我が国の青少年の睡眠障害と飲酒の関連 についての疫学的研究
日本大学大学院医学研究科博士課程 社会医学系衛生・公衆衛生学専攻
森岡 久尚 修了年
2014
年 指導教員 大井田 隆我が国の青少年の睡眠障害と飲酒の関連 についての疫学的研究
日本大学大学院医学研究科博士課程 社会医学系衛生・公衆衛生学専攻
森岡 久尚 修了年
2014
年 指導教員 大井田 隆目 次
1. 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2. 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 3. 対象と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 4. 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 5. 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 6. まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 7. 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 8. 図表 ・・・・・・・・・・・・・・・ 58 9. 資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 10.引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 11.研究業績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92
1.概要
目的
本研究の目的は、我が国の青少年の睡眠障害の各症状と飲酒回数や飲酒量と の関連を明らかにすることである。
方法
調査デザインは断面標本調査とした。対象は、我が国の中学生と高校生であ る。全国の中学校と高校の中から無作為に抽出した学校の在校生 155,219 人を 対象として、自記式質問調査票による調査を行った。不十分な睡眠(Subjectively insufficient sleep: SIS)、6時間未満の睡眠(Short sleep duration: SSD)、入 眠困難(Difficulty initiating sleep: DIS)、途中覚醒(Difficulty maintaining sleep: DMS)、早朝覚醒(Early morning awakening: EMA)の有訴者率を求め、
それらと 1 週間の飲酒回数や 1 回の飲酒量との関連をカイ二乗検定と多重ロジ スティック回帰分析を用いて検討した。
結果
99,416人から調査票を回収し、回答に不備のなかった98,867人の調査票を解
女子:33.0%)、DISが 13.3%(男子:12.5%、女子14.1%)、DMS が 10.5%
(男子10.1%、10.9%)、EMAが5.1%(男子:5.1%、女子:5.0%)であった。
DIS、DMS、EMA のうちいずれかひとつ以上ありを不眠症と定義したところ、
その有訴者率は 21.5%(男子:20.8%、女子:22.0%)であった。男子、女子 ともに1週間の飲酒回数と1回の飲酒量が多くなるにつれて睡眠障害(SIS、SSD、
DIS、DMS、EMA)の有訴者率は有意に高くなった(P<0.01)。多重ロジステ ィック回帰分析の結果、1 週間の飲酒回数が多くなるほど、睡眠障害の各症状
(SIS、SSD、DIS、DMS、EMA)と不眠症について、調整オッズ比が大きく なった。また、1 回の飲酒量が多くなるほど、SIS、EMA を除く睡眠障害の各 症状(SSD、DIS、DMS)と不眠症について、調整オッズ比が大きくなった。
結論
我が国の中高生を対象とした大規模疫学研究によって、我が国の多くの青少 年が睡眠障害の症状を有しており、特に 1 週間の飲酒回数と 1 回の飲酒量が多 くなればなるほど、睡眠障害の各症状を有する割合が高くなることが判明した。
また、1週間の飲酒回数と1回の飲酒量が多くなればなるほど、青少年の睡眠障 害の症状や不眠症を有する危険性が高くなることが判明した。我が国の教育現
るとともに、本研究成果が、我が国の青少年に対する健康な睡眠を保つための 健康教育や保健指導において広く活用されることを期待する。
2.緒言
成人の不眠や短時間睡眠などの睡眠障害は、様々な身体的、精神的な疾病、
障害、交通事故などの事故の危険性の増加と関連することが知られている(1-9)。 また、いくつかの研究においては、短睡眠時間は死亡の重要な危険性の増加要 因であると報告されている(10-12)。一方で、不眠症の有訴者率については、不眠 症の定義や調査方法、調査対象などによって異なるが、諸外国では Ohayon が 4.4-48.0%(13)と報告している。我が国では、Liu et al.が21.4%(14)であったこと を報告している。また、短時間睡眠の有訴者率については、6時間未満の睡眠時 間の有訴者率がOhida et al.は28%(15)、Liu et al.は29%(14)であったことを報 告している。これらのことから、 成人の不眠や短時間睡眠などの睡眠障害は、
成人の多くが有しており、解決すべき重要な健康課題のひとつであると言える。
そのため、不眠や短時間睡眠などの睡眠障害と身体的、精神的な状況、社会経 済的な状況、生活習慣などとの関連について多くの疫学的研究が実施されてい
る(1, 5, 15-22) 。特に、生活習慣においては、飲酒が不眠や短時間睡眠と関連する
ことがいくつかの疫学研究において、報告されている(15, 20-23)。エタノールの睡 眠に対する影響に関しては、実験的研究において、就寝前のアルコール摂取が、
