れ る が 、 出 生 仔 は 、 運 動 能 力 が 不 十 分 な 状 態 で 生 ま れ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
一 方 で 、成 長 速 度 を 示 す 倍 加 日 数 は 、予 測 よ り 早 い 結 果 と な っ た 。
倍 加 日 数 は 、 各 動 物 種 の 妊 娠 期 間 や 寿 命 な ど と 正 の 相 関 が あ る と 報
告 ( 三 宅 ,
1959) さ れ て お り 、 マ レ ー バ ク は 妊 娠 期 間 が
400日 、 寿
- 26 -
命 が
30~40年 で あ る こ と か ら ウ マ な ど と 同 様 な
60日 と 想 定 さ れ た 。 し か し 、 本 研 究 個 体 の 平 均 倍 加 日 数 は
14.5日 で あ り 、 予 測 よ り も か な り 早 い 成 長 速 度 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ の こ と か ら 本 種 の 仔 は 、 他 の 有 蹄 類 よ り も 早 く 身 体 的 に 成 長 し 活 動 す る の に 十 分 な 運 動 能 力 を 持 つ と 推 察 し た 。
以 上 の こ と か ら 、 マ レ ー バ ク は 他 の 有 蹄 類 に 比 べ 小 さ い サ イ ズ で 生 ま れ 、 出 生 後 に 急 速 に 成 長 し 、 母 仔 と も に 捕 食 者 に 捕 ま る リ ス ク を 減 ら す た め の 生 存 戦 略 を と っ て い る と 結 論 し た 。
ま た 、本 研 究 に よ っ て 求 め ら れ た ゴ ン ペ ル ツ 式 は 、3 個 体 の 体 重 測 定 値 と 高 い 適 合 性 を 示 し た こ と か ら 、 本 種 に お け る 成 長 速 度 の 解 析 が 可 能 で あ る と 推 察 さ れ た 。 よ っ て 、 体 重 測 定 が 困 難 な 個 体 に お い て も 、 よ り 適 切 な 体 重 変 化 の 推 察 が 可 能 と な り 、 成 長 段 階 を 明 ら か に す る こ と が で き る と 考 え た 。 本 研 究 個 体 に お い て 、 生 後
5ヶ 月 齢 前 後 の 身 体 的 に 急 速 な 成 長 が 示 さ れ た 。
自 然 界 に お け る 成 長 の 変 動 は 、 個 体 群 密 度 の 増 減 に 伴 う 餌 条 件 の
変 動 に よ っ て 起 こ る と 報 告 (
Laidre et al.,2006) さ れ て い る 。 そ の
た め 、 飼 育 個 体 に お い て も 給 餌 量 は 成 長 速 度 の 変 動 を 引 き 起 こ す 原
因 に な る と 考 え る 。 よ っ て 、 本 種 に お い て も 生 後
5ヶ 月 齢 前 後 は 、
身 体 測 定 な ど に よ る 成 長 の モ ニ タ リ ン グ を 行 い 、 適 正 な 成 長 速 度 を
経 て い る か 否 か を 明 ら か に す る た め に 大 切 な 時 期 で あ る と 結 論 し た 。
- 27 -
第 3 章 成 長 に 伴 う体 表 模 様 変 化
3.1 緒 論
奇 蹄 目 バ ク 科 バ ク 属 の 動 物 は 、 マ レ ー バ ク を は じ め 、 ブ ラ ジ ル バ ク(
T. terrestris)、ベ ア ー ド バ ク(
T. bairdii)、ヤ マ バ ク(
T. pinchaque) の
4種 が 現 存 し て い る と 最 近 ま で 報 告(
Downer,
2001;
Lee,
1993;
Nowak,1999) さ れ て い た 。 し か し 、
2013年 に ア マ ゾ ン の 熱 帯 雨 林 で
5種 目 と な る
T. kabomaniの 発 見 報 告 が な さ れ た 。こ の 種 の 存 在 は 、 先 住 民 た ち に 古 く か ら 知 ら れ て い た が 、
1865年 に ベ ア ー ド バ ク の 発 見 報 告(
Gill,
1865)が さ れ て 以 来 、 お よ そ
150年 ぶ り の 正 式 な 発 見 報 告 (
Cozzuol et al.,2013) と な っ た 。T. kabomaniは 現 存 す る バ ク の 中 で 最 も 小 さ く 、体 長 は
130cm、体 高 は 90cm、体 重 は お よ そ
110kgで あ り 、 ブ ラ ジ ル バ ク よ り 暗 い 体 色 を 呈 し て い る と 報 告 さ れ て い る
(
Cozzuol et al.,
2013)。
こ れ ま で に 報 告 が あ る 、T. kabomani を 除 い た
4種 の 幼 獣 時 は 共 通 し て 、 茶 褐 色 の 体 表 に 白 色 の 斑 点 と 縞 模 様 を 持 ち 、 い わ ゆ る ウ リ 坊 模 様 を 有 し て い る 。 成 長 に 伴 い こ の 模 様 は 消 失 し 、 生 後 約
4ヶ 月 齢 に は 成 獣 と ほ ぼ 同 様 の 体 表 模 様 と な る 。