入眠を早めることが報告されている(24-29)。また、ごく少量のアルコールの摂取
において、レム睡眠が増加し、浅い睡眠につながることが報告されている(26-28)。 成人だけではなく、青少年も、不眠や短時間睡眠などの睡眠障害を有してい ることが多くの研究において報告されている(32-43)。それらの報告では、青少年 の不眠症の有訴者率については、その定義や調査方法などで異なるものの、約4
~23.5%と報告されている(32-43)。また、青少年の平均睡眠時間については、生 活様式や調査方法、平日と休日のどちらを測るのか、ベッドの上での時間と睡 眠時間のどちらを採用するのかなどで異なるものの、我が国では 6.3 時間(44)ヨ ーロッパで8時間程度(34)、米国7.3時間(45)、香港の中国系の青少年で7~8時間
(37, 38, 46)、韓国の高校生で5~6時間(36)などと報告されている。我が国と韓国の
睡眠時間は 7 時間未満である。青少年の睡眠障害は決してまれではなく、成人 と同様によくある健康課題のひとつである。そして、睡眠障害を有する青少年 は、うつや不安、自殺企図、学校での成績や態度が悪いことなど行動や感情の 問題と関連することが知られている(1, 34, 38, 40, 43, 45-50)。それらのことから、青少 年の不眠や短時間睡眠などの睡眠障害は、解決に向けて早急に対応することが 求められる青少年の重要な健康課題のひとつであると言える。そのため、いく つかの疫学的研究において、成人の場合と同じく、不眠や短時間睡眠などの睡 眠障害と身体的、精神的な状況、社会経済的な状況、生活習慣などとの関係が
ルコールの摂取と睡眠障害が関連することの報告がある(37-39, 41, 42)。それらのほ とんどの調査においては、飲酒の有無のみと睡眠障害の関連を調査したもので あるが、唯一、飲酒回数と睡眠の問題を調査した報告がある(39)。しかしながら、
その調査では、睡眠の問題の有無のみを質問したもので、入眠困難、途中覚醒、
早朝覚醒などの不眠に関連する症状や睡眠時間について質問したものではない。
一方、アルコールは、非感染性疾患(NCD)の重要な危険因子の一つである とともに、怪我や暴力の引き金となる。そのため、世界保健機関(WHO)にお いては、1979 年から集中的な予防プログラムや実効的な行動がとられるよう、
世界各国に対して、法整備と対策を推進するよう求めてきたところであり、さ らには、2011年にアルコールの害を減らすための世界戦略を決議したところで ある(52)。また、各国においては、課税によるアルコール価格の値上げ、販売時 間の制限、広告や容器への警告文書の掲載などアルコールの害を減少させる対 策が実施されてきている(53)。我が国においても、厚生労働省が、21世紀の国民 の健康づくり運動である健康日本21において、多量飲酒者の減少などを掲げて アルコールの害から健康を守る対策を推進している。
特に、青少年において、アルコールは、身体や精神の健全な発達に与える影
コールの影響を受けやすいことが報告されている(56)。とりわけ、飲酒開始年齢 が低いほど、将来のアルコール依存症のリスクが高くなることが報告されてい る(57)。成人よりも青少年において、アルコールの害を減少させる対策がより強 く求められていると言える。そのため、アルコールの購入や消費の年齢制限を 導入するなど、各国において、青少年のアルコール対策が実施されてきている(53)。 我が国では、20歳未満の者の飲酒、また、20歳未満の者にアルコールを販売し たり、供与したりすることは法律によって禁止されており、この法律が順次改 正され強化されてきている。また、厚生労働省は、先の健康日本 21 において、
成人の対策だけでなく、20 歳未満の飲酒者をゼロにすべく未成年者の飲酒対策 も推進している。その結果、アルコールを摂取している青少年の割合は、北米 やヨーロッパ諸国と比べて日本が低い。また、我が国においては、アルコール を摂取する青少年の割合が減少傾向を示していることが報告されている(58)。し かしながら、依然として一定程度の中高生が将来を含む健康に有害な飲酒を経 験していることや、飲酒が喫煙や薬物の乱用と重複していることが多いことが 報告されている(39)。このことから、青少年のアルコール摂取による影響に関す るさらなる知見の収集とそれに基づく対策の強化が求められていると考える。
我々の知る限りでは、青少年の短時間睡眠や熟睡感のない睡眠のような睡眠
症状の有訴者率や、生活習慣のうち特に飲酒との関連を認める報告はある(37-39,
41, 42)。しかしながら、睡眠障害に関連する症状や不眠に関連する症状とこれら
の青少年の飲酒回数や飲酒量との関連は明らかにされていない。そこで、これ らを明らかにするため、我々は日本の中学生と高校生を対象にアンケート調査 を行った。
なお、本調査は過去 4 回(1996 年、2000 年、2004 年、2008 年)実施され た、我が国の中高生を対象とした、飲酒、喫煙、食事、睡眠などの生活習慣に 関する全国的な調査に続くものである(41, 42, 51, 59, 60)。
3.対象と方法
(1)対象
抽出方法は、1 段クラスター抽出を用いた。まず、この研究のために、2009 年5月現在の我が国の中学校10,785校と高校4,991校の合計 15,776校を登録 した。その中から131の中学校(選択率1.2%)と113の高校(選択率:2.3%)
を無作為に抽出した。在校生徒数に比例して抽出確率が決まるように確率比例 抽出を用いた。抽出標本数(サンプルサイズ)は、過去の飲酒行動などに関す る全国調査の結果から得られた学校回答率、結果の分散に基づく信頼区間(CI)