4種 の 内 マ レ ー バ ク の 成 獣 の み が 、 幼 獣 時 の ウ リ 坊 模 様 が 消 失 す る の と 同 時 期 に 、 胴 部 の 中 央 に 白 色 の 鞍 模 様 を 呈 し 、 頭 部 か ら 前 肢 ま で の 部 分 と 四 肢 及 び 尾 部 が 黒 色 の 白 黒 模 様 と な る ( 図
3-1)。動 物 の 体 表 模 様 は 、 主 に 隠 蔽 ( 保 護 色 ) や 擬 態 、 も し く は 信 号 と
- 28 -
し て 機 能 し て お り 、 動 物 の 生 活 様 式 や 生 息 環 境 さ ら に は 同 所 に 生 息 す る 同 種 お よ び 他 種 の 個 体 と の 交 流 に 極 め て 重 要 な 役 割 を も つ こ と が 分 か っ て い る (
Cott,1940)。 ま た 、 体 色 が 生 息 環 境 の 背 景 と 同 系 色 ま た は 同 配 色 を し た 動 物 は 、捕 食 さ れ に く い と さ れ て い る(
Endler,
1978)。
バ ク の 幼 獣 の ウ リ 坊 模 様 は 、 草 陰 や 岩 の 陰 で 身 を 潜 め る こ と で 生 息 環 境 の 背 景 に 溶 け 込 む 保 護 色 効 果 が あ る と 考 え ら れ て い る
(
Barongi,1986)。ま た 、成 獣 時 の 黒 白 の 対 照 的 な
2色 で 構 成 さ れ た 体 色 は 分 断 色(
disruptive coloration)と 呼 ば れ 、動 物 の 体 の 輪 郭 を 分か り 難 く す る 効 果 が あ る と 考 え ら れ て い る(
Merilata,
1999;
Merilata and Lind,
2005)。 さ ら に 、 薄 暮 性 で あ る マ レ ー バ ク の 分 断 色 は 夜 間 の 森 林 内 で は 月 明 か り に よ り 、 周 囲 の 木 々 と 同 化 し て 外 敵 か ら 見 つ か り 難 く な り 、 保 護 色 と し て の 効 果 も あ る と 考 え ら え て い る (
Lee,
1993)。
以 上 の よ う に 、 幼 獣 と 成 獣 時 の 体 表 模 様 は 生 息 環 境 に 溶 け 込 む た
め の 隠 蔽 効 果 が あ る が 、 成 長 に 伴 う 役 割 の 変 化 と と も に 体 表 模 様 の
消 失 お よ び 新 た な 体 表 模 様 の 発 現 が 確 認 さ れ て い る 。 そ の た め 、 本
種 の 体 表 模 様 変 化 を こ れ ま で に 得 ら れ た 体 重 デ ー タ と 共 に 解 析 す る
こ と で 、 視 覚 的 に 成 長 段 階 の 推 定 が 可 能 に な る と 考 え た 。
- 29 -
図
3-1バ ク 科
4種 の 成 獣 お よ び 幼 獣 の 体 表 模 様 図
(
Tapir specialist group,
2008)
- 30 -
3.2 材 料 と方 法
横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー ( 神 奈 川 県 横 浜 市 旭 区 川 井 宿 町 ) に お い て
繁 殖 研 究 の た め 飼 育 管 理 さ れ て い る マ レ ー バ ク の 仔
2個 体 (
2008年
9月
3日 生 , 雄 , 国 内 血 統 番 号
No. 97;
2008年
10月
12日 生 , 雄 ,
国 内 血 統 番 号
No. 98) を 供 試 し た ( 表
2-1と 図
2-1)。 デ ジ タ ル カ メ
ラ(
Panasonic DMC-FZ18)で 供 試 個 体 の 左 体 側 部 を 週 に
1回 な い し
2回 撮 影 し 、 測 定 試 料 と し た 。 撮 影 は 、 野 外 放 飼 場 で 行 な い 、 各 個 体
の 出 生 後 約
10ヵ 月 間 に
No.97は
47回 、
No.98は
46回 の 撮 影 を 行 っ
た 。 撮 影 画 像 は 、 色 の 濃 淡 を 用 い る 明 度 に よ り 解 析 す る た め 画 像 解
析 ソ フ ト(
Adobe Photoshop CS3 Extend)で グ レ ー ス ケ ー ル 変 換 し た 。
明 度 の 測 定 位 置 は 、 肩 高 骨 前 端 部 か ら 尾 根 部 を 胴 長 、 腰 部 か ら 腹 底
部 を 胴 深 と し 、 本 画 像 解 析 ソ フ ト の ア プ リ ケ ー シ ョ ン で あ る 「 も の
さ し ツ ー ル 」 を 用 い て 長 さ を 測 定 す る 、 定 位 置 で 行 っ た 。 測 定 位 置
は 、 幼 獣 時 の 縞 模 様 と 斑 点 模 様 が 重 な ら な い 茶 褐 色 の 体 表 部 分 で あ
り 、 将 来 白 色 の 鞍 模 様 が 出 現 す る
2箇 所 で 正 方 形 に 設 定 し た 。 設 定
し た 測 定 位 置 の 面 積 内 の 明 度 の 平 均 値 を 、 画 像 解 析 ソ フ ト を 使 用 し
て 測 定 し た 。 撮 影 日 や 撮 影 時 の 天 候 な ど の 違 い を 補 正 す る た め 、 成
長 に 伴 う 変 化 が 少 な い 耳 の 先 端 部 の 白 色 の 明 度 を 対 象 色 と し 、 明 度