の幅と同じになるように設定した。飲酒率と喫煙率の95%信頼区間が中学校で
±0.2%、高校で±0.5%の水準となる。結果的に、過去の全国調査の標本数とほ ぼ同じとなった。
(2)調査の実施方法
選択した学校それぞれの校長あてに我々の調査への協力を呼びかける手紙を 送り、その後、その学校に通う生徒の数と同じだけの質問票と封筒を送付した。
調査への参加に同意した学校においては、それぞれのクラス担任の教師が生徒 に質問票を配布した。回答者のプライバシーの保護と率直な回答を得るために、
教師は、調査の際に飲酒を肯定したり、否定したりする発言をしないこと、生 徒が調査票を記入中に席を回ったり、のぞき込んだりしないこととした。また、
生徒に、調査開始時にこれはテストでないので、ありのまま書くこと、教師は 封を開けないのでプライバシーは守られることなどを伝えてもらうこととした。
このような事項について、教師に守ってもらうことを徹底するために調査の実 施手引きを配布した。さらに、質問票には回答を教師達が見ることがない旨を 記載した。それぞれの生徒が、無記名の質問票に記入した後、提供された接着 剤付きフラップのついた封筒に入れてもらうようにした。そして、その封がさ れた封筒を開封することなく、日本大学医学部に返送されるようにした。なお、
調査期間は2010年10月から2011年3月までである。
(3)調査内容
調査内容は、これまでの4回の調査(1996年、2000年、2004年、2008年)
の質問票をもとに作成した(41, 42, 51, 59, 60)。
質問票に含まれている内容は、次のとおりである。
①飲酒行動(飲酒頻度、この 30 日間の飲酒日数、様々な場面での飲酒経験、
飲酒量、初めての飲酒年齢、初めての仲間との飲酒年齢、飲む酒の種類、酒 の入手経路、父母兄姉友人の飲酒状況、この30日間に酒を売ってもらえな いことがあったか、父母から酒を勧められたことがあるか、未成年飲酒禁止 への意見、酒の身体への害の認識、酒を飲んだ上の失敗の経験など)
②生活習慣(喫煙行動、朝食の摂取、クラブ活動参加状況、学校は楽しいか、
将来の希望進路など)
③睡眠の状況(睡眠の質、平均睡眠時間、平均就寝時間、寝付きにくい経験、
途中覚醒の経験、早朝覚醒の経験、眠るときの寝具、眠るときに電気をつけ ているか、寝室の使用人数、寝室を使用している人、授業中の居眠り、昼寝、
昼寝の時間、寝ぼけていたことがあるか、いびきをかいていたことはあるか、
眠っているときに歯ぎしりをしていたか)
⑤個人の情報(性別、学年、年齢)
なお、質問票の質問の順序については、これまでの4回の調査(1996年、2000 年、2004年、2008年)の質問票を参考に(41, 42, 51, 59, 60)、個人の情報に関する質 問に続いて、飲酒に関する質問、喫煙に関する質問、生活習慣に関する質問、
睡眠に関する質問、メンタルヘルスなどに関する質問とした。
特に、睡眠の状況について、この 30 日間に経験した睡眠障害の症状に関する 次の質問を質問票に加えた。
問1「あなたの睡眠の質を全体としてどのように評価しますか?」
(Subjectively insufficient sleep: SIS)
問2「1日に平均して何時間くらい眠りましたか?」
(Short sleep duration: SSD)
問1には、「非常によい」、「かなりよい」、「かなりわるい」、「非常に悪い」の 選択肢がある。「かなりわるい」と「非常に悪い」をSISが「あり」とした。問 2には、「5時間未満」、「5~6時間未満」、「6~7時間未満」、「7~8時間未満」、「9 時間以上」の選択肢がある。「5時間未満」と「5~6時間未満」をSSDが「あり」
とした。SSDを6時間未満とすることについては先行研究を参考に決定した(9, 14,
15, 41)。
問3「夜、眠りにつきにくい(なかなか眠れない)ことはありましたか?」
(Difficulty initiating sleep: DIS)
問4「夜、いったん眠ってから目がさめましたか(夜中に目がさめましたか)?」
(Difficulty maintaining sleep: DMS)
問5「朝早く(明け方)目がさめてしまい、もう一度眠ることが難しいことがあ
りましたか?」
(Early morning awakening: EMA)
問3から問5には、「まったくなかった」、「めったになかった」、「時々あった」、
「しばしばあった」、「常にあった」の選択肢があり、「しばしばあった」と「常 にあった」を問の症状(DIS、DMS、EMA)が「あり」とした。
次に、飲酒行動に関しては、次の質問を質問票に加えた。
問6「あなたは酒をどのくらいの頻度で飲みますか?」
問7「この30日間に、少しでもお酒を飲んだ日は合計何日になりますか?」
問8「お酒を飲むときにはどのくらいの量を飲みますか?」
問6には、「飲まない」、「年に1、2回」、「月に1、2回」、「週末ごとに」、「週 に数回」、「毎日」の選択肢がある。「年に1、2回」と「月に1、2回」を「週1
した。
問7には、「飲まない」、「1日か2日」、「3日~5日」、「6日~9日」、「10日~19 日」、「20 日~29 日」、「毎日」の選択肢がある。過去 30 日間の飲酒は「飲まな い」を「なし」、「1日以上」を「あり」に分類した。
問8には、「飲まない」、「コップに1杯未満(ほんの少量)」、「コップに1杯」、
「コップに2杯」、「コップに3~5杯」、「コップに6杯以上」、「酔いつぶれるま で」の選択肢がある。「コップ1杯」と「コップ2杯」を「コップに1~2杯」、
「コップに6杯以上」と「酔いつぶれるまで」を「コップに6杯以上」として、
飲酒量はそれぞれ「飲まない」、「コップに1杯未満(ほんの少量)」、「コップに 1~2杯」、「コップに3杯~5杯」、「コップに6杯以上」に分類した。
なお、飲酒回数と飲酒量との関連を調査する要因としては、性別、学年、大 学進学希望(はい/いいえ)、朝食を食べたかどうか(毎日/ときどき/ほとんどな い)、クラブ活動に参加したかどうか(参加している/参加していない)とした。
さらに、「この 30 日間の間に何日タバコを吸いましたか?」との問も質問票に 加えた。もし、この問に対する回答が 1 日かそれ以上であれば喫煙が「あり」
とした。
メンタルヘルスの状況の評価に関しては、先行の全国的な研究では The
GHQ-12 は、精神疾患のスクリーニングのツールとして設計された自己記入式 の質問票である(61, 62)。うつや不安と積極的な感情の欠如のふたつの要素からな り、各要素にそれぞれ6項目、合計12項目を調査する。すべての項目の回答に は4個の選択肢があり、状況がよいことを示す 2個の選択肢は0 点、状況がわ るいことを示す2個の選択肢は1点となる。合計得点としては0点から12点の 範囲となる。全体の得点が高いほど、メンタルヘルスの状況がわるいというこ とを示している。そして、GHQ-12 は、最初に成人を対象に作成されたが、そ の後、青少年に対しても検証され、使用されるようになっている(63, 64) 。GHQ-12 のカットオフ値を 4 点以上として、それ以上の研究対象がメンタルヘルスの状 況がわるいと見なした研究報告は、先行の全国的な研究に加えて、いくつか報 告されている (42, 64-66)。また、GHQ-12が4点以上で不眠に関連する症状(DIS、
DMS、EMA)やSIS、6時間未満の睡眠時間(SSD)それぞれの危険性が高ま
ることが判明している(43)。その後、先行研究の結果から、うつや不安の要素と 積極的な感情の欠如の要素からそれぞれ1項目ずつ抽出し、2項目の点数の和に ついて、カットオフ値を1点以上とするとGHQ-12の4点以上と感度、特異度 がそれぞれ 87.0%、85.1%と高いことが報告された(67)。さらに、実際にそのよ
踏まえ、「この30日間に、いつもより気が重くて落ち込むことがありましたか」
と「この30日間に、いつもより日常生活を楽しく送ることができましたか」の 2項目を質問票に含めた。そして、合計得点が0点をメンタルヘルスの状況が「よ い」、1点以上を「わるい」とした。
(4)統計学的分析方法
最初に、性別ごとに、SIS、SSD、DIS、DMS、EMAの有訴者率を算出した。
不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)のうち、それかひとつ以上を有する ことを不眠症(insomnia)と定義して、性別ごとの不眠症の有訴者率を算定し た。そして、性別と SIS、SSD、DIS、DMS、EMA、insomnia の有訴者率と の関連について、カイ二乗検定を用いて調べた。次に、性別ごとに 1 週間の飲 酒量と1 回の飲酒量別のSIS、SSD、DIS、DMS、EMA、insomnia の有訴者 率を算出するとともに、それらの関連についてカイ二乗検定を用いて調べた。
最後に、睡眠障害に関連する症状(SIS、SSD)、不眠に関連する症状(DIS、
DMS、EMA)、不眠症のそれぞれに対する飲酒回数と飲酒量の調節オッズ比を 求めるため、多重ロジスティック回帰分析を行った。また、調整オッズ比(AOR)
とともに、95%信頼区間 (95%CI) も算出した。従属変数はそれぞれの睡眠障害 に関連する症状(SIS、SSD)、不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)、不 眠症とした。独立変数は、飲酒の状況(1 週間の飲酒回数と 1 回の飲酒量)、8 個の人口統計要因(性別、学年、大学進学希望、朝食の摂取、喫煙(過去30日 間)、クラブ活動への参加、就寝時刻、メンタルヘルスの状況)とした。すべて
(5)倫理的配慮
質問票に記入する際には、教師は封を開けないことなどを説明するとともに、
質問票には、回答内容を当該学校の教師達が見ないことを明記した。また、密 封封筒で回収することによって、プライバシーの保護に留意することにより、
ありのままの回答が得られるよう努めた。なお、この調査は、日本大学医学部 の倫理委員会で承認を得た。
なお、回答者のプライバシー保護に関して、問題は発生しなかった。
4.結果
(1)有効回答者数および有効回答率
調査対象者は、無作為で抽出した131の中学校に通う生徒62,296人と113の 高校に通う生徒92,923人で、合計155,219人になる。131の中学校のうち、84 校から回答を得た。(学校協力率:64.1%)また、113の高校のうち82校から回 答を得た。(学校協力率:72.6%)中学校と高校を合わせて244校のうち166校 から回答を得たことになる。(学校協力率:68.0%)回答を得た学校に通う生徒 が調査協力者であり、その数は 107,786 人である。そのうち、回答した生徒は 中学校38,702人、高校60,714人の99,416人であった。回答した生徒の割合と しては、 中学生で91.3%、高校生で92.8%、全体で92.2%であった。結局、最 終的な回答率としては、中学校で 62.1%、高校で 65.3%、全体で 64.0%であっ た。収集した質問票のうち、性別が特定できない、回答が一貫してないとの理 由で549通を除外した。残った質問票である中学校38,552通、高校60,315通 の合計98,867通の分析を行った。有効回答率は、中学校61.9%、高校64.9%、
合計63.7%であった。なお、飲酒率と喫煙率の95%信頼区間は中学校で±0.2%、
高校で±0.5%の範囲内となった。
(2)有効回答者の基本的属性
有効回答者98,867名の基本的属性を表1に示した。「性別」は、「男性」と「女 性」がそれぞれ49.3%、50.6%であった。学年は、「中学1年生」、「中学2年生」、