の 相 対 値 を 算 出 し た 。 相 対 値 化 し た 値 を 基 準 と し て 、 明 度 値 が
1以
上 を 示 し た 場 合 は 、 体 表 模 様 の 変 化 が 完 了 し た も の と し た 。 明 度 値
の 変 化 と 日 齢 の 関 係 に つ い て は 、 回 帰 分 析 を 用 い て 解 析 し た 。
- 31 -
3.3 結 果
成 長 に 伴 う 体 表 模 様 の 変 化 に つ い て は 図
3-2に 示 し た 。出 生 時 の 仔 の 体 表 模 様(
0ヶ 月 齢 )は 、茶 褐 色 の 体 表 に 白 色 の 斑 点 が あ る ウ リ 坊 模 様 で あ っ た が 、2 ヶ 月 齢 に は 、ウ リ 坊 模 様 を 呈 し た ま ま 成 獣 時 の 体 表 模 様 で あ る 白 黒 模 様 が 現 れ た 。 成 獣 時 の 模 様 は 胴 部 の 中 央 が 白 色 の 鞍 模 様 を 呈 す る た め 、 ウ リ 坊 模 様 に 重 な っ て 白 色 の 鞍 模 様 が 確 認 で き た 。そ の 後 徐 々 に 、ウ リ 坊 模 様 の 斑 点 が 薄 く な り
4ヶ 月 齢 で は 、 首 筋 に 白 色 の 斑 点 が 残 っ て い る が 、 白 黒 模 様 で 黒 色 と な る 頭 部 か ら 前 肢 ま で の 部 分 と 四 肢 及 び 尾 部 の 体 表 の 色 が 濃 く な り 、 白 色 と な る 胴 部 の 中 央 の 体 表 の 白 色 が は っ き り と 現 れ よ り 明 る く な っ た 。
5ヶ 月 齢 以 降 で は 、 体 表 模 様 の 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。
撮 影 画 像 の 解 析 に よ り 、 本 種 の 明 度 は 出 生 直 後 か ら 急 激 に 変 化 す る こ と が 明 ら か と な っ た( 図
3-3)。No.97は 、出 生 後
119日 齢 以 前 は 有 意 に 明 度 値 が 増 加 し (
R2=
0.902、
P<0.001)、
1以 上 と な っ た 。 ま た 、
119日 齢 以 降 は 明 度 値 の 変 化 が 認 め ら れ ず(
R2=
0.002、
P=0.84)、体 表 模 様 変 化 が 完 了 し た 。No.98 は 、出 生 後
127日 齢 以 前 は 有 意 に 明
度 値 が 増 加 し(
R2=
0.902、P<0.001)、1以 上 と な っ た 。ま た 、
127日
齢 以 降 は 明 度 値 の 変 化 が 認 め ら れ ず (
R2=
0.164、
P=
0.06)、 体 表 模
様 変 化 が 完 了 し た 。
- 32 -
図
3-2マ レ ー バ ク の 仔 の 月 齢 と 体 表 模 様 変 化
0
ヶ月齢
1ヶ月齢
2ヶ月齢
3ヶ月齢 4ヶ月齢 5ヶ月齢
6ヶ月齢 7ヶ月齢 8ヶ月齢
- 33 -
図
3-3日 齢 に 伴 う 各 個 体 の 明 度 ( 相 対 値 ) 変 化
01 2
0 50 100 150 200 250 300
明度 値 (相対値)
日齢
No.97 No.98
- 34 -
3.4 考 察
こ れ ま で の 研 究 に よ り 、 体 表 模 様 の 明 度 値 は 出 生 直 後 か ら 著 し い 変 化 が 始 ま る こ と が 明 ら か と な っ た 。 バ ク の 幼 獣 の ウ リ 坊 模 様 は 草 陰 や 岩 の 陰 で 身 を 潜 め る こ と で 生 息 環 境 の 背 景 に 溶 け 込 む 保 護 色 効 果 が あ る(
Momin Khan,
1997)。前 章 に お い て 、本 種 の 成 長 速 度 は 速 い こ と が 明 ら か と な っ て お り 、 木 陰 で 身 を 潜 め る な ど の 非 活 動 で 有 効 と な る ウ リ 坊 模 様 は 、 短 い 期 間 し か 効 果 を 発 揮 し な い た め で は な い か と 推 察 し た 。 さ ら に 、 体 表 模 様 の 明 度 値 が
1以 上 と な り 、 体 表 模 様 変 化 が 完 了 し た 時 期 は 、 前 章 で 明 ら か と な っ た 体 重 値 が 著 し く 変 化 す る 時 期 (
135~
179日 齢 ) 以 前 に 起 こ っ た 。 ウ リ 坊 模 様 の 斑 点 や 縞 模 様 は 、 体 重 増 加 に よ る 体 表 面 積 の 増 加 に よ り 、 大 き く 拡 大 し て い っ た こ と が 考 え ら れ た 。 そ の た め ウ リ 坊 模 様 は 、 生 息 環 境 に 溶 け 込 み に く く な り 、 保 護 色 と し て の 効 果 が 薄 れ て し ま い 、 生 存 に 不 利 に な る の で は な い か と 推 察 し た 。 一 方 、 体 表 面 積 が 増 加 す る こ と で 、 成 獣 時 の 白 黒 模 様 は 森 林 内 で の 保 護 色 と し て の 効 果 が 増 す の で は な い か と 考 え ら れ る 。 つ ま り 、 体 表 面 積 が 大 き く な る 前 に 体 表 模 様 が ウ リ 坊 模 様 か ら 白 黒 模 様 に 移 行 し た ほ う が 、 森 林 で 生 息 す る 際 に 有 利 で あ る こ と が 推 察 さ れ る 。 そ の た め 、 体 重 変 化 が 著 し く 変 化 す る 時 期 以 前 に 、 体 表 模 様 変 化 が 完 了 し た と 考 え た 。