「中学3年生」、「高校1年」、「高校2年」、「高校3年」がそれぞれ、13.2%、
13.0%、12.6%、21.7%、20.4%、18.7%であった。「大学進学希望」は、「希望 あり」、「希望なし」、「わからない」がそれぞれ、39.7%、47.0%、11.7%であっ た。「朝食の摂取」は、「ほとんど毎日食べている」、「ときどき食べる」、「ほと んど食べない」がそれぞれ、84.2%、8.9%、5.6%であった。「喫煙(過去 30 日間)」は、「なし」、「あり」がそれぞれ 95.8%、4.0%であった。「飲酒(過去 30 日間)」は、「なし」、「あり」がそれぞれ 85.0%、14.3%であった。「クラブ 活動への参加」は、「参加している」、「参加していない」がそれぞれ、69.2%、
28.9%であった。「就寝時刻」は、「午後12時より前」、「午前0時以降」がそれ ぞれ52.4%、45.9%であった。「メンタルヘルスの状況」は「よい」、「わるい」
がそれぞれ、53.0%、45.4%であった。
(3)不眠に関する症状、睡眠障害に関する症状の有訴者率
睡眠障害に関連する症状(SIS、SSD)と不眠に関する症状(DIS、DMS、
EMA)の有訴者率を男子と女子に分けて表2に示した。また、不眠に関連する
症状(DIS、DMS、EMA)のうちひとつ以上ありと回答した場合を不眠症
(Insomnia)として、不眠症の有訴者率を男子と女子に分けて、同じく表2に 示した。
SIS の有訴者率は、37.6%(男子)、38.7%(女子)で女子の方が高かった (P<0.01)。 SSD の有訴者率は、28.0%(男子)、33.0%(女子)で女子の方が 高かった(P<0.01)。 DISの有訴者率は、12.5%(男子)、14.1%(女子)で女子 の方が高かった(P<0.01) 。DMSの有訴者率は、10.1%(男子)、10.9%(女子)
で女子の方が高かった(P<0.01) 。EMAの有訴者率は、5.1%(男子)、5.0%(女 子)で男子と女子で有意な差はなかった(P=0.45)。不眠症の有訴者率は、20.8%
(男子)、22.1%(女子)で女子の方が高かった(P<0.01)。
(4)性別、学年別の睡眠時間について
性別、学年別にそれぞれの睡眠時間の割合を表3に示した。
中学1年生の睡眠時間について、「5時間未満」が4.7%(男子)、4.5%(女 子)、「5時間以上 6 時間未満」が 6.0%(男子)、8.5%(女子)、「6 時間以上 7 時間未満」が30.9%(男子)、37.7%(女子)、「7 時間以上8時間未満」が30.6%
(男子)、28.2%(女子)、「8 時間以上 9 時間未満」が 20.8%(男子)、17.1%
(女子)、「9時間以上」が7.0%(男子)、4.0%(女子)であった。
中学2年生の睡眠時間について、「5時間未満」が7.5%(男子)、7.0%(女 子)、「5時間以上6時間未満」が8.0%(男子)、12.5%(女子)、「6時間以上7 時間未満」が39.3%(男子)、45.1%(女子)、「7時間以上8時間未満」が26.2%
(男子)、22.5%(女子)、「8 時間以上 9 時間未満」が 14.3%(男子)、10.3%
(女子)、「9時間以上」が4.7%(男子)、2.6%(女子)であった。
中学 3 年生の睡眠時間について、「5 時間未満」が 13.0%(男子)、11.6%
(女子)、「5時間以上6時間未満」が9.8%(男子)、15.4%(女子)、「6時間以 上7時間未満」が46.2%(男子)、50.6%(女子)、「7~8 時間未満」が18.6%
(男子)、14.1%(女子)、「8時間以上9時間未満」が9.3%(男子)、6.5%(女
(女子)、「5時間以上6時間未満」が14.7%(男子)、19.4%(女子)、「6時間 以上7時間未満」が49.4%(男子)、47.5%(女子)、「7時間以上8時間未満」
が10.9%(男子)、9.4%(女子)、「8時間以上 9 時間未満」が 5.6%(男子)、 4.3%(女子)、「9時間以上」が1.5%(男子)、1.1%(女子)であった。
高校 2 年生の睡眠時間について、「5 時間未満」が 20.6%(男子)、21.7%
(女子)、「5時間以上6時間未満」が15.3%(男子)、21.0%(女子)、「6時間 以上7時間未満」が49.9%(男子)、45.4%(女子)、「7時間以上8時間未満」
が9.2%(男子)、7.4%(女子)、「8時間以上9時間未満」が4.3%(男子)、3.5%
(女子)、「9時間以上」が1.3%(男子)、1.0%(女子)であった。
高校3年生の睡眠時間について、「5時間未満」が24.0%(男子)、23.9%(女 子)、「5時間以上6時間未満」が15.3%(男子)、20.4%(女子)、「6時間以上 7時間未満」が45.9%(男子)、44.2%(女子)、「7時間以上8時間未満」が8.8%
(男子)、6.9%(女子)、「8時間以上9 時間未満」が4.2%(男子)、3.5%(女 子)、「9時間以上」が1.7%(男子)、1.1%(女子)であった。
全学年の睡眠時間について、「5時間未満」が15.9%(男子)、15.9%(女子)、
「5時間以上6時間未満」が12.1%(男子)、17.1%(女子)、「6時間以上7時 間未満」が44.7%(男子)、45.2%(女子)、「7時間以上8時間未満」が15.8%
子)、「9時間以上」が2.9%(男子)、1.7%(女子)であった。
(5)性別、学年別の睡眠障害の有訴者率について
睡眠障害に関連する症状(SIS、SSD)と不眠に関する症状(DIS、DMS、
EMA)の有訴者率を男子と女子、中学校と高校の学年別に表4に示した。また、
不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)のうちひとつ以上ありと回答した場 合を不眠症(Insomnia)として、不眠症の有訴者率を男子と女子、中学校と高 校の学年別に分けて、同じく表4に示した。
SISの有訴者率は、「中学1年生」が25.4%(男子)29.7%(女子)、「中学2 年生」が30.2%(男子)33.6%(女子)、「中学3年生」が36.9%(男子)38.9%
(女子)、「高校1年生」が42.5%(男子)42.5%(女子)、「高校2年生」が42.6%
(男子)41.8%(女子)、「高校 3 年生」が 41.0%(男子)40.6%(女子)であ った。
SSDの有訴者率は、「中学1年生」が10.7%(男子)13.0%(女子)、「中学2 年生」が15.5%(男子)19.6%(女子)、「中学3年生」が22.8%(男子)27.0%
(女子)、「高校1年生」が32.6%(男子)37.7%(女子)、「高校2年生」が35.4%
(男子)42.7%(女子)、「高校 3 年生」が 39.3%(男子)44.3%(女子)で、
学年があがるほど、SSDの有訴者率が高かった(p<0.01)。
DISの有訴者率は、「中学 1 年生」が 9.0%(男子)10.3%(女子)、「中学 2
(女子)、「高校1年生」が11.4%(男子)13.8%(女子)、「高校2年生」が12.5%
(男子)13.8%(女子)、「高校 3 年生」が 14.5%(男子)15.7%(女子)であ った。
DMS の有訴者率は、「中学 1 年生」が 9.7%(男子)8.6%(女子)、「中学 2 年生」が10.0%(男子)10.4%(女子)、「中学3年生」が10.3%(男子)10.1%
(女子)、「高校1年生」が10.2%(男子)10.1%(女子)、「高校2年生」が10.0%
(男子)11.7%(女子)、「高校 3 年生」が 10.0%(男子)12.1%(女子)であ った。
EMAの有訴者率は、「中学 1 年生」が 5.4%(男子)4.0%(女子)、「中学 2 年生」が5.1%(男子)4.8%(女子)、「中学3年生」が5.5%(男子)5.1%(女 子)、「高校1年生」が4.8%(男子)5.1%(女子)、「高校2年生」が5.0%(男 子)5.1%(女子)、「高校3年生」が5.1%(男子)5.6%(女子)であった。
不眠症の有訴者率は、「中学1年生」が18.1%(男子)17.1%(女子)、「中学 2年生」が19.9%(男子)20.9%(女子)、「中学3年生」が23.1%(男子)24.0%
(女子)、「高校1年生」が20.1%(男子)22.2%(女子)、「高校2年生」が20.6%
(男子)22.4%(女子)、「高校 3 年生」が 22.0%(男子)24.3%(女子)であ
(6)飲酒の状況について
1週間の飲酒回数について、男子と女子、中学校と高校の学年別に分けて、表 5に示した。
中学1年生の1週間の飲酒回数について、「飲まない」が82.1%(男子)84.5%
(女子)、「週に1回未満」が16.7%(男子)14.6%(女子)、「週に1 回以上」
が 1.0%(男子)0.7%(女子)、「毎日」が 0.2%(男子)0.2%(女子)であっ た。
中学2年生の1週間の飲酒回数について、「飲まない」が78.7%(男子)78.4%
(女子)、「週に1回未満」が19.5%(男子)20.3%(女子)、「週に1 回以上」
が 1.5%(男子)1.2%(女子)、「毎日」が 0.3%(男子)0.2%(女子)であっ た。
中学3年生の1週間の飲酒回数について、「飲まない」が78.8%(男子)77.0%
(女子)、「週に1回未満」が19.1%(男子)20.8%(女子)、「週に1 回以上」
が 1.9%(男子)1.9%(女子)、「毎日」が 0.3%(男子)0.3%(女子)であっ た。
高校1年生の1週間の飲酒回数について、「飲まない」が71.4%(男子)70.6%
(女子)、「週に1回未満」が24.7%(男子)20.8%(女子)、「週に1 回以上」
た。
高校2年生の1週間の飲酒回数について、「飲まない」が67.7%(男子)64.6%
(女子)、「週に1回未満」が27.2%(男子)31.9%(女子)、「週に1 回以上」
が 4.6%(男子)3.3%(女子)、「毎日」が 0.5%(男子)0.2%(女子)であっ た。
高校3年生の1週間の飲酒回数について、「飲まない」が64.1%(男子)64.6%
(女子)、「週に1回未満」が28.8%(男子)33.0%(女子)、「週に1 回以上」
が 6.5%(男子)4.1%(女子)、「毎日」が 0.7%(男子)0.3%(女子)であっ た。
1週間の飲酒量について、男子と女子、中学校と高校の学年別に分けて、表6 に示した。
中学1年生の1回の飲酒量について、「飲まない」が72.7%(男子)74.3%(女 子)、「1杯未満」が21.0%(男子)20.8%(女子)、「1~2杯」が5.3%(男子)
4.0%(女子)、「3~5杯」が0.7%(男子)0.6%(女子)、「6杯以上」が0.4%
(男子)0.3%(女子)であった。
中学2年生の1回の飲酒量について、「飲まない」が69.0%(男子)66.5%(女
(男子)0.5%(女子)であった。
中学3年生の1回の飲酒量について、「飲まない」が67.9%(男子)63.8%(女 子)、「1杯未満」が18.8%(男子)22.1%(女子)、「1~2杯」が9.3%(男子)
9.7%(女子)、「3~5杯」が2.9%(男子)3.1%(女子)、「6杯以上」が1.2%
(男子)1.3%(女子)であった。
高校1年生の1回の飲酒量について、「飲まない」が57.9%(男子)55.3%(女 子)、「1杯未満」が19.2%(男子)23.6%(女子)、「1~2杯」が14.3%(男子)
13.5%(女子)、「3~5杯」が5.9%(男子)5.5%(女子)、「6杯以上」が2.7%
(男子)2.1%(女子)であった。