ま た 、 生 後
119日 齢 お よ び
127日 齢 以 降 に は 体 表 模 様 の 明 度 変 化
が 完 了 し 、 著 し い 体 重 変 化 が 見 ら れ る
135日 齢 前 に 外 見 が 成 獣 時 と
変 わ ら な い ま で に 成 長 し た こ と か ら 、 外 見 だ け で 身 体 的 成 長 の 終 了
- 35 -
を 判 断 す る の は 、 早 計 で あ る と 考 え た 。
- 36 -
第 4 章 成 長 に 伴 う行 動 発 達
4.1 緒 論
成 長 に 伴 う 行 動 の 変 化 が 、 多 く の 種 で 報 告 さ れ て い る 。 オ ジ ロ ジ カ (
Odocoileus virginianus) で は 生 後
2週 齢 の 個 体 は
1日 の
8%し か 活 動 せ ず 多 く の 時 間 を 休 息 に 費 や す が 、生 後
1カ 月 齢 に は 活 動 量 が
2倍 に な り 、成 長 に 伴 う 行 動 量 の 変 化 が 報 告 さ れ て い る(
Jackson et al.,1972
)。 木 曽 馬 (
Equus caballus) の 社 会 行 動 を 対 象 と し た 研 究 で は 、
親 馬 と の 距 離 が 離 れ 仔 馬 の 単 独 行 動 が 増 え る に つ れ 、 探 索 行 動 の 発
現 が 認 め ら れ た と 報 告 さ れ て い る ( 辻 井 と 山 崎 ,
2007)。 マ レ ー バ ク
に お い て も 成 長 に 伴 う 行 動 発 達 が 考 え ら れ る 。 し か し 、 マ レ ー バ ク
は 東 南 ア ジ ア の 熱 帯 雨 林 や 水 辺 付 近 の 森 林 で 生 活 す る 薄 暮 性 動 物 で
あ る た め(
Novarino,
2005)、野 外 に お け る 詳 細 な 観 察 は 困 難 で あ る 。
そ の た め 、 こ れ ま で 同 一 個 体 の 幼 獣 か ら 成 獣 に 至 る ま で の 行 動 変 化
を 継 続 観 察 し た 研 究 は な く 、 成 長 に 伴 う 行 動 発 達 は 明 ら か に さ れ て
い な い 。 そ こ で 本 章 で は 、 飼 育 下 繁 殖 個 体 を 対 象 と し て 、 出 生 直
後 か ら
1年 間 に わ た り 仔 の 行 動 観 察 を 行 い 、 成 長 に 伴 う 行 動 量 お よ
び 行 動 タ イ プ の 変 化 を 明 ら か に す る こ と を 研 究 目 的 と し た 。
- 37 -
4.
2 材 料 と方 法
横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー ( 神 奈 川 県 横 浜 市 旭 区 川 井 宿 町 ) に お い て 繁 殖 研 究 の た め 飼 育 管 理 さ れ て い る マ レ ー バ ク の 仔
1個 体 (
2006年
8月
31日 生 , 雄 , 国 内 血 統 番 号
No. 094) を 供 試 し た ( 表
2-1と 図
2-1)。
飼 育 施 設 は 、 屋 内 寝 室
2室 (
1室 あ た り
5.2m ×
4.2m ) と 屋 外 放 飼 場(
10.0m ×10.2m )か ら 構 成 さ れ て お り 、後 者 に は プ ー ル(2.8m × 2.5m , 深 さ
0.8m ) が 設 置 さ れ て い た ( 図
4-1)。 日 中 は 屋 外 放 飼 場 へ の 出 入 り が 自 由 で あ り 、 両 方 の 利 用 が 可 能 で あ っ た 。 同 施 設 は 非 公 開 で 道 路 や 住 宅 か ら も 隔 離 さ れ て い る こ と か ら 、 人 間 に よ る 干 渉 や 騒 音 等 の ス ト レ ス は 比 較 的 少 な い 。
2006
年
8月
31日 の 出 生 日 か ら 翌 年
9月
1日 ま で の
1年 間 に わ た り 、
終 日 、 仔 の 行 動 を 寝 室 に 設 置 し た 高 感 度 ビ デ オ カ メ ラ (
TK-S850,
Panasonic)で 撮 影 し( 図
4-2)、別 室 に 配 置 し た ビ デ オ デ ッ キ(
AG-6740,
Victor)を 用 い て 録 画 し た 。録 画 は
5倍 速 で 行 わ れ 、24 時 間 分 の 映 像
を
1本 の テ ー プ (
5時 間
/本 ) に 収 録 し た 。 出 産 月 は 連 日 、 出 産
1ヶ
月 か ら は 週 に
1回 か
2週 に
1回 の 間 隔 で 撮 影 を 行 っ た 。本 研 究 で は 、
1日 齢 か ら
119日 齢 ま で の 間 に 録 画 さ れ た
4本 、
120日 齢 か ら
239日
齢 ま で の
4本 、
240日 齢 か ら