高校2年生の1回の飲酒量について、「飲まない」が53.9%(男子)49.4%(女 子)、「1杯未満」が17.8%(男子)21.9%(女子)、「1~2杯」が16.0%(男子)
17.5%(女子)、「3~5杯」が7.9%(男子)8.2%(女子)、「6杯以上」が4.5%
(男子)3.0%(女子)であった。
高校3年生の1回の飲酒量について、「飲まない」が50.7%(男子)48.3%(女 子)、「1杯未満」が15.0%(男子)20.1%(女子)、「1~2杯」が17.2%(男子)
17.3%(女子)、「3~5杯」が10.9%(男子)10.3%(女子)、「6杯以上」が2.9%
(男子)2.1%(女子)であった。
(7)飲酒と睡眠障害の各症状の有訴者率との関連
睡眠障害に関連する症状(SIS、SSD)と不眠に関連する症状(DIS、DMS、
EMA)の有訴者率を性別、飲酒回数、飲酒量に分けて表7と表8に示した。ま
た、不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)のうちひとつ以上ありと回答し た場合を不眠症(Insomnia)として、不眠症の有訴者率を性別、飲酒回数、飲 酒量に分けて同じく表7と表8に示した。
睡眠障害に関連する症状(SIS、SSD)と飲酒回数に関して、SISの有訴者率 は、飲酒回数が「飲まない」、「週に 1 回未満」、「週に 1 回以上」、「毎日」でそ れぞれ34.8%(男子)35.4%(女子)、43.9%(男子)45.8%(女子)、52.0%(男 子)56.6%(女子)、54.4%(男子)62.5%(女性)であり、男子、女子ともに 過去30日間の飲酒回数が多いほど、SISの有訴者率が高かった(P<0.01)。また、
SSDの有訴者率は、飲酒回数が「飲まない」、「週に1回未満」、「週に1回以上」、
「毎日」でそれぞれ25.4%(男子)29.8%(女子)、33.3%(男子)39.7%(女 子)、45.3%(男子)55.0%(女子)、52.6%(男子)64.2%(女子)であり、男 子、女子ともに過去30日間の飲酒回数が多いほど、SSDの有訴者率が高かった (P<0.01)。
でそれぞれ11.1%(男子)11.9%(女子)、15.3%(男子)18.1%(女子)、20.8%
(男子)30.1%(女子)、35.1%(男子)、50.0%(女子)であり、男性、女性と もに飲酒回数が多いほど、DISの有訴者率が高かった(P<0.01)。また、DMSの 有訴者率は、飲酒回数が「飲まない」、「週に 1 回未満」、「週に 1 回以上」、「毎 日」でそれぞれ9.1%(男性)9.2%(女性)、11.8%(男性)14.3%(女性)、16.1%
(男性)22.8%(女性)、29.1%(男性)31.1%(女性)であり、男性、女性と もに飲酒回数が多いほど、DMS の有訴者率が高かった(P<0.01)。EMA の有訴 者率は、飲酒回数が「飲まない」、「週に 1 回未満」、「週に 1 回以上」、「毎日」
でそれぞれ4.6%(男性)4.1%(女性)、6.0%(男性)6.6%(女性)、8.8%(男 性)13.7%(女性)、25.0%(男性)23.6%(女性)であり、男性、女性ともに 飲酒回数が多いほど、EMAの有訴者率が高かった(P<0.01)。
睡眠障害に関連する症状(SIS、SSD)と飲酒量に関して、SISの有訴者率は、
飲酒量が「飲まない」、「コップ1杯未満」、「コップ1~2杯」、「コップ3~5杯」、
「コップ6杯以上」でそれぞれ33.7%(男子)34.0%(女子)、40.7%(男子)
39.5%(女子)、45.8%(男子)47.6%(女子)、48.2%(男子)50.7%(女子)、
52.9%(男子)61.7%(女子)であり、男子、女子ともに過去30日間の飲酒量
が多いほど、SIS の有訴者率が高かった(P<0.01)。また、SSD の有訴者率は、
「コップ6杯以上」でそれぞれ24.7%(男子)28.4%(女子)、26.9%(男子)
33.4%(女子)、36.2%(男子)43.3%(女子)、39.6%(男子)48.4%(女子)、
46.2%(男子)56.4%(女子)であり、男子、女子ともに過去30日間の飲酒量
が多いほど、SSDの有訴者率が高かった(P<0.01)。
不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)と飲酒量に関して、DISの有訴者 率は、飲酒量が「飲まない」、「コップ1杯未満」、「コップ1~2杯」、「コップ3
~5杯」、「コップ6杯以上」でそれぞれ10.8%(男性)11.4%(女性)、12.6%
(男性)14.3%(女性)、15.2%(男性)18.6%(女性)、18.6%(男性)23.5%
(女性)、24.0%(男性)34.4%(女性)であり、男性、女性ともに飲酒量が多 いほど、DISの有訴者率が高かった(P<0.01)。DMSの有訴者率は、飲酒量が「飲 まない」、「コップ1 杯未満」、「コップ1~2杯」、「コップ 3~5杯」、「コップ 6 杯以上」でそれぞれ8.8%(男性)8.8%(女性)、10.2%(男性)10.9%(女性)、 12.3%(男性)15.2%(女性)、14.4%(男性)18.1%(女性)、17.5%(男性)
26.1%(女性)であり、男性、女性ともに飲酒量が多いほど、DMSの有訴者率
が高かった(P<0.01)。EMAの有訴者率は、飲酒量が「飲まない」、「コップ1杯 未満」、「コップ1~2杯」、「コップ3~5杯」、「コップ6杯以上」でそれぞれ4.4%
女性ともに飲酒量が多いほど、EMAの有訴者率が高かった(P<0.01)。
不眠症の有訴者率は、飲酒回数が「飲まない」、「週に 1 回未満」、「週に 1 回 以上」、「毎日」でそれぞれ18.8%(男性)19.1%(女性)、24.3%(男性)27.9%