365日 齢 ま で の
2本 の 、 計
10本 (
240時 間 分 ) を 選 択 し 解 析 に 供 し た 。 ビ デ オ テ ー プ に 録 画 さ れ た 映 像 は
ビ デ オ ・ コ ン バ ー タ ー (
PcastTM,BUFFALO社 ) を 用 い て
MPEG形
式 に 変 換 し 、行 動 の 質 的 分 析 支 援 ソ フ ト で あ る
mivurix( 荒 川 ,
2005)
- 38 -
を 用 い て 解 析 し た 。
録 画 さ れ た 仔 の 行 動 を モ ニ タ ー 画 面 上 で 予 備 観 察 し 、 解 析 に 適 し た 行 動 タ イ プ を 抽 出 し て エ ソ グ ラ ム を 作 成 し た ( 表
4-1)。 行 動 タ イ プ は 大 き く 、“ 休 息 (
rest)” と “ 活 動 (activity)” に 分 類 し た 。 さ らに“ 活 動 ”を 、 “ 吸 乳(
sucking)”、 “ 摂 食(
eating)”、 “ 静 止(
standing)”、
“ 移 動 (
locomotion)”、“ 探 索 (
exploration)” に 細 分 化 し 解 析 し た 。 な お 、エ ソ グ ラ ム の 作 成 に は
Anne(1984)お よ び
Brent et al.(2003) の 研 究 を 参 考 に し た 。
行 動 解 析 は 、
24時 間
/1本 の 映 像 デ ー タ ご と に 、 各 行 動 タ イ プ の 発
現 時 間 ( 分 ) お よ び 発 現 時 間 帯 を 記 録 し 行 っ た 。 日 内 割 合 は 、 各 日
齢 で 観 察 さ れ た 全 行 動 タ イ プ の 総 発 現 時 間 に 対 す る 各 行 動 タ イ プ の
発 現 時 間 を 百 分 比 ( 当 該 行 動 タ イ プ の 日 内 発 現 時 間
/総 発 現 時 間 ×
100) と し て 表 し た 。- 39 -
図
4-1横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー の マ レ ー バ ク 飼 育 施 設
- 40 -
図
4-2 高 感 度 ビ デ オ カ メ ラ と バ ク 舎 の 屋 内 寝 室( 横 浜 市 立 繁 殖 セ ン タ ー )
- 41 -
表
4-1行 動 タ イ プ の 種 類 と 各 行 動 タ イ プ の 定 義 ( エ ソ グ ラ ム )
定義
1)特に動きがない
2
)座位、伏臥位、横臥位の姿勢
1)乳首を吸う2)伏臥位の姿勢で母乳付近に顔をうずめる 1)餌を食べる、水を飲む
2)口元に食べ物があり口を盛んに動かす 1
)特に動きがない
2
)立位の姿勢
1
)場所を移動する、向きを変える
2)歩く、走る
1)匂いを嗅ぐ 2)周囲を見渡す
3) 頭を下げ鼻を地面に向ける 4) 頭を上げ鼻を持ち上げる
行動タイプ
休息
resting摂食
eating静止
standing移動
locomition探索
exploration活動
activity
吸乳
sucking- 42 -
4.3 結 果
成 長 に 伴 い “ 活 動 ” の 日 内 割 合 が 増 加 し 、 逆 に “ 休 息 ” の 日 内 割 合 は 減 少 し た 。 出 生 後 の
1ヶ 月 間 は 、“ 休 息 ” の 日 内 割 合 が 高 く 、
30日 齢 に お い て も
50%以 上 を 占 め て い た 。“ 活 動 ”の 日 内 割 合 は 出 生 後 増 加 傾 向 を 示 し 、
120日 齢 頃 に 最 も 高 い 割 合(
60.1% )を 示 し た 。
120日 齢 以 降 は 再 び “ 休 息 ” の 日 内 割 合 が 増 加 し 、“ 活 動 ” の 日 内 割 合 が 減 少 し た ( 図
4-3)。1.
休 息
回 帰 分 析 を 用 い て 、 成 長 に 伴 う “ 休 息 ” の 行 動 量 の 変 化 を 解 析 し た 。
1日 齢 で は
1日 の
72.8%を “ 休 息 ” に 費 や し た が 、 そ の 後 減 少 傾 向 を 示 し 、120 日 齢 で 示 さ れ た 最 小 値 の
39.9%ま で 、有 意 に 減 少 し た(
P<0.05)。 し か し 、120日 齢 以 降 は
360日 齢 の
57.4%に か け 、 有 意
に 増 加 し た (
P<0.05)( 図
4-3)。 ま た 、
1日 齢 、
120日 齢 お よ び
360日 齢 の“ 休 息 ”の 持 続 時 間 量 を 比 較 し た 。
1日 齢 は 昼 夜 の 区 分 な く“ 休
息 ”が 見 ら れ 、1 回 の 持 続 時 間 量 の 最 大 は
83分 だ っ た 。120 日 齢 は 、
1日 齢 と 同 様 に 昼 夜 の 区 分 な く“ 休 息 ”が 見 ら れ た が 、持 続 時 間 量 が
増 加 し
1回 の 持 続 時 間 量 の 最 大 は
131分 だ っ た 。
360日 齢 は 、 “ 休 息 ”
の 時 間 帯 が 主 に 飼 育 作 業 が 終 了 す る 夕 方
6時 か ら 翌 朝 の
6時 に 集 中
し 、
1回 の 持 続 時 間 量 の 最 大 は
264分 だ っ た ( 図
4-4)。- 43 -
2.