(女性)、32.1%(男性)41.2%(女性)、45.9%(男性)52.9%(女性)であり、
男性、女性ともに飲酒量が多いほど、不眠症の有訴者率が高かった(P<0.01)。ま た、飲酒量が「飲まない」、「コップ1杯未満」、「コップ1~2杯」、「コップ3~
5杯」、「コップ6杯以上」でそれぞれ18.3%(男性)18.3%(女性)、21.1%(男 性)22.6%(女性)、24.8%(男性)29.0%(女性)、29.7%(男性)35.2%(女 性)、34.4%(男性)47.2%(女性)であり、男性、女性ともに飲酒量が多いほ ど、不眠症の有訴者率が高かった(P<0.01)。
(8)飲酒と睡眠障害の各症状に関する多重ロジスティック回帰分析
表9、図1と表10、図2は、性別、学年、大学進学希望、朝食の摂取、喫煙、
クラブ活動への参加、午前 0 時前後での就寝、メンタルヘルスの状況の 8 個の 項目で調節後の睡眠障害に関する症状(SIS、SSD)、不眠に関する症状(DIS、
DMS、EMA)や不眠症(Insomnia)と飲酒の状況(1週間の飲酒回数、1回の
飲酒量)の関連を求めた多重ロジスティック回帰分析の結果を示している。こ れらの図表には調節後のオッズ比(AOR)と95%信頼区間(CI)を記載している。
表9と図1は、SIS、SSD、DIS、DMS、EMAと不眠症において、1週間の 飲酒回数が多いほど、調整オッズ比が高かった。特に、毎日飲酒するグループ のEMAの調整オッズ比が最も高かった(AOR:3.44, 95%CI:2.56-4.63)。表10と 図2は、SIS、EMAを除くSSD、DIS、DMSと不眠症において、1回の飲酒量 が多いほど、調整オッズ比が高かった。特に、コップ6杯以上飲酒するグルー プのEMAの調整オッズ比が最も高かった(AOR:1.99, 95%CI:1.71-2.30)。
5.考察
本研究は、全国の中学校と高校から調査対象校を無作為に抽出したこと、分 析した生徒の数が約10万人であること、回答率が64.0%と比較的に高いことか ら代表的な研究であると考えられる。我々の知る限りでは、青少年の睡眠障害 に関する疫学研究のうち、10 万人規模の大きなサンプルサイズの調査は、我々 の過去の全国的な調査を除いてほとんど報告されていない(69)。
なお、本研究は横断研究であり、青少年の睡眠障害とアルコールの影響の因 果関係までは確定できない。アルコールの影響によって、青少年の不眠などの 睡眠障害が起こっている可能性がある一方で、不眠を紛らわせるためにアルコ ールを摂取している可能性が考えられる。また、飲酒と睡眠の両方に影響を与 える精神的疾患、生活習慣などによる可能性が考えられる。
(不眠症の有訴者率について)
本研究では、不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)のうちひとつでもあ りと回答した場合に不眠症とした。不眠症の定義はそれぞれの研究において異 なっており、不眠症の有訴者率もこの影響を受けている。Ohayonによると、こ れまでの不眠症の有訴者率を示した研究は以下に分けられるとしている(13)。
うつや不安感などを加えたものを不眠症とした研究
(3)不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)に量的あるいは質的不満足感 を伴っているものを不眠症とした研究
(4)米国精神医学会が発行している「精神障害の診断と統計マニュアル」(70) などの診断基準を用いて不眠症とした研究
そして、成人の場合であるが、(1)の有訴者率が最も高く、(4)の有訴者率 が最も低くなることを報告している。また、質問の選択肢のうち、どれを症状 ありとするかと、本研究のように自記式アンケートを採用するか、それとも、
インタビュー調査などの他の調査方法を採用するかによっても有訴者率は影響 を受ける。さらに、どれくらいの期間の症状を質問するかによって有訴者率は 異なる。研究では、不眠に関連する症状(DIS、DMS、EMA)の質問に対して、
過去30日間に「まったくなかった」、「めったになかった」、「時々あった」、「し ばしばあった」、「常にあった」の五者択一で回答させ、「しばしばあった」また は「常にあった」の回答をそれぞれ症状があるものとした。そして、DIS、DMS、
EMAの症状のうち、どれかひとつ以上を有することを不眠症と定義した。こう した場合の、不眠症の頻度は、21.5%であった。(表 2)本研究の不眠症の定義 にあわせて調べた結果、多くの報告において、本研究の不眠症の頻度とほぼ同
眠症の有訴者率は、それぞれ23.5%(2004年)、21.8%(2008年)であり、本 研究の不眠症の有訴者率の方がわずかに低かった。我が国の青少年の睡眠の状 況が改善傾向にある可能性がある。また、我が国では、飲酒をする青少年の割 合が減少傾向にあるが(58)、因果関係についてはさらなる調査が必要である。い ずれにしても、青少年の多くが不眠の症状を有しており、重要な健康課題であ ることが改めて確認された。
(不眠症の性別による危険性の違いについて)
不眠症の有訴者率に関しては、男子が20.8%、女子が22.1%と女子の方がわ ずかに高くなった(p<0.01)。しかし、表9と表10に記載しているとおり、不 眠症の調整オッズ比は、男子と比べて女子の方が有意に低くなった(P<0.01)。 過去の研究では、不眠症の危険性に性差がなかったとする報告(34, 37, 40, 46)、女子 の方が高かったとする報告(33, 41, 44)、男子の方が高かったとする報告(42)がある。
調整した交絡因子の違いによって、異なっているようである。女子の不眠症の 有訴者率が高い理由として、女性特有の健康に関わる要因としての月経が考え られる。実際に月経は不眠症の発症の危険性を高めるとの報告がある(34)。一方、