吸 乳 ・ 摂 食
生 後
1週 齢 以 降 は 、“ 吸 乳 ” と “ 摂 食 ” が 活 動 を 最 も 多 く 占 め る 行 動 で あ り 、
120日 齢 ま で 増 加 傾 向 を 示 し た (
46.9%)。“ 吸 乳 ” は 成 長 に 伴 い 増 加 傾 向 を 示 し 、
120日 齢 で 最 大 値 (
31.0%) を 示 し た 後 、 減 少 傾 向 を 示 し た 。“ 摂 食 ” は 、 成 長 に 伴 い 増 加 傾 向 を 示 し 、
230日 齢 で 最 大 値 (
19.6%) を 示 し た が 、
160日 齢 か ら
360日 齢 間 の 変 化 は わ ず か
0.8%の 増 加 で あ っ た ( 図 4-3)。3.
静 止
生 後
1年 間 を 通 し て 増 減 を 繰 り 返 し 認 め ら れ る 行 動 で あ っ た が 、 最 大 で も
1日 の
4.2%(
360日 齢 )し か 占 め な い 行 動 で あ っ た( 図
4-3)。4.
移 動 ・ 探 索
“ 移 動 ” は 生 後
1カ 月 齢 以 内 で 多 く 認 め ら れ 、
30日 齢 で は 最 大 値
(
15.4%) を 示 し た 。“ 探 索 ” は 、 生 後 1カ 月 で は ほ と ん ど 認 め ら れ な い 行 動 で あ っ た が 、80 日 齢 で 最 大 値(
9.8%)を 示 し た 。 “ 移 動 ”と
“ 探 索 ” の 間 に は ス ピ ア マ ン の 順 位 相 関 係 数 の 検 定 に よ り 負 の 相 関
が 認 め ら れ た( ρ
=-0.915、
P<0.01)。
80日 齢 で“ 移 動 ”よ り も“ 探 索 ”
の 割 合 が 多 く な っ た が (“ 移 動 ”:
4.1%、“ 探 索 ”:
9.8%)、
120日 齢 お
よ び
160日 齢 で “ 探 索 ” が 減 少 し 、“ 探 索 ” よ り も “ 移 動 ” の 割 合 が
多 く な っ た 。 そ の 後 、 再 び “ 探 索 ” の 割 合 が 増 加 し た ( 図
4-3)。
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図
4-3各 日 齢 の 総 観 察 時 間 内 に 認 め ら れ た 各 行 動 タ イ プ の 発 現 時 間 割 合 ( 日 内 割 合 )
0 20 40 60 80 100
1 5 20 30 80 120 160 230 330 360
各 行 動タイ プの日 内割合 (
%)
日齢
探索 移動 静止 摂食 吸乳 休息
活動
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図
4-4出 生 後
1日 齢 、
120日齢および
360日 齢 に お け る
“休息
”の 持 続 時 間 量 の 変 化 “休息”している時間
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4.4 考 察
本 観 察 結 果 に よ り
1個 体 の み の 結 果 で は あ る が 、 生 後
1年 間 で み ら れ る 飼 育 下 マ レ ー バ ク に お け る 、 行 動 の 日 内 割 合 の 変 化 な ど 行 動 発 達 の 過 程 が 明 ら か に な っ た 。
本 研 究 期 間 中 に 、“ 休 息 ” と “ 吸 乳 ”、“ 摂 食 ” で 大 き な 変 化 が 認 め ら れ 、 こ れ ら
3つ の 行 動 タ イ プ は 生 後
1年 間 を 通 し て 、 本 研 究 個 体 の 主 な 行 動 で あ る と 考 え ら れ た 。 “ 静 止 ”は 最 大 で も
4.2%し か 認 め られ な い 行 動 で あ っ た 。“ 移 動 ” と “ 探 索 ” の 間 は 、 負 の 相 関 が 認 め ら れ 、 こ の
2つ の 行 動 タ イ プ の 相 互 関 係 が 占 め さ れ た 。
30
日 齢 ま で は“ 休 息 ”が 主 で あ り 、
1日 の
5割 以 上 を 占 め て い た 。 生 後
1週 間 の オ ジ ロ ジ カ(
Odocoileus virginianus)は 、日 内 活 動 割 合 が
8%以 下 で あ り 、 そ れ 以 外 は 草 陰 の 中 に 身 を 潜 め コ ヨ ー テ (Canis latrans) な ど か ら の 捕 食 を 避 け て い る こ と が 明 ら か に さ れ て い る(
Jackson et al.,
1972)。 マ レ ー バ ク も 、 幼 獣 期 に お け る “ 休 息 ” の
占 め る 高 い 割 合 は 、 森 林 内 で 外 敵 か ら 身 を 隠 す 生 存 戦 略 に 関 係 し て
い る と 考 え ら れ る 。 し か し 、 外 敵 の 存 在 し な い 飼 育 下 で も 、 こ の 時
期 に “ 休 息 ” が 大 き な 割 合 を 占 め て い る こ と か ら 、 単 に 保 身 の み な
ら ず 、 身 体 的 お よ び 心 理 的 発 達 に 必 須 な 生 得 的 行 動 で あ る と 推 察 さ
れ る 。 こ の こ と は 、 必 ず し も “ 活 動 ” が 適 切 な 飼 育 環 境 を 反 映 し た
も の で は な く 、 あ る 時 期 に お い て は “ 休 息 ”、 つ ま り 動 か な い こ と も
個 体 に と っ て 大 切 な 行 動 で あ る こ と を 示 唆 し て い る 。 今 後 、 成 長 期
の 仔 の 内 分 泌 や 休 息 時 の 母 仔 間 距 離 を 研 究 す る こ と で 、 幼 獣 期 に お
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け る “ 休 息 ” の 意 義 が 解 明 さ れ る こ と を 期 待 し た い 。 野 生 の マ レ ー バ ク は 薄 暮 型 の 行 動 を 示 し
18時 か ら
4時 の 時 間 帯 に 活 動 す る と 報 告 さ れ て い る (
Novarino,
2005)。 ま た 、 野 生 の 草 食 獣 は ご く 短 い 眠 り を わ ず か に と る だ け と 報 告 さ れ て い る (
Meddis,
1975)。 し か し 、 本研 究 個 体 に お い て
360日 齢 に 、“ 休 息 ”が 夕 方
6時 か ら 翌 朝 の
6時 の 間 に 集 中 す る 傾 向 が 認 め ら れ 、 さ ら に
1回 の 持 続 時 間 量 の 増 加 が 認 め ら れ た 。 こ の こ と か ら 、 野 生 個 体 に 認 め ら れ て い る 薄 暮 型 の 行 動 パ タ ー ン は 、 遺 伝 的 に 固 定 さ れ た も の で は な く 、 動 物 園 な ど の 外 敵 か ら 守 ら れ た 安 全 な 状 況 に お い て は 、 容 易 に 変 化 す る 行 動 パ タ ー ン で あ り 、 外 敵 の 存 在 と い う 環 境 要 因 に 対 応 す る 学 習 的 適 応 で あ る と 考 え ら れ る 。
“ 吸 乳 ” の 日 内 割 合 は
120日 齢 ま で 増 加 傾 向 を 示 し た が 、 そ の 後
成 長 に 伴 い 減 少 し た 。“ 摂 食 ” の 日 内 割 合 は 、 生 後
1年 を 通 し て 増 加
傾 向 を 示 し 、
20日 齢 に は 母 乳 以 外 の 餌 を 食 べ る 採 餌 行 動 が 多 く 認 め
ら れ た 。 同 じ 奇 蹄 類 で あ る 木 曽 馬 で は 、 成 長 に 伴 い 仔 馬 の 吸 乳 回 数
の 減 少 が 認 め ら れ て い る 。 ま た 、
30日 齢 よ り 餌 を 食 べ 始 め 、
60日 齢
に は 母 親 と 同 様 な 採 餌 行 動 を 見 せ る こ と か ら 、 こ の 時 期 に は 母 乳 に
対 す る 依 存 度 が 減 少 す る と 考 え ら れ て い る ( 辻 井 ,
1986)。 本 研 究 個
体 は 、
120日 齢 ま で は “ 吸 乳 ” の 日 内 割 合 が 増 加 し て お り 、 さ ら に
230日 齢 に は“ 吸 乳 ”よ り も“ 摂 食 ”が 高 い 日 内 割 合 を 示 し て い た こ
と か ら 、 摂 食 欲 求 が 優 位 に な っ て き た と 考 え ら れ た 。 よ っ て 、 少 な
く と も
230日 齢 に は 、 母 乳 も し く は 乳 首 に 対 す る 依 存 度 が 低 下 し て
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い る と 考 え ら れ る 。 ヒ ツ ジ (
Ovis aries) で は 、 人 工 哺 育 や 早 期 に 母 獣 と 離 さ れ た 幼 獣 は 、 成 熟 し て か ら も 高 頻 度 に 吸 乳 行 動 が 見 ら れ る な ど 、 心 理 的 発 達 の 不 安 定 さ が 観 察 さ れ て い る (
Napolitano et al.,2002
)。 さ ら に 、 早 期 に 強 制 的 に 母 獣 と 分 離 さ れ た 実 験 用 マ ウ ス
(
Balb/c mice)は 、攻 撃 的 行 動 が 多 く 見 ら れ(
Kikusui et al.,
2004)、
ヒ ツ ジ は 指 吸 い や 他 個 体 も し く は 無 機 質 な 物 体 に 対 す る 過 剰 な 吸 乳 行 動 な ど の 異 常 行 動 の 発 現 が 知 ら れ て い る(
Napolitano et al.,2008)。
こ の よ う に 、母 親 と の 早 期 分 離 は 、仔 の 心 理 面 に 大 き な 影 響 を 与 え 、 健 常 な 発 育 を 妨 げ る 可 能 性 が あ る 。 マ レ ー バ ク に お い て も 、 母 乳 も し く は 乳 首 に 対 す る 依 存 度 が 低 下 す る
230日 齢 以 降 に 母 仔 分 離 を 行 う 必 要 が あ る と 考 え る 。 飼 育 環 境 が 行 動 に 与 え る 影 響 は 大 き く 、 ニ ホ ン ザ ル(
Macaca fuscata)や シ シ オ ザ ル(
Macaca silenus)で は 、給 餌 方 式 を 変 え る こ と で 採 餌 行 動 に 変 化 が 見 ら れ て い る ( 柳 原 ら ,
1994)。外 敵 が 存 在 し な い で 餌 が 定 時 的 に 提 供 さ れ る 飼 育 下 で は 、給 餌 に 依 存 し て “ 摂 食 ” の 行 動 パ タ ー ン が 変 化 す る と 考 え ら れ て い る
(
Hosey,1989;
Smith et al.,1989)。 一 方 、 飼 育 下 動 物 は 、 概 し て 行 動 パ タ ー ン が 単 純 に な り 、 季 節 に よ る 変 化 も 少 な く な る と 報 告 さ れ て い る (
Morimura and Ueno,
1998)。“ 摂 食 ” に 関 す る 行 動 パ タ ー ン の 多 様 化 を 図 る に は 、“ 吸 乳 ” か ら “ 摂 食 ” に 移 行 す る
230日 齢 頃 の 給 餌 方 式( 朝 夕
1回 の 定 時 給 餌 )を 再 考 す る 必 要 が あ る と 考 え る 。
30
日 齢 に “ 移 動 ” が 最 大 値 (
15.4% ) を 示 し た 。 こ れ は 、 母 親 と
の 随 伴 行 動 時 間 の 長 さ が 反 映 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。
80日 齢 ま で
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随 伴 行 動 の 割 合 が 高 く 、 未 だ 授 乳 と 保 護 を 必 要 と す る 仔 が 母 親 の 生 活 リ ズ ム に 合 わ せ て 行 動 し て い る こ と を 示 し て い る 。
80日 齢 に 満 た な い 仔 を 、 展 示 や 搬 出 等 を 目 的 と し て 母 親 と 分 離 す る こ と は 、 健 常 な 心 理 的 発 育 の 観 点 か ら 慎 重 に 計 画 す る 必 要 が あ る と 考 え る 。
80日 齢 お よ び
230日 齢 に お い て “ 探 索 ” の 日 内 割 合 の 増 加 が 認 め ら れ た 。“ 探 索 ” の 増 加 は 母 親 へ の 随 伴 行 動 が 減 少 し 、 母 親 以 外 の 外 界 へ の 興 味 が 増 加 し た た め に 起 こ っ た と 考 え ら れ 、 こ れ ま で の よ う に 母 親 か ら の 保 護 を 必 要 と せ ず 、 外 部 環 境 に 対 し て 積 極 的 に 関 与 し て ゆ く 心 理 面 で の 発 達 が 推 察 さ れ る 。 野 生 マ レ ー バ ク の 行 動 圏 は 、 幼 獣 で
0.52km2、成 獣 の 雄 で
12.75 km2で あ り 、
1日 に 移 動 す る 距 離 は 、 平 均
0.32kmと 報 告 さ れ て い る (
Williams,1979)。
Clubb and Mason(
2003) は 、 野 生 に お け る 行 動 圏 の 広 さ と 、 飼 育 下 に お け る 常 同 行 動 の 発 現 率 は 、 比 例 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 こ の こ と か ら 、 飼 育 下 に お け る 施 設 面 で の 限 界 は あ る が 、 成 長 に 伴 う 行 動 範 囲 の 拡 大 に 対 応 し 、 探 索 欲 求 を 充 足 で き る 変 化 に 富 ん だ 環 境 作 り が 大 切 で あ る と 考 え る 。 野 生 の マ レ ー バ ク は 他 個 体 と 行 動 圏 を 共 有 し て お り
(
Williams,1979)、 面 積 的 に 制 限 さ れ る 施 設 で は 、 成 長 に 伴 い 他 個 体 の 運 動 場 や 寝 室 と の 交 換 (
Coe,
1995)、 仔 が 興 味 を 示 す よ う な 遊 具 の 用 意 ( 応 答 環 境 の 整 備 ) な ど の 工 夫 も 考 え ら れ る 。
本 研 究 に お い て 、 マ レ ー バ ク の 成 長 に 伴 う 身 体 的 お よ び 心 理 的 な
発 達 が 明 ら か に な り 、生 後
1年 以 内 で の 離 乳 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
し か し 、 本 研 究 期 間 中 は 終 日 、 仔 と 母 親 が 同 居 し て お り 、 明 確 な 離
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乳 は 確 認 さ れ ず 、仔 の 行 動 の み で は 、離 乳 時 期 を 特 定 で き な か っ た 。 ヒ ト を 含 む 多 く の 哺 乳 類 で 、 授 乳 や 離 乳 が 仔 の 心 理 面 に さ ま ざ ま な 影 響 を 及 ぼ す こ と が 分 か っ て お り( 中 尾 ら ,2001;Napolitano et al
.,2002
;
Kikusui et al.,2004;
Napolitano et al.,2008)、 健 常 な 心 理 的
発 育 に は 、 適 切 な 離 乳 時 期 と 離 乳 方 法 を 講 ず る 必 要 が あ る と 考 え ら
れ て い る 。 飼 育 下 マ レ ー バ ク に お い て 、 栄 養 面 と 心 理 面 を 共 に 考 慮
し た 適 切 な 離 乳 時 期 は 未 だ 明 ら か に な っ て い な い 。 出 生 仔 を 次 世 代
以 降 の 繁 殖 に 参 加 さ せ る た め に は 、 発 達 面 で 問 題 が 生 じ な い 離 乳 時
期 の 特 定 が 不 可 欠 で あ る 。 今 後 、 離 乳 時 期 が 異 な る 個 体 の 行 動 を 少
な く と も 性 成 熟 後 ま で 長 期 間 モ ニ タ リ ン グ し 、 成 長 に 伴 う 行 動 発 達
の 比 較 を 行 う 必 要 が あ る 。
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